That ID was Not Found【完結】   作:畑渚

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慣れてない書き方はやはり難しいですね……


1.404小隊

 私たちは廃墟街に身を潜めていた。初めのうちは順調な行軍だった。敵の施設に潜入し、破壊工作をする。私たちなら難なくこなせる任務だ。

 しかし工作後、順調に見えた任務は難易度が増した。工作には気づいていないようだが、突然警備の人形が増えたのだ。終いには四方八方を敵に囲まれ、接敵を免れないところまで追い詰められている。

 

「ねえ45、あなたこのルートなら接敵がないと言ったわよね?」

 

「それは違うわ。正確には"少ない"と言ったのよ」

 

 目の前の人形たちはその表情を豊かに動かしながら、口論を繰り広げている。まったく羨ましい。彼女たちのように口論する元気すら、今の私にはない。

 

「45姉も416もそのくらいにしてよ。またG11が寝ちゃった」

 

「ムニャムニャ……ングッ!ほっぺ掴まないでよ9!」

 

 手のひらに伝わる弾力は本当に人間を触っているかのようだった。そして、それを嫌がるように身を捩らせる目の前の人形も、人間のようだった。

 

「ねえ9、私の提案したルートと416のルート、どちらが良かったと思う?」

 

「45姉のルートに決まってるよ!実際にここまでは接敵も無かったし、いま目の前にいるのも小規模部隊のようだし」

 

「でも接敵してるじゃないの。私のルートなら完璧に敵と会わずに済んだかもしれないじゃない」

 

 完璧主義者である416らしい憶測だ。けれども、その選択を今更悔やんだところで、目の前の敵は去ってくれない。

 

「そうだね。416の言う通りかもしれない。でもとりあえずは目の前の敵を倒してからにしようよ。G11が起きてるうちにさ!」

 

掴んだほっぺをグニグニと動かし、ねぼすけ娘が眠らないようにする。人形のほっぺによる疲労回復効果について、という仮想の論文タイトルが頭をよぎった。

 

「起きてるから!引っ張らないでよぉ!た、助けて416!」

 

 416に私を止めようとする様子は無かった。むしろ肩をすくめている。

 

「自業自得ね」

 

「そんなぁ!」

 

「ほら、敵が来るよ!45姉!」

 

「わかっているわ。ところで一つ聞いて良いかしら?」

 

動揺が顔に出そうになる。しかし、表情を隠す訓練は十分に受けている。そんなミスはしない。

 

「どうしたの、45姉?」

 

「戦闘中でも笑っているけど、戦うのが好きなの?」

 

「ははは、なんだそんなことか」

 

どうやらボロが出たわけでは無いようだ。この笑顔は、私が人形に混ざるための仮面だ。この仮面さえ被っていれば、彼女たちは私が自分たちと同じ人形だと錯覚してくれる。

 

「戦いは好きだよ!45姉の命令なら特にね!」

 

初めはUMP45という人形に執着しすぎかと思っていたが、もはや何も疑われないくらいには溶け込めている。私は姉が大好きな人形、UMP9だ。今はそれ以外の何者でも無い。

 

 

____________________

 

 

「いつもの陣形で行くわよ」

 

「「「了解!」」」

 

 戦闘になればさっきの空気とは打って変わって、全員が真面目な表情を浮かべる。あのG11でさえ、しっかりと目を開いて敵を撃ち抜いている。

 

「9!そっちに行ったわ!」

 

「わかったよ45姉!」

 

 人形と戦闘するのは怖くない、と言えば嘘になる。当たり前である。人形が一般的に兵士に劣ると言われているのは、装備に差があるからだ。大昔の武器を使う人形もいるなか、兵士には最新鋭の装備が配給される。その結果が兵士の優勢という状況である。

 だが私には、弾を通さないボディアーマーも、一発で鉄をも撃ち抜く銃も、動きをアシストしてくれる外骨格もない。

 あるのは防弾生地のシャツに、UMP9という昔の銃に、生身の身体だけである。

 

「9!援護するわ」

 

「416!?了解!」

 

 後ろからも銃弾が飛んでくる。勘弁してもらいたい。ただでさえ前からの弾丸を避けるので精一杯なのだ。

 

 でもまあおそらく、完璧と豪語する彼女のことだ。私の動きなど予測して、当たらないラインで撃っているにちがいない。そうであってくれないと困る。

 

「9!榴弾を撃ったわ!」

 

「事後報告はやめてよ!」

 

 全力で後ろの物陰に退避する。爆風が頭の上を通り過ぎ、なにかの破片が降り注いでくる。

 

「もう!危ないじゃないの!」

 

「たかが榴弾の一発くらいダミー使って避けなさいよ!」

 

「9、416、そのくらいにしなさい。北の方向に穴が開いたわ、突破するわよ」

 

「了解だよ、45姉」

 

 腰から閃光手榴弾を投げて、無理やり突破する。

 

「9、合流地点にまた着いていないようだけど大丈夫?」

 

「遅れてごめんね、45姉。もうすぐで着くから」

 

 ポーチから応急処置セットを取り出す。傷口の血を拭き、肌と同色の包帯で傷口を隠す。その上から服を着れば、傷口がないように見える。

 

「おまたせ45姉!」

 

「損傷は……ないようね。それじゃあ行くわよ」

 

 UMP45ですら私の傷に気づかない。当たり前のように、他の人形もだ。

 

 私が人形では無いことは、誰にもバレていない。これまでも、そしてこれからも……。

 


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