That ID was Not Found【完結】   作:畑渚

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5.疑惑

「やはり、人間というものは脆いな」

 

 敵はそう言いながら、私の右腕だった物を踏み潰す。

 

「しかし、貴様本当に人間か?普通ならとっくに気を失っていそうなんだが」

 

 私は止血帯で腕を強く縛ると、残った左腕で銃を構える。

 

「あいにくと私はただの人間よ。純度100%のね」

 

 口角が上がっているのを自分でも感じる。まだ奥の手は発動できていない。しかし、ダミー人形には最後の命令を送ってある。

 

「やめておけ。それ以上動くと本当に死ぬぞ?」

 

「どうせ死ぬなら一体くらい道連れにしないとね?」

 

「……ほんとうに人間というものは……狂ってる」

 

「はははっ、そうかもね。人間は狂ってる。それは否定しないよ」

 

 意識を保つことすら厳しくなってきた。おそらく次が最後になるだろう。

 

 だから、確実にここで決めるしかない。

 

「狂ってる。だからこそ生まれるものがあるんだよ」

 

「愚かな……。良いだろう、貴様は私が殺してやる」

 

 敵は再び突撃体勢へと入る。この溜めるような動作は、隙があるように見える。

 

 だから……このタイミングだ。

 

 敵が一歩目を踏み出したタイミングで私も動き出す。

 動き始めた私を見て敵は二度目のステップを踏み方向を転換する。

 

 敵はまっすぐにこっちへと突撃してくる。もういちど彼女の斬撃をくらえば、今度こそ即死してしまうだろう。

 だが、一度だけ、ダミー人形一体分だけチャンスがある。

 

 

 ダミー人形が私をかばうように前に飛び込んでくる。命令通りに動いてくれて本当に助かった。

 

 ダミー人形の背中を蹴り飛ばし、敵に当てる。敵は突然のことに戸惑いながらも、ダミー人形を切り裂いてそのまま真っすぐ私に向かってこようとする。

 

 ダミー人形を切り裂かせる。これが私の奥の手だ。敵のブレードは衝撃波をまとっていた。その衝撃波は、ダミー人形に満載された爆薬の起爆にもってこいだった。

 

 

 

 

 辺りを轟音が揺らす。私も無傷とは行かないが、ほぼ0距離から人形の破片付き爆弾をくらった敵は悲惨の一言に尽きた。

 

「うっ……爆薬?」

 

「今回は運が良かったわ。最後に残ったダミー人形がよりにもよってあの個体で本当に助かった」

 

「ちっ……覚えていろ。次はお前を――」

 

 殺してやるとでもいいたいのだろう。ボロボロの身体を動かし、私の方へと手を伸ばす。

 

 

 私はその腕にバングルをはめた。

 

「なんだこれは!」

 

「覚えていろ……ね。私は覚えていてあげる。でもね、あなたは忘れるの」

 

「システムにハッキング?馬鹿な!記憶領域に!?」

 

「あなたは私のことは忘れるんだよ。あなたが覚えていることは一つ。404小隊の恐ろしさをその身をもって体感したことだけ。たったそれだけ……」

 

 大穴が開いている腹部から銃口を心臓部へと向け、ためらわず引き金をひいた。

 

 

__________________

 

 

「45、通信よ」

 

 416が私の肩を揺さぶる。どうやらしばらく茫然自失となっていたようだ。通信機を取り出してみると、ヘリアンから着信が来ている。

 

「404小隊に次の任務を言い渡す。次は――」

 

「待って。今9が……UMP9がハイエンドモデルと交戦中で、それを救出した後ではだめかしら」

 

 きっと否定されるのだろう。そんなに甘い世界ではないことを私は知っている。

 

「UMP9からはこちらに連絡が来ている。合流できない程の損傷を負ったとのことだ」

 

「救援は?」

 

「もう送ってある。そろそろ回収しててもおかしくない頃だ」

 

「……そう。それでは次の任務を聞きましょうか」

 

 9が一人でハイエンドモデルを撃退したとは思えない。彼女は私よりも戦闘特化型ではあるけれど、SMGと閃光手榴弾では火力が足りない。何があったのだろうか……

 

 まあ、今度聞けばいい。9はまだ生きているのだから。

 

「UMP45、任務の内容は分かったか?」

 

「ええ、大丈夫よ。それじゃあ行きましょうか」

 

 G11をおぶった416は私を見て呆れた表情を浮かべたが、何も言ってくることはなかった。

 

 

 

 

 日が落ち、夜の時間帯となる。普段は夜戦でメインなのだけど、今回は他の部隊との兼ね合いで朝まで待機を命じられた。

 

「ねえ45、9のことなんだけど」

 

ランタンの灯りを囲み、416は私に話しかけてきた。私は顔に笑顔を貼り付ける。

 

「ええ、何?」

 

「本当にハイエンドモデルを倒したと思う?」

 

「ええ。9の戦果を疑っているの?」

 

「でもおかしいじゃない。9は普通の装備しか持っていなかったはずでしょう?」

 

「ええ。でも銃ではなくても倒しようはあるでしょう?」

 

 そんな方法があるなら教えてほしい、と自分の発言に自分で返す。ハイエンドモデルはそんな手先の器用さで倒せるような相手ではないことなんて百も承知である。

 

「はぁ、もういいわ。先に仮眠を取らせてもらうわ」

 

 そう言うと416は毛布にくるまってしまった。

 

 

 やれやれと空を見上げたときだった。通信機が連絡が入ったことをバイブレーションで教えてくれた。

 

「UMP45、ヘリアンだ。9の救援に向かわせた部隊からの報告だが、9の姿は現場に無かったらしい」

 

「っ!?」

 

「まあ待て。現場にはボイスメッセージが残されていた。UMP45宛のようだったからデータを送っておく。確認してくれ」

 

「わ、わかったわ。それで9は」

 

「捜索隊は、一応出す。だから404小隊は引き続き任務を――」

 

「そんなことできないわよ!」

 

 できるわけがない。重症の9が行方不明?

 

「捜索部隊はいらないわ。私たちで探す」

 

「待て、気持ちはわかる。だが、理解してくれ。404小隊の代えとなる部隊を私たちは持っていないんだ」

 

「……わかったわ。任務を遂行する」

 

「……すまない」

 

 通信はそこで切断された。歯をくいしばりながら端末を操作し、送られてきたボイスメッセージを再生する。

 

「”45姉へ。これを聞いているということは私は行方不明になっている、そうだよね?”」

 

 正解。あなたは今行方不明。

 

「”それでね、これは私からのお願いなんだけど、私のことは探さないで”」

 

 どうして?9は私の前から消えたかったの?

 

「”別に45姉が嫌いになったとかじゃないから安心してね”」

 

 ……

 

「”実をいうと設備がないと厳しいくらいの損傷を負っちゃったんだ。だから私は部隊を一時離脱する”」

 

 そんなに酷い損傷なら救援を待てばよかったじゃない。G&Kの修復設備を借りればすぐに復帰できるかもしれないのに……。

 

「”またすぐに戻るから、私のことは気にせずに任務に集中してね。それじゃあ”」

 

 ボイスメッセージはそこで終了だった。

 

 

 9はどうして私たちをハイエンドモデルから逃したのか。

 

 どうして重症を負ってまでハイエンドモデルを倒したのか。

 

 どうして、私の前から姿を消したのか。

 

 

 まさか……まさかね?

 

 

 9は私を姉と慕ってくれる可愛い妹だ。

 404小隊を家族といい、ムードメーカーとしていつも明るかった。

 訓練は人一倍頑張るし、任務中は誰よりも集中していた。

 

 

 そんな9が、私に隠し事をしているわけないよね?

 

 

 疑惑を一度持ってしまえば、全ての行動が怪しく見えてしまう。常に張り付いた笑顔。私に判断を仰ぎ自分では提案しないこと。ベースキャンプでは一人を好むこと。珍しい訓練をためしていること。

 

 

 

 

 いや、9が隠し事をしているかなんてどうでもいい。

 それよりも、9のあの笑顔が、45姉と呼ぶ声が、嘘であったならば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけがない。だって9は私の大切な妹でずっと昔から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔?私はいつから9と一緒にいた?

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