【完結】変これ、始まります   作:はのじ

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02 初めての建造

「テートクー、ワタシはテートクの為に頑張ったヨー。ご褒美が欲しいネー」

 

 戦艦金剛。

 

 大日本帝国がイギリスの先進的建艦技術を学ぶべくヴィッカース社に発注した旧日本海軍初の超弩級巡洋高速戦艦だ。太平洋戦争でも東へ西への大活躍。

 

 一説では旧式化した為、惜しげもなく戦線に投入されたというが、旧大戦で日本の屋台骨を支え続けた事実は変わらない。

 

 その金剛さんが目の前にいた。

 

 ふ、ふつくしい……

 

 吹雪さん達が言っていた事は嘘じゃなかった。

 

 黄金のバランスだと断言出来る美しいプロポーション。整った容姿に甘い声。白い肌は傷一つ、染みひとつない。

 

 巫女服みたいな少し肌露出の多い装甲艤装を身にまとい、その姿は男性の視線を否が応でも惹き付ける。何より大きく開いた肩口から見える脇がたまらない。

 

 金剛さんは提督にしなだれその耳元で囁く。

 

 美しい上に色っぽい。所作の一つ一つすら洗練されている。吹雪さん達にはない大人の色気だ!

 

 金剛さんは提督になにか囁かれ顔を真っ赤にした。そのまま手を繋いだ二人が俺の視界からゆっくりと消えていった。

 

 悔しいことに金剛さんは俺の旗下にある艦娘ではない。既に別の提督の指揮下に収まっていた。

 

 二人はまるで恋人の様に見えた。二人のパーソナルスペースはまるで肉体関係のある男女のそれだった。

 

 ぐぎぎぎぎぎ。

 

 悔しくなんてないぞ。俺も艦娘の提督になるのだ。しかも最低保証は五人と来ている。艦娘の美しさに外れはない。吹雪さん達もそう言ってる。

 

 美しい五人の艦娘が俺の耳元で何かを囁き、俺も小さく囁き返す。艦娘達は顔を赤くして、やがて俺たち六人はお互いに頷き合い、自然と男女和合のくんずほぐれつレッツパーティ。

 

 朝の太陽が黄色いぜ!

 

 いや! 艦娘をそんな目で見てはいけない! 艦娘は恩人だ! 大恩人だ! 日本のため世界のため今日も深海棲艦と戦っている。俺は彼女たちを支えるため粉骨砕身頑張ると決意した。

 

 下心なんてもっての外だ! 男のドロドロとした視線で見ることすら許される行為じゃない!

 

 だからさっきの金剛さんの提督は氏ね! 氏んでしまうがいい!

 

 でも、もしかしたら何かの間違いで自然と艦娘達とそういう関係になってしまうかも知れない。

 

 でも俺はストイックに言うんだ。

 

『駄目だ。俺たちの手は深海棲艦と戦う為だけにあるんだ。例えお互いに心から好き合っているとしても、お互いの体をえちえちが目的でいかがわしい手付きで撫で撫でまさぐり合う手ではないんだ』

 

 って。でも艦娘達は言うんだ。

 

『ちゅきちゅき。抱いてー』

 

 って。ちゅきなら仕方ない。ちゅきちゅきならもう許されるべきだ。

 

 いや許されてはいけない。艦娘をえちえちな対象と見てはいけないんだ。どんなに美しくて可愛くても。

 

 俺はどうすればいいんだぁ!!!

 

「こ、こちらです。おうふ!!」

 

 お尻を妖精さんに蹴られながらも職務に忠実な鎮守府所属の軍曹。

 

 げしげしと妖精さんに蹴られる度に「おうふ、おうふ」とお尻を押さえている。

 

 鎮守府に在籍する軍人には妖精さんの存在は公開されている。艦娘がいるのだ。見えなくても軍務に付く上で妖精さんの情報は必須だ。妖精さんは性悪だ。存在を隠すこと自体が不可能なのだから、職務を遂行する上で、いたずらから身を護る為に情報公開は必須だろう。

 

 俺は性悪妖精さんを止めない。止めても止まらないからだ。俺の言うことなんて聞きやしねぇ。

 

 俺は、おうふ、おうふと悲鳴を上げる軍曹に案内されて艦娘工廠に向かう途中だ。

 

 提督は既存の艦娘を旗下に収める事はない。新たに建造された艦娘を旗下に収めるんだ。

 

 驚くことに吹雪さん、叢雲さん、漣さん、電さん、五月雨さん以外の艦娘は全員艦娘工廠で建造された艦娘だった。

 

 吹雪さん、叢雲さん、漣さん、電さん、五月雨さん達五人は自然顕現し、それ以外の艦娘は提督立会の下、建造されている。

 

 つまりさっきの金剛さんも提督が立ち会って建造されたって事になる。

 

 提督は艦娘に無条件に好意を持たれる事は既に言った。

 

 つまり刷り込みか? 刷り込みなのか?

 

 建造直後の素っ裸の艦娘。そしてそこに立ち会う俺。艦娘はゆっくりと目覚め俺という存在を知る。視線が絡み合う俺と艦娘。

 

『ちゅきちゅき。抱いてー』

 

 おっとお嬢さん。皆が見ているよ。

 

 俺は第一種軍装の上着を脱いで艦娘にかける。潤んだ瞳で俺を見上げる艦娘。頬は真っ赤に染まっている。やがて一つに重なる影。

 

 続きはウェブで!

 

 何をしても許されるのか? 許されてしまうのか!? いや駄目だ! 沈まれ俺の下半身! 艦娘をそんな目で見てはいけないのだ!

 

 艦娘は恩人! 艦娘は恩人! 艦娘は恩人! 艦娘は恩人!

 

 よし。落ち着いた。少し前かがみになるのは仕方がない。男の子だもの。

 

 艦娘工廠はまだか。まだなのか!? 軍曹! まだかぁぁぁ!!!

 

「おうふ!! おうふ!!」

 

 俺は妖精さんに蹴られる軍曹に続いて早歩きで艦娘工廠に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘の建造は軍事機密だ。つまり艦娘工廠はまるごと軍事機密に抵触する。案内してくれた軍曹も艦娘工廠には入れない。

 

 艦娘工廠に入れるのは、大本営でも本当に一部の偉い人、提督、艦娘、そして妖精さんだけだ。

 

 良かった。ちゅきちゅき言われるのを見られる心配はなかった。

 

 俺は逸る気持ちを抑えて奥にどんどん進む。

 

 あちらこちらで忙しそうに動く艦娘工廠所属と思わしき妖精さんが見えた。この性悪共め。こんなにいるのか!

 

 何をされるか分からない。俺は妖精さん達を無視してどんどん奥に進む。

 

 妖精さん達は俺を興味深そうに見るだけで手を出してこない。今の内だ。そうして進むと綺麗な桃色が見えた。

 

 明石と名乗った彼女は艦娘だった。

 

 戦う艦娘ではない。工作船だ。

 

 豊かで綺麗な桃色の髪を一部卑弥呼様スタイルで纏めている。

 

 ふ、ふつくしい……

 

 水色のシャツの上にセーラー服タイプの装甲艤装。しかし下半身は直視出来ない。駄目だ! 艦娘をそんな目で見てはいけない! 例えスケベスカートでお尻の半分が見えていたとしてもだ!

 

 艦娘は恩人! 艦娘は恩人! 艦娘は恩人! 艦娘は恩人!

 

 よし!

 

 やっぱり駄目だ! エロい!

 

 俺は薄目で視界をぼやかすことで誤魔化すことに成功した。

 

「どうしたんです? 目を細めて?」

 

 何でもありません。お気になさらずに。

 

「新しい提督ですね! 聞いていますよ! 明石に全てお任せを!」

 

 屈託のない笑顔が心苦しい。そんな眩しい笑顔で俺を見ないで下さい。汚れた俺を見ないで。

 

「提督には今から艦娘を建造してもらいます。と言っても資源を用意して立ち会ってもらうだけです」

 

 特に難しい事はないようだ。俺は本当にただ立ち会うだけ。

 

 今日は体の負担の事を考慮して建造は一人だけになるそうだ。負担とか初めて聞いたが、精神的に疲れる事があるらしい。

 

 エナジードレインでもされるのか? それが刷り込みに関係しているのか? いくらでもチューチューしてくれ。

 

「どんな子が来るんでしょうね? 楽しみですね!」

 

 と言っても建造出来るのは今世界にいない艦娘だ。既に建造されている艦娘は建造出来ないらしい。

 

 詳しくない俺は今いない艦娘が誰かは分からない。明石さんは当然把握しているだろう。

 

 どんな艦娘が来てくれたとしても俺は全身全霊で艦娘を支える気満々だ。俺が艦娘に出来る恩返しはそれくらいしかない。

 

 結果ちゅきちゅき言われても仕方ない。仕方がない!

 

「そこに立って下さいね。あ、動かないで」

 

 明石さんが最低限の注意事項を指示する。何でも言って下さい。動くなと言われれば一週間でもこのままでいます。

 

「冗談が下手ですねー。直に終わりますから」

 

 明石さんは謎のパネルのスイッチをポチポチ押している。その周りでは艦娘工廠所属の妖精さん達が忙しそうに動き回り、資源と思わしき物体を運んでいる。

 

 大丈夫なのか? あいつらがまともに働くとは到底思えない。

 

「妖精さん可愛いでしょ? みんなとてもいい子なんですよ。あ、提督はご存知でしたね。小さい頃から妖精さん達と一緒だったんだから。それも五人も」

 

 何を言われたか理解出来なかった。

 

 可愛い? いい子? 何を言ってるの明石さん。

 

「この子達がいるから私も大助かりなんですよ。艦娘の艤装もこの子達がいないと動かないですし。うん可愛い!」

 

 薄目を解いて明石さんを見てもその表情は嘘を言っている様には見えない。愛しそうに妖精さんを見ているとしか思えない。

 

 そしてスカートがフラフラ。お尻がちらちら。

 

 艦娘は恩人! 艦娘は恩人! 艦娘は恩人! 艦娘は恩人!

 

「よし。準備完了。あとはこのボタンを押すだけですよ」

 

 そうこうしている内に準備が完了したらしい。俺は軽く混乱中だ。妖精さんがいい子だとはとても思えないからだ。

 

「あ、一つ言い忘れてましたけど、建造される艦娘は提督に付いている妖精さんの性質が反映されますから。あ、勿論提督はご存知ですよね。てへ」

 

 え? ちょっと待って! 今とても大事な事を言った!

 

 とんでもない事言ったよね!? そんなの初めて聞いたんですけど!?

 

「妖精さんはみんないい子だから心配無用ですよ。それじゃぽちっとな」

 

 明石さんの謎の信頼が怖い! 明石さん俺に憑いてるクソ妖精共知らないでしょ!?

 

 待って、まだそのボタン押さないで! 押しちゃ駄目! 駄目ったら駄目!!

 

 押しちゃらめぇぇぇ!!!

 

 クソ大本営! そんな大事な事ちゃんと教えろよ! OJTにも程があるだろうが!

 

 俺の混乱を他所に艦娘建造ドッグはまばゆいばかりの光を放った。

 

 光は直に収まり、ドッグの奥に女性らしき姿が見えた。

 

 艦娘だ。俺が指揮する艦娘だ。

 

「成功ですね! 誰だろうなぁ」

 

 楽しそうな明石さんの声。

 

「――――」

 

 建造されたばかりの艦娘が口を開いた。

 

 果たしてこの艦娘の名前は。

 

 混乱と期待。果たして俺の最初の艦娘は一体誰なのか!?

 


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