【完結】変これ、始まります   作:はのじ

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10 人はそれを愛と名付けた

「認められません」

 

 大本営の偉いさんだ。

 

 分かってるぜ。俺も少しは経験を積んでいる。勉強も通信教育とは別にちゃんとしてるんだ。これが交渉術の一つだって事は見破っている。

 

 俺の隣には廃棄物Bを抱いた雨雲姫ちゃんがいる。

 

 大本営が、来るなら雨雲姫ちゃんを同席して欲しいと言ってきたからだ。

 

 俺は既に譲歩している。さぁクソ大本営、お前はどう譲歩するんだ?

 

 最初に一発かまして俺からさらに譲歩を引き出すつもりだろう? 新米提督だって舐めてかかるとその(はらわた)を食い破ってやるぜ。

 

 俺たちは大本営のなんたらかんたらっていう艦娘の情報を管理する部署に呼ばれた。理由はペンギン艦ペンギンの登録に関してだ。

 

 流石明石さん。完璧な仕事だぜ。ちゃんと登録してくれた。

 

 大本営が気づいても、時既に遅しだ。事情を聞こうにも明石さんはとっくの昔に他の鎮守府に高飛びしている。大本営(てめぇら)はとっくに後手に回っているんだ。

 

 どうだ? 悔しいか? 負けっぱなしでいるほど俺は落ちぶれちゃいねぇんだよ。

 

「このペンギン艦ペンギン様の登録は抹消します。よろしいですね?」

 

 何だと! 廃棄物Bをこの世から消そうと言うのか!? 血も涙もねぇ連中だ。

 

「巫山戯るな! 俺の艦娘を何だと思ってやがる!」

 

「ペンギン様は艦娘と認められません」

 

 力を持てば正義だというつもりか? 権力を振りかざしやがって! 認めるも認めないも廃棄物Bは俺の艦娘なんだよ!

 

 雨雲姫ちゃんが腰を上げて口を開こうとした。俺は雨雲姫ちゃんの腕を掴んだ。ここは俺に任せてくれ。俺は廃棄物Bの提督なんだ。廃棄物Bを護るのは提督たる俺の役割だ。雨雲姫ちゃんは側で見守っていてくれ。

 

 気持ちは伝わった。雨雲姫ちゃんはこくんと頷いて腰を下ろした。静観の構えだ。

 

「理由を教えてくれ」

 

「過去に遡ってペンギンという名の艦船は存在しません」

 

「海外にもか?」

 

「はい。ホニョペニョコ王国が存在したとしてもです。付け加えるならペンギン艦という艦種も存在しません。千年遡っても存在ません」

 

 野郎、俺の手を読みやがった。この手はもう使えねぇか。だがな。

 

「くくくく」

 

「?」

 

「お前、何も分かっちゃいねぇよ。まるで話にならねぇ」

 

「浅学で申し訳ありません。そのお話、お聞かせ下さいますか?」

 

 かかった。前回は後方に全力で前進したが今回はそうは行かねぇ。

 

「よく聞け。お前は明石さんより艦娘について理解が深いのか?」

 

「いえ、断言はしかねます」

 

「そうだよな。艦娘を一番知るのは艦娘だ。人間がいくらあがこうが艦娘を完全に理解するのは不可能なんだよ」

 

「なるほど。その通りでしょう」

 

「だが人間でも艦娘を理解可能な存在がいる。それが俺たち提督だ」

 

「ご尤もな話です」

 

「俺は昨日、明石さん立会の下、二人目の艦娘を建造した。建造は大成功だ。お前には理解出来ないだろうが、俺たち提督と艦娘の間には決して切ることの出来ない絆ってものが有るんだよ」

 

「興味深い話です」

 

「俺たち提督は艦娘に触れる事で最初の絆が結ばれる。そして俺は新たな艦娘に触れて絆を確かめた。分かるか? 提督と艦娘にしか結ばれない絆を確かに感じたんだ!」

 

「絆……ですか」

 

「そうだ! 絆だ! そして俺は艦娘の名を知った。ペンギンだ。ペンギン艦ペンギン。それが俺の二人目の艦娘の名だ!」

 

「……」

 

「立ち会った明石さんも艦娘だと認めて即座に登録した。艦娘は艦娘を知るって事だ。これが全てだ。分かるな?」

 

「ですが過去に遡ってペンギンという名の艦船は存在しませんので認められません」

 

 頭かてぇぇぇぇぇなおいぃ!!!

 

 はい、分かりましたって言えよ!!! クソ大本営がぁぁぁ!!!

 

 偉いさんは小さくため息を吐いた。

 

「よろしいですか?」

 

 よろしいもクソもねぇよ。言いたいことあるならさっさと言えってんだ。

 

「正式に登録された艦娘には幾つかの条項が適用されます。例えば演習ですが、月に一定回数の参加が義務付けられています」

 

 初耳だ。だからそういう事ちゃんと教えろよクソ大本営が。そういう所が駄目なんだよ。

 

「私見ですが、ペンギン様は演習の参加に耐えうるとは思えません」

 

 そうだな。廃棄物Bは火力も装甲もゼロで紙以下のペラッペラだ。

 

「一定の訓練期間を経て、出撃に耐えうると認められた艦娘には演習同様に実力に応じた任務に一定数出撃してもらう規定もあります」

 

 だから後出しじゃんけん止めろって。なんで教えてくれねぇんだよ!

 

「ペンギン様に可能なのでしょうか?」

 

 偉いさんの眼鏡がキラリと光った。

 

「可能だ」

 

 廃棄物Bの可能性は無限大だ。今は出来ない。だが未来にも出来ないと誰が言えようか? 現在過去未来。全てを見通して、事象全てに断言出来る者がいるとすればそれは神だ。神しかいない。俺は廃棄物Bの可能性を信じている。

 

「では話を変えましょう。艦娘には維持費という名目で政府から給与が支給されているのはご存知でしょう。大本営からではなく政府からです」

 

 知ってるよ。お蔭で俺の執務室が劇的ビフォーアフターの真っ最中だ。

 

「これは任務の達成に関係なく一律に支給される基本給と、任務の貢献度に合わせた歩合給が艦娘に支給されています」

 

 つまり寝ていてもお金が入ってくる仕組みってやつだな。

 

 偉いさんはぐっと体を俺に寄せた。耳元で小さく囁いた。

 

「このままでは横領罪で政府に告発されてしまう可能性があります。そうなれば雨雲姫様とも引き離されるでしょう。我々は貴方に期待を寄せています。どうかお考え直し下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国家権力には勝てなかったよ……」

 

 俺たちはあの後なんたらかんたらっていう部署から後方に全力で前進した。

 

 ただ時間の猶予は勝ち取った。その間になんとかする必要がある。

 

 大本営から維持費が支給されていれば何とかなる話だった。しかし維持費は政府から支払われている。

 

 政府の横槍を防ぎたい大本営と艦娘とのパイプを維持したい政府。提督の給料は大本営が、艦娘の維持費を政府が。せめぎ合いと妥協の結果らしい。

 

 例え艦娘との関係を作られても提督を押さえている時点で大本営は艦娘を間接的に動かす事が出来る。そういう事らしい。

 

「俺は金なんていらねぇのに……」

 

 むしろ所持金ゼロでよく生活できてるな。生命線は食堂と雨雲姫ちゃんの手料理だ。この兵站が切れた時点で水と玉露だけの生活になる。持って一ヶ月だ。

 

 維持費を受け取る受け取らないの話じゃなくてそういう風に仕組が出来上がっている。つまりこのまま意地を張ってると政府はいつでも俺を告発して身柄を確保出来るって事だ。雨雲姫ちゃんは俺を人質にされていいように使われるかもしれない。

 

 そこまでするかと思うかもしれないけど、個人と国家は別物だ。闇で何をされるか分からない。ぞっとする話だ。

 

 解決法はある。

 

 廃棄物Bが艦娘として活動出来れば全て解決だ。雨雲姫ちゃんがこのパターンだ。大淀さんがどんな手を使った分からないが、要は艦娘として活躍出来ればどうにかなる問題だった。

 

 もちろん俺は廃棄物Bの可能性を信じている。信じているが今日明日で雨雲姫ちゃん並に動けるとは流石に思えない。

 

 最低でも一年……いや五年……一〇年でなんとかなるといいなぁ……

 

「畜生……俺は廃棄物Bを艦娘として認めさせる事もできねぇのかよ……」

 

 俺は日和った。保身だ。政府に身柄を確保される事を恐れて、いや、雨雲姫ちゃんと引き離される事を恐れて廃棄物Bの未来を天秤にかけようとしている。

 

 なんてことだ。俺は吹雪さん達に誓ったのに。大事にするって誓ったのに。

 

 俺の誓いはその程度のものだったのかよ! 駄目だ! 考えろ! 考えることを止めた時点で俺は提督失格だ。

 

「廃棄物B……」

 

 廃棄物Bを胸に抱く雨雲姫ちゃん。廃棄物Bの未来を憂う表情と愛しそうに見つめる眼差し。

 

 俺は母親から早い段階で離れた。愛されなかった訳じゃない。どうしようもなかったんだ。雨雲姫ちゃんの表情はあの日、あの時の母親と同じだ。俺の未来を憂い、でもずっと愛していると言ってくれていたあの目だ。

 

 廃棄物Bを胸に抱く雨雲姫ちゃんは聖母像の様に背筋が凍る程美しかった。

 

 そうだ! 俺たちは提督と艦娘であると同時に家族であり親子なんだ!

 

 諦めてたまるか!

 

 俺のちっぽけなプライドなんてクソ食らえだ! 廃棄物Bの為なら俺はなんでもやってやる! 待ってろ廃棄物B!

 

「雨雲姫ちゃん! 先に戻ってて! 必ず! 必ずなんとかするから!」

 

 俺は制止する雨雲姫ちゃんの声を振り払って走った。一筋の可能性に賭けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 大本営のなんちゃらっていう部署。相当に偉い人がいる場所だ。そして俺に無駄な書類を押し付けた悪の巣窟。以前クソ妖精共が大暴れした場所だ。

 

「おっさん! いるか!?」

 

 クソ妖精共が暴れだした。雨雲姫ちゃんがここにいない以上、クソ妖精共(こいつら)を止められる者は誰もいない。俺にも出来ない。

 

 命令してもしなくても結果は同じだ。なんせここは俺への悪意が渦巻いている。

 

 俺が今からする事を雨雲姫ちゃんにだけは見て欲しくなかった。まだちっぽけなプライドがあるって言うのかよ。情けねぇ。

 

 飛び交う書類。何度も転倒する職員。ガタガタと動く机と椅子。明暗を繰り返す照明。がちゃんと割れる高そうな壺。いくらでも割ってくれ。そんな事今は気にしてる場合じゃない。

 

 志村の尻で指を重ねてぎゅるんぎゅるん高速回転するクソ妖精。今回ばかりは志村に出番はない。

 

「何事だ!」

 

 偉いさんが出てきた。

 

「おっさん!」

 

「またお前か!」

 

「おっさん! 頼むこの通りだ! 何でもする! 助けてくれ!」

 

 俺は頭を床に擦り付けて土下座した。人生で初めての土下座だ。作法なんてしらない。ただ首を落とされる覚悟だけはあった。

 

「ぬぅ、ここでは話も出来ん。来なさい」

 

 俺は立ち上がって、阿鼻叫喚の中偉いさんに続いた。

 

 応接室のソファー。俺は座ること無く、背筋を伸ばして床に正座した。

 

「何でもすると言ったな?」

 

「言った」

 

「そういう事は軽々しく言うものではない。お前自身の価値を軽くする。今後は控えろ」

 

 偉いさんは俺をじっと見た。俺の覚悟を見てるんだろうか? 存分に見てくれ。 望むなら裸になってもいい。

 

「話してもらおうか」

 

 かくかくしかじかうまうまですよ。何とかならないですかねぇ? 艦娘に迷惑をこれ以上かけられないし、もう頼れる人っていないんですよ。

 

 口下手な俺の要点を得ない説明を黙って聞いている偉いさん。

 

 これが俺の最後の手段だ。断られたらもうどうしようもない。後はやけになって、クソ妖精共を引き連れ、政府とやらにカチコミでもしてやろうか。

 

「ふむ。出来なくはない」

 

「出来るのか!?」

 

「最後まで聞け。要は艦娘だと認められればよいのだな?」

 

「その通りだ!」

 

 繰り返すが、艦娘は世間で絶大な人気を誇るが、驚くほど情報は公開されていない。吹雪さん達最初の五人以外では本当に僅かだ。大本営が出し渋りしていると思われている。大本営に人気がないのはこれが原因だ。

 

「政府の方針だ」

 

 おっさんは言う。

 

 大本営は提督を、政府は艦娘を。戦う機関ではない政府は大本営に委任し艦娘に深海棲艦と戦ってもらっている、という形をとっている。

 

 政府は旧大戦の反省を踏まえ、大本営の暴走を恐れて艦娘の所有権を法で縛った。艦娘は国家機密だ。艦娘をどんな手を使っても欲しがる国がいるからだ。安全保障の要、艦娘を手放すなどあり得ない。艦娘の情報が驚くほど公開されないのはこれが原因だ。

 

 政府からすれば大本営はだだの隠れ蓑だった。

 

 だが政府が法律で艦娘の所有を主張しようが艦娘には関係ない。政府の人間は艦娘を余りにも知らなさすぎた。提督を押さえている大本営が名を捨てて実をとった形だ。

 

「公式の艦娘は政府公認の艦娘だ。だがこれすら情報公開さていない。むしろ艦娘は大本営所属だと思われている」

 

 つまりどういう事だよ?

 

「大本営公認の非公式艦娘。情報公開のない内部的な処理だがな」

 

「それってもぐりの艦娘って事になるんじゃ?」

 

「大本営公認だ。どこに恥じる要素がある? 喜べ。二人目の艦娘は大本営公式第一号の艦娘だ」

 

 政府の紐がつかない艦娘。火力も装甲もペラッペラで戦力にもならない廃棄物Bだからこそ出来る裏技だ。

 

「維持費は出んぞ。そこまで甘えるな」

 

 いらねぇよ。最初から期待していない。

 

 大本営に所属する艦娘の規定はない。当たり前だ。今までいなかったんだから。政府の規定も適用されない。公式には存在しないからだ。演習も任務も参加する必要はない。これで廃棄物Bは安心して堂々と艦娘を名乗れる。大本営公認ですよってな。艦娘の皆さんには根回しをしとかないとな。

 

「情報管理部の方には私から話を通しておく」

 

 俺は頭を下げた。大本営はクソだがこのおっさんには頭が上がる気がしない。

 

 でも、頼んだのは俺だがなんでここまでしてくれるんだ? 訳のわからないままに提督になったド底辺の人間だぞ。

 

「お前には期待している。それだけだ」

 

 絶対に嘘だ! それだけは信じない!

 

 俺は立ち上がってもう一度深々と頭を下げた。

 

 さて帰るぞクソ妖精共。

 

 俺は阿鼻叫喚の中クソ妖精を引き連れてなんちゃらっていう部署を出た。

 

「言い忘れていたが」

 

 背中に届いた声に俺は振り返らずに答えた。

 

「分かってるよ。給料から差っ引いておいてくれ」

 

 向こう四ヶ月俺のタダ働きが決定した。安いもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、雨雲姫ちゃんと一緒に廃棄物Bをおっさんに紹介した。

 

 おっさんは

 

「ねぇ? マジ? これなの? これが艦娘? 大本営公式……これを?」

 

 と呟いていた。

 

 これとは失礼な。俺の二人目の艦娘だ。

 

 そういや廃棄物Bの事説明してなかったかも。終わりよければ綺麗にフィニッシュだ。

 

 

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