異常航路   作:犬上高一

20 / 26
第20話 張子の虎と放浪の用兵家

司令部を訪れてから数日後、アルタイトは惑星アルデスタへ向けて航行していた。

 

モルポタから輸送会社の紹介を受けたシーガレット達はアルデスタへ向けての輸送ミッションを受けていたのである。

 

「アルデスタか、確か最近まで隣の惑星ルッキオと緊張状態にあったな。」

「確か資源地帯が原因なんだでしたっけ?」

「そうだ。」

 

ダスティの質問に対し返事をしながら宙域図を展開する。アルデスタ、ルッキオともにエルメッツァ中央宙域にある惑星で、エルメッツァに属すると共に自治政府がおかれている。この中間に位置するのがベクサ星系と呼ばれる小惑星帯で大量の資源鉱物が存在しており両者が互いに領有権を主張していたのである。近日両者の関係はこの星系を巡って悪化の一途を辿り内戦寸前にまで緊張が高まっていたのだ。

 

「結局中央政府の介入で再度分割協定が結ばれて本格的な内戦には至らなかったがな。それで今まで停止されていた鉱石の採取と輸出が可能になった訳だ。この大量の採掘機材もそのためだな。」

「それに合わせて海賊被害も出ているぞ。レアメタル輸送船なんかは特に襲われるだろうな。」

「うへぇ・・・。」

 

ダスティが嫌そうな顔をするのも無理はない。この機材をアルデスタに降ろした後で大量のレアメタルを輸送するミッションも受けているのだ。

 

「レアメタルを積んだ輸送船なんて宝の山だからな。ブラックマーケットで売りさばけばかなりの金になるだろうぜ。」

 

ディエゴの言った通り、レアメタル満載の船は海賊にとって涎が出るような高級品だ。行きはよいよい帰りは怖いと言った具合で、アルデスタとルッキオから出港する船は特に狙われやすいが、逆にそこへ向かう船は空荷かそれ以外の貨物を積んでいるので狙われにくい。

 

「おかげさまで危険手当が爆上がりだよ。ついでに保険ケチってるから絶対に積み荷に損害出すなよ。」

「「「え?」」」

 

シーガレットの唐突な爆弾発言に驚きながらも巨大な戦闘輸送艦と化したアルタイトは真空の宇宙を進んでいった。

 

結局海賊と遭遇することはなく、アルデスタに入港したシーガレット達は積み荷の機材の荷卸しを始めた。といっても必要な書類を各局に提出すれば後は向こうがやってくれるので、こちらが何かするという事は基本無い。

機材の積み降ろしと鉱石の積み込みで合わせて4時間弱ほどかかるとのことだった。

 

「4時間か。」

 

休憩には少し長い時間だが寝るには短い。今は特にやる事が無いので、とりあえず酒場にでも繰り出すことにする。

0Gドックはやる事がなければとりあえず酒場へ行く。もはや定めと言ってもいい。

 

「いらっしゃいませー。」

 

酒場に入ると可愛らしいメイド服を着た女の子が出てくる。どうやらこの星の酒場はちょっとおしゃれなバー風に仕上げているらしい。こうして星ごとに違った酒場に入るのも楽しみの一つだ。

 

「おや?誰かと思えば艦長じゃないですか。」

「コーネフじゃないか。どうしてここへ?」

 

黙って酒場の隅を指すコーネフにつられてみてみると、そこには酒場の客をナンパするポプランの姿があった。

 

「・・・まるで水を得た魚だな。」

「人生には潤いが必要ですからね。」

「奴の場合潤いすぎてふやけるんじゃないか?」

「ひどいですね艦長、言いたい放題じゃないですか。」

 

なんてことを言って笑っていた所で当の本人の登場だ。

 

「なんだポプラン。上手くいかなかったのか?」

「いやいや、この短い時間でご婦人に愛をささやくのは大変でしてね。」

「お前さんの腕はその程度のものだったのか?」

「いえいえ、小官の腕では十分すぎる時間ですが、お相手の事を考えればそのような短時間で別れてしまうご婦人の心中を察して辞退したんでございますよ。」

 

なんてかっこつけて言うものだからこちらも肩をすくめて笑うしかなかった。ポプランの紳士的な撤退を肴に酒場で飲んだくれていた所へあるニュースが流れていた。

 

「先日アルデスタ近海において輸送船団が海賊の襲撃を受けました。当局によりますと犯人はスカーバレル海賊団によるものでここ最近は彼らによる略奪の被害が増加の一途を辿っています。当局は巡視の警備艦隊を増やすと発表がありました。エルメッツァ中央政府軍からはスカーバレル海賊団の首魁と目される男、アルゴン・ナバタラスカに懸賞金6000Gが掛けられており―――――――。」

 

6000Gとはまたずいぶんな金額だなと思った。小さな輸送船が買えるくらいの値段である。

 

「マスター、この海賊ってそんなに凄い男なのか?」

「えぇ、この宙域を牛耳っているスカーバレル海賊団のボスで残虐で非道な海賊として恐れられてますよ。」

「あれ、確か前に討伐されてなかったか?」

「あぁ、あれは隣のライッツォ宙域の連中ですね。スカーバレル海賊団ってのは主にエルメッツァ国内にいてそれぞれの宙域ごとにボスがいるんですよ。ライッツォ宙域のボスはバルフォスという男でしたが、ここではアルゴンがボスなのです。」

「なるほど。ずいぶんと巨大な組織なのだな。」

「えぇ、スカーバレルの海賊団は100隻を超える艦隊だそうで。軍も大分手を焼いているようです。」

 

想定していたよりも大分多い数を聞いて私は驚きと困惑を隠せないでいた。

100隻以上の艦艇を有するという事はそれ相応の補給と整備能力を有する必要がある。そしてそれだけの物資と人員、更に設備を揃えているという事は―――

 

「連中、海賊の癖に秘密基地でも持っているんじゃないのか?」

「その可能性は高いでしょう。軍が手出しを渋っているっていうのも納得できます。」

「艦艇の数ももっと多い可能性もあるな、被害もほとんどスカーバレルのものだしよ。」

 

―――これは少し注意が必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

シーガレットがブリッジの椅子で欠伸をしていた時、突然鳴り響く警報に驚いたのは、オズロンドを出港して直ぐの事だった。

 

「どうした!?」

「方位270仰角050よりミサイル接近!距離1500!!数は5!!」

 

先ほどの警報はミサイル警報だった。周辺に軍艦や民間船の影も無くデブリの岩石が漂っている程度で、おそらくはその陰から発射されたのだろう。

そして無警告で民間船に発砲するのは海賊と相場が決まっている。

 

「対空迎撃!デフレクターの出力を上げろ!」

「間に合いません!着弾します!」

「総員耐ショック態勢!!」

 

慌てて全員が何かにしがみつくが、一向にその衝撃が来る気配が無い。

 

「・・・おい、ミサイルは着弾したか?」

「あ、はい。左舷側に着弾しましたが、デフレクターで無力化されたようです。」

「衝撃も無いのか・・・。」

 

クルーの緊張が一気に解ける。流石はヤッハバッハ帝国の巨大戦艦、海賊船程度の攻撃では傷も付かない。

 

「オペレーター!周辺方向の索敵急げ!!」

「「りょ、了解!」」

 

安堵していたバー姉妹に檄を飛ばして敵を探させる。少ししてスイカから敵艦発見の報告が上がってきた。まだ場数を踏んでいないのか対応が遅いな・・・。

 

「艦影確認!駆逐艦1、水雷艇2!ゼラーナ級駆逐艦とジャンゴ級水雷艇です!」

 

敵はどうやらデブリの影に隠れていたらしく、戦闘の為にメインエンジンに火を入れたことでようやくレーダーに探知することが出来た。

 

「スカーバレルか!応戦する!ミサイル発射!」

「了解、ミサイル発射。」

 

デブリから飛び出してきた海賊たちに向けてクラスターミサイルが発射される。発射を確認した海賊は直ちに回避行動を行うが、途中で散弾のように分かれるミサイルに対応できなかったジャンゴ級が直撃を受けて撃沈した。

 

「続けて主砲発射!」

「近すぎるぞ!」

「牽制にはなる!沈めなくていい!とにかく撃ち込め!!」

 

とはいってもあれだけ巨大な砲がそう機敏に動く訳もなく、間に合ったのは左舷側面の主砲のみでエネルギーも3%しか充填されておらず、照準も大雑把に合わせただけで敵艦の近くを通る程度に留まった。

 

「敵艦、減速します!」

 

まるでその事を予想していなかったのか、明後日の方向へ発射された砲撃を見た海賊は慌てて速度を落とし始めた。

 

「今だ!残りの主砲で砲撃せよ!」

 

反転の為動きが止まった所を見逃さなかったトーレスによって照準を合わせた主砲から次々とレーザーが発射される。反転中だったゼラーナ級が直撃を受けて撃沈された。

ゼラーナ級より一歩早く反転し離脱しようとしたジャンゴ級は、ゼラーナが撃沈される際に丁度ゼラーナの至近にいたため爆発に巻き込まれて航行能力を喪失した。

 

「敵艦隊全滅!」

「注意しろ、まだ周辺に別動隊がいるかもしれない。」

 

オペレーターが残敵の捜索に当たる中、ディエゴがぼやく。

 

「・・・なんだか妙な動きをする連中だな。」

「そうなのか?」

「あぁ、あの動きは奇襲して白兵戦を仕掛けようとした動きだ。それを途中でやめて反転するなんて格好の的になるぜ・・・。」

「確かにな・・・。」

 

その答えは、漂流していたジャンゴ級の生き残りによって明らかにされた。

 

「つまり連中はこの船を戦艦ではなくて、外見を戦艦に見せるように擬態した貨物船だと思ったのか・・・。」

「それで襲ってみれば敵は本物の戦艦で、慌てて逃げようとした訳か。」

 

なんともまぁ他人が聞いたら間抜けな海賊の話として大笑いすることになるだろう。

確かに輸送船に偽装改造をして戦闘艦のようにして見た目で海賊を追い払う方法を行っている船もいるので、別銀河から来た見たことも無い船型の船をそれらと誤解してもおかしくはない。

 

図体も巨大なので積み荷も大量お宝も大量とでも思っていたんだろう。

 

「運のない連中だ。」

「まったくだな。」

 

大型戦艦を貨物船と間違えて喧嘩を売った挙句に攻撃は無効化され、撃沈ないし捕虜になったのだ。笑い話としてはいい例だろう。

 

たった一つの選択を間違っただけで、人生は取り返しのつかないものになる。

 

「明日は我が身、明日は我が身と・・・。」

「艦長?」

「いや、何でもない。」

 

私の独り言は誰にも聞かれる事無く、ブリッジへと消えていった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

惑星ツィーズロンドへ入港したアルタイトは荷降ろしを始める。荷降ろしに関してはベルトラムに任せて私は宇宙港の軍の詰め所にいた。捕虜にした海賊の引き渡しと懸賞金の受け取りの為である。窓口で手続きが終わった所で後ろから声を掛けられた。

 

「君がシーガレット君かね?」

「そういうあなたは?」

「私はエルメッツァ中央政府軍のオムス中佐だ。君が助けてくれたモルポタ大佐の部下だ。」

 

軍服に身を包んだ男―――オムス中佐は答えた。中肉中背の男だが、その眼はどこか他人と違うものを感じさせる。ゆるんだ顔のモルポタとは違う、まるで戦う事が生きる意味のような武人に感じさせる引き締まった覇気のある目だ。

 

何となく、それとなく私が苦手な感じがする。

 

「先日は上司が世話になったようで、一度会って話してみたかったのだ。」

「それはどうも。」

 

何かモルポタに対する扱いが雑に感じられるが、あまり突っ込まないでおくことにする。私がそっけない返事で対応していると、オムス中佐は窓から見えるアルタイトを見つめる。

 

「あれが君の船かね。素晴らしいものだ。いったいどこで手に入れたのかね?」

「えぇ、とある所で偶然手に入れましてね。」

「そうか、宇宙にはあのような船もあるのだな。」

 

自分でも無意識の内にアルタイトの入手経路をごまかしてしまっていた。後から思えば本能的な部分でこの軍人に対して何かを感じ取っていたのかも知れない。

 

オムス中佐は何かを考えるそぶりを見せながら私の方へと向き直った。

 

「所で君はスカーバレル海賊団の討伐に協力してくれるそうだな。大佐から聞いているよ。」

「あー、それはまぁはい。」

「ふむ、我々としてもあの海賊には手を焼かされていてね。そこで、君達にぜひ会ってほしい人物がいる。」

「人物・・・ですか?」

「あぁ、惑星ネロというところにディゴ・ギャッツェという男がいる。彼に会ってスカーバレルの討伐に協力してやってほしい。すでに先方には連絡してある。」

「え、いやこちらにも予定が―――」

「丁度ミッションも終えた所で時間も余裕があるだろう。討伐の暁には多額の報酬を約束しよう。ではよろしく頼む。」

「あのちょっと、」

 

言いたい事だけ言ってオムス中佐は去って行ってしまった。残された私は茫然と彼の去った後を見る事しかできなかった。

 

手続きを終えた私はとりあえず今後どうしようかと悩んだ末に酒場にたどり着いた。どうも勝手に足が進んでいたらしい。

 

「という事があったんだよ。」

 

そこで飲んでいたベルトラムをはじめメインクルーと合流して事の顛末を話した所ほぼ全員からため息と呆れた視線が返ってきた。

 

「あそこできっぱりと断っておかなかったお前が悪いな。」

「軽率だったとは思っているよ。」

「まぁ済んだことを言っても仕方ないでしょう。問題は今後どうするかです。ここまで外堀を埋められていて姿を眩ますのは難しいでしょう。方法はわかりませんが先方はこちらの行動を把握しているようですし。」

 

ランディーの言う通り先方にはこちらの動きがばれているようで、ここで逃げ出せば完全に目を付けられて有形無形の妨害を食らうかもしれない。最悪犯罪者として手配される可能性がある。

 

「やっぱりネロに向かうしかないんじゃ無いですかね?」

「で、100隻以上の海賊団に真っ向から立ち向かっていく訳か。勇敢なこった。」

「む・・・。」

 

ダスティの意見にディエゴが水を差す。言外にも無謀だと言っているのだ。

 

「十数隻の海賊相手ならあの船は大丈夫だ。が、ゼロが一つ増えると話が変わってくるぞ。」

「その事なんですが。」

 

そういって手を挙げたのはエドワードだった。

 

「実はこの間の戦闘データを合わせてスカーバレルの艦艇の性能を分析していたんです。これをご覧ください。」

 

そういって表示される端末にはスカーバレルの各艦艇のデータが記載されていた。

艦艇の性能を比較するための基準というものが存在しこれは空間通商管理局によってきめられている為、全宇宙で統一されている。その為に別銀河の艦艇であっても簡単に性能を比較することが出来るのだ。

正確なデータが無い中で彼はアルタイトとの戦闘データから相手の艦艇のデータをはじき出し各艦艇の数値を割り出していた。

 

「圧倒的じゃないか。我が艦は。」

「もちろんこれらデータは予想値にしかすぎません。こと海賊船に関しては各艦のカスタマイズも異なりますのでそれぞれの艦艇で異なるでしょう。ですがこれだけの性能差であれば、単艦でも100隻の海賊船相手に十分太刀打ち出来るでしょう。」

 

その言葉に非戦闘員系のクルーたちの顔が明るくなるが、元軍人たちの顔色は変わらなかった。

 

「エドワード、その予想はあまりあてにはできない。」

「と、言いますと?」

 

ベルトラムの言葉にエドワードは意外そうな顔をする。

 

「それに関しては元海賊の方が詳しいだろう。ディエゴ、お前ならどうする?」

「俺がスカーバレルなら、この間みたいにデブリ帯の陰に潜んで待ち伏せ近づいたところで奇襲を仕掛けるだろうな。ただし、攻撃手段は砲撃でも雷撃でもなく強行接舷からの白兵戦だ。これなら艦艇の性能差は関係なくクルーの腕っぷしと数が物を言うようになる。」

 

海賊の常套手段である白兵戦は、逃げ場のない宇宙において相手艦を確実に制圧する上で非常に有効な戦法である。100隻の海賊船ならば優に一万人近い人数がおり日常的に白兵戦をする敵に対してこちらのクルーの数は圧倒的に少なく戦闘経験が豊富でもない。

 

「――戦いは数――ですか。」

「そういう事だ。我々が懸念するのはそこだな。」

 

単艦性能では圧倒的でも数と白兵戦能力で劣る以上、迂闊な行動は出来ない。かといって、軍の要請を無視する訳にも行かない。

 

結局、我々は惑星ネロで待っているディゴという人物に接触してから考えるという結論に落ち着くこととなった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

惑星ネロ、ツィーズロンドより少し離れた位置にあり、そこまで発展しているという訳でもなくかといって未開の地という訳でもない。典型的な地方都市といった感じだった。

惑星につくや否やドクターが降りて行ってしまった。

なんでもメディックという医療慈善団体があるらしく、そこから優秀な医者を引き抜こうという事らしい。前回の大量募集の際に医療系の人員は揃えられなかったからなぁ。

 

待ち合わせ場所の酒場に入ってマスターに探し人の事を伝えると、あるテーブルに案内された。そこには、中年の少しやつれた男とかなり若い少年達の一団が座っていた。

 

「あなたがディゴ・ギャッツェか?」

「おう、オムス中佐から話は聞いているぜ。」

 

座っていた中年の男、うちのディエゴと少し似ている男はそう自己紹介をした。オムス中佐の部下と聞いていたのでてっきりきっちり軍服を着た軍人かと思っていたが、見た目からして労働者風の飲んだくれにしか見えなかった。

 

彼曰く、スパイ活動の為にこのような格好をしているんだとの事。確かに軍服は目立つからなぁ。

 

「あんたらに紹介したい人物がいる。彼らが0Gドックのユーリだ。」

「初めまして。」

「こう見えて隣のライッツォ宙域でスカーバレルの拠点攻略にも参加した連中だ。頼りにしていいぜ。」

 

こんな少年がと思いフェノナメログを確認した所、確かに艦長として活動していた。よくもまぁその年で海賊相手に立ち向かうものだ。

 

「ユーリ君だったかな。君はどうしてスカーバレルに立ち向かうんだ?」

「僕の仲間も奴らに酷い目に合わされてきたんです。それに奴らを倒せばそのせいで苦しんでいる人々を一人でも助けることが出来ますから。」

 

うっわまぶしい。

純粋な瞳でそんな綺麗な言葉を言われてしまうと、賞金と保身で参加した自身の良心が抉られる思いから視線をそらしてしまう。相手からは不思議がられていたが、心の内を知っているうちのクルーからは憐れみと非難の視線が突き刺さってくる。

だってお金欲しいし軍人怖いんだもの・・・。

 

「あー、とりあえず話を進めるが。お前さんたちはスカーバレルについてどこまで知っている?」

「噂は色々と聞いた。ライッツォでバルフォスが倒されたとか、ここではアルゴンという男がボスだとか、100隻以上の艦艇を持っているとか。」

「まぁ有名な話だな。それに加えて少し細かい情報がある。一つ、まずバルフォスが倒されたという話だがこれは正確じゃあない。正確には奴の本拠地を潰しただけで当の本人はまだ捕まっていない。二つ、艦艇の数が100隻以上といったが、正確には170隻以上だ。」

「なんでまたそんな数が?」

「ライッツォで活動していた連中がこちらへ逃げ込んだ所為で数が膨らんだのさ。そして三つ、ここのボスであるアルゴンはファズマティと呼ばれる要塞を辺境宙域に築いているらしい。場所はおそらく惑星ゴッゾの方面だろう。そこが奴らの活動拠点になっている。あんたらにはその要塞を攻略してもらいたい。これがその要塞のデータだ。」

 

そういって差し出されたデータプレートには、巨大な要塞の概略図が記載されていた。

 

「・・・ちょっと待ってくれ。そこまでわかっていてなんであんたらが出動しないんだ?170隻とは言っても海賊だぞ?装備も練度も整った正規軍の相手じゃないだろう?」

 

そういわれたディエゴは若干薄くなった頭を掻いてウィスキーを飲み干すと話始める。

 

「・・・身内の恥を晒すようで悪いんだが、今中央軍は保守派と改革派に分かれて勢力争いをやっているのさ。中央軍だけでなく地方軍も巻き込んでのグダグダだ。そこをアルゴンに付け込まれて、軍内部で討伐に妨害する動きがあるのさ。」

「おいおい腐っても軍人だろう?そんなのがまかり通ってていいのか?」

「険悪な同僚よりも金を持って媚びてくる海賊の方が、上の連中には大切なんだろうさ。政府の連中もそれを利用して自分たちの影響力を増やそうとしてやがる。おかげでどっちを向いても問題が山積みだ。やりにくいったらありゃしない。」

 

そう愚痴るあたり彼自身頭にきているのだろう。その証拠にさっきから酒の勢いが加速している。

 

「で、上司であるオムス中佐はそうしたしがらみの無いフリーの0Gドックを使って、海賊を一掃しようと考えた訳だ。」

「モルポタ大佐ではないのか?」

「大佐はそこまで頭の回る人間ではないさ。中央惑星の出身で出世しているだけに過ぎない。そうした格差的な物も今日の事態を招いた原因でもあるがな。」

 

モルポタ大佐の評価がよく分かった気がした。確かに海賊相手にやられかけていたし、出会った感じからしても小者感が拭えない。

それに正反対の印象を抱かせるオムス中佐という男は、0Gドックを利用しようとして事態の解決を図るあたり無能な人物ではないのだろう。ただし、その理由はユーリ君の様な綺麗なモノではない気がする。あの中佐の目とこの少年の瞳は違いすぎる。

 

「つまり軍の援助はあてにできないわけか。」

「まぁな。動かせてもせいぜい中佐や大佐の艦隊の一部くらいさ。それも確実じゃないがね。俺から伝えられる情報はこんな所だ。」

 

そういってディゴは席を立つ。

 

「あ、ディゴさんどこへ?」

「こっちも仕事が山済みでな、後はそっちに任せるから上手い事やってくれ。」

「あ、おい。」

 

そのまま彼はフラフラと酒場から姿を消してしまった。

 

「結局こっちに丸投げじゃねーかディゴさんのやつ。」

「まぁアイツも苦労してんのさ。生え際を見ればわかる。」

 

文句を言っているのはユーリ君の仲間の少年で確かトーロといったかな。そこへフォローになっていないフォローを入れているのは副官のトスカ嬢だ。

 

うーん・・・気のせいか?なんか既視感があるような・・・?

 

「うまく隠せるようにいい床屋とか紹介してあげたら喜ぶかな?」

「やめなさいチェルシー、それは慈悲ではなくトドメよ。」

 

そんな会話を繰り広げるのは彼らの仲間であるチェルシーとティータという少女達。チェルシーという少女は天然なのか、たまたまそれを聞いて歯を食いしばりながら酒を飲んでいる男が何人か居た事実に私はそっと目を逸らした。

 

「これはちょっと無理じゃないか?」

「あんたもそう思うかい?」

 

私のぼやきにトスカが反応する。私は苦笑しながら煙草に火をつけた。

 

「向こうは170隻以上、一隻当たり100人としても20000人近くいるし相手は要塞まで持っている。これは勝負にならないでしょうよ。他に何か情報は無いのか?」

「えっと、連中の艦船データでしたら設計図がこちらにあります。」

「本当か?そのデータを貰ってもいいかい?こちらでも分析したい。」

「えぇ、いいですよ。」

 

受け取ったデータを携帯端末で確認したエドワードは早速分析に作業にかかった。ユーリ君の仲間の科学者であるナージャも参加して別テーブルで端末と持ち運びコンピューター(なんでそんなものを持ってきている。)を広げて解析に入る科学者連中。

 

分析は彼らに任せてこちらは今後の行動方針を決めることにした。

 

「といっても正攻法で攻められない以上、何か搦め手が必要だな。」

「何か作戦が?」

 

その問いに一同は黙ってしまう。200隻近い海賊と要塞相手にどうしろっていうんだ?

 

「ふむ、お困りのようですな。」

 

そんな時後ろから声をかけられ、振り向くとヨレヨレのフードコートを被った老人と小さな少年が立っていた。

 

「ルーさん。」

「知り合いか?」

「えぇ、元エルメッツァ軍の伝説の戦略家です。今は僕らの船で共に旅をしています。隣の少年がウォル君で、彼の弟子です。」

「どうしてさっき顔を出さなかったんだ?」

「わしは世俗とは縁を切ったのでな、エルメッツァ軍人とは接触しないようにしとるんじゃよ。いい加減あの軍には飽き飽きしておるんでな。」

 

なーるほど、軍人であるディゴが居なくなったからこっちのテーブルに来たわけか。現役の軍人と接触を嫌うあたり相当嫌なことでもあったんだろう。

しかし伝説の戦略家か。姿だけ見るとただの浮浪者の爺さんと子供にしか見えないが・・・。

 

「その伝説の戦略家様には何か考えがあるので?」

「何、そう難しい事でもあるまいて。何も一度に大量の敵を相手にする必要はないじゃろ。」

「・・・というと?」

「ウォルや、説明してやりなさい。」

「は、はい・・・。」

 

どうも彼は極度の人見知りらしい。ルーの後ろに隠れるようにしていたウォルが話を振られてから、説明を始めるまでに私は煙草を一本吸い終えていた。

 

「わ、わざわざ全軍を相手にせず・・・・・・首魁のみを狙えばいい・・・です。」

「あー・・・なるほど?」

「少々人見知りな面があるでな。だがこやつの才は素晴らしいものじゃ。将来は大小マゼラン銀河をまたにかける大軍師となるじゃろうて。」

「へぇー。」

「この少年がねぇ。」

「(もじもじ・・・)」

 

はたから見たら極度の引っ込み思案な少年にしか見えないのだが、彼の言葉は正鵠を射ていた。

 

「確かに、ボスを倒された海賊は散り散りになるだろうね。わざわざ海賊全員を叩きのめす必要はない訳だ。」

「つまり目標はボスを倒すことと。」

「そういう事じゃ、規律と法がある軍とは違い強者の力によって束ねられた連中じゃ。その強者が倒されれば、連中は分散し脅威度は減る。後は海賊対策部隊や賞金稼ぎの出番じゃろう。」

「問題は、どうやってボスを倒すかって事だ。」

「アルゴンは慎重にして臆病という性格じゃ。そう簡単に要塞を離れることはせんじゃろう。そこで要塞から敵艦隊を引き離す作戦が必要になってくる。」

「どうやって?」

「なに、それほど難しい事でもあるまい。」

 

得意げに話すルーの顔をその場にいた全員が驚きの表情で見つめていた。ただ一人、彼の弟子のウォルを除いて。




原作だとユーリ達はたったの3隻で突撃してましたけど、普通に考えて余裕で海賊の餌になりますね。

いかにゼーグルフ級とは言えど、中の人間が戦闘素人の民間人ですんで油断したらやられます。

主人公達はいくらかマシですけど、普通の軍隊よりは弱いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。