That ID was Not Found【完結】   作:畑渚

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7.確信

「本当の気持ちって……私は45姉のこと好きだよ?」

 

 9は不思議そうにしながらそう答えた。

 

 嘘だ。9の嘘をつく時の癖がでている。そう簡単に本心が出てくるとは思ってないが、これは手こずりそうだ。

 

「ねえ、なんで逃げようとしてるの?そんなに私と話をしたくないの?」

 

「そんなことないよ?ただ少し疲れてるから今日は早めに休みたいなって」

 

「ふーん、そう」

 

 通信機のスイッチをいじり、416へと繋ぐ。

 

「416?買い出しに行って欲しいのだけど。ええ、G11も連れ出していいわ」

 

 これで邪魔が入ることはない。

 

「さてと、話の続きをしましょうか」

 

 私はにっこりと微笑んだ。

 

 

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 この状況で逃げるという選択肢は無かった。だから退路を断たれているのは問題ない。

 

 しかし、頼みの綱である他人の介入が絶望的となってしまった。

 今後私がとれる選択肢は二つ、なんとか誤魔化すか、ここで任務続行を諦めるかだ。

 

「さてと、話の続きをしましょうか」

 

 45が不気味に笑う。背筋が凍りつきそうだ。緊張を隠す訓練は受けているが、そんなに得意な方ではない。

 

「45姉はどうして私を疑ってるの?」

 

「……思い出してしまったのよ」

 

「思い出した……?」

 

「9、あなたはいつから私の妹になったの?」

 

「な、なにを言ってるのかわからないよ、45姉……」

 

「何も知らないのよ。突然、あなたは私の妹としてこの部隊にいた。私はあなたのことを全く知らない。そのことを思い出したわ」

 

「そんな……その前の記憶がないってこと!?」

 

「ええ、無いわね」

 

 そんなはずはない。カバーストーリーが埋め込まれているはずだ。45には、ずっと昔から私と一緒に過ごしてきた記憶がインストールされているはずだ。

 

「ああ、少し語弊があるわ」

 

 不思議そうにする私に気がついたのか45が言葉をつなぐ。

 

「記録はあるわ。ずっとあなたと過ごしてきた記録はね。ただ、それは記録であって記憶ではないわ。恐らく外部から無理矢理ねじ込んだのね、まるで他人の記憶を見ている気分だわ」

 

 電子戦特化とは聞いていたが、そこまで突き止められているとは思わなかった。

 

 しかし、その記録を認識しただけならば……

 

「……気付いちゃったか」

 

 落ち込んだ表情を作り出し、静かにこちらを見る45へポツポツと語る。

 

「確かに45姉の言う通り、私はこの部隊ができて少ししてから加入したよ。違和感のないように全員に偽の記録と記憶改竄をしてからね」

 

「9、それじゃああなたは」

 

「私は45姉の妹として作られたんじゃないの。この404小隊に必要とされて作り出された人形なんだ」

 

「……そう」

 

 45がこちらの言葉を疑っている様子はない。

 先ほどの言葉は全て嘘というわけでもない。404小隊のメンタルケアとして9という人形の外見や内面は作られた。そのことに嘘偽りはない。ただ中身が人形ではなく人間であるだけだ。

 

「でも45姉、私は404小隊を家族のように思っているし、45姉のことが好きだっていうのも嘘なんかじゃないよ?」

 

「そう……わかったわ」

 

「45姉……?」

 

「疲れているんでしょう?シャワーを浴びてきたら」

 

「うん、そうするね」

 

 45は部屋から出て行く私を引き止めようとはしなかった。

 

 

__________________

 

 

 もう、9の言葉を信じられない自分がいた。家族?姉妹?いったいどこまでが9の本心で、どこまでがそう設計された性格なのかが分からない。

 

「まったく……我ながら嫌になるわ」

 

 何も考えずに9の言葉を信じていたかった。私を姉と呼び、小隊を家族と言う9のままで満足していたかった。

 

 でも、それはできない。できなかった。私にはそんな思考停止することなんて、できなかった。

 

 

 ふと、端末を開きG&Kの最深部へと侵入する。データベースをひっくり返し、本当に一部の人間しか閲覧できないものを表示する。

 

 そこにあるのは全人形のデータだ。G&K所属だけでなく、判明している全ての人形のデータがそこに収まっている。

 

 私は試しに自分のIDを検索にかける。すると、数秒も経たずに私のデータが表示される。そのデータのほとんどが黒塗りにされており、秘匿されていることがよくわかる。

 

 416やG11も試してみる。すると、やはり同じように隠されているデータが出てくる。

 

 最後に9のIDを打ち込み、エンターキーを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

“That ID was not found”

 

 

 

 画面にはそう表示された。

 

 そんなわけがない。9のIDを覚え違えているわけがないし、ましてや元から登録されていないわけもない。

 このデータベースに存在しないということは、9はグリフィンの施設を利用できないということだ。修復施設はもちろん、補給物資の認証システムすら使えない。そしてなにより、I.O.P独自の烙印システムも使えないはずだ。烙印システム無しで人形が戦えるはずがない。ましてやハイエンドモデルを撃退するなど、不可能だ。

 

「9、あなたはいったい……いったい何者なの……」

 

 G&Kのデータベースから痕跡を消して、他のデータベースに侵入してみる。しかし、ここでも9のIDは登録されていなかった。

 

 私は何度もハッキングを繰り返し、IDだけでなく容姿やメンタルモデルのタグから9のデータをほり出そうとしてみる。

 

 しかし、いくら人形のデータベースを探しても、9らしき人形のデータはダミー人形のもの以外、残っていなかった。

 

 

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「……あら、もう朝だったのね」

 

 部屋のカーテンを開けると、朝日が部屋に差し込んでくる。眩しさに目を細めながら、コーヒーもどきを淹れる。独特の苦味が朝という自覚を私にくれた。

 

「徹夜しても結局は該当なしねぇ」

 

 端末には9に関するデータを徹底的に洗い出した跡が表示されている。

 

「データの削除跡すら無し。これはデータを消したというよりも、元から存在しなかったと考えるべきかしら」

 

 私たちは隠されてはいるものの、確かにここに存在している。データは隠されていても、確実にあるはずなのだ。それすら無いのであれば、9は一体何者なのだろうか。

 

 

 

 

 9の顔と適合するパーツを探し出すプログラムを組み上げ、範囲をさらに広げる。各データベースはもちろん、番組のアーカイブから新聞のバックナンバーまで含めて、起動のエンターキーを押した。

 

 

 

 

「嘘……でしょ?」

 

 表示された結果の中に、一つの新聞記事があった。そこには人間の街が崩壊し、難民キャンプで過ごす人々の特集をしていた。

 

 その写真の中に、9によく似た少女がいた。幼い容姿ではあるが、私は彼女が9と同一人物だとどういうわけか確信を持ってしまった。

 

 

 端末を操作して少女の個人情報を表示させようとした。しかし、そのデータは丁寧に消去されていた。暗号化やセキュリティがあるのではなく、ただ黒塗りに、データを読み取れないように消した跡だけが見つかった。

 

 

それは9に似た謎の少女が実際に存在し、そしてその存在を隠されたことを証明してしまっていた。

 

 

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「45姉?どうしたの」

 

 扉の開く音が聞こえたので起き上がると、部屋の入り口に45が立っていた。うつむいており表情は見えない。

 

 無言のまま45は私のほうへと近づいてくる。

 

「45姉?なにかあったの?」

 

 45はベッドへ腰掛ける私のすぐ目の前へと立つ。そしてそのまま腕を私のほうへと伸ばして――

 

 

 

――私の首を思い切り絞めた。

 

「よ、45姉!なにを――」

 

「9。いえ、9ではないのよね。あなたは、あなたは一体なんて名前なのかしら、人間」

 

 その私を人間と呼ぶ声には、憎しみの念が含まれている気がした。

 

 

 私も精一杯の抵抗はしてみるが、戦術人形相手に力で勝てるはずもなく、私の意識はすぐに薄れていった。

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