異常航路   作:犬上高一

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第15航路 光と影

ーーー惑星フラベク地上―――

 

大気圏突入に成功した私達は、ある小さな街の近くの森に船を隠した。この近辺で最も大きな街だが、その規模はたいして大きくない。それもそのはずで、生産と交通の要所である軌道エレベーターから離れれば離れるほどに人や物の流通は少なくなる為である。

 

私達は航海長に船を任せ、街を目指し出発した。道なき道を歩くことしばらく、ようやく目当ての街にたどり着いた。

 

「なんともまぁ・・・。」

「うーんこれは・・・。」

 

ポプランとコーネフの二人がそんな感想を漏らす。原始的な家屋が並ぶここは時代を間違えたのでは無いかというくらいの見た目だ。街の規模は大きいが、手入れがされていない家屋があるのかいくつかが朽ち果てていた。

 

「何というか・・・こーりょーとした風景ですね。」

「本当にここで食料が調達できるのか?」

「知らん。」

「し、知らんって艦長。」

「ヤッハバッハの索敵を交わして惑星に降りるので手一杯だったからな。調達先の事なんて考えていない。」

「おいおい・・・。」

 

私の答えに脱力するポプラン。確かに調達先を知ってはいるが、そこから調達出来るとは誰も言ってない。

 

「これだけの街なんだ。食料品を扱っている所だってあるはずだろう。」

「食料を取り扱うどころか、人がいるのすら怪しいんですが・・・。」

「さすがに誰もいないと言う訳は無いだろう。」

「でも人数分の食糧が用意できますかね?」

「なければビタミン剤でも調達するさ。」

 

そう言われて、錠剤とサプリメントの食事を想像した3人は顔をしかめる。そうならない為にも、食料を見つけないとな。

 

 

 

 

 

―――フラベクの田舎町―――

 

寂れた街の中を歩く。その間誰一人街の人間とはすれ違わなかった。しばらく街の中を歩くと、一軒の酒場が目についた。明かりがついているからおそらく人がいるのだろう。

 

「なんじゃあんたら見ない顔だね。どっからきなすった。」

 

小さな酒場には老人が一人エプロン姿で立っていた。どうやら彼がこの店のマスターらしい。

 

「宇宙さ。貨物船に乗ってここら辺を飛び回っているよ。」

「あ~ぁ!もしかしてあんたら0Gドッグって奴か!0Gドッグなんて見るのは何年振りじゃろなぁ。」

 

ヨロヨロと歩きながらグラスを並べ液体を注ぎ差し出してきた。

 

「0Gドッグちゅうたら酒が大好きじゃろ。」

 

そう言われて差し出されたのはいいのだが、いかんせんその中身が問題だった。液体が入っていた瓶の形状からおそらく飲み物だろうが、何なのか分からない。他の3人はグラスと私を交互に見ている。

 

こいつら私に毒見させようとしているな・・・。

 

ただ、差し出された酒を飲まないのも非礼に当たる。これから情報を得ようとしているのにわざわざ軋轢を生むような行動は慎むべきだと割り切って中の液体に口をつけた。

 

「・・・。」

「・・・どうですか?」

「・・・うまい。」

 

まず鼻の奥をほんのりとアルコールの匂いが刺激する。舌に広がる甘さはミルクの味だが、その後に舌の上に残る苦みが走り、喉を軽く焦がして胃を温める。まさにこれは・・・。

 

「酒・・・だな。」

「へっへっへ、甘いぞお嬢ちゃん。これはただの酒じゃあない。新鮮なホルスタの乳にここで作られた宇宙一のウィスキーを混ぜて作り出したものじゃ。この星はおろかリベリアにだってこんなに旨い酒は無いじゃろうて!」

「お嬢ちゃんだって。」

「ぷっくっくくくっ。」

 

自信満々に酒の説明をするマスターの横で私のお嬢ちゃん呼ばわりを笑うパイロット2人。こいつ等後で覚えておけ・・・。

 

「更にじゃ、この土地名産の果物盛り合わせケーキじゃ。この酒にはこいつが一番合うぞい!!」

 

そう言ってマスターは冷蔵庫から小さなワンホールのケーキを出すと、それを綺麗に切り分けて差し出してくる。

 

3段のケーキはスポンジの間にそれぞれ別の果物がクリームと共に挟まれ、一番上にはスポンジ生地の上に薄く塗られたクリーム。そしてその上には半分に切られみずみずしい果肉を見せる果物がケーキを覆うほど大量にかつ綺麗に並べられており、その上に何やら茶色い粉末がまぶしてある。

 

「さぁ食べてみんしゃい。」

 

差し出されたフォークを受け取ると、私はケーキの一角を口の中へと頬張る。

 

「――ッ!!」

 

一口食べるとまずクリームの甘さとスポンジの柔らかい感触が口の中を覆う。湿り気がちょっと多めのクリームに乾燥したスポンジ生地が丁度良い。さらにケーキを噛むと、今度は果物の甘酸っぱい果汁が口の中に広がる。クリームとスポンジで甘くなった口の中を、まさに今欲していた酸味という名の刺激が走る。酸っぱくなった舌を再びクリームの甘さが包み込んでいく。まさに無限ループ。そして―――。

 

「――上にかけられていた茶色い粉は・・・チョコレート・・・ですな?」

「大正解いぃ!!」

 

クリームの甘ったるさと果実の甘酸っぱさ、そしてチョコレートのほろ苦い甘さが融合したケーキは、最近質素なものしか食べていなかった私を夢中にした。

 

更にケーキの甘さを酒の辛さが洗い流してくれる。まさにこのケーキと一緒に飲むための酒だ。

後の3人も一口食べた後目の色を変えてバクバク食べる。あっという間に皿の上のケーキは空になった。

 

「こんなに美味しいもの久しぶりに食べたぜ。」

「そう言ってくれっとワシとしても嬉しっぺよ。」

 

にかっと笑うマスターに、好感を覚えずにはいられなかった。

 

「所でマスター。ここら辺に野菜を売っている店は無いか?大量に」

「野菜?近くに農場ならあっけど、なしてこないだとこで買うんだ?軌道エレベーターの方に行けばいっぱいあっぞ。」

「あー、それはその・・・。」

 

至極当然の問いに返事に詰まる。まさか正直にヤッハバッハから逃げているんですと答える訳にもいかない。

 

「いやー、それがこの星の新鮮な野菜を買ってきてくれなんて言われたんだが、依頼主が都市部の野菜じゃ駄目だとか言うものでさ。」

「こうしてここまで来たってことさ。」

「はぁ~それはご苦労だなぁ。」

 

パイロット2人組の咄嗟のアドリブをどうやら信じてくれたようだ。宇宙に住む0Gドッグ達はミッションを受けて金銭を得る事がある。そういった話は地上でもよく知られているので、マスターも簡単に信じたのだろう。

 

「で、ここら辺で野菜が手に入るところは無いのか?」

「あるべぇ。少し北に行くとおっきな農場があるからよ。そこならたぶんお目当てのものがあると思うでよ。んだどももうすぐ日が暮れっから、農場に行くなら明日にした方がええべな。」

「ありがとうマスター。」

「んで、お代だがよ。」

 

唐突に金の話にされた。一応金は持ってきているが・・・。

 

「あぁ、いくらだ?」

「んにゃ金は要らん。その代わり―――。」

「その代わり?」

「わしをあんた等の船に乗せてくれんか?」

「はえ?」

 

てっきり高額な金銭を要求されるのかと思ったら、クルーにしてくれときた。

 

「なんだってまた急に。」

「わしゃ子供の頃から宇宙に出たいと思っておってな。ただ、いろいろ事情があってな。ついぞこの年まで地上で暮らしとったんじゃ。老い先短い身なればこそ、今が最後のチャンスじゃと思ってこうして頼んどるわけじゃよ。」

「マスター・・・本気か?俺達が言える事じゃ無いがこのご時世に0Gドッグなんてホイホイ出来るもんじゃないぜ?」

「そんな事百も承知じゃよ。」

「ヤッハバッハに追いかけ回されるかも知れませんよ。」

 

かもしれないじゃなくて、現に追いかけ回されるんだがな。

 

「ふんっ、わしゃあいつらが嫌いでな。媚び売って生きる気はさらさら無いわい。」

「・・・そこまで言うなら、乗せてもいい。」

「本当か?」

「あぁ、ただし途中で辞めます何て言っても降りられないからな。辞めるなら今のうちだぞ。」

「こんなチャンスを逃して溜まるかい!意地でも着いていくぞい。」

「逞しい爺さんだこと・・・。」

 

ポプランの言う通り、ヤッハバッハの統制下で0Gドッグになろうなんてよっぽどの覚悟があるものか、さもなくば物事を深く考えていない阿呆かのどちらかだ。

 

おそらくマスターは前者の方だろう。腰も曲がって皺だらけの手と顔で、はたから見れば0Gドッグが務まるのか疑問に思うが、その目だけは希望と憧れに輝いていた。

 

「ワシの名前はカーフィーじゃ。」

「私はシーガレット。艦長をやってる。」

「俺はポプラン。こっちがコーネフ。」

「僕はエドワードです。」

「では以後よろしく頼む、艦長。」

 

ちゃらちゃちゃー♪

何故か頭の中でファンファーレが鳴った気がしたが気のせいだろう。

 

「では、これを祝して飲むかの。」

 

そういうとマスターことカーフィーは、後ろの棚の酒を片っ端から持ってくる。大して大きくは無いが、それでも大量の酒がカウンターの上に広げられる。

 

「じ、爺さんこんなに飲むのか!?」

「なーに、宇宙に出るとなればこの店も畳まなければじゃで。閉店ついでに片っ端から飲めばいいんじゃよ。」

 

そう言ってグラスに適当な酒を注いでいく。私達は一度顔を見合うが、注がれていた酒を受けないのは失礼だろうという事で、カーフィーの好意に甘え酒を頂くことにした。

 

数本のボトルといくつかの料理が空になる頃には互いに打ち解け合っていた。

 

カーフィーは、惑星フラベクの首都にある酒場の息子として生まれ少年時代は0Gドッグになって宇宙を飛び回りたいと思っていたそうだ。結局家業を継ぐ事となり、細々と酒場を切り盛りしていたある日、この田舎に新都市を建築する計画が持ち上がったらしい。開拓団が送り込まれ未開の地が切り開かれた時、馴染みの客から開拓地で店を出さないかと誘われたそうだ。

 

開拓地はまだまだ発展途上だったが既に街の原型というものは出来上がっていたらしい。それでもほとんど店が出ていなかったし、計画では首都並みの大都市を作る予定でこれからも移民が送り込まれる予定であった。ライバルがいない事やこれからの需要を考え、彼はここに店を出すことに決めた。最近売り上げが落ち込んできているのも彼に決断させた。だが、ヤッハバッハの襲来によって計画が中断してしまった。その後ヤッハバッハの統治が始まった中で、この開発計画を推し進めていた高官が過去の汚職で逮捕されてしまい、開拓計画は完全に中止してしまったのだ。

 

「当時はすでに大量の移民がここにいて、まさにこれから発展していこうという所だったんじゃ。じゃが、ヤッハバッハの所為で中止になっての。こうして寂れた作りかけの街だけが放置されたと言う訳じゃ。」

「だからこんなに寂れているのか。」

 

取り残された開拓地の人々の殆どが元の地へ帰っていったが、すでに農場を始めたりした人などの一部がまだ残っているらしい。

 

こうして過去旧体制下で行われた不正を暴き旧体制への不信感と憎悪を植え付けると共に、侵略者である自分達の印象を良くし自分達の立場を強化する。ヤッハバッハに限らず被征服地への統治方法としての常套手段である。

 

リベリアではヤッハバッハの統治を歓迎する雰囲気もあるらしい。実際旧体制による不正事件は連日ニュースを騒がし経済格差は広がる一方だった。そんな中で“しわ寄せ”を受けていた人々からすればヤッハバッハは救世主に見えているのだろう。

 

だが、その隣ではカーフィーのように別の人間が新体制によって“しわ寄せ”を受けているのも事実である。既得権益を得ていた人間もそうだが、旧体制によって進められていた事業に参加していた人々も旧体制を否定しヤッハバッハの統治を固める為に切り捨てられてしまったのだ。

 

「ヤッハバッハだかなんだか知らんがぁ、ワシからすればワシらの人生を狂わせた侵略者じゃて・・・。」

 

海賊が減り治安が良くなった正と、切り捨てられ捨て置かれた負の面がある。全体的に見れば旧体制よりも明らかに良い統治だろうが、それだけでは無いという事がよくわかる例となった。

 

「(光には闇がある・・・という事だろうか。)」

 

全てを救うことは難しいが、だからと言って一部を切り捨てる事をよしとするべきなのか。その答えを私は持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

―――旧開拓地―――

 

私達は酒場で一晩を明かした後、カーフィーの地上車に乗って北にあるという農場へと向かっていった。ただその道は草を刈って均しただけの道で長年放置されていた事もあってガタガタだ。

 

「いてっ!?」

 

こんな感じで、車が跳ねて頭をぶつけるのが何人かいる。

 

「爺さん、農場にはいつ頃つくんだ?」

「もう着いとる。」

「え?」

「ここら辺一帯が農場じゃ。土地だけはあるんでな。」

 

そのまま農場内を走る事しばらく。ようやく建物が見えてきた。

 

「ついたぞい。」

「でかい建物だな・・・。」

「収穫車両の整備基地や収穫した食料の加工工場なんかも兼ねておるからの。」

 

小さな宇宙船1隻くらいの大きさがあるが、確かに整備基地や加工工場も兼ねるなら妥当な大きさだろう。都市部と違い開拓地では現地生産された食料を現地で消費できるように生産、収穫、加工までのステップを一カ所で出来るようにされているのだろう。

 

建物の前に来たカーフィーは、インターホンを押す。

 

『だれだ。』

「わしじゃ、カーフィーじゃ。」

『おぉ、マスターじゃないか。今行く。』

 

しばらくすると恰幅の広い男が一人玄関から出てきた。

 

「マスターが来るなんて珍しいじゃないか。いったいどうしたんだ?」

「こちらの方は0Gドッグのシーガレット艦長じゃ。なんでもお前さんとこの食料を買いたいらしいぞい。」

「0Gドッグが?なんでまた―――。」

「依頼主の趣味でね。」

「はぁ?」

 

玄関先で話すのもなんというのでとりあえず中に招かれる。広めな部屋だが家具や調度品の数は少なく質素な印象をしている。

 

「―――なるほど、ミッションでね。中々面倒な仕事を受けたもので。」

「このご時世仕事を選んではいられませんから。」

 

こちらの説明に農場主は納得したようだ。

 

「分かりました。ちょうど出荷待ちのものがありますのでそちらを見ていってください。値段は―――。」

「出来るだけ多めに出そう。」

 

ここは足元を見られてでも交渉が出来る限りスムーズに進むようにする。あまり時間を取られて疑われたくないからだ。

 

「分かりました。ご案内しましょう。」

 

牧場主に案内され部屋を出る。そのまま建物の中を通ると巨大な空間にでた。

 

「ここは?」

「ここは収穫機材の整備庫です。オートメーション化されたおかげで無人で稼働できるんですよ。」

「という事は、あれが収穫機?」

「はい。」

 

まるで戦車のような巨大な機械がそこに鎮座している。正面には作物を刈りこむような機械が見え、背面にはオッゴが一機はいるほどの巨大な収納容器が3つもついている。

 

「でかいな・・・。」

「これでもうちの畑をすべて収穫するのに2週間はかかります。」

 

あの広大な畑を収穫するのに2週間で済むと考えるべきなのか、はたまた2週間かかると考えるべきか・・・。

 

「こちらです。」

 

案内されて次の建物へ進む。そこは巨大な工場だった。大量の機械がベルトコンベアから流れてくる食料を加工している。食料は缶詰や真空パックなどに加工されていた。

 

「ここで各種野菜を加工しております。冷凍、ペースト、フリーズドライ、勿論無加工での出品も出来ますが、保存期間の影響から無加工出品はほぼありませんね。」

「冷蔵で運ぶのは駄目なのか?」

「都市部に近い農場から出荷されるなら良いんですが、ここから冷蔵で都市部まで輸送するとそれ相応のコストになるんですよ。それで売った所で二束三文で買い叩かれてお終いですからね。なら加工して輸送コストを減らした方がマシです。」

「なるほど。」

「近くに消費者が居てくれればよかったんですがねぇ。」

「あー・・・。」

 

殆どゴーストタウンと化した開拓地を見て納得する。これでは作っても消費する事は出来ず、損をするだけだろう。

距離が遠ければ遠い程輸送コストは上がる。同じ価格ならなるべく輸送距離の短い物の方が利益が出るからだ。逆に支払い側は、遠くに輸送してもらうにはより多くの金を出さなければならない。そうでないと輸送側が利益が出ず結局商品を売る事が出来ず、赤字になってしまう。

 

「まぁ土地だけはあるので、安い品でも大量に売れば黒字にはなります。最近はヤッハバッハさんがよく買ってくれますね。」

「ヤッハバッハが?」

「えぇ、私の商品は安くて量も多いからといってよくまとめ買いしてくれますよ。やっぱり軍人さんっていうのはよく食べるんですかね?」

「どうだろうな、ただヤッハバッハ人は体が大きいからな。それなりに食べるんじゃないか?」

 

平均身長2m越えのヤッハバッハ人を知っている私達は肯く。本当に大きいんだ、ヤッハバッハ人は。

 

「・・・所で、どれくらいの量をお望みでしょうか?」

「そうだな・・・大まかに加工された物が1000トンという所か・・・。後は生野菜を50トンくらい。」

「分かりました。加工食品の種類はどういたしましょう?」

「缶詰とフリーズドライを半々で。」

「缶詰とフリーズドライを500トンずつですね。それでしたら1時間ほどで用意できると思います。」

 

1000トン近い食料を僅か1時間で用意できるのかと疑問に思ったが、どうやら倉庫に保管していた物があるそうだ。倉庫から引っ張り出すだけなので1時間で終わるらしい。

 

「それで価格の方なのですが、全部で5000Gになります。」

 

下手をすれば宇宙船が買えるくらいの値段だが、何分母数が母数なのでそれくらいの値段にはなる。資金もまだ余裕があったので、その金額で合意した。

 

1時間後、これまた巨大な倉庫の前に着陸したアンリカ号に、運搬機で荷物を搬入する。積み込み作業が進む横で、私は農場主に買値の5000Gを渡していた。

 

「確かに受取りました。それでマスター。本当に行っちゃうのか?」

「あぁ、昔からの夢じゃったからな。いい加減自分のやりたい事をやりたいんじゃよ。」

「やりたい事がよりにもよって0Gドッグなんて、くれぐれも無茶しないでくれよ。アンタの料理の腕は一級品なんだからな。」

「わーっとるわーっとる。ワシとて宇宙の隅から隅まで見ぬ間に死ぬつもりはないわい。」

「全く・・・。船長さん、くれぐれもこの人をお願いします。この廃れた土地で色々お世話になった人なので。」

「大丈夫です、任せてください。」

 

カーフィーの心配をする農場主に、私は嘘をついて安心させる。ヤッハバッハから追われる身である私達は、明日死んでもおかしくない状況にいる。

 

だが、わざわざそんな事を伝える必要は無い。大事なのは本人の選択なのだから。

 

「艦長、積み込み終わりました。」

「分かった。それでは我々はこれで。」

「えぇ、確かこういう時は『貴船の航海の無事を祈る。』でしったっけ?」

「あぁ、それで合っているよ。」

 

『貴船の航海の無事を祈る』よく使われる慣用句で、出港前の船に対して言われる言葉だ。

 

「じゃあなマスター。もしまたここに来たら、何か美味いもん作ってくれ。」

「おう、お主も元気でな。」

 

別れの言葉を伝えたカーフィーは、タラップを登り船に乗り込む。アンリカ号のエンジンが唸りを上げ船体が浮き上がったかと思えば、そのまま上昇しながら加速しあっという間に地上から離れていった。


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