異常航路   作:犬上高一

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第19話 遭遇 会敵 交戦のち

――――――――――

 

「レーダーに感あり!方位真正面!識別信号不明!」

「反応は巡洋艦クラスで数は4隻で、敵艦のエネルギー反応の上昇を確認しました。」

「砲雷班!主砲と艦首砲で敵艦隊を迎撃せよ!」

「了解した、主砲及び艦首砲にエネルギー充填。目標は敵T型巡洋艦。中央の2隻に艦首砲の照準を合わせろ。残りは主砲で撃沈する。」

「了解!艦首左2、上げ1.9!1番2番3番主砲は右の敵を、残りは左の敵艦へ照準合わせ!」

 

敵艦発見の報を聞いた私シーガレットは砲雷班へ迎撃の指示を出した。

号令が下されたアルタイトの艦首スラスターがうなりを上げ、艦首に備えられた60門の対艦クラスターレーザーの砲口が開かれエネルギーがチャージされていく。

 

「エネルギー充填完了!」

「照準固定完了!」

「敵艦発砲を確認!」

「着弾まで12秒です」

「正面シールド出力上げ、舵はそのまま。」

 

正面シールドへエネルギーをより多く供給する事でシールドを強化する。敵艦から発射されたレーザーは4本中3本がアルタイトへ命中したが、APFシールドによって阻まれ、光の粒となって飛び散っていた。

 

「砲撃用意完了!」

「撃て」

 

お返しとばかりにアルタイトから高出力のレーザーが放たれる。大量の強力な砲撃は、敵艦を貫き、宙に青い爆炎を煌めかせた。

 

「敵艦4隻のインフラトン反応拡散!撃沈と確認!」

「ほー、大したもんだ。4隻同時に撃沈とは。」

「流石ですねトーレス砲術長の腕は。・・・ただ」

「あぁ、”アレ”がなぁ・・・。」

 

そういって私は火気管制室のマイクを音量を最大限絞りONにする。

 

『ふははははははッツ!!素晴らしい!素晴らしぞッ!!実にエレガント!!ハーハハ―――』

 

そこまで聞いた所でマイクのスイッチを切る。

 

「また随分癖の強い奴を拾ってきたな、お前も。」

「あそこまでとは思わなかった・・・。」

 

普段は冷静沈着といった雰囲気のトーレスだが、彼のトリガーハッピー状態を見てブリッジクルーは頭を抱えていた。

ロビーの彼を見た時も一癖ありそうな予感はしていたのだ。だが、その後の彼は冷静に振舞っていたのであの時だけの興奮状態かと思っていた。だが、火器管制室に入ると人が変わり興奮状態になる。そして、困難な目標に命中させようものなら先程のようにトランス状態になってしまうのだ。

それでも周りの様子を見て冷静に判断しているのが恐ろしい。

 

あの狂気の高笑いを間近で聞いている砲術員の連中は気の毒だろう。あの顔と大音量の高笑いは見た相手に恐怖を感じさせる。完全に理性の糸が切れている顔だ。

 

「はぁ、とりあえず演習終了だ。チェック終了次第デブリーフィングを行ってくれ。各担当者はレポートを提出するように。」

 

その宣言と共にブリッジのモニターの景色が変わっていく。

先程の戦闘はVR訓練と言って仮想空間上での戦闘や危険宙域航行のシュミレーションを艦全体で行えるもので、主に各部署間での意思疎通や練度向上の為に行われる。

 

艦は複数人がそれぞれの箇所で操作を行う事で初めて動く事が出来る。その為個人の技量も大事だが円滑な協力体制というのも大事なのだ。

 

「まぁ新人が多い分多少もたつくな。それをベテランが率いる事で補っている形か。」

「こればかりはしょうがないさ。航海中は出来るだけ訓練時間を多めにとるようにしよう。」

 

世の中覚えの良い奴もいれば悪い奴もいる。早く色々出来るように皆頑張っていくしかないさ。

 

「そうだな。・・・しかしお前少し指揮に不安が残るな。」

「え?」

 

ま、まぁ私もこれだけの規模の船を動かすのなんてあまり経験のある事では無いし・・・。

 

「お前も後で個人訓練だな。」

「あ゛―」

 

誰にでも初めてはあるさ・・・。

結局あの後でベルトラムからリベリア軍士官用の教育をみっちり受けた。結構しんどかったぞあれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで現在新しい仲間を加えたアルタイトは、オズロンドを出航し中央宙域にある惑星ネロとの間の宙域を航行していた。

 

「しかし、案外良いミッションが無かったな・・・。」

 

惑星ネロとエルメッツァの首都星ツィーズロンドの間にある何もない空間に来たのにはそれ相応の理由がある。

 

「しょぼい海賊の討伐任務、報酬は800G。本当にしょっぱい仕事だな。」

「慣らし運転には丁度良いさ。」

 

オズロンドの酒場のマスターからの依頼でネロとツィーズロンドの間の航路に出る海賊船を討伐してほしいというミッションがあったのだ。他のミッションも貨物も無かったので慣らし運転がてらにこの小さな海賊討伐を受けたのだった。

 

「艦長、前方に反応あり!複数隻の反応です!」

「了解、それとアズキ。そんなに叫ばなくても大丈夫だから落ち着いてしゃべってくれ。」

「あ、すいません・・・。」

 

新人オペレーターのアズキ・バーは緊張しているのかさっきの訓練から声が上ずった大声を出していた。

そんなに緊張しなくてもいいのにと思ったが、彼女これが初めて乗る宇宙船らしい。そんな中でオペレーターを任されたのだ。そりゃ緊張もするだろうな。

 

「プププ、怒られてやんの。」

「うるさいスイカ。」

 

まったく。

 

「あ、艦長!前方の宙域に交戦反応です!」

「交戦反応?海賊でも出たかな?」

 

アルタイトの光学センサーに接続する。脳内に直接観測データが入ってくるが、特に違和感も無く前方に見える光を拡大して観測する。どうやら数隻の艦隊同士が砲撃戦を繰り広げているようだ。一方の艦船にはどこか見覚えがある。

 

「あれはエルメッツァ軍だな。レーダー手、相手の所属は分かるか?」

「は、はい!・・・・・・っでました!相手の艦隊はスカーバレル海賊団所属のようです!」

 

音叉のような外観をした大きい船と、スパナのように艦首が出っ張った船、そして小さなひし形の周りに何か構造物が取り付けられた船の3種類。

あれらは確かこの国のエルメッツァ軍が使用している艦船だったはずだ。以前見かけたカラーリングは確か黄土色系の船だったが、現在戦闘している船は白に薄グレーをかけたような色に赤の塗装がされている。

 

そして相手のスカーバレル海賊団、確かついこの間、隣にあるライッツォ宙域で討伐された海賊団の名前だったと思う。おそらく生き残りがいたのだろう。

解析データから海賊の艦隊は巡洋艦が3隻と駆逐艦と水雷艇が6隻の計15隻、それに対し相手の艦隊は戦艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦2隻の計5隻だ。ほぼ3倍の戦力差である。

 

「もう片方はやはりエルメッツァ中央政府軍のようです。」

「なんだ、軍隊にしてはずいぶん押され気味だな。」

「数の差じゃないか?」

 

エルメッツァ艦隊の数は5隻に対し海賊は15隻になる。いかに性能や練度の違いがあるとはいえ3倍の数を相手にするのは厳しいのだろう。

 

「いや、数で押されてるのもあるが軍艦の動きが鈍いような・・・あ、食らった。」

 

海賊艦の放ったミサイルがエルメッツァ軍の巡洋艦に命中する。当たり所が悪かったのか巡洋艦はそのまま沈黙してしまった。

 

「どうします?艦長?」

「まぁ、ここで無視してもいい事は無いだろう。礼金貰えるかもしれないし。」

「では、」

「あぁ、総員戦闘配置!!」

「総員戦闘配置!これは訓練ではない!繰り返す!これは訓練ではない!」

「主砲、艦首砲エネルギー充填開始!砲雷班諸君、早速の実戦だ!エレガントに行こうではないか!!」

「出力戦闘モードへ移行!船速上げろ!政府のお偉いさんに恩を売るチャンスだ!!」

「艦載機のエンジン回せ!急げ―!」

 

アルタイトのインフラトンインヴァイダーがうなりをあげて膨大なエネルギーを生み出す。そのエネルギーによってエンジンが轟々と声を上げ振動と共に力強く巨大な質量を動かし始める。砲のコンデンサーに大量のエネルギーが充填されていき、殺意を具現化した光を砲口から漏らしていく。

 

「敵艦までの距離35000!」

「砲雷長、あとどれくらい近づいたらいい?」

『後5000近づいてくれればいい。それで4隻は沈めてみせよう。』

「航海長!聞いたな。」

「あいさー、このまま近づきます!」

 

私達の位置は丁度海賊艦隊の左後方に位置しており、前方のエルメッツァ艦隊を攻撃し続けている海賊連中はまだ我々に気づいてはいない。不意打ちには絶好のチャンスだ。

 

「敵までの距離34000!32000!31000!」

「艦首砲、砲撃用意!」

「30000!!」

「発射!!」

 

トーレスの号令と共に、艦首砲からレーザーが発射される。発射された60本に上るレーザーはまっすぐ海賊艦隊へ向かっていき巡洋艦1隻、駆逐艦と水雷艇を2隻ずつ貫いた。

 

「敵駆逐艦3隻、水雷艇2隻のインフラトン反応拡散!撃沈!!」

「このまま近づいて残りを殲滅する!ブースター点火!」

「了解!ブースター点火!飛ばすぜぇ!」

 

文字通り爆沈した5隻を確認した私は命令を下す。

アルタイトのエンジンブロックの両脇には巨大なブースターが設置されている。その巨大ブースターが火を噴いて大質量を誇る船体を強引に加速させる。

今まで撃ち合っていた彼らは突然5隻もの船が爆沈した事に動揺して動きが緩慢になっていた。

 

「主砲、砲撃始め!」

「主砲砲撃始め!!」

 

一気に接近したアルタイトは4門の巨大砲を備えた主砲を発射しながら突入していく。海賊が我に返ったように慌てて回避機動を取るが、トーレスはそんな連中相手に一切の容赦なく砲撃を叩き付ける。

 

特に動きの遅かった1隻の水雷艇がレーザーの光に飲み込まれて消滅し、もう一隻の駆逐艦は船体後部がレーザーによって焼き抉られ航行不能となり漂流を始めた。

 

奇襲によって取り乱した海賊は突然レーダーに現れた全長4kmの巨大戦艦を見て更に混乱し我先にと逃走を開始する。

 

「逃がすな!ここを奴らの墓標にしてやれ!!」

「クラスターミサイルの射程に入りました!」

「よし、クラスターミサイル発射!!」

「クラスターミサイル1番から8番発射!!」

 

アルタイトに搭載されているクラスターミサイルはヤッハバッハが開発した大量の多弾頭ミサイルである。ランチャーに装填された複数のミサイルを一斉に発射し更にそのミサイルが命中直前に弾頭部が分かれて小型のミサイルが発射される。まるで弾幕を張るようにミサイルを展開するので、命中率火力共に優れた兵装だ。

 

流石ヤッハバッハ、容赦が無い。

 

発射された大量のミサイルはまっすぐ海賊艦隊に向けて直進していく。おそらくまだ動揺から立ち直れておらず、ECMやデコイといった防御手段を展開していないんだろう。対空レーザーを発射しているのも8隻のうち2隻しかいない。その対空レーザーも酷くお粗末なもので、着弾直前のミサイル一発に偶々当たった以外は迎撃されたものは無かった。

 

駆逐艦の一隻は艦橋に直撃を受けて指揮機能が麻痺した所へ更に複数のミサイルが虫が集る様に命中し穴だらけになりながら船体からインフラトンの蒼い光を漏らしながら沈没した。

機動力でミサイルを振り切ろうとしていた水雷艇も、ミサイルの雨を交わすことができずに船体左舷に直撃をうけ慣性によって高速回転しながら漂流している。

極めつけは中央にいた3つ又のようなフォルムをした巡洋艦で、多数のミサイルが弾薬庫あたりに直撃したらしく大爆発を起こして轟沈していた。

 

「えげつねぇミサイルだな・・・。」

「うわぁ・・・。」

 

ブリッジクルー達にはそんな感想しか出てこない。さっきのクラスターミサイルの斉射で更に5隻が撃沈又は大破となった。

 

「あ、艦長!残った巡洋艦1隻と駆逐艦2隻が離脱を図っています!」

「ここまできたらコールドゲームだ!艦載機隊発艦!敵艦の足を止めろ!」

 

待機していた艦載機隊に命令を下す。現在我々の艦載機隊は全部で24機しかいないが、足を止めるだけならそれだけで十分のはずだ。

 

「ジンとウィスキー、ウォッカとラムでそれぞれ駆逐艦の足を止めるんだ。」

「巡洋艦はどうするんだ?ポプラン。」

「鈍間の足を止めるくらい俺一人で十分さ。」

「一人じゃ火力が足りないだろう?」

「手伝ってくれるのかい?」

「獲物は大きい方がいいからな。」

 

そんな事を言いながら発艦していく艦載機部隊、機種はもちろんオッゴだ。

 

カタパルトから順次打ち出された彼らは編隊を組んで飛行していく。艦載機を迎撃しようと敵の駆逐艦が後部砲塔で攻撃してくるが、それを突出したポプランとコーネフが囮となってひきつけていた。

 

「当たるかよこんなヘロヘロ弾。」

 

二人がホイホイ弾幕を躱している間に残りの艦載機部隊が殺到し駆逐艦のエンジン目掛けて対艦ミサイルを撃ち込んだ。

 

撃ち込まれた対艦ミサイルに気付いた駆逐艦が必死の抵抗で迎撃しようとするが、迎撃に割く時間は足りず、わずかなミサイルを撃ち落としたのみでそのままメインエンジンを吹き飛ばされ漂流を始める。

 

「逃がすかよ。」

 

仲間の駆逐艦を見捨てて全速で逃げようとした巡洋艦へ向けて2機が突撃する。先程の駆逐艦よりは濃密な弾幕だがエースパイロットである二人には関係なく敵艦へ肉薄し、コーネフがエンジンを、ポプランが艦橋にミサイルを叩き込み、哀れ巡洋艦は逃げる事もかなわずに漂流する事となった。

 

「艦長、敵艦より降伏信号が出されています。」

「上々だな。」

 

奇襲で15隻の敵艦を無力化したのだ。初戦にしては十分すぎる戦果だろう。

 

「艦長、エルメッツァ軍の艦から通信が来ています。」

「出よう。」

 

回線を開くと通信ホログラムに一人の男が現れた。

 

『私はエルメッツァ中央軍のモルポタ大佐だ。貴官の救援に感謝する。』

「こちらは0Gドックのシーガレットだ。無事で何よりだ。」

 

何処か落ち着かない様子の軍人モルポタ大佐に一般的な挨拶を返す。

 

「そちらの艦隊も損傷している様だが大丈夫か?」

『あ、あぁ大丈夫だ。損傷はしているが沈没する程ではない。』

「それは何よりだ。漂流している艦艇の処理は貴艦等に任せても良いか?」

『も、もちろんだ!』

「了解した、こちらは沈没した海賊船の処理に当たる。」

『あぁ、よろしく頼む。』

 

通信を切って一息つく。

 

「なんだが落ち着かない男だな。」

「奇襲されてまだ動揺しているんじゃないか?」

「そうか?」

 

なんだか裏に何かありそうな予感がするが、別に真相がわかる訳でもないのでそのことは一度頭から外し、今は目の前の事への対処に集中する。

 

「では手すきの乗組員はEVA(船外作業)の用意だ。沈没艦の残骸から使えそうなものを片っ端から回収するぞ!」

「さぁ金稼ぎの時間だ。」

「アズキ、スイカ、周辺宙域の監視を厳にしてくれ。オッゴ隊もゴミ集めに動員するからな。」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

エルメッツァ中央軍、戦艦ロンデニオン艦橋。

 

「はぁ・・・・。」

 

突然現れた0Gドックとの通信を終えた私、モルポタは艦橋にある指揮官用の椅子にどっと腰を落とした。

 

ベクサ星系での暴動鎮圧に出動したモルポタ艦隊は、多数の艦隊に事後処理と周辺警戒を任せた後、モルポタ直属の艦艇5隻のみでツィーズロンドへの帰路についていた。

 

そしてこの宙域に差し掛かった際に突如としてライッツォで撃滅したスカーバレル海賊団の残党からの奇襲を受けたのだ。

 

海賊達が通信で裏切者と叫んでいたことからおそらくはライッツォの拠点にしていた連中だろう。

 

実はスカーバレル配下の者に多少の情報を流す代わりにいくばくかの賄賂を受け取っていた。主に軍の行動に関する事だが、部下であったオムス中佐の独断専行と改革派の行動によって軍の行動計画が突然変更されるなどの対策を取られていた。無論そこまでの情報を流す必要は無かったので、せいぜい危ない火遊びで済ませるつもりであったが。

 

だが連中は裏切られたと考えたのだろう。拠点を潰され仲間の大半を失った彼らは私に復讐を仕掛けたのだ。

 

まさか海賊が戦艦を有する艦隊に攻撃を仕掛けるとは思ってもいなかったモルポタ艦隊は混乱に陥った。無論軍人である以上ある程度の戦闘訓練を受けているので立ち直り反撃を行ったが、運悪く相手のゲル・ドーネ級ミサイル巡洋艦からの攻撃でこちらのサウザーン級の艦橋が破壊され一隻が沈黙してしまった。

 

これを受けて艦隊には更に混乱と動揺が広がり受けた私の頭はなぜこうなったのか自問するばかりであった。

 

しかし、突然虚空より飛来した砲撃によって事態は一変した。優勢を誇っていた海賊達が瞬く間に沈んでいく様子を私は茫然と見ているしか出来なかった。現れた巨大な船はまるでバターを溶かすかのように海賊達を沈めていき、たった1隻で15隻もの艦艇を撃沈もしくは無力化してしまったのだ。

 

「宇宙にはあんな者もいるのだな・・・。」

「は?何か?」

「いや、何でもない。」

 

平和なエルメッツァの軍内部での出世を果たし悠々と大佐の肩書に酔っていた私の頭に突然冷水を浴びせられたような衝撃、あのオムスにスカーバレルからの献金の証拠をつかまれた時や今回の奇襲の時などとは比較にならない程のショックが私の心にひびを入れていた。

 

もしあの船が海賊では無く我々に砲口を向けていたら―――――海賊達のように骨も残さずにこの宇宙から消失していたのは我々かもしれない。

 

「大佐、生き残った海賊艦に対し保安要員を送ります。」

「あ、あぁ、制圧は他の艦に任せよう。我々は被弾した巡洋艦の救援に向かう。」

「了解しました。」

 

部下に適当に指示を出しながら、私は改めてこの宇宙の広さと恐ろしさの片鱗を味わった。

 

後に、その恐ろしさそのものを味わうとはこの時は露程も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

「まったく、戦闘の後にビールを飲むくらい時間くらいほしいぜ。」

「ぼやくなよ、これも給料の内さ。」

 

戦闘に参加したオッゴ隊は、破壊された艦の残骸から使えそうな資材を探してデブリ漁りをしていた。この宇宙では使える物はなんでもリサイクル。特に莫大な借金を抱えたこの艦隊にとっては塵一つですら金に換えたいところなのだ。

 

作業用アームを搭載したオッゴはそういった意味で適任なので、戦闘から帰還すると弾薬の補充を後回しにされて即回収作業に放り込まれた。

 

「あの艦長が勝手にアホな額の借金背負わせなきゃ今頃楽しくパーティしてるって時なのによー。」

「今更言ったところで後の祭りさ。嫌なら逃げ出しても良かったんじゃないか?」

「冗談、さすがに別の銀河に裸で放り出されたらいくら俺でも何もできないぜ。せめて艦載機があればな。」

「はいはい、ぼやいてないでさっさとそれを運んでくれ。」

 

へいへいと適当な返事をしながらオッゴのアームで使えそうなセンサー類の塊をキャッチして艦内へ持ち帰る。

作業用マニュピレーター搭載のオッゴによって作業効率は上がり、1時間程度で回収作業を終了した。

 

「艦長、回収作業終了しました。」

「ご苦労さん、EVA班はそのまま休憩に入ってくれ。ランディ、回収した物資の目録は?」

「今作成中ですが、損傷した物が殆どなのであまり金にはならないでしょうね。」

「ま、1Gでも貴重だからな。今はせいぜい小銭を集めるさ。」

「艦長、エルメッツァ軍旗艦より通信です。」

「わかった。」

 

前方のエルメッツァ軍からの通信にちょっと襟を整えてから通信を受ける。

 

『こちらはエルメッツァ中央軍所属のモルポタ大佐だ。改めて貴官の勇敢な行動に対し感謝する。』

「こちらは0Gドックのシーガレットだ。貴官が無事で何よりだ。」

 

互いに改めて簡単な自己紹介を済ませる。モルポタ大佐なる人物は先程通信に出た時よりは幾分か落ち着きを取り戻したようだ。

 

『救援の礼をしたい処だが、こちらはいくらか事後処理があるため動けない。後日改めて軍本部を訪ねてほしいのだが良いだろうか?』

「こちらはそれで構わない、貴官等の方は何か必要な援助はあるか?」

 

モルポタは横にいた部下に話しかける。おそらくは状況の確認を取ったのだろう。

 

『いや、援助は必要ない。』

「ではこちらで回収した海賊の生き残りをそちらに移譲しても良いか?」

『問題無い。回収の為駆逐艦を向かわせる。』

「了解した。貴船の航海の無事を祈る。」

『こちらこそ。』

 

そう言って通信が切られた。

 

「と言う訳だ。接舷と海賊の引き渡しの準備をしてくれ。」

「了解。」

「にしても一応生き残りがいたんだな。」

 

我々が回収に当たった船は大半が轟沈していたと思うんだが・・・。

 

「運よく難を逃れた海賊がいたようで。」

「悪運の強い連中だ。」

 

ただし苦しみも感じずに一瞬でダークマターにされるのと、生き残って残りの人生を薄暗い監獄惑星で強制労働しながら過ごすのとどちらが良いのだろうか?

 

まぁ、生きていればいいことがあるというし、彼らには己の運に感謝して残りの人生を暗い監獄で過ごしてもらう事にしよう。

 

この後、軍に海賊を引き取って貰った我々はエルメッツァ首都星であるツィーズロンドに向かう事にした。

 

ちなみにミッションの方は我々以外の0Gドックによって海賊が討伐され失敗に終わった。

 

 

 

ちくしょう

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

惑星ツィーズロンド、エルメッツァ連邦の中央政府が存在する星であり、首都星として知られている。地上では高層ビルが敷き詰められ昼も夜も休むことなく人が行き交う。首都星だけあって宇宙船の出入りも激しく、大量の船が行き交う宇宙港はこの宙域で一番巨大な港だ。

 

その港の大型船用ドックの中にひときわ目立つ巨大な船体があった。

 

行き交う0Gドック達は、この銀河ではまず見る事のない巨大な船に開いた口がふさがらなくなっていた。

 

その巨大艦の艦長であるシーガレットは、例のエルメッツァ軍人のモルポタ大佐に会うためエルメッツァ中央軍の司令部の前に立っていた。その為主要なメインクルーの大半は付いてきていた。

 

「おぉ・・・ちゃんとした軍の施設だ。」

「おい、サンテールもちゃんとした軍の基地だっただろうが。」

「いやーあんな岩に穴開けた所だと採掘場と変わらない気がしてね。」

 

なんて軽口を叩きながら守衛に話しかけると、すぐにモルポタ大佐の待つ一室に通された。

 

「よく来てくれたキャプテンシーガレット。」

「お久しぶりですモルポタ大佐。」

 

軽く挨拶をして勧められるままに着席する。流石大国の軍隊、よい座り心地の椅子だ。

 

「この前は助かった。突然10隻以上の海賊に不意を突かれて奇襲されてしまってね。君達の協力が無ければ危なかった。」

「それは何よりです。偶々通り掛かったとはいえ見捨てるのも後味が悪かったですから。」

「「「(礼金くれるかもとか言ってたけどな・・・。)」」」

 

軍人でしかも高級士官相手に精一杯の営業スマイルで振舞う。こういう相手は機嫌を損ねると色々面倒なのだ。酷い奴だと見かける度に嫌がらせで臨検してくる。

 

おいこらポプラン、エドワード、ディエゴ、お前ら顔を歪ませて笑うのを誤魔化すんじゃない。

 

「いや、君の勇気ある行動のおかげで救われたんだ。改めて感謝する。」

 

なら金よこせと一瞬頭によぎったがそこはすぐに忘れておく。

 

「それとこれは海賊討伐の報奨金の2500Gだ。受け取ってくれ。」

「ありがとうございます。」

 

ようやく来た報奨金を受け取る。15隻もの海賊船の討伐報酬が2500Gか、レート的にはこれくらいの物だろうか?

 

「ふむ・・・所で君達はこの国には来たばかりなのかな?」

「あぁ、つい最近こっちに来たばかりさ。」

「見ず知らずの所で航海するのもなかなか大変だろう。」

「えぇまぁ。」

 

あ、これは――――。

 

「良ければこの国で活動するのに色々便宜を図ろう。私は顔が広いから何かできる事はあるはずだ。」

 

モルポタは自慢げに胸を張る。ここだけ見ると威厳に満ちた大国の軍人なのだが、海賊に襲われて慌てていた所を見てしまったので、こういう所で威厳を見せて体裁を取り繕っているようにしか見えない。

 

そんな彼の内心を私は察していた。

 

こうやって恩を売る形を取っておいて自分に都合の良いように利用する。古今東西どんな権力者でも使う手だ。大国の指導者であれ小さな会社の社長であれ―――。実際に昔やられたことがあるから分かる。

そしてそういう輩というのは従うものはとことん利用し従わないものには嫌がらせをしてあわよくば従わせるように仕向ける訳だ。人間が感情で動く以上好き嫌いが出来るのは致し方無いが、それに権力が合わさると何をされるか分かったものではない。こんな所で余計な火種を抱えるよりは、ここは素直に受けるに限るだろう。

 

「ありがとうございます。」

「うむ、ここエルメッツァは小マゼランの中でも優れた国家だ。存分に見て行ってくれたまえ。しかし君たちの船も随分素晴らしい船だな。いったいどこであんな船を手に入れたのかね?」

「まぁ少々縁がありまして、偶然手に入ったのですよ。」

 

嘘は言ってない、嘘は。入手手段がちょっとアレなので公に口にする事が憚られただけだ。沈黙は金なり。

 

モルポタ大佐も特にその点を追求してはこなかった。

 

「そうかね、所で君はこの宙域の現状を知っているかね。」

「えぇ、海賊被害が多発していると。」

「うむ、年々被害が増えていてな。正直な所軍でも対処しきれなくなりつつあるのだ。そこで、君たちのような勇敢な0Gドックに是非とも協力して欲しいのだ。」

「それは”命令”ですか?」

「いや、単なる”お願い”だ。」

 

はてさて権力を振りかざしてするお願いは果たして単なるお願いなのかな。

 

「まぁ、いいでしょう。」

「艦長!?」

「ありがとう艦長、これからもぜひ頼むよ。」

「具体的には何かあるのですか?」

「今のところは何もない。もし海賊と遭遇したら可能な限り撃沈してくれ。私の方に報告してくれればすぐに賞金の引き渡し手続きができるようにしておこう。」

「わかりました。善処しましょう。」

 

モルポタ大佐は私の返事に満足したように頷いた。

 

その後、軍基地を後にした我々はとりあえず酒場へと繰り出すことにした。

 

「艦長、良かったんですか?あんな簡単に安請け合いして。」

「あれは絶対裏で討伐報酬の中抜きとかしてる感じだな、間違いねぇ。」

「そうは言うがなエドワード。ここであいつに目をつけられてみろ。この国での活動に差し支えるぞ。あんまり治安維持関係の人間には逆らうものじゃない。」

「これはコイツの言うとおりだな。治安関係者に嫌われると後が面倒だ。せいぜい利用されているように見せかけてこちらが利用し、後は適当な所で姿をくらますしかないだろう。」

「流石は元治安維持関係者、よくわかってるじゃねーか。もしあんたが0Gドックに逆らわれたらどうする?」

「適当な罪をでっち上げて逮捕して船を没収するだろうな。」

「「「わーお・・・」」」

 

ベルトラムの当たり前のようにいう言葉に一同はそんな声しか上げられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




初戦で15隻も撃破ってかなりの大戦果なんですけど、まぁフネがフネだけにそのくらいは出来そうですけどね。

多分歴戦のヤッハバッハ軍人などが乗っていれば、これの倍の海賊も一瞬で粉砕出来そうです。


モルポタ大佐はぶっちゃけこのくらいの事やってるんじゃないかなーと思ってます。
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