【完結】変これ、始まります   作:はのじ

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06 初めての演習

【悲報】雨雲姫ちゃんの力が桁違いだった件【チート】

 

 俺は今頭を抱えていた。理由は雨雲姫ちゃんだ。

 

 その雨雲姫ちゃんは現在進行形で重巡洋艦の足柄さんとガチの殴り合いの真っ最中だ。殴り合いといっても拳で殴っている訳じゃない。

 

 中距離での砲撃戦。重巡洋艦の足柄さんが本領を発揮するレンジだ。

 

 重巡洋艦の足柄さんに対して雨雲姫ちゃんは駆逐艦だ。普通なら正面から殴り合いなんて出来るはずがない。

 

 隣で色々と解説をしてくれる夕張さんの話では足柄さんはガチの戦闘狂で鎮守府でも一二を争うベテラン艦娘らしい。

 

 一見OLみたいな装甲艤装をしていて、『飢えた狼って呼ばれてるの』ってフレンドリーな挨拶をされたから、体がガリガリ君なのかって思ったけどとんでもない。ボンキュッボンの大人のお姉さんだった。

 

 艦娘だから当たり前の如く美人で人当たりも良い。まさか戦闘が始まって豹変するとは思っても見なかった。体から湧き出るオーラは俺でも分かるくらい半端ない。

 

 あ。夕張さんは胸が少し残念な以外は性格も明るくて凄く美人です。

 

 雨雲姫ちゃんの砲撃が足柄さんの体を掠める。直撃は一度もない。

 

「んはぁ」

 

「んんっ」

 

「やるわね! んくっ」

 

 足柄さんの気合? 喘ぎ? 悩ましい戦闘ボイスが遠くても聞こえる。妖精さんの謎技術だ。

 

 対して雨雲姫ちゃんは余裕がない。顔中煤と汗で汚れている。足柄さんの砲撃の直撃を何度も受けている。でも怯まない、引かない。

 

 俺は頭を抱えながらも、雨雲姫ちゃん頑張れ頑張れと心から応援していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は俺たち二人の初めての演習だった。

 

 演習というのは艦娘同士が条件を変えて戦って経験を積む模擬戦だ。わざと不利な状況を作ったり、理不尽な配置や遭遇戦、天候の悪い日を選んで視界不良の中戦うってものもある。深海棲艦との戦いでは何が起こるか分からないから色々な戦況を作って実戦で困らないようにするのが目的だ。

 

 勿論条件を互角にして戦うってのものある。一対一や六対六、三対三とか二対二とかもあるそうだ。これは事前に提督が相談して決めるらしい。

 

 自分の艦娘に足りない部分を確認する。弱点を埋める。長所を伸ばす。

 

 演習の目的は色々だ。提督と艦娘の数だけ状況は作られる。

 

 俺たちは負けて当然。胸を借りるつもりいこう!

 

 雨雲姫ちゃんにも演習前にそう言ったし、雨雲姫ちゃんも頷いた。

 

 俺たちは二人揃って勝てるなんて微塵も思っていなかった。

 

 だって雨雲姫ちゃんは建造からまだ一週間で戦闘経験はゼロだ。対して相手の艦娘は何年も深海棲艦と戦っているベテランだ。勝てる要素なんて無いって考えるのが普通だ。

 

 最初は同じ駆逐艦の神風さんだった。状況は珍しい一対一のフリー演習。

 

 神風さんは自分は旧式の駆逐艦だって言っていたけど、とんでもない。俺の目から見ても歴戦のオーラを醸し出していた。

 

 大正時代の女学生みたいな装甲艤装は古臭いとか全然思えずとても似合っていた。紅く綺麗な長い髪にとても似合う黄色いリボン。肌の露出はとても少なくて足元は焦げ茶色のハイヒールロングブーツを履いていた。

 

 ちっちゃくて可愛いのにとても凛々しい。それが第一印象だ

 

 こりゃ勝てねぇなと俺は思った。だって雨雲姫ちゃんにはオーラなんて出てないし、初めての演習で緊張でガチガチだった。それは当たり前で模擬戦含めて戦うのは今日が初めてなんだから。

 

 俺は緊張を解す為に色々言ったつもりだけど、何を言ったか覚えていない。だって模擬戦だと言え俺も初めての戦闘だったから。俺も緊張していたんだ。

 

 俺たち二人は揃って経験値ゼロで何がどうなってどうすればいいのか全然分かっていなかった。訳のわからないまま演習が始まった。

 

 演習開始五秒で神風さんが文字通り吹っ飛んだ。車田飛びだ。綺麗な放物線だった。防御力の高すぎる袴のせいで中は全然みえなかった。

 

「被弾!? どこ!?」

 

 って神風さんも何が起こったか理解してなかったみたい。

 

 判定は大破。雨雲姫ちゃんも何がどうなったか理解してなくて勝った事すら分かっていなかった。

 

 馬鹿な俺はこの時まで、やったやった! と素直に喜んでいた。周囲の空気が変わったのも気づかずに。

 

 次に出てきたのは天龍さんだった。

 

 え? 天龍さんって確か軽巡洋艦じゃん! クラスが違う!

 

 俺は抗議しようとしたけど夕張さんに羽交い締めにされて止められた。羽交い締めされたのに胸が全然当たらないとか思っていない。だから頸動脈が締められて意識が落ちそうになったのは夕張さんが怒ったからとか思うはずがない。女神様の艦娘がそんな事で怒るはずがないんだから。

 

 天龍さんはおっぱい魔神だ。とにかくでかい。もうでかい。ひたすらでかい。口調や態度は男っぽいのに、体つきは男のロマンを一杯詰め込んだダイナマイトボディ。滅茶苦茶色っぽい。装甲艤装のスカート短か過ぎやしませんかねぇ。

 

 天龍さんは剣みたいな艤装を肩に載せて雨雲姫ちゃんを挑発した。

 

「フフフ、怖いか? 安心しろ。手加減はしてやるよ。お前の本気……見せてみろよ!!」

 

 開始三秒で天龍さんは大空に飛んだ。教科書に載ってもおかしくないくらいの綺麗な車田飛びだ。綺麗に飛びすぎて短いスカートの中が見えなかった。

 

「このオレがここまで剥かれるとはね…。いい腕じゃねぇか、褒めてやるよ……」

 

 天龍さんはそのまま入渠施設に運ばれた。演習はストッパーが働いているって言ってたし大丈夫だよね? 夕張さん?

 

 夕張さんは目を合わせてくれなかった。

 

 俺はこの時初めてまずいと思った。いくらなんでも圧勝し過ぎだ。

 

 この鎮守府にいる艦娘は雨雲姫ちゃんを除いて歴戦の艦娘ばかりだ。数年から十数年、場合によっては深海棲艦が現れて二三年間、ずっと戦い続けている艦娘もいる。

 

 当然艦娘は誇り高い。優しいとか関係ない。奢りとか慢心とかじゃなくて存在自体が気高い。俺は知らなかったんだ。普段は優しくて気を使ってくれる艦娘が戦闘になると性格が変わる人がいるなんて思ってもいなかった。

 

 この演習は大本営の偉いさんも当然見ている。

 

 即戦力だと思われれば最前線に放り込まれるかもしれない。クソ大本営だから戦力を余らせる訳にはいかないとか言いかねない。

 

 違うんだ。強さってそんなもんじゃないんだ。いくら見た目の強さがあっても心の強さとは別なんだ。戦争だから甘いとか思われるかもしれないけど、体の強さと心の強さは違うんだ。

 

 雨雲姫ちゃんは建造したてのほやほやだ。新人だ。戦闘経験なんてゼロなんだ。

 

 パニックになるかもしれない。ちょっとした事で混乱して命を落とすかもしれない。だって俺たちはまだ始まったばかりなんだ。

 

 雨雲姫ちゃんだけじゃない。俺は何にも知らない。提督経験値がゼロだ。指揮なんてまだ何にも出来ない。雨雲姫ちゃんに気の効いた事を何も言えない。

 

 負けてもいい。むしろ負けた方が良かった。俺たちはゆっくり、ゆっくりと成長していけばよかったんだ。

 

 そして現れた足柄さん。ちょっと待って! 雨雲姫ちゃんは三連戦になっちゃう! 休憩が必要だ! それ以前に駆逐艦対重巡洋艦っておかしいよ! おれは抗議しようと立ち上がったけど、夕張さんに羽交い締めにされた。

 

 胸が当たらねぇ! と思った瞬間には頸動脈を締められて落ちる直前だった。

 

「歓迎するわ! 強い艦娘は大歓迎よ! 私は足柄! 飢えた狼って呼ばれているわ。自己紹介はとっくに済んでいたわね。準備はいいかしら? 私はとっくにできているわ!」

 

 これでもし勝ってしまったら決定的だ。俺は何も経験を積むこと無く雨雲姫ちゃんを最前線に送り出す事になるかもしれない。

 

 駄目だ! そんな事はさせない。

 

「黙って見ていてくださいね。何を考えているかなんとなく分かるけど、もう少し大本営と艦娘を信じて欲しいなぁ」

 

 夕張さんはそう言うけど、俺はクソ大本営なんて欠片も信じてない。艦娘は信じてますよ!

 

「ほら。始まった」

 

 開幕ヒットは足柄さんだ。動揺していた雨雲姫ちゃんに足柄さんの砲撃が直撃した。もうもうと立ち昇る煙で雨雲姫ちゃんの姿が隠れてしまった。

 

「雨雲姫ちゃん!!!」

 

 直後煙を巻く雨雲姫ちゃんの砲撃の二連弾。足柄さんの体を掠めて遠くに消えていった。

 

「やるわね! 私を楽しませて頂戴! もっと! もっとよ!」

 

 煙が晴れて雨雲姫ちゃんの姿が見えた。無傷だ。

 

 そこからノーガードの砲撃戦が始まった。正確には雨雲姫ちゃんがノーガードだ。

 

 足柄さんの砲弾は雨雲姫ちゃんにガンガン当たる。顎に、腹部に、胸に、腕に、足に。足柄さんは雨雲姫ちゃんの砲撃を避けている。でも余裕が有るようには見えない。表情が真剣だった。全部は避けきれない。雨雲姫ちゃんの砲弾がかする度にあえぐように声を上げている。

 

 足柄さんはとても楽しそうだった。対して雨雲姫ちゃんには余裕がない。遠くても分かる。俺は雨雲姫ちゃんの提督なんだから。

 

 雨雲姫ちゃんの顎が跳ね上がって煙で姿が隠れた。足柄さんは中距離から近距離へ。仕留めるつもりだ。

 

「全く。あなた(提督)が信じてあげなくてどうするのよ。提督の想いが艦娘の力になるのよ」

 

 夕張さん楽しそうに告げる言葉が理解出来ない。なんでそんなに冷静なのよ。

 

 煙が晴れた。雨雲姫ちゃんの汗と煤にまみれた姿。俺には今にも泣き出しそうに見えた。そうだ! 俺が応援しなくて誰が雨雲姫ちゃんを応援するんだ。クソ大本営が無理を言ってくれば俺が体を張って雨雲姫ちゃんを守る。そう誓っただろ! 馬鹿か俺は!!

 

 雨雲姫ちゃん頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!

 

「雨雲姫ちゃん!!!! 頑張れ!!!!」

 

 遠くて分かるはずがない。でも俺は確信した。雨雲姫ちゃんは確かに俺と視線が絡まった。聞こえるはずのない声が届いた。

 

 体制を立て直した雨雲姫ちゃんが迫り来る足柄さんに臆することなく対峙した。

 

 模擬弾が直撃した。直後車田飛び。彼女はどぼんと水柱を上げて海に消えた。

 

「まだまだね。そんなんじゃ前線は無理よ。最前線なんてもっての外よ。護衛任務で一から鍛え直しなさい」

 

 傷だらけの足柄さんが高らかに勝利を宣言した。

 

 二勝一敗。俺たちの初めての演習は勝利で始まり敗北で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 なんで謝るの雨雲姫ちゃん? 凄く頑張ってたよ。俺は知ってるから。

 

「だってぇ……負けちゃったぁ……」

 

 いいんだよ。俺たちは胸を借りる立場だったんだから。最初に言ったでしょ?

 

「いっぱい応援してくれたのにぃ……」

 

 あ、届いてたんだ。嬉しいな。雨雲姫ちゃんの頑張る姿をみて凄く興奮しちゃった。俺たちはこれから少しずつ強くなっていけばいいんだよ。

 

「呆れてないのぉ?……」

 

 なんで呆れるのさ? 凄く誇りに思ってるよ。俺の艦娘すごいって。信じてない? 大声で叫んでもいいよ。雨雲姫ちゃん凄いーって。ごいすーって。

 

「止めてぇ……」

 

 うん。雨雲姫ちゃんが言うなら止める。あ、泣き止んでくれたね。笑ってる方が雨雲姫ちゃん可愛いよ。

 

「ばかぁ……」

 

 俺、馬鹿だし。最終学歴中卒だしぃ……俺、頑張るから。雨雲姫ちゃんの頑張りに負けないくらい頑張るから。雨雲姫ちゃんこそ呆れて見捨てないでね。

 

「……そんな事ある訳ないしぃ」

 

 ほんとにぃ?

 

「知らない……」

 

 えぇ、見捨てないで欲しいなぁ。えっとね、このあと歓迎会があるんだって。雨雲姫ちゃんと俺の歓迎会。おいしいご馳走用意してくれてるんだって。間宮さんと伊良湖さんって言う凄く料理上手な艦娘がいるんだって。俺、歓迎会とか初めてだからメチャ緊張してるんだ。一人だと恥ずかしいから一緒に行ってくれる?

 

「……うん……仕方ないからぁ一緒に行ってあげる……」

 

 それとクソ妖精共が暴れないようにしてくれると嬉しいな。

 

「可愛いのにぃ」

 

 ごめん。それには同意出来ない。お願い出来る?

 

「うん」

 

 あ。笑った。かーわいいぃ! 普段からもっと笑ってくれればいいのに! 赤くなっちゃって! もっと顔見せてよ。笑った顔みででででででで!!!!

 

 痛い! 痛い! 突き刺さないでぇ!!!! 千切れるぅぅ! 千切れちゃうぅぅ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。急ぐ事なんて何もない。俺たちはゆっくり、ゆっくりと強くなればいいんだ。慌てることなんてない。ゆっくり一歩づつ。一歩づつ。

 

 クソ大本営がけしかけて来たら俺もクソ妖精共をけしかけるけどな!




深海雨雲姫 公式ステータス 甲準拠

  (装備無/装備有)
Lv1
耐久  370
火力 177/189
雷装  0/19
対空  99/110
装甲   190
速力   高速
射程    長

装備

深海5inch連装砲C型*2
火力 6
対空 3
対潜 6
命中18
回避 9

深海待伏魚雷 特殊潜航艇
雷装19
命中 9
射程 短

深海水上レーダー 大型電探
対空 5
対潜 5
索敵16
命中24
回避 3


チート!

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