That ID was Not Found【完結】   作:畑渚

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エピローグ

 その日は雨が降っていた。今にも雷が鳴り出しそうな空を見上げるようなことはしない。

 

 雨で髪が濡れ肌に張り付く。サイドテールにした髪を解き、水気を払う。

 

 

 目の前には墓石がある。名前は刻まれていない。当たり前だ。消された人間の名前をこんなところに残す訳がない。

 

「酷い……世の中……」

 

 家族のつもりだった。いや、家族だったといって過言ではない。私の残された唯一の家族だった。

 

 

 花束を墓石へと供える。驚くことに先客がいたようで、綺麗な花束が置かれていた。それに比べ自分が用意したものはみすぼらしかった。

 それでいい。私は目立ってはいけない。本来はここに来るべきでもなかった。でも、花ぐらい供えたかった。それくらい許されてほしい。

 

 

 雷で空が光る。

 

「さようなら」

 

 そう呟いて、私は墓石から顔を上げる。

 

 私は再び、髪をサイドテールに結んだ。

 

 

__________________

 

 

「社長、頼まれていたものです」

 

 書類の束を手渡される。それをパラパラとめくれば、優秀な分析官がびっしりと書き込んだレポートが目に入る。

 

「やはりか……」

 

 葉巻をくわえると椅子に深く腰掛ける。

 

「UMP9か、そういえば見たことがなかった」

 

 取引の関係上404小隊のメンバーは把握していた、と思っていた。しかしよく思い出してみれば、隊長の妹を名乗る彼女を見たことがなかった。

 

「さすがはやつの娘だ」

 

 印象に残らない技術を身に着けているのだろう。まったく親に似たといえばいいのか……

 

「残念だ。まさか会う前に死んでしまうとは」

 

 レポートの最後には、UMP9として404小隊に紛れ込んでいた少女についての考察が書かれていた。最後の一枚は近隣の病院への調査記録だ。近隣の病院ではUMP9らしき少女の目撃情報すらなかった。あの出血量ならば、どこかで倒れて死んでしまったと考えるのが妥当であると、レポートは終わっている。

 

「社長?」

 

 部下の一人が気を利かしたのかライターを取り出した。

 

「ん?ああ今日は吸わないと決めている」

 

 だから咥えるだけだ。あいつはタバコが苦手だった。だからやつの隣では、いつもこうしていた。

 

「まったく……二人とも死んじまって……」

 

 今日はあの酒を開けるとしよう。やつと、やつの娘と一緒に飲む予定だったあの酒を……

 

 

__________________

 

 

「どうして……ここが?」

 

 背中に当たる銃口に冷や汗をかきながら、それでも笑顔を浮かべて私は後ろを振り向いた。彼女も傘を差しておらず、そのサイドテールも濡れて元気がない。

 

「簡単なことよ。ええ、実に簡単なことね」

 

 その女――45は不気味な笑顔を浮かべながら私に端末の画面をみせてくる。

 それは発信機の電波を受信し、地図上に表示している。

 

 そしてその表示されている地点は、私が立っている地点だ。

 

「どこに!?まさか身体の中!いつの間に!」

 

 発信機を取り付けられるような物品は捨ててきた。選択肢は簡単に一つに絞れた。

 

「あのとき、注射器で打ち込んだのよ。さすがは人間ね、気が付かないなんて」

 

 額を汗か雨粒かわからない雫が流れる。たしかに人形であれば自分から発される電波に気がつけただろう。

 

「あら、奇遇にも髪型がおそろいね。姉の真似をするなんて可愛い妹ね、9」

 

「わ、私は9ではないわ」

 

「いいえ、あなたは9よ。私のたった唯一の妹、UMP9よ」

 

「だから私は……私は9だよ」

 

 銃で突かれて言葉を言い直す。

 

 しかしまったく目的が見えない。なぜ45は私を追跡して、しかもこんな脅す真似をしているのだ?

 

「いい子ね9、そのまま抵抗しないでくれると助かるのだけど」

 

「何が目的なの……」

 

「そんなのひとつに決まってるじゃない」

 

 45の頭が胸にあたり、ぐっと体重をかけてくる。

 

「おねがい、いかないでよ9」

 

「それは無理……それは無理だよ45姉」

 

「なんでよ!現にあなたは生きているし」

 

「いいや、私は、9は死んだんだよ。ここにいるのはただの残骸」

 

「それでも!私は9でなくても、あなたが居てくれるだけで!」

 

「いいや無理だよ45」

 

「なんで!」

 

「それは……私もここで死ぬからだよ」

 

 私は銃口つかみ、自分の心臓へと突きつける。

 

「さあ45姉。いや、UMP45、引き金を引いて」

 

 私は45と共に生きられない。そういう運命なのだ。9が死んだ時点で、私が人間だとばれた時点で、共に生きる道は閉ざされたのだ。

 

「そんなことできるわけないじゃない!」

 

「いいや、引かなきゃいけない。あなたはここで私と別れを告げて、9のいない生活を送らなきゃいけないの」

 

「そんな……だってあなた、死ぬのよ?」

 

「別れを言いたい人はもういない。私はこの世に未練なんてない」

 

 雨だか涙だかわからない液体が、45の頬をながれおちる。

 

「泣かないでよ45姉。416から笑われるよ」

 

「どうして!どうして私から離れてしまうの!」

 

「それが運命なんだよ」

 

「運命!?なによそれ!なんで私がそんなものに左右されなきゃいけないのよ!」

 

「落ち着いて45姉。いつもみたいにさ。あなたの任務はその引き金を引くことだよ」

 

 45の頭を抱えて背中を撫でる。涙を流す45はまるで子供のようだった。

 しかし、任務という言葉を認識したのか45の指に力が入っていった。

 

「さようなら、45。あなただけでも生きて」

 

 

 

 

 撃鉄が、落ちた。

 




 ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。皆様のおかげでこの作品も【完結】とつけることができました。
 最後は自分でも納得のいくエンドにもっていけず、力不足を感じました。ですのでわざと曖昧にして、あとは読者の想像にお任せしたいと思います。ここからすべてを崩してハッピーエンドにするもよし、余韻を楽しむためにバッドエンドにするもよしです。

墓:除名済みの軍人の墓。彼の墓に花を供える人物は二人。彼に背中を預けた戦友と、彼を義父と慕う娘であった。
↑こんなふうに裏設定を語りたいので、気になる点や伏線に見えるところがあればお気軽にご連絡ください。
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