「ご主人様、クリスマスも近い事ですし、この漣謹製のクリスマスツリーをここに飾りましょうよ。ねぇねぇ、いいでしょ? コレ」
寝不足ですっきりしない頭を上げると、独特なオーナメントでびっしり飾られたクリスマスツリーらしきものを抱えた漣が立っていた。褒めて褒めてと言わんばかりの楽しげな様子は見ていてささくれ立った気持ちが和らぐものの謎の物体含めて、この執務室に物を増やすつもりはない。
「却下」
俺は漣の提案を二文字で切り捨て、書類の山を切り崩そうとジェンガみたいに飛び出している書類を無理やり引いた途端に、物理的に山が崩れてしまった。もともと枯渇しかけていたやる気メーターがゼロを通り越してマイナスに突入した。
「マジ無理。寝る」
「ダメですよ。今日中に提出しないとローテーションに穴があいちゃいます。さぼっちゃうとぶっ飛ばしますよ」
俺は執務机をバン! バン! と両手で叩いた!
「じゃあ少しは手伝えよ! 艦娘六人分つっても、実質、提督二十人分の仕事なんか一人で無理だろ!!」
「お手伝いしたいのは山々なのですがー、漣はこの後出撃が決まっておりましてー」
「それじゃ誰でもいいから呼んでくれ。あ、訂正。五月雨以外で」
「五月雨をご指名ですね。畏まりました。ご主人様」
「もうやる気ゲージ切れてるんだからマジ勘弁してー」
「そこでこのツリーでの出番ですよ。今ならなんと! このツリーを執務室に置くだけで、電ちゃんがお手伝いに来るとか来ないとか実しやかにささやかれています」
「電えもーん、助けてー。でも却下」
却下の二文字で又しても切り捨てると漣は腰に手を当てて呆れるように小さくため息をついた。
「ほんと、ご主人様は頑なですね」
俺はぐでーと体を執務机に投げ出して寝る体制に入った。今なら、のび太君の睡眠導入最短記録を塗り替える自信があった。
「マジ無理、本気で無理。三十分だけ寝かせて」
「仕方ない人ですね。峰雲ちゃんに申し送りしておきますね」
この執務室は俺と彼女だけの部屋だった。短い間だったが今でも思い出がいっぱい残っている。顕現艦の君たちには分からないだろうけどな。いつかは記憶は薄れてしまうかもしれない。でもまだ鮮明に覚えている。漣が立っているその場所は俺が彼女に告白した場所だ。ツリーを置こうとした場所は謝り続けて許してもらった場所。電がいつも食事を取っている席は彼女の指定席だった。
これでも譲歩してるんだぜ。もう少しだけ彼女と一緒にいさせてくれよ。
執務机の上に飾ってあるフォトフレームの中で雨雲姫に抱かれている廃棄物Bが『パパ、頑張って』って言っていた。
パパは今日もがんばってるよ。ぐー。
■
「ぷはぁぁ」
肺いっぱいに吸い込んだ紫煙を力いっぱい吐き出した。うーん。まずい。もう一本。
提督庁舎の屋上で休憩の一服中だ。あんな量一人でこなせる訳がない。提督旗下の艦娘は実質提督の専属秘書艦を兼ねるが、俺の旗下の艦娘は全員忙しすぎて秘書艦業務に回す時間が絶対的に足りていない。艦娘が忙しいという事はそれに伴う提督の書類決裁が増える訳で。それが六人分だ。しかも六人中五人が最初の艦娘だ。提督一人艦娘一人の関係が一番多い中、俺の忙しさが少しでも分かってもらえるだろうか。
「クソ大本営めーー!!! さっさとくたばれーー!!!」
俺は大本営のなんちゃらっていう部署の相当偉い人がいる場所に向かって叫んだ。俺の声に気がついた金剛が屋上を見上げて手を振った。俺も手を振り返して、『昨日はお楽しみでしたね』ってギリギリ聞こえない声で言ってあげた。俺は艦娘の特性を嫌というほど熟知している。艦娘のギリギリを狙う事に関して、俺の右に出る者は世界中探してもいないという絶対的な自負があった。鎮守府以外ではほぼ役に立たない無駄技術である。
金剛は勝手に解釈して「Thank you」とウィンクを残して去っていった。いえいえどういたしまして。
「やっとみつけました」
屋上の扉が開いて峰雲が現れた。彼女は暫定的に俺の旗下にいるが、俺の艦娘じゃない。何故なら建造に立ち会っていないからだ。雨雲姫を海から引っ張り上げたら峰雲だった。今でも訳がわからない。
艦娘の特性としては吹雪たちに近い。だから普通の提督の旗下には絶対におさまらない。普通の提督が旗下にいれられるのは自分が建造に立ち会った艦娘だけだ。だから峰雲が俺に持っている感情は好意じゃなくて親愛。雨雲姫と同じ関係になる事は未来永劫あり得ない。
「駄目ですよ。タバコは二十歳になってからです。それにここは禁煙エリアですよ」
「俺、二十歳だけど?」
数え年だけど。
「ちゃんと年齢知ってるんですから、嘘ついても駄目です」
「鎮守府ってさぁ、治外法権なんだよねぇ。だから未成年でもタバコいいんだよ?」
「それも嘘です」
「じゃぁ提督特権でありっていうのは?」
「そんなのありま……あったような?」
あるんです。だから合法なので文句はクソ大本営に言ってね。
俺は三本目のタバコに火をつけて吸おうとしたらタバコの火口を小さな指でじゅ、って摘まれた。
「でもここは禁煙エリアなので」
世知辛いなぁ。
「提督はどうしてタバコを嗜むようになったんですか? 武勇伝は先輩達に聞かせてもらいましたけどタバコを嗜むような人だと思えなかったので」
武勇伝じゃない。完全な黒歴史だ。でも楽しかった。彼女がいつも隣にいてくれたから。
「んー。とりあえずタバコ吸っていい?」
「駄目です」
「けち。じゃ、教えてあげないもん」
「もう、子供みたいですよ」
あの時、もし俺が大人だったら未来は変えられたんだろうか。って思ったのがきっかけだよ。
馬鹿で子供で分別なく回りに噛み付いて、結局彼女を失った。馬鹿だから大人の象徴をタバコに見出してしまったんだ。子供だったからあんなにがむしゃらに突っ走れたんだろうか。あれからたった三年、されど三年。無駄に三年の年を重ねただけで、俺の時間はあの日から動いていないんじゃないか。それとも少しは成長しているんだろうか。あの日あの時何をどうしたら彼女と同じ未来を歩めたのか未だに答えが出ない。
タバコを取り出して火をつけた。
「駄目ですよ」
じゅっと摘まれて消されてしまった。
ほんとこの世は世知辛い。
■
「おっさんいるー?」
大本営のなんちゃらっていう部署の相当偉い人を目当てにやってきた。マジで提督の業務環境の改善は喫緊の問題だ。
「来たか。お茶でも飲んでいけ」
お邪魔しまーす。あ、志村さんちっすちっす。俺に憑いている妖精さんが、お菓子のお供えを発見して喜んでいる。たーんとお食べ。食べると相手も喜んでくれるから。
俺は執務室に案内されてソファーにぐてーと座った。
「だらしないぞ」
「だってもう本気で無理ですもん。世界で一番忙しい提督の自信があるんだけど」
「それは仕方なかろう。自分の発言には責任をとってもらわんとな」
「でもこの三ヶ月、平均睡眠時間が二時間切るっていかがなものかと。これでも回らなくなるってどんだけー」
「政府から感謝状が来てるぞ」
「それより休日をおくれ」
「おおそうだった、秘書の件だがお前の業務は秘匿情報が多すぎて人間の秘書を派遣するわけにはいかん。これまで通り手持ちで回してくれ」
「どんだけー」
「お前にはすまないと思っている。年内いっぱい我慢してくれ」
「へーい」
一〇年で日本の周辺から完全に深海棲艦を駆逐するっておっさんと交わした約束は今の所順調だ。というかこのままのペースだと一〇年かからない。さすが記録を大幅に塗り替える俺だ。お陰で俺が死にそうになっている。
原動力は吹雪達、最初の五人の艦娘だ。彼女達は建造ではなく、ある日いきなりこの世に顕現した艦娘だ。だからずっと提督の旗下におさまる事ができなかった。戦歴は艦娘最長。強さは艦娘最強。でも提督不在。提督がいないと艦娘は全力を出せないんだと。普通の艦娘は提督立会いの下、艦娘工廠で建造されるから、最初からリミッター外れてて、あとは演習と実戦と経験がものを言う。
吹雪達はずっと提督なしで戦っていた。もっと力があればもっと沢山の人を助けられるのにって思いながら。
そんな時俺がぽんと現れた。最低保障五人の艦娘を旗下に組み込める謎の新人提督。現在、俺の旗下の艦娘は六人。
吹雪、叢雲、漣、電、五月雨、峰雲の六人だ。
俺の旗下に加わった瞬間に吹雪達の力は跳ね上がった。もうやばいくらいに。だから引っ張りだこだし、相変わらずメディア広報も勤めてる。割とまじめな子が多いから、出来るだけの事をしたいって休まず働き続けるよい子は、裏で地獄を見ている俺をもっと気遣うべきだと思います。フランクなのはいいけど、強すぎて俺がただの人間だって忘れてるんじゃないかな? 俺、君達みたいに体強くないからね?
吹雪達が俺を見つけて、それを大本営の偉いさんだけに教えた。偉いさん達が俺に期待してたのはこれが原因。だから多少の無茶も聞いてくれたし、見逃しもしてくれてた。
おっさんはもっとゆっくり俺を育てたかったって酒を一緒に飲むたびに言う。全て俺の自業自得である。
吹雪達がどれほど凄いかっていうと強さもそうだけど、世界にパラダイムシフトを起こした事だ。吹雪達がこの世に顕現するまで世界に妖精さんはいなかった。で、顕現した瞬間から世界中に妖精さんが出現した。気に入った人間に憑いて、艦娘工廠を吹雪達と一緒に建造して。チートだわ。
この辺りの事情を知っている政府は吹雪達に頭が上がらない。だから俺の提督資格剥奪云々ってのは木っ端微塵に跡形もない。最近は剥奪してくれてたらよかったのにと思うことしばしである。
あと俺が旗下に加えられる艦娘の数で最低保障五人っていう話だけど実際には底なしだった。条件が揃えば一〇〇人でも一〇〇〇〇人でも可能だ。底なしだからどんな艦娘も旗下に加えられるチート能力なんだけど、建造艦は自分の提督に首っ丈だから、実質吹雪達しかに適用されてない無駄チートだったりする。峰雲が提督なしになるのを防げたのはこの力のお陰だ。
そして艦娘の皆さんが俺に友好的だったのもこれが原因。ふわっとそんな雰囲気を感じて親愛の情を持ってくれてた。つまり普通に接してくれてたって訳だ。
じゃあ、最初から吹雪達五人を旗下に組み込んどけって話だけど、ここであのクソ妖精共が出てくる。吹雪達から見ても謎過ぎてそのまま俺の旗下に入っちゃうとどんなイレギュラーが起こるか分からないって様子をみていたそうだ。
やっぱりクソ妖精はクソ妖精だった。
で、そのクソ妖精共はどうなったかって言うと、俺の目の前でおいしそうにお供え物のお菓子食べてる。
ちなみに俺の言う事はよく聞いてくれる。恐怖のいたずらはしなくなったし、軽犯罪も犯さない。少しだけ力の強い妖精さんって感じだな。
もともと俺に憑いていた妖精さんに、悪い何かが取り憑いて、クソ妖精に魅惑の大変身してしまった説が有力だ。善と悪が入り乱れて意味不明の存在となってしまった。もちろんこの説が正しいかどうか誰もわからない。
あの日、雨雲姫がクソ妖精共から悪い何かを全部持っていってくれたんじゃないかってそう思えてならない。だから俺は今日も寝不足と戦いながら彼女の愛に包まれて生きている。
参考までに、吹雪達は建造組じゃないから俺に好意じゃなく親愛の情をもっている。峰雲と同じで俺といい関係になることは絶対にあり得ない。
彼女達顕現艦の愛は世界中全ての人間に向けられている。おれもその一人なんだからもう少し労わって欲しいと繰り返しお願いしたい。
最後に一つ。俺は未だに無給だ。港湾施設と護衛艦の弁済をずっと続けている。吹雪達が旗下に加わった瞬間にチャラになりかけたが断った。ぶっちゃけ到底個人で完全弁済できる額でもないし、鎮守府から出られない俺はここにいる限り生活に困る事はない。多少の金はないと困るが大きな金はあっても使い道がないのだ。果たして現在の経済波及効果はどれくらいだ? 間違いなく元本は超えている。昔クソ妖精共が迷惑をかけまくったお詫びはこんな形でしか帰せない。
と、つらつら建前を並べたが、結局は俺と雨雲姫を繋ぐ数少ない絆の一つを大事にししたいという俺の我侭を通させてもらっている。やすやすと奪われてたまるか。誰も損をしないWIN-WINなのだからそれくらいはいいだろ? その代わりタバコだけは酒保からいくらでも持っていける。俺だけの提督特権だ。
■
「一月振りですね! 今月も建造します? しちゃいます!?」
毎月の馴染みになった明石だ。普通の提督は艦娘を建造し終えたら世話になる事はまずない。艦娘はちょっとした修理でお世話になったりする。
「それじゃさくっと終わらせようか」
「もう、冷たいなぁ。昔はあんなに素直で可愛かったのに。もう遊んであげませんよ? うそうそ! これからも長いお付き合いお願いしますねー!」
大人だ子供だって悩んでも人間なんて艦娘からみれば、たった一人の例外を除いて全員、小僧小娘だ。例外はもちろん自分の提督だ。
「なんか嬉しそうだけど何かあった?」
艦娘に関してはこう、ふわっとわかってしまう。彼女にケーキを食べさせて貰った時の事を思い出す。
「わかりますか! わかっちゃいますか!? さっすがですねぇ! どうしようかなぁ。教えてあげようかなぁ」
明石はぱぁっと顔を輝かせた。
聞いて欲しいんだろうけど、のろけとかだったら面倒くさい。艦娘の提督自慢は本人以外誰も幸せにならない。
「やっと出来たんですよ! これ見てください!」
「指輪?」
明石が手にしているのはシンプルなシルバーリングだ。二つで一セット。ペアリングか。
「違いますよー。ケッコン指輪ですよ。夢がないなぁ。最近ますます枯れて来てませんか?」
「相手はいないし出会い自体ないからな」
「あー 確かに。そもそも提督は鎮守府を出ることが難しいですからね。あなたは特にそうですし」
ただでさえ移動制限の厳しい提督だが、俺は吹雪達を迎えてから鎮守府の外へ出るのは不可能になった。少なくとも日本周辺が完全に安全になるまでは。
そして俺は睡眠時間を削って働いている。当然面会制限はガッチガチだ。執務室にずっといるような生活で出会いもクソもない。
「で、この指輪にどんか効果が?」
「よくぞ聞いてくれました! なんと! 提督と艦娘の絆がさらに深まって結婚気分を味わえるんですよ!」
「ふーん。他には?」
「それだけですよ」
「あ、そう。それじゃ建造始めようか」
「ちょちょちょっと! それだけですかぁ!?」
「他に何を言えと」
「あるでしょうもっと! 明石さん凄い! とか、でもお高いんでしょう! とか、結婚気分って何? とかぁ!」
「でもお高いんでしょう?」
「とんでもありません! キャンペーンをご利用頂ければ今ならなんと! 無料でご奉仕させていただいてますぅ!! お得ですねぇ!」
「キャンペーン?」
「ただの予約です」
「ふーん。それじゃ建造を」
「ちょっと待ってくださいよ! 欲しくないんですか?」
「全然」
「なんでぇ!? 吹雪さんたちに渡せばいいじゃないですかぁ!」
「え? だって俺と吹雪達に絆ないし。旗下だけど全員俺の艦娘じゃない」
「むむむ。やっかいな力ですねぇ」
「そうか? お陰で明石と仲よくなったろ」
「だ、だめです! 私には愛する提督が!」
「それ早めに終わる?」
「もう、冷たいなぁ。昔はあんなに素直で可愛かったのに」
「振り出しに戻ってるぞ」
あげます、いらん、あげます、いらん、と結局ケッコン指輪を押し付けられた。もらっても使い道がない。どうしろと。
明石とはいつもこんな感じだ。月に一度の艦娘建造は業務の一環なので無駄話に花が咲く。
明石がぽちぽちパネルを操作している。俺は立ち会うだけだから何もしなくもいい。
「あと誰が残ってる?」
「まだまだ残ってますよ。駆逐艦が多いかな? リスト見ます?」
「それ極秘だろ?」
「今更何言ってるんですか。それじゃ準備できましたよ。ぽちっとな」
艦娘建造ドッグはまばゆいばかりの光を放って直に収まった。
ドッグには誰もいない。空っぽだ。
「今月も建造失敗ですね。誰も出ないってあり得ないですけどね」
艦娘の建造は基本的に失敗しない。だが俺は雨雲姫を失ってからは一度も成功したことがない。それでも明石が鎮守府に来た時は必ず建造をお願いしている。
「それじゃ来月も頼むな」
「はい! でも私クリスマスまでいるので、暇なら声かけてくださいね」
明石が艦娘工廠から出て行った。
ドッグの後片付けで妖精さんが忙しそうにしている。俺に出来る事はないので邪魔にならないように端に移動した。
このドッグで雨雲姫と廃棄物Bが生まれた。建造した時から最期まで騒がしい日々だった。
もしかして、もしかしてと思いながら毎月艦娘工廠に通っている。雨雲姫と廃棄物Bが建造できたのはクソ妖精共がいたからだ。成功するはずがない。
床に直接腰を下ろして壁に背中を預けた。妖精さんがクッションを持ってきてくれたが、丁寧に断った。御礼にお菓子をおげようねぇ。
俺は瞼を閉じた。
俺の中のどこかにある雨雲姫との絆は微かだがまだ残っていた。今にも消えそうな程の弱弱しい白光は雨雲姫が消えても消える事無く残り続けている。俺の未練なのか、それとも世界のどこかにいるのか、建造されるのを待っているのか。
休憩なのか椅子に座って足をぶらぶらさせている妖精さんに声をかけた。ただの戯言だがせっかく意思の疎通が出来るんだ。独り言よりいいだろう。
「知ってるか? 艦娘ってのはな、嫉妬深いんだぜ」
妖精さんは楽しそうに話を聞いてくれる。
「廃棄物Bを建造する時、雨雲姫は凄く落ち込んでてな」
独立型浮遊艤装だった廃棄物Bは深海棲艦の廃棄物だったのかもな。俺がくくくと笑うと妖精さんも一緒に笑ってくれた。
「だからな、建造が失敗するのは、三人目の艦娘の建造を二人が嫌がってるんじゃないかなって」
妖精さんは首をひねっている。分かってない風だろ? 全部理解してこれだ。よく分かってない提督は妖精さんの格好の悪戯の的だ。
「そんなに嫌ならさっさと出て来いよ…………一月後にまたくる。じゃあな」
ポケットからお菓子を取り出して妖精さんに渡した。
人間は矛盾の存在だ。とっくに諦めたと思い出を大事にしながら、一方で実はもしかしてと未練タラタラで毎月工廠に通っている。俺は一体何がしたいんだろうねぇ。
「さぁ仕事仕事。俺は記録を大幅に塗り替える男なんだぜ」
執務室には山となった書類がわんさかある。すくなくともおっさんには迷惑はかけられない。どっかに可愛くて優しい俺だけの艦娘いないもんかねぇ。
こうして寝不足の日々は今日も明日も続いていく。馬鹿みたいに熱狂した思い出を胸にして。
数年後、日本周辺から深海棲艦は完全に駆逐される。その時、多くの艦娘と交流を持つ特異な提督と仲睦まじく支えあい、嬉しそうに寄り添う艦娘がいる事をまだ誰も知らない。
原作:艦隊これくしょん
(完)
読了ありがとうございました。
もしかしたら追加のEX一話程あるかないか。未定です。