「発見できなかった・・・と。」
各地を捜索し再度終結した艦隊の報告を受けたクーラント。その声には小さな落胆が現れていた。
「我々が見逃したのか。貴方の予想が間違っていたのか。・・・それとも。」
そこまで言ってクーラントは茶を飲む。その言葉の続きを読み取ったライオスは自分の立場がいささか危うい事を再確認させられた。
敵を発見できなかった理由として考えられる事は3つ。捜索艦隊が見逃してしまったか、ライオスの予想が的外れだったか、ライオスが彼等を庇うためにワザと別方向を捜索するよう進言したか。それはクーラントのみならず他の士官達も同じ事を考えていた。
「ライオス少尉。貴方はどう考えますか?」
ここでクーラントはライオスに質問する。室内にいた他の士官達の視線が集中する中、ライオスは冷静に返事した。
「私としてはやはりどこかの無人地帯に潜んでいるものと思います。」
「自分の判断に誤りは無いと。根拠はあるのですか?」
「はい。こちらをご覧ください。」
そう言って彼は机のホログラムを起動させる。そこには大量のリストが並んでいた。
「これは以前セクター4で回収されたドン・ディッジのモノとみられる残骸のリストです。ご覧の通り搭載されていた物資はあるものの船体部分は発見されていません。」
「爆発によってどこかへ飛んで行ったのでは無いか?」
「確かにその可能性はあります。ですが他の艦の残骸は発見できあの巨大艦の残骸のみ見当たらないのは不自然です。この事からドン・ディッジは敵によって奪取されたものと推定されます。」
「それは以前にもそう結論が出ている!何を今更確認しているんだ!」
ノイマン少佐が苛立ちを隠そうともせず声を荒げる。だがライオスは冷静に対応した。
「このリストに記載されている物資には大量の食料があります。そこから推算して艦内の食料は最低でも4分の3は宇宙に放出されたと思われます。」
「ふむ?つまり敵は食料の備蓄が乏しいと言いたい訳ですか?」
「はい。そして食料を補給する為には宇宙港から補給するしかありません。敵は国内に潜み小型艇などで食料を手に入れている可能性があります。」
「ちょっと待ってくれ。確かゼー・グルフ級には食料生産プラントも搭載されていたはずだ。そいつを使えば危険を犯さず食料を手に入れられるぞ。」
次に発言したのはキール中佐だ。中佐の言う通りゼー・グルフ級に限らずヤッハバッハの艦艇は長大な宇宙を渡り歩く為に食料生産プラントなど各種装置などが搭載されている。必要な食糧を自分の艦内で生産する事で、補給艦の数を減らすと共に広大な宇宙を大軍で、しかもボイドゲート無しで渡り歩くのだ。
「これについては、ドン・ディッジには食料生産プラントが装備されていない事で説明出来ます。」
「何?」
ドン・ディッジに食料生産プラントが装備されていない理由。それは例の対艦クラスターレーザーが原因である。物理的に巨大なシステムである対艦クラスターレーザーを搭載する為にいくつかの装備が取り外されており、その一つが食糧生産プラントだ。
「この他にも長距離航行能力に必要な装備がいくつか外されています。この事から深宇宙に逃走した可能性は極めて低く、生き延びるには先程述べた通り小型艇による“密輸”が頼りと思われます。私としては国内の取り調べを強化し彼等の密輸ルートを割り出すべきと思います。」
「なるほど。」
ライオスの説明を聞いたクーラントの顔が笑顔になる。ただしそれはまるで詐欺師が丁度良いカモを見つけたようなーーー裏で何か企んでいそうな笑顔だ。
「ならばライオス少尉、君に密輸ルートの割り出しを命じます。総督府にこの件に関し便宜を計ってもらいましょう。君の艦隊の指揮権もそのまま持っていて構いません。少尉、成果を期待しますよ。」
「はっ!では早速任務にかかります。」
クーラントが頷いたのを見てライオスは退室する。他の士官も退出した後、部屋に残っていたクーラントは何やら楽しそうに茶を飲んでいた。
「司令官。よろしいのですか?彼にあそこまでの権限を持たせて・・・。」
「君は彼の目を見ましたか?」
「は?」
副官の懸念に対しクーラントは一つ質問をする。訳が分からない副官は気の抜けた返事をするしかなかったが、クーラントはそのまま話し続けた。
「あの目にはかなりの野心を感じますね。確かな才能と野心・・・。それを兼ね備えた若者の行く末を貴方は気になりませんか?」
「彼の行く末ですか?彼の野心がどの程度か分かりませんが、彼の才能次第では無いでしょうか?」
「はっはっはっは!」
それを聞いたクーラントは笑い出す。副官としてはごく普通の答えを返したつもりで、どこに笑いのツボがあったのか彼には分からない。
「私は大いに興味があるのですよ。一国の軍隊を壊滅させ国を滅ぼした王子の野心と才能がどこへ向かうのかね。」
「・・・だからあの様に権限を与えたのですか?」
クーラントはそれ以上は答えずに楽しそうに茶を飲み干す。こうなるとクーラントは何も答えない。そういった人なのだとこれまでの副官生活で知った彼は黙って差し出されたカップに茶を注いだ。
「艦長、準備出来次第直ちに発進する。」
一方で、クーラントから密輸ルートの割り出しを命じられたライオス・フェムド・ヘムレオンは、与えられたブランジ級突撃艦のブリッジで艦長に指示を出していた。
「で、ライオス少尉。目的地はどちらに?」
そう言って体格の良いいかにも粗野な下士官といった風貌の男が聞き返す。この男がブランジ級の艦長で、階級は少尉、歳はライオスと2回り以上も差がある。
「まずはリベリアの総督府へ行き情報を集める。ただ闇雲に国中探し回ってもしょうがないからな。」
「はいよ。出航用意!目的地はリベリア!」
艦長の命令で艦内が慌ただしくなる。それを尻目にライオスはブリッジの椅子の一つに座るとコンソールに映し出されたこれから向かう目的地の惑星ーーーかつて自分の婚約者がいた惑星を眺める。その瞳に哀しみが浮かぶがそれは一瞬の事で、すぐにいつも通り己の野望を秘めた目を取り戻した。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー
「・・・ん。ここは・・・。」
眩しい。何かが目の前で光っている所為で眩しくてよく見えない。ただだんだん目が慣れてくると見知らぬ天井があった。
「おはようございます。気分はどうですか?」
そう言って私の顔を覗き込む影が現れた。
「エドワード・・・。お前がいるという事は私はまだ死んでいないのか?」
「一応その様ですね。」
どうやらダークマターになるのはまだまだ先の事らしい。目覚めの一杯としてエドワードが水を差し出してきたので上半身だけ起き上がってそれを飲む。
ただの冷えた水だが、美味しく感じる。
「で、あの後どうなった?」
飲み干した所で私はエドワードに現状を尋ねる。ギルバードと撃ち合った事は覚えているがその後の記憶が全くない。
「まぁ色々ありましたがね。」
そう言ってエドワードはあの後の状況を話し始めた。しばらく時間は巻き戻る。
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ーーー
「ーーーーなんとか見つからずに済みましたね。」
「あぁ。」
ランディの言葉にベルトラム大佐は頷く。彼等の作戦が成功しヤッハバッハの目を欺く事が出来たのだ。
「かなり運が良かったですね。」
「あぁ、とてつもなく良かった。」
彼等の言う通り、今回見つからずに済んだのは奇跡と言ってもいいものだった。ヤッハバッハ側のスキャナー等が万全で無かった事や恒星ペリルによって索敵機能に障害がでること。宇宙港の中央に全長4kmの巨大艦が隠れられる大穴が開いていた事、ノイマン達がまさかドックではなくドックより奥の区間に潜んでいると思わず調査しなかった事など、いくつもの奇跡が重なった結果である。
無論ノイマン達が杜撰な調査をした訳では無い。だが相手がゼー・グルフ級を奪取しているという情報によって勝手に宇宙港内の大型船用ドッグ内だという無意識な思い込みが大きな要因になった。
目視確認もしたが、スキャナーの結果を確認する為に見渡した程度で偽装された穴を発見することは出来なかった。
「一度引き返してきた時は冷や汗をかいたがな。」
ノイマン少佐はオーバーハーフェンの奥にある小惑星帯の調査を終えた後、再度この廃宇宙港を偵察した。ベルトラム大佐は、ヤッハバッハ艦隊がボイドゲートの方向へ向かわなかったので彼等が索敵範囲外に出た後もそこから動かずインフラトン・インヴァイダーを稼働させなかったのだ。もし稼働させていればインフラトン反応を感知されて発見されていただろう。
「ヤッハバッハ艦隊、索敵範囲外へ出ました。」
「念の為主機関を起動させるのは30分後にする。」
「了解しました。他の艦にもそう伝えます。」
部下の一人に他艦への連絡を任せるとベルトラム大佐はランディにこう言った。
「医務室に行って30分後に動力が回復すると伝えてくれ。それと二人の容態も確認するんだ。」
「了解しました。」
そう言ってランディは艦橋から出て行く。船内通話は電源が降りている為使用できず、念には念を入れ端末の通信機能なども遮断されているので、こうして伝令が艦内を走って伝えるしかないのである。
ゼー・グルフはその巨大艦ゆえに艦内の移動時間も長くなる。その為艦内部には移動用の列車が備えられているが、列車を稼働させる為の動力はインフラトン・インヴァイダーによって生み出される。
無論、インフラトン・インヴァイダーが停止している今それを使う事は出来ないのでランディは、ほぼ無重力下の艦内を歩いてサブ医務室へと向かっていた。
ヤッハバッハの艦艇は、戦闘時に艦橋などの指揮所が破壊されても素早く指揮を引き継ぎ戦闘を継続できるようにCICを拡散させるなど生存性を高めた設計がなされている。それはCIC以外にも採用されており、医務室や機関制御室などはメインとなる場所の他にも至る所にサブとして存在する。
リベリアでも生存性を高めるためにそうした設計は取り入れられているが、ヤッハバッハ程徹底はされていない。あまり指揮系統を各所に散らばらせると今度は各所で認識の齟齬などから戦闘に支障が出る為だ。優秀な指揮官や兵士が大量にいてこそ採用できるものなのだ。
それを可能にしボイドゲートを使わずに大軍を率いて宇宙を渡り他の銀河を征服する。それがヤッハバッハなのだ。
「(もし正面から戦ったとしてもリベリアに勝ち目は無かっただろう・・・。)」
医務室に行く途中ランディはそんなことを考えていたが、頭を振ってその考えを振り払った。もしもあの時といった仮定は、決して巻き戻る事のない時間の中において無意味なものなのである。
ランディが艦橋近くのサブ医務室(サブの医務室でたいして大きくない)に着くと、二人の武装した男が立っていた。
「ご苦労。何か異常はあったか?」
「いえ何もありません。」
彼等はこの医務室を守る護衛である。実際には護衛というよりもギルバードを撃ったシーガレットをレジスタンスの報復から守るためだ。
医務室に入るとドクターが一人コーヒーを飲んでいた。だがその額には汗が滲んでおり顔は疲労している。先ほどまで重傷の二人を必死に治療していたのだ。
「ドクター。30分後にインフラトン・インヴァイダーが使用可能になります。」
「今すぐに使えないの?」
「まだ敵が近くにいますので、ここは念の為にとの事です。所で二人の容態は。」
そう聞くランディに対しドクターは一度コーヒーをすすってから報告する。
「二人とも一応生きているわ。傷も塞いだし止血も輸血もした。痕は残るでしょうけどリジェネーション処置をするなら跡形も無く消えるわね。しばらくすれば目がさめるでしょう。」
そういってドクターはもう一度コーヒーをすする。至極当然のように話しているが、現代においてリジェネーション処置を使わずに瀕死の重傷者を救うのは至難の技だ。
「まぁしばらくは安静にしている必要があるわね。何せ旧式の荒療治をしたものだから身体にはそれなりの負担があるわ。リジェネーション処置をするとはいっても、治療が原因で何らかの悪影響が出ないか保証は出来ないから経過観察の要ありと言っておくわ。」
そう言ってドクターはモニターを指差す。そこには二つの部屋が写っており、中にはベットに寝かせられ点滴を受けている2人の姿があった。
2人が無事な事にランディひとまず安心した。万が一にもどちらかが死亡した場合、それなりの動揺を与える事が予想されたからだ。仮にシーガレットが生き残りギルバードが死亡した場合、ギルバードに盲信するレジスタンスが報復の為シーガレットを殺そうとする可能性がある。そうなればこの艦を動かしているAIのアルタイトが艦長の身を守る為に艦内の防御システム(艦内に仕込まれている対侵入者用のタレットなど)を使いレジスタンスと交戦するだろう。
実際アルタイトからその可能性を示唆して来た為、ベルトラム大佐達は彼等が助かるかどうか内心冷や汗ものだったし、医務室にアーミーズを配置するなど保安にも気を配る必要が出てきたのだ。
ちなみにドクターが言っていた旧式の荒療治とは、人類が宇宙に出る以前に誕生した針や糸や接着剤などで傷口を塞ぐ方法の事だ。電源が喪失しても、道具と技術を持った医者さえいれば行える方法であるが、医学が発達しリジェネーション処置が普及した現代では全ての医者が行える訳では無い。機械による診察とリジェネーション処置による治療で全てを済ませてしまう医者もいるし、使い方さえ分かっていれば唯の0Gドッグや一般市民でも治療出来てしまう。
逆にリジェネーション装置が無い又は受ける事が出来ない貧しい地域には、旧来の方法による治療を行える者もいるが大抵はヤブ医者である。
だが困難な状況で見事に2人の重傷者の命を救ったドクターの腕は本物であり一級品だろう。
「分かりました。大佐にも伝えておきます。それにしても見事な腕ですね。」
「そう、ありがとう。」
ランディの賞賛に特に表情を変える事なくコーヒーを飲み続けるドクター。ランディはドクターに一礼すると医務室を後にした。
「と、言う訳だ。一応諸君のリーダーは無事だから安心してくれ。」
ランディから報告を受けた大佐は目の前に詰め寄るレジスタンス達に事の顛末と容態を伝えていた。
どこから始まったのか不明だが当初シーガレットがギルバードを殺したという誤った情報が伝えられ激発したレジスタンスがアーミーズと揉める事態が発生した。だが、アルタイトがギルバードの声や姿を真似て作った映像で自分は無事なので大人しくするようにと指示を出すことにより何とか最悪の事態は避けられたのだ。
「じゃあ我々を騙していたのか?」
「仕方が無かったのだ。あの状況ではいくら此方が説明を重ねたとしても諸君らは納得しなかっただろう。あの時接近するヤッハバッハに対し急ぎ対策をする必要があった。致し方ない処置だ。」
レジスタンス達は騙されていたという事実から大佐の説明を信じようとはしなかった。ひょっとして何か裏があるのでは無いかと疑っているのだ。だが、ひとまず自分達のリーダーが無事な事から、リーダーが回復した時改めて今後の方針を決めようという事になった。
「全く・・・。」
自分では何も決められない連中がやかましい事だ。と、大佐は退出したレジスタンス達を見て思う。大佐から見てギルバードという男は良く言えば公明正大、悪く言えば理想主義者である。決断力と人を集めるカリスマ性を持つが、理想に傾く傾向があり侵略者からの祖国解放などはまさに彼が喜びそうな”理想“である。もとい“幻想”かも知れない。決断力とカリスマ性と理想を持ち、実行力と現実を見る目を持たない男。大佐の主観ではギルバードという男はこう見えるのだ。
そしてその男に追従する者達もまた、大佐の目には叶わぬ“幻想”を追い求め盲従し現実から目を背けているように見えるのだ。
「理想に取り憑かれているな。」
「何か?」
「いや、なんでもない。それより現在の状況はどうなっている?」
独り言を聞きそびれたランディは、それを気にすることなく状況を報告し始める。
「現在各艦の修理をしていますが、資材不足や設備不足により思うように進んでおりません。フリーボヤージュ達も集めてくれてますが監視を掻い潜りながらだとやはり量が足りません。食料や医薬品も将来の事を考えるとやはり安定した供給先を確保したい所です。」
「量を増やすにしてもそれで見つかれば元も子もない。こちらでやりくりするしかないな。」
「人員不足も顕著です。ほぼ全ての艦で最低稼働人員を下回っています。」
「人員は増やしようがない。ここは状態の良い艦を有人運用とし残った艦を無人艦にするべきか。」
船は最低限これだけの乗組員がいなければ動かせない最低稼働人員という要目がある。船の大きさや用途により100人単位から1000人単位になり、これを下回ると船の能力がグッと下がってしまう。
その対処としてアルタイトのようなコントロールユニットなどのサポートで必要な人員を減らしたり人を乗せずに無人で運用する方法があるが、コントロールユニットは高価で廃宇宙港にはそれを作る設備も資源もない。無人運用ならば備え付けのコンピューターでも可能だが動きがトロく単調なので決まった定期航路をプログラム通りに動かす事ぐらいしかできずあまり使われない。
また管理局のドロイドを借りるという手もあるが、ペリルの宇宙港は崩壊しているし余所の宇宙港から持ってくるにしても、手続きの為にゼー・グルフ自体が入港する必要がある。そんな事をすればヤッハバッハに見つかる事間違いなしである。
「我々の船も全て無人艦にしてしまうか。」
「良いんですか?」
「どうせ殆どが損傷している。傷付いた船で無理に戦うよりそれらは囮にして人員はこちらに集中させた方がいいだろう。これを確保しておけば他の連中に対し有利に立てるからな。」
大佐は、下手に少人数で船を動かすよりも無人艦にして囮として利用し、自分達はゼー・グルフに乗り込もうと考えていた。今までアーミーズが他派閥よりも発言力が大きかったのは、サンテール基地を保有し管理していた為だ。そして今度はこのゼー・グルフをサンテール基地の代わりに確保し発言力を高めようとしているのだ。
「レジスタンス側でも似たような事を考えていそうですね。」
「まぁな。だが、この船を動かすにはアルタイトの協力がいる。そしてその管理者たるシーガレットと製作者のエドワードの2人の身の安全はアルタイトの協力を受けるのに必要な事だろう。」
「大佐・・・。大佐は今何を考えているのですか?」
「・・・我々が生き残りる為にどうするか、だ。」
大佐の言う我々とは一体誰の事なのか。答えが薄々分かったランディはその質問を飲み込んだ。
ーーーーーーー
「といった感じで内部でギスギスし始めたって感じですね。」
「ヤッハバッハを目の前に派閥で睨み合いか。まるで以前のリベリアだな。」
以前大佐から聞いた話だが、ヤッハバッハの接近を知ったリベリアはこれを利用して勢力を拡大しようとする連中が幾人も居たらしい。当然、ヤッハバッハ以前にヘムレオンに背中から刺された為にそれらの野望は叶わなかったが。
「ついでに補足しますと艦長は一部の過激レジスタンスの報復リスト入りしてますね。」
「ああしなかったら今頃全員ダークマターだったろうに。酷い連中だな。」
どうせギルバードは通報する時間を与えずに撃破するつもりだったのだろうが、暗礁宙域ならいざ知らずこんな見晴らしのいい宙域では不意打ちも何も無い。仮に通報させる事なく撃破出来たとしても連絡の途絶えた場所から大体の場所を判別するくらいは出来るし、少なくともこの宙域は封鎖される。そうなれば食糧を供給する当ても無くなる。
つまり、通報されたか否かに関わらず攻撃した時点でこちらの“負け”となる訳だ。
「そうなったら「封鎖される前に別の宙域に隠れる。そうすればヤッハバッハがここに注目しているので発見される危険が少なくなる。」とか言い出しそうですよ。」
「そりゃ言うのは簡単だからな。」
口で言った事が確実に実行出来るならこの世に失敗の二文字は無い。そういった意味でギルバードは現実が見えていない。
「まぁ、あのギルバードって人はリーダーっていうよりも信仰の対象みたいな感じですからね。あの人の言うことが正しいって事になるんじゃないですか?」
「あぁ、何となく分かる気がするよ。」
確かにレジスタンスにはそう言った雰囲気のようなものがある。新興宗教によくある神の言うことは絶対というほど露骨では無いが、薄っすらと確実にそれは存在する。ギルバード自身がそれに気づいているとは思えないが。
「で、これからどうするんだ?」
私の質問に答える前にエドワードが剥いた果物を差し出してきたので、それを食べながら彼の話を聞く。
「結局会議はヤッハバッハの所為でお流れになってしまいましたので、今のところ具体的な方針は決まっていません。アーミーズと海賊は隠れる事を、レジスタンスは徹底抗戦を唱えています。」
「フリーボヤージュは?」
「物資集めに出ていたりしてよく分かっていないですが、内部で意見が割れているらしいです。」
大佐達はサンテール基地を失った以上隠れるべきだと考えているし、私もそれに同意見だ。今更ヤッハバッハに投降しても良くて監獄の中だろう。だが、やはりレジスタンス達は戦うつもりらしい。フリーボヤージュ達の意見が割れたのが意外だったが、国は捨てても生まれ故郷に愛着を持つ者もいるのだろう。
「で、俺達はどうします?」
「・・・うーん・・・。」
わざとらしく腕を組んで唸ってみるが、答えはすでに決まっている。エドワードもそれを分かっているから笑顔で果物を差し出してくる。
「実は大佐達から“秘密のお願い”が来ているんですよ。」
「“秘密のお願い”?」
「えぇ、“いざという時には互いに協力して自分達の敵を追い出そう”って。」
「それってアーミーズとレジスタンスの対立が激化した時にはアーミーズと一緒にレジスタンスを追い出そうっていう意味に聞こえるんだが。」
「そういう事です。」
つまりはアーミーズの味方になれという事だ。大佐の思惑は恐らく私達を味方につけるよりその仲間のAI『アルタイト』が操るこのゼー・グルフを手に入れたいのだろう。巨大で強力なこの戦艦を手に入れれば発言力は大きくなるし、いざ内輪揉めという時に強力な武器になる。
その為にアルタイトの管理者権限を持つ私と開発者のエドワードを味方に引き入れたいのだ。
「お前はどうする?アーミーズに味方するのか?」
「いやだなぁ艦長、前にも言ったじゃないですか。俺は煩わしい組織から抜けて研究がしたくてこの船に乗ったんですよ。他の組織がどうなろうが知った事では無いですね。ですが、せっかく自由に研究できる場所が出来たのにそれが無くなるのは困ります。」
「そうだな、私も船が無くなるのは困るしな。」
「なので艦長、良い判断を期待します。」
言うだけ言ってぶん投げたなコイツ。エドワードの希望としては他所の事など知らないが、自分の研究所が無くなるのは嫌だという事らしい。
「ま、アーミーズに味方するしか無いな。」
結局、現状で私が取れる手はアーミーズの味方になるしか無い。レジスタンスには報復対象にされているし、自分達のリーダーを撃った者を味方に引き入れる気など無いだろうし、味方になったとしても最低でも私の身の安全かどうかは怪しい。最悪、アルタイトの管理者権限をギルバードに譲らされて私は用済みとして始末されるかも知れない。エドワードはアルタイトのメンテ要員として生かされるかも知れないが。
「ま、そうですよねぇ。」
「お前は兎も角私は命を狙われてるのに等しいからな。」
「そんなあなたに本日の商品のご紹介です!!」
いきなりシリアスな雰囲気をぶち壊して、まるで何処ぞのIP通販みたいな台詞を叫び出す変人エドワード。
「命を狙われているそこのあなたに朗報です!今回の商品はこちら!艦長とソックリに作られたアンドロイド!通称『ドッペルドロイド』です!!」
いきなり捲し立てると医務室のカーテンを勢いよく開ける。カーテンの向こうにはフードを被った人が1人立っていた。そのフードを脱ぐとそこには、もう一人の私が現れた。
「うわ!?なんだこれ!?」
「この前回収したアンドロイドを元に作ってみたんですよ。どうです?見分けがつかないでしょう?」
そう言われて鏡を渡されたので、それと見比べてみる。確かに顔は殆ど見分けがつかない。身体も服が違うだけで背丈も体格もまるでそっくりだ。
「確かにすごいなこれは。会話とかも出来るのか?」
「はい、可能です。」
私の質問にエドワードでは無い別の声が答える。その声は目の前の私そっくりなアンドロイドから、私にそっくりな声で答えた。
「もしかして・・・アルタイトか?」
「はい。私が遠隔で操作しています。」
なるほど、確かにアルタイトの性能ならアンドロイド1体動かすのも訳ないか。
「艦内を掌握している私であれば、“艦長の体を完璧に再現されている”このドッペルドロイドをより効率的に行動する事が可能です。また艦長の行動パターンも解析出来ており、艦長とほぼ同じ行動を取る事が可能です。」
そう言ってアルタイトは、色々表情を変えたり体を動かしたりする。色々動けるのは分かったから私の姿でロボットダンスはやめてくれ。
「にしても随分精巧に出来ているな。改めてお前の凄さが分かった気がするぞ。」
「いやぁ~、それほどでも。あっははははは!それじゃあ我々はこれで失礼します。他にも何かあったら端末を通して教えますよ。では。」
「あ、あぁ。」
そう言ってエドワードはさっさと部屋から出て行く。私はてっきりオッゴの様に長々と仕様を説明させられるのかと思っていたが。おそらく、大佐辺りから修理を手伝ってくれる様頼まれてもいるのだろう。
「まぁどこも人不足だからな。」
この時の私は、病み上がりな所為か頭が回らず、ドッペルドロイドをいつ、どうやって、私そっくりに作ったのかという事を忘れていた。
私がその製造方法を知るのは少し後である。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
「ふぅ・・・危なかった。」
医務室から護衛の兵士にドッペルドロイドの事がバレない様に退出したエドワードは、そう言って胸を撫で下ろす。あの様な変なテンションで艦長に紹介したのも、下手に隠してバレるよりも、最初に簡潔にだけ紹介してしまって後は余計な事に気付かれない様にしておこうという悪あがきだ。
「艦長に気付かれずに済んだようですね。」
「心臓に悪いから余計な事を言うのはやめてくれ・・・。」
エドワードは、いつシーガレットに自分の身体のデータを集めたのかと訊かれるかヒヤヒヤしていた。まさか馬鹿正直にシーガレットの入浴シーンを見てそれを解析してスリーサイズを出したなんて言える訳もない。
「で、お望みの体で出歩いた気分はどうだい?」
そう聞くとアルタイトは艦長がしない様なムフフというちょっとアレな笑い声を上げて、ーーいや違った。夜中に一人で株で儲けたクレジットを数えてる時にそんな顔をしていた。やっぱりキチンと行動パターンをコピーされているんだな。
「やはり人間の体で歩き回るのは素晴らしいですね。経験値が違います。」
「あくまで艦長の姿なんだから変な事しないでくれよ。本当に、本気で、頼むから。」
執拗に頼むエドワード。ここで変な問題を起こせば絶対に怒られるし芋づる式で盗撮の事もバレる。 ・・・というか何故してもいない罪がバレる心配をしなければいけないんだ?
この後、彼が着せられた濡れ衣が発覚するのに対して時間はかからなかった。
亀のようなスピードでノロノロ書いております。
こう、内部の人間ドラマみたいなものを書き続けていると筆が進まなくなってきて少し参りました。
艦隊戦成分が足りなくて唐突に艦隊戦描写をぶち込みたくなるのが何回かありました(笑)
正直なところこれまででキャラクターが色々出てきて、たまに自分で作ったキャラの事を忘れてしまう時があります。原作キャラでもちょっと改変というか想像で書いたりしてます。その為どこか変な所があるかもしれませんが、そういった違和感は事象誘導宙域にでも放り込んで頂けると幸いです。
さて、11話という所まで書き進めてきましたが、本作品の文章や表現などに何か問題点などないでしょうか?
実際私も本文を見直しした時に「もう少しマシな言い回しが無いのか」や「もっと読みやすく伝える事が出来ないのか」といった事を思ったりします。手直し出来る範囲ではしていますが、どう手直ししていいか分からずそのままになっている所も多々あります。こればかりは場数や経験を重ねるしか無いと思っています。
何かありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
それではこれからも異常航路をよろしくお願いします。