数日後、アルタイトの姿は惑星アルデスタとルッキオの中間であるベクサ星系周辺にあった。
「艦長、偵察機より前方の小惑星の陰に海賊艦隊を発見。駆逐艦1、水雷艇2です。」
「艦首砲エネルギー充填、小惑星ごと吹き飛ばす。」
「了解。」
アルタイトの艦首砲にエネルギーが充填され、砲口からレーザー光が漏れ出す。
「エネルギー充填完了、照準よし。」
「撃て。」
60門に及ぶ巨大な砲から強力なレーザーが放たれる。放たれたレーザーは小惑星を焼き穴を穿って貫通したレーザーはその陰に隠れていた船のAPFシールドを貫いてその船体を焼き切った。着弾から数秒後に爆発が生じる。青い光を伴ったそれはインフラトン機関の爆発の証だった。
「敵艦隊撃破を確認!」
「よーし、残骸の確認のEVA班を発進させろ。偵察機には周辺の索敵に当てる。ユーリ君の方はどうだ?」
「はい、向こうでも数隻のスカーバレル艦隊を撃破したとのことです。」
「やるもんだ。ライッツォでの戦果はまぐれではなかったらしいな。」
「これで、20隻近い海賊を沈めた事になるな。」
ベクサ星系にやってきたアルタイトは、ユーリ君と共同でスカーバレル艦艇を片っ端から沈めにかかっており、その総数だけで25隻以上になる。戦果のほとんどはアルタイトによるものだが、これはルーの入れ知恵によるものでなんでもアルタイトが大半を沈めるのが重要なんだそうだ。
「ユーリ艦隊より入電。”戦果は十分、作戦を第2段階へ移行する。”です。」
「よし。偵察機に帰投命令、EVA班は作業を中止して直ちに帰船。」
「進路はどうするんで?」
「惑星ゴッゾだ。」
―――――――――――――
ファズ・マティはエルメッツァ中央宙域の端に位置している。軍の監視の目の粗いこの宙域には、メテオストームと呼ばれる小惑星群が流れる濁流のような場所があり海賊達はこの奥に自分達の根拠地を構えた。
全長100kmを超すこの人工惑星は彼らの力の象徴であり、安寧の地でもあった。その中を一人の海賊が歩いている。彼はある部屋の前に来ると一度深呼吸をしてからドアをノックする。中から入室を許可する声を聴いてからゆっくりと扉を開けた。
「失礼します、お頭。」
「ホーホイ、なんだねいったい?」
部屋には沢山の男達が居た。彼らはスカーバレル海賊団の幹部クラスの人物で皆歴戦の海賊だ。
その部屋の中央に据えられた豪華な椅子で酒を飲んでいた男は、一見すると皺枯れた老人のように見えるが、この男こそがこの要塞の持ち主であり海賊達の首魁であるアルゴン・ナバタラスカであった。
彼の両脇には美女が控えており、その手には酒瓶が握られている。彼女達は海賊の仲間では無く、とある惑星から彼らが攫ってきた可哀想な被害者である。
アルゴンが空になった杯を上げると、二人はすぐさま酌をする。アルゴンがその杯を飲み干すのを待ってから、海賊は報告を続けた。
「中央政府の高官からある情報が入りました。」
「うん?」
「近々、ベクサ星系から大量のレアメタルを積んだ大規模な輸送船団がツィーズロンドへ向けて出発するとの事です。」
その情報に幹部たちがざわめき立つ。
「ホーホー、最近あそこの動乱が落ち着いたからようやく本格的な輸出が始まったんじゃろう。ワシとしてはもう少し続いてもよかったんじゃがね。」
火事が起きている中、人々が消火に専念している間に火事場泥棒を働く輩は後を絶たない。彼らもその火事で利益を得ている人間の一人だった。
「それと最近あの宙域で妙な連中が活動しています。」
「妙な連中?」
「はい、例の緑色の大型船に乗った連中でして、ベクサ方面の仲間がほとんどやられました。」
「ホー、あの大型艦か。」
言わずもがな彼等の語っている船とはアルタイトの事である。最近この宙域に現れた船で、見た目と違い星間輸送をしていることから戦闘艦に偽装した輸送船と思われていたが、一方面で活動していた手下が丸々やられた事にアルゴンは驚いていた。
とはいえやられたのは下っ端の使い捨てに過ぎず、その表情に若干の驚愕はあっても憐れみや悲しみといったものは一切なかった。ほろ酔い気味だった彼の目に光が宿る。それは邪悪な光と例えるのが最もふさわしいだろう。
「それだけの実力者ならばおそらく、今度の輸送艦隊にも一枚噛んでるじゃろうな。この件に政府軍が噛んでいるとすれば、例のオムスとかいう奴じゃが・・・。」
「モルポタという奴と繋がりがあるという話ですが、オムスの方とは何もわかっておりません。」
「はん、あんな小者に何もできんじゃろうて。」
「それが、輸送艦隊の護衛にはモルポタの艦隊が派遣されるようです。」
「ホー・・・。」
それを聞いたアルゴンはその脳を回転させ考える。大量のレアメタルは当然軍にとっても重要なものだ。納入先が中央政府軍となれば、護衛に中央政府軍が出張ってくるのも不思議ではないだろう。ここで出てきた艦隊がモルポタというのが彼にとっては一つ引っかかる事だった。
海賊の長として、敵の情報を得るのは当然の事で、こうして自分達の要塞に敵が大挙として攻めてこないのも、彼が政府の高官へ金品等を与えて取引をしているのだ。均衡を崩さず利益を上げるその手腕に優れていた彼が長であったからこそ、スカーバレルは今日の繁栄を得ているのだ。
そうした彼の脳内には当然軍の人事という情報も入っている。彼の記憶にあるモルポタという男は、出自と上層部への献身的な態度が認められてあの地位に就いた小者であり特段優秀といった人物ではない。重要な荷物の護衛にそんな人物の艦隊が出てくるのか・・・。
ここでアルゴンはある事を思い出す。モルポタはベクサ星系からの帰り道に海賊に襲撃されて追いつめられていた事がある。更に最近保守派から改革派へ鞍替えし、上層部からいい顔をされていない。自らの地位が危うくなった軍人は、媚びを使うか功績を立てるかで自らの地位を守ろうとする。
そして彼にはあの強力な船とのパイプがあり、周囲の海賊を排除された今おそらく護衛は上手くいくだろう。そうすれば、重要任務をこなしたとして胸を張ってその功績をひけらかせ、自分の地位を守ることが出来る。
「フーム、あの小役人の考えそうなことじゃなぁ。」
「どうしますお頭?」
「当然、レアメタルをすべて頂くにきまっておるじゃろう?だが、相手にはおそらくあの巨大な船もいる。奴の戦闘力は未知数じゃがおそらく大マゼラン製の戦艦か何かじゃ。レアメタルついでにそいつも頂ければ一石二鳥という奴じゃ。計り知れない財産になるじゃろうな。」
その言葉に幹部達が色めき立った。
「お頭!その任務俺にやらせてくだせぇ!」
「いや俺に!」
「俺が!!」
もし大量のレアメタルと巨大船を持って帰ればこのスカーバレルでさらなる地位が手に入れられる。つまり確実に幹部として頭一つ抜きんでた存在になれるし、もしかしたらこのスカーバレルの頭目の地位にだってなれるかもしれないのだ。このチャンスを生かさない手はない。
やいのやいのと騒ぎ立てる幹部達をアルゴンは薄ら笑いを浮かべてみていた。
彼にとってみれば誰が行こうと関係が無かった。どうせすべて自分のものになるのだから。
「お前さんは行かんのか?」
アルゴンはそばにいた一人の男に声をかける。
「ふん、雑魚が守る輸送船には興味が無いわ。」
「ホー、おまえさんはあの小僧の方がいいと見えるわい。」
その男こそ、ライッツォ宙域でスカーバレルを束ねていたバルフォスである。彼は幹部とはいっても他の宙域で長をしており、立場としてはアルゴンと対等クラスである。それがここ最近オムスによって拠点が制圧され、彼自身艦隊戦では0Gドックであるユーリに敗れ、このファズマティまで逃げ込んできたのである。
復讐に燃える事を口にするバルフォスであったが、決して計算ができない男ではない。ここでしゃしゃり出ても他の幹部達の反発を受けてしまうので、そう態度で示して引っ込んだのである。が、彼が輸送船に興味を持っていないのもまた事実であった。
アルゴンは半ば喧嘩になりつつある幹部達を適当な頃合いで幹部を宥めながら、まだ手に入れてもいない財宝に思いをはせながら杯の酒を飲み干した。
――――――――――
ベクサ星系方面で海賊を討伐したアルタイトは惑星ゴッゾに入港した。これより先の航路はスカーバレルの勢力下である為、ここで最終的な補給とチェックを行っていた。といっても、この惑星の補給状況では大したことはできないが。
1時間ほどでチェックが終了した我々は、酒場へ繰り出す事にする。どうやらあまり賑わってはいないようで、客がいない訳では無いが寂しい空気が流れている。
「あ、シーガレットさんこっちです。」
そんな酒場で集団で飲んでいる目立つ一団の一人が声をかけてきた。先に来ていたユーリ達だ。
「そっちは目的のものは手に入ったのか?」
「えぇ、船の改造も済んでいます。これで問題なくメテオストームを超えることが出来ます。」
メテオストーム―――ディゴから渡されたデータの中にあったファズマティの侵入を阻むものだ。宇宙潮流ともいうべき現象であり、二つの惑星の引力によって小惑星群が濁流のように流れている。ここを突破するにはデフレクターと呼ばれる質量物から船体を守るためのモジュールが必要となる。彼らの船にはそれが装備されていなかったので、それの改造の為に他の惑星に立ち寄っていたのだ。
ちなみにアルタイトにはすでに装備されていた。超強力な奴が。
「あら、新しいお客さんね。ようこそ、何もない酒場だけどゆっくりしていってね。」
・・・最後のセリフどっかで聞いたことがあるような・・・。
そんなデジャヴは頭の隅に追いやって適当に酒とつまみを頼んでから作戦会議となった。
「さて、今のところは作戦通り進んでおるようじゃな。」
「のようだ。最初聞いたときはそんなもの上手くいくのかと思ったが・・・。」
「魚を釣るには餌が必要じゃからの。いかに美味く見せ針に気づかれないようにするには情報の起点を抑える事が必要じゃ。」
ここで、彼と彼の弟子が立てた作戦を説明しておこう。
ファズマティ攻略戦において最大の障害であったのは、要塞にいる敵の艦隊だった。その数およそ170隻近く。流石にそんな大軍と要塞を相手に正面から戦って敵のボスを倒すのは無謀すぎる。そこで彼らは敵艦隊とボスを引き離す作戦を立てた。
ここで必要なのが艦隊を要塞から引き離すための餌だ。
彼らはつい最近紛争が終結したベクサ星系に目を向けた。このベクサ星系はそこから採れるレアメタルなどの採掘権を巡って対立していた二つの惑星アルデスタとルッキオの紛争はルッキオ側の軍から反乱分子が出て民間船舶に被害が出た事による中央政府軍の介入によって終結していたのだが、ようやくベクサ星系の分割協定が結ばれレアメタルの採掘と輸出が再開した。
そこで、ルー氏は中央政府軍によって大規模なレアメタル輸送が行われるという偽の情報を流した。その情報の信憑性を高めるために、周囲で活動している海賊船を討伐して現地の情報がファズマティへ流れないようにすると共に、オムスやモルポタといった中央政府軍の軍人達によって軍内部での偽装工作を行って貰った。
結果として、これにかかったスカーバレルは大規模な海賊船をベクサ星系へ向かわせ、要塞に残っている敵艦艇の数は大幅に減った。
「本艦が慣性航行中にすれ違った敵艦隊の規模を推定するとおよそ140隻の船がベクサ星系周辺へ移動した事が確認できます。姿を隠しながらの監視でしたので詳細な状況はつかめておりませんが、最低でも100隻以上の艦隊が出撃したと考えてよいと思います。」
エドワードの分析にルーは満足げに髭を撫でている。
我々がゴッゾで合流する途中、丁度ゴッゾ近海でベクサ方面へ出撃したと思われるスカーバレルの大艦隊と出くわしたのだ。幸いにもアルタイトは元が長距離砲撃に特化した艦である為、かなり遠距離から敵の艦隊を察知する事が出来たので、航路をそれて慣性航行を行い敵をやり過ごしたのだ。
全長4kmの巨大戦艦と言えど、宇宙では砂粒よりも小さい微粒子のような存在であり、高性能なセンサーか厳重な索敵警戒網を敷かなければ分からないが、海賊にはそんな設備も作戦行動も無い。
そんな訳で無事に敵をやり過ごしここで合流した訳である。
私は煙草の火を消すと身を乗り出して話を進める。
「さて、と。今のうちに敵と味方の戦力の比較をしておこう。エドワード。」
「はい、艦長。」
そういってエドワードを促すと、彼は持ってきた携帯コンピューターを操作してホログラムを表示する。
「まずは、敵の戦力についてです。まず敵が使用している艦船ですが、こちらはミサイル巡洋艦のゲル・ドーネ級です。大量のミサイルを搭載し主に上級幹部クラスが使用しているようです。この性質からそこまで数は無いでしょうが、実体弾の集中攻撃は十分危険です。」
「逆に誘爆させれば一撃で沈められる艦だな。」
「はい、大量の実体弾による攻撃は脅威ではありますがその反面防御力には難点を抱えていると思われます。」
そこで、ホログラムが切り替わる。
「次に巡洋艦のオル・ドーネ級です。主に幹部や実力者が使用しており、装甲や火力は平均的ですが、快速であり機動力も高いです。」
「俺が沈めたときはそんなに早くはなかったがな。」
「艦載機の推力と一緒にするなよポプラン。」
そりゃ艦艇と艦載機では加速力も機動力も全く異なる。比較するのは酷だろうよ。
「こちらが敵艦隊の主力を務めると思われるゼラーナ級及びガラーナ級駆逐艦です。ガラーナ級は砲戦特化型、ゼラーナ級は艦載機運用能力を持った艦です。」
「ガラーナ級はともかくゼラーナ級の艦載機は面倒だな。」
「使用している艦載機はおそらくクーベル、ビトン、ティオンの3機種と推定されます。この3種はエルメッツァで使用されている標準的な機体です。性能面からみればあまり重要視する相手ではないと思いますが・・・。」
「空戦において重要なのはまずパイロットの技量と数だ。性能は3番目に重要にすぎない。どんな高性能な機体でも相手がエースパイロットでしかも数がいるとなれば、話は変わってくるな。」
空戦の天才とされるコーネフの評価にポプランも頷く。
「予想される艦載機数は?」
「搭載可能なのはおよそ9機です。満載したゼラーナ級3隻で本艦の艦載機隊の数を上回ります。艦隊の割合から予測して最大で300機近くは保有しているでしょう。もちろん要塞防空隊としてこれとは別に配備されている可能性もあります。」
「うへぇ・・・。」
「やってられんなそれは。」
「もちろん、これは最大値であり実際の数はもっと少ないでしょう。すべてのゼラーナ級に定員いっぱいまで艦載機が積載されているとは思えませんし、軍隊では無い以上、規律や規範に従うという事の無い海賊がわざわざ要塞防空隊を編成して対策するとは思えません。」
一般論としてはそれでいいが、アルゴンは慎重かつ臆病な性格だ。用心に越したことは無いだろう。
「で、残りが水雷艇であるジャンゴ級、フランコ級です。艦艇によってかなりのカスタマイズが加えられているようで、様々な種類が確認できます。敵の中で最も数が多い艦種でしょう。」
フランコ級は低価格な水雷艇で、その安さから自治領や企業などで警備艦として使用される。ジャンゴ級はそのアッパーバージョンとなるが、低価格で改造しやすいという事もあって様々なカスタマイズがあり、ジャンゴ級より性能の良いフランコ級があるなどどちらがアッパーバージョンなのか分からなくなる。
しかも数が多いので、機動力にモノを言わせて集団で突撃されれば厄介な相手だ。
「弾幕とミサイルで対処するしかないでしょう。艦載機の増員でもやりますか?」
「誰がその金を出すんだ?」
「あー・・・、そうでした・・・。」
借金を忘れてはならぬ。艦載機一機だって設備や人員のコストも考えたら迂闊に増やせる程、うちの財布は暖かくない。
「そ、そんなにお金が無いんですか?」
「ユーリ君、金は大事だ。艦長ならばそこをしっかり管理しないと大変な事になるぞ。」
「ついでに借金背負った艦長は何をしでかすか分からないから、しっかり監視しておくんだぞ。」
「ポプラン!」
余計な事は言うんじゃない!
「ゴホン、えーと、とりあえず敵艦について一つ問題があります。」
「問題?」
「こちらをご覧ください。」
トスカの疑問に対しエドワードが一枚のホログラムを表示する。そこに移っていたのは画質の悪い画像と何かのグラフの様だ。
「これは?」
「こちらは我々がやり過ごした敵主力艦隊の画像とそれらのインフラトン粒子の痕跡です。」
「ふむ、でここから何が分かる?」
「ここは専門家の方がいいでしょう、リヒャルト博士お願いします。」
「うむ、今回わしらが偶然海賊の艦隊に遭遇した事で、それらの陣容を解析しようと試みた。気づかれない様に超望遠での画像解析とインフラトン粒子の痕跡による解析のみだが、いくつかのパターンにある特徴があった。」
そういって博士は表を拡大すると、いくつかの比較図を更に表示する。
「解析した所、何隻かの船が我々の持っているデータにある海賊船とインフラトンパターンが一致しない事が判明した。この結果は先ほどエドワード君が説明してくれた海賊船のどれにも当てはまらない船が存在する可能性を示している。」
「しかしそういったものは機関の改造次第でかなりパターンが変化するのではないか?」
「副長の言う通りこのパターンはカスタマイズ次第でどうとでも変化するが、相当の改造を施していない限りどこか一部のパターンが一致する。しかしどうしても一致もせず推測も出来ない艦種があるのだ。そこでこちらの画像の方を見て欲しい。」
博士が今度は画像の方を拡大する。
「この艦影の形をスキャンし最も一致する艦船を割り出してみた。すると―――」
そういって博士が画像にスキャンを掛けていき、いくつかの艦の姿とすり合わせてみる。不一致の文字が出ては次の船に行く中で、一隻だけ該当する船舶があった。
「グロスター級・・・。」
「そう、エルメッツァ軍で採用されておる戦艦だ。外見を改装して偽装した船という可能性もあるが、インフラトンパターンからしてその可能性は低いと考える。つまりこの船は本物のグロスター級という訳だ。その他にもサウザーン級やテフィアン級の他にデータに無い未確認の艦種の存在も確認している。」
「これってつまり・・・。」
「鹵獲されたか、設計図が流出しちまったか。いずれにせよ、さっき言った船だけじゃないって事だね。」
トスカの言葉に一同が沈黙する。
このデータが示しているのは海賊船よりもより高性能な艦が敵に存在している事になる。
「未確認の艦種に関しては何かわかるのか?」
「画像とインフラトン粒子の量から考えておそらく巡洋艦から駆逐艦クラスの船と考えられるが、数はそこまで多くない。先ほどのサウザーンやテフィアンなどと合わせれてもスカーバレルの既知の艦艇以外のものは多くても10隻程度と予想される。」
「未知の艦種か・・・どんなものが出てくるやら。」
「あまり性能が高くないのを期待しよう。」
海賊は結構スタンダードプレイが上等な連中だ。それにあまり数が多くない所を見るに鹵獲艦である線が高い。勿論、敵が設計図を持っていて量産が可能という可能性はある。特に要塞に残っている艦の数や種類は判明していないので、残っているのが全部戦艦という可能性もある。
次に博士が下がり、エドワードが説明を再開する。
「では、次にファズマティの情報です。ファズマティは小惑星を核としてその周囲を外壁で覆われた人工惑星です。直径100km、最大収容可能艦艇1000隻程度、食品プラントや武器加工工場、宇宙港などを備えており外部には対艦対空両用砲の他、要塞主砲であるバルバー砲が備えられています。」
「完全に軍事基地だな。海賊の癖によくもまぁこんなものを築いたものだ。」
どれほどの略奪を行ったらこのような巨大な要塞を建造できるのだろう。莫大な予算と物資と人員を費やしたに違いない。
「海賊って儲かるんだな・・・。」
「そうだぜ艦長、海賊って儲かるんだぜ!」
「おいやめろ、自称善良が他称極悪になる。こいつならやりかねん。」
「そうですよ!艦長ならいつ海賊に鞍替えしてもおかしくないんですから!!」
「お前ら・・・。」
なんだってこうこいつ等は人に対して言いたい放題になれるのか。クルー達からのある種の信頼(?)の高さに内心涙しつつ、話を元に戻す。
「で、何が脅威となると思う?」
「最も脅威となると思われるのが要塞主砲のバルバー砲です。要塞主砲というだけあって出力は本艦主砲の10倍、その大きさから艦隊単位を一撃で沈めることが可能です。」
「「「うへぇ・・・。」」」
この艦の主砲は小惑星を盾にした艦艇をそれごとぶち抜いて爆沈させるだけのエネルギーを持っている。それの10倍に匹敵する量でかつ主砲口径の大きさからして艦隊単位で沈められるとは。
移動を捨てた要塞なだけあって搭載しているインフラトンインヴァイダーの出力が段違いなので、当然と言えば当然だが、そんなものを撃ち込まれたらいくらアルタイトでも無事ではない。
だがそんな情報を前にして不敵にほほ笑む人物がいた。
「心配するでない、こういった要塞の攻略もいくつか策があるものでな。」
全員の目が一人の老人に注がれる。
「本当か?」
「もちろん、じゃがその前にワシ等の戦力を把握しておきたい。正確な作戦には正確に味方の戦力を把握しておく必要があるからの。」
「確かにそうですね。」
そう言われて互いの艦艇データを交換する。
「これは・・・。」
「こいつはすげぇ・・・。」
ユーリ君と彼の所のクルーのぽっちゃり少年と眼鏡少年が驚愕している。確かにヤッハバッハの旗艦級戦艦なだけあって、その戦闘能力は破格のものだ。単純な性能面なら並大抵の艦艇は相手にならない。
一方のユーリ君達の艦隊を見てみる。
旗艦となるサウザーン級巡洋艦が1隻に随伴艦のテフィアン級駆逐艦が1隻とアリアストア級駆逐艦が一隻だ。
中身はそれなりにカスタマイズしているようで、空間管理局基準の性能値表を見てみるとそこら辺の雑魚海賊よりは格段に性能が高い。
「・・・君もしかして密輸とかやってんの?」
「え!?いや、そんな事する訳ないじゃないですか。」
「この年で巡洋艦と駆逐艦を揃える少年なんて後ろ暗い事してると疑うだろう?」
「ユーリはそんなことしない。」
「あぁ、酒場のミッションを受けたり貨物を運んだり、倒した海賊船からジャンク品を回収したりしてるだけだぜ?」
私の失礼な物言いに対し若干憤慨した彼らが反論する。
「あぁ、いや悪かった。ただその年でよくそれだけの船を揃えたものだなと思ってな。」
「運がよかったんですよ。」
彼の言葉にちょっとイラっと来た。こっちがどれだけ請求書と書類と節約に努めているか・・・。
なんてことを考えていると先ほどからじっと艦船データを見つめていたトスカが口を開く。
「所で、あんた等の船はいったいどこで手に入れたんだい?」
「ん?あぁちょっと遠くの銀河でね。」
「へぇ~、こんな巨大船が手に入れられる強大な国がこの宇宙にはあるんだね。」
・・・何か妙に含みのある言い方をしてくるように感じる。
「別に0Gドックに国なんて関係ないさ。コイツはおまけ付きで偶然私の手に入っただけさ。この船がこれまでにどんな使われ方をしたかなんて、知らないよ。」
「「「(おまけ・・・あぁ借金か・・・。)」」」
「ふ~ん、まぁ世の中色んな奴がいるからね。別の銀河から流れてくる奴なんていくらでもいるが、大抵何かそれなりの理由と目的を持っているもんさ。」
彼女が言いたい事は何となく分かった。もしかしたら彼女も何か特別な事情で別の銀河から来たのかも知れない。だが、それを今話す意味が私には分からない。
「あんたは一体何が目的だい?」
「金。」
即答する私に彼女の顔が若干の驚きで固まる。
「理由は色々あるが目的は金だな。よく言うだろ?”自由を得るには金が要る”って。0Gドックって言ったって所詮は人間さ。力を得るにも自由になるにも自分が生きたいように生きるためにも金が要る。世の中金なんだよ。」
「「「(多分聞きたい事はそれじゃないのにこいつ借金の話しているな・・・。)」」」
こういう探りを入れるような質問には下手にごまかしたりするよりもはっきりといった方がいい。痛くもない腹を探られたり変な誤解をされても困るしな。あとウチのクルー共がなんか変な目で見てくるのはなんでだ。
「そ、そうかい。」
何か当てが外れたみたいな顔をしているトスカ。そこでルー氏が一つ大きく咳ばらいをする。
「うおっほん、で話を戻すがこういった要塞は外部からの攻撃には分厚く作られているが内部からの攻撃はあまり想定されていない。この要塞図面を見ても分かる通りじゃ。」
「それで?どうやって攻略するんだ?内部からって言ったって要塞にとりつく途中で要塞主砲の餌食になるぞ?」
「まぁそう焦るでない。要塞主砲を確実に無力化する方法はある。無論敵艦隊を討伐する方法もじゃ。」
そう言ってルーは己の策を説明する。皆それを真剣な面持ちで聞いており、説明が終わった後は彼の作戦に感嘆の声を上げた。
「確かにこの方法なら要塞主砲と真っ向から勝負しなくて済む。」
「後は準備とタイミングですね。」
「そうじゃな、この策をより確実にする為にはもう数日必要じゃ。」
話がまとまった所で急にトスカが立ち上がる。
「さぁ〜て、話もまとまった所でパーティータイムと行きますか!」
―――――――――――――――――
「ウヒャヒャヒャヒャ!可愛い奴可愛い奴!」
「トスカさんやめて下さい!」
「こ、こんなの僕の仕事じゃない・・・。」
「は、恥ずかしい・・・。」
パーティータイムとなった酒場は昼間と違い大盛り上がりとなっていた。貸切状態となった酒場ではマスターの計らいもあってどんちゃん騒ぎ状態だ。
ちなみに今はゲームで負けた連中がトスカに絡まれている状態だ。ユーリ君とイネス君、そしてうちのオペレーターであるアズキ。
3人ともフリフリメイド服でしっかりメイクまで施されている。あの服で街中を歩くには女性でも相当の度胸が居ると思う。
ちなみにこの服はマスターが用意した。何で持ってんのお前。
「お待たせしました〜。当店自慢の石焼トカゲです。」
女装男子の胸を揉みまくる酔っ払いと妹に写真を取られまくる少女を眺めていたら最初に見た赤いドリル髪の女の子が料理を運んできた。
彼女の名前はミイヤ・サキといってこの酒場の看板娘だそうなのだ。
赤いドリル髪が目を引くが今はそれよりも気になる物がある。
「えっと、石焼トカゲって何?」
自慢の料理と酒を頼んだのだが、石焼トカゲって聞いたことが無いぞ。っていうか虹色の光沢がある肉なんて初めて見た。
「これはこの星に住んでるゴッゾトカゲを熱々に熱した石で焼いたものなの。」
「ゴッゾトカゲって?」
「こういうのですよ。」
そう言って携帯端末から写真を見せてくれる。
そこには10メートルくらいの虹色に輝く巨大なトカゲが写っていた。
何というかこう、食欲をそそらない見た目だ。
「他所から来た人はこの見た目であまり食べないのだけれど、結構イケるんですよ?」
「へ、ヘェ〜。」
ここまで言われると断りづらいので意を決して口に入れる。
「どうだ?」
同じものを頼んでいたベルトラムやエドワードが呼びかける中、私は口の中の肉の味を確かめる。
「一言で言うと・・・珍味。」
「「珍味。」」
「アレだ、硬めの歯応えに若干の獣臭さがある。そして・・・辛い。」
「辛い?」
「味が新感覚過ぎてよく分からんが、・・・悪くない。」
一口食べた後、出されたビールを一杯飲む。
なんか舌がピリピリする。辛い香辛料を食べた感だ。
聞いたらある石とこのトカゲ肉を焼くと化学反応で辛味成分が出来るので香辛料要らずで辛くなるのだとか。
「これは素焼きだからそこまで辛くないけど、この肉を乾燥させて砕いた石と一緒に香辛料に漬けるとすっごく辛いホットって言う調味料が出来るの。通な人はこれをつけて食べるのよ。」
「ミイヤちゃーん!こっちにお酒お代わりー!」
「はーい!今行きまーす!それではごゆっくり。」
「ありがとう。」
別のテーブルに行くミイヤを見送りながら私はトカゲ肉を食べる。
なんか癖になる味で3人とも黙々と食べてはビールを飲む。
ふと、テーブルの上に先ほどのホットと書かれた調味料の入ったボトルが目に入った。
「試してみるか。」
私達3人はホットをかけたトカゲ肉を一斉に口に運ぶ。
「「「!!!?!?!??!!?!!??!??!!??!??!?!!?!???!!!!」」」
瞬間私の脳が痛覚と味覚を遮断した。
突然の衝撃に脳内がパニック状態になっていると、視界の下の方でエドワードとベルトラムが椅子から転げ落ちて喉や口を押さえながらのたうち回っているのが見えた。
サイボーグとして脳の改造を施され痛覚機能の遮断を行える私と違い、彼らは自らの舌から発せられるその感覚を遮断する事は出来ないのだ。
かくいう私も、一瞬の出来事に脳がフリーズしてしまい体を動かすことが出来ず、異常に気づいたマスターや周りの連中が駆け寄ってくるのを視界の端で見ることしか出来なかった。
「すみません、まさかホットにそんなに敏感だとは思っていなかったもので。」
あの後でマスターとミイヤから謝罪を受けた。彼らにとってはただの調味料でも我々にとっては危険な激辛劇薬だったようだ。
「この星の人間は普通に辛い程度にしか感じないものでして・・・申し訳ございません。」
「いやいいよ、別の星に行けばこう言う事だってあるさ。気にする事ないよ。」
日常的にホットを食しているこの星の人間は遺伝子レベルで適応しているらしい。宇宙を旅するとこういう事もあるから良い刺激になる。
というのは感覚を遮断できた私だけで、後の2人は医務室送りとなった。今はドクターに治療を受けてもらっていることだろう。
後、それを知ったトスカが罰ゲームでトーロという太った少年にマヨネーズに超微量のホットを混ぜたやつを舐めさせて遊んでいた。
医務室送りになるほどでは無いが、彼は大量の汗を掻きながらそれ以上の水を飲んでいる。あれくらい薄めてもあんなに辛いのにこの星の人間は平気でドバドバかけるらしい。
詫びにタダ酒をもらったし新しいおもちゃが手に入って楽しんでるようので、適当な所で話題を切り替える。
「所であのミイヤって子はマスターの娘か?」
「いえ、彼女は昔海賊によって両親を失ったんです。時々両親の事を思い出しては暗くなってしまう時があるんですが、貴方たちがスカーバレルの海賊船を幾つも沈めて回っているのを聞いて今日は特に明るいんですよ。」
「そうか。」
「私がいうのもアレですが、なんとしてもアイツらを・・・スカーバレルを倒して下さい。私もミイヤのような娘を何人も見てきました。これ以上、そんなものは見たく無いんです。」
健気にテーブルを歩き回る彼女を見ながらマスターの悲痛な訴えを聞く。
「私も一航海者として特にスカーバレルのような海賊を快くは思っていない。そういう輩はタンホイザに叩き込んでやるよ。」
アルコールが回ってきたのか普段口にしないような言葉が出てきてしまう。
それを聞いたマスターは、小さく「ありがとうございます・・・。」と繰り返していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーーてくださいーーー起きてください!!!」
「うぅん・・・な、なに?」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
マスターの大声で目が覚めた。
「うーんいてて、一体何があったってんだい?」
「そそそれが先ほど海賊らしき男たちが現れて、ミイヤとイネスさんを攫っていったんです!!」
「ファ!?」
「なんですって!?」
突然告げられたこの情報にアルコールが残っていた頭から急速に酔いが覚めていく。
「ミイヤさんはともかくイネスまで!?」
「何でお姉ちゃんじゃないの?」
「そういや女装してたまんまだったからな、女に間違われたか。もしくはより魅力的に見えたか・・・。」
「ちょ、それどういう意味ですか?!」
「マニアックな人達・・・。」
「とにかく追いかけよう!まだ間に合うかもしれない!!」
起きていた者は慌てて店を駆け出す。起きなかった奴にはホット入り水を口に突っ込んで強制的に叩き起こした。
「お願いします、どうかミイヤを・・・。」
泣き崩れながらそういうマスターに、私は一言「任せろ」と言って駆け出した。
仮にそれが虚勢であり全く根拠のないセリフでも――――――。
―――――――――――
「んぁ・・・ここは。」
見慣れない天井に気づいたイネスは、起き上がろうとしてガンガン唸る頭を抱えた。
この原因を探ろうと記憶を思い返せば、昨日罰ゲームで女装させられた後浴びるように酒を飲まされた後から記憶が全くない。どうやらそのまま酔いつぶれて寝てしまったらしい。
「・・・ここはどこだ?」
服もそのままでまるで倉庫のような部屋に放り込まれていたらしい。とりあえず彼らの仕事仲間の所へ合流しようとドアへ向かって歩いて行ったところで、突然ドアが開く。そこには見慣れない男が二人立っていた。
「へっへっへ・・・アルゴン様に差し上げる前にちょ~っと味見しちまうか~。」
「ふっへへへ・・・久しぶりの女だぁ」
最初はもう一人の0Gドックの仲間かと思っていたが、聡明な眼鏡少年イネスはその言葉だけで事態を洞察してしまった。
女装した自分、何やらかび臭い倉庫のような場所、見知らぬ男、奴らの口から出てきたアルゴン様という言葉・・・。
「(こいつら海賊ッツ!?)」
だが悲運なのは彼が聡明であっても事態を解決する力を持っていない事であった。武器も他人を殴り倒す腕力も彼は持っていなかったのである。
「「ぐっへへへぇ~。」」
なので彼は自らの頭脳をフル回転させ事態の打開を図るための一つの策を思いつく。
「よ、よく見ろ!!僕は”男”だぞ!!」
「あ~ん・・・?」
「おとこぉ~・・・?」
ここでの彼の行動は彼を尊重し敢えて明記することを避ける。が、彼の取った行動をぼかして表すのであれば、人間は視覚的に確実に男女の違いを認識することが出来るほど身体の作りが違うのである。
「・・・まぁ。」
「それはそれで。」
「あれぇ!?」
ただ彼の誤算は世の中人類の数だけ趣向がある事を考慮しなかったことである。
自分の作戦が完全に失敗したと分かった時、彼はにじり寄る二人の海賊に対し心の底から恐怖を感じていた。
一歩一歩近づいてくる海賊達。
――――――ドゴォォオオオン!!
「な、なんだぁ!?」
突然の轟音と衝撃が、グラビティウェルによって制御された重力を大きく乱し船を揺さぶる。更にエア漏れを知らせる警報が鳴り、各所で隔壁が降りる。
「おい!やべぇ逃げるぞ!!」
「逃げるってどこへ!?」
「脱出ポットだ!急げ!!」
「こいつはどうすんだよ!?」
「バカ!自分の命の方が大事だ!!」
収まらない揺れと警報から海賊達は生存本能に従い急いで脱出ポットへと走り出す。反応の遅れたイネスが走り出そうとした所で、更に強い衝撃が起こり彼はバランスを崩して床へ倒れこむ。その瞬間ドアの隔壁が下がり倉庫と廊下を遮断してしまった。
「あ!?」
思わず間の抜けた声が出てしまい、慌てて隔壁へ駆け寄る。横に見えるスイッチを操作するが反応しない。
「あ、開けてくれ!!誰か!!」
そうこうしているうちに、次の衝撃が走った瞬間部屋のどこからかシュウゥーという気体が流れ出る音がする。
「―――ッ?!」
その音を聞いた時、彼は自分の背中が凍り付いたような感覚を覚えた。
――――――――――――
「敵だ!撃て!!」
激しい銃声と共に戦闘服を着た部隊が廊下へ向けて銃を乱射する。丁度廊下の角から飛び出してきた男達は発射されたメーザーが人体を貫き傷口から血を吹き出して倒れる。
「ここは制圧した!進め!!」
イネスを攫った海賊船は私やユーリ君の艦隊から強襲を受け、内部で白兵戦が始まっていた。
あの後ゴッゾから緊急出航した後に、私達は一路ファズマティへと進路を取った。略奪品を積んだ海賊の行く先なんて本拠地に決まっている。エンジンを戦闘出力でぶん回して無理矢理加速した所で海賊船を発見し、長距離砲撃で動きを鈍らせた後で私たちの艦を強行接舷させて乗り込んだのだ。
「トーレス!お前どこ撃ち抜いたんだ!?艦内がエア漏れ警報だらけだぞ!!」
「出力は絞ってある!艦内のバイタルポートは無事なはずだ!」
「じゃあなんだこの警報は!!」
「強行接舷の時乱暴にやりすぎたんじゃないかい!?相当な速度で突っ込んだだろ!!」
叫びながら各所から空気が漏れている音がする廊下を走り続ける。
「二人はこの先なのか!?」
「携帯端末の反応はこの先です!」
逃げ惑う海賊達を排除しながら走り回って合流したユーリ達と共に、イネスの携帯端末から発せられる信号を追って走る。
「この部屋だ!」
「まずい隔壁が降りている。」
バイタルポートよりも外側の区画の倉庫、そこから彼の信号は発せられていた。
「くそっ!この区画エア漏れしてやがる!」
「じゃあミイヤさんとイネスは!?」
「分からん、とにかく急いで開けるしかない!」
エア漏れ警報がこの区画に流れている。隔壁が降りていてこちら側が無事という事はあっち側は真空になっているかもしれない。そして彼の信号はそこから発せられている。
「開けられるかエドワード?」
「ダメです!回路が壊れてます!物理的に開けるしかありません!!」
「ならこれで!」
ユーリ君が腰に差していたスークリフブレードを抜き目の前の隔壁を叩き切る。超臨界流体の被膜によって隔壁を一刀するが、ただ隔壁に傷を付けただけだった。
「くっ!どうして!」
自分の剣では開けなかった事に衝撃を受けるユーリ。おそらく彼の腕ではこの隔壁を切り裂けないのだろう。しかし―――
「どいてくれ。」
「えっ?」
そういって彼を押しのけて私は扉の前に立つ。
「切れ目があれば十分だ。」
力を込め切れ込みの部分を狙って隔壁を蹴り飛ばす。瞬間バゴンッツという音が鳴り隔壁がひしゃげる。切れ目を境に隔壁はまるで巨大ハンマーを叩きつけたような陥没跡をつけ、腕一本入るくらいの隙間が空いた。
隙間からはエアーの流れる音と共に風が隔壁の向こうへ向けて拭いている。
そこから更に2発ほど蹴りを入れれば、人1人が潜り抜けられそうな穴が空いた。
「貴女は一体・・・。」
「ただのサイボーグだ、ちょっと待ってろ。」
私が隔壁を潜り抜けた所で床に倒れている少女を発見する。薄暗いので顔は分からないが格好からして海賊ではなさそうだ。あたりを見渡しても彼女以外の人物はいない。
どうやら意識が無いようで、隔壁の外へと引き摺り出した後、安全なところへ運び込む。
「イネス、しっかりしろイネス!!」
少女の仲間が必死に呼びかけているが、低酸素とそれに伴う低温にさらされていた彼の目は開かない。
「ちょっと失礼しますよ。」
そう言って駆け寄ってきたドクターが何かを飲ませる。
数秒後
「ーーーーーッ!?!?!?!?!?!?」
突然目を見開いたかと思うと口を抑えて暴れ始めた。
「これで一安心です。」
「どう見てもさっきより容態が悪化しているんだがドクター。一体何を飲ませたんだ?」
「ホットドリンクです。」
「ホットドリンク?・・・まさかドクター。」
「気付け薬としてはいいですねコレ。」
なんて言いながら彼女―――っていうかこの子男じゃ無かったか?―――に水を飲ませるドクター。彼女の方はのたうち回ったせいなのか救出する時に何処かに引っかけたのか服が破れて色々見えちゃっている。しかもホットドリンクとかいうサイコパスが作った悪魔の飲み物を飲まされたせいで身体中から大量の汗を掻いてぐしょぐしょだ。
事情だけ知らずにみると高熱にうなされた少女を介護する女医なのだが、実態は女装した少年が劇薬を飲まされ生死の境を彷徨っているのを手当てしながら観察する劇物を盛った張本人だからな。
少しして意識がはっきりとしてきた様だった。気付薬としては有能かもしれんが、代償がデカすぎる。
「いやー無事で何よりだよ。」
「も、元はと言えば貴女が変な格好をさせるからでしょう・・・。」
「でも、子坊の救援が間に合わなくちゃああんた貞操の危機だったんでしょ。礼くらい言っておきなよ。」
「あぁ、ユーリ。助かったよありがとう。」
「あ、あぁ」
「(あのイネスが素直にお礼を言ってる!?)」
「(ちゃんとしてるじゃない。)」
「ただ、助けてくれた事には感謝するが、助け方は非常に不本意だった!!貞操どころか命まで散らす羽目になったんだぞ!!」
「え、あ、いやごめん・・・?」
礼を言った次の瞬間には抗議されてユーリ君は困惑しつつ謝っていた。
「それでイネス、ミイヤさんがどこに行ったのかわかるか!?」
「いや、彼女の姿は見ていない。艦内は探したのか?」
「あぁ、今みんなで手分けしているが分からない。」
突然頭の中にコール音が鳴る。掛けてきたのはダスティだった。
私は表情や声を出す事なく、脳内にて彼と通話を開始する。
『艦長、今捕まえた海賊から聞いた話なんですがどうやらミイヤって子は先に別の船で連れて行かれたみたいです。』
『そいつが嘘をついている可能性は?』
『それは無いかと。他の連中も全員同じ証言をしていますし。』
『了解。こちらは救助対象を一名確保した。そちらは撤収作業を始めてくれ。』
『了解!』
「艦長、何かありましたか?」
私の通信に気づいたのかエドワードが声を掛けてきたので事情を説明する。
「すぐ追いつけると思うか?」
「超長距離レンジに映らなかったとなると、本艦の足では厳しいと思います。」
「だろうな。」
アルタイトは足が遅い船だからな。足の速い船だと簡単に逃げられてしまう。
「でも、今すぐ助けに向かわないとミイヤさんが・・・。」
海賊に捕まった若い娘の行く末なんて碌なものじゃあない。ユーリ君が言わなくともそれは全員分かっている。
ただ問題点がいくつかあるが、最も大きいのは時間だ。
自分達が実行しようとしていた作戦は、時間をかける程成功率が上がる状態だ。逆に言えば、時間を掛けずに作戦を決行した場合失敗の確率が上昇する。
相手が足の速い海賊船である事や、既にこちらの索敵圏外へ出ている事を考えるに、ミイヤがファズマティ着く前に追いつくのはほぼ不可能。
必然的に救出はファズマティ攻略と同義になる。
そして、我々が立てた攻略作戦の成功率に対し彼女が無事でいられる確率は反比例する。
即ち時間をかければかけるほど、彼女の身に危害が及ぶのだ。
「つまり彼女を無事に助けるためにはこのまま進むしかないのか。」
「本気か?このまま進めば我々は準備不足のままファズマティ攻略戦を実行する事になるぞ。」
「でもこのままじゃミイヤさんが!」
「落ち着きなユーリ。アンタは艦長なんだ。アンタやあの娘の命だけじゃなくクルーの命だって預かってるんだよ。簡単に危険に晒せるのかい?」
「それは―――」
ベルトラムやトスカの言う通りだ。少女1人と全クルーの命、この二つを天秤にかけなければいけない事態に今陥っている。
ユーリ君とミイヤの間に何があったかは知らないが、むざむざ見捨てるのも気分が悪い。しかしそれと部下の命を天秤にかけた時、一般論としてどちらに傾くかはほぼ想像通りだろう。
そして今、少年は個人の感情と艦長の責任との間で葛藤している。
「一ついいかね少年。」
この時、沈黙していた砲術長トーレスの発言にその場にいた一同の注目が集まる。その中で彼は語る。
「元軍人の意見としては、ここは彼女を見捨て準備を整えてから攻略すべきだろう。」
「「ッツ!」」
その意見にユーリやトーロが顔を顰める。だがそれに構う事なく、トーレスは発言を続ける。
「しかし、一砲術士の意見としては砲弾を敵に命中させるのはより難易度の高い方が面白い。1%でも可能性がある限り、砲弾を命中させる事は不可能では無いからな。」
「・・・それはつまり行けってことか?」
「砲撃に置いて最も美しいのは難しい目標を撃ち抜くことだ。簡単な的を撃つよりも難易度が高い方が成功させた時よりエレガントだ。」
「俺も砲術長の意見に賛成だな。」
驚いた事にそれに同調したのはディエゴだった。
「何の事はねぇ多少作戦の成功率とやらが下がっただけで不可能になったって訳じゃねぇ。どっちか見捨てるっていう選択肢を取るよりも、どっちも手に入れる方を俺は選ぶぜ。」
「強欲だなお前は。」
「海賊が強欲で何が悪い?何より奴らアンリトゥンルールを破りやがった。そんな屑はとっととダークマターにしちまった方がいい。」
「その通りだな。」
笑いながらそんな事をいう二人。こいつらは決してロマンチストなんかでは無い。むしろ軍人や海賊であった以上、リアリストとしての側面が強いはずだ。
そんな連中があえてそういう事を言うって事は・・・。
私は煙草を咥えて火をつけると煙を口から吐き出す。
「・・・やるか。」
「正気かい?」
私の言葉に対しトスカが聞き返す。
「ディエゴの言う通り作戦の難易度がちょっと上がっただけだ。それに海賊共にやりたい放題されて黙っているのは面白くない。これは軍事作戦じゃないし私達も軍人じゃない。自分達の意志を通す為の戦いだ。“0Gドック”っていうのはそういうもんだろ?」
私の言葉にハッとした表情を見せるユーリ。トスカも頭を掻きながらやれやれといった表情を見せる。ベルトラムなんか呆れた顔で腕を組んでいた。
「やってやろう、スカーバレルとか言うクソッタレな海賊共をタンホイザに叩き込んでやるんだ!」
「「「「おう!!」」」」
力強い声と共に彼らは走り出す。彼らの意志を通す為に。
正直原作でも似たような作戦を使ってたんじゃないかなと思いますね。
じゃ無ければファズマティから大量の敵が出てくる気がする・・・。
鹵獲艦は戦力アップ策です。
シーガレットに関しては記述がなんかおかしいですがこの宇宙ではこれが正常です。
後トーレスは弱きれいなトーレスです、よろしくお願いします。