艦娘は無敵じゃない。補給なしで連戦を続けるとあっさり負けてしまうことがある。例え戦艦の金剛さんでも燃料・弾薬が枯渇すれば駆逐艦イ級相手でも、成す術もなく沈んでしまう。 強さは関係ない。移動も出来ず攻撃も出来ないまま袋叩きだ。だから出撃はしっかりと計画を立てて、燃料・弾薬の消費を管理する必要がある。山と一緒で、まだ行けるはもう危ないって事だ。
大規模作戦とかで深海棲艦が潜む海域の奥深くに進む場合は補給艦が必須になる。速吸さんとか神威さんじゃなくて国防軍が所有する補給艦だ。
艦娘が制海権を奪取する。国防軍が橋頭堡を構築する。艦娘と国防軍が補給ラインを確保する。
全部が全部艦娘におんぶに抱っこじゃない。艦娘は数が限られている。いくら艦娘の体が頑強でも全部任せるとかありえない。忙し過ぎて体がいくつあっても足りなくなっちゃうし。人間が出来る事は人間がするのが当然だ。艦娘は艦娘にしか出来ない事に専念してもらうのが一番だからね。
作戦中は比較的安全な後方で作戦司令部を作って提督が乗り込んだりする。イージス艦はそんな時に使われる。護衛艦や補給艦、調査船なんかで船団を作って艦娘を支援するんだ。
ただ、勢いというか空気というか流れというか、ベテランの艦娘の勘は馬鹿に出来なくて、例え燃料・弾薬が少なくなっても賭けに出るた方がいいって時があるらしい。こんな時は帰還が予定時刻を大幅に超えるから、提督が頭皮にダメージを受けてしまう一番の理由がこれだ。
「つまり雨雲姫ちゃんの燃料・弾薬がどれくらい残ってるのか、俺、気になります!」
艦娘にローテーションを組んでもらって護衛艦を護衛してもらっている。二人が護衛して二人が休息、一人が待機で回している。今話をしているのは待機中の時雨さんだ。
テンションの高い艦娘が多い中、時雨さんは凄く落ち着いた話し方をする艦娘だ。見た目は幼いのにこの話し方で大人びてると感じるんだけど、僕っ子だからそれが子供らしさを強調して意味が分からなくなりそうだ。少なくとも隼鷹さんは時雨さんを見習うべきだ。せっかく美人なのに。
時雨さんは最初から最後まで雨雲姫ちゃんと交戦していたし、雪風さんに並ぶ歴戦だ。ネジ一本見ただけでミサイルのスペックを予測できる変態が人間にもいるらしいし、僅かな情報で色々推測できるんじゃないだろうか。
「ん……難しいね」
難しい? どういうことだろ。
「深海棲艦が現れて二十三年が経過しているけど分かっている事は少ないんだ。例えば深海棲艦も燃料・弾薬を消費するけど、どこで、どうやって補給しているのか今でも誰も知らないんだ」
例え同じ量の燃料でも燃費が違うかもしれない。弾薬の製造は艦娘みたいに妖精さんがしてるんだろうか?
そういえば艦娘も謎が多い。体の基本構造は人間と殆ど同じなのに、水面に浮いたり。艤装を自由に展開出来たり、力が強かったり、艦娘工廠で建造出来たり……謎過ぎる。
「生化学的な研究は進んでいるんだけど……深海棲艦の胃から何が出てきたか知りたいかい?」
俺はブンブンと首を振った。脳裏に嫌なイメージが浮かんだ。あれじゃありませんように。
何を食べているとか別にしても深海棲艦のDNA構成が人間と同じだとか言われたら凹む自信がある。人間同士で戦争してるって事になるからな。そういえば、昔テレビで『深海棲艦の謎に迫る』って番組してたけど、全部お茶濁して何も分からずじまいだった。
「艦娘に当てはめたとしても、燃料と弾薬が切れているのは期待しない方がいいと思う」
つまり燃料が切れて、近くでぷかぷか動けなくなっているパターンはないのか。
現在進路は完全にクソ妖精共に任せている。時雨さんに確認したらずっと直進して一度も航路を変えてないそうだ。クソ妖精共、マジ大丈夫か? 迷ってないよな?
俺があーでもないこーでもないと考えたてたら、お互い無言になって少し気まずい空気になった。こういうの天使が通るっていうんだっけ。時雨さんを見たら少し俯いていた。
時雨さんが悔しそうに呟いた。
「……彼女が深海棲艦になったのは僕のせいかもしれない……」
やっぱり気にしてたのか。元を辿ればクソ妖精共が原因だと俺は思っている。
「僕が村雨に似てるって彼女に言ったんだ。その後様子が変わって……」
村雨ちゃんに似てるねーって、以前から他の艦娘に言われた事はある。俺はその時、村雨さんが誰か分かってなかったけど。
「……僕が白露型なのが原因かもしれない……」
うちの鎮守府には白露型の江風さんがいる。本人は改白露型って名乗ってるけど。雨雲姫ちゃんとも仲がよかったはずだ。
原因はクソ妖精共で、偶然いくつもの条件が重なって最終的なトリガーが時雨さんだったのかもしれない。でもそれは偶然時雨さんだったって事で、いつ起こってもおかしくなかったんじゃないか。きっとそうだ。
「……本当にごめん……」
あわわわわ! 艦娘に謝られるなんてとんでもない話ですぞ!
「あのっ! 時雨さんは何も悪くありません! 悪いのはクソ妖精共で、江風さんは改白露型で、村雨さんが雨雲姫ちゃんに似てて、隼鷹さんはヒャハーで俺何度も未成年だって言ってるのに!」
俺はしどろもどろで時雨さんは悪くないことを説明した。口下手だからうまく伝わる自信がないけど、とにかく時雨さんは何も悪くないって何度も言った気がする。
「……ありがとう」
「なんか伝わってない気がするけど、逆に良かったと思います。早めに分かったんだから。もっと後で作戦行動中だったら目も当てられないし。それに俺も雨雲姫ちゃんも凄く幸せですよ」
「え?」
「だっていっぱい迷惑かけたのに、こんなにたくさんの艦娘に助けてもらって、本気で心配されて。だからちゃんと連れて帰って二人揃ってみんなに、ごめんなさいありがとうってお礼言わないといけないから」
問題はお礼の折り詰めセットを用意するお金がないということだ。今回の被害金額は一体いくらになったのか。もはや俺の給料差し押さえレベルでは済まないような。不可抗力ですって言い訳が通ればワンチャン。
「ふふ、給料が出ないとかそんな提督いないよ。面白いこと言うね。でもありがとう」
あ、冗談だと思われている。そうか、時雨さんは任務でずっと鎮守府にいなかったから、俺の話知らないのか。えぇ、今六ヶ月+αなんですよ。このαはどれくらいになると思います?
本気で時雨さんは悪くないですよって気持ちが伝わったのか表情が明るくなった。
この後時雨さんにたくさん話を聞いた。自分の提督の事、任務での失敗談、轟沈しそうになった時の話、名前の意味、深海棲艦のボスを一人で引き受けた話、バレンタインのチョコは毎年欠かさず手作りしている事、雨の日が好きな事、色々、色々。
そうだ。帰りは雨雲姫ちゃんも時雨さんといっぱい話をすればいい。ためになる話が満載だ。
俺達は護衛のシフトが交代するまで話をしていた。幸運艦が二人もいるお陰か、道中で深海棲艦と接敵することはなかった。
翌日の正午、雨雲姫ちゃんを発見した。
■
深海棲艦が単独で行動する事は滅多にない。謎だらけの深海棲艦だけど仲間の概念がある事は確かだ。連携した戦術を取ったり、かばい合う行動も確認されている。ヒエラルキーを持っているのは確定的に明らかで、群れの最上位がかばわれることが多いそうだ。意思の疎通はどうしているのか、駆逐艦イ級は「イキュー イキュー」叫んでいるか。まだまだ分からない事は多い。
深海棲艦は群れで行動する。これだけを見て、とある西欧の動物学者が狼の生態に似ていると言った事がある。概ね一〇頭以下で社会的な群れを形成して縄張りを維持する。群れを率いるリーダーがいて連携して狩りをする。
表面的な部分だけを見て似ているって言われてもどうかなとは思う。狼は深海棲艦みたいにでデタラメなフォルムをしていないし、深海棲艦は問答無用で人間を襲う。そもそも狼に対するイメージは西欧と日本では大きく違っている。
西欧だと家畜を襲ったりすることから、害獣のイメージが定着している。吸血鬼の眷属だったり、童話では煮殺されたりと悪の動物だ。実はこれ、とある一神教が原因だったりする。偉い人が言ったんだ。悪の化身だーって。天文学者ガリレオは死後三〇〇年で破門を解かれたけど、狼はまだ謝罪を受けていない。がんばれ動物愛護団体。もっと熱くなれよ!
日本では神様だったり神様のお使いだったりした。狼=おおかみ=大神、と昔の人は言葉の使い方が面白い。日本の狼は人を襲う事って殆どなかったんだって。でも文明開化でちょんまげぴょんしてから西欧文化の影響で害獣指定されて絶滅しちゃった。そのせいで鹿とか猪が増えて、自然破壊が大変だったそうだ。
最近流行のウェブ小説とかで狼が悪者にされているのは西欧文化の影響が大きいんだと思う。狼が家畜を襲うのは森が切り開かれて生活圏を一方的に奪われたからだ。日本は自然豊かだったから人間を襲うどころか、山で迷った人を里まで送ったって記録が残っている。これはさすがにどうかと思うんだけど本当のところは縄張りから出るまで見張ってたんじゃないかなぁって。
実際の狼は一夫一妻で家族思いの誇り高い動物だって事が分かっている。高い社会性を持っていて、狩の名人で天性のランナーだ。ライオンみたいに自分が産んだ子を食い殺したりなんかしない。狼に転生してもハーレムは作れないから注意だ。
足柄さんが良く使う飢えた狼ってフレーズは、艦時代に皮肉で言われたそうだけど、実際には狼の生態を知っていて使っているのかもしれない。だって足柄さんは誇り高い艦娘だからね。
雪風さんが雨雲姫ちゃんを発見して、俺は艦橋でその連絡を受けた。今、俺たちは艦橋でがん首そろえて相談中だ。
雨雲姫ちゃんは群れを構成している。この場合は艦隊を編成している言った方がいいんだろうか。
雨雲姫ちゃんが集めたのか、自然と集まったのかとか、どうやって集まったのかとかは分からない。だって誰も分かんないんだもん。
「雨雲姫ちゃんが旗艦ですね! 他の深海棲艦に指示を出してます!」
雪風さんが双眼鏡で覗きながら教えてくれた。双眼鏡が艤装なのかいつか聞いてみたい。というかこの距離だと双眼鏡使わずとも艦娘ならはっきり見えるはずだ。雪風さん、水平線の彼方まで見れるでしょ。俺には一〇キロ以上先にいる深海棲艦は全く見えない。
艦橋の高さの都合上俺たちは十数キロ先まで見える。雨雲姫ちゃん達はせいぜい五、六キロだ。俺たちは雨雲姫ちゃんの艦隊が丸見えで、雨雲姫ちゃんは艦橋とにょきっと出ているアンテナが見えてるはずだ。
「戦艦棲姫が二、レ級が二、タ級が一。えれぇ重量編成だな。ちょっとした海域深部並じゃねぇか」
「でもバランス悪い艦隊ね。私達もそうだけど」
「僕達が来るのを待ってたみたいな動きだ」
「Hey、提督ぅー、余程じゃない限り命令に従うヨー」
正午。太陽は真上だ。遮蔽物が一切ない海上。あえていえばイージス艦が遮蔽物となる。紙装甲だけど。
深海棲艦の艦隊は整然と並んでいるらしい。雨雲姫ちゃんを旗艦にして重量編成。天龍さんが名前を上げた深海棲艦を俺は資料でしか見たことがない。でも全ての深海棲艦が強敵だと分かる。雨雲姫ちゃんを除いて全て戦艦クラスだ。そして雨雲姫ちゃんの能力は下手な戦艦を上回っている。
時雨さんは俺達が来るのを待っていたみたいな動きだと判断したけど、ちょっと違う。みたいじゃない。待ってたんだ。雨雲姫ちゃんは俺が追っているのを知っていた。俺が雨雲姫ちゃんの存在を感じるように、雨雲姫ちゃんも俺の接近を感じていた。なら深海棲艦として迎え撃たなければいけない。深海棲艦がうじゃうじゃいるもっと奥の海域じゃなく、他の深海棲艦に邪魔されないこの海域で。
もっと奥だと俺に会えないかもしれないもんな。
「無理矢理にでも隼鷹連れてくりゃ良かったな」
天龍さん違います。その場合、雨雲姫ちゃんは空母を入れた編成にしてたはず。雨雲姫ちゃんは俺らに合わせてくれたんです。
「で、提督。五対六だけど、作戦あるのかしら?」
「え? 六対六ですよ?」
やだなぁ足柄さん。俺を勘定に入れ忘れてますよ。
「え?」
「エ?」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
余りのえ? の多さに俺もえ? って驚いて言い返してしまった。何か重大な共通認識の齟齬を感じる。
「おい、ちょっと待ってろ」
天龍さんが艦橋から出て行って少したってから甲板に姿を現して船首に立った。
「タイムだ! もうちょっと待ってろ!」
雨雲姫ちゃんがいるらしき方向に、手でTの字を作ってメッセンジャーガールになった。かなり混乱しているようだ。本気で伝えるつもりなら艦橋でしないと。船首だと高さの都合上、雨雲姫ちゃんからは見えないし、さすがにこの距離だと聞こえないはずだ。聞こえないよね?
天龍さんは肩をいからせながら甲板をのしのしと歩いて暫くして艦橋に戻ってきた。
天龍さんがゴミを見るような目つきで俺を見る。
「この船、特殊な装甲追加してんのか?」
声のトーンが低い。低いのに冷たい声だ。
「紙装甲です」
「武装は?」
「ついてません」
「本気で言ってるのか?」
「もちろん」
「ちょっと待ってろ」
天龍さんは他の四人の艦娘を集めて円陣を組んで何やら相談しはじめた。はっきり聞こえないけど、バカとか、あそこまでとか、本物のとか漏れ聞こえる。
「えっと……提督、僕達は五対六で戦うつもりだったんだ。もちろん五の中に提督は入っていないよ? 厳しい戦いになるけど、最後は雨雲姫さんだけを残して動けなくなるまで削ってって考えていたんだけど……」
なにそれ、怖い。雨雲姫ちゃんを全員でタコ殴りとか。俺そんな事お願いした覚えないんだけど。
俺は発言者の時雨さんを見て金剛さんを見た。金剛さんは頷いて同じ意見だとアピールした。
足柄さんがコクリ。雪風さんもコクリ。天龍さんもコクリ。俺はマイノリティだった。どうやら最初からボタンを掛け間違えていたみたいだ。ちゃんと説明しなければ。雨雲姫ちゃん相手だとふわっとした感じで通じてたから全然気にしてなかった(ドヤァ
「俺は雨雲姫ちゃんを迎えに来たんであって、戦いに来たわけじゃないんです。道中深海棲艦が出るかもしれないから護衛をお願いしました。雨雲姫ちゃんが艦隊組んでくるって可能性すっかり抜けてましたけど。雨雲姫ちゃんは俺に任せて、皆さんは他の深海棲艦を押さえていて欲しいです」
「俺に任せて……だと?」
天龍さんが食いついた。あれ? 俺、なんか変な事いった?
「いいか! 良く聞け!
天龍さんが雨雲姫ちゃんがいるらしき方向を指差した。
「俺ら八人がかりで逃げられたんだよ!
天龍さんを怒らせてしまった。そんなつもりなかったのに。でもちゃんと思っている事伝えないと。
「死ぬつもりはないですし」
「死ぬだろうが! こうボカーンと! 一発で沈むぞこんな船!! 木っ端微塵になるわ!」
「だって雨雲姫ちゃん撃たないし」
「撃たれただろう! 空飛んだじゃねぇか! ぴゅーんって! 林にいた時も撃っただろ!」
「撃たれてないですよ。雨雲姫ちゃんが撃ったのは地面と海ですし」
俺が空を飛んだのは、これから戦場となる場所から俺を逃がす為だ。ちょっと強引だったけど。林にいた時もあのままだと俺が危ないと思ったから水遁の術で逃げたんだ。ちょっと強引だったけど。
「あっ」
雪風さんが何か思い出したみたいな顔をした。
「そんなの偶然かもしんねぇだろ!? 何を根拠にそんなに自信満々なんだよ!?」
「だって俺は雨雲姫ちゃんの提督だから」
「ぐう」
雨雲姫ちゃんが深海棲艦になったからって、俺が雨雲姫ちゃんの提督だって事は変わらない。彼女が俺を傷つけることは絶対にない。頭の傷は彼女にとっての不幸な事故だ。もしおれが彼女にとって取るに足らない人間だったなら、存在すら認識されずに最初の戦闘に巻き込まれて肉片になっていたはずだ。
「雨雲姫ちゃんは今でも俺の指示を聞いてくれてます。とっさに艦娘同士で殺し殺し合わないでって叫んだら、苦手な肉弾戦してたでしょ?」
「あっ」
時雨さんが思わずといった感じで声を出した。
あの時、雨雲姫ちゃんの艤装は動いていた。でも時雨さんを撃つ事はなかった。肉弾戦は苦手だから結果的に時雨さんと衝突になった。天龍さんとの勝負はスペック差でごり押しだった。天龍さんの間も相当悪かった。天龍さん相当慌ててたし。冷静だったらあんなにきれいに空を飛ばなかったはずだ。
「……それでも、流れ弾が飛んでいくかも知れねぇ。こんな船、かすっただけで簡単に穴あくぞ……」
天龍さんにさっきまでの勢いがなくなった。俺はただ説得しようとしてるだけで、意気消沈させるつもりなんてないんだ。気を悪くさせたなら凄く不本意だ。折り詰めセットで許して貰えるだろうか。ひもにはなれないしどうすればいいんだ。
それでも天龍さんの問題提起は俺にとって愚問なんだ。俺が分かるのに艦娘の天龍さんが分からないってのが不思議だ。いや、まてよ。これ違うぞ。きゅぴーんと来たぞ。天龍さんは俺を成長させようとしてずっと頑なな態度を演じてくれてたんだ。おれはずっと天龍さんにOJTを受けていたんだ。憎まれ役まで演じてこんな自然に教育を差し込むなんて! やっぱり艦娘って女神様だ!
「俺は艦娘のみんなを信じてます。だってこんな豪華なメンバーが揃ってるんですよ。オールスターじゃないですか。流れ弾なんて飛んでくる筈ありません」
この答えで合ってますよね! 天龍さん!! でもこれは俺の本心ですよ! 提督が艦娘を信じるのは当たり前なんだから!
「もう知らねぇ! 好きにしろ!!」
「ありがとうございます!」
勉強させてもらいました!! ヒュー!! 提督を育てるの上手過ぎでしょう!!
でも天龍さんの様子を見る限りぎりぎり及第点ってところか。提督って難しいぜ。クソ大本営に天龍さんを見習って欲しいよ全く。
「あら? もういくの? 顔が赤いわよ?」
「うるせぇ」
天龍さんは艦橋を出て行った。天龍さんから了承をもらった。雪風さんと時雨さんも大丈夫そうだ。後は金剛さんと足柄さんだけど。
「私は今も反対よ? でも提督にここまで信頼されると応えなきゃいけないのが艦娘なのよねぇ」
足柄さんは渋々といった様子だけど了承してくれた。信頼するのは簡単だ。自分の主観なんだから。でも信頼を得ることは難しい。お互い信頼し合うのはもっと難しい。なんせ俺は実績なんてないんだ。自分の提督じゃないのに応えてくれる足柄さんもやっぱり女神様だ。
残すは金剛さん一人だ。金剛さんは腕を組んで瞼を閉じて少々難しい顔をしている。小さくため息をついて、がくんとうなだれ、首を持ち直すとまた難しい顔。最後にもひとつため息ひとつ。はぁぁ、って出たため息の音が仕方ないって聞こえた。
金剛さんは俺の背中をぽんと軽く叩いて、
「背中は金剛に任せるネ」
それまでの難しい顔から一転、綺麗な笑顔を見せて艦橋から出て行った。
「それじゃ雪風達も行ってきます! でも、無茶しちゃ駄目ですよ!」
雪風さんと時雨さんが艦橋から消えて俺一人になった。俺は艦長席に深く腰を下ろした。
艦娘たちには聞かれなかったけど、実は最大の問題が残っていた。正直解決方法が見つからない。世界中で誰も分からない問題だ。正直勢いだけでここまで来た感は否めない。でも鎮守府でじっとしているより、拙速だけど雨雲姫ちゃんに会いに行く方がずっといい。
艦橋の窓の向こう。俺には見えないけど、艦娘には雨雲姫ちゃんが見えてた。つまり雨雲姫ちゃんも艦橋の俺たちが見えてた。今、俺を見てくれているのかな。
「クソ妖精共、雨雲姫ちゃん以外、目もくれるなよ」
護衛艦がゆっくりと動き出した。天龍さんが先行して海の上を滑って行くのが見えた。
俺と雨雲姫ちゃんの、実弾が飛び交う過去最大の喧嘩が始まろうとしていた。