異常航路   作:犬上高一

4 / 13
第4話 しなければならない事

 新しい船員を乗せた小型船アルタイトは、リベリアからフラベクへと向かっている最中だった。積み荷はミッションで受けた貨物とフラベクで中々見かけない嗜好品や贅沢品が多少だ。航行許可は往復で有効なので、この隙に向こうで売れそうなものや運ぶものは兎に角積んでおく。

 

「艦長。機関のチェック終わりました。何も問題なしです。」

 

 機関のチェックを終えたエドワードが戻ってきた。彼が思ったよりも優秀な人物で、マニュアルをしばらく読んで実物を観察したらある程度の事は出来るようになっていた。何か秘訣があるのかと聞いたら、研究所でこうした機械をかなり扱ってきたらしい。その経験のおかげだそうだ。

 

 ヤッハバッハは有能な人材であれば、被征服民でも高い地位に就くことが出来ると謳っているが、全知全能という訳でも無いらしい。こうして有能な人材を0Gドッグにしてしまっているのだから。

 

 まぁ、人の思いは数式で表せないものというように、能力だけですべてがうまくいく訳では無いのだろう。

 

 

「・・・そういえば、以前いた研究所ではどんな研究をしていたんだ?」

「色々やってましたけど、主に兵器とかAIとかの軍事部門でしたね。」

「兵器開発なんてやっていたのか。」

 

 どう見ても兵器開発をしている顔には見えないのだが、人は見かけによらないという事か。

 

「それで後は何をしましょう?」

「何もない。」

「え?」

 

 何もないのである。意外に思うかもしれないが、各部のチェックさえやってしまえば後は何も問題ないのだ。ヤッハバッハのおかげで海賊が居なくなり、警戒の為にレーダー画面とにらめっこする必要もない。つまり暇だ。

 

「航路も平和だからね。フラベクに着くまで自由行動だ。」

「じゃあ部屋で研究とかしていてもいいですか?」

「あぁ構わない。何かあればアナウンスがかかるから。」

「分かりました。じゃあ失礼します。」

 

 そう言ってエドワードは退室する。後はフラベクまでゆっくり行くだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 何事も無くフラベクへ着いた。着いた足でフラベクの酒場へ行きマスターに荷物を渡す。

 

「いつもご苦労さん。なんか飲んでいくか?」

「いや、ちょっと用事があるんだ。後で来るよ。」

「そうか。報酬はこれだ。」

 

 マスターからクレジットの入ったデータチップを受け取り酒場を後にする。

 

「艦長。この荷物何処に運ぶんですか?」

「いいからついてこい。」

 

 酒場の外で待機していたエドワード。彼の傍らにある反重力カート(反重力を用いた台車)にはコンテナが一つ乗っかっている。エドワードにそれを押させて私達は、少し離れた裏通りに入る。

 

「これから行く先はあまりいい場所では無い。向こうで何を聞かれても黙っている事。向こうで起こった事を誰にも教え無い事だ。」

「わ、分かりました。」

 

 据えた匂いのする裏通りを進んでいくと、一軒の民家にたどり着く。扉の前には煙草を吸いながら座っている一人の男が居た。

 

「・・・シーガレットか。まだくたばってなかったか。」

「おかげさまでな。」

「そっちの男は?」

「新入りさ。問題ない。」

「そうか。」

 

 そういうと男は扉から退く。入れという意味だろう無言で顎をしゃくった男に従い、民家の中へと入った。中には黒いフードを被った男がいた。

 

「今日はどんなもん持ってきたんだシーガレット。」

「ここじゃ手に入りにくい品がいくつか。」

「どれ、見せて貰おうか。」

 

 男は台車にあったコンテナを開ける。中にはこの星では手に入らない酒や煙草などの嗜好品がぎっしりと入っていた。

 

「おー。これはずいぶん良い物が入ったじゃねぇか。」

「今回限りだ。これと同じものが10個。いつもと同じところにある。」

「ケッケッケッ・・・。こいつはいいや、リベリアの酒なんかご無沙汰だったからな。」

「報酬は?」

「おっとすまねぇ。」

 

 そういうと男はクレジットの入ったデータカードを差し出す。そこには2000Gと表示されていた。

 

「これだけうまいもん出されたら、それだけ金払わねぇとな。」

「どうも・・・。じゃあな。」

「つれねぇなぁ。少しは世間話でもしていけや。」

「あまり長居すると互いの為にならないのでな。」

 

 こういう所に長居するのはあまりよろしくない。それこそヤッハバッハに嗅ぎつけられたら厄介どころの話ではない。それは向こうも分かっているのか、つれなねぇなと一言呟くと男はコンテナの中から酒を取り出し、飲み始めた。

 

「そういや知ってるか?最近レジスタンスの拠点の一つが壊滅させられたらしいぜ。」

「ほぅ。そんな事が。」

 

 私は当たり障りのない答えをしたが、男は鋭い視線を浴びせてきた。唯それも一瞬の事で、すぐに視線を外すと酒を一つ飲んだ。

 

「半日とかからず壊滅させられたそうだが、なんでもヤッハバッハの連中は新兵器を使用したそうだぜ。」

「どんな新兵器を使ったんだ?」

「さぁな。そんなもの俺が知る訳もないだろう。ま、ヤッハバッハに逆らう奴らに対する見せしめと、新兵器の実用試験ってとこだろうさ。」

「そうか。」

 

 それだけ言うと私は扉を開ける。今のは所謂今回の酒や煙草に対する礼のオマケという奴だ。今日の奴はずいぶん機嫌がいいようだ。まぁ滅多に手に入らない酒を手に入れられたのだから当然か。

 

「所で、そっちの男はお前の新しい恋人かい?夜の具合はどうだ?」

「・・・。」

 

 私は何も言わずに扉を力強く閉める。閉めた後でエドワードを中に置いてきた事に気付くが、開けるのも癪なのでそのまま傍に居るとエドワードはすぐに出てきた。

 

 私達はそのまま酒場へと戻る。船に戻っても良かったが、まぁどうせなら酒を飲もうという訳だ。

 

「さっきの男。あれは誰です?」

「裏町の商人といったところだ。好き好んで関わるべき人間じゃあない。」

「ならどうして艦長はあんな奴と取引を?」

「・・・このご時世辺境の船乗りをやるには、それなりの金が必要だからな。」

 

 でなければかかわることなど無い。ヤッハバッハの航行制限の所為で、フリーの0Gドッグに著しい行動制限がかかったのだ。明確に規制されている訳では無いが、資源採掘や探索など常に宇宙を動き回る0Gドッグにとっては重い足枷となった。船を維持するにも金がいるが、航行制限の所為で思うままに船を動かせないのだ。金が稼げない0Gドッグは船を降りるか、ヤッハバッハの目を掻い潜るか、何処かの貿易商の専属になるかだ。

 

 「ヤッハバッハが来てからは、色々と変わった。地上にいる連中からしたら生活の質が上がって嬉しいだろうが、私達からすれば死刑宣告にも等しい。そんな中で0Gドッグをやるにはいろいろな覚悟がいるのさ。」

 

 私の言葉にエドワードは何も言わなかった。ただ黙ってコップに酒を入れてくれた。私もそれ以上は何も言わなかった。多分私が言わんとしていることが分かったのだと思う。

 

 私達はしばし黙った酒を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 この数日、俺の周りの環境は著しく変化した。そもそもの原因は、上司からフラベクへサンプル採取に行けと言われ、予定通りサンプルを回収していざ帰ろうと思えば

帰りの船が居なかった所為だ。

 

 連絡も付かず今まで溜めていた貯蓄を切り崩して自力で船を手配し、カードを落とした所為でヤッハバッハに尋問され、ようやく帰ってきたと思えばクビだ。

 

 あの時の上司は、自分が仕組んだ事が上手くいったとばかりにニタニタ顔で「黙って俺に従えば、置き去りにされる事も無かったのにな」と言ってきた。

 

 さすがにムカついたので、本気で一発股間に蹴りを入れてやった。

 

 そのまま啖呵を切って家から目に付いた必要そうなものを片っ端から持ち出し、街へ出たのだ。行く当ても無く歩いていた所をシーガレットさんーーー船長に出会った。

 

 酔って足取りもおぼつかない彼女を、船まで運んだ。その時だ、0Gドッグになる事を思いついたのは。失う物も何も無い。今まで研究所では気分良く働けなかった。0Gドッグなら命の危険はあるが、その分やりたい事が好きなだけできると聞いた。研究所よりも0Gドッグの方が良いかもしれない。

 

 駄目元で頼み込んだら、ひとつ質問された。

 

「貴方はヤッハバッハを・・・ヤッハバッハに支配されたリベリアをどう思う?」

 

 正直最初は何を言っているのか分からなかった。これは一つの採用試験だろうと思い、正直に答えた。リベリアもヤッハバッハも知った事か、俺は研究がしたいんだと。

 

 それを聞いた船長は合格をくれた。その日から俺は輸送船アルタイトの船員になった。

 

 航海中に機関のチェックなど、出来る事をやりながら、空いた時間で少しずつ自分の趣味に打ち込んでいった。良い環境だと思った。上司はうるさくなく、静かに1人研究に集中できる。機材などは無いが、煩わしさが無い分気が楽だった。

 

 フラベクへ降り、裏商人との取引を見た。品の無い男でどうして船長があんな奴と関わりがあるのが気になり聞いてみた。

 

 ーーーいろいろな覚悟がいるーーーその言葉で気付いた。0Gドッグとして食っていく為には、それなりの事をやらなければならない。非合法な事を行う覚悟も必要なのだろう。そうじゃ無ければヤッハバッハをどう思うなんて質問をする訳がない。

 

ーーーーーー面白い。

 

 リベリアもヤッハバッハも知ったことか。俺は俺のやりたい様にやる。俺が作りたいものを作るために、天下のヤッハバッハ様にも逆らってやるさ。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。