「おーらい、おーらいよしストップ。」
「エレベーターまだか?後ろが詰まってるぞ。」
「あっちの倉庫は終わったぞ、次は資材庫だ。」
海賊を殲滅した後のファズマティでは、アルタイトのクルー達がせわしなく動き回っている。大量のトラックが要塞内の通路を往復しており、その荷台にはこの要塞にあったありとあらゆる略奪品が詰め込まれていた。
「抜け目ないというかなんというか。」
「何を言ってる。これは海賊討伐という偉大な功績を成し遂げた我々への正当な報酬だ。」
「武器弾薬補修用資材、高価な調度品や酒に食料、密輸ルートで売却されるはずだった違法薬物や違法ツール、更に個室に残されていた私物や要塞についていた配線や内壁まで剝がして持っていく奴がどこにいる。」
「おまけに死体が持っていたクレジットカードや装備まで持っていきやがって。海賊でもここまでやらねぇぞ。」
「この要塞を解体する気か艦長?」
その光景を眺めていたブリッジクルー達の目には呆れの表情が浮かんでいる。
そう、今我々は倉庫に収められていた略奪品のみならず、所持しているだけでアウトなモノや、海賊が使っていた個室にあった売れそうなものから、要塞の壁材から配線やスイッチに至るまであらゆるものをアルタイトの倉庫に収めていた。
倉庫に入りきらない分は格納庫や空き部屋、更には空になったミサイルランチャーにまで詰め込んでいる。
「お前ラッショーの門から何も学ばなかったのか?」
「なんだそれ?」
「学校の教科書にあるじゃないですか。昔ある星にあった門に大量の人間の死体が捨てられていたんですけど、その門に住み込んでる老人が死体の髪で服を作っていたんですよ。それを見てしまった男に対して老人は、こいつらは悪人だからこんな事をしても何も問題は無いって言い放ったんです。そしたらその男は老人を殺して老人の服を奪ってしまうんですよ。」
「つまり?」
「悪人だからといってその死体に鞭打つような事をやっていると自分も同じ事をやられるという事だ。お前がやっているのはその老人と同じだぞ。」
「何を言っているんだ。その老人も言っていた通り悪党にこんな事やったって何も問題は無いだろう。事実こいつらの財産は他人から奪ったものだし持ち主に返還される事も無いだろ。だったら私達が有効に使うべきじゃないか?」
「「はぁ・・・。」」
二人が何をそんなに気にしているかは知らないが、あの世にクレジットは持っていけないのだ。なら生きている人間が有効活用した方がいいに決まっている。
生者は死者と違って生きるのにいろんなものがいるからな。
「この人本当に善良な商人なんですか?」
「自称だからな。」
「ウソってレベルじゃないぜ、詐欺だこれは。」
「歴史に名前が残るな。世紀の大略奪者として。」
「お前ら・・・。」
好き勝手言っている連中の事はムカつくが、今に始まった事では無いので軽く睨む程度にしておいて、主計官であるランディに要塞から持ち出した物の値段を聞いてみる。
「利益ですか?簡単な目録しかないので概算にしかならないんですが、一般のマーケットで販売できる資材類だけで軽く5万Gにはなりますよ。艦長が死体から奪ったクレジットも今の所合計で5000Gを超えています。」
「え!?」
「そんなに!?」
私達が倒した海賊の数は千人単位でいるので、彼らが一人5G以上持っていれば簡単に超える額だ。
「死体漁りを命令された時は正気を疑ったがな。塵も積もればなんとやらだ。」
「でも自分はもう二度と御免ですよ。夢にまで出てきそうだ。」
「じゃあ借金返すのあきらめてみんな仲良く採掘惑星で強制労働といくか?」
「それも勘弁。」
両手を上げて降参のポーズをするダスティ。私だって借金が無ければ死体の髪まで毟るような真似はしないさ。・・・多分。とはいえそんな作業に参加したクルーには臨時手当でも出さないといけないだろうな。こらそこ、口止め料とか言うんじゃない。
「それとこちらが今回の出費になります。」
「ほーんどれどれ・・・ん?」
「ミサイルなどの弾薬費、白兵戦手当をはじめとした各種手当、治療に使った医薬品の補充・・・意外と掛ったな。」
医薬品の補充や人件費等々でも持っていかれる額は結構ある。それよりもミサイルの補充費用が大部分を占めていた。要塞に向けて撃ち尽くすレベルで発射していたので、半数以上のランチャーが空っぽだ。
それらの費用を計算した金額は・・・。
「さ、3万G!?」
「半分が経費で消し飛んだか。」
3万Gを簡単に超えている金額に、私は顎が外れそうになる私の横でさも他人事のように口を開くベルトラムを睨みつける。
「派手に撃ってくれたな。」
「派手にやるのが作戦の内だからな。下手に出し惜しみして感づかれるよりはいいだろう。」
「・・・この手当関連減らしたら利益増える?」
「利益は増えますが反乱がおきるかと。」
「戦利品が予想よりも高値で売れる事に期待しよう。」
流石に反乱を起こされたらたまったもんじゃない。既に一度経験しているだけに反乱といった言葉には少々敏感になってしまっている。
「で、例の禁制品はどうするんだ?」
ディエゴが話を変える。
禁制品は文字通り国家が所持や売買などの取引を禁止している品だ。違法薬物から生物兵器の類などが主になるが、そのリストは国によって異なるのであっちの国では良かったものが国境をまたいだ途端に違法になる事がある。もちろん官憲に見つかれば一発アウトだ。
そしてそういう品はブラックマーケットへ行けば高く売れるのだ。だからスカーバレルをはじめとした裏組織がそういった商売で稼いでいるのである。
「まさかブラックマーケットで売りに行くつもりじゃあるまいな?」
「はっはっは、私だって時と場合を考えるさ。こんな大量の危険なものをブラックマーケットで売りさばいたらあっという間に足がついてすぐ指名手配だ。」
「よかった、艦長にも常識はあるんですね。」
「待てアズキ、こいつは“時と場合”と言ったんだ。論理的にとか道徳的にとかは一言も言ってない。」
「か、艦長・・・?」
「論理や道徳では飯は食えないからなぁ。」
「か、艦長ぉ・・・。」
涙目になるアズキだが、残念ながら論理や道徳を常に守っていたらこの宇宙では生きてはいけないのだ。
「無論それについてはアテがあるからそっちは任せておけ。」
自信をもって言う私に、彼らは半信半疑の目を向けていた。
ファズマティを出港したアルタイトは、大量の戦利品と保護した民間人を抱えて一度ゴッゾへと入港した。
ゴッゾに入港したのは攫われた民間人を降ろすためだ。いちいち星系中を回って彼らを元の場所に返すのは流石に骨が折れる。そういった事はモルポタに連絡を入れておいたので何とかなるだろう。
そしてゴッゾの酒場の看板娘、ミイヤ・サキも保護する事が出来た。
あの部屋の奥の小部屋に押し込められていたのを発見し酒場のマスターの所まで送り届けたとき、マスターは泣いてお礼を言ってきて大量の酒と食材を提供してくれたのだ。私達はありがたくそれを受け取って生き残った者達で盛大な打ち上げを行う事にした。
現在酒場では、ファズマティへ向かう前よりもはるかに盛大に飲めや歌えやの大騒ぎになっている。
「ふぅ・・・。」
私は空になったジョッキを置くと煙草に火をつけて、周囲の喧騒をぼんやりとみている。
「どうですか艦長さん、もう一杯。」
「いや、ちょっと飲みすぎたから水かジュースを貰えるか?」
「分かりました。」
マスターがフルーツジュースを出してくれたのでそれを少し飲む。アルコールの取りすぎで暑くなった体が少し冷えた気がした。
「本当に、ありがとうございます。」
マスターがポツリとお礼を言うのを私は黙ってうなずく。
「海賊も居なくなってミイヤも戻ってきてくれました。これでこの星も以前のように明るくなります。」
「そりゃあ良かった。」
「今日はお代は結構ですので、店の酒を片っ端から飲んでいってください。」
「いや、少しは払うよ。」
いえいえ結構と遠慮するマスターに、3000Gが入ったクレジットカードを押し付ける。
「海賊を倒そうがあの子が戻ってこようが、人間生きる為には金がいるんだ。海賊共にあらかた巻き上げられてこの店の経営だって順調じゃ無いだろ。」
「・・・。」
マスターの沈黙が答えだった。
「恩人だからって無理する必要はない。次来た時にこの店が無くなっているとまたうまい酒が飲めなくなるからな。」
「艦長さん・・・。」
涙声でありがとうございますと頭を下げるマスターを宥めてから私は他の連中の所へ顔を出すために席を立った。
「お、来たか艦長。」
まず立ち寄ったのは、近くにいたベルトラムをはじめとしたよくブリッジにいるクルー達だ。全員それなりに出来上がっているのか、顔が赤かったり呂律が怪しい奴がいる。
「で、お前なんでまたその服着てるんだ?」
「お姉ちゃんまたゲームで負けたんですよ~。完全敗北でしたねぇ~。」
「うぅ・・・。」
その中の一名は別の理由で顔を赤くしているようだが、まぁあまり触れないでおくことにする。
「所でお前さっきマスターにクレジットカード渡してただろ。」
「なんだベルトラム、見てたのか。」
「アレ、海賊から分捕った金だろ?」
「さぁね、金に名前なんて書いてないから元が誰のものなのかさっぱりさ。」
「ははは、確かに金に名前なんて書いてねぇな!」
「いいセリフだな。これは使えるかも。」
ディエゴはツボに入ったのか笑い続け、ダスティはそのセリフが気に入ったのかメモなんかしている。
二人とも相当酔っているので、ディエゴはさっきから体がフラフラ動いて自分のズボンの股辺りに酒を零しまくって漏らしたみたいになっているし、ダスティがメモを取っているのは空になった皿で、その手に持っているペンはつまみで出されたフライドポテトだ。
そんな二人を見て残りの連中も笑っている。私もひとしきり笑った後、端末で二人の様子をこっそり撮影してから席を離れた。
その後別のテーブルに行くと、トーレスとリーマンにリヒャルトとカーフィーの4人が飲んでいるのを見つけた。普段見ない組み合わせなのでちょっと立ち寄ってみる。
「艦長か。」
「どうも、このメンツとは結構珍しい組み合わせだな。」
「なに、ちょっと仕事の話で盛り上がってな。」
「・・・仕事?」
砲術科と研究班なら分かるが司厨長であるカーフィーまで混ざって仕事の話ってどんな話になるんだ?
「艦長は、塩味とソース味どっちがいいかね?」
「なんだって?」
リヒャルトからの言葉に私は思わず聞き返す。
「戦闘中に食べる戦闘配食の事です。管制室から離れられない者の為に司厨長もいろいろ作ってはくれるんですが、戦闘の衝撃でダメになったりしてしまうんですよ。」
「うーむ、美味いだけでなく無重力でも食べやすい食事というと中々難しいのじゃ・・・。」
そういって頭を悩ませるカーフィー。確かに彼は宇宙に出た経験が浅いからこういった事には慣れてないのだろう。
「そこで私も手伝って、いろいろ作ってみたわけだ。これがその試作品のカップだ。」
といってリヒャルトが出してきたのが中ジョッキくらいの大きさのカップだ。蓋からストローが出ているが、容器が2つに分れている。
「これは?」
「液体や固体を一つの容器に入れられて戦闘中でも簡単に食べられるように作ってみた。」
「それは便利そうだな。で、それと最初の質問の関連が分からないんだが・・・。」
その容器と塩とソースの好みがどう関係するのかが分からない。
「いや、この間フィッシュアンドチップスを入れて出したんじゃが、ソースを入れて出した所砲術長から塩がいいと言われてな、次に塩を入れて出したら今度は彼がソースがいいと言われてな。」
「フィッシュアンドチップスには塩が当然だろう?」
「いえ、ソースの方が確実に合います。」
「で、それで頭を悩ませてたと?」
くだんねぇとは思ったが口には辛うじて出さなかった。
そんなもんそれぞれの好みに合わせた奴を出せばいいだろうに。
「いや、人数が多いとそうした配食を出す量も多くなってしまっての。」
「特に砲術科は戦闘中はほぼ全員が出られませんからね。大量の容器を運ぶだけでも結構手間ですし取り違えると戦闘中に士気が下がります。」
「塩とソースを間違えられて?」
「艦長、もし戦闘中に貴官が煙草を吸おうと思ってそれが煙草を模した美味しくないお菓子だったらどうする?」
「確かにテンションが下がる。」
「つまりそういう事だ。」
確かに戦闘の際には沢山のストレスがかかるし、自分の好みと違うものが出てくるとテンションが下がった状態で戦闘を続けるのも嫌だ。
「で、どうするか悩んでいた所じゃ。」
「やはり塩一択にすべきだろう。生産性も上がり取り違えも無く、何より美味い。」
「いや、ソースにすべきです。」
なんて言い争う二人を見て私はこう思う。
・・・やっぱりくだらねぇ・・・。
「そんなもん、容器の端に塩とソースどっちも入れられる部分付ければいいだろ。」
「「「「その手があったか!」」」」
・・・こいつらもしかしてアホなのか?いや、普段の彼らの仕事ぶりからそんなことは無いはずだ。多分酒の所為だろうと思う事にして私はそっと席を離れた。
「やぁ。」
「お疲れ様です艦長!」
なんて元気に挨拶するのはエドワード、こちらも結構酔っているようだ。その周りには航空隊の面々が飲んでいるのが見える。のだがいつもいる顔の一つが見当たらない事に気が付いた。
「あれ?あいつはどこ行った?」
「あぁ・・・あいつは途中で助けた美女と一緒に店を出ましたよ。今頃はどこかのホテルにいるんじゃないですか?」
「あいつは・・・。」
うちの某エースは早速どこかへ出かけたらしい。その節操無しには呆れを通り越して関心すら覚える。
「かんちょ~、お金が入ったんなら新しい船買いましょうよ~。」
「あほう、借金があるの忘れたか?」
「いやー俺だって新しい武器とかの研究したいですしぃ、その為にも研究費を1000Gくらい増やして、ね?ね?」
「いやそんなにやらんよ。」
「えぇ~じゃあ新しい船買いましょうよ~。今回みたいにまたスカーバレルとかとやりあうと面倒でしょう!船が一隻だと寂しいですし、いっそ10隻くらい戦艦買って艦隊を作りましょう!今回みたいに海賊を潰していったら大金が手に入りますよ!!」
「いやできんよ?毎回そう上手くは行かないからな?」
エドワードが絡んでくるが、多分結構酒を飲んでいるのか現実的じゃない色んな提案をしてくる。
海賊を潰して回るとか正気でやってるとは思えないだろそんな奴。今回だってルーやユーリ君をはじめとした協力者が居たから成功したんであって、毎回そんな事してたらリスクとリターンが割に合わんわ。
「大丈夫です!その為に艦長の強化案も考えておきました!こちらをご覧ください!」
そう言って手元の携帯コンピューター(なんでそんなもの持ち込んでる)からホログラムを表示する。
そこにはエドワードが考えた最強のサイボーグとかいうものが表示されていた。
「左腕にはレーザーガン!右手にはスクリーフブレード!両足にはスラスターを装備して短時間ながら飛行も可能!ついでにミサイルも装備!握力や脚力も今の1.5倍に強化して体も船体装甲を流用したもので耐久力もアップ!装甲車の砲撃程度なら直撃しても耐えられます!更に聴覚や視覚など五感も強化してパワーアップ!髪の毛はナノマシンの変形機能を持たせてソード状態やシールド状態に変化可能!しかも発射も出来る!そして何より――――口からビームが出せます。」
「なめてんのかてめぇは。」
真剣な顔で口からビームが出るとかぬかしたので、思わずその顔面にグーパンチを入れてしまった。最初こそ戦闘サイボーグとしてなるほどなと思ったが、スラスターあたりからどんどん話があほくさくなっていく。
なんだよ髪の毛発射機能って。漫画の主人公じゃないんだぞ私は。
見ていた周りのパイロット連中もこれには救えないとばかりに首を横に振る。
「というかこれずいぶん大きくなるじゃないか。なんだ身長2.4mって。」
「いや、必要な機能を盛り込んだらそうなりまして―――。」
「女性というより化け物って感じだ・・・。」
「・・・結構胸が大きいですね。それとお尻も。」
コーネフやエーミールやエヴィンのいう通り、なんか全体的にいろいろ大きくなっている。特に胸と尻が巨乳とかいうレベルでは無い。
「お尻の中身はスラスター用の推進剤が入っています。そこしか入れる場所が無くて。」
「いや入れるなよ。なんで尻に推進剤詰め込まにゃならんのだ。胸にも推進剤詰めてんのかこれ。」
「そこにはガトリングガンを詰めました。」
二発目のグーパンチが飛ぶ。今度はさっきよりも威力を上げたので、当人は椅子から吹っ飛んで大の字で床に倒れて気絶している。
周りの人間がぎょっとするがそんなもんこいつが悪い。
「お前女の体をなんだと思ってるんだ!おっぱいにガトリングガンって何考えてんだ一体!?」
「これは救いようが無いな・・・。」
「「うわぁ・・・。」」
艦載機隊がドン引きする中、私は椅子にドカッと座って酒瓶を取ろうとする。その瞬間―――
―――ガッシャン!!
という音と共に衝撃が私の頭に走った。振り返ると酒気帯びで顔がほんのり赤くなったドクターがそこに立っていた。その手には酒瓶が握られており私の頭からは酒がぽたぽたと垂れていた。
「な、なにをするんだドクター!?」
予想外の人物からの予想外の攻撃に私も周りの面々も混乱する。ドクターはそのまま私の首元をつかむと持ち上げてきた。
「何やってるんですか艦長、性懲りも無く怪我人を発生させて・・・また私を過重労働させる気ですか?」
「あ、いやそれはこいつが変な事言ったからで。」
「そんな事言ってまた適当に煙に巻くつもりですか?ひっく、どうして主計課や司厨部は増員したのに医療系のクルーがいまだ増えないんですか?」
「それはいい医者が捕まらないからしょうがないじゃないか・・・。」
「どうして!うちには!いい医者が!来ないんですか!怪我したら面倒見るの私なんですから!早くクルーを見つけてくださいよ!」
「ぐえっ、まってドクター、落ち着いて」
「ど、ドクターその辺にしときまぐほぉ!?」
「こ、コーネフ隊長!?」
なだめようと近づいたコーネフが、その鳩尾に鋭い蹴りを食らって悶絶しながら床に倒れる。
「ほらまた怪我人が増えた!いい加減医療スタッフを増やしてくださいよ!このままじゃ私過労死してしまいます!!」
「いやいまのは自分がやったんじゃ「しゃらっぷうぅ!!」おぅ・・・。」
「いいですかぁ!医療が進歩した今だって救えない命はあるんですよぉ!私一人にだって限界はあるんですから!頑張ったってぇ・・・頑張ったってぇえええ・・・。」
しまいには私をぶんぶんゆすりながら泣き出すドクターに周りは騒然となっている。その後、負傷者は適当なソファで寝かせておき、酒乱となったドクターをどうにかして引き剥がし個室でドクターが寝てしまうまでの数時間ずっと愚痴に付き合う事になった。
「うちのクルーって酒癖悪い奴多いのかな・・・。」
「きいへますかかんちょぉ!」
「聞いてる聞いてるから・・・。」
ゴッゾでの祭りを終え出港したアルタイトはツィーズロンドを目指して航行しながら、道中の惑星ネロに立ち寄ろうとしていた。理由は倉庫に入りきらずミサイルランチャーを埋め尽くすほどに積んだ戦利品の売却と医者の引き抜きだ。また酒乱のドクターになられても困る。
ささやかな朗報として、助けた民間人の中から仲間になりたいと申し出てきており宇宙船の機関士などのエンジニア達が確保できた事だ。
「艦長、エンジン回りの点検が完了したぞ。報告書は提出してある。」
「ありがとう。」
白髪の丈夫そうな体に黒い肌をした彼の名はコカ・ペーペシー、ファズマティの採掘場で強制労働させられていた人間の一人で、私にスコップを振り下ろした人物でもある。元は貨物船の機関長をやっていたそうだが、船がスカーバレルに襲われて捕まってしまったらしい。
今ではアルタイトの機関長として働いてもらっている。彼以外にも多数のエンジニアが乗り込んでくれたので機関部の人員不足が一気に解決できた。
これを最も喜んだのがエドワードだった。これで研究に集中できるとか言って最近は研究室に籠る事が多くなっている。それに伴って研究関連の予算を要求される事が増えてきたが・・・。
「いいエンジンだがずいぶん年代物だな。全体的にオーバーホールしてあるとはいえ劣化している部分がいくつかあった。港に立ち寄ったら部品交換が必要になると思う。」
「また金が掛かるのか・・・。」
確かにこの船が建造されたのはかなり昔の事なので、設備自体が古くなっているのは否めない。ボラーレで大修理した際に船体各部を徹底的に修理したのだが、長い事使っている船だと整備してもすぐ故障する事がある。逆に言えばあれだけの技術力を持つヤッハバッハの船だからこそ、通常の艦艇よりもはるかに長い期間の運用が可能なのだ。
「そうは言うがな艦長。いざって時に機関が壊れたら文字通り宇宙を漂流する羽目になるぞ。」
「分かってるよ、その点に関しては主計課と相談してくれ。予算を優先的に組ませるようには話しておく。」
「よろしく頼むぞ艦長、ここまで生き延びて宇宙を漂流したくは無いからな。」
そういうと彼はエンジンルームに戻っていく。少し職人気質らしい彼はエンジンをよく把握したいと言って機関室に籠り気味だ。まぁ優秀な人材ならそれでいいのだが。
「艦長、まもなくネロに入港します。」
「了解。上陸する者は準備しておけ。それとランディに連絡を入れて戦利品の売却準備をするように。」
「了解しました。」
アズキもスイカも最近はすっかりオペレーターが板についてきたようで、その手付きも慣れてきたようだ。
「さぁて戦利品はいくらになるかな?」
惑星ネロの宇宙港を眺めながら、私は戦利品の価格に期待を寄せていた。
「うっしゃっしゃっしゃしゃ!儲けじゃ儲けじゃ!!」
私は戦利品を売却にかけた後、軽やかにステップを踏みながら地上の街を進んでいた。
「アレを見たか?俺は一生あの光景を忘れないぜ・・・守銭奴が気持ちの悪い笑顔でスキップしている。」
「他人のフリ他人のフリ。」
後ろからついてくる連中が何か言ってるが何も耳には入らない。データクレジットに入っている額は軽く4万Gを超えていた。
経費を払っても懐に残った金額を見るたびに口角が上がる。まだまだ借金が無くなることは無いが残高を見れば気持ちは軽くなるし別に今すぐそれをすべて返済に使わなくてもいいので何に使おうか考えていると楽しくなってくる。
「艦長、艦長!ここですよ!」
「おっと。」
なんて浮かれていたら、目的地を通り過ぎてしまったらしい。エドワードに呼び戻されてきた道を引き返す。
辿り付いたのは巨大な建物だ。目の前の看板にはメディック本部と銘打ってある。紛争地域や貧困地域で無償で医療サービスを提供するボランティア団体。ユーリ君が緊急で治療を受けたのも確かメディックの所属船だったはずだ。
私はこのボランティア団体本部に行く事を提案したドクターに話しかける。
「そういえば前回行っても駄目だったんだろう?なんでまたここへ来るんだ?」
「この本部に勤務する医療関係者の数は多いですからね、今日はあの時声を掛けられなかった人物を探します。」
「なるほど、で?私達が連れてこられた理由は?」
「無論その勧誘を手伝ってもらうためです。」
「面倒臭いなぁ・・・。」
「手伝って貰いますヨ?」
「アッハイ。」
ドクターの圧に押されて一同の医者探しと始まった。のだが・・・。
「見つかる訳あるかぁ!」
探し始めて既に2時間が経過した頃、私は地上にあった適当な喫茶店で休憩していた。
あれから医療関係者にいろいろと話をしていたが、その全てに断られしまいには警備員につまみ出されてしまった。
そりゃあ一時間以上も本部の中で堂々の引き抜きをやれば追い出されるにきまっている。
「失礼、隣いいですか?」
「え?あぁ、どうぞ。」
突然横から声を掛けられて振り向く。そこには、茶色い髪をポニーテールにまとめた女性が立っていた。
相席を求められたので応じると、彼女は店員にコーヒーを一杯注文する。何の用かと口を開こうとした所で向こうが先に口を開いた。
「貴女が先程からうちの施設で引き抜きをやっている人ですか?」
「え、えぇそうですが?貴女は?」
「失礼しました。私、リーレンと申します。」
そう言ってリーレンと名乗る女性は、タイミングよく運ばれてきたコーヒーを一口飲んでから話を続ける。
「単刀直入に言います。私をあなた達の船で雇っていただきたい。」
「えっと、それはまた歓迎ですが・・・失礼ですがご職業は?」
「医者です。メディックで働いておりました。」
そういえばさっきメディックの事をうちの施設と呼んでいた事を今更になって思い出す。
「理由を伺っても?」
「セクハラが多いんですわ。」
「セクハラ?」
「えぇ。」
彼女曰く、メディックにて他の職員からセクハラを受けていていい加減うんざりしていたらしい。そんな時に我々が引き抜きをやっているという話を聞いてわざわざ探してきたらしいのだ。
とはいっても、うちの船は男性比率の方が高い。むしろ地上よりもセクハラがありそうな所を態々選ぶかね普通。
と、聞いたら彼女からはこんな答えが返ってきた。
「意外と医者も就職に苦労するんですよ。特にこの星ではメディックが幅を利かせていますから医療関係への就職もメディックから目の敵にされていると中々上手くいかないんです。お金も今は手持ちが無いので。」
「なるほど、それで0Gドックという訳か。」
「はい、医療船で遠くの星までボランティアに行った経験もありますから宇宙船でも申し分なく仕事は出来ますわ。」
「・・・まぁ、そういう事ならよろしく頼むよ。一応うちの船でもセクハラには気を付けているけどね。」
「万が一嫌気が差したらその時は降りるだけですよ。」
転職先に0Gドックを選んだりこういった事を正面から言うあたり中々強かそうな女性だ。
かくしてドクターの要請通り無事に医者を一人確保して船へと戻った。これでようやくドクターが過労から解放され機嫌も直るだろう。
惑星ネロで戦利品の売却を済ませ新乗船者を乗せた後、アルタイトはネロとジェロンの中間にある宙域に漂っていた。
リーレンが加入して少し経ったがドクターの機嫌が大分良い。鼻歌を歌いながら廊下を歩くドクターは始めて見た。事務手続きとかの手伝いが出来る人間は居ても、治療や医療機器の操作など専門性の高い仕事はドクターにしか出来なかったからほとんど仕事に追われていたが、それも余裕が出来たからだろう。
「艦長、どうしてこんな所で3時間も止まってるんですか?」
「腹に抱えた厄介者を処分したくてな。」
「厄介者?」
話は変わってブリッジだが、今現在アルタイトはエンジンを止めて3時間もこの何もない空間を漂っている。休日にしても仕事にしてもこの何もない空間で立ち往生している事に全員が不思議がっていた。
「もうそろそろ来る頃なんだがなぁ。」
「艦長、前方から接近してくる艦隊があります、IFFはエルメッツァ軍です。」
「やっと来たか。」
煙草を消して椅子から立ち上がると、前方からくるエルメッツァ軍に通信を入れる。
「やぁ大佐、わざわざ出向いて貰って助かるよ。」
『君こそ無事なようだな。』
通信スクリーンに出てきたのは他でもないエルメッツァ中央政府軍のモルポタ大佐だ。
『接舷準備は出来ているか?』
「こちらはいつでも。」
『分かった、では直接会おう。』
そう言って短い通信が切れる。それと同時に私は各員に接舷と物資の搬出準備を指示した。
数分後、モルポタ大佐の船であるグロスター級戦艦が接舷する。エアロックを抜けてアルタイトへ乗船した彼を、私は応接室へと案内した。
アルタイトの応接室は落ち着いた作りとなっており侵略を繰り返す攻撃的な国家のものとは思えない。その高級品であろうソファーをモルポタに勧め、コーヒーを出してから話始めた。
「無事にスカーバレルを討伐したようだな。一体どんな手を使ったのだ?」
「具体的な事は一緒に戦ったユーリ君達に聞いてくれ。と言っておいてなんだが、彼は無事なのか?」
「あぁ、彼らなら少し前に退院したそうだ。」
そう言ってモルポタはコーヒーを一口飲む。モルポタの言葉に取りあえず私は安堵した。
「で、アルゴンとバルフォスの懸賞金だがツィーズロンドに居るオムス中佐が用意しているからそこで受け取って欲しい。」
「ん。」
オムス中佐の名前を聞いて変な声が出てしまった。あの中佐に会いに行かなきゃならんのか・・・。
「それで、君達が運んでくれた例の荷物だが・・・。」
「あぁ、それだったら搬出の準備は済ませてあるよ。勿論、大佐以外には連絡していない。ああいったものは、さっさと軍に回収してもらうに限る。“その後でどうなろうがこっちには関係ない”さ。」
「ふむ、それは助かる。こちらとしても海賊が所有していた犯罪の証拠はいち早く回収しなければならないからな。“出所がどうであれ面倒な事はさっさと済ませるに限る”。それとこれは・・・コーヒー代だ。」
そう言うとモルポタは私に一枚のクレジットカードを渡す。そのカードには5000Gの金額が表示されていた。コーヒー代にしてはありえない金額のカードを、私は自分のポケットに入れる。
「どうも大佐。それでは早速作業に取り掛かりましょう。」
モルポタが自分の船に戻り搬出作業が始まる。搬出されている荷物は薬物や違法ツールなどファズマティで回収した禁制品だ。ネロで戦利品を売買した時にこれらの品々は売却されずにまだ船の倉庫で眠っていたのをすべてモルポタの船に移している。
「お前・・・あの大佐と何か裏取引をしただろう?」
「はて、何のことやら。」
ベルトラムの問いかけに私は適当に返す。
「とぼけるな。証拠品の提出なんてこんな宇宙の真ん中で船を接舷させるよりも宇宙港にそのまま持って行った方が早いんだ。それをわざわざやるって事は何かあるに違いあるまい。」
「何を言ってるんだ。あれは海賊の犯罪を証明する有用な証拠だぞ?さっさと治安当局に引き渡して裁判でも何でも使って貰ったらいいじゃないか。まぁ、あいつらの犯罪規模が大きすぎて証拠品の数も膨大になっているから、いくつか無くなったり誰が回収したのか分からなくなってしまうかも知れないけどな。」
私の答えに納得したようにダスティが手を叩く。
「なるほど、証拠品として没収されたら何の利益にもならずかと言ってブラックマーケットマーケットで売り払う訳にも行かないそれを大佐に預け、大佐は手柄を得る代わりにいくらかの金を貰うという訳か。」
「つまり禁制品を軍に売ると・・・。」
「はっはっは、私は善良な商人だぞ?証拠品を売り払うなんて事する訳ないだろう?」
「売り払っては無くても似たような事はしてるんだよなぁ・・・。」
事実として別に大量の禁制品を売却している訳では無く“証拠品”をちゃんと治安関係者に引き渡しているだけで何もやましい事はしていない。
え?金を貰っていただろうって?あれはコーヒー代とモルポタも言っていたじゃないか。
「お前という奴は・・・。」
ベルトラムの呆れたような声が聞こえるが、何も悪い事はしていないのだから問題なしと言って私は煙草に火をつけた。
一応名目上護衛という事になったモルポタ艦隊に守られながら、アルタイトはツィーズロンドへ入港する。大きさの差がありすぎて、はたから見たらどっちが護衛なのかわかりゃしない。
「着桟完了、インフラトンインヴァイダー停止。」
「よし、各員に上陸を許可する。帰船時間は守れよ。」
「「あいあいさー」」
という訳で私も身支度をして地上へと降りる。行く先はもちろん軍司令部だ。
人混みをかき分け司令部の門の前に辿りつき衛兵に事情を話すとオムスは士官宿舎の方にいるらしく、そっちの方へ向かうように言われた。面倒臭いな。
仕方が無いので士官宿舎の方へ向かうとすぐに彼の部屋に通された。そこにいた人物達を見て思わず驚いた。
「お、ユーリ君。無事だったか。」
「シーガレットさんもご無事で何よりです。」
そこには元気そうなユーリ君と彼の仲間達の姿があった。重症だった彼もすっかり元気になっており、大した後遺症も無いようで幸いだ。再会の挨拶をしていた私達の後ろでコホンと小さくオムスの咳払いが聞こえる。
「人が揃ったようなので早速始めよう。まず調査船のヴォヤージ・メモライザーだが」
「ヴォヤージ・メモライザー?」
覚えのない話題に思わず私の顔に疑問が浮かぶ。それをユーリ君が説明してくれた。
「実はエピタフ調査の為にボラーレ方面に出ていた調査船が行方不明になったんです。それで僕らがボラーレに向かったらある人がそれを回収していたので今それの解析をお願いしていたんですよ。」
「そんな事をしていたのか。」
ボラーレはかなり遠く時間がかかったと思っていたが、よくよく考えたら彼の船は巡洋艦と駆逐艦で構成されているし、アルタイトは足の遅い大型戦艦だからあまり時間はかからなかったのだろう。いろいろ寄り道もしていたからな。
「で、解析は終わったのかい?」
「いや、損傷が激しく解析は難航している。結果が出るにはしばらくかかるだろう。」
「そうかい・・・。」
トスカが落ち込んでいるが、私達にはあまり関係の無い話だ。
「次にスカーバレル討伐の報酬だ。君達二人に均等に分けてある。」
そう言ってオムスが渡したクレジットカードには6000Gの金額が表示されていた。おそらくアルゴンとバルフォスの懸賞金の分だろう。二人合わせて12000Gとは、随分と悪い事をやっていたようだ。
「え、でも僕達は。」
「貰っておきなユーリ、正当な働きに対する報酬だよ。」
「そうだぞ、現にバルフォスを倒したのは君なんだから気にする必要は無い。」
私達は他からたんまり貰っているからな。なんて事はこの中佐の前では言わないようにする。後ろにいるうちのクルーからの視線が痛いが気にしない。ユーリ君もそれを受けて「分かりました」とそのクレジットをしっかり受け取っていた。
「それとこれは大佐と私からの個人的な礼だ。」
そしてオムスからそれぞれに一枚の封筒が渡される。
「この星の近くにあるジェロンという所に軍の艦船設計社がある。これはそこへの紹介状だ。君達の航海の役に立つだろう。」
「ありがとうございます。」
船の設計図か。軍用艦艇ともなれば性能も高いだろうし、十分に役に立つだろう。建造するかどうかは別だがな。
「それとこれはユーリ君へだが、カルバライヤのガゼオンという星にジェロウ・ガンという人物がいる。この小マゼランでエピタフの研究をしている彼ならば何か知っているかもしれない。彼へのアポイントと取っておいた。」
「あ、ありがとうございます!」
「やったなユーリ。」
「あぁ、カルバライヤか・・・どんな国なんだろう。」
私達も含めてカルバライヤに入った入国した事がある人物はほとんどいない。彼らは新しい土地に期待を膨らませているようだ。
「所で」
オムスが私達に向き直る。心なしか先程と雰囲気が変わったように感じる。
「君達が良ければ私の所で少し働かないか?」
「・・・悪いが中佐、私達は根無し草の0Gドックなんだ。自由気ままに宇宙を旅したいと集まった連中なんでね。今回はここまで、だ。」
「本当にいいのかね?国家に協力するのも様々な恩恵があるが・・・。」
「なに、降りかかる火の粉は自力で払うまでさ。―――それがどのような手段になるかは時と場合によるがね。」
「ふむ、君の意思は固そうだな。気が変わったらいつでも声をかけてくれ。」
そん時は遠慮なく断るがな。とは口には出さなかった。
話が終わり彼らが士官宿舎から退出する。その中で一人トスカが残っていた。
「何かね?」
「いやね、これ以上子坊を利用するのはやめてくれっていう話さ。」
「利用?」
オムスの表情に疑問が浮かぶがトスカはそれに構わず続けた。
「あんた等が保守派と改革派に分かれて地方軍まで巻き込んでグダグダ勢力争いしているのは知ってるんだ。あまりそういったのに子坊を巻き込まないで欲しいものだね。あいつらと違って純粋な子坊の方がさぞ扱いやすいんだろう?」
「・・・言葉は悪いがそういう事にはなってしまうだろうな。だが、私個人として彼を気に入っているのも確かだ。」
「そうかい。ともかくあたしが言いたいのはそれだけさ。」
そういうと彼女は踵を返して部屋から出ていく。残されたオムスは腕組みをしながら無表情でその背中を見送った。
士官宿舎を退出した私達は、とりあえずユーリ君達と一緒に酒場に足を運んだ。とりあえず勝利の乾杯をしてから適当に話し始める。
「ほーん、ロウズってそんな所なのか。」
「デラコンダの野郎がいろいろ好き勝手やったからな。でもこいつはあのデラコンダを倒したんだぜ?」
「人畜無害そうな見た目の癖にやってる事が結構派手だね。」
「そうですか?」
丁度話題は彼らが宇宙へ飛び出してきた時の話になった。彼らが居たのはエルメッツァの端に位置するロウズという自治領だ。そのロウズを治めていたデラコンダという領主が居たんだが、彼は領民が宇宙に出るのを嫌がって航宙禁止法を作り領民を地上に縛り付けていたんだそうな。
宇宙を夢見た少年ユーリ君は打ち上げ屋トスカの助力を借りて宇宙へ飛び出すも、妹のチェルシー君がデラコンダに捕らわれてしまう。そこで彼は持っていたエピタフを質に入れて金を手に入れ改造貨物船を作ってデラコンダとの艦隊戦を繰り広げ見事に勝利し、妹とトスカと共に宇宙へ足を進めたんだそうだ。
・・・改造貨物船で自治領の領主相手に艦隊戦やって勝つってずいぶん無茶な事をしたんだな。いや、領主が弱かったのか?
その後は酒場のマスターからの仕事をこなしたり荷物を運んだりしていた所で、仲間の一人であるティータと出会い彼女の兄ザッカスに会う為エルメッツァ軍に協力したりしたのがスカーバレルと対立するきっかけだったそうだ。
当時ザッカスはライッツォ宙域へ援軍の為に派遣されたオムスの指示でスカーバレルへの潜入任務に就いており、彼と会うついでに本拠地のデータを受け取る事を頼まれたそうだ。ザッカスと会う事は出来たのだが、彼はSAVOSと呼ばれる特殊なナノマシンで操られてしまっていたらしい。
出撃した討伐艦隊は待ち伏せにあったが、別ルートで侵攻していたユーリ君と当時ザッカスと同様に潜入任務の為スカーバレルへ潜り込んでいたディゴによってバルフォス艦隊を撃破し本拠地へ突入、寸前まで追いつめるも操られたザッカスによってバルフォスに逃げられてしまった。
ザッカスはその際の傷が元で現在は軍病院に入院中らしいが、ナノマシンの後遺症からか意識が戻らないらしい。
治療法が無いか聞かれたが、残念ながらうちの医療スタッフは誰も対処法を知らなかった。
その後、仲間を増やし艦隊を強化しながら中央宙域へとやって来た彼らは、私達と合流しスカーバレルを討伐して今に至るという訳である。
・・・改めて考えるととてつもない豪運に恵まれているか、超能力でも持ってるんじゃないの?
「それにしても宇宙に出たい動機がエピタフとはねぇ。」
ダスティの言葉と共に、エピタフにまつわる伝説を思い出す。
「伝説によれば・・・それを手に入れた者は莫大な財宝を手に入れる・・・だったかな?」
「えぇ、でも僕が持っていたエピタフはヴァランタインに奪われてしまって・・・。」
「むしろヴァランタインと遭遇して生きて帰って来ただけで幸運だろう君は。」
大海賊ヴァランタイン。その名はリベリアにまでも轟いており常にランキング1位に君臨する宇宙の大海賊。曰く1万隻の軍艦をたった1隻で全滅させただの、国を星ごと滅ぼしただの、すべての宇宙を制覇しただの噂と伝説に事欠かない人物だ。
そんな生きた伝説と出会ってしかも戦って生きて帰って来たのだ。人並外れた豪運と言わざるを得ない。普通の人間なら今頃ダークマターになっているだろう。
しかし、ランキング1位に君臨するヴァランタインがエピタフを奪っていったとなると案外その伝説も本物なのか?
「そういえばお前も持ってたよな。エピタフ。」
「「「え!?」」」
ふと思い出したようにベルトラムが私に話しかけ、驚くユーリ君達。そういえばあの廃宇宙港の奥で見つけていたな。
「あー・・・あれね。」
「まさかお前質に入れて金に換えたとか言わないだろうな。」
「いや、そんな事はまだしてない。ただ――」
「ただ?」
「・・・失くした。」
「「「はぁ!?」」」
その場にいた全員が呆れと驚愕の表情を見せた。
「失くしたってどういうことだお前!?」
「知らん知らん!!気付いたら無くなってたんだ!私は悪くない!!」
「おい!俺だ!今すぐ船を大捜索しろ!どっかにエピタフが転がってるかもしれねぇ!!探すんだ!!」
「そんなお宝失くしますか普通・・・。」
大荒れな私達一向に対しユーリ君達はぽかんと口を開けている。流石に騒ぎすぎたのかマスターに注意されて一旦落ち着く事にした。
「そういえばあんたはどうして0Gドックになったんだい?」
一旦会話が終わり、それぞれが飲み物を飲んだり食事したりしている中、不意にトスカがそんな事を聞いてきた。
「ん~、私は物心ついた時から爺さんに連れられて宇宙に居たからな。気が付いたら0Gドックになっていたとかそんな感じだ。」
「そうだったのかい。」
「初耳だな。」
「そりゃ今初めて言ったからな。」
ユーリ君達どころか、うちの船のクルーも知らないのも当然だ。聞かれなかったし。
「ご家族は?」
「知らん。小さい頃からずっと宇宙で爺さんと二人で暮らしてたから顔も名前も分からん。両親の事を聞いても何も教えてくれなかったし、そもそも爺さんと血縁関係があるのかすら分からん。当人はずいぶん前に死んじまったから確かめようが無いしな。」
「お前案外特殊な生まれだったんだな。」
「そうかい?別に珍しくも無いだろう?」
孤児なんてこの世にたくさんいるんだ。0Gドックの孤児が居たってなにもおかしくはないと私は思うがね。
「んん?艦長は妹が居なかったか?双子のそっくりな・・・。」
「いやぁ?私に姉妹は居ないぞ。」
「あれ、気のせいだったか?」
頭を掻きながら不思議そうな顔をするディエゴ。ついにボケてきたか?とは言わずにスルーする事にする。
「あー、それで爺さんが死んだ後は残された船を使って金を稼いで生きてきたって訳さ。」
「0Gドックをやめるとかはしなかったんだね。」
「こちとらこれしか能が無いんでね。地に足付けて生きるのもなんだか変な気がするからとりあえず船が動くうちは宇宙で生きようって決めたのさ。」
煙草に火を付けながらトスカの問いに答える。私は別にユーリ君のように確固たる目的があった訳では無く、単純に0Gドックの世界しか知らないから星の海で生きているのだ。
もしどこかで違う選択肢をしていれば、私は別の道を歩んでいただろう。地上で暮らしていたかもしれないし、どこかでダークマターになっている可能性もあっただろう。金持ちになって裕福な生活を送れたかもしれない。
しかし今は過去を後悔してはいない。なんだかんだ言っても今日まで生きてきたのだ。0Gドックとしては刺激的過ぎた今までの人生を、わざわざ否定する必要は無いだろうし、悲観する必要も無い。
これまでもこれからも私はこの星の海で生きていくだけさ。
「・・・いややっぱ借金は後悔してるな。」
「何か言いましたか?」
私が思わず漏らしたその言葉に反応したユーリ君を見て、私はある事を思い出した。
「・・・少年よ、うちの爺さんが言ってた0Gドックの心得を教えておこう。」
「な、なんですか?」
「0Gドックにとって最も大切な事は、“生きるのを諦めない事”だそうだ。どんなに絶望的な状況でも、最後の一秒まで足掻き続けろ。足掻き続ければ死ぬ寸前で助かるかもしれないが、諦めたが最後生き残る可能性はゼロになる。死んだらダークマターになって何も残らないのだから、僅かな可能性を信じて諦めるなってな。」
「なるほど・・・。」
「と、そんな御高説を垂れた爺さんは翌日酒の飲みすぎで痛風になって「ワシはもう駄目じゃ」とか言って生きるのを諦めてたがな。」
真面目に話を聞いた彼は、思わず上半身だけずっこける。あれだけカッコいい事を言った翌日に痛風で生きるのを諦めていたのだから、人間というモノはずいぶんいい加減なものだとよく学べた。
「お、お爺さんも随分いい加減な人ですね・・・。」
「人間なんてそんなもんだよ。」
苦笑しながら答える彼に、私は肩をすくめて答える。ふと時間を確認すると、船へと戻る時間が近づいていた。
それをユーリ君達に告げ、会計を済ませて店を出ようとする。ふと彼の方を振り返った私は何となく聞いてみた。
「そういえば君達はカルバライヤへ行くんだったかな。」
「えぇ、ガゼオンという星にいるジェロウ教授に合いに行きます。」
「そうか、もしかしたら私達もカルバライヤへ行くかも知れないからその時はよろしく頼むよ。」
「えぇ、その時はよろしくお願いします。」
「それじゃあ。」
別れの挨拶を言って私は酒場を後にする。最近汚い大人しか見ていない所為か若く純粋なあの白い髪の少年達の事を応援したくなった。
「うちのクルーにもああいった純粋さがあればなぁ・・・。」
「え?艦長がそれ言うんですか?」
取りあえず愚かにもそんな事を口走った汚い大人その1ことエドワードの頭を軽くはたいておいた。
このステージにゼーグルフ級を持ってくるシーガレットも大概ですが、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻で海賊拠点に殴り込みをかけるユーリ君も大概チートじみてると思うんですよねぇ。