異常航路   作:犬上高一

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第26話 辺境での寧日

ツィーズロンドにある中央政府軍司令部、その一室にモルポタとオムスの姿があった。

 

「これでここも少しは静かになるな。」

「はい、大佐にも我々への協力感謝します。」

「うむ。」

 

どの口がそんな事を言うのか、協力と言ってもちょっとした火遊びの情報でこちらを脅して強制的に改革派へ協力するようにさせた癖に。

モルポタは内心そう思ったが、口には出さなかった。

 

現在のエルメッツァ軍内部では派閥争いが起こっている。旧来の伝統と体系を守ろうとする保守派と、現行制度を改めようとする改革派である。主に出世や待遇の違いに対する不満が引き金なのだが、現在はその派閥争いが中央政府軍どころか地方軍や自治領に駐屯する駐留部隊の高級士官まで巻き込まれており、エルメッツァ軍全体で二派に分かれて争っているといってもよいぐらいになっている。

 

元々中央出身であり保守派であったモルポタは、スカーバレルとの取引の証拠をオムスに握られた為に改革派への協力を強いられていたのだ。当然面白い訳が無い。

 

そんなモルポタの感情を無視してオムスはデスクの端末を操作して上層部への最終的な報告書を書こうとし、それを見たモルポタは心の中の苛立ちを抑える為に葉巻に火をつけようとする。

 

そこで突然部屋の扉が開かれ一人の男性が入って来た。2人が何者かと振り返るや否や慌てて立ち上がって敬礼する。

 

「君達がオムス中佐かね?」

「はっ!!」

 

くすんだ金髪と薄い髭に鋭い目つきを持つその男はエルメッツァ軍の背広組トップであるルキャナン・フォー軍政長官だった。彼はゆっくりと歩きながらオムスに話しかける。

 

「今回のスカーバレル討伐ご苦労だった。大統領閣下も非常に感心しておられる。ついては大統領御自身で報告を聞きたいそうだ。オムス中佐、至急大統領府へ赴き報告したまえ。」

「は?はっつ!!直ちに!!」

 

一瞬訳が分からないといった顔をしたオムスだったが、その言葉の意味を理解すると声を張り上げて敬礼し走って部屋を出ていく。

 

「ぐ、軍政長官!どういうことですか!?報告ならば上司である私から――――」

 

一拍遅れてからモルポタがルキャナンに抗議を声を上げる。その態度は仮にも一介の大佐が軍のトップにとる態度では無かったが、上司を差し置いて部下が直接大統領に報告するという異常事態に混乱した彼がそこに気づくことは無かった。

 

ルキャナンはそれを手で制するとゆっくりとモルポタに対して向き直る。

 

「大佐、大統領閣下はこの国に繁栄をもたらす人物を求めている。――――それが保守派であろうと改革派であろうとな。」

「ッ!」

 

その言葉に固まるモルポタ。ルキャナンはそれを一瞥するとそのまま部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時と場所は移り変わって数日後、アルタイトの姿は惑星ネロの宇宙港にあった。その艦長である私ことシーガレットは地上へ降りて酒場へと入る。

 

相変わらず賑やかなネロの酒場で、マスターに待ち人について尋ねる。快く教えてくれるついでに彼は一杯の酒を入れてくれた。

 

「おいおい、注文してないぞ。」

「なーに、スカーバレルの連中が潰れてくれたおかげでここに来る連中の顔が明るくなった。それを祝っての一杯で無料サービスって奴だ。遠慮なく飲んでくんな。」

「じゃあつまみも一つ頂こうかな。」

「そっちは有料だ。」

 

どうやら祝杯を利用してちょっと小遣い稼ぎをしているらしい。その抜け目のない所があるから0Gドック御用達の酒場を切り盛りできるんだろう。

 

つまみの茹で豆を一皿持って、マスターが教えてくれたテーブルへ向かう。

 

「君が依頼者か?」

「あぁ、貴女がシーガレットさんですね。お待ちしておりました僕が依頼者のモートンです。」

 

そう言ったのはまだ若い少年達だった。モートンと名乗った少年の他に少年と少女一人ずついる。3人とも外見から見てもユーリ君より1つか2つ上だろうというくらいだ。

彼に促されて席に座った私は酒を一杯飲んでから口を開く。

 

「じゃあ、早速依頼について聞こう。」

「はい、ミッションは提示した通り僕等の船の護衛です。場所はここからロウズまで、報酬は500Gです。」

「ロウズ・・・。」

 

聞き覚えのある名前に思わず口に出てしまう。確かユーリ君達の出身地であり、領主が死んだ事で今はエルメッツァ政府への併合が進んでいる場所だ。

 

「ふむ、何か高価な物でも積んでいるのか?」

「えぇっと、主な積み荷は医療用の薬です。向こうではあまり出回っていない医薬品なので高く売れると思いまして。」

「薬か・・・護衛が必要な程の積み荷とは思えないが・・・。」

「いや、ここら辺の航路にはスカーバレルっていう海賊が跳梁跋扈しているらしいですから利益よりも安全を取っていこうという事で護衛をお願いしたんです。」

「ん?スカーバレルならこの間壊滅したぞ?」

 

その言葉に3人はえっ!?と驚いた顔をする。っていうか店でそういうサービスやってただろう。ニュースを見ていないのか?

と彼らを見ていた所で、私は何か違和感を覚えそれを尋ねる。

 

「もしかして君達、この国の人間じゃ無いのか?」

「はい、実は僕達はネージリンスっていう国の出身で、商人として修業中なんです。」

「この国にはつい3日前に入ったばかりなんです。」

 

彼等3人ともあまり見た事の無い服を着ていることからの予想だったが的中したようだ。

うーむ、商人として修業中の子供達か。そういえばネージリンスという国は確か技術と商業の国と呼ばれていたな。

 

「なるほど商人としての修行ね。まだ若い時から頑張っているな。」

「ありがとうございます。」

「そういえば、君達はロウズに行ったことがあるのか?」

「いいえ、ありません。」

「無いか、で、護衛のミッションはどうするかね?スカーバレルが壊滅した今護衛なんて必要ないだろう。」

「えぇ、ですから今回は「ただし」―――」

 

彼の言葉をわざと遮って私は話始める。

 

「スカーバレルが壊滅したといっても一隻残らず軍が捕まえた訳じゃ無い。海賊のボスが居なくなっただけで残党は今でもこのエルメッツァの宙域をうろついているだろう。その証拠にほら。」

 

そういって私は端末に表示したネットの記事を見せる。

 

―――残虐非道なスカーバレル海賊団の首魁アルゴン討伐される―――

本日中央政府軍によってこの宙域にて海賊行為を行っていたスカーバレル海賊団の首魁アルゴン・ナバタスカが討伐された事が発表された。同海賊団には100隻以上の海賊船が所属しており海賊としてこの宙域最大の勢力を誇っていたが軍の活動によってその首魁の死亡が確認された。

中央政府軍は、アルゴン討伐時に多数の海賊船を撃沈しており今後は残ったスカーバレル海賊団の残党討伐へ向けて活動を行うと発表している。

 

「この記事には具体的にスカーバレルの船が何隻沈められたのか書いていないが、私が手に入れた情報では未だに100隻近い船が残っているらしい。」

「100!?」

「ほとんど残っている訳なの!?」

「じゃあこの発表は嘘だって事か!?」

「いや、アルゴンが死んでスカーバレルが事実上壊滅したのは本当だ。だが、その残党は今も海賊行為を働いている。御役人サマはメンツを気にするから具体的な数を書かないだけさ。」

 

そういって3人に落ち着くようにいう。

ちなみに私が生き残りの海賊船を100隻といったのは別に嘘は行っていない。60隻を四捨五入したら100隻であって立派な事実である。

ただし、数字とは言い方と受け取り方次第で大きくも小さくもなるものだ。

 

「で、どうする?まだ海賊が残っているこの宙域を護衛無しで航海するのか?」

 

それは暗に護衛ミッションを取り下げるなと言っているのと同じである。私達も当然金が欲しいのでただついていくだけで500Gも手に入れられるミッションをみすみす逃す手は無い。

一見悪徳な方法だが商人を目指す以上常に最新かつ正確な情報を仕入れ精査しなければならない。なまじ誤った情報をもって商売するとどうなるか一度体験しておくのも経験だろう。

 

他の二人が見つめる中少し考えていたモートンが顔を上げた。

 

「分かりました。護衛をお願いします。」

「引き受けよう。」

「その代わり僕らの船への損害が出た場合その費用は全額そちらで支払って頂きます。」

「それはそちらのミス・・・例えば、操船の不手際や操作ミスによる破損の損害も私が持たなくてはいけないのかな?」

「いえ、この場合の損害は海賊によるもので僕らの船と積み荷に出た被害、それとそちらがこちらへ何かしらの損害を与えた場合のものです。積み荷に関しては元の代金と予想される利益を、船の損害に関しては修理費用やドックまでの時間を換算したものと人員の損害に関しては治療費を請求します。」

 

その言葉に私は内心感心した。てっきり右も左もわからないお遊びでやっているものかと思っていたが、きちんと契約を詰める事ができて本気で商売をしようとしている事が彼の言葉と目からも分かる。

 

「了解した。君達は海賊に指一本触れさせないから安心してくれたまえ。」

 

そういって私が右手を差し出すとモートンはそれをしっかりと右手で握り返し護衛ミッションを受ける事となった。

 

 

 

 

「インフラトンインヴァイダー起動、出力安定。航海計器異常無シ。」

「管理局からの出港コード確認。」

「よし、出港する。目的地は惑星ロウズ。」

 

ネロの宇宙港からモートン達を乗せたジュノー級駆逐艦が出港する。全長およそ300mのジュノー級は艦級こそ駆逐艦だが、実際には輸送船に武装を施しただけの改造貨物船であり戦闘力に関してはこと最低限のレベルしか無い。

 

出港の指揮を執っていたモートンは数時間前に交わした護衛契約について後悔していた。契約を交わした後スカーバレルについて調べていく内に、実際はほとんどの艦船が沈んだと発表されている事や近日の海賊被害の数が少ない事を知ったのである。

 

自分達がこの近辺の情報に疎い事に付け込まれ必要の無い護衛契約を結んでしまった所為で出た損害を思うと、シーガレットに対する怒りと情報をよく調べなかった自分の至らなさから彼の気分は最悪の2歩手前といった所だった。

 

「これはある程度高値で売らないと利益が出ないな。」

「しょうがないわよモートン、商売をしていれば損をする事もあるのは普通でしょう。」

「ま、金を出して安全を買ったと思えばいいさ。そう落ち込むなよ。」

 

二人の仲間が励ましてくれたおかげでモートンの心はいくらか軽くなった。

 

「さて、先に出港した護衛と合流しないとな。向こうの位置は分かるか?」

「既に位置は送られてきているわ。」

「じゃあ早い所そこへ向かおう。」

 

そう言ってモートンはシーガレットと合流する為に船の進路を変える。そして5分程するとその護衛の姿が見えてきた。

 

「・・・なぁあれ何に見える?」

「・・・要塞か?」

「でも信号はあの人の信号よ、間違いないわ。」

 

シーガレットから送られてくる座標に存在する要塞に3人は信じられない物を見るような顔をするが、信号はしっかりとあの要塞から出ている。

当然ながらあれは要塞では無く船なのだが、今まで見たどんな船よりも巨大なその艦影に3人は衝撃を隠せないでいると不意に通信が入る。

 

『こちらはシーガレットだ。その駆逐艦が護衛対象の船で間違い無いな。』

「こ、こちらモートンです。そうです、この船が僕達の船です。」

『了解した。今回はデータリンクで共に航海する。操船権はこちらで貰うが構わないか?』

「はい、大丈夫です。」

『分かった。そちらの航海システムのデータリンクコードを交換してシステムをスレイブモードにしてくれ。データリンクが確立次第ロウズに向け出発する。』

「分かりました。」

 

モートンがコードを送り互いの船のデータリンクを接続する。少しして接続確認と出発の報告が来ると、巨大な戦艦と小さな貨物船は共に光速の200倍ものスピードを出すアイキューブエクシード航行を開始した。

 

その速度ゆえに宇宙に煌めく星々が高速で過ぎ去りるように映し出されるスクリーンとその中で圧倒的な存在感を放つその巨体を見ながらモートンはポツリと呟く。

 

「・・・なんかすごい人に護衛を頼んじゃったな。」

 

怒りも不満も忘れて思わず漏れたその言葉に二人も無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

航海中は海賊と遭遇する事も無く無事に惑星ロウズまでたどり着けた。感想としては田舎の星といった感じだ。

 

「辺境で流通が止まっているって聞いたんだが意外と船がいるんだな。」

「聞いた所ですとこの星にエルメッツァの企業が大規模な工場を建てるらしいですよ。それに関係した船だと思います。」

 

宇宙港で合流したモートン達に話題を振るとそんな答えが返ってくる。

 

「ほーん、こんな辺境でも工場が出来ればいろいろ発展していくだろうな。」

「どうでしょう・・・おそらくそこまで発展はしないかも知れません。」

 

将来的にはここまで貨物を運びに来るかも知れないと思っていた所でのモートンの反応は私にとっては意外なものだった。

 

「どうしてだ?」

「おそらくここに工場を建てたのは費用が安い事が理由でしょう。ここはつい最近まで閉鎖されていた所為で経済的にはかなり冷え込んでいて、貧困の割合も高いんです。今それが解放されたんですが、土地も人も資源もかなり安く手に入る状態になっているんです。ここで安く作った製品を中央や他の国で売ればコストが安い分かなり儲けになりますからね。」

「うん?でもちゃんと金は入るんだろう?」

「えぇ、まぁ。しかしおそらく中央の10分の1程度の給料しか払われないでしょう。」

「そ、そんなにか?」

「法律とか労働者の反発とかいろいろあるのである程度発展している星ではあまりコストを削れないんですよ。しかし、こういった貧乏な星だとコストをどんどん抑えられますからね。輸送コストを差し引いても近場で作るよりも安く生産出来るんです。そしてコストを抑えた分生産地に回るお金はぐっと少なくなります。この星の現状はあまり変わらないでしょう。」

 

なんともまぁ世知辛い世の中である。やっぱり地上ってのは生きづらそうな場所だ。

なんてことを考えていたらモートンがクレジットを出してきた。

 

「それではこれが報酬の500Gになります。」

「確かに受け取った。また呼んで貰えたら嬉しいよ。」

「ははは、その時はもっと安くお願いしますよ。」

 

ありゃ、どうやら気付いたらしい。そうして私達は別れると彼らは自分達の荷物を売り払いに行き私は酒場へと向かった。

ロウズの酒場は結構閑散としていた。まるでゴッゾの酒場を思い出してしまう。あまり船乗りが寄り付かない場所なんだろう。

 

「とりあえずおススメを一つ。」

「あいよ。」

 

そういって出された酒を飲む。味は・・・正直微妙だ。水か何か混ぜ物がしてあるのか薄い。

 

「お客さん、本国の人かい?」

「ん?いや、私はただの流れ者さ。本国の方から来たけどな。」

「そうか、つい最近までこの星には他所の0Gドックなんか来なかったんだ。それが最近、中央のおっきい会社がここに工場を建てるっていうんで船の往来が多くなってね。ここに来る0Gドックも少しずつ増えてるんだ。」

「ほーん・・・。」

「ようやくここの酒場も景気が良くなるだろうな。」

「うぃ~、おやじぃ、もう一杯。」

 

なんて話をしていた所で隣に座っていた男がジョッキをマスターに立てる。

 

「旦那いい加減にしてくんな。この間の金だってまだ払ってないだろう?」

「うるせぇ、酒場の景気が良くなるってんなら俺達みたいな失業者にちょっとくらい恵んでくれてもいいだろぅ?」

「失業者に出す酒はねぇよ。」

「なにぃ!?それ以上言うと公務執行妨害で逮捕するぞぉ!」

「公務も何も旦那、警備隊をクビになったんだから公務員でも無いでしょ。」

「うるせぇ!なーにが併合だエルメッツァの役人共め!あの野郎ども人の仕事どころか船までかっぱらって行きやがった!!これからどうやって生きて行けってんだよ!!酒だ!酒!!」

 

そういってしきりに酒をねだる男に対し、マスターはやれやれといった顔をしている。

 

「マスター、こいつに酒を一杯やってくれ。」

「え?」

「同じ宇宙船乗りの情けだ。後、隣で騒がれるとうるさくて敵わん。」

「まぁそういうならいいけどよ。」

「お!ねぇちゃん0Gドックなのか!?その情けに感謝して乾杯といこうや、ついでに俺もあんたの船で雇ってくれるとありがたい。」

「図々しい事この上ないな。」

「わっはははははっ!船も仕事も失ったんだ!それくらいは大目に見てくれよ!あ、俺の名前はバドガス・バーランといいますんで、よろしく頼みますよ艦長殿。」

「おいおい、私は乗せるとは・・・まて、なんで私が艦長だってわかったんだ?」

「ふっふっふ・・・勘ですよ、カ・ン。こう見えても鼻は利く方なんでねぇ。あとこれ私のフェノナメログですわ。」

 

そう言ってログを渡してくるバドガス。さっきまで呂律の怪しい声でマスターに絡んでいたかと思えば急に明瞭に話始めてくる。ログを宇宙遊泳やEVAなどの経験が豊富で特に問題があるようには見えない。

 

「ま、いいだろう。今日のおごりは次の給料から引くからな。」

「えぇ大丈夫ですとも!きっちり働いて返しますよ!」

「ならこの前とその前のツケ合わせて500Gも今払ってくんな。」

「は?」

 

 

結局、マスターにバドガスのツケ500Gを丸々肩代わりさせられてしまった。さっきの護衛の報酬が全部パーである。この野郎、これで仕事ができなかったら海賊にでも売り飛ばすからな・・・。

 

 

 

 

 

「ほいっと着桟完了です艦長。」

「ご苦労さん。」

 

惑星トトラス、このロウズ宙域唯一の造船工廠がある星というだけあってそれなりに発展している・・・訳では無くロウズよりも多少寂れた星である。なんでそんな星に来たのかというと、たまたまロウズからトトラスへの貨物輸送の依頼があったので引き受けて立ち寄っただけだ。

 

「じゃあバドガス班長、荷物の搬出は任せたぞ。」

『了解しました艦長。』

 

この間酒場で雇ったバドガスは甲板長兼整備班長として、積み荷の管理や日常的な整備などを任せている。警備艦の艦隊指揮も執ったことがある管理職経験者にそうした業務を任せる事にした。彼の伝手で旧ロウズ警備隊のメンバーが何人かクルーとして登録されている。

 

そして私はトトラスの艦船設計社に立ち寄る事にした。資金に余裕があるので何か設計図が無いかと思ったのが理由だ。

 

「うーん、辺境自治領だけあってこんなものか?」

 

手に入った設計図は改装駆逐艦のアルク級とジュノー級、そしてレベッカ級警備艇の設計図だった。どれも小回りは効くが戦闘用としてはかなり心もとない。駆け出しの0Gドックや密輸なんかやるような裏社会の人間には都合がいい船達だろうがあいにくと今は用が無かった。

 

酒場も水割りの薄い酒しかなく大した情報も仕事も無かったので、とっとと船に引き上げた所だ。

 

「艦長、戻って来たんですね。」

 

船内に入ると私を待っていたというようにエドワードが立っていた。

 

「あのー、艦長。実は折り入って相談があるんですけど。」

「ん?」

「実はちょこちょこ開発していた新型艦載機が完成したのでそれのお披露目をしたいんですよ。どこか艦載機を思いっきり動かしてもいい所に行きたいんですが?」

「あぁ、それならこの先にあるマイラス宙域って所が・・・ちょっと待て、いつの前にそんなもの作ってたんだ?」

「いやぁ、海賊討伐前からちょこちょこと。」

 

最近研究室に何やら大型資材が搬入されていると思ったら艦載機を作っていたらしい。

 

「艦載機ならオッゴで十分だろう?なんでまた新型機なんか。」

「艦長、技術は常に進歩しています。強力な敵艦載機が出てきてもおかしくありません。常に研究しより優れた艦載機が必要なのです。」

 

拳を握り締めて力説するエドワード。確かに前回討伐したスカーバレルでも艦載機を運用していたし、防空の為に強力な艦載機を用意するのに越したことは無い。それは良いんだが・・・。

 

「お披露目なんかしてどうするんだ?」

「予算付けてください。」

 

この男、即答である。

 

「今の予算じゃダメなのか?」

「足りないっす。」

「具体的には?」

「6000。」

 

コイツお披露目してすげーって言わせてから予算を納得させるつもりだな。

 

「面と向かって金くれってよく言うな。」

「艦長には資料渡したりプレゼンするよりも実機を見せた方が分かりやすいでしょう?」

 

否定はしないが。

 

「分かった。いい機体が出来たらちゃんと予算を付けてやる。」

「ありがとうございます!」

 

そういってエドワードはブリッジを出ていく。私はコンソールを操作して次の目的地までの航路を設定する事にした。

 

 

 

 

 

やってきたのはマイラス宙域、トトラスの奥にある小惑星帯で以前は採掘が盛んだったらしいが、あっという間に資源が枯渇して今はデブリがちらほら浮かんでいるような寂しい宙域になっている。

その宙域についたアルタイトでは、格納庫で試作機のお披露目がされていた。

 

「わぉ・・・。」

「艦載機と聞いていたんだが、こいつは・・・。」

 

集まる面々が口々に驚きの声を上げる。

 

それもそのはずで、なんとこの試作機には足がついていたのだ。

オッゴと同じモノアイの頭部に箱型の胴体、その脇にはオッゴのマニュピレーターとは違う装甲が施されたアームがつけられており、背中には巨大な推進器も付けられている。足もスラスターユニットがそれっぽく見えている奴では無く、しっかりと地面に立つための足だ。

 

まさに人型ロボットといっていい姿が、わざわざライトアップされていた。

 

「全長20m、重量50t、宇宙空間のみならず地上などあらゆる場所で多彩な作業を想定して作られた機体です。それを再現するために形は人型をモデルにしています。これによって戦闘、採掘、修理、地上戦にも対応可能です。」

「超万能汎用機って事か。」

「武器はどうするんだ?」

「今装備できるのは艦載機用のリニアカノンとプラズマカッターのみです。ですがこいつはアームに武器を装備する想定をしていますので、既存の艦載機と違い様々な武器を搭載し、かつ戦場で迅速に使用する火器を切り替えて戦闘する事が出来ます。」

「ほぉ・・・でもこれ、こんな動力パイプとか中身とかむき出しでいいのか?」

「それはその・・・試作機ですので。」

 

確かに見るとパイプやら中の駆動部品の様なものが見えてしまっている。作業用機械としてならまだしも、流石に戦闘機としては採用できないが、試作機ならしょうがない。

 

「で、こいつを操縦するパイロットは誰だ?」

「ポプランさんにお願いしました。」

 

エドワードが指さす先を見るとコックピットが開いてポプランが手を振っている。

 

「じゃあこれより、試験を開始します。」

 

 

 

 

 

格納庫から移動して一同はブリッジに集まる。宇宙での性能試験を見るならモニターしやすいのはここだ。

 

「ポプラン機発進用意、カタパルトへ。」

『おう、任せときな。』

 

そういってポプランがペダルを操作すると、試作機が一歩踏み出す。

 

「歩いた!」

「あの大きさのものが歩くのは意外と壮観だな。」

 

口々に感想をいうメンバーを他所に、試作機がカタパルトへと足を進める。

 

『発進!』

 

そのまま試作機はカタパルトから打ち出されて、宇宙へと飛び出す。宇宙には空気抵抗が無い為、どんな形状のものでもスラスターの推進力さえあれば飛ぶことが出来るのだ。

 

「では、各部動作の試験に入ります。それぞれの作動をチェックしてください。」

『おーけーだ』

 

一度船のそばで停止した試作機はそこでアームや足の動きなどをテストする。ポプランの奴ふざけて平泳ぎなんてしていたが、エドワードはガッツポーズをしてリヒャルト博士は見事な制御だと言っていた。私にはポプランがふざけているようにしか見えないんだが。

 

武器の射撃試験も行われ、艦載機用リニアカノン(ファズマティから分捕って来た奴らしい)の連射も問題無し。プラズマカッターを振り回して流れてきたデブリを切断したりもしていた。

っていうかあのカッターオッゴについていた奴よりも強力だろ。7~8mくらい伸びるし小さな岩石を一刀で切断していたし。

 

「では次に運動性能試験に入ります。船の周辺を適当に飛んでみてください。」

『なぁ?思いっきりやってもいいのか?』

「えぇ、思いっきりやってください。」

『よーし、任せとけ。』

 

そういってポプランが思いっきりスラスターを吹かして機体が急加速する。円を描いたり、直角に曲がったりとしている。スピードはそこまで早くないが、人型の関係上スラスターの大きさや推力に制限が掛かるのでしょうがないらしい。

 

「流石ポプランさんですね。次は模擬戦試験を―――〈ビーッ!!〉―――なんだ!?」

 

突如として警報が鳴りエドワードがコンソールに表示されたアラームを見る。それと同時にポプランから無線が入る。

 

『おい!どっかイカれたみたいだぞ!?減速が出来ん!!』

「は?」

 

モニターに映るのは操作パネルを慌てて操作するポプランと減速せずに突き進む試作機。その進路はまっすぐに船を目指していた。

 

『どうなっている!?』

「お、おそらく制御システムの一部が暴走したようです・・・今バックアップを使って復旧しています!!」

 

慌てながらコンソールを操作するエドワード。その間にも暴走した試作機は、アルタイトに向かって突っ込んでくる。

 

「対空迎撃の用意出来ているぞ艦長。」

「冗談は程々にしておけトーレス。ディエゴ、ダスティ、回避機動だ!」

「「了解!」」

 

アルタイトが身をよじり回避を始めるが、試作機の方は暴走が悪化したのか螺旋状に飛び始める。

 

そして、

 

『うおぉぉぉおおお――――――――』

 

試作機の復旧もこちらの回避も間に合わず、機体は船体上部をかすめた反動でくるくる回転しながら反対舷へと飛んでいく。もし宇宙に音があったらがしゃんという精密機械を壁にぶつけたような音がする事だろう。

 

「ポプランは無事か?」

「えぇっと通信は切れましたが、爆発閃光は確認していません。」

「じゃあ生きているな。コーネフに連絡して機体を回収してもらってくれ。」

「了解です。」

 

アズキの報告に多分生きていると判断した私は、コーネフにポプランと試作機を回収するように言う。

 

「こ、こんなはずでは・・・。」

「失敗は付き物だよ、技術というのは常に失敗の上に成り立っておるんじゃからな。」

 

落ち込んでいるエドワードを慰めるリヒャルト。結構自信があったエドワードはかなり落ち込んでいる様子だがリヒャルトにはそんな様子が見られない。

 

後で彼から言われた事だが、技術開発など失敗して当然で100の失敗から1つの成功が生まれれば万々歳なのだと。

 

で肝心の予算なのだがお披露目であんな事故を起こしたので無し。と言おうとしたのを先ほどの論法による熱弁で押し切られてしまい結局当初の半分の予算を分捕られた。

 

新たなものを作り出すにはそれなりの代償が必要だと二人は宣言していたがその金を生み出すのに星々を何往復しなくてはならないのか・・・科学者っていうのは全く・・・。

 

それとこれは余談なんだがリジェネーションポッドから飛び起きたポプランがエドワードに飛び掛かったのは、言うまでも無い。

 

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