異常航路   作:犬上高一

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第10話 戦うべきか

 サンテール基地が崩壊して2週間以上経過した。その間、フリーボヤージュ達が食料などの物資を集めてくれた。彼らも長年ヤッハバッハの目を掻い潜ってサンテール基地に物資を運んでいただけの事はあり気付かれることなくここまで運んでくれた。

 

「これでとりあえず餓死の心配は無くなったな。」

『現状の食糧ならば全員で今から3ヶ月は耐えられます。』

「三か月か・・・。多いんだか少ないんだか。」

 

 航海をする上での3ヶ月は長いが、ヤッハバッハから隠れ続けるのに3ヶ月は短い。

 

「艦長、システムのチェック終わりました。対艦クラスターレーザーいつでも使えます。」

「ご苦労。で、どんなものなんだこれは?」

 

 初めは、傷ついた艦やオッゴの修理に追われてゼー・グルフの事は後回しになっていたのだ。今まで基本的なシステムしか把握しておらず、ようやく修理がひと段落したのでこの艦の調査を始めた。

 

「実際に威力を見たから分かると思いますが、凄まじいの一言につきますね。主砲と同口径のレーザー砲が60門もありましたよ。実質ゼー・グルフの主砲塔が15基ある事になりますね。」

「60門!?」

 

 つまりこの巨大な主砲が60門あるのと同じことだ。そんな強力な砲撃を喰らえば大抵の艦はAPFシールドが持たずに破壊されるだろう。そりゃデブリごと吹き飛ばされる訳だ。

 

「しかも複数のジェネレータとメインエンジンと別のインフラトン・インヴァイダーを搭載しているので、60本の周波数の異なるレーザーが発射できます。」

「つまり?」

「60本のうちいくつかは確実にAPFシールドの減衰を受けずに船体に到達します。まぁ全部のレーザーの周波数が適合したとしても、ジェネレーターがオーバーロードで爆発しますが。」

 

 何とも恐ろしい兵器だ。こんなのものと戦っていたと思うと背筋が凍る。

 

「ただし照準をつけるには一々艦首を向けないといけませんね。あと冷却が追いつかないので全門斉射したらチャージに時間がかかります。」

「連射は出来ないのか?」

「数門ずつ交互に砲撃する事は出来ますが、撃ち続けるとオーバーヒートを起こします。一応専用の冷却器は付いているんですが、発生する熱量が多すぎて排熱し切れません。」

 

 どうやら欠点がない訳ではないらしい。船体に対し巨大な砲を搭載する時は、大体船首方向に設置する。これによって巨大な武器も搭載出来るが、照準をつけるには敵に船首を向ける必要があり、軸線砲の共通の欠点だ。

 

排熱機構に関しては、このクラスターレーザーが発生させる熱量が多すぎて追いつかないらしい。1対1なら強いが多数を相手にするのは不安だな。

 

「まぁ完璧とはいかないものだな。」

「他にも防御面や整備性に問題ありかと。人間で言ったら心臓が2個あるようなものなので弱点も2箇所です。」

「攻撃力は凄まじいんだがな。」

「やはり試作兵器という事でしょう。あまりあてにはしない方がいいかと。」

 

 シーガレット達は知らないが、これらの問題点からヤッハバッハ側は開発を打ち切り以後クラスターミサイルの強化に方針を固めている。

 

『艦長。そろそろ会議の時間です。会議室にお越し下さい。』

「もうそんな時間か。」

 

 代表者達が集まり今後どうするかの会議が行われる。出席者はアーミーズの代表として大佐とランディ、海賊団代表としてディエゴとその部下2人、レジスタンスの代表としてギルバートと部下2人。フリーボヤージュの代表として前回は臨時代理だったがそのまま正式に代表になった3人。そして私はこのゼー・グルフの艦長として出席する事になった。

 実際この艦はほぼアルタイトが掌握しているが、アルタイトの管理者が私に登録されていたためにアルタイトの中では自動的に私がゼー・グルフの艦長になっていたようだ。その為アルタイトが何かするたびに私に許可を求め、私はそれを許可しなくてはならなくなった。

 そんな事をしている内に周りまで艦長認識してくるので、そのまま艦長になってしまったのである。

 

 今は艦に対し危険が無いと判断される行動に関しては無許可でよいとしている。これで私は許可を出す手間は省けた。ただ他の連中が何かしでかさないか不安なので報告は受けるようにしている。特にエピタフを狙っているディエゴに関しては。

 

「さて、行くとするか。」

「行ってらっしゃい艦長。俺としてはこのまま平和な時間が過ぎるのを期待しています。」

「善処するよ。」

 

 最近エドワードも他人行儀な態度から砕けた態度へと変わってきた。私としてもこっちの方が気が楽だ。というかエドワードもかなり特異な人間では無いか?惑星に置き去りにされやっとの思いで帰ったら仕事をクビになり勢いで0Gドッグになってレジスタンスと関わっていつの間にかヤッハバッハと戦っている。リベリア全土を見てもこんな人生を送っている奴は中々いないだろう。宇宙全体ならこれよりも目まぐるしい人生を送っているのは大量に居そうだが。

 

ーーーピーンポーンーーー

 

 そんな事を言っている間に列車が来た。この艦は巨大すぎるので艦内の移動にはこうして列車を使用する。宇宙船は大きさがキロ単位になるものも普通に存在する為、艦内の移動にはこうした列車が使用される。ただこのゼー・グルフは特に大きいので列車も大きく本数も多い。

 

 列車に乗り込みパネルを操作する。するとドアが閉じて気が付いたら列車は発進している。重力制御によって発進時の慣性すら打ち消すことが出来るのだ。ただあまりに強すぎるものや突発的なものは打ち消せないが。

 

 会議室がある区画までほんの十秒程度でたどり着いた。まぁ私が居た所とあまり離れていないのでそんなに時間がかかる訳では無い。そこから列車を降り、会議室まで歩いていく。

 

 会議室に入室するともうすでに他の代表者達は集まっていた。

 

「待っていたぞ。」

「すまないな。報告を聞いていたもので。」

 

 大佐に言い訳しつつ席に座る。私が座った所で会議が始まった。

 

「では今後の我々の方針を話し合おうと思う。何か意見がある者は?」

「大佐。」

 

 真っ先に手を上げたのはギルバードだ。

 

「我々はサンテール基地と幾多の同士を失った。彼らの為にもヤッハバッハと戦い続けるべきだと思う。幸いにも我々は、強力ビーム兵器を持つゼー・グルフを手に入れた。これを新たな拠点として活動を続けるべきだ。」

「俺は反対だな。」

 

 ギルバードの意見に対し横やりを入れたのはディエゴだ。

 

「拠点も壊滅し艦隊の多くを失った。おまけにヤッハバッハの連中も警戒してるだろうぜ。」

「だが連中は俺達の基地を壊滅させた事で俺達が全滅したと思うんじゃないか?ヤッハバッハも俺達が全部で何人いるかなんて把握していないだろう?」

 

 ディエゴの意見にフリーボヤージュの一人が反論する。ここは専門家の意見を聞くとしよう。

 

「大佐。軍人の視点からヤッハバッハはこれからどう動くと思う?」

 

 かつて軍にいた大佐なら、軍隊がどう動くかの予測も出来るのではないか?そう考えて私は大佐に尋ねる。会議室に居た全員の視線が大佐に集中する。

 

「・・・現場の状況を調査すればダルダベルやブランジがゼー・グルフの砲撃で沈んだことも分かるだろう。そうでなくとも連絡が途絶えた時点で何かあったと考え捜索隊を編成するな。」

「つまり警戒度は下がらないと?」

「少なくとも敵が残っているとは考えるだろうな。」

 

 その言葉に全員沈黙する。我々が全滅していないと知ればヤッハバッハは依然として我々を血眼で捜索するだろう。サンテールのようにカモフラージュできないこのゼー・グルフはすぐに発見されるだろう。全長4kmの戦艦は目立つ。

 

「いっその事別銀河に逃げるっていうのはどうよ?」

「リベリアを見捨ててか?それよりも別銀河に行くボイドゲートが無いではないか。」

「ヤッハバッハの連中がやったように、ボイドゲート無しの長距離航海で行くのさ。」

 

 ディエゴの提案に即ギルバードが反論するが、ディエゴはそれに対してボイドゲート無しの長距離航海を提案した。I3・エクシード航法は理論上光速の876倍、実用上でも200倍の速度で航行できる。簡単に言うと光の速さで200年かかる距離を1年で進むことが出来るのだ。だが・・・。

 

「確かにエクシード航法を使えばボイドゲート無しでも他の銀河に到着するだろう。ただそれでも年単位の時間がかかるし我々には現在ですら満足に補給が受けられない。途中で物資が尽きて餓死するのがオチだ。」

「それにたどり着いた場所がヤッハバッハの勢力圏だったらどうする?現状奴らがどの銀河に勢力を伸ばしているのか分からない以上着いた先がヤッハバッハの勢力圏でそこで捕まったら意味が無い。」

「ぐぅ・・・。」

 

 私と大佐にぐぅの音しか出ないくらい反論されたディエゴは、ぐぅといって黙りこむ。ほんとに言う奴がいるか。

 

「そういうお前さんはどうなんだ?何かいい案があるのか?」

 

 せめてもの反撃とばかりにディエゴは私に噛みついてきた。

 

「私としてはこのままヤッハバッハの目を逃れて静かに過ごすべきだと思う。」

「潜伏ってわけか。」

「あぁ。戦うにしても戦力不足だし、どこかに逃げる当てもない。隠れるに限る。」

「このゼー・グルフがあるだろう?しかもあの強力なレーザー兵器がある。これならヤッハバッハとも対等に渡り合えるはずだ。」

「先程エドワードが調べてたが例の対艦クラスターレーザーは確かに凄まじい火力を誇っている。だが、軸線なので照準をつけるのにいちいち艦首を向ける必要があるのと、発生する熱量が多すぎて排熱が追い付かないらしい。1対1なら強いが多数に囲まれるとこの武装が返って邪魔になる。あまり当てにしない方がいい。」

 

 ヤッハバッハと戦うべきだと主張するギルバードに、先程分かった事を伝える。ギルバード以下レジスタンスはこの艦の性能を当てにしている節があるが、この艦は思っているほど強力ではない。リベリアの船から見たら破壊神のような存在だが、ヤッハバッハの基準で見れば強力な砲撃を放つ唯の戦艦に過ぎないのだ。

 まぁ多数に囲まれれば大抵の艦はどうする事も出来ないが。

 

「隠れるといっても補給はどうする?俺達だって常に物資を運べるわけじゃないんだぜ?」

「それに金も必要だ。資源回収で金を集めるにも限度がある。」

 

 フリーボヤージュ達が発言する。サンテールには食物プラントなどが揃っていたのである程度自給自足が可能だった。今はそういった設備が無い以上宇宙港などから物資をそろえなければならない。その為にはヤッハバッハの目を盗む必要があるし、金も必要だ。

 小惑星帯などから鉱物などの資源を回収したりして金を得る方法などがあるが、それには資源のある小惑星を探し回らなくてはならない。隠れる以上動き回るのは危険だ。

 

「やはり戦うべきだろう。駐留艦隊を壊滅させればコソコソ隠れる事も補給で悩む必要もない。」

「だからそれが無理だって言ってんだろ?頭大丈夫か?」

「サンテール基地が壊滅する原因を作ったやつに言われたくは無いな。」

「お前らが派手に暴れまわるからあいつ等が出張ってきたんだろ。責任を擦り付けるなよ。」

「貴様ぁ!」

 

 ギルバードとレジスタンスが勢いよく立ち上がりディエゴ達を睨む。対するディエゴも敵意むき出しと言った感じで睨み返す。元々仲が良くない両者(というか海賊はそもそも他派閥と仲が良くない)は今までも何度かこういった衝突はあった。

 

 そのたびにフリーボヤージュやアーミーズが止めに入るが、今回フリーボヤージュ達は両者を睨むばかりで止めようとしない。彼らから言わせてみれば基地が壊滅した原因はレジスタンスが活発に動いた事とディエゴ達が逃げ込んだ事の両方が原因と思っているので、どちらに対しても負の感情を抱いているのだろう。どっちも傷付けばいいとでも思っているのかもしれない。

 

「どっちもその辺にしておけ。昨日の責任を追及するよりも明日への行動が今の我々には必要だ。」

 

 大佐に言われてどちらも席に着く。ただしお互いに不機嫌を隠そうともしないので会議室内の空気は険悪なものになっていた。

 

 ここは一度会議を中断して頭を冷やすべきだろう。そう提案しようとした瞬間私の端末から声が聞こえてきた。

 

『艦長。シュレースより緊急通信。ボイドゲートよりブランジ級3隻のワープアウトを確認。こちらへ向かっているとのことです。』

「何っ!?」

 

 その報告に会議室内は騒然となる。必死で逃げてきた所でまたヤッハバッハの追撃の手が迫ってきたとあれば当然の反応だ。

 

 ちなみにシュレースは現在の我々の中で唯一の駆逐艦で、オッゴの訓練と哨戒を兼ねてボイドゲートへ向けて航行していたのだ。カタパルトが無いので艦載機を搭載する事は出来ないが、エアロックにオッゴを接続するという強引な方法で搭載している。

 

『以後シュレースは航路を外れ慣性航行に移行するそうです。』

「いい判断だ。アルタイト、今ここに居る艦の全動力源を停止。敵に感知されそうなものは全部停止するんだ!」

『了解しました。』

「何をしている!?ブランジ3隻ぐらいこの艦なら楽に撃破できるだろう!早く戦闘準備をするんだ!」

 

 私の判断にギルバードが反論し戦闘を訴える。だがそれは出来ない。

 

「ここでブランジを沈めても連絡が途絶すればここに注目が集まる。そうすれば今度は本格的な討伐艦隊がやって来るんだぞ!」

「このまま隠れていても見つかって攻撃されるだけだ!撃たれる前に撃つしかない!お前達!至急戦闘準備だ!」

「「はっ!!」」

 

 分からず屋共め!私の考えを一蹴したギルバートは部下達と共に部屋から出ようとする。このまま行かせれば彼らは艦隊を率いて出撃しブランジと交戦するだろう。そうなればこちらも発見され否応なしに戦闘に引きずり込まれる。ブランジを撃破したとしても今度はこの宙域へヤッハバッハの討伐隊がやってくる。そうなれば全滅は避けられない。

 

 

 

 

 

 

 だから私は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 ギルバードが出口に立った瞬間、銃声と共に一条の閃光がギルバードの頬を掠めた。

 

「―――ッ!?」

 

 振り返ったエドワードは目を見開く。ギルバード以外にも会議室に居た全員の視線が私に集まる。正確には私の手に持っているメーザーブラスターへだ。そこからは白い煙が昇っている。

 

「今ここでヤッハバッハと戦えば確実に全滅する。お前達が全滅するのは勝手だがそれに付き合うつもりは毛頭ない。それでも戦おうとするなら殺してでも止める。」

「貴様!」

 

 ギルバードとその部下が腰のブラスターに手を伸ばす。

 

「やめろ!今はそんな事をしている場合か!!」

 

 大佐が声を上げるがギルバード達は聞く耳を持たない。まぁ銃を突きつけられているから当然といえば当然だが。大佐以外の周りの面々もどう対処すればいいのか分からずうろたえるばかりだ。

 

「シーガレット・・・貴様隠れられると思っているのか?この巨体では連中の目を誤魔化す事は出来ない。」

「戦えば我々がここにいる事が確実に知られる。そうなれば総督府の駐留艦隊が追ってくるんだ。」

「ブランジ艦隊を撃滅した後、速やかにこの宙域から逃れればいいだろう。」

「ここから他の宙域に移るには一度アルゼナイア宙域を経由する必要がある。連中だって馬鹿では無いからボイドゲートを封鎖してから捜索に入るだろう。一度補足されたら逃れられない。」

 

 どちらの意見にも一理あるが、一方は目先にある困難を乗り越え安全な未来を手に入れるのに対し、もう一方は目先の困難を楽に突破しさらに困難な道へ進むものだ。今日生きなければ明日もないからと言って明後日に死ぬ道を進むことはできない。

 

 だから今ヤッハバッハの艦隊を攻撃する訳にはいかない。

 

「!?」

「な、なんだ!?」

 

 不意に艦内に振動が走る。実際には艦だけでは無く宇宙港自体が揺れたらしい。意外と強力な揺れだったので思わずバランスを崩して床に手をつく。その隙をギルバードは見逃さなかった。

 

「!!」

「!?」

 

 二つの銃声が会議室内に鳴り響く。ギルバードが銃を撃った時、私も反射的に引き金を引いたからだ。そして両者の放ったメーザーは互いの胸を撃ち抜いた。

 

「な!?」

「リーダー!?」

 

 焼けるような痛みが走りそのまま床に倒れた。激痛で頭が真っ白になり何も考えられない。

 

「シーガレット大丈夫か!?ランディ!ドクターを呼べ!」

「リーダー!リーダー!!しっかりしてください!」

 

 周りの声がどんどん遠くなっていく。そして私はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ドクターと医療班が駆け付け止血などの応急処置を施された彼らを医務室へと運ぶ。

 

「覚悟はしておいてください。」

 

 処置を済ませた女性のドクターの言葉に会議室にいた一同は沈黙する。

 

『ベルトラム大佐、以後どうされますか?』

「・・・どうするとは?」

 

 ベルトラム大佐はアルタイトからの唐突な問いかけの意味を理解出来ず聞き返す。

 

『接近するヤッハバッハ艦隊に対する処置です。艦長は負傷する前に探知される恐れのある動力源をすべて停止させるよう指示を出しました。ですがこのまま動力を停止させた場合、艦長達の治療が行えず死亡する可能性が高いかと。』

「な!?」

『しかし治療の為にはインフラトン・インヴァイダーを稼働させなければなりません。稼働させればヤッハバッハに見つかる危険は極めて高くなります。』

「・・・ドクター。彼らの容態は・・・?」

 

 大佐の質問を受けたドクターに会議室に居た全員の視線が集まる。特にレジスタンス達はリーダーの安否がかかっているとあってその目にはドクターに対する期待があった。

 

「今すぐリジェネ―ション装置で治療する必要があります。そうしなければ間違いなく二人は死亡します。」

「治療にどれくらいかかる?」

「怪我の具合から見てリジェネ―ション処置で回復するまで最低でも24時間はかかります。」

「そんなに稼働させていたらヤッハバッハが来ちまうぜ!」

「なんとかならんのか?」

「なんともなりません。」

 

 ドクターははっきりと言い切る。

 

「ドクター・・・。もう少し何か考えてくれないか?」

「私は医者です。医者としての意見しか言えません。それをどう受け取るかは貴方達次第だと思います。」

 

 そういってドクターは部屋を出ようとする。ドアに手をかけたとき彼女は一言

 

「できるだけの事はやります。」

 

 そう言い残して出て行った。

 

「・・・できるだけの事はやる・・・か。我々もできる限りの事をやるだけだ。」

「大佐?」

「アルタイト。全動力源を落としてくれ。連中の目をごまかす。」

「戦わないのか!?大佐!!」

「リーダーを見捨てるのか!?」

 

 大佐の指示にレジスタンス達が反論する。だが大佐はそれをきっぱりと切り捨てた。

 

「今ここで見つかれば全員殺されるだろう。たとえあの二人を失ってもここで全滅する訳にはいかん!」

 

 大佐の言葉にギルバードの部下二人は黙り込む。二人に代わってランディが別の意見を言ってきた。

 

「大佐、動力を落とすだけでは目視によって発見される可能性があります。」

「ではどうする?」

「宇宙港の中央に向けて大穴が開いています。そこに艦を入れて入口を塞ぐんです。」

「なるほど、まさか宇宙港の内部に入ってるとは思わねぇな。」

「だが、穴をふさぐ時間はあるのか?」

 

 大佐の質問に答えたのはアルタイトだった。

 

『シュレースより入電。先程強力な恒星府が発生し、それによってヤッハバッハ艦隊に損害の模様。その場で停止しているとのことです。』

「さっきの揺れはフレアの所為か!」

 

 大佐は先程の揺れは恒星風の所為だと思っていたが、実際には恒星風によって吹き飛ばされた小惑星が宇宙港にぶつかったために起きたものだ。

 

「たぶん連中もダメージを受けたのでしょう。停止しているなら損害は深刻なはずです。」

「よし、今のうちに作業を進める!各艦は中央の穴へ入って固定!整備や補修は後回しだ!手の空いているものは全員船外作業で穴を塞ぐ!急げ!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

 ボイドゲートを抜けリベリア・ぺリル宙域に侵入したブランジ級突撃艇3隻は、オーバーハーフェンへ向けて航行していた。

 

「この宙域は強烈な恒星風が吹くと聞いていたが、予想以上だったな。」

 

 ボイドゲートを通りこの宙域に入った彼らを出迎えたのは強烈な恒星風だった。ぺリルより大量の高エネルギー粒子が放出されそれによって船の電子装備に異常を起こしたのだ。ぺリルの恒星風が異常に強烈だったというのもあるが、それよりも艦隊が航行していた位置がぺリルに近かったというのが大きい。

 

 だが、化学が発達した現代において恒星風程度で沈むほど艦艇は脆くはない。ましてそれが星の海を何か月も掛けて渡り他国を征服するヤッハバッハの軍艦である。実際インフラトン・インヴァイダーなどの中核となる部分は無傷で航行に支障はなかったのだが、レーダー等の索敵装備が損傷したのだ。

 

 敵がドン・ディッジを奪取しているという情報を持っていたノイマン少佐は、レーダーが使えない状況で動き回り敵から不意打ちを受けるよりも、見通しの良い現地に留まり修理した方がよいと考え、恒星風の影響が少ない場所へ移動したのち艦隊をそこで停止させ修理を行った。

 

 これによりシーガレット達のもとへ駆けつけるのが6時間は遅れることになった。

 

「タイミングが悪かったとしか言えません。恒星ペリルは不安定で恒星風の予測は極めて難しいのです。」

「仕方がない・・・か。これだけ環境が悪ければ航行する船もいないだろう。隠れるにはうってつけだな。」

「少佐はいると思いますか?」

「可能性は高いだろうな。」

 

この時点でヤッハバッハ側はシーガレット達をヤッハバッハの支配に逆らうテロリストだと考えていた。

宇宙は広大であるが、人類が行動可能な範囲でかつ隠れられる場所はそう多くはない。彼等がテロリストならばテロ行為を行う上でリベリアから離れるとは考えにくいというのがクーラント以下捜索隊の士官達の認識であり、ライオスの意見が採用される要因の一つとなった。

 

「少佐。間もなく修理が完了します。」

「僚艦の2隻とも間もなく修理が完了するそうです。」

「よし、修理が完了次第発進する。僚艦にも伝えろ。」

「「了解。」」

 

そして、ようやく修理が完了したブランジ級3隻はオーバーハーフェンへ向けて出発した。

 

駆逐艦シュレースは慣性航行で航路外へ退避していた事が幸いし発見される事は無かった。

 

オーバーハーフェンにたどり着いた彼らが目撃したのは、軌道上に浮かぶ巨大な構造物だった。

 

「なんだあれは?」

「おそらく宇宙港の残骸かと思われます。大昔に恒星ぺリルが不安定になり放棄されたようです。空間通商管理局も応答しません。」

「宇宙港がこの有様では無理もあるまい。いくらAIと言っても恒星風に焼かれて無事でいるとは思えないからな。」

 

 形を保っているとはいえ、外壁は剥がれ落ち恒星風で焼かれデブリによって穴だらけにされた宇宙港が機能しているとは思えない。そしてノイマン少佐のその予測は事実であった。

 

「こういった所なら隠れるのにもってこいだな。」

「確かにここなら警備の目も届きませんが・・・。さすがに環境が劣悪過ぎませんか?この状況では我々に発見される前に恒星風で焼き殺されると思うのですが。」

「我々に発見されれば確実に死ぬが、恒星風なら艦に居ればある程度耐えられる。それに連中はドン・ディッジを奪っているとみて間違いない。あの巨大艦なら拠点代わりにもなる。」

 

 ノイマンの答えに部下は納得する。ヤッハバッハと戦うよりも過酷な恒星風の方が生き延びる確率が高いからだ。

 

「スキャンレンジに入りました。スキャンを開始します。」

 

 そういってオペレーターの一人がコンソールを操作し廃宇宙港をスキャンする。

 

「どうだ?」

「恒星風の影響か少しノイズがありますが、内部からのインフラトン反応は無いようです。恒星と反対側の宇宙港出入口が健在なので内部への侵入は可能です。」

「それはゼー・グルフ級も内部へ入れるのだな?」

「はい。」

 

 ノイマンは迷っていた。ゲート無しで銀河を渡り勢力を広げるヤッハバッハの艦艇は長距離航行にも耐えられる性能を持っている。新兵器の実験艦であるドン・ディッジも同様でその巨体から拠点としても使用できる。これを利用し辺境宙域のさらに先の深宇宙で、ドン・ディッジを基地としている可能性を考えていた。

 むろん補給等を考慮すればそれを実行するのは難しい。しかし可能性としては0ではない。

 

 ただ連中がこの廃宇宙港に潜んでいる可能性も否定できない。スキャン結果では内部に艦はいないが、電波障害の多いこの宙域ならスキャンを誤魔化すことは難しくない。

 

 結果として彼は無難な選択をした。

 

「一応調べておこう。無人偵察機を出せ。」

「了解しました。」

 

 それは、目視による確認である。

ブランジ級は艦載機搭載能力を持っていない。その為内部を偵察するには、宇宙港に接舷し乗員を乗り込ませるか、全長10m程の無人偵察機を使い内部を調べるかの二択である。実際に乗り込んだ方がより詳しく調べられるがぺリルが不安定な為船外活動は危険だと判断したノイマンは、無人機による内部偵察を行う事にした。

 

 1隻に1機、 計3機の無人偵察機がデブリで開いた穴から内部に侵入する。無人偵察機は見た目はミサイルの下部に楕円形のコンテナを装備したもので、コンテナ内部には大型の内視鏡のようなカメラと小型のドローンが何基か積まれている。

 

「恒星風の所為で溶けてますね。これでは空間通商管理局も機能していないでしょう。」

「まさに廃墟だな。」

 

 無人機から送られてきた映像を見るとそこには、黒焦げになった宇宙港の内壁が映し出されていた。

 

「だいぶ傷ついていますね。アームをはじめ港湾機能はすべて死んでいるようです。」

「内部に艦影は見当たりません。」

「ふむ・・・。他のドックはどうだ?」

「他のドックも確認できません。」

 

 他のブランジから発進した無人偵察機はその他のドックへ向かっていた。しかしいずれの無人偵察機も敵を発見することはできなかった。

 

「少佐、やはりここには居ないのではありませんか?スキャン結果にも反応がありませんし、無人機からも何も確認出来ません。。」

「・・・そうだな。無人機の収容作業にかかれ!それと宙域図を出してくれ。」

「はっ。」

 

 ノイマンの前にウィンドウが浮かび上がり、この宙域の図面が表示される。

 

「ここ以外に隠れられそうな場所は・・・。ここか。」

 

 そう言った彼の視線の先には、ここからしばらく離れた所にある小惑星帯があった。

 

「小惑星帯ですか。」

「連中が拠点にしていたのも暗礁宙域だからな。ここは密度が薄いが隠れる事は出来る。」

「では回収終わり次第進路を小惑星帯に向けます。」

「うむ。」

 

 10分後、無人機を収容したノイマン少佐の艦隊はオーバーハーフェンを後にした。

 




令和初投稿です。

ようやく投稿できました。日に日に書ける時間が減っていて遅々として筆が進みませんが、これからも細々と書いてまいります。
今回も心情描写とかに随分悩んだり書いてる本人が現在の状況を忘れてしまって慌てて過去話を読み直したりしました(笑)。

前々から思っていたのですが、ヤッハバッハって艦種の偏りが著しく感じます。戦艦4種類、空母1種類、巡洋艦1種類、突撃艦1種類と主力艦と艦載機主義で、駆逐艦や魚雷艇やフリゲート等の艦艇が見当たらないのが原因だと思います。

普段のパトロール任務にダルダベルとかをウロウロさせているんですかね?(そういえばヤッハバッハではダルダベルは小型艦とか言ってたような・・・)

それと今回新キャラが出ましたがドクターは役職名で名前ではありません。理由は後ほど明かされます。

それではここまで読んで頂きありがとうございました。新しい元号になってもよろしくお願いします。

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