「撃て!撃てぇ!!奴らを逃がすな!!」
「撃ち返せ!ここを突破されたら終わりだぞ!!」
ファズマティ内部の通路では激しい白兵戦が行われていた。要塞通路の一つである第6通路では、潜入部隊や捕まっていた民間人達と海賊による激しい攻防が繰り広げられていた。
「武器庫が近かったのが幸いだな!」
「その所為で追いつめられたんじゃないのかい!!」
例の採掘場からアルタイトが待っている港への最短経路は別の通路だったのだが、海賊との戦闘を考慮し近くに大量の武器庫があるという情報を得た私達はそちらへ向かったのだ。
武器庫を確保し全員では使い切れないほどの武器弾薬を入手した所で、同じく武器を取りに来た海賊に見つかり現在は互いに即席バリケードを築いて戦闘をしているという訳だ。
「えぇい!撃っても撃っても敵が減らない!しつこい男は嫌われるよ!!」
「誰かエネルギーパック持ってこい!!」
「よく狙え!一人ずつ確実に倒すんだ!!」
「数が多すぎんだよ!!」
銃声と怒声と悲鳴が第6通路に響き渡る。私達はもちろんのこと捕まっていた民間人達もライフルやブラスターを撃ちまくって海賊を倒していくが、海賊達がこの通路に集中しているのか倒しても倒してもキリがないのだ。
「ワッカーだ!!」
誰かが叫んだその声に私は上を見上げる。この通路は広さもさることながら高さも相当ある。その通路の天井すれすれを何かが飛んでいた。四角いオープントップの車体に反重力装置を備えたそれは、もともとは高所作業や高低差がある場所での移動手段に使われるワッカーという飛行装置で5~6人ほどを運べる能力がある。
そのワッカーが2機、天井すれすれを飛びながら車体から身を乗り出した海賊達が手持ちのライフルで銃撃してくる。
「ぎゃああぁッ!!?」
「一人やられた!!」
「!?爆弾だ!!逃げろ!!」
誰かの金切り声と共に爆発が起きる。何人か吹き飛ばされて宙へ舞っているのが見えた。丁度民間人が固まっていた場所に手榴弾を投げ込まれたようで、爆発の中心では炎が燃え盛り周囲には人のパーツが散乱している。そばにいた味方がその惨状を目の当たりしてパニックになりバリケードから身を出した所為で銃撃を受けて物言わぬ屍と化した。
「どけぇ!!」
私は近くにいた仲間に叫ぶと両手に抱えていた銃を構える。それは銃というにはあまりにも巨大なものだった。大人2人分はあるんじゃないかという銃身とむき出しの配線や冷却チューブの先はトラックに繋がっている。
それの正体は車載タイプの超電磁砲だった。何故か武器庫に転がっていたので、引っ張り出してきたそれをエドワードが間に合わせの配線をトラックのジェネレーターに接続し作り上げた即席の電磁速射砲である。
ジェネレーターからエネルギーが供給されいつでも発射できるようになったレールガンの照準を空中にいるワッカーに合わせて引き金を引く。
ガジュン!ガジュン!という特徴的な音と共に電磁力によって連続で放たれた砲弾は、ワッカーに乗っていた海賊ごと貫通して天井に穴をあける。撃ち抜かれたワッカーが爆散し、慌てて引き返すもう一機に向けて5発くらい連射すると敵のエンジンにでも掠ったのかコントロールを失ってそのまま錐もみ状態で落下し、バリケードの反対側から銃撃していた海賊達の所へ落ちて爆発した。
「いやっほぉー!」
「ざまぁ見ろ!!」
それを見た味方が歓声を上げる。反対に海賊達は撃ち落とされたワッカーと、レールガンを担いだ女の登場に動揺しているのが分かる。
「やるもんだ!あんた本当に人間離れしてるね!!」
「半分人間やめてるもんでね!」
「そんなデカい銃持ってる奴は半分どころか全部人間やめてんだよ。」
「いっその事両腕レールガンにしましょうか?」
「アホな事言ってないで弾入れろ!!」
こうして何とか防衛に成功してはいるが既に味方に多数の死傷者が出ている。戦闘が長引けば練度と数で劣る我々がどうなるかは分からない。
「敵はビビってるぞ!!このまま片付けてしまえ!!」
「それはどうかな?」
突然向こうから不敵な声が響いてきた。不自然に海賊からの銃撃が止んだのでそちらを見れば真ん中に一人の男が立っておりこちらを睨みつけている。
「誰だあいつは?」
「バルフォスだ。隣のライッツォで好き勝手やってた海賊の頭さ。」
「あ~あの、ユーリ君に負けた海賊か。」
「負けておらんわ!!」
顔を真っ赤にして憤慨するバルフォスだったが、すぐにその表情を薄ら笑いに切り替えると高らかに宣言する。
「お前達に降伏する機会をやろう。今なら命だけは助けてやるぞ?」
「ほーん、わざわざ降伏を進めてくるなんて一体どういう風の吹き回しだ?」
「くっくっく。既にお前達は完全に囲まれておる。この状況でどうやって生き残るつもりだ?今ならワシに土下座で許しを請えば助けてやるぞ?」
「もし断ったら?」
「お前の目の前で仲間の皮を一人ずつ剝がしていってやろう、もちろん生きたままでな!!」
「そうはさせないぞ!バルフォス!!」
新たに別の、聞き覚えのある声が響き渡る。見れば両者の間にある脇道へ入るドアから一人の少年が現れた。
白髪の若さと正義に燃えたまっすぐな瞳でバルフォスを睨みつける少年の名はユーリ。
そしてその後ろからも彼の仲間達やベルトラムやランディといったこちらの船の仲間達も居た。こちらが不利な状況にあると知って駆けつけてくれたのだ。
怒りに燃える彼の目を見ても、バルフォスはその不敵な態度を変えずにフンと鼻を鳴らす。
「ほう、小僧か!のこのことこの要塞にやってくるとはよほどワシに殺されたいらしいな!」
「黙れバルフォス!お前の所為でどれだけの人が苦しんだと思っているんだ!!」
「フンッ!この宇宙は弱肉強食よ!力のない奴は死んでいく!ただそれだけだ!!」
「知ったような口を!」
そういってユーリ君は腰に差していたスクリーフブレードを抜く。
「はッ!小僧!!貴様にこのワシが斬れるか?」
「あぁ、斬るさ―――ティータの兄さんやお前によって犠牲になった人達の為に!!行くぞ!!」
その言葉が戦闘再開の合図だった。ユーリ君達が突撃を開始し海賊達を蹴散らしていく。さらにユーリが出てきたドア以外からも左右から次々と出てきた味方が側面から銃撃を浴びせ、海賊達がなぎ倒されていく。
「こっちも行くぞ!!」
向こうの攻撃に合わせてこちらも海賊達へ向けて突撃を開始した。私はレールガンを放り投げると近くにあったメーザーライフルを手に先頭へ躍り出て、ライフルを乱射しながら隠れている海賊ごとバリケートを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた海賊達が宙を舞い、障害物が排除された事で突入路ができた。
「あっはっはっは!豪快だねぇ!!」
「行け!!行けッツ!!ここに攻撃を集中しろ!!」
「「うおおおおっつ!!!」」
バリケードの穴から次々と味方がなだれ込み、海賊達に向けてメーザーや銃弾を発射する。負けじと海賊も応戦するが、今まで海賊に受けた仕打ちに対する復讐心に燃える民間人達が我先にと突入し銃身が焼け付きを起こすほどの乱射を浴びせバタバタと地面に倒れていく。
更に焼け付きや弾切れを起こしてもライフルを棍棒のごとく振り回し、次々と目の前に迫った死と海賊達を殴り倒す彼らの怒気に圧倒された海賊は我先にと逃げ出し始めた。
「逃げるな腰抜け共!!奴らを殺せ!!」
私がエネルギーが尽きたライフルで目の前の海賊を殴り倒した時、目の前に逃げ出す海賊に向けて叫ぶバルフォスの姿を捕えた。
「バルフォスッ!!」
そこへ同じく突撃してきたユーリ君が叫びながら飛び込んでいく。バルフォスは彼を撃ち殺そうとメーザーブラスターを向けるが、それよりも早く彼のスクリーフブレードがバルフォスの体を切り裂いた。
「ス・・・スクリーフブレードだとぉ!?」
その言葉を最後にバルフォスは驚愕の表情を浮かべながら地面へと倒れる。まだ応戦していた海賊達もバルフォスが倒された事で戦意を失い一斉に逃げ出した。
「逃がすな!!撃て!!」
逃げ出す彼らの背中に大量の銃弾が浴びせられる。第6通路全体に銃声と悲鳴が響いた。
銃撃が収まった後、そこには大量の海賊達の屍が転がっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「やったぜユーリ!!―――ってどうした?顔が青いぞ?」
肩で息をする彼の顔は青く、その表情は暗い。
「こんな・・・嫌な感触・・・僕は―――」
「いいんだよあれで。敵は確実に仕留めておく―――それがこの星の海で長生きする秘訣さ。」
彼にとってこれが直接殺した最初の人間だった訳だ。そういえば私もかつての仲間を殺した時、その手についた嫌な感触が忘れられなかった。
ふと、自分の右手を見る。何人もの命を奪っているその手のひらには何の感触も無い、ただの手のひらだった。
「・・・。」
「どうしました艦長?」
「・・・いや、何か大切なものを失くしてしまった気がしてな。」
「・・・失くしたのなら取り戻せばいいですよ。」
心配したエドワードからの何の根拠もない場当たり的な慰めの言葉だったが、私にとってはそれでもかなり嬉しかった。
「さぁ、まだアルゴンが残ってる。急ぐよ!!」
トスカの言葉で合流した私達は、残りのアルゴンの元へと走り出した。
何度か遭遇した海賊達を排除しながらある部屋へ突入する。広いうえに髑髏の置物やらと邪悪な装飾が施されたこの部屋はどうやら海賊達の会議室だったらしい。その扉を蹴破って中へ入ると数名の海賊達が居た。
「おら!!」
ブラスターを構えようとした海賊目掛けてライフルを投げつける。高速で投げつけられたライフルは海賊の一人に命中し倒れ、それに気を取られた他の海賊は仲間達の銃撃を受ける。
「ぐあっ!?」
銃撃を受けて倒れる海賊達。その中で武器も構えず頭を抱えて伏せている人物が居た。スカーバレル海賊団の首魁アルゴン・ナバタスカである。彼は部下がやられたとみるや否や血相を変えて両手を上げる。
「ホヒィ―――ッツ!!ま、参った、降参だ!いや停戦だ!!これからはもうお互い手を出さないという事にしようじゃないか。」
「なに虫のいい事言ってんだい。あんたが交渉できる立場だと思ってんのかね?」
「ま、待て待て!分かった!引退する!私は引退する!余生をどこか静かな星でのんびり暮らすからどうか命だけはッ!!」
「大人しくブッタ斬られちまえよ。それとも俺のブラスターでぶち抜いてやろうか?」
「ホヒィィィ―――ッツ!?」
「なぁ、こいつがあのスカーバレル海賊団のボスか?」
あまりの小者っぷりな命乞いに思わず疑ってしまう。ベルトラムを見るがホログラムの手配書を表示して間違いないと断言した。
バルフォスの方がボスの風格があったんだがなぁ。
「生かしておくの面倒くさいからブラスターでぱぱぱっとやって終わりでいいんじゃないか?」
「ホアアーッ!?そりゃ殺生というもんだ!こんな老人を撃ち殺そうとは、あんまりじゃないかね!?」
「ただの爺さんならためらうんだけどなぁ。」
私がさっさと終わらせるよう提案するとアルゴンが必死で反論する。ポプランの言う通りただの爺さんなら殺すなんて選択肢はまず出てこないんだが、こいつはやった事が事なのでどうあがいても生かしておく理由が無い。手配書にも生死は問わぬって書かれちゃってるしなぁ。
「命だけはって言っても後ろの方々が許してくれそうにないから無理だぜ。」
そういってディエゴが後ろを指さすと手に武器を構えた民間人達が殺る気満々で睨みつけている。
「そんな・・・まさか本気じゃあないだろう?この通り土下座でも何でもするから、どうか命だけはッ・・・」
言葉通りその場で土下座して必死に命乞いを続けるアルゴンに対し、周りの目線は冷たいものだった。そこで不意にユーリ君が口を開く。
「貴方をどうするかは後で決めるとして、先ずはゴッゾで攫った女の子を返してもらおう。」
「ゴッゾで・・・おおっ、ミイヤとかいう酒場の娘かね?」
そう、既にポプラン達は別の場所に捕らわれていた女性達を救出したのだが、その中にミイヤの姿は無かったのだ。探して回る時間も無かった為一度船に民間人を送り届けた所で船から来た味方と合流し我々の援軍に駆けつけていた。その為ミイヤの行方は現在もわかっていないのである。
ユーリ君の言葉に希望があると感じたのか先ほどより声が明るくなるアルゴン。何かが引っかかるような感覚がするがその違和感が分からない。
「それならこの部屋の奥に閉じ込めてある。ほれ、これが牢屋のカードキーだ。」
そう言ってアルゴンはユーリ君へ向けてカードキーを投げ、ユーリ君はそれをキャッチする。
「もちろん、その娘には傷一つ付けておらんよ。だからこれで―――。」
そういいながらゆっくりと後退るアルゴンを見てはっとする。
「ユーリ!そのカードキーはヤバい!!」
「え?」
トスカが叫ぶ。ユーリは混乱しながらもカードキーを捨てようとするが、その刹那―――
――ドオォォッツン!!
「うわぁあッ―――」
カードキーが爆発し周囲に煙とすえた臭いが立ち込める。
「ヒイィィィィホオオオォォォ!!、引っ掛かった!引っ掛かりおったわあッツ!!」
煙が立ち込める中、アルゴンの歓喜の叫びが部屋に響き渡る。
「ユーリッツ!!ユーリッツ!!いやあああぁぁぁっ――――!!」
「くそぉ!!」
叫ぶアルゴンを捕まえようとしたが、煙で視界が悪くその姿を捉えられない。彼の妹のチェルシー君の絶叫が部屋に響き渡る。こちらでは状況が全く掴めない。
「おっと、お嬢ちゃんには一緒に来てもらおう。」
「離して!ユーリが、ユーリが!!」
「落ち着きたまえ、あれはもう助からんよ。」
「ッツ―――!!」
アルゴンの囁きにチェルシーの表情が強張る。
「お嬢ちゃんには大事な人質になってもらおうか~。――――ホ?」
向き直ったチェルシーの手に握られたモノを見てアルゴンの浮かべていた嘲笑が固まった。それは、以前トスカが自分の身は自分で守るように言って持たせていたブラスターだった。
ブラスターはアルゴンの顎に突きつけられている。それを見たアルゴンは鼻を鳴らすがわずかに上ずっており、明らかに動揺と恐怖を感じている事が分かる。
「一体何をするつもりかね?お嬢ちゃん。」
「・・・。」
無言のままブラスターを構えるチェルシーに対し、アルゴンは体の温度が急速に下がるのを感じた。
「そ、その銃を降ろしたまえ。お嬢ちゃんに人は撃てんよ!」
「出来るわ。ほんのちょっと指をちょっと動かすだけだもの。」
「な!?」
感情の消えた顔と声で答えるチェルシーに対し、驚きのあまりアルゴンの眼が人体の限界まで開く。
「お、落ち着きたまえ!もしそれを撃ったら君はワシを殺してしまうんじゃぞ!?人殺しになるんじゃぞ!?」
「構わないわ。貴方はユーリに酷い事をしたんだもの。」
「まッ、待たれよ――――」
人を殺すことに全く抵抗を抱く気配の無いチェルシーに対し、何か言おうとするアルゴンだったが彼が言葉の続きを発するより前に、ブラスターの銃口が光った。
銃声が聞こえた所へ駆けつけると、チェルシーとそばで倒れていたアルゴンを見つけた。私は生気の無い目でぶつぶつと何かを言いながらブラスターを見つめる彼女に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「ユーリ・・・ユーリ・・・。」
「落ち着け!彼はまだ生きている!!」
私の言葉を聞いた彼女の目に光が戻る。
「ユーリは!?ユーリは生きてるのッ?!」
「怪我が酷い、早く治療しないと手遅れになる。今急いで船に運んでる所だ!」
それを聞いたチェルシーは担架に乗せられて運ばれるユーリの元へと駆け出した。
私はチラリと倒れているアルゴンを見つめる。一大海賊団と要塞まで作り上げ、最後の最後に私達を罠に嵌めユーリに重傷を負わせたこの海賊の首魁は、今はまるで糸の切れた人形のように床へ倒れている。ほんの数秒見た後、視界からアルゴンの死体を外して走り出した仲間達を追いかけた。
慌ただしく出港するユーリ艦隊を、私はファズマティの中央管制室から見送った。
ユーリの怪我は酷く彼の船の医療設備ではどうにもならないらしい。
私はドクターに連絡を取ったが、既にアルタイトの医務室は戦闘後の負傷者の治療で手一杯の為受け入れられないそうだ。息つく間も無く治療に当たっているドクターは、一言二言話した後ですぐに通話を切ってしまった。
断りの連絡を入れたとき一瞬トスカから殺気が放たれたが、イネスがボイドゲート近くで医療ボランティア団体であるメディックの船が活動していると報告をくれた。ここからメテオストームを超えて医療設備の整った星へ向かうよりも、ファズマティから延びる裏道航路を通ってボイドゲートへ向かう方がはるかに速い。それを聞いた彼らは急いで出港していったのだ。
残された私達に出来たのは彼の無事を祈る事だけだ。
「助かるでしょうか、彼。」
「助かるさ、きっとな。」
そんな会話をエドワードとしながら煙草に火をつける。アルゴンとバルフォスは討伐され、要塞に残っていた海賊の始末もつきつつある中、なぜ我々はまだこの要塞に残っているのか?それはある仕事が残っているからである。
「エネルギーパイプのバイパス工事完了しました。要塞全体へのエネルギー供給は無理ですが作戦には支障無しです。」
「分かった。」
突入戦で爆破したエネルギーパイプをわざわざ復旧したのは何故か。というのもそれが当初からの作戦だからだ。中央管制室には私やエドワードを始めとし、砲術科やオペレーターなどのクルーが集まっている。彼らは要塞機能の確認や操作マニュアルを読んだりしながらその時を待っていた。
ユーリ君達を見送った後、煙草が一箱分吸い終わり二箱目を開けようとした時、レーダで周囲を監視していたアズキから連絡が入る。
「艦長、接近する艦影を複数確認しました。」
「来たか。」
アズキの報告を受けて私は煙草の火を消すと吸殻を床に放り投げた。最後の大仕事、それは要塞の襲撃を受けて戻ってくるであろう海賊艦隊を殲滅する事だ。
アルゴンやバルフォスが倒されても、オズロンド方面に略奪に行った艦隊が沈む訳では無い。もし仮に海賊が戻ってくるまでにこちらが討伐を済ませ離脱したとしてもこの要塞がある限り、第2、第3のアルゴンが現れるかもしれない。それではゴッゾは海賊の手から解放される事は無いのだ。
だからこそ、いまだ大量の艦艇が存在するスカーバレル海賊団を文字通りの壊滅に追い込む為にはその艦艇を沈める事が必要だ。
ルー曰く、敵を分断しその片方ずつと戦って各個に撃破する事で、兵力の損耗を少なくしより勝利へと近づくことが出来る。常に敵に対し数の有利を持つことが兵法の基本である。――だそうだ。
今回は数の差が著しいので兵法の基本からは外れていたそうだが、要塞と艦隊の二つを同時に相手取るよりはるかにマシである。
「数はおよそ170隻、IFFはスカーバレルのものを示しています。艦種もスカーバレルのもので間違いありません。」
「あの時の観測結果より増えているな。」
「おそらく他の所へ略奪に行っていた艦隊も合流したのだろう。海賊団を構成する船が要塞に駐留していた艦隊だけでは無いはずだからな。」
ベルトラムの言う通り略奪の為にたまたま要塞を離れていたいくつかの艦隊が合流したのだろう。実は攻略の際にアルタイトが要塞へ砲撃を開始した辺りから通信妨害を仕掛けて要塞と艦隊との連絡は絶っていたのだが、どうやらそれより先に艦隊に帰還命令が出されていたらしい。
当初の予定では攻略した後、要塞の機能を復活させてから海賊の生き残りを脅して帰還するよう通信を送らせるつもりだったのだが、何とか敵艦隊の到着前に主砲の復旧が完了したので、脅す手間が減った程度に考えておこう。
無論艦隊の方も要塞との通信が途絶えて不審に思っているのか、先ほどから何度も通信が入っている。もちろんすべて無視だ。
「敵艦隊、要塞主砲の射程直前で停止しました。」
「警戒しているんだろうなぁ。」
帰還命令を受けて戻ってきてみれば、要塞と通信は取れず不気味なほど静まり返っている。警戒するのも無理はない。
「という訳でディエゴ、頼んだ。」
「またこんな役かよ。」
ぶつぶつ文句を言いながらも、先ほどからコール音が止まない通信機のスイッチを入れる。もちろん音声のみだ。
『一体何やってんだ!!なんで通信に出ない!!」
「それはこっちのセリフだ!!早く要塞にこい!!」
『おい、いったい何が起きている!?』
「小僧だ!例の小僧とその仲間がファズマティにカチコミかけてきたんだ!!(バシューンッ!)うわ――――」
―――ガチャリ、と通信機の近くで銃声を鳴らして通信を切る。
「うまいもんだ。お前さん海賊なんかより役者の方が向いてるんじゃないのか?」
「うるせぇよ元軍人。下っ端海賊の役なんかいらねぇよ。」
ベルトラムに茶化されているが本人にとっては不本意なようだが、単純に下っ端の真似しかしてないからだろう。この通信を連中が信じれば要塞内に突入し中の敵を殲滅しにかかるだろう。仮に信じずにあの場に留まるのならエルメッツァ軍に通報してやって艦隊を派遣して貰えばいい。
尻尾を巻いて逃げ出したら殲滅するのは不可能だが、本拠地を失って散り散りになった海賊がそこまで長続きするはずもないだろう。後は治安維持の方々のお仕事という訳だ。
これが、スカーバレル壊滅の為にルーが立てた作戦である。最も、当初の想定と異なる所もあるので各所で修正は加えられたが、ほとんどが彼の作戦通りに事が進んだ。
伝説の戦略家というのは伊達ではなかったようだ。
「敵艦隊動き出しました。全艦が要塞へ向けて動き出しています。」
どうやらうまく引っ掛かってくれたらしい。
「要塞主砲エネルギー充填開始。」
「要塞主砲エネルギー充填開始します。動力炉の出力上昇、コンデンサーへの充填開始。」
「各部発射前チェックシーケンス開始。」
「重力場偏差修正値プラス0,01、照準修正仰角プラス2度。」
「火器管制システム異常無し、主砲コンディションチェック・・・オールグリーン。」
管制室内に緊張が走る。艦艇のそれよりはるかに巨大で大出力な動力炉が出力を上げ主砲のエネルギーを充填する。その間にトーレスら砲術員達が主砲の最終チェックを行っていた。
「エネルギー充填率50%・・・60%。」
「敵艦隊の一部足が止まりました。反転し始めています。」
「気づかれたか。」
要塞主砲のエネルギー量の増大を感知したのだろう海賊達はその照準が自分達に向けられていると察して急ぎ主砲の射程から逃げようとする。細かなTACマニューバで躱せるような大きさではないから、彼らが生き延びるためには主砲の死角に入るか射程から逃れるしかない。
「やむを得ん。チャージ率80%になり次第発射、一番多く敵を巻き込めるポイントに発射しろ。」
「了解、照準修正俯角マイナス4度、左0,4度。」
「エネルギー充填率70%、72、73―――。」
徐々に充填されていき要塞主砲から漏れたエネルギーによってバチバチと光が漏れる。それを見た海賊達は我先にと撤退していく。
「――――――78,79、80%!!!」
「撃て!」
「発射!!」
トーレスが発射スイッチを押すとその巨大な砲口から光の柱が伸びてゆく。ただしそれは時折地上で見るような雲間から漏れる優しい光では無く、人体よりはるかに頑丈で過酷な星の海を渡れるように作られた宇宙船を紙屑のようにダークマターに変えてしまう巨大なエネルギーの塊だ。
必死に逃げる海賊達を光はあっという間に追いついて飲み込んでいく。
光に飲み込まれた海賊船は、APFシールドが限界を迎えてオーバーロードか緊急停止しシールドが焼失した船は瞬く間にその装甲を焼かれていく。そして装甲はすべて溶かされ装甲よりも脆く弱い内部モジュールとその中へいる人間に襲い掛かり焼き尽くしていった。ほんの数秒程度の出来事である。
「ちゃ、着弾を確認・・・すごい・・・。」
レーダーを見ていたスイカの声が漏れる。スイカだけでなく管制室で見ていた全員がその光景に衝撃を受けていた。
光の中とその周囲で多数の蒼い爆発が連続して起きている。
スクリーンの光量を調節していなければ、その眩しさのあまり目を閉じるだろう。
「敵艦隊の損害は?」
「は、はい!えっと、周辺に拡散しているインフラトン反応が多すぎる為少しお待ちください。」
「生きている奴だけでいい、レーダー上で何隻残っている?」
「レーダー上には・・・およそ60隻です!」
「60・・・。」
一撃で100隻以上の艦艇がダークマターへと還っていった。その威力には恐れを通り越して乾いた笑いしか浮かばない。
生き残った海賊達もまた、その凄惨な光景に対し茫然とそれを見つめる事しかできなかった。戯れで捕まえた人間を処刑するのに使い古した船に詰め込んで主砲の餌食にした事はあったが、自分達がその照準を向けられることなど露ほども思っていなかったのだから。
略奪艦隊の指揮官を務めていた幹部など主だった者は旗艦ごと消失し、残っていたのは艦隊外周部を形成していた下っ端たちであった。目を焼き尽くす光が消えた後真空の闇だけが存在するその空間を目の当たりにした彼らは何かが崩れ去る音を聞いてしばし動けないでいたが、一隻の船が離脱を開始すると残った船も散り散りに逃げていく。
それを見て私は椅子にどっと腰を落とした。
「ふぅ・・・。」
「勝ったな。」
ベルトラムのその言葉にクルー達の歓声が要塞中から響き渡る。捕まっていた民間人達は皆互いに抱き合い涙を流しながら海賊という名の暴力から解放された事を喜びあっていた。