異常航路   作:犬上高一

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第23話 ファズマティ攻略戦 中編

時間はゴッゾの酒場でユーリ達が作戦会議をしていた所まで巻き戻る。

 

「問題はやはり人質だな。」

 

私の言葉にルーが頷く。

 

「さよう、そちらの艦長の言う通り連中は何人もの一般人を連れ去っておる。彼等はファズマティでの強制労働に従事させられているじゃろう。」

 

ファズマティは小惑星を核にして外壁で覆われた要塞だが、その核となった小惑星には鉱石が含まれている。彼等は攫ってきた人間を強制的に鉱石の採掘に駆り出しそれらをブラックマーケットで捌いていたのである。

 

「状況が悪化すれば彼等はそれを人質として立たせワシらに降伏を迫るじゃろうな。」

「そんな・・・。アンリトゥンルールでは地上の民は巻き込まないって!」

「無法者には意味がないのさ。中でもアルゴンは極め付けの悪だ。そういう相手はこの宇宙にゴマンといる。」

 

トスカの言葉にユーリ君は黙り込んでしまう。彼にはまだそういった経験がないんだろう。

 

「で、策はあるんだろ。じーさん。」

「無論じゃ。この場合気づかれずに人質を解放する必要がある。それと同時に要塞も無力化する必要がある。」

「どうやって?」

「まず侵入を悟られない様に囮が必要じゃ。要塞外部に耳目を集めておくために派手に行動する必要がある。それも囮と悟られぬ様な動きが必要じゃ。次に囮に注目が集まっている内に要塞内部へ侵入し、内部から人質を救出するとと共にこの要塞のエネルギーパイプを破壊するのじゃ。」

「動力炉を直接破壊しないのか?」

 

トーロ君の質問に対しルーは答える。

 

「図面を見る限り動力炉周辺は守りが硬い。中央制御室や要塞主砲も警備システムが張られておる。じゃが動力炉から各所へエネルギーを送るこのエネルギーパイプは警備が手薄じゃ。場所によっては警備の目が全く届かない所もある。コチラの方が気付かれずに破壊するのは容易じゃ。」

 

ルーの指摘通り要塞全てがネズミ一匹通さないほど厳重に固められている訳ではない。

 

「アルゴンは老獪にして策を弄するタイプの男じゃからな。こういう者を出し抜くには罠を見破ったと見せかける事で油断させる事が出来る。」

「ならウチの船は囮になった方が良さそうだな。」

 

あの船はいるだけで目立つからな。気づかれずに要塞に入港して潜入なんて出来ないし、あの火力を見ればあれがコチラの切り札だと誤解するだろう。

 

「しかし正面からいきなりあの戦艦が突入しても作戦という感じはしないぞ。内部での工作活動の為に可能な限り長い間注目を集めておく必要がある。いきなりあれが出てきたら向こうも即座に人質を使うんじゃないか?」

 

ベルトラムの指摘も最もだった。

 

「でしたら僕達の艦隊が最初に接敵するのはどうでしょう?」

 

そう言い出したイネス君に注目が集まる。

 

「僕達の艦隊規模ならそこまで脅威には感じないでしょう。少しの間戦ってその後何処かで隠れていたそちらの船が出て来れば、そちらの船が切り札だと思うんじゃないでしょうか?」

「流石イネス!伊達に眼鏡はかけてないな!」

「眼鏡は関係ないだろ。」

 

イネス君は感心するトーロ君の言葉に呆れて言い返す。

確かにそれなら突然現れたアルタイトが強力な攻撃を仕掛ける事で敵の目は完全に外へ向くだろう。

私が感心しているとジョッキを空にしたトスカが口を開く。

 

「なーるほど、これなら確かに中にまで気を配る余裕はないだろうねぇ。所で潜入する為の船は何処から調達するんだい?」

「「「あ」」」

 

そうこの作戦、ユーリ艦隊とアルタイトが囮として注目を集めるので上記の4隻は使用できない。となると、ファズマティへ侵入する為の船が無いのだ。

 

「駆逐艦一隻を艦隊から離すか?」

「そうしたら此方の戦力が低くなる。第一僕らは何度もスカーバレルと戦っているからこちらの艦隊編成の情報も向こうに漏れているかも知れないぞ。」

「今から建造する訳にも行かないし、中古船買うにしてもそこまでの時間は無いしなぁ。」

 

艦載機の航続距離は足らないから使えないし運べる人数だってたかが知れてる。要塞内に大量にいる海賊相手にするにはそれなりの人数が必要だ。

 

「ミサイルに人間詰めて発射すれば行けるか?」

「行けねぇよ。全員まともな人間なんだ。お前と一緒にするな。」

「おい、どういう意味だそれ。」

「ははは、イテッ!」

 

ディエゴのセリフで笑ってたエドワードの足を軽く蹴っておく。

皆んながうんうん唸る中、トスカとルーが笑みを浮かべているのが目に付いた。

 

「2人には何かいい案がある様だな。」

「あぁ、丁度いい船が一隻あるのさ。」

「あ!デイジーリップ!」

「正解。」

 

デイジーリップ号―――トスカが大々的に改造した小型貨物船だ。無理矢理増設したスタビライザーや武装が付いており外から見ただけで操縦しにくそうなのが分かる。

この船の持ち主はユーリ君では無くトスカの為にさっきの艦隊編成には入っていなかったらしい。まぁ仮に入っていたとしても改造武装船の戦力なんてたかが知れているから戦力として数えられていなかっただろう。いいとこ水雷艇とタイマンで勝てるかどうかだ。

 

「コイツなら周辺のデブリに紛れて近づけば簡単に要塞に近寄れる。もちろん囮があればの話だけどね。」

 

大まかな概要が決まった所で後は細部を詰めていく作業となった。。

作戦の主目的は要塞主砲の無力化と要塞内部にいる民間人を救出し人質として利用されないようにする事となり、その為に外にいる艦隊4隻は頭の切れる海賊首魁アルゴンの注意を逸らすための囮として行動する。

 

第1陣のユーリ艦隊は、要塞主砲射程のギリギリ外から遠距離攻撃を行い最初の耳目を集める。

 

第2陣のアルタイトは要塞周辺に散乱しているデブリ帯を利用して側面から接近し艦隊及び要塞へ向けて攻撃を行い、敵艦隊の注意を引く。

 

この2部隊が時間を稼いでいる隙に、先発したデイジーリップに乗る潜入部隊が要塞内部へ侵入。人質の解放と要塞主砲のエネルギーパイプを破壊して無力化したのち残敵を掃討する。

これが我々が立てたファズマティ攻略作戦の内容である。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

メテオストームを超えた艦隊は三手に分かれて行動を開始した。

 

デイジーリップ号は操縦がピーキー過ぎてトスカ以外の人間には扱えないので、必然的に彼女は潜入部隊となった。後はそれぞれの艦隊から白兵戦に自信のある連中を乗せている。のだが・・・

 

「何で私までこっちなんだ。」

「そりゃあうちで一番白兵戦能力が高いのは艦長ですからね。」

 

確かに私サイボーグだからそこら辺の人間より強いけどさ。

最初はアルタイトで指揮を取るはずだったのが、イネス君を助けた時のあれを見た連中が当然の様に私を潜入メンバーに入れていたのだ。仮にも艦長なのだが、船から放り出されて敵要塞に送り出される艦長ってどうなのよ。

 

 

「それとエドワード、もう少しそっち寄ってくれ。ちょっと体勢が悪くて足が疲れる。」

「そうは言いましてもこっちも限界なんで。」

 

ちなみに戦闘経験の浅いエドワードが何でここに居るのかというと警備システムのハッキングなどの為のエンジニアが必要という話となり、必然的にその手の事が出来て海賊の拠点まで乗り込めるのはコイツしか居ないため連れてこられたのだ。リヒャルトは流石に歳だからな。

 

 

「ちょっと、ヘタにそこら辺のスイッチ触るんじゃないよ。」

 

ちなみに現在、デイジーリップ号のブリッジは所狭しと人が詰め込まれていた。ブリッジだけでなく貨物室から機関室まで至る所に人が押し込まれている。

 

というのもあの要塞内部は広い上に人質の救出とエネルギーパイプの破壊という二つのミッションを同時にこなす為にどうしても人数が必要なのだ。この船の最大定員は150名だが今はそれの4倍の600名が乗り込んでいる。流石に狭い。

 

そういえば、誰かがクソ広い部屋の次はすし詰めかとか騒いでいたな。

 

「まぁすぐの辛抱ですから。」

「全く・・・煙草吸っていいか?」

「この船は全面禁煙だよ。」

「ちぇ。」

 

早く着かないかな。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

トスカの操船は中々巧みなモノで上手いことデブリに紛れ込み敵に察知される事なく、要塞外壁へとたどり着いた。丁度ユーリ艦隊が要塞へ向けて攻撃を開始した所であり、要塞へ接舷する際には向こうへ注目が集まっていたので気づかれる事は無かった。

 

「上手いもんだ。」

「まぁね、これでも色々こなしてたんだ。これくらいは朝飯前だよ。」

 

狭い艦内から無機質な要塞へと降り立つ。内部の空気はどこか澱んでいて薄らと埃が積もっていた。長い間誰も通っていないのだろう。警備の目もない。

 

その壁の端末にエドワードが自分の携帯端末から伸びたコードを繋いで操作するとあっさりとドアが開いた。

 

「この要塞の監視カメラの映像をクラッキングしておきました。1時間程度ならバレないでしょう。」

「では俺たちはエネルギーパイプの破壊に行きます。」

「気をつけてな。」

 

エネルギーパイプの破壊に向かったのはランディ率いる300名、武装の他破壊工作用の爆発物を持っている。今は主計官をやってはいるが、あいつも歴とした軍人なので戦闘指揮や火器などの取り扱いには慣れている。

 

彼等を見送った私達は、別のドアから要塞へ入る。メンバーは私やトスカ、技術担当のエドワードにディエゴ、ダスティなどの元海賊や軍人、それに今回出番のない艦載機連中も動員されている。

 

「地べたで戦うのは俺の趣味じゃないぜ。」

「その割には随分気合が入っているじゃないか。」

「あたぼうよ、これから俺達は海賊に囚われた可哀想な人々を助けるんだ。当然その中には容姿麗しいご婦人方も多数いらっしゃるだろう。海賊の魔の手から助け出さなければなるまい!そして御礼に俺と甘いひと時を過ごして―――。」

「相変わらずだなお前は。」

 

ブレないなぁコイツも。

 

「お前らも皺がれたおっさん助けるよりも可愛い子助ける方がやる気が上がるだろう?」

「こら、純真な少年達を悪の道へ引き摺り込むんじゃない。」

 

話を振られたエーミールら少年パイロット達は苦笑いを浮かべている。

 

「悪とは酷いじゃないか。俺はきちんと正面から女を口説き落としてるんだ。暴力に訴える海賊なんかと一緒にしないで欲しいな。」

「お前さんの場合節操が無さすぎるんだよ。」

「何おう!?」

 

ダスティの言葉に怒るポプラン。そんなに節操無しに手を出しまくって、艦内で男女間の揉め事とか起こさないでくれよ。あの手の問題は本当に尾を引いて面倒になる。

 

「お前らも見習う所とそうでない所は区別しろよ。」

「「は、はははぁ〜・・・。」」

 

私の忠告に取り敢えず分かった感を出しておくエーミール達。

全く、何であんな奴がエースパイロットなんだ?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

データをクラッキングして監視を掻い潜りつつ、時折出会う海賊をサイレントキルしているとついに目的の施設へとたどり着いた。

 

「あれが収容所か。」

「あそこにいるのは、殆どが鉱山労働の為の男性だそうです。」

「だからアイツ途中で別ルートへ行ったんだな。」

 

ポプラン率いる部隊は、途中で分かれて別ルートへ向かった。

今目の前に見えている掘立て小屋は多くが採掘の為に強制的に働かされる男達の収容所で、海賊達が慰み者にしている女性達は別の場所に捕らえられている。

ファズマティは、巨大な資源デブリを元に作られた要塞なので、要塞の中心には多数の資源を持つ小惑星が存在する。そこから資源を採掘するのに奴らは捕えた人々を強制労働させているのだ。

 

反乱や脱走を防ぐ意味で、収容所はこの2箇所しか無い。どの道どちらも制圧しなければいけなかったんだが、ポプランは真っ先に向こうへ行ってしまった。

 

「っていうかきっちり男女別に分けているんじゃないんだな。」

 

その収容所のデータを見ると男性の他に何人か女性もこの採掘場に捕えられている事が分かる。

 

「そこら辺の事情は分かりませんね。」

「大方何か碌でもない考えだろ。」

 

トスカの言葉に黙って頷く。考えるのも嫌になる卑下た理由に決まっているだろう。

 

「にしても案外見張りがいないね。周りで採掘している様子も無いし。」

「外の陽動が上手くいっているんだろう。殆どが外壁の近くで戦闘をしているから見張りも最低限しかつけていないんだ。」

「作戦が上手くいっている証拠だね。」

 

見張りも全員で10人だけである。しかも食事中らしく全員が武器を置いて飯を食べていた。多分トマトスープの缶詰だ。

 

中にマカロニやちょっとした野菜が入ってて温めるとトマトスープになってそのまま飲める奴で、メーザーブラスターを撃ちまくって温めた缶詰を開けて、美味しいって食べていたかなり衝撃的なCMで宣伝されていたのでよく覚えている。

 

「どうするんだい?」

「コイツを使ってみるか。」

 

そういって私はバックから何かを取り出す。小さなガスボトル状のそれは無数のドクロマークと警告が書き連ねられており、一目でやばい奴とわかる代物だ。それとガスマスクを一つ。

 

「なんだい、その見るからに危ないモンは?毒ガスでも使うつもりかい?」

「似たようなもんだ。」

 

ガスマスクをトスカに渡すと私は死角から見張り共のすぐ近くへ隠れる。すると呑気に談笑する連中の声が聞こえてきた。

 

「で、お頭の話じゃいざって時ここの連中を人質にするんだとよ。」

「ホーン、それで連中は降伏するのかね?」

「多分降伏するだろ。アンリトゥンルールに従ってる連中なんだから。」

「へ、人質がいるから攻撃できませんーってか。どんだけ馬鹿なんだよそいつら。」

 

ギャハハと下品な笑い声を上げながらそんな事を言っている奴らの真ん中目掛けてガスボトルを放り投げる。

 

「なんだ?うわッツ!?」

 

突然ボトルから真っ赤なガスが噴出してたちまち見張り達を覆う。

 

「がはッツ!?ゴッホ!?」

「喉が焼けっ息がッ!?」

 

ガスを吸い込んだ連中は呼吸できないほどの呼吸器系の痛みを訴えもがき苦しみながらのたうち回っている。目には涙を浮かべており、身体中が高熱を出したかのように汗を出している。

 

しばらくしてガスが霧散し視界が晴れる。するとそこには身体中から液体という液体を流して地面に倒れ気絶と覚醒を繰り返して必死に呼吸しようとする海賊達の姿があった。

そいつらを手早く縛って通信機や武器を取り上げ口を塞ぐ。下手に大声出されても困るからな。

 

「一体どんなガスだいこれ?」

「例のホットを気体にしたやつだ。」

 

ガスボトルの中身は気体と化した殺人ドリンクことホットドリンクである。制圧用にとエドワードが作った奴で、それを説明された一同はその非人道的兵器の誕生に恐れを抱いた。

元となるソースをスプーン一杯口にしただけで舌が焼け悶え苦しむ地獄のソースが、飲み物と化し更にそれが気体化したものを直接呼吸器内に取り込んだのだ。まさに地獄の様な苦しみに違いない。

 

「・・・艦長大丈夫ですか?」

「何がだ?」

「いえ、さっきからどうして泣いているのかと。」

「・・・ちょっと吸った。」

「あぁ。」

 

いくらサイボーグと言えガスマスク無しでは耐えられなかったようだ。さっきから涙が止まらない。やっぱりガスマスクを貸さなきゃよかった。

 

「そんな事よりさっさと人質を解放しよう。」

 

キーカードを挿入し収容所の扉を開ける。中にいたのは小汚い作業服に身を包んだ男達だった。全員瘦せておりあまり食事も与えられていなかったらしい。

武装した人間が突然入ってきたものだから彼らは皆怯えた目で私を見ている。まぁ軍隊の制服とか来ている訳じゃないから一般の航海者と海賊の見分けがつけられないんだろう。

 

「後ろ!!」

「―――――!?」

 

その声に振り返った途端男がスコップを両手で振り上げて今まさに振り下ろした所だった。

 

「うあぁぁぁああああ!!」

「くうっ!?」

 

スコップの先端が頭に当たる直前に何とか柄を捕まえ動きを止める。

 

「落ち着け!私らはスカーバレルじゃない!!あんた等を助けに来たんだ!!」

「た、助けに・・・。」

 

それを聞いた男の肩から力が抜けスコップが手から滑り落ちてガシャンと音を立てる。周りの人間もその言葉にどよめき立っていた。

 

「本当に・・・本当に助けに来てくれたのか?」

「あぁ、その証拠に見ろ。」

 

そういって私は外で縛られて転がっている海賊達を指さす。それを見た彼らは驚きと喜びの表情を浮かべた。

 

「本当だ、本当に助けが来たんだ!!」

「しー!あまり騒ぐな!連中にばれる!」

 

もろ手を挙げて騒ごうとした男達を慌てて止める。見回りやうろついている連中がいる可能性だってあるんだ。下手に大声出して気づかれたらそれこそ大変な事になる。

 

「す、すまねぇ・・・。」

「謝罪はいいからさっさと逃げるぞ。うちの仲間が案内するから、急げ急げ!」

「あぁ!ありがとう!」

 

そう言って収容所から出て安全な所へ隠れる為移動を開始しようとした時、取り上げた海賊の端末から突然コール音が鳴る。

 

「え!?通信!?」

「ちょ!どうすんだよ!?出なきゃやばいぞ!」

 

私達がオタオタしていると、ディエゴが通信を掴んで繋いでしまった。

 

「どうしたんでヤスか?」

『・・・誰だお前。』

「やだなぁ俺ですよ俺。あ、さっき端末をスープに落としちまったからどっか壊れたかも?」

『・・・まぁいい、それよりも例の準備をしろ!』

「あー、何でしたっけ?」

 

おどけていうディエゴに端末の向こうから声が聞こえる。

 

『テメェ酒飲んでやがるな!何度も言わせるな!人質だよ人質!!そこにいる連中を適当に並べて映像を送れ!!』

「適当にあいつ等並べて置きゃあいんすね!わかりやした!」

 

そう言って通信をぶった切るディエゴに一同はほっと胸を撫で下ろす。

 

「流石は元海賊、海賊のフリがうまい。」

「あー、なんかこいつらと一緒にされると嬉しくねぇな。それよりどうすんだよ?他の連中まだ作戦が終わってないって言ってるぜ。」

「え!?」

 

もしここで彼らが逃げた事をアルゴンが察せばすぐさま追撃があるだろう。おそらく奴らにとって人質は一番強力なカードで、これを失うのは何としても避けたいはずだ。対して人質を守りながら海賊を蹴散らすような特殊部隊染みた行動はうちのクルーに軍人が多いとは言え不可能だ。彼らだって元特殊部隊なんて奴は居ないだろうしな。

 

しかも悪い事にポプラン達が向かった女性の収容所というのが外壁からそう遠くない場所にあるのだ。幸いというか女性の方にはその手の命令はいっていないらしい。多分、女より男の方が価値が低いからそちらから手を出すつもりなのだろう。

 

どんな価値かは考えたくも無いが。

 

さっきの連中には悪いが収容所前の土の上に集まって座ってもらい、何人かに見張りから剝ぎ取った服に着替えてさながら捕らえた民間人を取り囲んでいる風に演出してもらう。

ディエゴを始め服を着た奴らが服についていたガスの成分で目が痛いとか言ってたので、ガスマスクをかぶせておいた。若干怪しいけど行けるかこれ?

 

「監視カメラの映像戻します。」

 

エドワードが監視カメラの映像を偽の映像から元の映像に切り替える。途中調子が悪い振りをして集合する様子が丁度映らないようにしておく。正直な話結構怪しいと思うんだが、向こうから海賊が来る気配が無い為とりあえず偽装は成功したらしい。

 

「早いとこ終わらせてくれ。」

 

残りの連中からの連絡を待ちつつ、物陰に潜んでカメラから映らないようにする。だがその期待を裏切るようかの如く、他の部隊よりも先に海賊から連絡が来た。

 

『おい、ボスからの合図があったら適当な奴を一人カメラの前に立たせろ。』

「何かやるんですか?」

『連中に見せしめとして一人ずつやれって指示だ。しっかりやれ!』

「分かりやした!」

 

威勢のいい返事をして通信を切るディエゴ。

 

「(っつってもどうするんだよ?)」

 

返事をしたディエゴは自らの頭を高速回転させる。まさか本当に人質を殺す訳にも行かず、かといってここでうだうだやっていれば怪しんだ海賊がこちらへ来るかもしれない。

 

などと逡巡していた所、突然放送が流れる。話からしてアルゴンと船に残って指揮を執っているベルトラム達の会話らしい。わざわざこれを要塞に流すあたりアルゴンという男はよっぽど性格が悪いのだろう。

 

カメラで見ている海賊達にばれないよう人質から哀れな犠牲者を選ぶ海賊の振りをしながら必死で対応策を考えていると、人質の中からちょいちょいと手招きする手が見えた。

 

「(・・・何やってんだあいつ?)」

 

それは自分達の船の艦長ことシーガレットである。いつの間にか服も人質達が来ていたものと同じものを着ている。体格のいい男を利用してカメラの死角を作りそこからジェスチャーで何かを伝えている。

 

「(私の・・・左胸を・・・撃て?)」

 

唐突なジェスチャーに困惑するディエゴ。だがここで不審な行動を取る訳には行かない為、彼はゆっくり歩いてシーガレットに近づく。

丁度人質の男達がカメラの陰になるように動いてくれた為、死角から小声で喋る。

 

「おいどういう意味だ。」

「いいから私を連れて行って左胸を撃て。間違えるなよ、こっちだぞ。」

「そんな事したらやべぇだろ?」

『おいどうした?何かあったのか?』

 

向こうからの通信が来たため会話を打ち切る。仕方なく彼は言われた通りシーガレットを連れ出してカメラの前に立たせる。ウソ泣きまでしていてさながら迫真の演技だが、これからどうするつもりなのか全く分からずにいた。

 

『―――――――ワシらが本気である事をお前に見せてやろうと思っての。』

 

気色の悪い笑い声を聞きながら、シーガレットに銃を突きつける。狙いはぴったり心臓だ。

カメラの陰では飛び出しそうになっているエドワードを必死で止めるトスカの姿が目に入る。

 

「(あいつがどんな身体してるか知らんが、サイボーグって言ったって心臓ブチ抜かれりゃ死ぬんだぞ?まさか代わりに犠牲にでもなるつもりか?)」

 

元々はあまり仲が良い訳では無かったが、ここまで生き延びてきた仲間をこんな奴を喜ばせるために引き金を引けるような薄情な人間では無い。そんなディエゴの心境を知ってか知らずかシーガレットは必死に命乞いをする。だが無情にもアルゴンは笑いながらパチンと指を鳴らした。

 

「(えぇい!死んでも責任取らねぇぞ!!)」

 

指示通り、ディエゴはシーガレットの心臓目掛けてブラスターの引き金を引く。

 

その照準は狂い無くシーガレットの胸を撃ち抜き、撃ち抜かれた彼女は力無く地面へ倒れる。真っ赤な血が胸から流れ出していきみるみる内にその地面と体を赤く染め上げる。

 

「(糞ッ!)」

 

瞬きさえしない彼女の顔を見て心の中で悪態をつくディエゴ。そこで唐突に要塞が揺れを感じ空を見上げる。

 

「(遅いんだよ畜生め!!)」

 

この爆発がエネルギーパイプの爆発と気づいたディエゴはそう心の中で悪態をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いんだよ畜生め!!」

 

そしてその悪態と全く同じ内容を叫ぶ声を聴いて彼は視線を地面に戻す。そこで見たのは真っ赤な血で染まった服をはたきながら”立っている”シーガレットの姿であった。

 

「な、なんでお前!?」

 

ディエゴの疑問に答える前に、私は胸の中から大量の服と金属板、それにくるまっていた例のトマトスープ缶を地面へ放り投げる。

 

「ちょっとCM見て思いついたんだ。」

 

当然これには種がある。メーザーブラスターはマイクロ波の照射によって水分子を加熱し焼き切る為、艦内の隔壁にはあまりダメージを与える事は無い。そこで掘っ立て小屋から引っぺがした金属板を2、3枚胸の奥に仕込んで布を入れ、血が出るように見せかけるためトマトスープを仕込んだのだ。缶詰には前もって穴をあけておけば沸騰して膨らんだトマトスープは布から漏れて血のように出てくる。

 

しかも仕込んだ金属板によってメーザーの威力は減衰するから、身体構造が頑丈に作られたサイボーグが食らっても歯を食いしばれば耐えられる程度の威力に減衰する事が可能だ。後は外から分からないように布でうまく形を整えてやれば多少歪な巨乳にしか見えない。

ちなみにただの人間がやったら命中個所を中心に火傷すると思う。死ぬレベルで。

 

もちろん机上の空論でぶっつけ本番でやった事なので、熱いスープに耐えながら地面に倒れる形になって皮膚とかめっちゃ痛いし、人質の何人かが服を引っぺがされて上半身裸になっているが、そんな些細な事はどうでもよい。

 

「この隙に逃げるぞ!急げ!!」

「お、おう!」

 

彼らが走り出すのと要塞にアルゴンのヒステリックな叫び声が響くのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

「さっさとあいつ等を殺してしまえ!!」

 

ブリッジでシーガレット達の様子を見ていたアルゴンが叫ぶ。自身の秘策を台無しにされ、人質を連れて逃げる彼女等を怒りに満ちた目で見つめる。

 

『ふむ、素晴らしいようで人質は解放されたようだ。ではこれで失礼させて貰おう。』

「き、きさまぁ~!!!」

『そういえば一つ答えるのを忘れていたが、俺は艦長じゃない。今頃あんたの大事な人質を逃がしている所さ。』

 

ベルトラムのホログラムがアルゴンの怒りを表すように激しく乱れて消える。

 

「要塞主砲であの船を吹き飛ばせ!!」

 

口から泡を飛ばしながら命令するアルゴンに対し、要塞制御室から悲痛な叫びが届く。

 

『ダメです!エネルギーパイプをやられました!要塞主砲は撃てません!!』

「なんじゃと!?」

「お頭!敵の船がこっちへ来やす!」

「何!?」

 

見れば今まで対空戦闘を行っていたアルタイトが回頭し、アルゴン艦隊へと船首を向けていた。あれだけ居た艦載機はその大半を失いバラバラになって要塞へと逃げ帰っている。

 

「敵艦のエネルギー量増大!こいつはやばいぞ?!」

 

敵艦のエネルギー量を計測するメーターが見た事もないような数字を弾き出した事に焦って叫ぶオペレーター。

 

「回避機動!」

「アイサー!!」

 

アルゴンが命令を下し、海賊艦隊はTACマニューバパターンを入力し回避機動を開始する。

そこへアルタイトから砲撃が放たれた。艦首のクラスターレーザーに加え、前方に指向可能な巨大な砲台すべてから砲撃が放たれたのだ。弾幕の様な砲撃が艦隊を包み込むように放たれ、海賊船が次々とレーザーの光に貫かれ轟沈していく。

 

「な、なんてこった・・・。」

 

オペレーターがレーダーマップ上に移る味方の艦隊のシグナルを見て絶望する。20隻以上居た味方のシグナルが減り、その数は11隻となっていた。前衛にいたオルドーネや多数の駆逐艦と水雷艇が一度の斉射で宇宙の塵となったのだ。

アルゴンはその光景を見て数瞬開いた口が塞がらなかったが、その脳をフル回転させて、部下に命令を叫ぶ。

 

「生き残った船はすべてあの巨大船に突撃じゃ!!」

「な?!そんな事したら全滅ですよ!!」

「艦の性能では勝てんでも白兵戦ならまだ勝機がある!あの巨体じゃ!取りつくのは簡単にできる!このままいても奴のレーザーで沈められるぞ!!」

「あ、アイアイサー!!」

 

命令を受けた海賊船は旗艦から発せられたその命令に従い、砲撃しながら突撃を開始した。陣形など何もなく、生き残るために我武者羅に突撃する。リミッターを強制解除してエンジンの出せる限界の速度で加速した。

 

「主砲発射!ミサイルもすべて撃ち尽くせ!!」

 

グロスター級に搭載されていた大型レーザー砲から強力なレーザーが放たれミサイルやその他の砲も次々と発射されていく。それに続いて他の艦も射程に入り次第ありったけのレーザーやミサイルを放つが、大半が諸元も何もなくただ恐怖から引き金を引いているだけで明後日の方向へ飛んでいく。

運よく命中した数発のレーザーは強力なAPFシールドで弾かれ彼らを更に死の恐怖へと陥れていた。

生き残ったゲルドーネから発射された大量のミサイルも対空クラスターレーザーや迎撃ミサイルで次々と叩き落されていくが、その対応をしている隙に艦隊はどんどん距離を縮めていく。

 

「て、敵艦よりミサイル発射を確認!!」

 

ゲルドーネのミサイルが迎撃されつくすとお返しとばかりにアルタイトの各所より大量の対艦ミサイルが発射される。ゲルドーネが発射したよりもはるかに多いそのミサイルは、すべてがヤッハバッハ帝国ご自慢のクラスターミサイルであり、更に複数に分離することでその数は更に増えていく。

レーダーを埋め尽くさんばかりの大量のミサイルの表示にオペレーターは顔を青く引きつらせる。

 

「どうしやすお頭!?・・・あれ?」

 

彼が艦長席を振り向いたとき、そこにいるはずの人影は無くただ無人の艦長席が一つポツンと存在するのみであった。

周囲を見渡すが彼らのボスの姿は無い。

 

「野郎逃げやがったッ―――!!」

 

彼が自分達のボスが既に脱出艇に乗り込み逃げ出した事を悟るが、時すでに遅し。

大量のミサイルが艦隊へ着弾し、次々とインフラトンの火球が宇宙を照らす。それはこのグロスターも例外では無く、デフレクターが限界を迎えシールドが消えた途端にミサイルが船体に着弾し装甲版を引きちぎる。そして空いた穴に更に多数のミサイルが着弾し、ボスが逃げた事を知ったブリッジクルーは、哀れにもかつての使命と相反する道を歩まされたグロスター級と共にインフラトンの火球と成り果てた。

 

 

 

 

 

 

「ホーホイ、やられちまった。こりゃ逃げるに限るってもんだ。」

 

そうして一人脱出艇に乗り込んだアルゴンはいまだ仲間が残っている要塞へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

「どうにか片付いたな。」

 

沈んだ敵艦隊の残骸を見てベルトラムは周囲に悟られぬように息をついた。流石にあの数の海賊船が死に物狂いで突撃してくるのには冷や汗が出た。何せ今のアルタイトには満足な白兵戦要員が居ないのだ。

 

万が一にも船が乗っ取られたら作戦の根幹が崩れて一気に流れがあちらへ傾く。海賊を討伐するどころか生き残る事すら怪しい。

 

「後はあの要塞か。」

 

そういって戦域図を出すとこちらと反対側のユーリ艦隊へと向かった敵も既に撃沈もしくは大破した状態となっていた。

 

「向こうも片付いたか。よし、これより敵要塞へ入港し、味方の救出にかかる!」

 

要塞を脱出しようとしている彼らを救うためにアルタイトはその身を要塞の入港ドックへと向けた。エネルギーパイプが破壊されている為、要塞からの攻撃は無かった。

 

ドックの入り口はゲートで閉ざされていたがそれをミサイルで粉砕し内部へ突入する。接岸用アームが船の入港を阻止しようと伸ばしてきたが、そんな細腕ではこの大質量の戦艦を止められるはずもなくあっさりと入港を許した。

 

「一斑はドック管理センターと周辺の制圧!二班は味方の救援へ迎え!残りは船の防衛だ!!銃も剣も爆発物も使える武器は片っ端から使え!!」

 

ベルトラムは大きく数を減らしたクルーを3つに分けそれぞれに指示を出すと、自身もブラスターを握り締めブリッジを後にする。

 

 

 

かくしてファズマティ攻略戦は最終段階へと移行した。

 

 

 

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