異常航路   作:犬上高一

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第16航路 突破

ーーーフラベク衛星軌道ーーー

 

「ーーーう、う~ん・・・ここは?」

「お、ようやく起きたか。」

「結構無茶な大気圏離脱だったからな。気絶するのも無理は無いさ。」

 

現在我々はフラベクの衛星軌道上を航行している。大気圏離脱時にそれなりに無理をしたので、重力井戸で打ち消しきれないGが掛かり、カーフィーが失神してしまったのだ。高齢と言う事もあって心配していたが、医療ポッドで検査した所異常は無いらしい。念の為に後でドクターに再度検査してもらうつもりだ。

 

「という事は・・・ここは宇宙か?」

「あぁ、見てみるといい。」

 

椅子から起き上がったカーフィーに、ブリッジの窓を指差す。

 

「おぉ・・・これがーーー宇宙ーーー。」

「あぁ、アンタが憧れていた無限に広がる星の海だ。」

「ーー綺麗じゃーーー。」

 

星の海ーー暗黒の宇宙の中に煌く星々が散りばめられただけの空間。そこには何も無い真空が広がり、一歩間違えば一瞬でその命を奪われる危険な空間。私達0Gドッグにとっての日常であり、地上に暮らす人々の非日常である。

 

そんな非日常の世界に足を踏み入れたカーフィーは、長年憧れていた空間に見惚れていた。

 

「・・・。」

「爺さん、泣いてんのか?」

「・・・この歳になってこんなに綺麗なものが見られるとは、夢にしか思っておらんのでな・・・。今更ながら感動しとるんじゃ・・・。」

 

私達にとってはただの日常的な風景でもそれに憧れる人がいる。まさに人の価値観は人それぞれという事だ。

 

「ーーー、うっぷ。」

「マスター?」

 

なんだかカーフィーの様子がおかしい。そう思って近寄ろうとした途端ーーー

 

「おうえぇぇえぇ!!」

「「「「「うわぁ!?」」」」」

 

カーフィーが吐いた。

どうやら宇宙酔いを起こしたらしい。

 

宇宙に出たばかりの人間に見られる症状の一つで、宇宙空間には上下が無いため平衡感覚を失い吐き気を催すのだ。ある程度過ごす事で体が慣れるそうだが、今までずっと地上で過ごしてきたカーフィーが初めて体験する宇宙である。慣れなんてある訳が無い。

 

体調などにも起因する為、直前に強力な負荷を受け失神したのも原因の一つだろう。

 

とりあえず、アンリカ号のブリッジは阿鼻叫喚に包まれたとだけ言っておく事にする。

 

 

 

 

 

ーーーーリベリア・総督府ーーーー

 

惑星リベリアにある巨大な建築物。かつてはこの星系の行政などを司る中心でもありかつ王族の居城でもあったこの建物も、現在はヤッハバッハの総督府として機能している。

 

「こんな所か。」

 

総督府の一室にライオス・フェムド・ヘムレオンの姿があった。机の上に重ねられた書類に目を通したライオスは、1人呟く。その書類にはそれぞれ人の写真や細かい資料が書かれていた。

 

「案外簡単に口を割りましたな。」

「反乱分子といっても所詮こんなものだ。取るに足らない。」

 

艦長の言葉にさして興味がなさそうに答えるライオス。彼はまず総督府で管理されている民間船のデータを洗い出し、そこから船の輸送ルートや物資からレジスタンスに供給されていそうなものを輸送した記録のある船を調べ、更にそこから不審な行動を取っている船を探し出したのだ。

 

そして、各所の警備隊に話をつけ目的の船が入港した所で拘束し尋問した結果、レジスタンスの拠点としている場所が判明したのだ。

 

「しかし、場所を秘匿する為のナノマシンや造船工廠などを備えていたとはぁ・・・。亡国を取り戻そうと熱心な者はどこにでもいるのですなぁ。」

 

尋問から判明したレジスタンスの規模を記した書類を見る艦長。そこにはサンテール基地や例のナノマシンの他にも、強奪されたゼー・グルフ級などシーガレット達の戦力が記されていた。

 

「王国の遺物を再利用していただけだ。元々大した規模でもなく、しかも試験隊との交戦によって半数以上を失いほぼ壊滅状態だ。特段意識する必要もない。」

 

艦長の挑発を完全に無視して返すライオス。艦長自身ヤッハバッハ本国の生まれでは無いが、時折ライオスを値踏みするかのような言動が見られた。しかし、ライオス自身特にそれを気にしてはいない。幼少の頃よりそういった行為を経験しているからである。

 

「で、どうします?ここはひとつ我々の手でその反乱分子を殲滅し、功績としますか?」

「いや、ここは報告して司令官に協力を求めるべきだろうな。」

 

強力な兵器を有したレジスタンスをブランジ級3隻で殲滅したとなれば、その功績を認められある程度上の地位へ登ることは出来るだろう。だがライオスは冷静だった。

 

こちらの戦力がブランジ級3隻に対し敵の戦力は巨大戦艦ゼー・グルフを始め巡洋艦や駆逐艦、更に武装商船も多数存在する事が判明している。

ブランジ級3隻でもこの規模の敵を撃滅する事は決して不可能では無い。しかし、鹵獲された戦艦もさる事ながら、血眼で探しても中々見つからない反乱分子が折角集結しているのだ。突撃艇による攻撃で敵を掻き乱すより、より多数の艦隊で包囲し殲滅する方がより功績としては上だろう。

 

ヤッハバッハの軍隊は知略やコネでは無く、純粋に個人の能力と武勲を鑑みて評価される。そこに一切の妥協も配慮も無く、家柄も人種も関係無い。すべて彼の者の能力に相応しい待遇が用意される。

そしてヤッハバッハの軍隊だけでなくこの現代においては、古代の人類のような一個人の戦闘能力といった面では無く、艦内の大量の部下を統率し広い視野を持ち大局的に行動できるような人物こそ評価される。

 

ゆえにライオスは大局を見て上司であるクーラントに協力を仰いだ。自身が一時的に指揮権を与えられたブランジ級突撃艇【ライカ445号】に戻ると、長距離IP通信を作動させ空母クレッツィへと通信を送る。

 

『何か進展があったようですね。』

 

現れたホログラムのクーラントは挨拶代わりに声を掛ける。ライオスは一礼するとすぐさま本題へ入った。

 

『―――――成る程、廃棄された宇宙港ですか。一応その宙域にも索敵は伸ばしたのですが。』

「どうやら恒星風の影響を利用してスキャニングを妨害していたようです。残骸の影に隠れて捜索をやり過ごしたとの事でした。」

 

捕まえた反乱分子からの情報で、シーガレット達が捜索の目を誤魔化していたタネも明かされていた。

 

『よく分かりました。それではこちらも直ちに向かいましょう。』

「その事なのですが司令。」

『何か?』

 

一度クーラントの言葉を区切ると、ライオスはあるデータを転送する。

 

「敵を確実に殲滅する為に、若輩の身ながら作戦案を計画しました。こちらを。」

 

送られた作戦案を読むクーラント。ライオスの隣にいたブランジ級突撃艇ライカ445号の艦長であるネグティ少尉もその作戦案を見る。

 

『なるほど・・・確かに興味深い作戦です。いいでしょう、総督府には私から話を通しておきましょう。』

「ありがとうございます。」

 

うやうやしく頭を下げるライオスに対しクンラートは

 

「貴方には期待していますよ。ライオス少尉。」

 

そう言って通信が切れる。ライオスは特に表情を変える事無く通信室を後にした。

 

「まったく、中々どうして―――。」

 

残されたネグティはライオスの提出した作戦案をもう一度よく読んでいた。自分よりも1周りも年下の少年ともいえるべき男が、こういった作戦を考えうるとは―――。

 

「―――面白い奴がいるものだ。」

 

 

 

 

 

 

―――ゼー・グルフ艦内―――

 

道中トラブルもあったが、アンリカ号は無事にゼー・グルフの元へ辿り着き野菜と貴重な人員を確保する事が出来た。はじめは大佐以下クルーたちはみなカーフィーに不信感を持っていたが、身の上話と彼の料理を食べてあっさりと受け入れられた。胃袋をつかむとはまさにこのことだ。今ではすっかり打ち解けていて彼の料理は数少ない娯楽となっている。

 

本人もヤッハバッハから追われる身となったのにも関わらず、ウキウキと仕事をしていた。憧れの宇宙と彼の料理を心待ちにする客で嬉しいのだろう。

 

「艦長、哨戒艦より定時通信。『異常なし』です。」

「了解。」

 

現在私はゼー・グルフの艦橋で当直に入っている。業務は主にボイドゲート宙域付近に派遣した哨戒艦との連絡と、不安定な恒星の監視である。哨戒艦は航行可能で損傷の少ない艦を一定期間のルーティーンで派遣している。今現在哨戒に当たっているのは貨物船のアンリカ号だ。

 

「艦長、艦隊の整備が完了したと担当者から連絡がありました。」

「わかった。」

 

そこへアルタイトが整備完了の報告を上げてきた。これにより中破以下の損傷だった船は最低限航行できるようになった。と言ってもそんな損傷の酷い船に人員を配置する訳にもいかないので、無人艦としてついてくるようにしておく程度だ。

 

「例の船からの連絡は何も無いか。」

「はい、一切ありません。」

「そうか・・・。」

 

例の船というのは、物資の調達に向かった貨物船の事で例の内紛以前に調達に行ったきり未だ帰ってこないのだ。調達は治安当局に見つからない様に極秘裏に行われる為、その間は連絡も取れないし期間が長期に渡ることもあるが、最悪の状況に備えておくに超したことはない。

 

「お疲れ様です、当直交代です。」

「もうそんな時間か。」

 

気づいたら交代の時間となっていた。引き継ぎをして次の当直者とアルタイトに後を任せる。

 

「ちょうど食事の時間か。」

 

今までは食事はパンや携帯食料など持ち運んでも食べられるものが多く支給されていたので格納庫や自室で取る者もいたが、カーフィーが来てからは食事の質が大きく改善されたので、今では殆どが食堂で食事を取っている。

 

数少ない娯楽である食事を楽しみにして食堂に向かうと多くの人で賑わっていた。ちょうど整備が終わったので人が多く来たのだろう。

 

「お、いらっしゃい艦長。」

「繁盛してるみたいだな。」

「まあの。ここの設備が大分いいもんじゃしみんなたくさん食べてくれるからの。料理人冥利に尽きるわい。」

 

ヤッハバッハの高い技術力は艦船や兵器の他にもこういった面でも活かされているらしい。

 

「本日のメニューは?」

「今日はロールキャベツとコーンスープにパンじゃ。パンはちょっと固いからスープにつけてもいいし、ロールキャベツのスープにつけてもいいぞい。」

「あ、艦長お疲れ様です。」

「エドワードか。」

 

そういえば、エドワードも整備班として艦隊の整備をしていたんだった。以前は情けない所を見られて顔を合わせづらく感じてしまったが、時間がたって依然と変わらなく話せるようになった。

 

食事を受け取って席に着く。料理から漂う美味しそうな匂いが食欲をかき立ててくる。

 

「いただきます。」

 

まずはコーンがたっぷり入れられたコーンスープだ。まろやかな甘みがするスープが胃に染み渡る。コーンも噛めば噛むほどスープとは違う野菜の味が広がる。

 

次にロールキャベツを食べてみる。コンソメがたっぷり染み込んで柔らかくなったキャベツに肉が包まれていて、噛むとコンソメスープと肉汁が口の中で合わさって舌の上を広がっていく。

 

最後にパンだ。カーフィーが言っていた通り少し固いパンだ。これを暖かいコーンスープにつけて食べてみる。スープが染み込んだパンは柔らかくなって食べやすくなった。コーンスープとコンソメスープの二つの味が楽しめる。

 

「やっぱりカーフィーの作る食事は美味いな。」

「この為に生きていると言っても過言ではないですね。」

「全くだ。ついでに美味い酒があれば文句は無いんだがなー。」

「おまえさんの安い給料じゃあ、たいしたもの飲めないだろう?」

 

いつの間にやらポプランとコーネフが隣に座っていた。

 

「待機中に飲むなよ。酔っ払って事故起こされたらたまったもんじゃ無いからな。」

「大丈夫ですって、飲んで操縦しても事故を起こしたことはありませんから。」

「え?」

「いえいえ何でも無いですお気になさらず。」

 

今何か不穏な事が聞こえたが、コーネフによって遮られてしまった。

 

『艦長、緊急事態です。至急ブリッジまで来てください。艦長、緊急事態です。至急ブリッジまで来てください。』

「何だ何だ?」

「緊急事態って一体・・・。」

 

いきなり艦内放送でアルタイトから呼び出される。私は残っていたスープを一気に飲み干すと艦橋を目指して走り出した。

 

「何があった?」

「哨戒艦からの連絡で、先ほどブランジ級3隻からなる艦隊がボイドゲートを通過。まっすぐこちらへ航行中との事です。」

「捜索隊か?」

「不明ですがその可能性は高いかと・・・。」

 

当直者からの報告を受けて状況を確認する。

 

「哨戒艦は?」

「航路外へ退避しました。そのまま通信封鎖を実行しているはずです。」

「よし。アルタイト、艦内に緊急事態を発令しろ。直ちに主機を停止して総員配置につくように。」

「了解しました。」

 

艦内に敵艦接近のアナウンスがなり、インフラトンインヴァイダーの稼働音が徐々に小さくなりついに停止した。艦内は非常灯と最低限の機器のみが稼働している。

 

「おっと・・・。」

 

重力井戸も停止したので艦内も無重力状態になる。食事をしていた連中は、重力から解放されて自由に宙を舞うロールキャベツやスープを必死に食べようとしているかもしれない。

 

「状況は!」

 

大佐以下のブリッジクルーが集まってくる。当直者が状況を説明している間、私は各機器の稼働状況を確認する。

 

「到達予想時間は?」

「最低でも4時間以内には到達するはずです。」

「4時間か・・・。とにかく全員配置につけ!余計な機械は片っ端から落とすんだ!!」

「もうやってる!エドワード手伝え!」

「はい!」

 

主電源が停止した事で大半の機器は動作を停止させたが、非常用のバッテリーで動く機械もあるため各部署でそれの遮断を行わなければならない。

 

「司厨部より電源完全遮断完了!」

「医療部より遮断完了との報告!」

「格納庫より遮断作業に少し手間取るとの事!」

「急がせろ!起動していなくても残留熱反応で検知されるぞ!」

 

慌ただしく艦内の電源や機械など検知される恐れのあるものは片っ端から停止させていく。絶対にヤッハバッハに見つからないように。

 

 

 

 

 

―――ブランジ級突撃艇・ライカ445号―――

 

「少尉、まもなくオーバーハーフェンに到着します。」

「予定通りだな。他の艦隊は?」

「このままだと我が艦隊が到着してから30分後に配置が完了するそうです。」

 

ブランジ級突撃艇3隻からなる艦隊は、オーバーハーフェンを目指し航行していた。旗艦であるライカ445号の艦橋には臨時で指揮艦に命じられたライオスが、艦長から報告を受けていた。

 

「では少し速度を落とそう。タイミングが重要だからな。」

「了解。」

 

艦隊は少し速度を落として航行を続け、ついにオーバーハーフェン軌道上の廃宇宙港にたどり着いた。

 

「配置は?」

「完了しています。」

 

答えを聞いたライオスはにやりと笑う。

 

「では、始めよう。」

 

 

 

 

 

―――ゼー・グルフ艦内―――

 

「来たか・・・。」

 

消灯しほぼ真っ暗な艦内で私は呟く。

 

「手を出すなよ。このままやり過ごすんだ・・・。」

 

その言葉に全員が無言で頷く。別に声を出さない事に意味は無いのだが、緊張からかそんな事も忘れて全員が音を立てないように気を遣っていた。

 

「このまま何事も無くいけばいいんだが・・・。うおっ!?」

「な、なんだ!?」

 

突然艦内に振動が走る。

 

「艦長、宇宙港のゲートにミサイル攻撃。ゲートが封鎖されました。」

「何!?」

「ブランジ級より広域放送が発されています。どうしますか?」

「・・・スクリーンに出してみろ。受信だけだぞ。」

「了解しました。」

 

アルタイトが端末を操作して広域放送をスクリーンに表示する。そこには若い金髪の男が立っていた。

 

『私はヤッハバッハ軍のライオス少尉である。この宇宙港内に隠れている反乱分子に通達する。直ちに投降せよ。すでにゲートは我々の攻撃で封鎖されている。脱出の道は無い。』

「ちっ、さすがにバレてたか。」

「やっぱり連中捕まっていたのか・・・。」

「どうする?」

 

まぁミサイル攻撃をした時点で薄々バレているだろうとは思っていたが。こうなっては―――

 

「応戦するしか無いだろう。」

「大佐・・・。」

「居場所がバレた以上グズグズしてはいられない。幸いにも敵はブランジ級3隻だけだ。ここは一気に敵を撃破して逃げるべきだろう。」

「賛成だ!とっとと叩き潰して逃げようぜ!」

 

大佐のいう通り、見つかった以上ここは一気に片付けて行方をくらませるしかなさそうだ。ディエゴも賛成した事だし、敵に増援を呼ばれてしまえばどんどん状況が悪くなっていく。

 

「そうだな。アルタイト!機関始動!戦闘態勢に移行する!」

「総員戦闘配置!ヤッハバッハにバレたぞ!これより敵艦隊を殲滅して逃げる!!」

「すべての船のインフラトンインヴァイダーに火を入れろ!囮くらいにはなる!!」

「「「了解!!」」」

 

各所に慌ただしく指示が送られ、ゼー・グルフの主機関が重低音を鳴らし動き始める。船内各所に明かりがつき始め、各所の機器がどんどん起動していく。それと同時に、格納庫でも無人艦となった艦にも次々と明かりがつき始める。

 

「どうやら戦うようですな。」

「素直に降伏しておけばいいものを。作戦通りだ、問題ない。」

 

ヤッハバッハ側も宇宙港内からのエネルギー反応の増大を確認していたが、ライオスの表情には何の変化も無かった。

 

 

 

 

「しかしどうやって宇宙港から出るんですか!?」

 

緊急始動中の艦の状態を監視しながらエドワードが聞いてくる。

 

「心配無い!アルタイト、敵艦の大まかな位置は分かるか!?」

「はい、位置の補足は出来ています。」

「よーし、艦首をそこへ向けろ!」

「何するんです!?」

 

スラスターが火を噴いてゼー・グルフの巨体を動かす。艦首を敵艦の方向に向けた所でアルタイトに命令をだす。

 

「主砲と対艦クラスターレーザー発射用意!!」

「了解、主砲及び対艦クラスターレーザー発射用意。」

「ま、まさか―――。」

「連中に一発お見舞いしてやる!」

 

各ジェネレーターが作動しエネルギーが充填される。

 

「不意打ちか。ひとたまりも無いな・・・。」

「航海長!発射と同時に全速前進!壁を突き破るぞ!!」

「ひゅー!了解!」

 

この船の操船はアーミーズの一人ダスティー中佐が担当している。以前ブランジ級が捜索に来た際にたまたま艦隊を発見し通報した駆逐艦の艦長だ。

 

「エネルギー充填完了、発射可能です。」

「よし・・・全砲斉射撃てっ!!」

 

艦首と各主砲から高出力のレーザーが発射される。それらは頑丈な宇宙港の壁を焼き切り、そのままライオス達のブランジ級へと向かっていった。

 

「回避!」

 

ブランジ級3隻は突撃艇というだけあってその機動性を生かして砲撃を回避する。

 

「全速前進!突き破れ!!」

「了解!!」

 

航海長がコンソールを操作すると全長4000mの巨体が動き出し、経年劣化と砲撃によって脆くなった内壁に激突した。

 

「うわぁ!?」

 

先ほどとは比べものにならないくらいの衝撃が船体を襲う。おかげで頭を打ちそうになった。だが宇宙という過酷な環境に耐えるよう設計された壁を突破する事は出来ない。

 

「道を空けろッツ!!」

 

航海長がテレグラフを緊急出力まで動かしてメインスラスターを最大出力で稼働させる。すると徐々に傷ついた壁が崩壊していき船が前へ進み始めついに壁を突き破った。後続の無人艦も順次その後についてくる。

 

「宇宙港の壁を突破ました。」

「よし、主砲、敵艦を補足次第攻撃を―――ぐぅ!?」

 

唐突に船体が揺られる。それも一度ならず2回3回と連続して衝撃が走った。壁を抜ける時とは違って完全に不意を突かれる形となり左腕を打ち付けてしまった。

 

「な、なんだ!?」

「APFシールド出力-1825、デフレクター出力-3340、PU337付近の装甲板が破壊。」

「攻撃!?ブランジ級にこの船を揺らすだけの攻撃力は無いはずだ!!」

「攻撃はブランジ級からではありません。後方距離18000に複数の艦艇を確認。」

「なに!?」

 

何が起きたか全く分らない。後方からの攻撃?一体誰が―――。

 

「艦種照合完了。ブラビレイ級空母1、ダウグルフ級戦艦2、ダルダベル級巡洋艦3、ブランジ級多数。」

「なッ!?」

 

後方から出現した艦隊は空母1隻と戦艦2隻を含む大規模な艦隊だった。先ほどの攻撃はダウグルフ級の主砲とミサイル攻撃である。

 

「くそっ!!罠だったのか!!」

「数が違いすぎる!空母もいるぞ!」

 

脱出した瞬間の砲撃で不意を打たれて、艦橋のクルーが若干のパニック状態に陥ってしまう。なまじヤッハバッハの力を知っているだけに、2000m級の戦艦2隻と大量の艦載機を有する空母1隻の先制攻撃で士気を挫かれてしまったのだ。

 

 

 

 

「―――喧しいッツ!!」

 

私はあらん限りの声でざわめくブリッジクルーを一括する。

 

「こっちは向こうの戦艦よりも巨大な船に乗っているんだ!そうそう撃沈されはしない!!エドワード!シールドとデフレクター出力は!」

「あ、え、APFシールド、デフレクター共に出力回復しました!!」

「アルタイト!船体のダメージは!?」

「装甲が第2層まで破壊されましたが、船内に損傷はありません。」

「見たか!敵戦艦2隻の砲撃を受けてもほとんど損傷が無いぞ!連中も簡単にこの船を沈められないんだ!!」

 

この言葉で浮き足立っていたブリッジクルーがいくらか落ち着いた。不意打ちをくらいこそすれ、その損傷が軽微な事が分かり自分達が簡単に撃沈されない事を認識した事で冷静さが生まれたのだ。

 

「敵艦隊より艦載機の発進を確認しました。」

「大佐!」

 

アルタイトから敵艦載機が発進したという報告を受けた私は、大佐に意見を求める。

 

「・・・艦載機に取り付かれながらあの数の艦隊と撃ち合うのは不利だ。ここは距離を取って艦載機の殲滅をしてから艦隊と撃ち合う方がいい。」

「片方ずつ相手にするって事か。よーし、最大船速!敵艦隊から距離を取れ!対空戦闘用意!!」

「了解!対空戦闘用意!!」

 

大佐の作戦で、艦載機のみを相手にする為、距離を開けて艦載機への対処に専念する事にした。艦内では対空戦闘用意のアナウンスと警報が流れていて、対空火器管制室では、乗機を失ったパイロット達が対空兵器を操作していた。

 

「全く艦載機さえあればあいつ等全部打ち落としてやるのに!誰だ格納庫に駆逐艦を突っ込ませたのは!」

「文句言わないの。あぁしなければ俺達はあの時ダークマターになったかもしれないんだから。」

 

ポプランとコーネフも火器管制室で対空火器の制御及び対空監視を行っていた。他にもエヴィンやエーミールも管制室で対空火器の制御を行っている。

 

「来ました!敵の艦載機隊です!数およそ600機!!」

「まぁ空母もいればそんな数になるだろ。エーミール!艦橋に主砲とかの射程の長い武器で弾幕張ってもらうよう連絡してくれ。エヴィン!対空戦闘だ!弾幕を張って敵を近づけるな!」

「「了解!!」」

 

ポプランからの上申を受け、主砲による後方へ向けられる主砲で艦載機隊へ向け砲撃を始める。不意を突かれたのか第一射では何機かの撃墜に成功したが、続く第2射、第3射はことごとく回避されてしまった。

 

「敵機、対空ミサイルの射程圏内に入った!」

「対空ミサイル撃ち方始め!!」

 

合図に従い船体各所から対空ミサイルが発射される。対空ミサイルも例に埋もれずクラスターミサイルであり、発射されたのちに弾頭部が分離しいくつもの子弾が放たれる。艦載機隊はECMやチャフを放ちながらミサイルから逃れようとするも、十数機が対空ミサイルの餌食となった。

 

「第2射だ急げ!」

「敵機対空レーザーの射程に入りました!迎撃開始します!」

 

船体各所に仕込まれた対空クラスターレーザー砲が濃密なレーザーの弾幕を張る。弾幕の中に突っ込んでしまった艦載機は船体を焼き切られて次々と撃墜されていった。それでも数が多いのですべての敵機に対応する事は出来ず、弾幕を逃れた艦載機が次々と対艦ミサイルを放ってくる。

 

「対空防御と近距離迎撃は対空火器管制室に一任する!対艦火器管制室!敵空母に攻撃は出来ないのか!?ミサイルは射程外?主砲は敵の前衛が邪魔で狙えない?なら前衛の艦から攻撃するんだ!!」

「SB54区画にミサイル着弾!第1装甲板損傷!!PU38対空砲台大破!!魚雷艇1隻轟沈!!」

 

艦橋では指示や報告がまるでマシンガンのように飛び交っていた。何せ600機もの艦載機の猛攻だけあってこの巨大戦艦の対空能力を持ってしても全機を迎撃することなど不可能だ。

 

私の前のコンソールには敵機の動きと撃墜報告が上がってくるが、別のコンソールにはダメージレポートが上がってくる。船体の至る所にダメージが加えられ、既に十数基の対空砲が破壊、装甲が薄い部分に攻撃が集中して内部区画にまで損害が出た部分もある。さらに随伴の無人艦に攻撃が加えられ元々応急修理で動いていて耐久力も無い無人艦が、どんどん沈められてく。

 

ヤッハバッハの艦載機隊はひとしきり上空で暴れた後、ミサイルが尽きたのか帰投していった。が、

 

「艦長、敵艦隊が増速を開始しました。接近してきます。」

「何!?うわっ」

 

艦載機の帰投に合わせて敵艦隊が前進し砲撃を開始してきた。

 

「応戦だ!砲撃を開始しろ!」

 

休む間もなく砲撃戦に突入する。敵艦隊は距離を保ち、長距離砲撃に徹していた。

古い船とはいえ防御力は高く、有効射程ギリギリで射撃して威力がいくらか減衰している為にシールドや装甲で受け止められている。その間に手が空いた者を集めて損傷を受けた箇所の応急修理を行っていた。

 

「どうしたんだ大佐。」

「いや、連中が何を考えているか分からなくてな・・・。あれだけの戦力があればこちらは簡単に撃破できるだろうに。」

「・・・狩人の気分にでも浸っているんじゃ無いか?」

「連中がそんな道楽主義に興ずるとはおもえん。」

「この船を鹵獲したいんじゃないですか?」

 

振り向くとエドワードがコンソールを操作しながら話に参加してきた。

 

「この船元々は向こうの試験艦だったんですから、出来る事なら無事に回収したいと思うのが普通じゃ無いですか?」

「なるほど、それなら話の辻褄が合う。」

 

つまり連中はこの船を無傷で鹵獲したい訳だ。積極的には攻撃を仕掛けてこず、こちらの疲労と消耗を増大させようとしている訳だ。

 

「しかしこれが分ったからといってこちらが打てる手は無いぞ。これ以上の速度は出せず、速度を落とせば敵に肉薄される。そうなれば今度は白兵戦になるぞ。」

「おまけに航路は一本道、航路外へ出たところでどこかにいける訳でも無い。このままではボイドゲートのある宙域まで戻されるな。」

「あのー、一つよろしいですか?」

 

そう言って声をかけてきたのは航海長のダスティ中佐だ。

 

「このままボイドゲートまで行って、そこで戦闘するのはどうでしょう?」

「どういう事だ?」

「いやね、ボイドゲートにはあれがあるじゃないですか。それを使えば連中からの攻撃を無力化しながら攻撃できますよ。」

「それとは何だ?」

「なるほどその手があったか!!」

 

大きい声を上げてポンと手を叩くエドワード。二人して分ってますよというふうにニヤニヤと笑っている。

 

「だからそれは何だ?」

「ボイドフィールドですよ。」

 

ボイドフィールドとは、ボイドゲートに設けられている機能の一つでボイドゲートを守るシールドの事だ。このシールドは通常のAPFシールドと違い、レーザー等の攻撃を完全に無力化するシールドだ。このシールドはボイドゲートの周辺まで展開される為、これを使えば敵戦艦の主砲を封じる事が出来る。

 

「なるほどな。だが連中は大量のミサイルを持っているぞ。これにはどう対処する?」

「ボイドゲートの外壁を盾にしましょう。完全にではありませんが被弾率を下げる事は出来ます。連中の突撃艦が突っ込んでくる前に、こちらの対艦クラスターレーザーで迎撃してやるんですよ。」

 

 

 

 

 

 

「敵はおとなしく前進してますね。」

「この状況ならそうするしかないでしょう。やはり獣は罠にかけるに限りますね。」

 

茶を飲みながら乗艦クレッツィの艦橋で茶を飲むクンラート。彼の空母は後方で戦艦部隊の砲撃戦を眺めていた。すでに数時間に渡り追跡を続けており、艦載機隊も3回攻撃を行い現在第4次攻撃隊を準備している。

 

「それにしても艦載機の損害が予想より酷いですね。」

 

この空母の艦載機で現在までに撃墜された機体は100機を超えており、クレッツィに搭載されていた艦載機の約1/3にも達する。

 

「その分敵艦にも損傷を与えています。以後は戦艦部隊に任せてもよろしいのではないですか?」

「ふむ・・・。」

 

副官の進言にクンラートは考える。艦載機部隊の損耗も予想以上に激しくこれ以上戦力を削るのは得策では無い。

 

「次の第4次攻撃隊で最後にしましょう。可能な限り敵に損傷を与えてください。」

「了解しました。」

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊より艦載機発進を確認。」

「まだ出てくるのか!?対空戦闘用意!」

 

敵の第4波に対し向けられる砲全てを向けて応戦する。この数時間にわたる執拗な攻撃でクルーは疲労が蓄積している。それでも疲労を感じないAIのアルタイトにより何とか戦闘を継続していた。

 

出撃してきた敵機も第1波と比べて大分少なくなったが、こちらの損害も同じくらい受けている。

 

「駆逐艦エルン23にミサイル着弾!沈みます!!」

「チッ、良い船だったのに。」

 

無人艦の中で最も状態の良かった駆逐艦だが、艦載機のミサイルを集中的に浴びインフラトンの火球と成り果てる。無人艦だからダメージコントロールなんか殆ど出来ないしな。

 

これで無人艦は全て撃沈され、我々に残された船はこのゼー・グルフ級戦艦1隻となった。

 

「間もなくボイドゲート!!」

「やっとか・・・。対艦クラスターレーザーにエネルギー充填、ボイドフィールドに入り次第180度回頭して後ろの敵を撃沈するぞ!」

「「了解!!」」

 

ようやくボイドゲートまで到達する事が出来た。疲労困憊のクルーの表情がいくらか明るくなる。

 

「艦長、前方にインフラトン反応を検知しました。」

「敵か!?」

「いえ、艦船にしては微弱な反応です。スクリーンに表示します。」

 

スクリーンに映し出されたのは、船の残骸――哨戒に出ていたアンリカ号の残骸だった。

 

アンリカ号の船体は完全に真っ二つとなり、あらゆる所が破壊されていた。

 

「・・・くそッ。」

 

敵艦発見の報告以来通信が途絶していたので嫌な予感自体はしていたが・・・。

 

アンリカ号には生き残りの少年航海長を始め数人が乗っていたが、こんな状況では船外活動も行え無いし、何よりあの状態では生存者はいないだろう。

 

 

 

「艦長、ボイドゲートよりゲートアウト反応を確認。」

「は?」

 

アンリカ号の奥にあるボイドゲートが青く光り、そこからいくつもの艦影がゲートから飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました、司令官。」

 

クンラートは目の前のホログラムに映し出された人物に敬礼する。ホログラムに映し出された初老の男性こそ、クンラートの上司にしてリベリアを含めた周辺の宙域を管理する宙域艦隊の司令官だ。

 

『おおよそ作戦通りだな。君の言うとおり中々見所のある男のようだ。』

 

ライオスが立案した反乱分子の殲滅作戦は、まずライオス以下のブランジ級3隻がリベリア・ペリル宙域へ侵入し、周辺の索敵を行いつつ宇宙港へと向かう。戦艦2隻以下複数の艦を加え強化されたクンラート艦隊は遅れて宙域へ入り、シーガレット達に関知されないよう惑星の影から宇宙港へ接近する。

 

ヤッハバッハはシーガレット達が戦艦2隻を加えたクンラート艦隊を見て逃亡されるのを避ける為に、あえてブランジ級3隻のみを先行させてこちらの戦力を過小に判断させたのだ。

 

更にライオスは発見した敵の哨戒艦をあえて見逃し、ブランジ級3隻が彼らに気づいておらず向かっているように見せかけたのだ。その後哨戒艦はクンラートの艦隊を確認したが、その存在を事前に察知していたクンラート艦隊によって撃沈されていた。

 

そうして、"ブランジ級3隻のみ”と誤認させたライオスは、宇宙港の出入り口を封鎖して敵艦隊を封じ込める作戦にでる。無論この作戦は失敗に終わったが、ライオスが提出した作戦案ではこの事は予測されていた。

 

そしてヤッハバッハは予定通り第2案に従って、クンラート艦隊が攻撃を開始した。彼らがここで応戦するならば、損害を出さないよう戦闘をしつつ増援を呼び包囲し、逆に逃走を図るのであれば敵をボイドゲート方面へ追い込み、ゲートのボイドフィールドを利用して対艦クラスターレーザーを無力化しつつ包囲するというものだ。

その為クンラート艦隊は惑星の影から回り込んで後方を遮断し敵の艦隊をボイドゲート方面へ誘導したのだ。

 

そして、シーガレット達はヤッハバッハの作戦に嵌り、完全に追い込まれてしまった。

 

『それでは始めるとするか。』

「はい。艦載機隊へ直ちに後退、戦艦部隊は射程内まで前進し砲撃を開始せよ。」

「はッ!艦載機隊に後退命令!戦艦は前進し砲撃を開始せよ!!」

 

副官が復唱し艦載機隊へ後退の合図が送られる。それと同時にクンラート艦隊からダウグルフ級戦艦2隻が前進を開始する。

 

そして、ボイドゲートから出現した艦隊―――ゼー・グルフ級戦艦を旗艦とするヤッハバッハ宙域艦隊が砲撃を開始した。

 

 

 

 

 

「ボイドゲートより敵の艦隊

「冗談だろ・・・ゼー・グルフ級まで出てくるのかよ・・・。」

「は、挟まれた・・・もう逃げられない!」

「敵艦発砲、攻撃来ます。」

「か、回避機動!」

 

ようやく反撃に移れるといった所で、まさかの敵の増援の出現に全員の顔が青ざめる。疲労と精神的ショックから、回避機動が遅れ敵艦隊の砲撃をもろに受けてしまった。

 

「くそっ・・・被害は!?」

「PU38から45区画に被弾、装甲が完全に破壊されました。SB89区画にも被弾―――」

「エネルギー供給システムの一部が破損!一部対空兵器が使用不能!BA34ーDで空気漏れ警報が―――」

 

アルタイトとエドワードが被害報告を上げてくる。戦艦部隊の砲撃をもろに受けたせいで、至る所が損傷してしまった。

 

「対艦クラスターレーザー発射用意!「艦長!?」目標敵ゼー・グルフ!!撃て!!」

 

とっさに指示を飛ばして対艦クラスターレーザーを敵の旗艦に叩き込む。発射された60本のレーザーは虚空を切り裂きまっすぐに敵のゼー・グルフに向けて飛翔する。そして敵艦の少し前方で60本のレーザーは突然虚空に弾かれ霧散してしまった。

 

「しまった、ボイドフィールドか!!」

 

突然の敵艦の出現でボイドフィールドの存在を完全に失念し無駄弾を発射してしまった。こちらが利用しようとしていた作戦を敵が利用してきたのだ。

 

「敵艦隊エネルギー反応増大、第2射が来ます。」

「回避機動!シールド出力最大!!」

「くそッ!スラスターがやられた所為で出力が!!」

 

ダスティ中佐が叫ぶ。長時間の戦闘でスラスターが損傷した為、入力したTACマニューバパターンに船体が付いていかないのだ。

 

「メインスラスターの出力低下!このままでは止まります!!」

「なんだと!?」

 

そこへ突然エドワードがメインスラスターの出力低下を報告してきた。メインスラスターの力が弱まった事により、TACマニューバによって一時的な減速を行っていた船は速度をどんどん落としていく。

 

「各部スラスターの出力も低下していきます!!」

「原因は!?」

「さっきの砲撃で配管系統の一部がやられてエネルギーが送れてないんです!!」

「何とかしろ!!」

「やってます!!」

 

エドワードは必死にコンソールを叩いて何とか解決しようとする。メインスラスターは元より各部のスラスターが使えなければ戦闘どころか動く事すらままならない。アルタイトも大量のセンサーや機器から送られてくるデータを持ち前の優れた処理能力を全力で作動させ解決策を探る。

 

その間、ダスティー中佐やディエゴは出力の低下したスラスターで航行を継続させようと奮戦していた。そしてそれは、管制官によって感知されヤッハバッハの知る所となる。

 

「クンラート指令、敵艦の速力が落ちました。エネルギー反応も低下、砲撃によって何か破壊したと思われます。」

「ふむ、好都合ですね。」

 

これをチャンスとみたヤッハバッハは、一部隊に突撃を命じる。

突撃するのはクンラート艦隊より戦艦1隻、巡洋艦1隻、突撃艇2隻の4隻と、ボイドゲート側にいた戦艦1隻、巡洋艦2隻、突撃艇3隻の6隻。合わせて10隻が突撃を開始した。

 

「突撃だ!機関全速!!」

 

その中の一隻、ダルダベル級巡洋艦の艦橋にノイマン少佐の姿があった。昨今反乱分子を取り逃がす失態をしてしまったノイマンはそれを取り返すべくこの突撃部隊に志願したのだった。

 

――忌々しい反乱者どもめ。今に見ていろ・・・。

 

ノイマンは突撃する巡洋艦の艦橋で、スクリーン越しに見える敵艦をにらんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「前後より敵艦隊の一部が前進してきます。」

「近づけるな!!攻撃しろ!!」

 

大佐の号令で主砲が突出していたブランジ級目掛けて発射されるが、機動力・練度共に高いブランジ級に難なく躱されてしまう。

 

「ミサイルで弾幕を張れ!!」

 

艦のミサイルランチャーが開かれ次々とミサイルが発射される。ヤッハバッハ製のクラスターミサイルが襲いかかるが、防空能力の高いダルダベル級を中心に次々とミサイルを迎撃してくる。

 

「自分達の兵器なら対処法も知ってて当然ってか!!」

「構わん!とにかく弾幕を張って1隻でも沈めるんだ!!」

 

今度はミサイルとレーザーが同時に着弾するように砲撃する。後方から迫っていたブランジ級の1隻が、主砲のレーザーを回避した所でミサイルに突っ込み爆発轟沈した。

 

前方でも対艦クラスターレーザーによってブランジ級1隻を撃沈し、ミサイル迎撃に集中していたダルダベル級1隻の右舷側面にレーザーが直撃させカタパルトをもぎ取った。コントロールを失ったダルダベルは、そのままくるくると回転して戦場から離れていく。

 

それでも残った7隻は反撃とばかりに攻撃しながら突撃してくる。

 

「スラスター復旧しました!!」

 

そこへエドワードのスラスター復旧の声が響く。これでようやく満足に行動できるようになった。

 

 

 

 

 

 

だが―――。

 

 

 

「遅かった。」

 

私の言葉と同時に船体が揺れる。突撃してきたブランジ級がすれ違いざまにありったけのミサイルを放ってきたのだ。

 

その次に先ほどよりかなり大きな揺れが船体を襲った。

 

「ぐぅ!?」

 

ブランジ級の後ろにいたダルダベルとダウグルフが2隻同時に強行接舷してきた。いくらこっちが全長4キロの巨大戦艦とはいえ相手も全長2キロの巨大戦艦が2隻、その大質量がぶつかったのだから衝撃も相当のものだ。

さっきの揺れでバランスを崩した私は次の衝撃に耐えられず、倒れて床に頭を打ち付けてしまう。

 

「艦長!!」

 

それを見たエドワードが駆け寄ってきた。

 

「艦長!大丈夫ですか!?」

「あぁ大丈夫だ。」

「急いで医務室に「今そんな暇は無い。」」

 

エドワードに支えられ立ち上がる。頭を押さえるとべっとりと血の感触がした。おそらく大量に出血しているんだろうが、いまそんな事に構っている暇は無い。

 

幸いにも頭の血が抜けたせいで一周回って冷静になれた。落ち着いて状況を確認する。

 

「状況はどうなってる。」

「戦艦と巡洋艦が両舷に1隻ずつ強行接舷されました。敵艦から突入用ハッチの展開を確認、白兵戦を挑むと考えられます。突入時間は最短で6分23秒後です。ブランジ級はそのまま離脱しました。」

「装甲を削るのに時間を取られているのか。」

 

突入用ハッチは艦艇の救助や白兵戦時に敵艦内部に侵入する為に、先端にプラズマ切断機を備えたチューブのようなもので、艦艇の装甲を直接溶断して内部に侵入する為のものだ。普通なら装甲を削るのにそこまで時間はかからないはずだが、装甲が厚く手間取っているようだ。

 

「どうする?白兵戦か?」

「大量のヤッハバッハ兵を相手に白兵戦を?一人で100人倒せば勝てるか?」

「白兵戦を挑んだ場合我々の勝率は0%です。」

 

大佐の投げやりな言葉に私も投げやりな返事をした。アルタイトに言われなくても、白兵戦で連中に勝てない事は分っている。降伏した所で反乱罪で処刑されるのがオチだろう。

 

「スラスターで無理矢理引きはがせるか?」

「やってみます。」

 

ダスティ中佐がコンソールを操作して船を動かすが―――。

 

「・・・駄目です。戦艦が妨害して動かせません。」

 

両舷にいる2隻のダウグルフ級戦艦がこちらの動きを妨害しようとしてくるのだ。これでは移動もできない。

 

「そうか・・・。」

 

私はコンソールを操作してあらゆる情報を表示させ何か手が無いかを考える。

 

ダウグルフ級2隻はちょうど船首を挟み込む形で接舷し、ダルダベル級はそれより後方の艦の側面へ張り付いている。

スラスターで引きずり回した所で引き剥がす事は出来ないし、大質量の戦艦2隻に艦首を挟まれているせいで操縦性能が著しく低下している為振りほどけない。

主砲を撃とうにも近すぎて撃つ事が出来ない。それは向こうも同じだが。

 

何か―――何かないか―――。

 

 

 

「ん?」

 

そしてある画面が私の目についた。それは艦内の各機器の配置場所を表した図だ。

 

「・・・エドワード、確か対艦クラスターレーザーには複数のジェネレータと専用のインフラトン・インヴァイダーが付いていたよな。」

「え?あ、はい付いてますが。」

「アルタイト、”それ”をオーバーロードさせて爆発させるのにどれくらい掛かる?」

 

回りにいた全員が驚いて振り向く。

 

「5分25秒です。――――――――また全基オーバーロードさせる必要は無く”最低限のジェネレータ”のみあれば3分04秒で済みます。敵が突入するより21秒早くオーバーロードさせられます。」

 

どうやらアルタイトは私の意思を読み取ったようだ。

 

「やってくれ。」

「了解、対艦クラスターレーザー、ジェネレータへエネルギー供給開始。」

「か、艦長!?」「自爆する気か!?」

「そうだよ。」

 

その質問に私はあっけらかんと答える。

 

ジェネレータに必要以上のエネルギーを送れば、コップから水が零れるようにエネルギーも漏れ出し始め、更に無理矢理エネルギーを送れば過剰な負荷が掛かってジェネレータそのものが大爆発を起こす。

 

そして、今エネルギーを供給しているジェネレータは、ちょうど船を挟んで固定している2隻のダウグルフの間にある。

 

「これで戦艦を引き剥がす。これ以外に手は無い。」

「下手すれば艦が沈みますよ!?」

「むちゃくちゃだ・・・。」

「これ以外に手は無い。白兵戦に持ち込まれた時点でこちらの負けが決定する以上絶対に白兵戦をしてはならないんだ。艦内放送!艦前方にいる人員は直ちに後方へ!!メインスラスターいつでも動かせるように準備しろ!!火器管制もだ!!急げ!!」

 

私の声に全員が弾かれたように動く。その中でエドワードは席に戻らず私を支えていた。

 

「仮に戦艦2隻を剥がせてもまだ巡洋艦がいます。おまけに何処にも逃げ道は無い。どうするつもりです?」

「さぁね、私も今思いついただけで後の事なんて何も考えていないよ。だからって諦めるにはまだ早いだろう?もう大丈夫だ、席に戻ってくれ。」

「・・・分りました。」

 

エドワードが席に戻る。本当に後の事なんて何も考えていない。ただ頭に思いついたジェネレータを自爆させて戦艦2隻を引き剥がすという事を実行しているだけだ。だが、私も回りのブリッジクルーもそれ以外の手は思い浮かべられない。

 

出血は多いが見た目ほど重傷では無いのだろう。手すりにつかまりながら自分の足でしっかりと立ち、ジェネレータの状態を見る。ジェネレータ爆発まで後1分を切ったとき。

 

「左舷のダルダベルが装甲を突破!!艦内に突入してきます!!」

「ちっ、予想よりも早いな。隔壁閉鎖だ!急げ!!」

 

敵がアルタイトの予想より早く突入してきた。ディスプレイには突入用ハッチから次々と武装したヤッハバッハ兵が突入してくる様子が映し出されている。私は、隔壁閉鎖を指示し1秒でも敵兵が進むのを遅らせようとする。

 

「ジェネレーター爆発まであと30秒。」

「右舷のダウグルフも装甲を突破!敵が突入してきます!!」

「PU310の隔壁破壊されました!敵がまっすぐ艦橋を目指してきます!!」

 

オペレーターが叫び声で敵の突入を報告してくる。

 

「爆発まであと10秒。」

「後は神様にでも祈るんだな。」

「3,2,1―――爆発します。」

 

次の瞬間青白い閃光と衝撃が走る。船体の前方、ちょうどヤッハバッハの船が挟んでいた位置当たりで大爆発が起き、艦内のモジュールから外壁から装甲板などを片っ端から吹き飛ばした。

 

「うわあぁ!?」

「ぐぅっ!?」

 

その衝撃は強力で、備えて踏ん張っていたにも関わらず体を大きく揺すられ倒れる。

 

一方のヤッハバッハ側は突然のジェネレータの大爆発によって混乱に陥っていた。特に至近にいたダウグルフの被害は甚大で爆発やそれによって吹き飛ばされた破片によって突入用ハッチの殆どが破壊され、艦内に突入したヤッハバッハ兵は全滅。

破片と爆風によってレーダーやスラスターなど外面にあった機器がボロボロに破壊された。

 

無論こちらも無傷では無く、爆発したジェネレータの部分は外壁やモジュールが文字通り吹き飛び大きくえぐれてしまった。

 

「今だ!全速前進!!振り切れ!!」

 

そんな事お構いなしにメインスラスターが一気に火を噴いて動き始める。爆発の影響で固定装置が破壊されていたダウグルフが離れていき更に、右舷側にいたダルダベルの船体がダウグルフに衝突する。衝突の勢いで固定装置が外れたダルダベルは、削ぎ落とされるように離れていった。

 

「敵戦艦及び右舷側の巡洋艦が離れました。ですがまだ左舷側の巡洋艦が一隻残っています。」

「上出来だ!!」

 

ゼー・グルフが動き始めたとき、左舷側のダルダベルのクルーは大混乱に陥っていた。

 

「今の揺れは何だ!?一体何が起こっている!!」

 

そこには突入部隊のノイマン少佐の姿があった。彼自ら突入部隊の指揮を執るために乗り込んでいたのだ。そこに船に残った部下から通信が入る。

 

『ノイマン少佐!!船が移動を始めました!!』

「なんだと!?戦艦部隊はどうした!?連中が船の動きを抑える筈だろう!!」

 

本来であればダウグルフ級戦艦2隻が動きを抑える筈だが、爆発によってダウグルフは引き離され抑え付けるものが無くなったゼー・グルフは移動を開始した。

 

『艦首部で爆発が起きて戦艦の固定装置が外れた模様!現在接舷出来ているのは本船のみです!!」

「くそっ・・・ブリッジを制圧するんだ!急げ!!」

 

ノイマン少佐達は艦橋を制圧すべく艦内を走っていた。

 

「航海長、針路を敵旗艦に向けろ!」

「何するんです!?」

「横の巡洋艦を敵旗艦に叩き付けるんだ!!」

 

砲撃しながら敵のゼー・グルフへ向けて最大出力で加速する。側面にいる巡洋艦は慌ててスラスターを動かしているが、戦艦2隻で止められたものを巡洋艦1隻で止めることなどできない。

 

「敵艦隊発砲してきます。」

 

待機していたヤッハバッハ艦隊が砲撃を開始する。まだ味方がいるにも関わらず砲撃をする辺り混乱しているのだろう。

 

「構うな。そのまま全速全速。エネルギーはスラスターとシールドに回せ。」

「了解!そのまま全速前進!!」

「エネルギーをシールドとスラスターに回します!」

 

敵のレーザーはシールドで弾き、ミサイルは弾幕を張って迎撃またはデフレクターや装甲で受け止めながら突撃し旗艦へ一気に近づく。

 

「今だ!叩き付けろ!!」

 

右舷スラスターを一斉に噴射し敵艦に左舷を叩き付けた。あまりに巨大な質量の衝突が勢いよく衝突したことによってデフレクターが負荷に耐えきれず緊急停止し装甲が割れる。

 

そして左舷側に接舷していたダルダベル級は巨大な戦艦2隻に挟まれ、その圧力に船体が耐えきれずに押しつぶされた。

 

それによりダルダベルの左舷側のミサイルコンテナに収められた大量のミサイルが爆発する。そしてその爆発は艦内を走り主機関であるインフラトンインヴァイダーに誘爆、ダルダベルは文字通り爆沈した。

 

ダルダベルの中にいたクルーが行動を起こす暇が無いほどあっという間の出来事だった。

 

「うわああああっつ!?」

 

巨大な質量を叩き付けた事によって損傷した装甲は、至近距離での巡洋艦の爆発を防ぐ事は出来ず2隻の戦艦の内部に被害が出る。

 

シーガレット達の乗るゼー・グルフの艦内では、破片とインフラトン粒子が荒れ狂い近くにいたノイマン少佐以下白兵部隊を飲み込んでいった。

彼らが身に付けている装甲服程度では、高速で艦内を跳ね回る破片と高エネルギーの塊と化したインフラトン粒子から身を守る事は出来なかった。

 

更に宙域艦隊旗艦でも同様に艦内を破片と高エネルギー粒子が荒れ狂い、クルーに多数の死者が出ていた。更にミサイルコンテナが至近にあった為、被害はより大きくなった。

 

「左舷の巡洋艦爆沈しました。」

「全速前進!最大船速!!」

「前はボイドゲートですよ!!」

「構わん!止まったら蜂の巣にされるぞ!!」

「了解!!」

 

接舷していた巡洋艦の破壊を確認した私たちは、メインスラスターを全力で吹き上げ離脱を始める。

旗艦であるゼー・グルフは体当たり及び爆発の被害による混乱が起きているのか動こうとしない。

 

「周囲の敵艦よりミサイル攻撃!」

「対空兵装何でもいい!迎撃しろ!!」

 

しかし、周囲の敵艦はそうではなかった。星の海を旅し厳しい訓練を積んだヤッハバッハ兵は旗艦が損傷した程度では動じる事は無く、周辺にいた艦は迷わず攻撃を開始する。

 

大佐の命令で残った対空兵装が迎撃を始める。これまでに大半の兵装が破壊ないし損傷しており弾幕の密度は当初に比べ圧倒的に薄くなっていた。

 

「撃て!撃て!!とにかく撃ちまくれ!!」

「駄目です!数が多すぎます!!」

 

ポプラン達が必死に対空兵装を動かしミサイルを叩き落とすが、ミサイルに対し対空兵装の数が足りなかった。

 

「右舷上部被弾、左舷中央被弾、第2砲塔損傷―――。」

「構うな!進め!!」

 

いくつものミサイルが艦のあちこちに着弾し装甲や内部を傷つけるが、それに構わず前進する。

 

「ゲートに突入します!!」

 

そして私たちはゲートへと飛び込んだ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不明ナ認知領域ヲ確認...早急ナ対処ノ必要アリ...。」

「ファージプログラム起動...ダウンロード開始...。」


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