フェルディアはメイヴの騎士となった。
それでも、彼の生活の変化は僅かなものだった。 影の国での鍛錬も七日に一度、顔を見せることを条件に許された。
メイヴ曰く、騎士であるフェルディアが強くなることはメイヴにとっても喜ばしいことだから、とのことだ。
だが、顔を合わす度に同衾の誘いをしてくるのは勘弁して欲しかった。
彼女が多くの勇士と情事を重ねているのは知っているが、彼女にはアリル王という夫がいるのだ。 既婚者であるメイヴと関係を持つ訳にはいかない、と何度も断ってもなんのその。 その都度、誘いは激しくなる一方だった。
本来ならば、メイヴの誘いを無碍にした時点で、フェルディアは後のクー・フーリンのように敵対されるだろう。
しかしクー・フーリンは靡かず呆れたのに対して、フェルディアは断っているが照れがあった。
だがその照れがメイヴの心をくすぐった。 彼女に誘われた男は誰もが獣に成り下がった。 その中でフェルディアだけが理性を働かせ、その誘いを断ったのだ。
ただの女性なら無碍にされたことに激昂するだろう。 だが、メイヴはすべての男の恋人にして支配者である。
しかもフェルディアはスカサハを除けば影の国で最強と謳われている。 メイヴが見た限り、嫉妬に駆られるような性格には見えなかった。 それに十四で影の国を目指したとも聞いている。 そんな自殺紛いのことをしでかしたのだ。 フェルディアは恐怖を乗り越える覚悟を持っているのだろう。
現状、最も彼女の理想に近い勇者であるフェルディアを手に入れたいという欲望に従い、惜しみなく全力で、他の恋人達を気にすることなく愛を叩き付けるのだ。
あまりの過激さに辟易したフェルディアは、影の国の先達にしてアルスター随一の性豪、フェルグス・マク・ロイヒや、自分より経験豊富であろうクー・フーリンに助言を乞うた。
これが後に、アルスター・サイクルにおいてフェルディアの異彩さを語ると同時に、豪傑に溢れたケルト神話で行われた唯一の恋愛相談―――‘‘フェルディアの諮詢’’である。
しかしフェルディアはメイヴが情事に溺れているのは知っていたが、誰と致したのかなど把握していなかった。
この時、フェルディアはメイヴの最初の相手がフェルグスなのだと知った。
そしてフェルグスはフリディッシュという鹿と牛の女神を妻としていた。 フリディッシュはメイヴを除けばフェルグスの盛んな性的嗜好を満足させた唯一の女性と言われている。
メイヴという『女』を知っているフェルグスは、未だに修行に明け暮れ、まったく女っ気を感じさせない弟弟子を憂いていた。 そんな中、漸くフェルディアに訪れた機会を知ったフェルグスは、メイヴを抱け、と強く押した。
フェルグスの性豪の凄まじさを知っているフェルディアも最初は呆れながらも笑っていたが、次第にフェルグスの熱意は増していき、力づくでも抱かせるぞ、と言い出した辺りでフェルディアの堪忍袋の尾が切れた。
「恙無く断る方法を聞いてるんだよッ!」
フェルディアの鉄拳がフェルグスの顎を殴り抜いた。
見事に顎を打ち抜かれたフェルグスは、一切の抵抗なく意識を失い、椅子から転げ落ちた。
フェルディアの視線が黙っていたクー・フーリンに向けられた。 その瞳は真剣さを含んでおり、適当に答えれば自分も同じ目に遭うのだろうな、と悟った。
「そうだな……ほかに女がいるって言えばいいんじゃねぇか?」
クー・フーリンは当たり障りのない対処法を伝えることでフェルディアの様子を伺った。 フェルディアが納得すればそれでいいし、言葉に詰まれば誰かに名を借りればいい、と助言して現状からの離脱を図ったのだ。
しかし、クー・フーリンは失念していた。 フェルディアは生き残ることに重きを置いた異例の戦士。 女より強さを求め、幼少から影の国で修練に励んでいたことを。 そして何より、フェルディアがスカサハに狙われていることを忘れていたのだ。
「俺に親しい女なんてスカサハくらいしかいないぞ……」
「あー……」
僅かに哀愁を帯びたフェルディアの返答を聞いたクー・フーリンは、言葉を詰まらせた。
口ではそう言ったフェルディアだが、実際は避けられている訳ではない。 これはクー・フーリンの付き人から聞いた話ではあるが、美丈夫であるフェルディアは女給達の間で相当の人気を博しているらしい。
しかも恐らく最年少で影の国に到達した男だ。 当時の女給達は誰もがフェルディアの付き人を志願したという。
遠くない未来、時代を担う英雄になるであろうフェルディアの付き人の座を狙って多くの女給が気を引こうとした。
そんな努力が実を結んだのか、フェルディアは自分とさほど年の離れていない女給を付き人として指名した。
指名された女給は色めき立ち、フェルディアの興味を惹けたと思い、彼女は一週間フェルディアに尽くし、夜伽を命じられるのを、今か今かと待ち望んだ。
が、一向に誘われないことに痺れを切らした彼女は自分からフェルディアに自分を夜伽にどうか、と提案した。
それを聞いたフェルディアは彼女の誘いを断った。
断られたことで彼女は自分の勘違いだと知って悲しみに暮れたが、それでもフェルディアの付き人になったのだから、務めを全うすると誓った。
誓われたフェルディアはその代わりに、彼女に恥をかかせないように断ったことを口外しないことを彼女に誓い、二人だけの秘密とした。
しかし、三日経った時に事件は起きた。
彼女がフェルディアの前に姿を現さなくなったのだ。
そのことを不思議に思ったフェルディアは兄弟弟子や女給。 果てには給仕長に彼女の動向を訪ねて―――彼女が昨晩スカサハに呼び出されたことを知った。
それからの行動は早かった。 フェルディアはスカサハの元に足を運び、事の詳細を聞いた。
スカサハ曰く、危篤に陥った父親の看護をする為に故郷に帰ったとのことだった。
それを聞いたフェルディアの心に僅かなしこりが残ったが、帰り道にはスカサハの権能である『
この時、スカサハはフェルディアに一つだけ嘘をついた。
女給の父親は影の国での修行を経た男だ。 未だ現役の騎士であり、修業をつけてくれた謝礼として自分の次女を女給として働かせてくれ、と頼み込まれたスカサハが承諾した形で彼女は女給となった。
フェルディアを誑かそうとした女狐が、ただ雇っただけの娘ならば問答無用で殺していたが、スカサハとて鬼ではない。 気に入っている弟子の愛娘を殺すのはなるべく避けたかった。
そこで彼女は女給の話を聞くことにした。 昨夜の詳細を包み隠さずに話せ。 嘘を吐いたら即座に殺す、と脅しを掛けて。
声色から本当に殺されると察したのか、女給は震えながらも、たどたどしく話した。 自らの勘違いでフェルディアを誘ったこと。 誘ったことを黙って貰う約束を取り付けてくれたことを。
彼女の話を一通り聞いて嘘をついた様子が見られなかったスカサハは、解雇という形を取って彼女を影の国から追放し、実家に送還させた。
フェルディアに彼女の行方を問われた時、生まれながらの女王である自分が女給に先を越されたと焦り、距離を取らせた事を隠すために嘘をついてしまった。
というのが真実であるが、フェルディアはスカサハの説明に納得し、勇士達は女給一人の行方など気にもとめず、女給達は恐怖でスカサハに真相を聞けずにいた。
ある日、消えた彼女の話で女給達の間に一つの噂が出回った。
根も葉もない噂だった。 けれど、噂とは尾ひれが付くのが定石だ。
曰く、フェルディアに言い寄ったらスカサハの反感を買う、という内容だった。
スカサハはその噂をもみ消そうとしたが時すでに遅し。 噂は女給達の間で定着した。
が、それでもフェルディアの強さと美貌に惹かれ、僅かばかりのアピールをする者、遠巻きから眺めている者に分かれている状況が、今のフェルディアを取り巻いている現状だ。
「じゃあ、この噂はどうだ?」
しかしこの噂を思い出すと同時に、クー・フーリンは女給達の間で密かに盛り上がっている話を思い出した。
最近、スカサハが夜な夜なフェルディアを自室に招き入れ、ルーンの手ほどきをしている、という話だ。
それだけなら気に入っている弟子を贔屓して指導している師匠、という話で終わるだろう。
だが―――一人の女給がルーンを刻むための石をスカサハの部屋に持ち運んだ時に、フェルディアの胸に
教えるのなら空中に描けばいいのにわざわざ胸に刻んだことから、それをスカサハなりの告白と解釈した、色恋沙汰に飢えている女性達の間で盛り上がっていた。
クー・フーリンの見た限りだとフェルディアは耳にしていないのか、幼少から影の国で修練をしていた弊害なのかは不明だが、特に気にしている様子は見当たらなかった。
だが、フェルディアと共に王城を歩いていたクー・フーリンは見たのだ。 通路で出会したスカサハが僅かに頬を赤らめた所を。
この戯けた兄貴分は体調不良か、などと吐かしていたが、多くの女性に恋慕を抱かれていたクー・フーリンは知っていた。
あの表情が―――恋した女の貌であることを!
そのことをフェルディアに告げようとした時―――影の国の外にスカサハに迫る気配が現われた。
その強大な気配にフェルディアとクー・フーリンは槍を構え、意識を失っていたフェルグスまでもが飛び起き、虹霓剣を手にしていた。
三人が各々の武装を構えている庭園に王城からスカサハが飛び降り、三人の前に躍り出た。
「三人とも、戦だ」
そして、三人にそう告げると朱槍を手にして、城門を目指して早歩きで進む。
それにつられて敵の正体を知っているフェルグス、フェルディアがスカサハに続き、それに遅れてクー・フーリンも付いて行く。
既に戦士達に指示を済ませているのだろう。 通りに出れば慌ただしくあちこちを行き来する人々の間を縫うように四人は進んで行く。
「敵は誰だ? 心当たりがないわけじゃないんだろ?」
「……敵将はオイフェという名の女だ」
この中で唯一、敵との接触がないクー・フーリンがスカサハに問うた。
その質問にスカサハが淡々と答えた。 その声色には何の感情も宿っていない。 背後からは見えない顔が無表情であろうことが、手を取るようにわかるほどだ。
なにより―――オイフェ。 その名を聞いたクー・フーリンは心の中で驚愕した。 攻めて来た相手がアルスター全土に知れ渡っているビックネームだったからだ。
何せオイフェはスカサハに並び得る女傑だ。 本来なら怯えるのであろうが、クー・フーリンはエメルを娶るために影の国に足を運んだ。
理由は戦士としては不純だが、心の中では生まれながら、最強を定義された自分を凌駕する益荒男を求めていた。
そしてそんな自分に未だ勝利させてくれない兄弟子に相見えた。
その運命には感謝している。 だが―――物足りなかった。
フェルディアと自分が全力で死闘を繰り広げれば、影の国に及ぶ被害が災害に値するからだ。 だから普段は戯れで済ませ、それで満足していた。
けれど―――不完全燃焼で燻っていた所に最強の一角が攻めて来たのだ。 この好機を逃したくない。 叶うのならば一騎打ちを挑み―――その上で勝利を収めたい。
「無神経が過ぎるぞ、クー・フーリン」
そんなクー・フーリンの考えを見抜いたフェルディアが窘めた。 クー・フーリンは悪りぃ悪りぃと謝りはしたものの、瞳は獲物を見つけた獣のように燃えていた。
クー・フーリンを見ずとも悟ったのだろう。 スカサハは立ち止まるとクー・フーリンに手を差し伸べた。 その手には一振りの長槍。 紅い槍が握られていた。
「こいつは―――」
「この朱槍を、お前に授けよう」
「……いいのか?」
クー・フーリンは手を躊躇いながら伸ばしかけ、横に立つフェルディアを盗み見た。
朱槍の銘は―――ゲイ・ボルク。 スカサハがこの槍に「相応しいと認めた勇者に与える」と公言した最強の魔槍。
強さで言えばフェルディアにこそ相応しいとクー・フーリンは思っていた。 だから自分に渡されると思っていなかったのだ。
「お前が認められたんだ。 受け取れ、クー・フーリン」
フェルディアの鼓舞が。
「そうだ。 受け取ってやれ、セタンタ」
フェルグスの肯定が。
「負い目など気にするな。 この槍はお前にこそ相応しい」
スカサハの言葉がクー・フーリンの躊躇いを後押し、ゆっくりと彼は朱槍を手に取った。
―――必ず勝つ。 そんな誓いを胸に秘め、クー・フーリンは途方もない高揚感と共に戦場へ駆け出そうとして―――それはそれとして、とスカサハに水を差された。
「セタンタ貴様。 先ほど余計な事を口走りかけていたな」
その言葉にフェルディアと意識を失っていたフェルグスは首を傾げ、唯一自分がやらかしかけた事に気付いたクー・フーリンだけが顔を青ざめさせた。
「この戦を経て―――生きていたのなら、城の裏に来い」
先ほどのはち切れんばかりの笑顔は何処へやら。 あまりの豹変ぶりにフェルディアとフェルグスはゲラゲラと笑い、スカサハもくすくすと上品に笑い、事実上の死刑宣告を受けたクー・フーリンだけが身体を震わせていた。
気が付けば―――冷めた空気は、消えていた。
フェルディアが桜に召喚されて一年の月日が経った。
既に七騎のサーヴァントが召喚され、昨夜―――漸く聖杯戦争が開始し、開幕早々アサシンがアーチャーの手によって脱落したのを全てのマスターが確認した
フェルディアが最も警戒していたアサシンが脱落したが、それでも警戒を緩めず、緻密に隠蔽したルーン結界を間桐家の内外で稼働させていた。
桜を守るためにやれるべきことはやった。 後は―――勝つだけだ。
フェルディアは夜の帳に包まれた冬木の倉庫街の奥で、縄張りを遠吠えで主張する狼の如く、躊躇いなく闘気を発していた。
願望成就の万能器を求めて、一つの時代で英雄と讃えられた人間が六人もいるのだ。 自分が挑発すれば必ず喰らい付く者がいると信じて。
「――――――やっと一人目か」
その行為が実を結んだのか、フェルディアの薄紅の双眸が二人の女を捉えた。
「その槍……ランサーと見受けするが」
「そうだ。 そういうお前はセイバーだな?」
敢えて尋ねるように聞いたが、彼女の雰囲気と清澄な闘気から三騎士であることは明らかだった。
アーチャーは既に露見し、ランサーはほかならぬフェルディア自身。 ならば目の前の女はセイバーだろう。
フェルディアはそう断定した。
そして、フェルディアの視線がセイバーの後ろに控えている女性に向けられた。
「アンタがホムンクルスってヤツか」
フェルディアの意識が僅かに自分に割かれただけで、白雪のような美女―――アイリスフィールは息を呑み、思わず数歩後退していた。
フェルディアの放つ純然な闘気に当てられ、アイリスフィールはまるで野生の動物が天敵に出会したかのようにフェルディアに恐怖したのだ。
だが―――それはセイバーがアイリスフィールを庇うように前に出るまでは、だ。
「不躾が過ぎるぞ、ランサー」
「それは失礼したな」
セイバーが不可視の剣を突き付け、フェルディアの意識を強引に自分に向けさせた。
フェルディアも物珍しさからアイリスフィールを眺めただけだったので、肩を竦めながら形だけの謝罪を口にした。 そして詫びに先手を譲ろうか、と煽る。
「そんな甘言で、私の剣が鈍るものと思うなよ、ランサー」
「随分と待たされたが―――その分気骨のあるお前が釣れたこと―――感謝するぞ!」
セイバーから迸る魔力が竜巻のように渦巻き、ダークスーツから白銀と紺碧の鎧に実を包ませた。
フェルディアもまた、一年間胸の内に燻らせていた闘気を解き放った。 自慢の赤髪に負けず劣らずの朱色の魔力がフェルディアを覆い―――赤い軽鎧と赤のマントを纏ったフェルディア・マク・ダマンとしての本来の姿を露わにした。
舌戦は、もう充分だ。
今、此処に二人の英雄が相見えているのだ。 あとは―――武功に長けた英雄らしく剣で語るのみッ!
両者が人智を超えた速度で衝突し、此処に第四聖杯戦争の第二夜が幕を開けた。
フェルディアとセイバー。 未だ小手調べの域を出ていないが、両者の戦闘は拮抗していた。
ステータスは最優を冠するセイバーが僅かに優れていたが、僅差でしかない。
セイバーの宝具『風王結界』による不可視の剣に、序盤は受けに徹さざるを得なかったが、距離感を掴んだのか、今では互角以上の戦いを繰り広げていた。
剣戟の威力が衝撃波を、踏み込みが地面を蹂躙した。
特に魔力放出を使用しているセイバーが剣を振るうだけでアスファルトが削れ、捲れ上がった。
しかしそれを加味してもセイバーは攻め落とせず、それどころか逆にフェルディアの手数が増していく一方だった。
お互いに未だ無傷ではあるものの、此処から先は宝具の使用も視野に入れなければ鼬ごっこになるだろう。
そう思っていたセイバーが放った魔力放出と遠心力を噛み合わせた一撃を受け止めたフェルディアが、勢いに任せて後方に跳んだ。
「そろそろ、戯れ合いも終わりにしよう」
それまでの嬉々とした気風とは裏腹に、フェルディアは声を落として武器の構えを改めた。
両手で持っていた鉄紺の長槍を右手で構え、空いた左手で身体に指を素早く、数度疾らせた。
それだけでフェルディアの変化は顕著になった。
対面しているセイバーは、フェルディアの圧が先ほどとは比べ物にならないと感じ取った。
倉庫街に潜んでいるであろう切嗣の眼にはフェルディアの筋力、耐久、敏捷のステータスが1ランク上昇して映っていた。
フェルディアは先ほど、3種類のルーンを身体に刻んだ。
一つは
一つは
一つは
「行くぞ」
「ッ!」
フェルディアは変化を感じ取ったのか、僅かにセイバーが見せた隙を突いて強襲した。
咄嗟に剣を振るってみせたが、フェルディアは躊躇うことなく左手で刀身を握り締めた。
本来ならフェルディアの指を落とし、セイバーは圧倒的なアドバンテージを得れたはずだ。
だが、彼女の剣はフェルディアの強化された耐久値と宝具の所為で、肌を僅かに裂くだけに終わった。
「なッ!?」
自身の持つ聖剣が全く効いていない。 そんな認めたくない事実をまざまざと見せ付けられたセイバーは少なからず動揺し、大きな隙を晒した。
そして、フェルディアはその隙を見逃さなかった。
「―――があああァァァッッッ!!」
大きく息を吸い込んで―――セイバーが呆然としていた所を突き、常時でも鼓膜が破れたと錯覚するほどの咆哮を至近距離で浴びせたのだ。
アルスター・サイクル曰く、クー・フーリンの唸り声は土着の精霊と呼応して、敵対者を恐慌状態に陥らせたという。
フェルディアがやったのはその唸り声の根幹になった影の国の妙技が一つ―――戦士咆哮。 その咆哮は敵の精神を砕く。
事実、セイバーの筋肉は強張ってしまい、ステータス通りのポテンシャルを発揮出来ずにいた。
魔力放出と応用した技でフェルディアの元を離れようにも、筋肉だけでなく思考まで鈍ったのか、そこまで至るのに数秒は掛かった。
「そら!」
フェルディアは躊躇なく、セイバーの腹部の鎧越しに最速の蹴りを叩き込んだ。
まともにそれを喰らったセイバーは成す術なく吹っ飛び、コンテナに華奢な身体を叩き付けられた。
「か、は―――ッ」
だが、そのお陰で思考の曇りが晴れた。
それでも運命はセイバーを嘲るように好転しなかった。
全身を苛む鈍痛に顔を顰めながらセイバーは思考する。
―――何故、自分は崩れたコンテナに突っ込んでいるのか、と。
答えは一つだ。
ショックの合間を精密に縫うかのような連撃が、セイバーの意識を僅かに奪っていたのだ。
セイバーが重い身体を動かし、立ち上がろうとしていると
彼女の未来予知に等しい直感が悲鳴を上げた。
早く逃げろ、さもなくば―――死ぬぞ!
セイバーの瞳は投擲の構えを取っているフェルディアを捉えた。 手にしていた長槍が光輝に包まれていたのを見た。
そして、その光輝が纏う魔力の密度から宝具の真名解放だと理解した。
意地でも回避しないと確実に脱落すると直感が叫んでいた。
かなり消耗したセイバーを相手に宝具を晒す必要はないだろう。 だが―――手負いの獣ほど手強いものだ。
それに、女だてらに良くやったものだ。
だからこそ―――アルスターの流儀に倣って、全力で狩るのがせめてもの礼儀だろう。
だからフェルディアは躊躇いなく宝具を明かすのだ。
宝具は真名を露見させる可能性を高める要因だからなるべく伏せておくのが定石?
この宝具の真名を聞いて、己の名に辿り着けるのならばやってみせるがいい。
この宝具はアルスター出生の勇士ならば誰もが修めた光神ルーの投擲技術である
『
聖剣の解放は間に合わず、令呪による回避も間に合わない。
セイバー陣営の誰もが表面では抗おうとしていても、心の何処かで敗退を覚悟したその時―――
『――――――AAAALaLaLaLaLaie!!!』
宝具を放とうとしていたフェルディアからまるでセイバーを庇うかのように、雷鳴を轟かす戦車の疾走が割り込んだ―――
深夜に書いてたので後半から文章がおかしくなってると思うけど許して下さい。
投稿時間って統一した方がいいですかね?