異常航路   作:犬上高一

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第1話 “自称”善良な0Gドッグ

ゼアマ宙域。かつてリベリアという国家の辺境宙域であったが、強大なヤッハバッハ帝国の侵略によりリベリアは消滅した。そして、現在はヤッハバッハの辺境宙域である。

 

「支配者代われど辺境変わらずか・・・。」

 

 その辺境宙域を一隻の小型輸送船が航行している。小さいブリッジには、若い女性が1人いるだけである。ブリッジどころか、艦内には彼女以外誰もいない。代わりに輸送船の倉庫内には、食料、酒、医薬品等の生活必需品がぎっしり詰め込まれていた。

 

 彼女は目の前のコンソールを操作し現在位置とレーダーを確認する。なにも異常が無い事が分かると、ちょっと背伸びをする。

 

「さて、仕事するか・・・。」

 

 そう言うと彼女はオートクルーズを解除し、マニュアルに切り替える。

 

現在位置はゼアマ宙域セクター4。俗にいう暗礁宙域という奴で、そこら中大量の岩石がある。あまりにも量が多いので、オートクルーズではルート作成できず、警報を吐きまくって強制停止するのである。

 

なので、人力でこの宙域を航行する。微速前進しつつ、スラスターをチマチマ動かし、岩石の隙間を通り抜ける。小型輸送船と言っても全長が120mあるので、小さな岩石がゴンゴンぶつかってくる。一応デフレクターは稼働しているが、過度な期待はしない。

 

「PU358ニ新路上ニ接近スル岩石アリ。」

「りょーかい。」

 

 スラスターを噴き進路を変更する。岩石をギリギリの距離で躱す。

躱した直後今度はレーダーが接近する岩石の警報を鳴らす。レーダー画面を見る限りぶつかっても大丈夫なギリギリの大きさなので、このまま直進する。というか岩石が邪魔で回避できない。

 

 ゴンッと鈍い音と共に船体が少し揺れる。ビービーと警報が鳴るがうるさいので切った。

 

その後も暗礁宙域を進んでいき、いい加減ドロイドの音声と警報音にうんざりしてきた頃に、レーダーに反応があった。

 

小さなビーコンの反応で、それが点々と続いている。それに沿って航行していくと、巨大な岩石が目の前に現れた。輸送船をその巨大岩石の前で停止させる。

 

「こちらシーガレット。ドロイドが3体壊れた。誰か代わりのドロイド5体か、手伝ってくれる人6人くらい来て欲しい。報酬は254G(ガット)出す。」

 

目の前の岩石に向けて通信を送る。すると、岩石の一部が動き出し、ぽっかりと穴が開いた。輸送船はその穴の中へ進んでいき、内部に入ると入り口が閉じられ、辺りには静寂が訪れた。

 

 

 

内部はさながら宇宙港のようだった。中には、小型ボートや魚雷艇。さらには駆逐艦や巡洋艦までもが係留されている。

 

『よぉシーガレット。頼んでた煙草と酒はきちんと買ってきてくれたか?』

「安心してくれ。きちんと買って来てあるよ。値は張るがな。」

『あまり高いのは困るぜ。7番につけてくれ。アームの準備は出来ている。』

「分かった。」

 

 誘導員の指示に従い輸送船を7番ドックの近くへ動かす。近づくと係留アームが輸送船を掴み、ドックへ着岸させた。船から降りると少しの疲労感を感じる。

無理もない。あの暗礁宙域の中を神経を擦り減らしながら航行したんだ。多少は疲れもする。

 

「ふぅ・・・。」

「お疲れさん。茶でもどうだい?」

「なんだランディか。先に積み荷の方を降ろしておきたい。目録はここだ。」

 

 そういって私は目の前の男――ランディに積み荷目録を渡す。それに軽く目を通した彼は、満足そうにうなずく。

 

「これだけあれば、しばらく持ちそうだ。ここの農業プラントだけじゃ生産出来ない品もあるしね。」

「何時間で終わる?」

「そうだな。7時間もあれば全部積み終わるよ。」

「分かった。私は大佐に話をしていくよ。」

「あぁ分かった。」

 

 

 

 

 この岩石内の基地。ここは元々リベリア軍の施設だったそうだ。巨大な岩石の内部をくりぬき、宇宙船ドックや造船工廠や居住区などを作り上げた施設で、国防の為こういった施設がいくつも作られたらしい。

 この基地――サンテール基地も、そのうちの一つだが何かの理由でヤッハバッハが侵略してくる以前に放棄したらしい。

 

 現在このサンテール基地は、ヤッハバッハで言う“反乱分子”の拠点となっている。

 

旧リベリア軍の残党、海賊、0Gドックなど肩書は様々なれどヤッハバッハに敵対しているという共通点を持った者たちが集まり、一つのコロニーを形成した場所だ。

 ちなみに0Gドッグというのは宇宙航海者達の俗称の事である。世間的にはアウトローな意味合いで使われているが、広義的には貿易船の乗員や宇宙戦艦の艦長など宇宙を航行

するすべての人間に当てはまる。

 その中でも他船を襲ったり、地上で略奪行為を働く0Gドッグを海賊と呼ぶ。

 

 この基地内の勢力としては、旧リベリア軍の兵士達を中心とした派閥『アーミーズ』だ。元リベリア軍人のベルトラム大佐をリーダーとした派閥で、先程積み荷のやり取りをしたランディも元リベリア軍人だ。彼らはこのサンテール基地の管理運営を行っており、各勢力のまとめ役となっている。

 

 他の派閥として海賊組織『ディエゴ海賊団』がある。ヤッハバッハの取り締まりが厳しくなったため、止む無くサンテール基地に身を寄せた集団である。アーミーズとは仲が良くないが、それ以上にヤッハバッハの方が脅威なので、今は互いに協力している関係である。

 

 もう一つが『フリーボヤージュ』。ヤッハバッハの航行制限に従わない0Gドッグをまとめるギルドのようなもので、0Gドック達にミッションを提供する。内容は大体違法採掘か密輸である。

 

 最後に『レジスタンス』がある。各派閥でも特にヤッハバッハを敵視している者達の集まりだ。小型船を使い、ヤッハバッハの拠点や船に対しテロ行為等を行っている。管理運営が主体のアーミーズに対し、実戦を主体とするのがレジスタンスである。

 

 

 ちなみに私はどの派閥にも所属していない“善良な0Gドッグ”であり、ただ物資を人に売っているだけである。売った先の人間がヤッハバッハに抵抗しているとかそういうのは知った事では無い。

 

 基地内の一室――指令室のドアをくぐる。そこには数人の士官がレーダーによる周囲の警戒や書類整理などをしていた。その中で一人、テーブルに座り書類を片付けている太った男が居た。彼がアーミーズの指揮官ベルトラム大佐だ。

 

「来たか密輸商人。」

「失礼な物言いだな大佐。私は唯の“善良”な0Gドッグだ。」

「お前が善良な0Gドッグなら世の中の悪人の半分は善人だ。」

「善良の判断は人によって異なるものだよ。」

 

 挨拶代わりの掛け合いを終わらせて私はソファに座る。

 

「積み荷の目録はこちらも確認した。それで金の方だがこれでどうだ。」

 

そう言われて提示された額は200G。

 

「・・・少なすぎるぞ・・・。最低でも1000Gは必要だ。」

「少し事情があって、現在資金繰りが苦しい状況だ。250Gまでなら何とか出せる。」

「無理だな、1000Gは下回れない。第一何があった?アーミーズが資金繰りに失敗するとは思えないが?」

 

「レジスタンスの一派が大量に流れ込んできたのさ。」

 

 話すのを少し渋っていた大佐に代わり、別の声がかけられる。

 

「ディエゴ・・・。」

 

 ディエゴ海賊団のボス、ディエゴ。ベルトラン大佐とは違いこちらは痩せ型の男だ。海賊という肩書からか痩せ型の所為か、狡猾そうな印象を与える。

 

「なんでも他所のレジスタンス狩りから逃げてきた連中が500人くらいこっちに来たわけよ。数も多いし食料や衣服も必要になるしで金欠になる訳よ。」

「あぁ・・・それは―――。」

「ベルトラム大佐!!」

 

お気の毒にと言いかけた所で、指令室の扉が勢いよく開かれ、大きな声が響き渡る。現れたのは戦闘服に身を包んだ男が現れる。

 

「先程到着した食料の搬出を許可して頂きたい!我々の仲間は飢えているのだ!」

 

そういってずんずん歩いて大佐に詰め寄るこの男はギルバード。レジスタンスの指揮官で血の気の多い男だ。

 

「落ち着いてくれギルバード。食料は無限にわいてくる訳では無いのだ。予定外の行動をされると食料を管理する事が出来ない。きちんと食料は分けるから、しばらくは待機していてくれ。」

「急いでくれ大佐。我々は一刻も早く同士の仇を撃たねばならないのだからな。」

 

 そう言い残しギルバードは出て行ってしまった。

 

「はぁ・・・そういう訳だ。今回の取引はツケか。もしくは何かと物々交換という事で手を打って―――。」

「ちょっと待った。」

 

 大佐が物々交換を提示しようとした所へディエゴが割り込んできた。

 

「金欠なアーミーズに代わりその食料を俺達に売ってくれ。」

「売ってくれって・・・。物資の管理はアーミーズが管轄しているだろう?」

「そのアーミーズが金が出せないって言ってんだぜ。俺達なら言い値で変える。悪い取引じゃないだろ?」

「で、その食料を倍値で売りつける訳か。」

 

 この男は状況に乗じて食料を買い占め、高値で売りつけるのが目的だ。

ディエゴの案に乗れば確かに金は手に入る。ただし、アーミーズやレジスタンスとの関係は悪くなるだろう。

 

「いや、何かと物々交換という事にしておこう。今あんたと取引すると後が怖い。」

「チッ。まぁいい。気が変わったらいつでも言ってくれ。」

 

 そう言い残すとディエゴは部屋から出て行った。

 

「まったく・・・少しは基地の運営に協力してもらえないものか・・・。」

「大変そうだね。大佐も。」

 

 心なしか、大佐の髪が前回見た時よりも少なくなっているように見えた。




この度は【異常航路】第1話をお読み頂きありがとうございます。

久々に無限航路をプレイして気が付いたら書いていました。

今更ですが、この小説は原作無限航路の解説をそこそこ飛ばしてしまうので、意味が分からない用語があれば無限航路ウィキなどで調べるか、感想かメッセージなどでご指摘下されば幸いです。



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