異常航路   作:犬上高一

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今回から文字数が増えます。


第5話 ナノマシンとコイントス

 現在アルタイトは、ぜアマ宙域に来ている。目的地はセクター4。サンテール基地のある暗礁宙域だ。

 

「艦長・・・。こんな所航行して大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。一応デフレクターは機能している。」

「それなら良いですけど・・・。」

 

 岩石の間を縫う様に進んでいき、ようやくビーコンを捕まえる事ができた。ビーコンをたどりようやくあの巨石、サンテール基地が見えてきた。

 

 「こちらシーガレット。ドロイドが3体壊れた。誰か代わりのドロイド5体か、手伝ってくれる人6人くらい来て欲しい。報酬は254G(ガット)出す。」

 

 前回も送ったこの通信は合言葉のようなものだ。それぞれの船によって送る言葉は違う。

 

「なんです?その通信。」

「まぁ見ていろ。」

 

 そう言っているとサンテール基地のゲートが開かれた。エドワードは開いた口がふさがらないといった次第だ。その顔は結構抜けていて面白かった。

 

「な、なんなんですかあれ?」

「今回の商売相手さ。」

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん、茶でもどうだい?」

「・・・思うんだがお前はいつも同じことを言うな。」

 

 思い返すとこいつはいつも同じことを言ってくる気がする。 会った相手には茶を進めないといけない呪いにでもかかっているのだろうか?

 

「・・・そちらの人は?」

 

 などと考えていたら、ランディがエドワードに気付いた。彼につい最近雇った新しい船員だと伝える。

 

「へぇ。あのシーガレットが新しい船員を雇うとはねぇ。珍しい事もあるもんだ。」

「いい加減人不足が酷かっただけだ。」

「そうか。じゃあ彼は医務室に連れて行くよ。」

「え?」

「あぁ、私はベルトラムに話をしてくるから。」

 

 そう言って私はその場を後にする。エドワードは訳も分からずランディに連れていかれた。

別にエドワードが何処か具合が悪い訳では無い。これから彼が医務室に行くのは、ナノマシンを投与する為である。ナノマシンは脳神経に働き、この基地の事を他人に話そうとするのを防ぐものだ。この基地に関係する事を話そうとするとナノマシンが脳に働きかけて意味不明な事を話させる。文字やデータ入力も防ぐものだ。他に機能は無く、死に至る事も無い。ただこの基地の情報を他に伝える事が出来ないだけだ。

 

 無論私も投与されているし、この基地に関係のある人間は全員投与されている。裏切りを防ぐのと、敵に捕まっても情報が漏れないようにするためだ。このおかげで現在までこの基地は発見に至っていない。

 

 ちなみにナノマシンを投与した後少しの間宇宙酔いのような状態になる。

 

「来たな。自称善良な0Gドッグ。」

「自称も何も私は善良だよ。」

 

いつもの掛け合いをして、ソファに座る。向かいのソファに腰かけたベルトラムは、どこか機嫌が良さそうだ。

 

「機嫌が良さそうだな。何かいい事でもあったのか?」

「ん?あぁ、フリーボヤージュがいい鉱脈を見つけてくれてな。なんとか金の当てがついたのさ。」

「ほう、それは良かった。」

「お前の方こそ何かあったのか?一人でやっていくと言っていたお前が、人を雇うなんて珍しいじゃないか。」

「さすがに、人手が足らなくてな。」

「なんだ、老化でも始まったのか?」

 

 ・・・ふざけた事を抜かすベルトラムを睨む。失言に気付いたベルトラムはすぐに取り消した。

 

「あ、いや悪かった。」

「分かればいい。」

 

 反省しているようなので今回は許す事にした。

 

「お詫びという事で、今回は高めに買い取ってくれるんだろう。」

「ぐ・・・仕方ない・・・。」

 

 ここでふとある事を思い出した。ここへ逃げ込んできたレジスタンス達の事だ。リーダーのギルバードは敵討ちとかなんとか騒いでいたが、下手な行動を起こすとこっちまで巻き添えを食らう。

 

「フリーボヤージュやディエゴも説得してくれて、何とか抑えているよ。」

「ほう。ディエゴが説得を。」

 

 復讐に燃えた奴ほど何をするか分からないから、ディエゴも説得するしかなかったのだろう。

 

「そういえば知っているか?ヤッハバッハの連中、レジスタンスの拠点を破壊するのに何か新兵器を使ったらしい。」

「その事なら逃げてきたレジスタンス達から聞いている。どうやら拠点を壊滅させるのにゼー・グルフ級戦艦を持ち出してきたらしい。」

「ゼー・グルフ!?あのリベリア駐留艦隊旗艦のか!?」

 

 ゼー・グルフ級戦艦。ヤッハバッハが持つ巨大戦艦で、宙域を守るテリトリアルフリートの旗艦として用いられる船だ。宙域を監視する駐留艦隊の旗艦として惑星リベリアに配備されている。

 まるで要塞のような巨大な戦艦で、その破壊力は尋常な物ではない。

 

「いや、どうやら別の船らしい。あの化け物が二隻もリベリアに居ると思うと寒気がする。」

「新兵器については?」

「詳細は分かっていない。ただ生き残りの証言から強力なレーザー兵器か何かでは?という程度だ。」

 

 まぁ、そんな簡単に分かる訳が無いだろう。とここでドアが開く。見ればそこにはランディとその肩を借りるエドワードの姿があった。

 

「うぅ・・・気持ち悪い。」

「少しの辛抱だから我慢してくださいね。」

 

 投与後の作用で気持ち悪さが出ている様だ。頭の中に異物を入れるのだから当たり前だ。

 

「君が新入りか。私はこの基地の司令官ベルトラム大佐だ。」

「ど、どうも。シーガレット艦長の船のクルーのエドワードです。」

 

 エドワードは気持ち悪さを抑えながらベルトラムが差し出した手を握る。 握手した後、ソファに座った私達の元へランディがお茶を持ってきた。聞けばランディが淹れたものらしい。茶が趣味なのだろうか?

 

「で、金の事だが多少色を付けて1200Gでどうだ。」

「少ない。」

 

 ベルトラムが提示した額をぴしゃりと否定する。理由は簡単、安すぎる。

 

「大佐。前回殆ど赤字だ食料を引き渡しただろう。その分も含めて今回は2500Gだ。」

「そ、そんな大金はさすがに用意できない。前回の分は前回の分だ。1500Gでどうだ。」

「前回はそれなりに損をしているんだ。たまには儲けさせてくれなければな。それに大佐から貰った例のコントロールユニットは未完成のデータだった。さすがにそれは聞いていないからな。その分も合わせてそれぐらい支払って貰わないとな。」

「未完成のデータだったのか。」

 

 あの設計図が未完成だったことは大佐も知らなかったらしい。だからと言ってまけてやる道理は無いが。

大佐はずいぶんと唸っていた。それもそうだ、2500Gという大金はそう簡単に用意できるものではない。

 

「では間を取って2000Gという事でどうでしょう?前回のお礼もありますし。」

「むぅ・・・それくらいなら何とかなるか。」

「こちらもそれで構わない。」

 

 ランディの発案により2000Gで手を打つことにした。2000Gのクレジットと鉱石をペイロードに詰め込む。

 

「船長、2000Gも手に入れたのに何でこんなに大量の鉱石まで積むんですか?」

「私達はゼアマ宙域にある採掘ステーションに食料などを運び代わりに代金と鉱石をフラベクへ運んでいるのさ。」

「あ。なーるほど。」

 

 正直に反乱分子に食料を売りますなんて言える訳も無く、航行許可も下りないのでこの宙域にある採掘ステーションに物資を届ける事にしている。その嘘をより本物に近づける為にこうして鉱石を積み偽装する。

 ちなみに採掘ステーションも用意してあるが、古くなって使用に問題があるので最低限アーミーズの人員がいるだけだ。採掘機能もほとんど麻痺している。

 

 サンテール基地を出港した後は航行データを偽装する為に、その採掘ステーションに行かなければならない。これが少々面倒くさい。

 

 

『ゲート開放、出港を許可する。次も旨い酒頼むぜ。』

「手に入ったらな。」

 

 管制官の頼みに適当な返事をして出港する。あの岩石群を抜け、我々はフラベクへの帰路に着いた。

 

「そういえば船長。あのベルトラム大佐と話してた時コントロールユニットがどうとか言ってたじゃないですか。」

「あぁ、あの未完成品。」

「そのデータ見せてもらっていいですか?」

「ん?あぁいいぞ。」

 

 一瞬なんでそんなものをと思ったが、彼が科学者だったことをすっかり忘れていた。こういうものには興味があるんだろう。もっていたデータプレートを渡す。

 

「・・・あ、これ俺が研究していたユニットのモジュールですね。」

「本当か!?」

「昔に研究していた奴ですけどね。完成間近って所で部署替え食らったんですよ。」

「それは・・・ご愁傷様。」

「ははは、まぁ結局間近になってプログラムや部品に欠陥が見つかって、結局中断になりましたけどね。」

「そうか。一瞬君なら完成させられると思ったんだけどな。」

「出来ますよ。」

 

 ポカンとした表情を浮かべる私を見て、エドワードはニヤリとする。まるで、新しいおもちゃを周りに自慢する子供のようだ。

 

「担当を外された後もこっそり個人で研究していたんですよ。欠陥の解消なら簡単にできますし、元のデータもあるので多少書き換えてやれば製造可能です。」

 

  得意げに話すエドワードに思わず見とれた。もしかしたらとんでもない人材を引っ掛けたのかもしれない。そんな予感がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「来てしまったか。」

 

 あのモジュールが作れると分かってから1週間の月日が経っていた。理由は、フラベクでは装備や資源が無いのと航行許可が中々取れなかったのである。モジュールを作りたいと言ってあのデータを提出する訳にもいかないので、酒場のマスターに頼みリベリア行きのミッションがあったら優先で回してくれと頼んだ。

 1週間後にようやく貨物の輸送ミッションが来たので、それを利用してリベリアまで来た訳だ。

 

「貨物の搬出終わりました!さぁ早く工廠に行きましょう!」

 

 異様な程に高いテンションのエドワードに少しうんざりする。まぁ自分が研究していたものが完成するとなれば喜ぶのも当然か。

 

 私達は早速交渉へと向かい船の改造を始める。と言っても端末でモジュールをどこに組み込むか決めてボタンを押すだけなのだが。意外と大きいモジュールで貨物室を一つ潰す羽目になった。

 

 そしていざ搭載しようとした所で、その見積額が目に入った。

 

「い、10000G・・・だと?」

 

 その改造費がバカにならない。下手すれば船一隻建造できる。

 

「駄目だ駄目だ。キャンセルだ!」

「そんな!?どうしてですか!?」

「こんな大金使える訳無いだろう!!」

「大丈夫ですって。俺がコツコツ貯めてた貯金がいくらかあるんでそれも使えば安く済みますよ。」

「いくらくらい安くなる。」

「・・・2000Gくらい?」

「却下だ!却下!!」

 

 10000Gから2000G引いたって8000Gもするじゃないか!そんな大金使う余裕はない!!

 

「そんなぁ!お願いしますよ船長!!俺の給料半分でいいので!」

「無茶言うな!これなら人雇った方がマシだ!」

「初期投資が少し高いだけですよ!この期を逃したら二度と作れませんって!」

「その初期投資が高すぎるんだろうがぁあ!!」

 

 何だかんだと揉めていたら、管理ドロイドからうるさいと怒られた。何故こんな目に・・・。

 

「分かりました。だったら賭けで決めましょう。」

「何故?」

 

 興奮からか口調が本来のモノになったエドワードはこう切り出してきた。船の所有者は私なのに?

 

「俺が勝ったらこのモジュールを搭載してください。代わりに艦長が勝ったら俺の給料4分の1でいいです。」

「いやそれ対して私に利益が無いじゃないか・・・。」

「乗せる時の金額は俺が出せるだけ出すので、残りを艦長に払ってもらうって事で。」

「いやだから」

「嫌ならヤッハバッハの詰め所にでも駆け込みますけど。」

「ぐ・・・。」

 

 や、やはりこんな奴雇うんじゃなかった・・・。

 

「はぁ・・・分かった。してどんな賭けだ?」

「これです。」

 

 そう言ってエドワードは一枚のコインを取り出す。何の変哲もない何処かの記念品らしきコインだ。

 

「コイントスか。」

「裏と表、どちらにします?」

「・・・表だ。」

「では。」

 

 ピンッと弾かれたコインは宙を舞い、落ちてきた所をエドワードが手の甲でキャッチする。ゆっくりと手をどけるとそこにあったのは裏を向いたコインだった。

 

「なッ!?」

「やったぜ!!」

 

―――この瞬間私の貯金の大半が吹き飛ぶのが確定した。船の運航費が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間程して改造が終わった。本来なら10分もかからないものだが何分規格外のモジュールの為か随分時間がかかった。

 余談だが、エドワードはずいぶん金を貯めていたらしく残高を確認したら2800Gもあった。学者の給料はずいぶん良いらしい。まぁ今回の事ですべて消し飛んだが。

 

 かくいう私もせっせと溜めていた金がほとんど無くなってしまった。

 

「では早速起動しましょう!」

「あぁ。」

 

 新しいおもちゃを手に入れた状態のエドワードは、興奮気味にコントロールユニットを起動する。

グオオンと起動音が鳴り、船からアナウンスが聞こえた。

 

『初めまして、私はRHGS3400。あなたの船の運航を手助けするコントロールユニットです。』

 

 いかにも事務的な音声が流れてきた。

 

「初めましてRHGS3400。アルタイトへようこそ。」

 

 そのユニットに向かい話しかけるエドワード。彼がなぜコントロールユニットに話しかけているのか、私には理解不能だ。自分の作ったものに対する愛情なのだろうか?

 などの考えが顔に出ていたらしく、私の顔を見たエドワードが説明する。

 

「このコントロールユニットはAIを搭載していて自分で判断し成長していくんですよ。」

「つまり、空間通商管理局のドロイドとは違うと?」

「大違いです!自立判断と自己成長を兼ね備えたこのAIは、きちんと育てさえすればベテランの船員よりも高いポテンシャルを発揮します!さらに人件費不要で費用対策効果もばっちりです!」

 

 人間自分の得意分野になったりすると饒舌になるが、彼の場合はプラスで興奮もついてくるのか。

 

「で、今の時点でどんな事が出来るんだ?」

「現段階は人間で言うと生まれたばかりの状態に当たります。出来る事と言っても管理局のドロイドと同じか少し劣ります。」

「・・・それじゃあ金の無駄遣いじゃないか?」

「生まれたての赤ん坊が操船出来る訳が無いでしょう。それと同じです。」

 

 管理局のドロイドより劣ると言われて内心焦ったが、エドワードの言葉に納得する。新人がいきなりなんでも艦でも出来る訳が無いように、このAIも初めからなんでも出来る訳では無いのだろう。

 

「つまり、これからいろいろ教えていくしかないと。」

「そういう事です。」

 

 新人を鍛えてベテランに育て上げるように、このAIも育てていかなくてはいけないらしい。

 

「そうなると名前が必要だな。」

「名前ですか?」

「RHGS3400なんて呼びにくい。何か愛称は無いのか?」

「生憎とそういうのは無いですね。艦長は何かいい案がありますか?」

「無いな。」

 

 いきなり名前を考えろと言われても無理な話である。少し考えた所でいい案が思いついた。

 

「アルタイトでいいんじゃないか?」

「それってこの船の名前では?」

「このAIはこの船に取り付けられたものだろう?なら船みたいなものだから、名前が一緒でも問題ないだろう。」

「確かに。」

 

 エドワードも納得したようだ。

 

「という訳でAI。今日から君の名前は”アルタイト”だ。」

『了承しました。アルタイトを本AIの名前として登録します。』

 

 感動も何もない無機質な返事を返された。まぁAIならこんなものかと思い、そういった所には目をつむる。願わくば投資に見合うだけの価値がある事を祈るだけである。


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