異常航路   作:犬上高一

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異常航路 2章突入です。


エルメッツァ編 
第17話 新たな光


真空の宇宙に漂う巨大な建造物。『ボイドゲート』と呼ばれる誰が作ったのか分からないリング状の建造物が突如として光り輝く。

 

ボイドゲートの中心から一隻の宇宙戦艦が飛び出してきた。巨大な緑色の宇宙戦艦は船体のあちらこちらが傷付き煙を吐き出している。

 

そしてその船のブリッジクルー達は目の前の光景に驚きを隠せないでいた。

 

「何処だここは―――」

 

あの宙域のボイドゲートの先はリベリア本星のある宙域に繋がっていたはずだが、スクリーンに映し出される景色は見慣れたものとは全く異なる宙域だった。

 

「チャートはどうなってる?」

「データ無し!?どうなってるんだ?」

『おいブリッジ!』

 

ざわめくブリッジに突然声が聞こえてきたかと思うと、モニターにポプランの姿が映る。

 

「何があった!?」

『ゲートだ!ボイドゲートが!!』

「ボイドゲート?」

 

ベルトラムが急いでモニターを切り替えると、そこには“徐々に輝きを失い黒く崩壊していくゲート”の姿が映し出されていた。

 

「なっ!?」

「なんなんだ・・・これは・・・。」

 

クルー達は何が起きているのか全く理解出来ずにただ呆然とその光景を眺めている。

そして光が完全に消えた時、そこには黒く崩壊したゲートだったものが静かに宇宙を漂うだけになっていた。

 

「一体どうなっているんだ・・・おい、シーガレット?」

「・・・。」

 

見ると艦長席に突っ伏したまま動かないシーガレット。彼女が伏せている机は真っ赤な血によって染まっていた。

 

「艦長!!」

「医療班!怪我人だ!至急ブリッジへ!」

 

 

―――――――――――――――

 

「・・・ここは?」

 

目を開けるとそこは見慣れた医務室の天井・・・では無く、ただただ真っ暗な空間だった。上下も左右も無く光も無い空間であるにも関わらず、私は正確にここが何も無い空間なのだと理解していた。

 

「何だここ?」

 

足を前に出しても地面を踏んだ感覚が無い。前へ進んだ感覚も無い。

 

「私は死んだのか?」

 

0Gドッグは宇宙で死ぬとダークマターに還ると言われている。無論化学的な話では無く単なる冗談の一つだ。

 

しかし現に私は何も無い暗闇にいる。いや、正確には白闇か?ダークマターに還るというのはこういう事なのだろうか?

 

皆はどうなったんだろうか・・・。

 

「みんな・・・?みんなって誰だ?」

 

思い出そうとした瞬間、まるで脳がドロドロのアイスクリームになったかのような感覚に襲われた。

 

 

――私は唯の善良な0Gドッグさ――

――お前が善良な0Gドッグなら世の中の悪人の半分は善人だ――

 

 

なんだこれは

 

 

 

――ヤッハバッハに支配されたリベリアをどう思う?――

――・・・一言で言えばどうでもいいですかね――

 

 

 

これは

 

 

 

――初めまして、私はRHGS3400。あなたの船の運航を手助けするコントロールユニットです――

 

 

 

私の記憶か?

 

 

 

 

――見つけた!ここがアクセスポイントだ!!――

 

 

 

記憶が流れている?

 

 

 

――これで*****の場所が分かる――

 

 

 

ちがう

 

 

 

――駄目だ艦長!危険すぎる!――

――これは私にしか出来ない事だ、大丈夫。心配しないで――

 

 

 

これは

 

 

 

――そこから出るんだ!早く!!――

――あなたは私を覚えていてくれる・・・それだけで・・・――

 

 

 

私では無い

 

 

 

―――G#G#48b1098ADS――

―――*dkeo’6(HFDs)11―――

―――#19hfbeU8888―――

 

 

 

こんな記憶私は知らない。私は、私は、

 

 

『ファージプログラムダウンロード開始―――完了』

 

 

私は、私は、私は、

 

 

『ファージプログラム起動、削除開始』

 

私が消えていく。

 

何かが消えていく。

 

何が消えている?

 

本当に消えている?

 

そもそもあったのか?

 

本当にあったのか?

 

元から無かったのか?

 

分からない。

 

手が、足が、体が消えていく。そもそも体はあったのか?元から存在しなかったんじゃないか?

 

そもそも何が存在していたんだ?

 

存在はしていなかったのか?

 

何も

 

何も無かったのか?

 

 

 

『ありがとうございますシーガレットさん。いや、艦長!』

「あぁ、これからよろしく。“エドワード”」

『艦長――艦長――艦長!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長ッツ!!!」

「はっ!?」

 

急に視界がクリアになって見慣れた天井が見えてくる。

 

「ドクター!艦長が目を!」

「どけっ!!」

「いでっ!?」

 

ドタバタと隣から物音がするが首を動かす事が出来ない。すると誰かが私の顔を覗き込んできた。誰だろうと確認する前に、その人物がライトを目に当ててきた。

 

「うっ・・・。」

 

眩しさに目を細めると無理矢理目蓋を開かれて光を差し込まれる。

 

「艦長、聞こえますか?私です、ドクターです。」

「・・・あ、あぁきこえる・・・まぶしい、ライトを・・・。」

 

それを聞いたドクターはライトを消してくれた。

 

「気分はどうですか?どこか痛みますか?」

「うぅ~ん・・・少し気怠い・・・痛みは特にないが・・・。」

 

頭がぐるぐるしていて頭が回らない。まるで寝起きの時の感覚だ。

すると体の上半身が起き上がるような感覚に見舞われる。そして目の前にコップが一つ差し出された。

 

「水です。とりあえずこれを一杯飲んで落ち着いてください。」

「あぁ・・・ありがとう。」

 

水を差しだしてくれたのはドクターのようだ。それを受け取って喉に流し込む。冷たい水が喉を通るたびに思考がクリアになっていった。

 

「大分スッキリしたよ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 

ようやく周囲の状況がきちんと把握出来るようになってきた。それと共に今までの記憶が戻ってくる。

 

「あの後どうなったんだ?」

 

私の記憶では船を半分自爆させて無理矢理ゲートに突入した事までしか覚えていない。

 

「貴女が頭部を強打して血塗れで医務室に担ぎ込まれたのが5日前ですわ。」

「い・つ・か?!」

 

ドクター曰くボイドゲートから飛び出した後、私は血塗れの状態で医務室に担ぎ込まれたらしい。かなりの怪我だったらしくリジェネ―ション装置に放り込んで体が回復しても意識を取り戻すまでに5日もかかったようだ。

 

一応怪我の方は回復しているので、後で精密検査と容態観察を行なってから退院出来るとの事。

 

「船はどうなっているんだ?」

「それについては彼から説明を受けるのがよろしいでしょう。」

 

そう言って先程から赤く腫れた額をさすっているエドワードを指差すドクター。何をやっているんだコイツは。

 

「何をしているんだお前は?」

「いえちょっと不幸な事故です。」

「そうか。で、船の現状は?」

「はいはいそちらはですね。」

 

エドワードからの報告を纏めるとこんな感じだ。

 

あの時我々が飛び込んだゲートから出た先は、何故かリベリア本星のあるアルゼナイア宙域では無く全く異なる未知の宙域だったらしい。更にボイドゲートはアルタイトが通過した直後に光り出したのち黒く朽ち果てた姿へと変貌してしまったようだ。

 

結果的に全く未知の宇宙に放り出されてしまった我々は、とりあえず艦の修理をしつつ長距離スキャンをしながら何処か立ち寄れる宇宙港を捜索して航行しているというのが現状だ。

 

「一応星系間スキャニングで反応があったので、進路はそこへ向けています。」

「そうか、艦内の状況は?」

「そこら中が壊れていますね。特に艦前方部が大きく抉れていて前部への立ち入りは禁止しています。」

「あー・・・。」

 

“私の脳内に船体が大きく抉れた映像が映し出される”。内部モジュールの中身まで良く見えるどころか船幅の半分が虚空と化していた。

 

あの辺りは確か自爆させたジェネレーターがある場所だったな。あそこまでの威力とは予想していなかったが、半分ちぎれてもまだ艦首が繋がっているこの光景を見ていまさらながら背筋が冷たくなった。

 

更に損害状況を確認すると外装や直接吹き飛んだモジュール以外も通路を暴れ回った爆風や高エネルギー粒子によって派手に破壊されており、艦内の45%が立ち入り不可能な状態だ。”その区画にアクセスしようとしているが監視機器にアクセス出来ない”区画もあり詳細は直接中を見るしかなさそうだ。

 

「これだけの状態になって良く動けるな・・・。」

「普通の船なら沈んでいますが、ヤッハバッハの超巨大戦艦ですからね。耐久力は折り紙付きなんでしょう。」

「確かにな。」

 

メインコンピューターから情報を読み取るが、船体も人員の状態も酷い有り様で死者、負傷者、行方不明も何人か出ている。

区画の爆発に巻き込まれたり、衝撃が起きた時当たりどころが悪かったようだ。

 

私も当たりどころが悪かったが、“私の身体が通常の人間より頑丈だったのが幸いしたようだ”。

 

「それでは自分は修理に戻ります。艦長も早く身体を直して下さいね。貴女が居ないと船を動かすのが大変なんですから。」

「あぁ、分かってるよ。」

 

私が無事な事に安心して医務室から退出エドワードと入れ違いに、何時の間にか退出していたドクターが戻ってきた。

 

「艦長、少しいいかしら?」

「?、あぁ構わないぞ」

 

少し声が上擦っているドクターを訝しみつつも返事をする。入室したドクターは、医務室をロック状態にすると側にあった椅子に腰掛けた。

 

「ドクター、どうしてロックを?」

 

私の問いに答えずドクターは自身のタブレットを操作する。

 

「艦長、これから幾つか質問をしますので正直にお答えください。」

「あ、あぁ」

 

初めて見るドクターの真剣過ぎる表情に気圧された私は素直に従う。

 

「艦長は自分の生まれた場所について覚えていますか?」

「あ、あぁ。」

「御家族については?」

「もちろん覚えている。」

 

ドクターから投げかけられる質問に答えていく。何故こんな質問をするのか理解出来ないまま10個以上の質問に答えていると

 

「では次、艦長は自分が“サイボーグ手術を受けられた時を覚えていますか“?」

「は?」

 

ドクターからの質問の意味が分からず変な声が出てしまった。

 

サイボーグは人体を機械化する事であらゆる機能を強化する事が出来るものだ。ただしその分価格は高価で定期的なメンテナンスが必要でリジェネーション処置が普及した現代において、余程の事情が無い限りサイボーグになんてなりはしない。

 

無論私も“サイボーグ手術など受けた事もない生身の人間”である。

 

「言っている事がまるで分からないんだが・・・。」

「では艦長、医務室の扉のロックを解除して下さい。」

「何でそんな事を―――」

「解除して下さい。」

 

有無を言わさぬドクターに、私はとりあえず“脳内の通信インプラントから艦内のメインコンピューターにアクセスして艦長権限により医務室のロックを解除する”。

 

「解除したぞ。」

「今どうやって解除したんですか?」

「どうやってって、インプラントからアクセスして・・・」

「艦長」

 

椅子から立ち上がったドクターは、白衣の胸元からブラスターを取り出す。

 

その銃口は私の顔へ真っ直ぐ向けられていた。

 

「前回の手術の際、貴女の体内にインプラントやサイボーグ化が施されていないのは確認しています。ですが今の貴女にはそれがある。」

 

そう言ってドクターがタブレットを私に投げ渡す。受け取ったタブレットには私の医療スキャンでのデータが入っていた。

前回の医療スキャンのデータは骨や内臓が写っている普通の人間のスキャン図だった。だが隣にあるデータには全身が生体機械によって作られたスキャン図が写っている。

 

その人体の持ち主の名前の欄にはどちらもシーガレットと記載されていた。

 

「貴女は一体誰なのかしら?」

 

無機質な冷たい銃口と同じくらい冷たい視線を放つドクターに対して、“私”は息を呑むことしか出来なかった。

何回銃を突き付けられるんだ私は…

 

「…私は私だ。スパイでも何でもない正真正銘のシーガレットだ。」

「それを証明できるのかしら?」

「…記憶がある。」

「その記憶が本物である証拠は?」

「…まるで悪魔の証明だな。」

 

そこで2人とも黙り込んでしまう。

 

記憶の証明なんて不可能に近い。幾らでも嘘はつけるし、記憶違いによる矛盾がほんの少しでもあれば、そこを突かれて証拠としての意味は無くなる。

 

物理的な証拠はないか必死に考えていた所で、不意にドクターが銃を降ろした。

 

「まぁ、仮に貴女がヤッハバッハのスパイだろうと何だろうと、それを排除する権利は私にはありませんので。」

「あ、あぁ・・・。」

 

急に態度を変えるドクターに困惑するが、一応許されたという形でよいのだろうか?

呆然とする私を横にドクターは淡々と作業を行っていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

「入港コード受信しました。」

「そのまま入港する。コースそのまま。」

「コースそのまま了解。」

 

入港管制に従い宇宙港へ入港する。岸壁の直前に船を停止させると巨大なアームが伸びてきて船体を固定する。

続いてエアロックが伸びてきて船体に接続される。着桟完了の表示と同時にブリッジクルー達が安堵のため息を吐き出した。

 

「しかし運が良かったな、近くに宇宙港が見つかって。」

「あぁ、辺境惑星って事らしいが聞いたことが無い国だな。」

 

惑星ボラーレ、所属はエルメッツァ星間国家連合というどちらも初めて聞く名前だ。

 

「よし、とりあえず管理局へいって修理の依頼だな・・・。」

「これ修理で済むのか?っていうか修理できるのか?」

「・・・・分からん。」

 

船体はボロボロもいい所だ。むしろ沈みかけと言ってもいい。

船体修理は基本的にどの宇宙港でも行ってくれるが、無論タダで修理するという訳にはいかない。材料代から工賃からなんにでも金はかかるのだ。

 

はぁ・・・計算を考えると気が重くなる・・・。

 

そして管理局に修復依頼を送信した私は、しばらく後にきた返信メールを見て椅子から転げ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜遅く―――

 

「いやー改めて見ると派手に吹き飛んだもんだなぁ・・・。」

「まったく、よく生きてたな俺たち・・・。」

 

軌道エレベーターの近くにある0Gドック御用達の酒場は彼らによって貸し切り状態になっていた。浴びるように酒を飲んで早々に倒れこむ者や賑やかに騒いでいる者もいる。

皆生き残れたことに対する喜びであふれていた。

 

その一角ではシーガレットを始めとしたメインクルー達が集まっていた。彼らもまた思い思い酒を飲み交わしていた。

 

「頑丈な船体でよかったな。」

「船首がもげなかったのが不思議なくらいだ。」

「修理の方はどれくらいかかりそうなんです?」

「・・・1週間。」

「1週間!?それはまた・・・。」

 

この宇宙において空間通商管理局による部品規格の共通化及び造船技術によって船体建造に掛かる時間は極短時間で済む。300mの駆逐艦クラスの船体が数時間で完成されるといえば凄まじい技術である。

そんな設備を24時間フル稼働させても1週間もかかるのだ。いかにその損傷が酷かったかを物語っている。

 

「それにしても艦長顔色が優れないようですけど・・・まさかまだ怪我が治ってーーー」

「いや、怪我は問題ない、それよりも問題なのはこっちだ。

 

心配するエドワード達に対し私が端末からホログラムを表示する。そこにはある書類が映像として浮かび上がってきた。

 

「借用証明書・・・?ってなんじゃこりゃぁぁああああ!?」

 

借用証明書、すなわち金を借りたことを証明するもので

渡されたエドワードはそこに掛かれていた内容を見て驚愕する。あまりの声に酒場にいた全員がなんだなんだと寄ってくる。

 

「なんですかこの借金15万Gって!?」

「・・・船体修理費だ・・・。」

「15万!?修理費だけで15万!?」

「俺の給料何年分だいったい・・・。」

「ばか!一生使っても使い切れない額だぞ!!」

「あ!?保証人の所に俺の名前がある!?」

「お、俺の名前もあるぞ!?」

 

その言葉に酒場にいた人間の殆どが酔いを忘れて押しかける。保証人の欄に大量に記載されていたのは、生き残ったクルー全員の名前だった。

 

「どういうことですか艦長!!」

「なんで俺の名前がここにあるんだ!?」

「説明してくれ艦長!!」

 

「うるさいうるさいうるさーいっつ!!」

 

説明を求めて詰め寄ってくるクルー達を一喝し、手に持っていたビールのジョッキを一気飲みする。

 

「いいかぁ、ちゃんと説明してやるからよく聞けおみゃえら。」

 

アルコールが入り若干呂律が怪しくなってきたが、それは無視して現状の訳を話始めた。

事の発端は、入港した後で私が管理局に送ったメールの返信を見た時である。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

「どういう事だこれは!?」

 

バンっと音が出るくらい机を叩く。ここは空間通商管理局にある個室で、管理局と直接話をするのに使われる。相手はAIなのでわざわざ個室で行う必要は無いのだが、ロビーで開けっ広げに話をするのは取引内容などを周囲に知られたくなかったりする商人などが盗聴や情報の漏洩などを避ける為に個室を利用するのだ。

 

その個室で憤慨しているシーガレットと、その正面に座る空間通商管理局のエージェント。

そして彼女が叩き付けた端末には修理要目の詳細と明細が記載されていた。

 

「なんなんだこの修理代13万Gって!!」

 

怒りを露わにするシーガレットに対し対応する管理局のエージェントは冷静そのものだ。

 

このエージェントは管理局によって生産管理されるアンドロイドである。人間に似ているように作られてはいるが、肌の質感や眼の光など一目見ただけでアンドロイドと分かるような違いが施されている。このアンドロイドは0Gドックなどの窓口依頼を担当するヒューマンインターフェイスのようなもので、いわば受付係みたいなものだ。

 

「落ち着いてください、シーガレット艦長。」

「落ち着けだって?こんな明細見せられて落ち着いていられるか!」

 

興奮気味の私は更に机を叩くがエージェントはどこ吹く風だ。このままでは話が進まない事を分かっている私は渋々席に座った。

 

「では、改めて説明いたしますがこちらが今回の船の修理費用―――合計して13万Gになります。今回の損害ですと破壊されたモジュールの修復、キールのゆがみの修復などかなり複雑かつ大規模な修復作業が必要になってしまいました。それだけに、必要資材と工程も多く料金も高くついております。」

「だからってこの価格はぼったくりにもほどがあるぞ。新造の戦艦が何隻買える額だと思っているんだ。」

 

実際問題13万Gはべらぼうに高い。リベリアなら戦艦が5隻は揃えられるほどの値段になる。完全に新造船を買った方が得である。

 

「はい、ですがこれは我々が提示できる最良の策であります。」

「これが最良の策だと?」

「はい、説明してもよろしいでしょうか?」

「あー聞かせてもらおうじゃないか。あんたがこれを最良の策と言えるだけの根拠を。」

 

納得できなかったら分かってるだろうな。という言葉は口から出さずに目だけで訴える。無論そんな脅しはエージェントには通用しないのだが。

 

「ではまず船体修理費用についてですが、管理局の正規価格であります。修理箇所を省略する事による費用を安く抑える事は可能です。しかし、そちらの艦の損傷具合を見ますに殆ど完全なオーバーホールが必要になると診断します。不完全な修理のまま出航した場合高確率で重大なインシデントを引き起こすでしょう。」

 

重大なインシデント、すなわち沈没またはそれに類する類の事故を引き起こすという事だ。その件に関しては何も反論できない。外から見ただけでスクラップと見間違う程の状態なのだから。

 

「第2の選択肢である新造船の建造ですが、こちらは不可能です。」

「不可能だと?」

「はい、本宇宙港には造船工廠及び改装工廠がありません。その為ここでの新造船の建造は不可能になります。」

 

その言葉に私は自分の顔が顰めるのをどこか他人事のように感じた。

建造ドックが無い以上、この星で船を造る事は出来ない。新造船を作るにはドックのある星まで行く必要がある。

 

手段としては船体を最低限修理するか、定期船に乗りドックのある星へ向かうことだが、

 

「残念ながら他の惑星との定期船は15年前に廃止されました。今は不定期な貨物船が通るのみとなっています。」

 

こんなド田舎の定期船なんて廃止されて当然だろう。

 

「また、造船工廠のある星へ最低限の修理で向かう事もお勧めいたしません。」

「なんでまた・・・。」

「こちらをご覧下さい。」

 

そう言ってエージェントが差し出してきたのはチャート―――つまりこの宙域の星系図だ。エルメッツァ中央宙域と表示されたここにはかなり多くの有人惑星が存在するようだ。

 

「・・・あれ?今いるボラーレも確かエルメッツァ中央宙域のはずだよな?」

「はい、ボラーレの位置はここになります。」

 

そう言ってエージェントはチャートの端の端を指さす。隅っこも隅っこで注意しないと見落としてしまう位置だ。

 

「・・・ド田舎じゃないか・・・。」

 

確かに辺境とは聞いていたがいくら何でもド田舎すぎるだろこれ。

 

「はい、最寄りの有人惑星まで平均的な巡航速度で1週間以上かかります。更に造船工廠のある星を目指す場合は1~2日かかります。」

「これではあの船を引っ張っていくのは難しいな・・・。」

「はい、曳航船舶やそれを運用している会社もこの星にはありません。外部から呼ばれる場合、船体の大きさもあるためかなり高額の料金を請求されると予想されます。」

 

宇宙自体何があるか分からない。万全の準備と整備を整えた船が沈むのなんて珍しくも無いのだ。それだけに損傷艦で1週間以上の長期航海を選択するのはよほど追い詰められた時だ。

しかもあの船、老朽艦の改造艦なだけあって巡航速度が比較的遅いのだ。おそらく平均速度よりもかなり遅い部類に入るので、平均巡航速度で1週間以上という事は、下手をすればあの船では2週間以上もかかるかもしれない。しかもそれはトラブル無しに順調に行けたらの話だ。

 

今のあの船で宇宙を航海する度胸は私にはなかった。

 

もう一つの手段である曳船も却下だ。

 

曳船とは、破損や故障した宇宙船を小型大馬力の宇宙船で移動させる船で別名タグボートとも呼ばれている。

全長は駆逐艦程度のサイズながらもそのエンジンの出力は巡洋艦以上も出すことができ、壊れて移動することができない宇宙船を引っ張ることのできる船だ。

 

エージェントが出した見積もりによると船体修理価格と大して変わらない額を請求されるらしい。理由は長距離航海ともう一つ、あまりに巨大すぎる船体ゆえに、曳船の曳航可能重量をはるかに超えているのだそうだ。

 

宇宙には摩擦が無いので一隻でも引っ張れるんじゃないか?なんて素人は考えているだろうが、巨大な質量をただ動かすだけならともかく危険を回避しながら目的地へ向けて動かすとなると、それを思いのまま動かせるだけのエンジン出力が必要になってくる。

 

下手に一隻で引いて目の前の小惑星がよけられずに衝突してアボン、なんてことも考えられる。

 

その為複数の曳船が必要になるのだが、それだけの手間と労力をかけるには相当の金が必要になるのだ。それでは結局意味がない。

 

「第3に中古船の購入ですが―――」

 

そう言ってエージェントが差し出してきた中古船リスト。そこに乗っているのはどれも恒星間航行の出来ないスペースボートばかりだった。

 

ちなみにスペースボートとは恒星間航行の出来ない小型の宇宙船を指し、宇宙港での作業や衛星軌道での観光やデブリ回収などに使用されるちょっと裕福な庶民でも買う事の出来るボートなのだ。

 

「この星の中古船市場はこの有様です。更に他の星の中古船市場も本星は利用対象外なので購入する事はできません。」

「・・・なんで・・・。」

 

いよいよ本当に打つ手が無くなってきた。それどころか惑星から出る手段すらなくなっている。

 

しかし船を修理するにしてもそれだけの大金を支払う事は・・・。

 

「当然これだけの大金をすぐにお支払いする事は出来ないでしょう。ですが一つ手があります。」

「手だって?」

「はい、管理局の資金援助プログラムに登録するのです。」

「資金援助プログラム?」

 

始めて聞く単語に私は首を傾げて聞き返す。

エージェント曰く、このシステムは管理局から0Gドックに対し資金援助されるシステムで、早い話が借金である。

 

実は借金をして船を建造する0Gドックはかなり多い。だが、そうして金を借りることのできる0Gドックはどこかの企業や団体などに所属している身元のはっきりとした0Gドックだけだ。

何処にも所属していない明日生きているかもしれない0Gドック相手に金を貸してくれる相手なんて高利貸しか犯罪組織ぐらいなものだ。

借金で首が回らなくなって犯罪の片棒を担がされたり、海賊に落ちる者もいる。

っていうかそもそも13万Gもの大金をポンと貸してくれる奴は高利貸しや犯罪組織にもいない。

 

しかし、管理局から借金が出来るという話は今まで聞いたことが無かった。理由を聞いたら借金を返済できる確率が高いと認められた0Gドックにのみこの話をする事が許可されているらしい。

 

何故かは知らないが、いつの間にか管理局の審査に通っていたようだ。

 

「今回の修理代13万Gを管理局の借金にて支払う事が出来ます。」

「それで?返済期限と利子は?」

 

一番肝心な所である。いくら大金を貸してくれると言っても、返しきれずに身売りしたりする羽目になったら意味がない。

 

「利息に関しては借入金額に応じて一定金額が課せられます。今回の場合利息は2万G、合計して15万Gとなります。」

「・・・。」

 

更に額が上がって頭が痛くなる。

 

「返済期限に関しましては、借用人と保証人の人数次第で融通できます。最低でも借用人1名と保証人1名の計2名が必要です。」

「二人だけだと返済期限は最大でどれくらいになる。」

「半年です。」

 

半年・・・半年で15万Gの借金を返すのは到底不可能だ。

 

海賊でもやろうかと頭の隅で考えている時に、ふとあることが頭に浮かぶ。

 

「・・・ん?今人数次第で融通できるって言ったな?」

「はい、保証人の人数が多ければ多いほど返済可能な確率は上昇しますから。」

「なるほど・・・だったら――――――。」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

「と言う訳でここにいる全員を保証人にする事と引き換えに、返済期限を10年にしてもらう事が出来た。」

「「「「「ふざけんなぁあああああああっつ!!!!」」」」」

 

シーガレットの説明にクルー一同が叫ぶ。

 

「艦長、なんでそんな大事な事を相談も無しに決めてしまったんですか?」

「他に手が無いからだ。」

 

実際船が修理できなければ、我々はこの見たこともない国のド田舎の惑星で野垂れ死にする未来しかないのである。

 

「それでも相談も無しに保証人にされるのはさすがに容認できねぇな。」

 

ディエゴの言葉に便乗するように幾人が批難の声を上げる。15万Gは地上の一般市民が一族郎党ひ孫の代まで裕福に暮らせるだけの金額であり、言葉通り新造戦艦が数隻購入できる値段である。それだけの金額の保証人をさせられていると聞かされたクルーの心中は穏やかでは無い。

下手をすれば一生どこかの採掘惑星で子々孫々強制労働だ。

 

「でもそれだけの資金を借りる事が出来たって事は、当然返す当てがあるのでしょう?」

「あぁ。」

 

シーガレットに話しかけたのはドクターであった。その答えに各員身を乗り出す。

 

「どうするのかしら?」

「あの船には巨大なペイロードがある。それを利用してフリーの運送業を行うつもりだ。」

 

ざわざわざわ―――

 

シーガレットの提示案に一同はざわめき立つ。

 

「フリーの運送業なんかで借金を返せるのか?」

「あれあまり儲けないって聞いたぞ。」

「いくら巨大戦艦って言っても純粋な大型貨物船よりもペイロードは少ないですし・・・。」

「そうだ、あの改造戦艦のペイロードはそこまで大きくない。」

「でしたらどうして―――」

 

続けるエドワードの言葉を遮って私は端末からホログラムを浮かび上がらせる。それはこのエルメッツァの星系図であった。

 

「ここがエルメッツァの首都星ツィーズロンド。ここへ向けて周辺惑星各地から様々な物資が運ばれているのだが・・・。」

 

そう言ってシーガレットが表示を切り替える。

 

「今赤く表示されている航路は海賊被害が月に10件以上確認されている地点だ。」

「え!?」

「こんなに!?」

 

データにはエルメッツァ中央の星系図が表示されている。中央だけあって星の数も多いが殆どの航路が赤く表示されていた。

 

「ツィーズロンドとその周辺の航路は安全ですね。」

「それ以外はほぼ全ての航路で海賊被害が出ているな。」

「そこでだ、あれだけ強力な船なら海賊なんか恐れる事はない。海賊被害で航路は干上がってるから、ここでの輸送は多少値段を上げても簡単に儲けられる。」

「ふーむ、火事場泥棒だな。」

 

大佐め、キツイ事を言ってくれるじゃあないか。

確かにやっていることは火事場泥棒と変わらないが、わざわざ海賊達が跳梁跋扈する危険な航路を通って運んでやるんだ。多少割高でも文句はあるまい。

 

名だたるヤッハバッハの巨大戦艦であれば海賊程度恐れるに越したことは無い。それだけにミッションの成功率も報酬を受け取る確率も借金を返済する確率も高い。

宇宙航路の発展を掲げる管理局だって、海賊の所為で航路が封鎖されたり宇宙へ出る者が減れば困るのだ。

 

そんな方々の事情があったからこそ、管理局が15万Gも融資を許可したといえる。

 

「まぁ異議がある奴は言ってくれ。最悪船を降りてくれてもいい。少なくともヤッハバッハの脅威は無くなったんだからな。」

「「「...。」」」

 

とは言っても、見ず知らずの惑星で部外者がまともに生きていけるほどこの世界は甘くは無い。修羅場を潜った彼らはアルコール混じりの頭でもその事は理解できたようだ。

 

この日の酒は、安息と不安の入り混じった味となっていた。

 




ゲームだと宇宙港での修理って無料ですけど実際には普通に金かかってそうですし、借金でローンを組んで船を建造するのも普通そうに思います。

なので借金を背負わせました(笑)

ゼーグルフの修理費用ですが、建造費用的にグランカイアスより少し高いくらいになりそうなので、調子に乗っていろいろ吹き飛ばしたのでかなりの金額に設定しました。

あとさりげなく主人公サイボーグ化しました。これによってアルタイトちゃんはログアウトしました。


次回「逆境無頼シーガレット、地獄の宇宙鉄骨渡編」お待ちください(大嘘)


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