刻一刻とカルネ村に迫る多数の影があった。それはガゼフ・ストロノーフ率いる騎兵であり、彼らは周辺で襲われている村を助けに向かってはそこに人員を残してきた為に現在では僅か少数であるし、消耗もしている。
そんな彼等は次なる襲われている村。カルネ村へと向かっていた。
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どうやら来たようですね。
僅かに見えた影を捉えそう思う。
やがてその影は段々と大きくなり、こちらに来るのがはっきりと分かる。
そして、馬上から男は名乗りを上げた。
「――私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである」
と、中々迫力のある自己紹介だったが。
「村長だな。」
ガゼフはそう一言述べた後、矢継ぎ早に次の言葉を紡いだ。
「そちらの方は誰だ?」
「────」
「はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来たマジックキャスターです」
そう、村長がアインズの事を紹介する前に名乗った。
すると、それを聞いた戦士長は馬上から降りて何と頭を下げてお礼を述べた。
「村を救っていただき感謝の言葉も無い」
「いえいえ。実際は私も村を救ったことによる報酬目当てですから、お気にされず」
「では申し訳ないが、どのような者達が村を襲ったのか、詳しい話を聞きたいのだが?」
「私は構いませんが、村長さんはどうですか?」
「いや、私も構いません」
「では聞かせてもらおう」
「構いませんが、色々と詳しくご説明した方が良いでしょうし、長話になるといけません。イスにかけてお話をしませんか?」
「ふむ……一理あるが……」
「それにこの村に来た騎士のほとんどを殺しました。しばらくは暴れないのではと愚考します。その辺りのご説明も必要でしょう」
「なるほど」
あれ?私、忘れられてない?と思ったのは間違いだろうか?思えば、私のことは一切紹介されてないし、またガゼフも気にしていない。もしかしなくても私、ボッチ?
そう思っていた矢先、ガゼフがいきなり話し掛けてくるものだからちょっと驚いてしまった。
「失礼、貴女は?」
「私はシエルと言います。私もこの村を助けに入ったマジックキャスターですね。」
やはりそれを聞いた戦士長は頭を下げてお礼を述べるのだった。その態度には感心するものがある。王国戦士長ともなればそれなりの地位に居るだろうが傲ることなく、素直にお礼を言えるのは私も素直に感心したのだ。
「貴女もですか。本当にありがとう。」
「いえ、私も正直言えば営利目的ですのでね。」
「それでもですよ。本当に感謝に堪えない。」
それからまぁ、ガゼフがデスナイトについて尋ねて、アインズがそれに答えて説明して(危ない部分もあったが)事なきを得た。
と、思えばまた問題というものは転がり込んでくるもので、何と偽装していた帝国兵はスレイン法国という国の工作部隊だと言うのだ。今さらそれが分かっても意味はないが。いや、どちらにしろ私達には関係はなかった。何故なら、どこの国の部隊だろうが敵対する以上は変わりはない。それがどこの国であろうと関係のないことだった。今回、それがスレイン法国という名の国だっただけだ。
まあ、しかし、気がかりではある。そのスレイン法国とやらが何を目的に帝国に偽装してまで王国の村を襲っているのかだが。それは戦士長に任せることにした。どうせ、国の揉め事に首を突っ込んで良いことなんて一つも有りはしないから。
暫くすると話はついたようで、アインズがこちらに来た。
「どうでした?アインズさん。」
「シエルさん。ええ、まあ上手く行ったと思いますよ。中々あのガゼフという人には好感が持てますね。ああいう人は私は好きですよ。」
と、意外とアインズには好評の性格であったようだ。
「ええ、私もそう思うわ。まあ、だからと言ってどうこうと言うわけではないんだけれど、アインズさん。先程アテナから報告を受けたんですがね、どうやらこの村を囲うように武装した集団が近付いている様なんですね。まあ、状況から考えるにスレイン法国の輩だとは思いますが。」
私がそこまで言うとアインズは少しばかり驚いたようだった。
「そうですか、困りましたね。どうしましょうか。取り敢えず私は戦士長にでも報告して来ますね。」
「はい。お願いします。」
それから成り行きでこの村を守るという約束をガゼフと交わしたのだが、ガゼフにあのマジックアイテムを渡しているところを見るに、アインズ直々に潰しにかかるみたいですね。かという私もここに居るだけではつまらないのでこっそりと着いていかしてもらいますが。
さてさて、王国戦士長殿はどこまで戦えますかね。まあ、30レベル台ならばこの世界ではそこそこ戦えるのてしょうが・・・・多勢に無勢ですかね。敵との戦力差は如何ともし難いですし。
でもまあ、王国最強が見られるのなら良しとしましょうか。
「アインズさん。私も一緒に行きますからね。」
「えっ?あ、ああ、はい。」
と、アインズのそんな間の抜けた返事を聞いて、ああ、この人、ちょっと緊張してるよ。と思うシエルだった。