【完結】変これ、始まります   作:はのじ

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07 戦艦への道

 俺には色々と足りない物がある。

 

 基本的な知識だったり、提督経験値であったり、兵站管理能力だったり、戦闘知識であったり、艦娘に対する理解であったりだ。

 

 本当に俺は艦娘の事を知らない。だって何も教育を受けていないからだ。はっきり言ってその辺を歩いている人と艦娘に関する情報量はそれほど変わらないだろう。

 

 ただまぁ、直接会って話をする機会が増えたから艦娘が女神様だと断言出来る程度には知識は増えた。普通に生きていれば艦娘に会える機会なんてないし、テレビでは艦娘の名前も姿形もろくに伝えてくれないからだ。

 

 多分大本営が情報統制しているんだろう。ほんとクソな連中だ。自分たちで艦娘を独占しようとでも思っているんだろう。

 

 生の艦娘をみれば誰もでも感動する。俺がそうなんだから。

 

 例外なく綺麗だし美人だし可愛い。みんな驚くくらいに明るくて優しくて性格もいいし人格者だ。

 

 でも疑問がある。艦娘って成長しないの?

 

 テレビで一番露出の多い吹雪さん達最初の五人の艦娘。全員駆逐艦で明るくて可愛くて健気で可愛くてインタビューで照れたりそれが可愛かったり、でもふとした表情が格好よくて凛々しくて可愛くてとても可愛い。つまりは可愛い。

 

 俺の憧れの艦娘達だ。まだ会った事はないけど、もし会ったら感動して心臓が止まるかもしれない。

 

 吹雪さん達の容姿は大人じゃなくて、でも小学生より少しだけ中学生寄り。

 

 漣さんや電さんはセーラー服型の装甲艤装だから少し背伸びした子供っぽいイメージだ。

 

 五月雨さんはお淑やかで、でも確りとしてドジなんてあり得ない少しだけ大人びた少女に見えるし、叢雲さんは喋り方から見た目以上に大人に見える。

 

 吹雪さんはどこにでもいそうでいない、でもどこか親近感を感じる、ちょっと田舎の芋っぽさがある。馬鹿にしているんじゃないから! それが魅力だって言いたいんだ。

 

 会った事がないから全部俺の印象だけどね。

 

 彼女達は俺が初めてテレビで見た時から姿を変えていない。

 

 艦娘って年を取らないの? 素朴な疑問だ。

 

 金剛さんや足柄さんは大人の女性に見えるから艦娘も成長して大人になると思ってたんだけど冷静に考えると、最初の五人はずっと姿を変えていない。

 

 やっぱり年を取らないんだろうか?

 

 馬鹿だと思われるかもしれないけど、俺は艦娘は成長して駆逐艦から出世魚みたいに最後は戦艦になると思っていた。

 

 艦娘は有名だけど、世間ではそれくらい艦娘に対して情報が少なかったんだ。

 

 つまりは全部クソ大本営が悪い。

 

 そんな俺の疑問を解決してくれる艦娘が現れた。その艦娘はやっぱり艦娘だからとても可愛くて心は純粋で、もし俺が親なら目に入れても痛くないって本当に目に入れたかも知れない。

 

 それくらい可愛らしい艦娘なんだ。

 

 艦娘だからずっと深海棲艦と戦っていて、雨雲姫ちゃんと比べても歴戦の艦娘だった。ずっと戦っていても全然心が濁る事なんてなくて改めて艦娘って女神様だなぁって感心した。

 

 今日はそんな彼女について少しだけ語ろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が彼女に出会ったのは艦娘工廠が最初だ。雨雲姫ちゃんにもっと強くなって欲しいなぁって何かヒントが欲しかった。俺は色々知識が足りないから、どうすればいいんだろうって悩んで悩んで悩んで悩んで頭から煙が出るくらい考えた。

 

 艤装を今より強く出来ないかなぁって安易に考えていたのかも知れない。艦娘工廠にいけば何か分かるかも知れない。兎に角動いてみようって動機は軽い気持ちだった。

 

「あと何回改装したら、戦艦になれるのかなぁ……」

 

 艦娘工廠から出て来た艦娘とすれ違った。俺は重大なヒントを得た。

 

 改装。

 

 艦娘が改装をする事で力が跳ね上がる事は流石に知っていた。でも何回改装が出来るとかは知らない。雨雲姫ちゃんはまだ一回も改装していない。何回出来るかも分からない。もしかしたら一回しか出来ないかもしれない。でも彼女は言った。あと何回と。

 

 つまり彼女は最低一回は改装を完了している。その上で後何回と。

 

 彼女の発言は非常に示唆に富んでいた。改装は複数回。場合によっては、三回四回、それ以上出来る可能性を秘めている事になる。しかも繰り返す事で戦艦になれるんだと。

 

 やっぱり駆逐艦は成長して戦艦になれるんだ。

 

 俺は驚いて後ろを振り向いた。

 

 知識は少ないが今まで何人も艦娘を見てきた俺には分かった。後ろ姿と独特な装甲艤装。彼女は夕雲型の駆逐艦だ。流石に顔を見ないと誰だか判別は出来ない。

 

 俺は追いかけた。話を詳しく聞く必要がある。

 

 膝まである長い灰色の独特なヘアースタイル。目立つのは淡黄色の大きなリボンだ。何より印象的なのは見た者が元気になるその表情だ。楽しげで明るくて純粋。なんにでも興味深々でキラキラ輝く薄茶色の瞳。

 

 演習で見たことがあった。夕雲型の駆逐艦、清霜さんだ。

 

 追いついた俺は単刀直入に質問を投げた。

 

「清霜さん! 改装をするといつかは駆逐艦も戦艦になれるんですか?」

 

「ふっふーん」

 

 清霜さんはいきなりで驚いていたが、俺をどこかで見たことがあるのか質問に答えてくれた。

 

「成れるもん。いつかは清霜も完璧な戦艦になるんだもん」

 

 独特な舌足らずな口調。でも清霜さんの瞳はキラキラ輝いていて目標に向けてのひたむきさを感じた。

 

 艦娘は嘘なんてつかない。経験則だけど今まで騙された事なんて一度もない。

 

「ありがとうございます!」

 

 俺は頭を下げて清霜さんに礼を言った。

 

 これで目処がつく。まだまだ先かも知れない。でも雨雲姫ちゃんの大型パワーアップの秘訣は戦艦への改装にあり。

 

 ただでさえ強い雨雲姫ちゃんが戦艦になれば鎮守府のエースになれる事は間違いない。

 

 でもどうしよう。雨雲姫ちゃんが金剛さんみたいに大人になったら。雨雲姫ちゃんじゃなくて雨雲姫さんって呼ばないといけないのかな? それは少し寂しい気もするし、雨雲姫ちゃんの成長を祝う意味でもそう呼ばないといけない気もする。

 

 きっと胸も大きくなる。ボディラインが出てる装甲艤装だから恥ずかしくて直視できないかもしれない。足柄さんみたいにボンキュッボンと破壊力抜群になったら俺はずっと目を細めないといけなくなる。困ったなぁ。困ったなぁ。

 

 雨雲姫ちゃんは怒るんだ。どうして目を細めるの? ちゃんと私を見てって。

 

 だって雨雲姫ちゃんが綺麗過ぎてずっとドキドキしてて……直視するともう自分を抑えられないよ。これでもずっと我慢してたんだ。

 

 ……いいよ。抑えられなくても。もう我慢しなくてもいいんだよ。だから……だから私を、私だけを見て。

 

 え? 雨雲姫ちゃん! 本気かい? 俺でいいの?

 

 あなたがいいの。ううん。あなたじゃなきゃ嫌。私、もう駆逐艦じゃないの。戦艦なの。えちえちな事も大丈夫よ。

 

 雨雲姫ちゃん!

 

 提督!

 

 なんちってーなんちってー。

 

 吹雪さんと同じ駆逐艦じゃなきゃ、大丈夫だよね。俺は一度は止めるよ? でも二度三度と迫られたら恥をかかせる訳にはいかないからね!!

 

 やっぱりだめー! 雨雲姫ちゃんをそんな目で見ちゃいけない!

 

 雨雲姫ちゃんはとっても優しい素敵な子!

 

 俺の中の妄想の雨雲姫ちゃんがどんどんえちえちな子になっていく。止めるんだ俺! 雨雲姫ちゃんは純真な子なんだ! そんな風に考えちゃ駄目なんだ!

 

 落ち受け俺。

 

 ひっひっふー、ひっっひっふー。 

 

 駆逐艦は戦艦になれるんだ。

 

 そうか。吹雪さん達が成長しないのは戦艦に改装してないからだ。

 

 そりゃそうだ。艦娘の代名詞たる吹雪さん達が戦艦になって大人になってしまえば日本国中が驚いてひっくり返ってしまう。

 

 吹雪さん達は本当はもう戦艦になれるのかもしれない。でも日本国民の事を考えて駆逐艦のままでいてくれたんだ。

 

 マジ天使かよ! 違った。女神様だった。

 

 俺は嬉しくて早く雨雲姫ちゃんと相談したくて大急ぎで執務室に戻った。

 

 でも戦艦なら合意があれば倫理的に合法な可能性も微レ存……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨雲姫ちゃんは後何回改装したら戦艦になれるのかな!?」

 

 これは雨雲姫ちゃんの強化を望む俺の素直な気持ちだ。下心なんて一切ない。早く戦艦になーれ。戦艦になーれ。

 

「ならないわよぅ」

 

「二回じゃ無理って事?」

 

「ならない」

 

「三回?」

 

「ならないってばぁ」

 

「じゃあ四回だ!」

 

「しつこい。ならないのぉ」

 

「嘘だ! 雨雲姫ちゃんは俺の心を弄ぼうとしている!」

 

 艦娘は嘘をつかないんだ。駆逐艦の清霜さんが戦艦になれるって言ったもん。

 

「じゃあ、私が嘘をついているっていうのぉ?」

 

 ん? 清霜さんは艦娘で雨雲姫ちゃんも艦娘で、雨雲姫ちゃんは俺に嘘なんて言うはずがなくて。あれ? あれぇ?

 

 こう言うのなんて言うんだっけ? 五里矛盾? 見渡しても正解がないって意味だったはず。

 

 雨雲姫ちゃんは、はっ! と何かに気がついた顔をした。

 

 まずい。俺には下心なんてこれっぽっちも無いけど俺の中で素粒子レベルで存在するかも知れない人類の普遍的な三大欲求の一つについて気が付かれたかも知れない。

 

 雨雲姫ちゃんは執務室にある寝室の方に顔を背けている。

 

 振り向いたその顔は下を向いているけど怒りのせいで真っ赤になっている。

 

 俺はぐいっと体ごと引き寄せられた。そして雨雲姫ちゃんの両腕が背中に回されゆっくり降りていく。今は腰の辺りだ。

 

「わ、わ、わた、しは、い、い、いま、か、か、からで、で、も、いい、わ、よぅ」

 

 雨雲姫ちゃんは怒りの余り、何を言ってるか分からないレベルで口が回らなくなっている。これは本気でまずいですぞ。

 

 セクハラになるのか? セクハラしちゃった? 

 

 腰の辺りで尖った指がカリカリ動いているのが妙に痛気持ちいい。後少し下がればお尻だ。

 

 俺は額から背中から汗が流れるのを止められない。怒りで真っ赤な雨雲姫ちゃんは下を向いたままだ。

 

 お仕置きされるの? されちゃうの?

 

「す、す、好……」

 

「ごめんなさーい!!!」

 

 俺は雨雲姫ちゃんの力が緩んだ隙きを見計らって雨雲姫ちゃんの腕からすり抜けた。あとは一目散だ。痛いのは勘弁なんや! 悪いのは分かっている。でも今は許してー!

 

「……馬鹿」

 

 雨雲姫ちゃんが何か言った気がしたが、俺にそんな余裕はない。

 

 怒りが冷めたらお仕置きを受ける覚悟で俺はすらこらその場から逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 清霜さんは嘘をついていたわけじゃない。純粋に信じていただけだった。

 

 魔法少女に憧れる幼女のように。サンタを信じる子供のように。

 

 深海棲艦との殺伐とした戦いに身を置いて、なお純真な気持ちを忘れない清霜さんはマジ天使。いや女神様だ。

 

 やっぱり艦娘って凄い! 改めて感動した。

 

 

 

 

 

 

 

 PS

 

 あの日から雨雲姫ちゃんに笑顔で無視され続けています。セクハラしてごめんなさいと何度謝っても許してくれません。

 

 ちゃんと考えて正直に気持ちを伝えろ? 後は自然な流れに身を委ねろ? 分かりました。行ってきます。

 

 雨雲姫さん。どうか刺して抓ってお仕置きして下さい。少しくらいなら千切れても我慢します。

 

 だから機嫌直してください。

 

 お尻を自然な流れで差し出したけど駄目でした。

 

 大淀さん。ため息をつかないで解決法を教えて下さい。

 

 馬鹿? ええ、俺は中卒の馬鹿です。何卒の雨雲姫ちゃんの機嫌が直る方法の伝授お願いします。

 

 何卒。何卒。

 

 

 

 

 

 


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