That ID was Not Found【完結】 作:畑渚
「本当の気持ちって……私は45姉のこと好きだよ?」
9は不思議そうにしながらそう答えた。
嘘だ。9の嘘をつく時の癖がでている。そう簡単に本心が出てくるとは思ってないが、これは手こずりそうだ。
「ねえ、なんで逃げようとしてるの?そんなに私と話をしたくないの?」
「そんなことないよ?ただ少し疲れてるから今日は早めに休みたいなって」
「ふーん、そう」
通信機のスイッチをいじり、416へと繋ぐ。
「416?買い出しに行って欲しいのだけど。ええ、G11も連れ出していいわ」
これで邪魔が入ることはない。
「さてと、話の続きをしましょうか」
私はにっこりと微笑んだ。
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この状況で逃げるという選択肢は無かった。だから退路を断たれているのは問題ない。
しかし、頼みの綱である他人の介入が絶望的となってしまった。
今後私がとれる選択肢は二つ、なんとか誤魔化すか、ここで任務続行を諦めるかだ。
「さてと、話の続きをしましょうか」
45が不気味に笑う。背筋が凍りつきそうだ。緊張を隠す訓練は受けているが、そんなに得意な方ではない。
「45姉はどうして私を疑ってるの?」
「……思い出してしまったのよ」
「思い出した……?」
「9、あなたはいつから私の妹になったの?」
「な、なにを言ってるのかわからないよ、45姉……」
「何も知らないのよ。突然、あなたは私の妹としてこの部隊にいた。私はあなたのことを全く知らない。そのことを思い出したわ」
「そんな……その前の記憶がないってこと!?」
「ええ、無いわね」
そんなはずはない。カバーストーリーが埋め込まれているはずだ。45には、ずっと昔から私と一緒に過ごしてきた記憶がインストールされているはずだ。
「ああ、少し語弊があるわ」
不思議そうにする私に気がついたのか45が言葉をつなぐ。
「記録はあるわ。ずっとあなたと過ごしてきた記録はね。ただ、それは記録であって記憶ではないわ。恐らく外部から無理矢理ねじ込んだのね、まるで他人の記憶を見ている気分だわ」
電子戦特化とは聞いていたが、そこまで突き止められているとは思わなかった。
しかし、その記録を認識しただけならば……
「……気付いちゃったか」
落ち込んだ表情を作り出し、静かにこちらを見る45へポツポツと語る。
「確かに45姉の言う通り、私はこの部隊ができて少ししてから加入したよ。違和感のないように全員に偽の記録と記憶改竄をしてからね」
「9、それじゃああなたは」
「私は45姉の妹として作られたんじゃないの。この404小隊に必要とされて作り出された人形なんだ」
「……そう」
45がこちらの言葉を疑っている様子はない。
先ほどの言葉は全て嘘というわけでもない。404小隊のメンタルケアとして9という人形の外見や内面は作られた。そのことに嘘偽りはない。ただ中身が人形ではなく人間であるだけだ。
「でも45姉、私は404小隊を家族のように思っているし、45姉のことが好きだっていうのも嘘なんかじゃないよ?」
「そう……わかったわ」
「45姉……?」
「疲れているんでしょう?シャワーを浴びてきたら」
「うん、そうするね」
45は部屋から出て行く私を引き止めようとはしなかった。
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もう、9の言葉を信じられない自分がいた。家族?姉妹?いったいどこまでが9の本心で、どこまでがそう設計された性格なのかが分からない。
「まったく……我ながら嫌になるわ」
何も考えずに9の言葉を信じていたかった。私を姉と呼び、小隊を家族と言う9のままで満足していたかった。
でも、それはできない。できなかった。私にはそんな思考停止することなんて、できなかった。
ふと、端末を開きG&Kの最深部へと侵入する。データベースをひっくり返し、本当に一部の人間しか閲覧できないものを表示する。
そこにあるのは全人形のデータだ。G&K所属だけでなく、判明している全ての人形のデータがそこに収まっている。
私は試しに自分のIDを検索にかける。すると、数秒も経たずに私のデータが表示される。そのデータのほとんどが黒塗りにされており、秘匿されていることがよくわかる。
416やG11も試してみる。すると、やはり同じように隠されているデータが出てくる。
最後に9のIDを打ち込み、エンターキーを押した。
“That ID was not found”
画面にはそう表示された。
そんなわけがない。9のIDを覚え違えているわけがないし、ましてや元から登録されていないわけもない。
このデータベースに存在しないということは、9はグリフィンの施設を利用できないということだ。修復施設はもちろん、補給物資の認証システムすら使えない。そしてなにより、I.O.P独自の烙印システムも使えないはずだ。烙印システム無しで人形が戦えるはずがない。ましてやハイエンドモデルを撃退するなど、不可能だ。
「9、あなたはいったい……いったい何者なの……」
G&Kのデータベースから痕跡を消して、他のデータベースに侵入してみる。しかし、ここでも9のIDは登録されていなかった。
私は何度もハッキングを繰り返し、IDだけでなく容姿やメンタルモデルのタグから9のデータをほり出そうとしてみる。
しかし、いくら人形のデータベースを探しても、9らしき人形のデータはダミー人形のもの以外、残っていなかった。
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「……あら、もう朝だったのね」
部屋のカーテンを開けると、朝日が部屋に差し込んでくる。眩しさに目を細めながら、コーヒーもどきを淹れる。独特の苦味が朝という自覚を私にくれた。
「徹夜しても結局は該当なしねぇ」
端末には9に関するデータを徹底的に洗い出した跡が表示されている。
「データの削除跡すら無し。これはデータを消したというよりも、元から存在しなかったと考えるべきかしら」
私たちは隠されてはいるものの、確かにここに存在している。データは隠されていても、確実にあるはずなのだ。それすら無いのであれば、9は一体何者なのだろうか。
9の顔と適合するパーツを探し出すプログラムを組み上げ、範囲をさらに広げる。各データベースはもちろん、番組のアーカイブから新聞のバックナンバーまで含めて、起動のエンターキーを押した。
「嘘……でしょ?」
表示された結果の中に、一つの新聞記事があった。そこには人間の街が崩壊し、難民キャンプで過ごす人々の特集をしていた。
その写真の中に、9によく似た少女がいた。幼い容姿ではあるが、私は彼女が9と同一人物だとどういうわけか確信を持ってしまった。
端末を操作して少女の個人情報を表示させようとした。しかし、そのデータは丁寧に消去されていた。暗号化やセキュリティがあるのではなく、ただ黒塗りに、データを読み取れないように消した跡だけが見つかった。
それは9に似た謎の少女が実際に存在し、そしてその存在を隠されたことを証明してしまっていた。
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「45姉?どうしたの」
扉の開く音が聞こえたので起き上がると、部屋の入り口に45が立っていた。うつむいており表情は見えない。
無言のまま45は私のほうへと近づいてくる。
「45姉?なにかあったの?」
45はベッドへ腰掛ける私のすぐ目の前へと立つ。そしてそのまま腕を私のほうへと伸ばして――
――私の首を思い切り絞めた。
「よ、45姉!なにを――」
「9。いえ、9ではないのよね。あなたは、あなたは一体なんて名前なのかしら、人間」
その私を人間と呼ぶ声には、憎しみの念が含まれている気がした。
私も精一杯の抵抗はしてみるが、戦術人形相手に力で勝てるはずもなく、私の意識はすぐに薄れていった。