【完結】変これ、始まります   作:はのじ

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08 明石再び

「幸運艦ですか?」

 

「そうよ。幸運艦。知らない?」

 

 ツナギをはだけてタンクトップのシャツが見えているけど俺は目を細めない。数少ない目を細めなくてもいい艦娘は希少で俺は気楽に話をすることが出来る。

 

 軽巡洋艦の夕張さんだ。

 

 初めての演習の時から、雨雲姫ちゃんと二人して仲良くしてくれる艦娘だ。

 

 夕張って綺麗で意味深な名前だけど胸はノー張で、でもそんな事全然気にならないくらいに可愛い艦娘だ。うん。美人というより可愛いだな。美人寄りの可愛いがよりしっくりくる。

 

 今はツナギだけど戦う時の装甲艤装は全体体に夕張メロンっぽい色をしている。セーラー服タイプの装甲艤装はお腹がちらちら見えて、もしかして有るんじゃないかとないかとチラリズム理論が働いてタンクトップ姿にはない色気がある。

 

 可愛く目立つ、胸元と頭のリボンで幼く感じるのに、黒いストッキングで大人っぽく見える不思議さ。

 

 明るくて気さくでこんな俺にも別け隔てなく接してくれるとても優しい艦娘だ。

 

 俺は今色々と勉強している。艦娘の元になった艦船もそこに含まれる。義務教育で旧大戦の艦船なんて一グラムも学ばなかったから正直大変だけど、本物の艦娘がいるから覚えやすくはある。

 

 この船が大淀さんなんだぁ、やっぱり実物も綺麗な船だなぁって夜中に一人でニヨニヨしている。

 

 雨雲姫ちゃんがいると少し機嫌が悪くなるから一人の時しか出来ない。雨雲姫ちゃんの為に勉強しているのに。

 

 まだ駆逐艦雨雲姫は見つけていない。意識して探してはいなけど、自然に雨雲姫の文字を探してしまうのは仕方がない。雨雲姫ちゃんは海外艦だから気長に探す事にしている。

 

 幸運艦って言うと雪風さんかな? 会った事はないけど旧大戦を生き残った駆逐艦だったはず。それも何度も激戦を経験して大きな戦果も上げていたはずだ。

 

 凄く強そうだ……強面なのかな? 黙れ小僧! とか言われるのかな?

 

 いやいや。艦娘はみんな美人で可愛くて性格がいいんだ。きっと凄く色っぽいお姉さんタイプに違いない。駆逐艦は幼い容姿の人が多いけど、浜風さんみたいな例外(巨乳)もいるし雪風さんもきっとそうだ。

 

「呉の雪風、佐世保の時雨って言ってね、日本を代表する幸運艦なの」

 

「雪風……時雨……」

 

「どうしたの?」

 

「艦娘らしくて綺麗でいい名前だなぁって。夕張さんの名前も素敵ですよ」

 

「ふふ、ありがとう。でも雨雲姫ちゃんの前ではよその艦娘を褒めないようにね」

 

 なんでだろうなぁ。正直に思った事言ってるだけなのに。

 

「提督さんはもう少し艦娘を知るべきね。私も私の提督がよその艦娘を褒めるといい気がしないもの。そんな時は夜にきっちり締め上げてあげるけどね」

 

 意味深だ。心にダメージを受けそうだから深く考えないようにしよう。

 

「で、雪風さんと時雨さんがどうしたんです?」

 

「今度ね、補給でこの鎮守府にくるのよ」

 

 雪風さんと時雨さんかぁ。失礼のないようにちゃんと調べておこう。雪風さんはお姉さんタイプとして時雨さんは可愛い系かな?

 

「艦時代も含めて実戦豊富な二人だから、話を聞けば雨雲姫ちゃんのいい経験になるんじゃないかなって思ったのよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺だけじゃなくて雨雲姫ちゃんは沢山の艦娘から可愛がられている。そりゃそうだ。あんなに可愛いんだから。

 

 金剛さんと足柄さんには演習で違った意味でかわいがりを受けているけど、いじめじゃないから大丈夫。特に足柄さんから最初の演習以来ずっと一対一の指名を受けている。今のところは全敗だけど今はこれでいいんだ。

 

 たまに天龍さんが空を飛んでいるけど艦娘の装甲艤装って凄いよなあ。防御力低そうに見えるのに滅茶苦茶高い。一度も中身が見えたことがないんだ。

 

 アヘ顔で毎回入渠施設に運ばれる天龍さんだけど、普段は気さくでとても面倒見がいい。親分って感じだ。演習で負けても全然根に持たないし、歓迎会でも人見知りの気があった雨雲姫ちゃんをあっという間に艦娘達に馴染ませてくれた。

 

 給料が入ったら折り詰めセットを持っていかなきゃ。給料の前借り断られたから当分先だけど。クソ大本営め!

 

 俺たちは今の所順調だ。喧嘩もしたりするけど、誠心誠意、毎日二時間のノルマで心から謝ったら一週間でちゃんと許してくれたんだ。女神かよ! 雨雲姫ちゃんだった。

 

 喧嘩をしてからまた距離感が縮まった気がする。雨雲姫ちゃんとの絆は確実に増していると思うんだ。

 

 もうすぐ雨雲姫ちゃんの初めての任務も始まる。足柄さんが言ってた護衛任務だ。経験の浅い艦娘が最初につく定番の任務だそうだ。深海棲艦が殆ど出てこない海域で輸送船を護衛する任務だ。

 

 残念ながら経験の浅い俺は任務の指揮は採れない。他の提督に任せるのは悲しい。だってそうだろ? 雨雲姫ちゃんの初めてを他の男に采られるんだ。提督として忸怩たる思いはある。失敗して雨雲姫ちゃんを痛がらせたら同じ提督でも許さないからな!

 

 でもこうやって少しづつ経験を積んで俺たちは一人前の提督と艦娘になっていくんだ。提督と艦娘のA to Zって奴だ。まだ俺たちはAの段階だ。Zまでは遠いけど頑張るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで二人目の艦娘を建造します。しちゃいます?」

 

 明石さんだ。日本中の鎮守府を飛び回っている艦娘で会うのは一ヶ月ぶりだ。

 

 俺と雨雲姫ちゃんが出会ってから一ヶ月が経過していた。

 

「峯雲ちゃんじゃなくて雨雲姫ちゃんだったんですね。早とちりしちゃった。ごめんね。てへ」

 

 明石さんはあっさりとミスを認めての俺の眼の前で成長した。艦娘は凄いなぁ。

 

「忙しい所ありがとうございます」

 

「いえいえ。私、楽しいんですよ。懐かしい艦娘に一番に会えるんだから。あ、一番は提督でしたね。いけないいけなーい」

 

 俺の緊張をほぐそうと明石さんはわざと明るく振る舞ってくれる。大丈夫ですよ二回目だから。

 

「そうですか? でも浮かない顔してません?」

 

「雨雲姫ちゃんの機嫌が悪くなっちゃって」

 

 二人目の艦娘の建造が近づくにつれて雨雲姫ちゃんの機嫌が悪くなってきた。怒ってはいないんだけど、考え込む事が増えたりして、機嫌がよくないなって提督だからなんとなく分かるんだ。

 

 今日も、建造に一緒に立ち会おうって誘ったんだけど気分が乗らないって断られてしまった。

 

「なるほどぉ。分かりますよ。二人目って最初はどうしてもそうなりますよねぇ」

 

 うんうんと頷く明石さん。俺が艦娘についてもっと勉強すれば分かることなんだろうか。

 

「それはありますね。提督はもっと艦娘について知るべきです。艦娘を知るのは簡単なんですけどね」

 

「簡単なら教えて下さいよ」

 

「駄目駄目! 私が言うと怒られちゃいます。そういうのは提督が自分で学ぶ事ですから。それに自然な事だから悩む事でもないですし」

 

 提督も一杯経験を積まないといけないって事か。色々足りない俺には先が遠いな。でも大丈夫なのかな? こんな新米提督が二人目の艦娘を建造して。

 

「大丈夫ですよ。そのうち折り合いがつくので」

 

「折り合い?」

 

「えぇ、元々仲が悪いわけでもないですし、少しの間だけです」

 

 なんか不穏だ。艦娘同士仲が悪くなるのか? 考えた事もなかった。

 

「普通は一人の提督につく艦娘は一人か二人なんですよ。一人の方が多いかな? 稀に三人の提督がいますけどね。だからたまーに発生する問題なんですけど、今までは全て解決しているので問題ないですよ」

 

 初めて聞いたなそれ。俺は最低保障五人だ。そんな事が四回も続くのか?

 

「あ、そうでしたね。提督は日本初の五人の艦娘を旗下に入れられる提督でしたね。大本営も凄く期待してるんですよ?」

 

 嘘だ! 絶対に嘘だ! 期待していたならあんな待遇はあり得ない! 給料前借りさせろクソ大本営。

 

 俺は断固嘘だと断言出来る日本人だ!

 

「あははは、嘘じゃないんですけどね。でも五人かぁ。今まで前例が無いしどうなるんしょうね?」

 

「俺が分かるはずないですし」

 

「むむむ。艦娘の特性から考えて三人は? ……四人だと……五人は……絶対に……無理?」

 

 明石さんがぶつぶつ呟いている。艦娘に分からないことは俺に分かるはずがない。

 

「とにかくやっちゃいましょう! 二人目までは問題ないはずですし。後のことは偉い人に任せましょう」

 

 あ、投げちゃった。でも明石さんが問題ないっていうなら任せよう。大丈夫なんだろきっと。

 

「やり方は前と一緒ですよ。提督はそこに立っているだけ。あとはちょちょいのちょいと」

 

 謎のパネルをぽちぽちと押す明石さん。周囲では忙しそうに妖精さんが資源を運んでいる。

 

「次の艦種は何になるんです?」

 

 戦艦かな? 重巡かな? ボンキュッボンだと困っちゃうなぁ。

 

 建造される艦娘は俺に憑いているクソ妖精共の性質が反映されるって言われたから前回はびびったけど、雨雲姫ちゃんは可愛くていい子だから、明石さんが大げさに言ったに違いない。

 

「それは出来てからのお楽しみということで。それ、ぽちっとな」

 

 艦娘建造ドッグはまばゆいばかりの光を放って直に収まった。

 

 落ち着いていたつもりだったけどやっぱりドキドキする。どんな艦娘がきてくれるんだろう。例えどんな子でも大事にすると改めて吹雪さん達に誓う俺提督。

 

 二人目の艦娘は果たして。

 


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