全宇宙の4分の1を支配下に置くと言われている巨大帝国。強大な軍事力によって多くの国家を滅亡、吸収してきた。純血のヤッハバッハ人は平均身長2m前後。
「今物々交換できるのはこんなものだ。」
そう言ってベルトラン大佐が提示したデータベースを見る。目録の中は船のジャンクや鉱石などがほとんどだった。
「・・・ん?」
そのデータの中に一つ妙なものを見つけた。『コントロールユニット』というモジュールの設計図だ。
「大佐。このコントロールユニットはどうしたんだ?。」
「ん?あぁそれか。レジスタンスの連中が何処かの研究所から盗んできたらしい。なんでも船の管理をコンピュータに任せて最低稼働定員数を減らすものらしい。」
「便利な物じゃないか。試してみたのか?」
万年人不足のここなら、こういったものの需要は高いはずだ。使い方などを聞き出そうとしたが大佐は首を横に振り
「残念ながらうちの工廠では作れなかった。どうにも統一規格を無視した代物らしい。それなりの規模の工廠じゃければ無理だ。」
「統一規格を無視?」
統一規格は、空間通商管理局などが提示する宇宙船の部品などの統一規格だ。この規格によって宇宙船の建造は2~3日で終わるし、船に搭載するモジュールも他国の物をそのまま使えるのである。
統一規格を無視すると、その船その船で調整が必要になったり、場合によっては工廠で生産できなかったりとかなり大変な事になる様だ。
「ふむ。じゃあこれと、鉱石をいくつか貰っていこうか。」
「出航時間は何時だ?」
「積み込みが完了次第出航するさ。次持ってくるものに何か必要なものはあるか?」
「あぁ、食料に服。それとミルクだ。」
「ミルク?」
「逃げ込んだレジスタンスの中に親を亡くした赤ん坊や子供までいてな。ギルバードが興奮しているのもこれが原因だ。」
「分かった。可能な限り手配しよう。」
「助かる。」
積み込みを終えたらさっさと出航する。ここの連中は基本的に悪い連中ばかりではないが長居するべきではない。それが互いの為だ。
積み込みを終えサンテール基地を後にした私は、ゼアマ宙域から離れた辺境惑星フラベクに入港していた。主要航路から離れたフラベクは、まさに辺境という惑星だった。
その辺境惑星の工廠で、私は例のコントロールユニットが制作できないか試していた。
「駄目か・・・。」
やはり辺境惑星の工廠程度では駄目らしい。鉱石もある程度売れたが、赤字を避ける事は出来なかった。せめてこのコントロールユニットが作れれば、一人で艦内整備とかする事が無くなるだろうと思ったのだが・・・。
あの後色々試してみたが、希少素材や専用設備などが必要で余程発展した所じゃないと作れないことが改めて分かっただけだった。
「マスター。白ワイン炭酸砂糖入り。」
「はいよ。」
0Gドッグ御用達の酒場――だった所だ。ヤッハバッハによる航行制限が厳しい為、フリーの0Gドッグは殆どいなくなってしまった。今いるのはどこかの商人か、周辺を飛んでいるデブリ回収船くらいである。
「マスター。何かミッションはないか?もちろん正規の。」
「うちは“正規の”ミッションしかないぞ。適当な事言うな。」
そう言ってマスターは、注文のドリンクを出してきた。
「ミッションなら丁度いいのがある。人を送ってほしいんだ。」
「何処までだ?」
「リベリア。」
「また随分と遠い所に行きたいようだな。」
リベリアと言ったら、リベリア皇国の首都所為だ。ヤッハバッハの総督府が置かれている星で大変発展しているし警備も大変厳重だ。
「報酬は?」
「150G。運ぶ人数は1人だ。」
「違法な客では?」
「大丈夫だ。民族管理カードも本物だよ。」
目的地までの報酬を考えると少し安いが、民族管理カードが本物であるなら合法的にリベリアまで移動できそうだ。
「じゃあそのミッションを受けよう。出航時間に船に来るように言っておいてくれ。」
「ああ。所でもう一杯行くか?」
「頂こう。」
「貴女が私を運んでくれる人ですか?」
出航時間の少し前にやってきた中肉中背の男は、ジュラルミンケースを一つ大事そうに持っていた。
「貴方が依頼人か?。」
「はい。エドワードと言います。リベリアまでよろしくお願いします。」
「あまりきちんとした客室ではないからそこは我慢してくれ。」
「大丈夫です。航海には慣れていますので。」
「それは頼もしい。短い間だがよろしく。」
「こちらこそ。」
エドワードが乗った所で輸送船は出航する。目標とするリベリアはここからボイドゲートを1つ程挟んだ所にある。
辺境なのでヤッハバッハのパトロールもいない。しばらくは静かな宙域をオートクルーズで航行していく。
「所でなぜリベリアへ?」
気になっていたことを聞いてみる。普通ここからリベリアへ行く用事はまったく思いつかない。
「実は私、こう見えても学者でフラベクには研究の為に来ていたんですよ。こっちへ来たのは良かったんですが、帰りの船が中々見つからなくて。」
「・・・帰る算段をせずにこっちへ来たのか?」
「まぁそんな所です。」
研究者というのは周りが見えない者と聞いた事があるが、彼はたぶんその類だろう。
その後、何事も無くボイドゲートまでたどり着く。辺境という事もあるが、ヤッハバッハの支配下になってから海賊などの被害が一気に減り、安全に航行できるようになった。その分0Gドッグも減ったが。
「ボイドゲート。相変わらず巨大なものですね。」
ボイドゲート。何時何処で誰がどうやって何の為に設置したのか分からないワープ装置。これをくぐる事で、何百光年と離れた宇宙へ一瞬で移動する事が出来る。
「さて、ゲートに飛び込むが何か忘れ物とか無いよな?」
「えぇ、もちろんです。」
「じゃあ行くぞ。」
別に何か特別な操作が必要な訳でも無く、ただ普通にゲートをくぐるだけである。くぐった瞬間そこはもう別の宇宙だった。
「そういえば艦長。」
「シーガレットだ。」
「シーガレット艦長はボイドゲートを通過する時、頭痛がするとかいう事はありませんか?」
「いや?」
「そうですか。いや、知り合いの話で稀にそういう人が居るらしいので、シーガレットさんはどうかと思いまして。」
「いや、一度もそういったことは無いな。聞いた事も無い。」
「そうですか。」
ボイドゲートを通るときに頭痛がするなんてことがあるのか。ゲートの通過は絶対の安全を保障されているから、何も影響はないと思っていたが・・・。
「おそらく数億人に一人の割合で体質的にゲートになじめない人が居るのでしょう。」
「ふむ・・・。かなり珍しい体質になるのだな。」
まぁ私には何も関係のない話か・・・。
リベリアに近づくにつれ徐々に民間船やパトロール艦隊が徐々に多くなっていった。首都星とあってさすがに数が多い。
ここで通信要請を受けた。相手はヤッハバッハのブランジ級突撃艦3隻からなるパトロール艦隊だ。
「こちら、民間船アルタイト。何か御用ですか?」
『こちらは第411パトロール隊である。貴艦は定期船では無いようだが何が目的か。』
「本船は、惑星フラベクからリベリアまで民間人を運んでおります。」
『航行許可コードを提示されたし。』
「いま送ります。」
航行許可コードは、ヤッハバッハが発行しているものでその時その時の航海で発行されるものだ。発行には事前審査が必要で、申告と異なる航路を通ったりすればたちまち捕縛されるし、コードが無い船は反乱分子とみなされ捕縛される仕組みだ。
『確認した。コードに問題なし。貴艦の航海の安全を祈る。』
「ありがとうございます。」
そういって通信を切る。しかし昔に比べれば随分と面倒になったものだ。その分だけ航行の安全は高まっているが・・・。
宇宙港それ自体はヤッハバッハでは無く空間通商管理局の管理下にある。その為入港や出港自体は問題なく行える。ただし、港内にはヤッハバッハ兵がうろついているので、不審な行動を取れば普通に捕まる。
とは言っても、ヤッハバッハに逆らわず普通に大人しくしていれば何も問題は無い。手続きを終えた私達は惑星リベリアへと降り立った。
「助かりました。やっと家に帰れます。」
「次は帰りのことも考えて行動することだな。」
「気をつけましょう。それとこちらが報酬の150Gになります。」
エドワードから報酬の150Gを受け取る。やはりもう少しもう少し貰いたいものだ。
「では、またどこかでお会いしましょう。」
「ああ、またどこかで。」
2/16一部名称などに間違いがありましたので修正しました。