異常航路   作:犬上高一

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第22話 ファズマティ攻略戦 前編

海賊船から撤収した私達はファズマティを目指して漆黒の宇宙を進んでいた。

 

ファズマティへの航路は辺境であり、海賊の支配領域という事もあって航行する民間船などは一隻も居ない。静寂と暗闇が広がるだけの航路だ。

 

「にしてもお前、あんな力があったんだな。」

 

何の脈絡もなくベルトラムが話しかけてくる。

 

「ん?何の話だ?」

「その体の力だ。いくら何でも隔壁を蹴破るとかどんな体してるんだお前?」

「どんな体も何も、サイボーグだからな。隔壁くらい蹴破れるだろ?」

「そんな奴がゴロゴロいてたまるか。」

「いや、艦長の力はすごいですからね。そのうち宇宙船を素手で引きちぎるんじゃないですか?」

「な訳あるか。」

 

いくらこの広大な宇宙でも宇宙船を素手で引き千切れる奴がいてたまるか。

 

「艦長、前方に例のメテオストームを確認しました。」

「見えてきたか。」

 

スクリーンに映し出されるのは、大小さまざまな大きさの岩石が大量にかつ高速に動く光景だった。

 

メテオストーム―――二つの巨大な星の引力によって小惑星帯がまるで潮の満ち引きのように流動する現象で、その内部では高速で移動する氷塊や岩石が飛び交っているため、この中に宇宙船を放り込めば、それらによって削られ叩かれすり潰されて沈んでしまう。

 

知識では知っていたが、実際にこうして目で見るとその恐ろしさが言葉ではなく体で分かってしまう。

 

「・・・この中を通るのか?」

「いくらデフレクターがあると言ってもなぁ・・・。」

 

このアルタイトよりも大きな小惑星がまるで川の濁流のように流れている。その中では小惑星同士が衝突しあい、砕けた破片が更に他の小惑星を破壊しといった状態が繰り返されていた。

 

あの砕けた小惑星が今度は自分の番になるのか・・・。

 

「よくこの先に本拠地を構えようと思ったな。」

「っていうかあいつらどうやってここを突破したんだ?連中には水雷艇だっていたんだぞ?」

「迂回の手段も無くは無いが、時間がかかりすぎるし何より遭難の危険が高くなる。ここは大人しく突破するしかないだろう。」

 

ベルトラムの言う通り、本来航路逸脱というのはかなり危険な行為だ。宇宙をよく知らない人間がチャートを見て航路が引かれていない空間を指さしここがショートカットできるじゃないかとよく口にするが、それをせずに航路が引かれているのにはちゃんと理由がある。

 

宇宙には星々以外何も無いように見えて中性子性やブラックホールをはじめとした危険な存在が多々あり、航行不能領域と呼ばれたりする空間が多く広がっている。一説では人類が航行可能な空間は宇宙全体の半分も満たないという説まである。

 

そして航路外へ出ると自分達の座標を見失う可能性が出てくる。人工衛星による測位が使用できる地上などとは違い、宇宙では自分達の位置を確認するというのはかなり難易度の高い芸当なのだ。そして位置を見失うという事は暗闇の中自分がどこへ進んでいるのかも分からない状態となり、何もない真空の空間をさまよい続け最終的には餓死や窒息した死体を乗せた幽霊船が出来上がるのだ。

 

今でも時々幽霊船が発見される事があるし、行方不明になる船もいる。そうした事故の原因の一つとして航路逸脱があると言われている。

 

前回の我々が航路を逸脱した時はそれなりに近い所で慣性航行していただけだし、周辺の空間スキャンや位置確認を行ったうえでの事だ。流石に敵の庭で悠長にそれをやる時間も余裕も無い。

 

「抜け道でも知っているのか、一時的に動きが弱まる時期があるのか・・・。いずれにせよ我々には分からんし、それを調べる時間は無い。」

 

流石に航路を立ちふさぐようにして存在する巨大な壁の小さな穴を探すのはそれこそ年単位での時間と相応の人手が必要だ。そこで私は船内の内線をつないである人物に連絡を取る。

 

「どう思う?リヒャルト?」

『ふむ、おそらく惑星の位置関係や海賊船のデフレクターのデータを計算した限り、メテオストームに周期があるのは間違いない。が、その周期はおそらく月単位以上の長いものになると予想する。』

「今すぐ通るのは難しいか?」

『おそらく問題はないだろう。海賊船の性能を見るに今はまだメテオストームが緩やかな周期だと思われる。本艦でも問題は無いだろうが、後は動かす者次第だな。』

「分かった。ありがとう。」

 

内線を切って目の前のメテオストームを映し出す巨大なモニターに向き直る。リヒャルトは観測機器が専門でこういった現象に対する知識も持ち合わせている。その彼が言うならば問題は無いだろう。

 

「こういう時は流れに沿って航行するんでしたっけ?」

「そうだ、そうすれば相対速度が縮まりいくらか航行しやすくなる。向こうにはついていくと伝えろ。」

「先に行かないんですか?」

「このデカブツが前にいると連中も動きにくいだろ。それにいざとなったらこっちは向こうを押し出してでも動けるからな。」

「・・・本音は?」

「先に行って様子を見てきてほしい。こちらが損害を受ける前に。」

「なんて奴だ・・・。」

 

ベルトラムが頭を抱えるが、私だって専門家がOKを出したからといってあんな中にホイホイ飛び込める程楽天家では無い。実際問題こちらの機動性が悪いのは事実なので、向こうの避航空間を広げるためにも先行してもらい距離を取ってついていく事にする。

 

「ユーロウパと随伴艦2隻、メテオストームに突入しました。」

「本艦突入まで5,4,3,2,1,0―――。」

「「うわぁ!?」」

 

突入した瞬間舵を握っていたディエゴやレーダーを見ていたアズキが変な声を上げる。それと同時にアルタイトの艦首が左方向へ急激に回っていく。かと思えば船体が傾き出し今度は右に押し出されていく。

 

「どうした!?」

「姿勢制御が効かねぇ!?」

「レーダーに異常!!原因不明!!」

 

先行したユーリ艦隊は問題無く航行しているようなので、突然の事態に混乱する。突然、リヒャルトから内線が入る。

 

『艦長、ガスだ。』

「なにぃ!?」

『おそらく近くの小惑星から噴出した氷や塵といったガスの流れが濃いところに入ったのだ。船体の各所に異なる力のモーメントが働きそれで予想外な動きをしているが、ガスの濃い所を抜ければ状況は安定する。』

「それまでの対策は!?」

『流されて小惑星に潰されないよう姿勢と進路を維持し素早く抜ける事だ。』

「操艦変わるぞ!」

 

それを聞いた私は船の操作権を操舵手から直接操作へ切り替える。これによって私の脳からアルタイトのコントロールユニットへ直接命令を送る事が出来るのだ。その反応速度は普通の方法では決して超える事は出来ない。これのおかげで私は手足の様にアルタイトを操船できるので、アルタイトの処理能力をフル活用して船の姿勢をギリギリの所で安定させながら進んでいく。

 

船体全体がメテオストームへ突入した事で、ようやく姿勢制御がいくらかやりやすくなった。ここで操船権をディエゴへと戻す。

 

「ふぅ・・・疲れた。」

「大丈夫ですか艦長?」

「このモード使うと疲れるんだよ。」

「後でシステムを調整しておきます。」

 

あれは結構苦痛だ。情報処理の量が一瞬で桁違いに跳ね上がるので頭がガンガン唸る。

具体的に言うと突然この船の全クルーの五感から得られる情報が鮮明にはっきりと感じ取れる状態になる。おかげで二日酔いのような感覚が一時的に起こってしまうのだ。

 

「リヒャルト、この先もこういうのがあると思うか?」

『おそらくな。近くのデブリを観測して塵の噴出などが確認出来たらまた同じようになるだろう。』

「アズキ、スイカ。周辺のデブリからの塵の噴出を監視して報告してくれ。手すきのオペレーターもそれに当たってもらおう。」

「「了解!」」

「ダスティ、ディエゴ、ガスによる船体の動きに注意しつつ進んでくれ。ガスの流れと重力偏差の変化を予想して操船するんだ。」

「「了解!」」

 

デフレクターは質量物から船体を守るってくれるが、万能という訳ではない。なまじ巨体なだけに船体各所で受ける外力の差が大きくなって操船が難しくなるんだろう。塵も積もれば山となるといったが今回は塵が集まってこの巨大艦を押してくる。

予想外の事態だったが、ユーリ君達を先に行かせたのは正解だったかもしれない。大型船特有の操船特性に不慣れなこちらが先行してさっきみたいに操船不能になった時に巻き込む危険が無くいからな。

 

と各所に命令を下していた所でドンという音がする。

 

「小惑星が衝突したようです。位置は艦橋近くですが損傷無し。」

「続けて本艦に接近中の複数のデブリあり!ぶつかります!」

 

複数のデブリが飛んできてはデフレクターによって弾かれる。

その度に艦内に衝撃が走るが、巨大なこの船にとってせいぜい少し揺れたか程度である。

 

「か、艦長!ユーリ艦隊をロスト!!」

「何!?」

 

アズキからの報告に耳を疑う。まさか沈んだか!?

 

「インフラトン反応の拡散は確認できません。恐らく大量の小惑星によって感知できなくなったと思います。」

 

スイカの報告を受け、とりあえず一安心する。

 

「ユーロウパと通信できるか?」

「通信繋がりません。」

「うーむ、まぁここを抜ければ合流できるだろう。とにかくこのまま進もう。」

 

 

そうして前進を続けること10分、目の前の巨大な小惑星を避けた瞬間だった。

突然モニターの正面に艦影が現れた。

 

「うお!?」

 

突然影から現れた船、エルメッツァ製サウザーン級巡洋艦の姿を視認した。目視ではっきり確認できるほど近くに居たのだ。小惑星の影にいた事と、周辺の細かい破片の所為でここまでの至近距離でもレーダーなどで察知できなったんだろう。

 

「このままだと後30秒で衝突します!!」

 

アズキからの報告に私は慌てて命令を下す。

 

「お、面舵一杯!!」

「アイサー!!クソッタレ!しっかり動きやがれ!!」

 

重力偏差かはたまたガスの影響か、元々巨大で機動性の低いアルタイトに緊急回避は難しい。向こうもこっちに気づいたようで慌てて船を動かしているが、僚艦のアリアストア級の動きが不味かった。

 

「何でこっちにきやがる!!」

「このままではぶつかります!!」

 

恐らく外力の影響で上手く動けないのだろう。スラスターの光がよく見えるが、それとは逆に船体が動いている。

 

300m程度の駆逐艦に衝突された所でこの船はびくともしない。しかし、相手はそうではない。圧倒的な質量差によって轢き潰されデブリになってしまう。

 

周囲を見回した私はある決断を下した。

 

「操作権もらうぞ!ベルトラム、総員に対衝撃警報出せ!!グラビティウェルで打ち消せるか分からん!」

「何やる気だ!?」

「ダスティ、左舷前方の係留アンカーを全部撃ち込め!目標は左舷上方の一番近い小惑星!」

「え!?」

「早くしろ!!」

「りょ、了解!」

 

アルタイトの左舷前方に付けられた係留アンカーが射出される。通常は小惑星などに一時的に係留する際や白兵戦時に相手艦に取り付く為に使われたりするもので、トラクタービームやグラビティウェルなどが使えない時に使用する非常にアナログな装置だ。

 

10本以上の係留アンカーの先端が小惑星に突き刺さると4本の爪が岩石をがっちり掴み小惑星と船体を繋ぐ。

 

「ブースター点火!巻くぞ!」

 

両舷の巨大ブースターが唸りを上げ直後に強烈な振動と共にその有り余る力で4kmの船体を押す。

それと同時にウィンチが高速で回転し人間の身長よりも太いワイヤー10本を全て巻き始める。

 

艦が前方へ加速し始め速度が出てきた所で、ウィンチが限界までワイヤーを巻いた事で船が突然左舷側へと引っ張られる。

 

ワイヤーに引っ張られた船体はその船首が小惑星の方へ引っ張られ左上方へ回頭を始め、艦内では突然の方向転換による衝撃と、グラビティウェルによって打ち消しきれなかった慣性によって固定されていない物や、適当な何かに捕まれなかった人間が吹き飛ばされる。警告があったとはいえ時間が無さ過ぎたのだ。

 

「うわぁああああ!?」

「避けろぉおおお!!」

 

同時にウィンチを全力で回してワイヤーを巻き込んでいく。アルタイトはまるで振り回されたロープの先に括り付けた錘のように、小惑星を軸にしスラスターに加えて遠心力によって急速に左上方へ移動する。

 

目の前のアリアストア級が船体の影に消えて目視出来なくなる。だが、船底部の外部監視カメラはどんどん近づいてくるアリアストア級の姿をモニターに映し出していた。

 

「衝突まであと10秒!!」

「躱せぇぇぇえええ!!!」

 

叫びながら下部スラスターを全力で吹かさせる。どんどんアリアストア級がカメラの方へ近づいていき、もうぶつかると思った刹那、アルタイトはアリアストア級の頭上スレスレを通り過ぎた。

 

「躱した!!」

「アンカー切断!!」

 

バチンッと音を立ててワイヤーが切断され、それと同時にスラスターが片っ端から全力で逆噴射をかけ、私は急激な慣性に耐える為に必死で艦長席の手すりを掴む。

 

そして、どうにか船が止まった時には思わず肺の中のすべての空気を吐いて安堵した。

 

「・・・ふぅ〜。」

「ぎ、ギリギリセーフか。」

 

ブリッジクルー全員が胸を撫で下ろす。取り敢えず、味方駆逐艦を轢き殺すという事態は避けられた。

 

「ベルトラム、各所の損害状況を報告させろ。何人か怪我人が出てるかもしれん。ディエゴ、操船を渡すから向こうの艦隊と合流して進んでくれ。こんな所さっさと抜け出したい。」

「「了解」」

「ユーロウパより通信来てます。」

「繋いでくれ。」

 

通信に出たのはユーリ君だった。

 

『シーガレットさん!そちらは大丈夫ですか!?』

「一応無事だ。そっちの駆逐艦は無事か?」

『はい、おかげで助かりました。ありがとうございます。』

 

取り敢えず、向こうは無事だったようだ。

 

「取り敢えずそちらも急いでここを抜けてくれ。これ以上こんな空間に居たら何が起こるか分からない。」

『分かりました。』

 

合流した我々は、陣形を整えると再度航行を開始する。

 

「ダメージレポートがきたぞ。怪我人が30人くらいだが死んだ奴はいない。怪我も打撲や打身が殆どだ。後は艦載機が2機ダメになった。」

「あんな無茶な機動をして良く死人が出なかったな。怪我した奴は交替して医療班に治療を任せよう。艦載機は使えるのか?」

「何とかな。」

 

どうも整備中だったオッゴの固定装置が外れて隣の機体にぶつかってしまったらしい。ええいまた金が掛かる、修理代だってただじゃないんだぞ。

 

「あとカーフィー爺さんから夕飯のスープがダメになったと苦情が来ている。火傷した奴もいるとな。」

「晩飯はスープ無しだなこりゃ。」

 

取りあえず危機を脱出した我々は濁流の中を進んでいく。それ以上の災難はなく、全艦無事にメテオストームを突破する事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一方で略奪艦隊が出撃した後、ファズマティに残っていたアルゴンは何処か落ち着かない様子で自分の部屋をうろついていた。

その彼の自室が開かれ男が1人入ってくる。

 

「入るぞ兄弟。」

「おぉ、お前さんかバルフォス。どうだ、新しい船の調子は?」

「中々の物だ。流石はカルバライヤ製だな。」

 

そう言うとバルフォスは部屋の椅子に腰掛ける。

 

「あの国の船の装甲は強力だな。そこらのレーザー程度なら傷一つつかんわ。そういうお前は何か落ち着きが無いが何かあったのか?」

 

アルゴンの落ち着かない様子が気になったバルフォスが聞くと、近場の惑星ゴッゾから“仕事”を終えて戻ってくる最中の仲間が一隻戻ってこないと言うのだ。

 

バルフォスとしては、顔も知らない下っ端の船が一隻帰ってこなかった所で別に気に留める必要は無い。彼は時々アルゴンのその気にしすぎな性格を疎ましく思う事があったが、スカーバレルの今日の栄光があるのはアルゴンの非情で残虐な謀略の力と、こうした行き過ぎると思う警戒心による危機察知のお陰だった事を彼はよく知っていた。

 

ただ彼の心配性な性格は時々取り越し苦労を起こす事がある。

 

以前にも掠奪して帰ってくる途中、要塞近くで連絡が途絶えた海賊船が一隻いたが、その時は討伐軍の侵攻を警戒したアルゴンが要塞に警戒体制を敷いたのだ。しかも要塞に残っていた艦隊を臨戦体制にし戦時の軍隊さながらの警備と索敵まで整えて遠く他の宙域へ行った他の艦にまで帰還命令を出して防御を固めたのである。

 

結果として、連絡が途絶えた船はエンジンの事故を起こして漂流していただけで、アルゴンの取り越し苦労に終わった。

 

「大方何処かで道草でも食っているんだろう。」

「しかし通信にも出ないとなると何かあったと考える方が自然じゃろう。」

 

彼がそこまで疑心暗鬼に陥っているのも、軍に納入されるレアメタルの強奪の為ここに駐留している艦隊185隻のうち157隻を出撃させた為である。

 

護衛に派遣される艦隊の規模からしてそれだけの戦力は正直過剰であるが、大量の幹部達が手柄を手に入れたがった事で大規模な艦隊を派遣させる事に決定したのだ。

 

現在この要塞を守るのはアルゴンの旗艦と配下のゲルドーネ級とオルドーネ級が1隻ずつ、3隻のガラーナ級と4隻のゼラーナ級にそれに12隻のジャンゴ級とフランコ級の他エルメッツァ地方軍から鹵獲したサウザーン級が1隻とテフィアン級が2隻、更にバクゥ級とタタワ級と呼ばれる船が2隻ずつの計29隻。その他バルフォスの艦隊数隻がいるのみである。

 

この要塞があれば地方軍の討伐隊程度は粉砕できる。しかしながら中央政府軍による大規模討伐隊が組まれた場合は分からない。アルゴンはエルメッツァを権力者による私利私欲が横行する退廃的な国家だと認識しているが、伊達に小マゼランの大国として君臨している訳ではない。

 

号して5万という数は張り子の虎であってもその中に実力者は一定数いるのだ。その数はスカーバレルの比ではない。

 

だからこそ彼は軍の高官と接触し上層部を引き込む事でファズマティへの侵攻が行われないようにしているのだ。

ファズマティへの侵攻を唱える軍人は、スキャンダルをでっち上げさせて失脚させたり無理な討伐任務を回したりして暗殺したりしてきた。その為、海賊討伐の動きがあればアルゴンとつるんでいる軍の高官を介してすぐにファズマティへ伝わるようになっている。

 

「そこまで心配なら偵察に誰か行かせれば良いではないか。」

「ほう、それがいいじゃろうな。」

 

そうして2隻の水雷艇がファズマティを出航した。

 

そして、その水雷艇から攻撃を受けたという連絡を最後に通信が途絶した事で、ファズマティは小さな騒ぎになっていた。

 

自室にてそれを聞いたアルゴンは急ぎ要塞司令室へ走り出す。その場にいたバルフォスは彼の老人とは思えない俊足に驚愕しすぐさま後を追った。

 

「状況はどうなっておる!?」

「偵察に行った連中からの応答はありやせん。攻撃を受けたという報告だけで後は何も・・・。」

「敵の規模は分からんのか!?」

「何も分かりやせん、誰かに偵察に行かせますか?」

 

ここでアルゴンは自身の経験と限られた情報から推測する。

 

偵察隊がやられた事から何者かがスカーバレルの庭に侵入してきた事は間違いない。交戦場所からしても既にメテオストームは突破されている。この要塞に到達されるのも時間の問題だろう。

 

問題はその敵は何者かという事だ。エルメッツァ軍ならその動きは必ず彼の耳に入る。だがそのような情報が彼に耳には入っていない。

それ以外の敵となるとバウンティーハンターや民間の0Gドックだ。

 

ごく稀にバウンティーハンターが侵入してくる事はあった。腕に覚えのある愚かな0Gドックはアルゴンが軍に張った情報網では察知できないが圧倒的な数とこの要塞の力で、悉くダークマターにしてやった。だが今回は大量の部下が離れている時に襲撃があるなど、あまりにもタイミングが悪すぎる事にアルゴンは違和感を感じる。

 

もしや何者かが仕掛けた罠か・・・。

 

「艦隊をすぐに呼び戻すんじゃ!」

「え!?」

「とにかく艦隊を呼び戻せ!それと要塞内にいる全艦に戦闘配置して要塞のすぐ近くで待機させるんじゃ!」

 

アルゴンの命令は直ちに発せられ、安心できる本拠地で安寧と惰眠をむさぼっていた海賊達は大慌てで配置につく。艦隊の出撃によって人員も大幅に減っているが、残存の艦隊の乗員を除いても未だその数は数千名に上る。

 

「どうしたのだ?」

「敵がエルメッツァ軍ならば情報が入るはずじゃ。それが入らんという事はバウンティーハンターじゃろうが、タイミングが良すぎる。連中はエルメッツァ軍とつるんでおるとみて間違いないじゃろう。よほどの凄腕か、近くに軍の部隊がいる可能性もある。」

「例のオムスとかいう奴の仕業か!」

「おそらく奴の仕業で間違いないじゃろう。艦隊が戻ってくれば仮に討伐軍が来たとて戦うことが出来るが、今その艦隊が居ない以上各個撃破される恐れがある。お前さんも船に乗った方がよいぞ。」

「おう!で、例の秘策とやらは使うのか?」

「時と場合によってじゃな。」

 

アルゴンの口角が吊り上がる。この要塞はただの海賊基地ではない、エルメッツァ軍の大軍とも渡り合えるだけの秘策がここにはあるのだ。この老獪な海賊首領はエルメッツァ随一の海賊の首魁でもある。その地位を築き上げるだけの力を彼は持っていた。

 

「ワシの船も出すぞ。指揮はそこで執る。出港準備を急がせるんじゃ。」

「わかりやした!!」

 

海賊達は自分達のボスが自ら出撃すると知って士気が高揚する。指揮官が陣頭に立って戦う事で勇猛さを見せつけるこの行為は、軍隊では無い海賊達でもその心を奮い立たせるものだ。

 

だが、決してアルゴンは勇猛果敢な男では無い。慎重にしてともすれば臆病ともとれるその性格を知っているバルフォスは彼の内心の意図を察していた。だからこそ、彼が自分へ出撃を促したのも納得がいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の船は自由に星の海を旅する事ができるのだ。この要塞とは違って。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

「敵要塞射程ギリギリに到着。要塞周辺に複数の艦隊を確認したわ。」

「ふむ、どうやら察知されておったようじゃな。」

 

ユーリ達の旗艦ユーロウパのモニターにファズマティが表示される。その宇宙船ドックの入り口周辺に敵艦隊が確認できた。全部でおよそ30隻。

その中の一隻が彼の目に留まった。

 

「見たことのない船がいるな。」

「あれは隣国カルバライヤ製のバゥズ級巡洋艦だ。カラーリングからしてあれはバルフォスの船だろうな。装甲も火力もエルメッツァ製の巡洋艦よりはるかに強力だぞ。おそらくどこからか非合法な手段で入手したんだろう。」

「なるほど。」

 

イネスの解説に納得する。思えばライッツォ宙域でバルフォスを逃してしまい彼によって洗脳され、妹を手にかけようとさせられたティータの兄の仇とここで会えるとは思わなかった。

 

「それでも僕達のやる事は変わらない。ミサイル発射用意!目標は敵要塞!!」

 

ユーロウパと僚艦のアリアストアからミサイルが発射される。例のシーガレットから教えてもらった自爆装置を外し射程を大幅に延長する使い方だ。動き回る海賊船への命中は不可能でも移動しない要塞なら推進剤が切れて直進するだけのミサイルでも簡単に命中させることが出来る。

 

「目標入力!発射準備用意よし!」

「発射!!」

 

 

 

 

 

 

要塞のすぐそばで展開する艦隊。その中の一隻であるグロスター級戦艦の艦橋ではアルゴンが顎を撫でながらモニターを眺めていた。

本来この船はエルメッツァ地方軍が海賊対策の為に運用していた戦艦であり、血気盛んな若い艦長達がスカーバレルの悪行に憤りを感じ、討伐の為にこのファズマティへやって来たのである。

義憤にかられた海賊対策艦隊は、そこで圧倒的な数の海賊と遭遇し殲滅されてしまったのだ。

その際に残ったこの船は、地方軍を示す黄土色のカラーリングを血の様な紅に塗装され、海賊トップの乗艦として君臨していた。

 

スカーバレルはこうした鹵獲艦をいくつか所有している。スカーバレルの規模はそこまで膨れ上がっているのだ。これもひとえにアルゴンの功績ともいえる。

 

「ホーホイ、連中どんな手段でこの要塞を落とすかと思えば。」

 

そんなアルゴンは最初かなり警戒した。敵の戦力が不明であり可能性は低いが軍隊が出張ってくることも考えられた。だが、警戒態勢を敷いた要塞に実際に現れたのはライッツォでの拠点潰しに参加した小僧の0Gドックだったのだ。

 

その”2隻”の0Gドックの船はこちらへ向けて要塞主砲の射程外からミサイル発射を繰り返している。

 

発射されたミサイルは要塞に命中しているが、すべてデフレクターによって防がれており被害は何一つなかった。

ただ敵が主砲射程外から態々攻撃を仕掛けているというのは明らかにこちらの要塞情報が洩れているのだろう。現にこの小マゼランで使用されているミサイルの射程をはるかに上回る距離からの攻撃であるだけに、着弾地点はまばらに広がっており数発は明後日の方向へ飛んで行ってしまっている。そして最近報告された小僧の艦隊は3隻居たはずだが2隻しか確認できていない。

 

これは何か搦め手を考えておるな。

 

アルゴンが周囲を警戒するように指示を出すと、オペレーターの一人が声を上げる。

 

「お頭!左前方に変な船を確認しました!」

「変な船?」

「映像出します!」

 

モニターに映し出された映像に移っていたのは、エルメッツァ製のテフィアン級駆逐艦だった。エルメッツァ軍の主力でもあり、一般の航海者でも許可があれば入手可能なモデルである。

シグナルを解析したところあれは小僧の艦隊の内の1隻であるようだ。

 

問題はその後ろである。その後方に巨大な何かがいた。それはテフィアン級駆逐艦の倍近い大きさの小惑星だった。よく見るとテフィアン級の後部からワイヤーのようなものが伸びており、小惑星を引っ張っているのだ。テフィアン級は要塞主砲の射程外でトラクタービームを切断し急回頭する。

 

慣性の法則に従って加速された小惑星はそのまま直進していく。その進路はファズマティである。

 

「ホアッ!?あいつらこの要塞に石を投げてきおったわ!!」

 

思わず目を見開くアルゴン。こんな子供の考えた浅知恵の策を実行する小僧がよくライッツォで生き残ったと感心していたのだ。

確かに遠距離からちまちまミサイル攻撃をするよりも大質量の小惑星をぶつけてしまうというのは拠点潰しには最適だろう。

このファズマティ周辺はメテオストームから弾かれた小惑星の欠片が大量に漂っている為、見通しはあまりよくない。無論、隠れるのに絶好なこの条件もエルメッツァ軍から監視の目を逃れて本拠地を築く場所に選ばれた理由の一つでもある。

2隻が遠距離からミサイルを叩き込んでいる間、デブリを利用して側面へ回ったもう1隻が小惑星を放り投げる事でこの要塞を落とそうと考えたのだ。

 

だがあの程度の大きさの石が大した速度も無くぶつかった所でこのファズマティには大した損害は与えられない。

 

「どうしやすお頭?」

「ふむ・・・ここはひとつ、あの小僧の心をへし折ってやるのも一興じゃろう。」

「では?」

「要塞主砲発射用意!」

「アイサー!要塞主砲発射用意!」

 

命令が要塞へ伝えられると、要塞の巨大な砲門が口を開ける。その砲口直径が200mもある要塞主砲は外壁上に走らせたレールの上を移動して照準を合わせる為、360度すべてへの砲撃が可能であった。

 

「エネルギー充電完了!素点固定良し!目標、前方小惑星!」

 

要塞主砲から光が漏れ出しそのエネルギーが今発射されんとしている。

 

「発射。」

 

アルゴンの命令と共に主砲から発射された強力なレーザーは目がくらむ程の閃光を発しながら小惑星へと直進する。そして小惑星が光の中へと飲み込まれていった。岩石で構成されていた小惑星はAPFシールドも装甲も施されていないただの石ころで、その表面は焼かれて蒸発し小惑星が溶けてゆく。

 

レーザーの光が消えたとき投げられたはずの小惑星は跡形もなく消滅していた。

 

「やったぜ!」

「あんな石ころいつでも叩き落せるんだよこっちは!」

 

その映像を見て盛り上がる海賊達。切り札として用意しておいた小惑星をたった一回の砲撃で跡形も無く消し飛ばされてしまい、今頃は絶望に打ちひしがれているだろう。その顔を想像しアルゴンは邪悪な笑みを浮かべた。

 

あの船には可愛い娘が乗っているとも聞いている。男は全員嬲り殺し、女は犯してから―――と、この残忍な性格を有する彼こそエルメッツァの船乗りたちが恐れる海賊の長アルゴン・ナバタスカだ。

 

彼が妄想に更けていた時、ブリッジをけたたましいアラームが鳴り響く。勝利を確信し怖気ずいてその場にとどまるユーリ達に挑発を仕掛けていたクルー達は突然の警報に冷や水を浴びせられた。

 

「さ、3時の方向!高エネルギー反応を確認!」

 

オペレーターがその言葉を発した時、青い線が数本艦隊の間を通り抜けていった。そして艦隊右翼に展開していた船で爆発が起こる。爆発したのはガラーナ級とフランコ級でフランコ級は爆散し、ガラーナ級は推力を失ったのか要塞の引力に引かれて落ちてゆく。彼らがその方向を振り返った時、大量のミサイルが要塞の表面で無数の爆発の花を咲かせていた。

 

「い、いったいどこから!?」

「居た!右方向!デブリ帯の奥!!」

「映像を出せ!!」

 

ブリッジのメインパネルに映し出される巨大な艦影。濃緑のその船体に彩られたその巨体はどの小マゼランの船でも無い。最近現れてここ近日オズロンド方面でいくつものスカーバレルを葬ってきた謎の巨大戦艦だった。

 

「奴らの真の目的はこれか!!」

 

ユーリ艦隊が囮となり要塞主砲の照準をこちらへ向けさせている内に、あの戦艦が死角から攻撃を仕掛け要塞を破壊する。デブリを盾に慣性航行されれば先ほどのテフィアン級のように発見しにくいができない訳では無い。だから遠距離から砲撃したり石ころを投げて注意を引こうとした訳だ。

 

要塞表面が確認できないほどの爆発が起こる中、海賊オペレーターが自分のモニターから発せられる警報を見て慌てて読み上げる。

 

「敵艦のエネルギー量増大!砲撃来る!」

「TACマニューバ入力!回避機動!!」

 

更に敵艦より放たれた幾重ものレーザー砲が要塞へ着弾する。いくつかのレーザーがアルゴン達を狙ってきたが、膨大なエネルギー量の増加を確認した海賊達はそれぞれ思い思いにTACマニューバパターン入力し回避機動を行う。

たまたまマニューバのパターンが悪かったらしい水雷艇が一隻撃ち抜かれて爆散したが、残りの艦はレーザーの直撃を回避することが出来た。しかし通り過ぎたレーザーは要塞表面へ着弾しAPFシールドにダメージを与える。

 

「要塞の損害は!?」

「デフレクター、APFシールド共に出力25%以上低下!」

「第2波来る!!」

 

第2波のミサイル群が高速で飛来し要塞表面を焼き尽くす。巨大なインフラトンインヴァイダーと艦載不可能な大型のシールド系装備のおかげでどうにか第2波を受け止めきることに成功したが、たった2撃でシールドの出力が半分も落ちてしまった。

 

「要塞主砲は!?まだ撃てぬのか!?」

「現在チャージ率2%!」

「ええい!艦隊前進!あの巨大な船を攻撃しろ!」

 

要塞主砲は先ほど小惑星を迎撃するのに使用した為、エネルギーチャージや照準をつけるのにまだまだ時間がかかる。

アルゴンが麾下の艦隊に号令を出しアルタイトへ攻撃するべく回頭した所、突然艦が揺れる。

 

「ホア!?今度はなんだ!?」

「後ろからです!!ライッツォでやった連中が攻撃してきた!!」

 

アルゴン艦隊が転進した所で、先程まで沈黙していたユーリ艦隊が急速に前進し攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

『兄弟!俺はあの小僧どもをやる!』

 

一方的に通信を入れて一方的に切るや否や、バルフォスの艦隊は再度回頭して船首をユーリ達へと向け、交戦を開始する。

 

内心ではアルタイトの相手にこちらの数が減るのは困るが、後方から撃たれ続けるのも危険ではあるので、仕方なくそちらの対処はバルフォスに任せる事にし、自身はアルタイトへ向けて艦隊を前進させる。

 

今の所、アルタイトは要塞への攻撃に集中しておりこちらへは時折砲撃してくる程度だった。その為まだ海賊船は20隻以上残っている。

 

無論要塞に残っていた海賊達も黙っておらず、要塞に設置された対艦砲が猛烈な弾幕を浴びせる。敵はすでに小惑星帯を抜けて懐近くまで入っており対艦砲の射程に入っていたが、巨大戦艦へ降り注いだレーザーはそのことごとくがシールドで弾かれてしまっていた。

 

「なんてシールドだ!?攻撃が全然効かねぇ!」

「ならば艦載機部隊を出して近接攻撃するのだ!」

 

対艦砲の効果が無いと知ったアルゴンは、近接攻撃によって敵の動きを妨害させようと号令を下しゼラーナ級及びファズマティから艦載機部隊が続々発進してくる。

クーベルやビトン、ティオンといった各艦載機が編隊も組まず巨大な敵艦へ向けて思い思いに加速していく。軍隊的ではない個人が好き勝手やるその動きはまさしく海賊であったが、その数は大半が汎用型のクーベルで構成され全部で100機とかなりの数だった。

 

スカーバレルが所有する艦載機は全部で300機を超える。軍隊から鹵獲したり、クーベルに至っては設計図を奪ったので自分達の工場で生産しているくらいだ。

 

普段は艦載機は獲物を探すための偵察任務に使用している。この時代において宇宙船を艦載機のみで沈めるのはあまり採用されていないドクトリンなのだが、大きな狩りが行われる場合は大量の艦載機を使用して獲物に群がり鹵獲する事がある。皮肉にも開発国の軍隊よりも海賊の方が艦載機の運用実績があるという状態になっていた。

 

今回はその大捕り物があるために保有する艦載機の3分の2を艦隊へ積み込んでの出撃させていたのだ。

 

対する巨大戦艦からは艦載機が発進してくる様子はない。

 

「迎撃機無しか。仕事が楽でいいぜ。」

 

そう独り言を呟く隊長は、仲間の機体を抜き去って一番槍を突き刺そうと直進する。

 

「へ、そんな図体じゃ逃げられねぇだろ!」

 

そう言ってミサイルの安全装置を解除したとき、彼は巨大戦艦から何かが射出されたのを見た。

 

「ミサイル!?うおぉ!?」

 

操縦に多少の才能があった彼はすんでの所でミサイルを回避した。振り向けば、後ろにいた仲間の機体が幾つも火球に包まれている。

 

「生意気な!」

 

機体を更に加速させ対艦ミサイルの射程に迫る。そして敵艦の表面から青白い光が輝くのが見えた。

 

彼はその反射神経ですぐさま回避行動を取るが、幾つもの青い線が彼の機体を包み込む。

 

「くそっつ!なんだこれ!?」

 

必死で機体を動かして謎の光から逃れようとするが、数が多く避けきれない。1本1本の光に当たる度、機体の何処かが損傷したアラームが鳴り響きコクピットの表示がどんどん赤く染っていく。

 

「死んでたまるか――――――」

 

 

その言葉を最後に彼の機体中央を蒼い光が貫き彼の機体は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

「凄まじいなこの対空砲は。」

 

ブリッジで対空戦闘の様子を眺めていたベルトラムは独り呟く。

 

対空クラスターレーザー。ヤッハバッハの対空兵器で通常のパルスレーザーと違い一度に多量のレーザーをばら撒く事による面制圧が特徴でそれに突っ込んだ艦載機は避けることが出来ずに爆散していく。

 

艦載機を本格運用し相手もそれを想定して作られたヤッハバッハの対空兵器を相手にするには海賊達ではいささか力不足であった。

 

向かってきた艦載機のうち半数をわずか30分あまりの戦闘で撃墜している。それに対してこちらの被害は無視してよい程軽微だ。

 

「さて、予想ではそろそろの筈だが・・・。」

 

彼が時計を見ていると、通信が入ったと報告が入る。発信元はアルゴンの船からである。

 

「モニターに出せ。」

 

そこに映し出されたのは、1人の老人だった。ベルトラムはこの男を知っている。

 

『全く、ワシの要塞に対してよくもやってくれたものだよ。』

 

指名手配中の極悪人。この宙域最大の海賊団の首魁にして残虐非道な海賊、アルゴン・ナバタスカである。

 

『貴様がこの船の船長か?』

「そういう貴様はアルゴン・ナバタスカか?」

『ホーホー、ワシの手配書なんぞそこら中に撒かれておるからすぐ分かると思うんじゃがね。』

 

要塞が攻撃を受け艦載機が壊滅しつつあるというのに、アルゴンは焦っている様子が見えない。寧ろ余裕と言った態度をとっている事に彼は不信感を持っていた。

 

「で、そんな海賊のボスが何の用だ?命乞いか?」

『ホホ、命乞いするのはお前さん達のほうじゃい。』

 

その言葉にベルトラムの眉が上がる。現状押しているのはコチラであるのに何故命乞いなどしなければならないのか。

 

ベルトラムが不思議そうな表情をするのを見てニタニタと笑みを零すアルゴンの映像が突然切り替わる。

 

そこには恐らく要塞の内部であろう広い空間に大量の人間がいるのが映し出されていた。

よく見るとそれは殆どが上半身裸の男達で皆酷く汚れていた。数人女性の姿も見え、その周りを武器を持った海賊が取り囲んでいる。明らかに海賊らしくは見えず、おそらく攫われた民間人なのだろう。

 

『戦いは宇宙で決着をつけ地上の民は巻き込まないというのが、君達0Gドックのルールだそうじゃないか。』

「当然だろう、アンリトゥンルールにもそう定められている。」

 

全ての0Gドック共通の認識であり暗黙のルール、国家間の戦争においてすら普段適用されるそれは航路を遮断すればその星の命運を握ることの出来るこの時代の宇宙航海者にとっての常識だ。

 

「で、彼等をどうするつもりだ?」

『知れた事、お前さん達に対する人質じゃよ。彼等は。』

 

ブリッジクルー達にどよめきが起こる。

アルゴンの言った最終兵器―――それはファズマティに捕えられた多数の民間人の事である。

 

『もしお前達がこれ以上抵抗するなら、こいつらの身体に幾つもの穴が開くじゃろう。』

 

聞くに耐えない下品な笑い声がスクリーンの向こうから聞こえてくる。

 

『待て!そんな事はさせないぞ!』

 

突然通信に割り込んできたユーリの顔を見てアルゴンは更にその笑みを深める。

 

『ホーホイ、小僧が一体何のようじゃ?』

『戦いに地上の民を巻き込むなんて許されると思っているのか!?』

『ハッハッハ!そんなルールお前達が勝手に言っておるだけでは無いか。』

『くっ!バルフォス!』

『重要なのは戦いに勝つ事だ。お前のような小さい負け犬は大人しく後ろで吠えているがいい!』

 

バルフォスの言葉に悔しそうに歯軋りするユーリ。その様子をベルトラムはじっと静観していた。

 

『ふん、貴様我々が本気では無いと思っているな。』

『流石はその船の艦長じゃ。横の小僧と違って肝が据わっておるとみた。だが、』

 

アルゴンはパチンと指を鳴らすと少しして集団の中から一人の女性が海賊に引っ張られカメラの前に立たされる。

 

「そいつをどうするつもりだ?」

『ワシらが本気である事をお前に見せてやろうと思っての。』

「「「なッ!」」」

『ヒッヒッヒ、あーたまらんわいお前達のその絶望に満ちた表情!じゃが、ワシらの要求を聞かなかったお前らが悪いんじゃよー?お前達の所為で殺されるこの娘が可哀想じゃわい。』

 

海賊の持つブラスターが、女性の胸へ突き立てられる。女性は目に涙を浮かべながら必死に命乞いをしている。

 

『止めるんだアルゴン!!』

 

ユーリの声を無視しパチンと指を鳴らすアルゴン。

 

海賊のブラスターが放たれた光線は、真っ直ぐに女性の胸を撃ち抜く。

 

女性はまるで糸が切れた人形の様にうつ伏せ倒れた。

 

その胸からは大量の赤い液体が流れ出て地面を染めていく。

 

ピクリとも動かない女性は一目でその命が途絶えた事が分かってしまう。

 

 

 

 

 

『ヤメロオオオオオオオ!!!』

 

 

 

 

 

ユーリの絶叫が宇宙に虚しく響き渡った。

 

 

 

 

 

 




アルゴンの乗艦がゲルドーネ級からグロスター級にパワーアップ。海賊の癖に足の遅い戦艦を使うのかと思うでしょうが、彼はファズマティ周辺から動かないでしょうから問題ないでしょう。

略奪艦隊の中にもいましたが、船もカスタマイズ次第でアホみたいな速度になりますから。
(某グロスター級に乗ってた海賊の移動速度を見て驚いた思い出が)

アウトロー気取ってる0Gドックに人質なんて意味あるのって考えたんですけど、実際の所無関係とはいえ民間人盾にされた時に強引な手段に訴えられる奴ってそうそういないと思います。事に0Gドック側が無茶したから人質が死んだとか言われたら、ある意味アンリトゥンルール違反扱いされそうなので、ここで大半の0Gドックは手詰まりになるでしょう。

これがエルメッツァ軍だったら、多分コラテラルダメージって言い訳するか報道管制で、人質の安全を無視して制圧するでしょうけどね(笑)。

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