【完結】変これ、始まります   作:はのじ

11 / 24
11 技術革命

 書類を書き書き。あ、違った。これどうするんだっけ。消し消し。修正ペンはっと。おっとフォトフレームが倒れちゃた。

 

 俺はフォトフレームを立て直した。

 

 フォトフレームには廃棄物Bを胸に抱いて微笑む雨雲姫ちゃんが写っている。ピンク色のペンで漫画みたいに雲みたいな吹き出しがあって、廃棄物Bが

 

『パパ、頑張って』

 

 って言ってるみたいに書かれていた。

 

 雨雲姫ちゃんが用意したものだ。雨雲姫ちゃんは多才だなぁ。ほっこり。

 

 執務室の二七畳スペースだけじゃなく、死守しているつもりだった三畳の執務空間も徐々に侵食されている気がするが些細な事だ。

 

 廃棄物Bが来てから雨雲姫ちゃんの雰囲気がまた変わった。廃棄物Bが来て執務室に泊まって貰って色々と相談したあの日からだ。

 

 泊まったって言ってもえちえちはしてないよ! そんな事出来るはずない! 凄く可愛いパジャマに着替えて寝る気満々の雨雲姫ちゃんだったけど、相談する事は沢山あったからね。

 

 雨雲姫ちゃんは寝室で話をしようって強引に入ろうとしたけど、俺は火事場の馬鹿力を発揮して侵入を完璧に阻止した。だって寝室には女の人には見せられないお宝が埋蔵されているんだ。

 

 もし偶然何かの拍子に見つかってしまえば、本当は俺も(危険な狼)だったんだって雨雲姫ちゃんに意識されて微妙な空気になっちゃうかも知れない。そうなれば二人の関係はギクシャクする。提督としての威厳もだだ下がりだ。俺は男と提督の威厳を守りきった。

 

 雨雲姫ちゃん無防備過ぎるよ……吹雪さん達と同じで駆逐艦だから純粋過ぎて心配になる。俺以外の提督にほいほいついて行っちゃ駄目だからね。男はみんな狼なんだから。

 

 パジャマ姿が凄く可愛くて目を細めて話すとかしたくなかったから雨雲姫ちゃんには毛布をかけてあげて一杯お話した。

 

 教会がいいとか、指輪は無理をしなくてもいいとか、海の見える小さな家がいいとか、三人は欲しいとか。

 

 ははは。雨雲姫ちゃん、脱線してるよー。でもやっぱり女の子なんだね。俺はクソ妖精共がいるから結婚とか絶対に不可能だけど、雨雲姫ちゃんに将来の夢があって安心した。

 

 今度聞いてあげるから今は廃棄物Bの事を話そうね。

 

 廃棄物Bの食事は問題なかった。意外となんでも食べた。ごりごりと音を立てて雨雲姫ちゃんの炊いた白米を食べるのを見て、俺は心配するのを止めた。

 

 提督の仕事は書類との戦いだ。戦場で陣頭指揮は滅多にない。艦娘と深海棲艦の壮絶な戦いに人間なんてあっという間に木っ端微塵になるからだ。

 

 そして、じゃじゃーん!

 

 パソコンだ! プリンターもある!

 

 実は俺はパソコンは少し苦手だ。二本の人差し指でアルファベットを探しながらぽちぽちしか出来ない。

 

 多才な雨雲姫ちゃんは使えた。物凄い速度でキーボードがカタカタなっていた。教えて貰ったけど、偶然な事に耳に何度も雨雲姫ちゃんの熱い吐息がかかるから、今は独学で勉強中だ。

 

 最初にしたことは当然えちえちなサイトを見ることだ。でも繋がらなかった。俺はクソ大本営に抗議した。猛抗議だ! どういうことだごらぁ!

 

 仕様らしい。閉じたローカルネット環境だって説明された。日本語で説明しろ!

 

 なんでも艦娘を狙う海外からの攻撃が酷くて、最初から回線を物理的に遮断しているらしい。パソコンを使うモチベーションがだだ下がった。

 

 でも便利なんだこれ。今まで定規で線を引いてたりしたけど、データベースに繋げると申請書とかの書類のフォーマットが俺のパソコン届く。それを印刷したら効率がババンと上がった。

 

 やり方は雨雲姫ちゃんが教えてくれた。吐息が……はう。

 

 これもう紙いらないじゃん! 仕組みはわからないけどデジタルをあっちのパソコンからこっちのパソコンに届けるだけでいいじゃん! しこしこ書かなくてもよくなるじゃん!

 

 パソコン革命だ! 俺たちは革新的な技術を教えてやる為、クソ大本営のなんたらかんたらっていう艦娘の情報を管理する部署に突撃した。

 

 偉いさんが出てきた。

 

 とても貴重なご意見ありがとうございます。そうですね。この技術革新が進めば紙の消費は大幅に減少し木材等の国内の貴重な自然資源の保護に繋がるでしょう。提督の慧眼に感服致しました。ですが現在我が国は艦娘を狙う諸外国から執拗なサイバー攻撃を受けております。それは大本営と鎮守府も同様です。これを防ぐため大本営と鎮守府は独自のプロトコルでイントラネットをゼロから構築し物理的にインターネットから遮断しております。しかしながらご存知の通りIT技術は内部からの破壊工作に脆弱です。一元管理することで短時間に根こそぎ情報を奪われてしまう可能性が非常に高いのです。勿論様々な対策はしております。ですが何事にも完璧という言葉は存在致しません。情報漏えいを防ぐ為には少々手間はかかりますが運営にあたって紙ベースでの書類の決済が有意であると我々は判断致しました。提督様方にはご不便ご迷惑をお掛けしますが何卒ご理解賜りますよう宜しくお願い致します。

 

 俺たちはなんたらかんたらっていう部署から後方に全力で前進した。

 

 執務室に戻ってから偉いさんの古代魔法文字を雨雲姫ちゃんが解読してくれた。

 

 防諜の為なんだって。パソコンも独自仕様で鎮守府でしか使えない。

 

 このクソ大本営! って思わなくもないけど艦娘を護る為なら仕方ない。俺は日本を護るために提督になったのだ。よくわからないけど仕方ない。

 

 こうして俺は今日も書類を書き書き。パソコンをぽちぽち。まだまだ出来る事は限られているけど少しづつ増えてきている。

 

 提督になってから一ヶ月と少し、俺はこうして日々成長している。

 

 こう見えても色々と頑張っているんだぞ。

 

 






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。