ゲイ・ボルクは勘弁してくれ!   作:かすかだよ

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スラスラと書けたので


第七夜:集う英傑

 ―――鏖殺の限りを尽くせ!

 

 

 軍の端でオイフェが叫んだその言葉を皮切りに、戦争の幕が切って落とされた。

 開戦と同時に勇士達が獣のような雄叫びをあげ、両軍は爆発したかのような勢いで進軍し―――激突した。

 

 

 先頭を走るのはクー・フーリンだった。 彼は持ち前の獣の如き敏捷性で駆け出して、向かって来た敵兵に魔槍を叩き付けた。

 敵兵も抗わんと武器を振るうが、膂力が桁違いだ。 如何に戦士といえど、素質が足りない。

 勿論戦士の中でも勇士と呼ばれる一握りの存在ならば抗えるだろうが、只の戦士では勝ち目がなかった。

 

 

 振るわれた得物を魔槍で砕き、そのままクー・フーリンは蛮神の如き力で敵を斬り捨てた。

 抗うことすら出来ずに仲間が殺された様を見せ付けられた敵達が一瞬呆然とした所を突き、クー・フーリンは軍の最深部にいるであろうオイフェと闘うために地を蹴り、敵陣の中を一気に突き進んだ。

 

 

 フェルディアもそれに続こうと飛び出したが、それを妨げるかのように六人の戦士がフェルディアの前に躍り出た。

 

「クー・フーリンは通したが貴様だけは通さんぞフェルディア・マク・ダマン!」

 

 六人の心情を代表するかの如く、一人の戦士が怒号した。

 その六人にフェルディアは見覚えがあった。

 オイフェが誇る男女混合の勇士達だったと記憶している。

 

 

「なぜ俺だけは通さないと?」

「貴様がオイフェ様の虎の子の障害になるからだ!」

 

 

 どうせ返ってこないだろうが、あえて尋ねてみた問いに対して、戦車を御した赤髪の女が怒鳴りながら答えた。

 フェルディアは驚いたが、向こうにとっても想定外だったのだろう。 アイガッ!と一人の男が彼女の名を呼び、窘めた。

 それでも納得いかないのかアイガと呼ばれた女は既に逆上しているのか、男に首だけ向けて煩いとだけ一喝してフェルディアを睨みつけた。

 

 

「どうせこいつは私が此処で殺すんだ!」

「俺、アンタに恨まれることでもしたか?」

 

 

 彼女から異常に殺意を向けられているフェルディアは、思わずアイガに尋ねた。 だが、それは彼女にとっての地雷だったのか、ブチッ、という血管がブチ切れたかのような音が怒号飛び交う戦場で嫌に響いた。

 そのことに気付いた彼女の仲間達は距離を取り、フェルディアは内心頭を抱えた。

 

 

「そこまでして私を怒らせたいか! ならば思い出させてやる! よく聞くがいい!」

 

 

 アイガは青筋を立てながら戦車の手綱を握り締め、力の限り叫んだ。

 

 

「私はその昔―――貴様に袖にされた女だァッ!」

 

 

 それを聞いたフェルディアは、あんまりな理由にやりにくさを感じながらも愛槍を握り締め、迫る彼女を見据えた。

 

 

「私を袖にしたことを後悔しながら死ねッ!」

 

 

 嵐の如き速度で、アイガはフェルディアを凄惨に殺さんという意思に従い、戦車を疾らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オイフェ軍の中心部を音速を超えて突っ走るクー・フーリンは、攻めるでもなく、むしろ自分を避けるようになった敵に対して懸念を抱いた。

 

 

 最初は恐れ慄いたか、と失望したが、彼等はスカサハに並ぶ女傑として数えられるオイフェが揃えた戦士達だ。

 そのことがクー・フーリンに懸念を抱かせ、まるで昆虫が食虫植物に誘われているかのような気分にさせた。

 だが、それでも関係ない。 オイフェが何かを企んでいるのならば、その陰謀諸共踏み潰すだけだ。

 そう考え、より一層速さを鋭くさせたクー・フーリンの理性が最大限の警告を上げ―――黄の短槍(・・・・)が頬を掠めた。

 

 

 

 クー・フーリンがその一撃を躱せたのは奇跡に等しかった。

 

 

 獣の如き危機察知能力が全力で稼働したことと、短槍が影の国でも目立つ黄色だったことが噛み合ったからこそ躱せたのだ。

 

 

 頬に走る痛みと視界の端に映った短槍の脅威を感じ取ったクー・フーリンは、弾けるようにその場から弾け飛んだ。

 

 

 そして―――クー・フーリンはその女を捉えた。

 

 

 

 戦場の中でもズバ抜けた“強さ”

 手に握る魔槍の模造品と黄の短槍。

 紫の瞳に燃えるような紅蓮の短髪。

 スカサハとの違いはあれど、それが誤差としか思えないほど。 仮に姉妹と言われたら納得出来るほどに二人は似通っていた。

 

 

 

「テメェがオイフェか!」

 

 

 以上の要素からクー・フーリンは下手人の女をオイフェと断定。 不意打ちなど戦士のすることか、と告げるかのように彼女の名を叫んだ。

 

 

「貴き神性に太陽の香り―――嗚呼、貴様がクー・フーリンか」

 

 

 オイフェもまた、目の前に立つ戦士が放つ雰囲気からクー・フーリンであると断定した。

 

 

 クー・フーリンはオイフェの挙動を一つたりとも見逃さんばかりに睨み付け、オイフェはクー・フーリンを一瞥して彼の手にある魔槍に視線を向けた。

 

 

「都合がいいな」

「なんだと?」

 

 

 その言葉に自分が脅威ではない、と言われた気がして、自分の強さに自信のあったクー・フーリンが噛み付いた。

 その反応にオイフェはクツクツと笑い、魔槍の所持者は本来自分だと答えた。

 

 

「スカサハを殺せる手段は多いに越した事はない。 その魔槍―――返してもらおうか」

「そんなに欲しけりゃ俺を殺してから奪うんだな!!!」

 

 

 クー・フーリンは最強に全力で挑める機会に笑い、オイフェは魔槍を簒奪せんと二振りの槍を握った。

 

 

 

 両者の目的は違えど、互いに得物に込める思いは必殺のソレだ。

 

 

 

 半神半人と最強の女戦士が―――今、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」

 

 

 敵意はないのか蹄と車輪から迸る魔力がフェルディアに向かうことはなかったが、割って入るのなら好都合だと迷うことなく真名解放を行おうとしたが、ライダーがあまりにも堂々と己の真名を暴露したことに呆気にとられて気勢が削がれたため、事の成り行きを静観する姿勢を取った。

 

 

 一方でコンテナから戻って来たセイバーも表面上はライダーの横槍に呆れていたが、内心では安堵しかなかった。 彼のおかげで彼女は一命を取り留めたと言っても過言ではないのだから。

 

 

「何を―――考えてやがりますかこの馬鹿はあああぁぁぁ!!!」

 

 

 戦車の御者台に蹲っていたライダーのマスター―――ウェイバー・ベルベットはライダーの暴挙に、錯乱のあまり金切り声で喚きながらライダーのマントに掴みかかった。

 が、ライダーの巨腕から繰り出されたデコピンがウェイバーの額を捉え、抗議の声を沈黙させた。

 そして、何事もなかったかのようにフェルディアとセイバーを見渡して問いかけた。

 

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある」

 

 

 何を言わんとするのか、まだ判然としないだったが、セイバーは直感で不穏なものを感じ取り、フェルディアは忍笑いをしながら愛槍で肩を叩きながら続きを促した。

 

 

「要は何が言いたいんだ?」

「うむ、噛み砕いて言うとだな」

 

 

 フェルディアの催促の声に、ライダーは威厳だけはそのままに飄々とした口調に切り替え、それに答えた。

 

 

「我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し! 世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおる!!」

 

 

 あまりにも突拍子もない提案に、セイバーは怒りを通り越して呆れていた。 それぞれが願いを叶えるために参加している者達に対して、矛を交える前から恭順を要求するなどとても英断とは言えないだろう。 少なくともセイバーにはそう思えた。 だからこそセイバーはその提案を切り捨てた。

 

 

「私とて叶えたい大望を持って聖杯戦争に望んでいる。先の行為には感謝するが、それとこれは別の話だ」

 

 

 そしてセイバーは憮然に言葉を付け加えた。

 

 

「それに―――私もかつては王だった。 如何に大王といえど臣下になる訳にはいかない」

 

 

 そう答えたセイバーの顔に笑みはなく、むしろ青筋を浮かべさせていた。 そもそも生真面目な彼女にとって、ライダーの提案そのものが不愉快に感じるものだった。

 

 

「ならばセイバーのマスターよ! お主はどうだ?」

「残念だけど、断らせて貰うわ。 私だってこの聖杯戦争に悲願を成就させるために参加しているもの」

 

 

 ライダーは言葉においては二人を従えるのは不可能と判断して、フェルディアに視線を向けた。

 

 

「俺自身、聖杯に捧げる願いなんてないし、俺のマスターはどちらかと言うと被害者だ。 聖杯は譲ってもいい」

「ッ」

「ならば!」

 

 

 フェルディアの言葉にライダーは喜色の表情で食いつき、セイバー陣営―――特にアイリスフィールの耳に仕込んである盗聴器で会話を盗み聴きをしていた切嗣は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 切嗣の戦法は、サーヴァント同士が戦っている最中にアイリスフィールに気を取られている敵マスターを狙撃すること。 もしくはサーヴァントとマスターの距離を離してからマスターを撃破することだ。

 あのようにライダーのようにマスターとくっ付かれたら切嗣は手出しが出来なくなる。 空を飛ばれたら尚更だ。

 

 

 だからこそセイバーを圧倒的な実力で敗退一歩手前まで追い込んだフェルディアに関しては、マスターの詳細が判明次第に先述した戦法で処理する腹積もりだったのだ。

 

 

 

 ―――もしフェルディアのマスターをあの御者台に乗せられたら自分たちの勝率は絶望的だ。

 迅速にフェルディアのマスターを殺害すべく、切嗣は自分とは違う場所に潜ませている久宇舞弥と共にしらみ潰しに倉庫街を捜索しているも、一向に見当たらない。

 そのことに二人が焦燥に駆られている間にもフェルディアの口は進んでいく。

 

 

 

 

 

「だが―――俺自身の戒め(ゲッシュ)的に弱者からの略奪には賛同しかねる」

 

 

 だから―――悪いな。 その言葉を最後にフェルディアは閉口した。

 

 

「こりゃー交渉決裂かぁ。 ゲッシュかぁ。 ならば仕方ないなぁ。 残念だなぁ」

「ど〜するんだよぉ。 征服とか何とか言いながら総スカンじゃないかよぉ……」

「いや、まあま、“ものは試し”と言うではないか」

「オマエ“ものは試し”で真名バラしたのか!?」

 

 

 何ら悪びれた風もなくハハハと剛胆に笑うライダーに泣きじゃくるウェイバーを見て、フェルディアは笑いながら頑張れよー、と声援を送った。

 そんな聖杯戦争らしからぬ弛緩した空気は―――

 

 

『そうか、よりにもよって貴様か』

 

 

 ―――憎悪の念を剥き出しにした低い怨嗟の声で再度凍りついた。

 

 

『何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみれば―――まさか君自らが聖杯戦争に参加するとはねぇ。 ウェイバー・ベルベット君』

 

 

 その声を聞き、その声に名前を呼ばれて、その憎悪が自分に向けられていること、この声の主が誰であるかも理解したウェイバーが怯えた表情で頭を抱えた。

 

 

『まぁ参加してしまったのなら仕方ない。 君には特別に課外授業を受け持ってあげよう。 魔術師同士が殺し合うという本当の意味―――その恐怖と苦痛を、ね』

 

 

 言外に殺す、と伝えられたウェイバーは恐怖に身を竦ませていた。 そして―――独り恐怖に震えていたウェイバーの肩を、優しく力強くライダーの五指が包み込んだ。 それだけで不思議とウェイバーの震えは治まっていた。

 

 

「おう魔術師よ。 察するに貴様は坊主に成り代わって余のマスターとなる腹だったらしいな」

 

 

 倉庫街の何処かに潜んでいるマスター―――ケイネス・エルメロイに向けてライダーは呼びかけ、心底意地の悪い笑顔で顔を歪めた。

 

 

「だとしたら片腹痛いのぅ! 余のマスターたる男は余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ! 貴様のような臆病者など役者不足も甚だしいッ!!!」

 

 

 沈黙が続く中、ライダーはマントを振るった両腕ではためかせると、夜空に向かって呼びかけた。

 

 

「おいこら! 他にもおるだろうが! 闇に紛れて覗き見しておる連中は!!」

「………どういうことだ、ライダー」

「なんだ、気付いてなかったのかセイバー」

 

 

 ライダーの叫びに疑問を思えたセイバーの言葉に、フェルディアがライダーに同調する形で答えた。

 

 

「どこにそんな輩がいるというのだ」

「いるさ。 少なくとも―――弩級のサーヴァントが一体な」

 

 

 周囲を軽く見渡しても気配を悟れなかったセイバーはフェルディアに問うた。

 それに対して、フェルディアはくつくつと笑いながら一本の街灯を指差した。

 

 

 それに呼応するかのように、黄金の光を集めて身体を形成するように、そのサーヴァントは実体化した。

 

 

「――――――我を差し置いて“王”を称する不埒者が、二匹も湧くとはな」

 

 

 開口一番に黄金のサーヴァント―――アーチャーは不愉快だと口元を歪め、眼下に対峙した三騎のサーヴァントを見下した。

 自分よりも高飛車な相手が現れたことに毒気が抜かれたのか、ライダーは困惑したように顎を掻いた。

 

 

「難癖付けられたところでなぁ。 イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」

「たわけ。 真の王たる英雄は天上天下に我ただ独り。 あとは有象無象の雑種にすぎん」

 

 

 アーチャーが発したもはや侮辱に値する宣言に、セイバーはあんまりな態度に無言になったが、ライダーは呆れたかのように溜息をついた。

 

 

「そこまで言うんなら、まずは名乗りを上げたらどうだ? 貴様も王ならば、己の威名を口にするのを躊躇いはすまい?」

「雑種風情が王たる我に問いを投げるか? 身の程を弁えろよ、雑種!」

 

 

 ライダーがそう返すと、その言葉がアーチャーの逆鱗に触れたのか、感情だけの癇性で殺意を剥き出しに放出した。

 そして、その殺意に連動するかのように、アーチャーの左右の空間にゆらり、と黄金の波紋が生じ―――猛烈な魔力を放つ剣と槍が虚空に出現した。 明らかに尋常の武器ではなく、宝具としか思えない代物だった。

 

 

 昨夜の遠坂邸を監視していた者たちは、昨夜に行われたアサシンを一方的に抹殺した不可解な攻撃だと全員が理解した。

 そのことにウェイバーが恐縮した。 アイリスフィールも気高く振舞ってはいるものの身構えた。 姿が見えないケイネスは傍らに黒騎士を侍らさせた。 遠く離れた位置から監視している切嗣と舞弥も緊張で身を硬くした。 セイバーがアイリスフィールを庇うように前に出た。 ライダーもまた、ウェイバーを背に戦車の手綱を握った。

 

 

 誰もがアーチャーの奇怪な攻撃形態に身構えている最中に―――フェルディアが軽い態度でアーチャーに語りかけた。

 

 

「まあ待てよ。 せっかくの祭典なんだ。 楽しくやろうぜ、アーチャー」

 

 

 そんなあまりにも場違いな発言をしたフェルディアを誰もが見つめるなか、アーチャーだけがほう、とだけ呟いた。

 

 

 その言葉を切っ掛けにアーチャーの左右に浮いていた宝剣と宝槍が反転して向きを変えた。 その切っ先が見据えるのは、彼の興味を買ったフェルディアである。

 

 

 

「祭り事の何たるかを語るのならば―――先ずはその身を以て我を興じさせよ、雑種」

 

 

 

 

 

 何処か喜悦を含んだ宣告と共に、フェルディア目掛けて剣と槍が虚空から射出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ケイネスのサーヴァントはランスロット(狂)にしました。 雁夜の時とは違って暴走率は低いかと思われます。

そろそろフェルディアのプロフィールを投稿したいと思っています。 けれど投稿するのに最低千文字は必須とのことなのでもう暫くお待ちください

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