異常航路   作:犬上高一

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最初のセリフが抜けていました。申し訳ありません。


第8航路 エピタフ

「酷いものだな。」

 

 ヤッハバッハ艦隊を全滅させた後集結した生き残りを見て呟いた。

 

 最終的に生き残ったのはアルタイトを含め巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、魚雷艇6隻、貨物船9隻。そのうち駆逐艦1隻と貨物船3隻は大破。巡洋艦と魚雷艇2隻と貨物船3隻が中破状態だ。

オッゴも稼働するのは18機と半数以上を失った。

 

「いや、全滅じゃ無いだけマシというものだ。」

 

 振り返るとそこにはベルトラム大佐がいた。目立った怪我はないようだ。

 

「大佐も悪運が強いようだな。」

「君ほどではないがな。」

 

 そういうと大佐は近くにあった椅子に腰掛け煙草を吸う。

 

「基地はどうだった?」

 

 その問いに大佐は首を振る。

 

「ジェネレーターと弾薬庫が誘爆して内部はめちゃくちゃだ。食糧プラントも工廠も使い物にならん。」

 

 やはり基地は使い物にならないらしい。あれだけ派手に爆発していたから当然だが。

 

「ただ医務室がシェルターを兼ねていたお陰で何人か生存者はいた。ディエゴの奴も生きていたよ。」

 

 ディエゴも悪運が強いようだ。ヤッハバッハの支配下で海賊をしているのだからある意味当然か。

 

 最も彼の船は吹き飛んでしまったが。

 

「これからどうする大佐?」

 

 ヤッハバッハに発見され艦隊は壊滅に等しく基地は破壊された。ここから先どうするのか大佐の考えを聞きたかった。

 大佐は深く息を吐いて煙を吐き出すと、私に向き直ってこういった。

 

「生存者の収容が完了したら直ちにここを離れる。今言えるのはこれだけだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 収容作業は1時間程度で終わり私達は行き先を定めないままこの宙域を離れた。少なくとも総督府へ我々と交戦する旨の連絡は行っているはずで、その後連絡が取れないとなれば増援を派遣してくるのは確定で、現状に戦力では太刀打ちできずせっかく生き延びたのが無駄になる。まぁ戦力が万全でも迎撃出来る可能性はゼロに近いが。

 大破した4隻は放棄し魚雷艇や貨物船をゼー・グルフにドッキングして、可能な限り人目に付きにくい航路を航行していた。

 最終的な生存者は900名に満たず、4分の1程度にまで減っていた。

 

 そして現在ゼー・グルフのブリッジでは各派閥の有力者による会議が開かれている。出席者はベルトラム大佐、ディエゴ、ギルバードと彼らの部下数名に私とエドワード、ポプランとコーネフ。そして0Gドッグが数名。

 

 残念ながらフリーボヤージュのリーダー以下上層部は乗艦が撃沈され還らぬ人となった。出席した0Gドッグ達は彼らの臨時代理だ。

 

 議題は目的地とこれからの行動の予定である。

 

「ひとまず何処かに身を隠すべきだと思う。」

「身を隠すと言ってもどこか当てはあるのか?」

 

 ギルバードの質問に数人が頷く。その質問に答えたのはアルタイトだった。

 

『現在候補地が一つあります。リベリア・ペリル宙域。辺境宙域でありヤッハバッハの艦隊が駐留してはいません。宙域には惑星オーバーハーフェンと複数のアステロイドベルトおよびガス惑星が存在するのみです。』

「祖先の星か。」

 

 モニターに映し出された宇宙を見て大佐が呟く。惑星オーバーハーフェンは、かつてテラを飛び立った人類がこの銀河で最初に降り立った地とされている。

 

『利点はヤッハバッハの目を逃れられる可能性が大である事。問題は恒星ペリルが不安定な為航行が危険な事と、交易が皆無である為宇宙港での補給や補充を受けられない可能性がある事です。』

 

 この宙域にヤッハバッハが駐留していない理由がこれである。

 不安定な恒星から吹き荒れる恒星風などにより航行に支障をきたし、またフレアの影響もあって唯一の惑星であるオーバーハーフェンは現在人が住むには適さず無人となっている。一応宇宙港は存在するが、補給や補修が出来るかかなり怪しい所だ。

 

「現在の我々の食糧は?」

「節約して1カ月持つか持たないかという所だ。」

「それだけしかねぇのか?」

「この船を奪う時に兵士と一緒に外に放り出してしまったからな。」

 

 大佐の発言に数人が私を見る。私としては仕方がなかったとしか言いようが無いが。

 

「補給と修理が出来る所はないのか?」

『該当する場所は現在のところ1件あります。』

「なんだあるじゃねぇか。何処だそこは?」

『辺境惑星ヘムレオンです。』

 

 その名前を出した瞬間、ブリッジ内がざわめき始めた。

 

『アルゼナイア宙域の辺境に位置しヤッハバッハの艦隊こそ常駐してはいませんが、定期的にパトロール艦隊が出入りしているようです。修理や補給を受ける事は可能ですが、その分ヤッハバッハに見つかる可能性が高いです。皆さんどうかなさいましたか?』

 

 我々の様子がおかしいのか疑問を投げかけるアルタイト。私はアルタイトの名前を呼ぶとコンソールから文字のみでアルタイトと会話する。

 

『(どうしましたか?)』

「(余計なことは口に出すな。)」

『(どうしてですか?)』

「(それはーーー)」

 

 大佐達の様子がおかしい理由。それはヘムレオンが裏切り者だからである。

 

 ヤッハバッハが来る以前、ヘムレオン皇国は辺境惑星ヘムレオンを領地とする王政の国家だったがその実態はリベリアの属国に等しいものだった。

 

 リベリアから辺境の田舎者と蔑まれ、王族を始めとしたヘムレオン人は不満を持っていた。そして彼らは行動を起こした。

 

 ヤッハバッハが侵略してきた時、防衛体制を整えようとしていたリベリアをヘムレオンの軍隊が攻撃したのだ。味方と思っていた者達に裏切られ、リベリアは侵略者と一戦も交える事なく滅亡した。

 

 以来リベリア人の憎しみはヤッハバッハよりもヘムレオン人に対する方が大きく、特にヤッハバッハに抵抗する人々はそれ以上にヘムレオンを憎んでいるといっても過言ではない。

 

「(そう言う訳だから、迂闊な事は言うなよ。最悪ヘムレオンを焼き払おうとか言い出すかもしれないからな。)」

『(了解しました。)』

 

 地上にいる民間人を巻き込む事はアンリトゥンルール違反であり0Gドッグとして宇宙に居られなくなる。だが、今の彼らはそれすら守らない可能性がある。

 

「大佐。」

 

 彼らの暴走を防ぐため、というよりも彼らの暴走に私が巻き込まるのを避ける為に、私は彼らに進言する。

 

「このゼー・グルフと巡洋艦と駆逐艦。それに魚雷艇はオーバーハーフェンへ行くべきだと思う。」

「何故だ?」

「この船は目立ちすぎる。どれ程辺境の惑星だろうと、この船が入港すれば騒ぎになるしヤッハバッハに見つかりやすくなるだろう。残りも武装している以上同じだ。」

「何故貨物船と共に行動しないのか?」

「貨物船にはヘムレオンなどの辺境星から食料などの物資の調達をしてもらおう。調達出来たらオーバーハーフェンで合流すればいい。」

「俺はぁその案でいいぜ。」

「それが現状最もいいだろう。」

 

 それぞれのリーダー達は賛成を示す。少なくともヘムレオンに攻撃などという事態にはならなくなった。

 それを聞いた大佐は頷くと、各自に指示を出す。

 

「では貨物船は準備でき次第各自出港せよ。目的地は任せるが、ヤッハバッハの目につかないようにして物資を集めてくれ。集め終わったらオーバーハーフェンへ集合だ。」

 

 それを聞いた各員はブリッジから出ていく。貨物船に乗り込む者や船や艦載機の修理をする者などそれぞれ自分に出来ることをするのだ。

 

「アルタイト、聞いた通りだ進路をオーバーハーフェンへ。」

『了解しました。』

 

 アルタイトに命令して進路を変更する。

 ちなみにアルタイトは今回は共にオーバーハーフェンへ向かう。というのもゼー・グルフを動かしているのはアルタイトに搭載しているAIで、それを切り離す訳にはいかないからだ。

 

 

 

 

 オーバーハーフェンへと向かう間、艦内を見回る事にした。といっても大半が輸送船で物資の調達に行ったりドッキングしている船に居るのでまったく人と会わない。

 会ったのは、食堂で食事を用意していた連中と格納庫で船と艦載機の整備をしていた連中だけだった。

 

「食事持ってきたぞ。」

「おー!待ってました。」

 

 艦内を見回るならついでに運んでくれと食堂で料理をしていたランディに言われ、食事が入ったコンテナをカートに乗せてきたのだ。食事と言っても小さなパンや飲み物があるだけだが。

 

「なんだこれっぽっちか。」

「しょうがないさ。食えるだけありがたいと思おう。」

 

 そういってポプランとコーネフはそれらをさっさと口に放り込む。二人に釣られて整備士やパイロット達が集まって食事をとっていく。

 

「機体の調子は?」

「何も問題ない。格納庫に残ってたゼナ・ゼーも整備して使えるようにしている。しいて言えばパイロットがいない事だな。」

 

 コーネフによれば、オッゴも格納庫で宇宙に吸い出されずに残っていたゼナ・ゼーも使えるそうだ。パイロットの件に関してはどうする事も出来ない。

 

 待てよ?パイロットが居ないなら・・・

 

「無人機に改造したらどうだ?」

「ゼナ・ゼーを?」

「あぁ。どうなんだエドワード?」

 

 いつの間にかちゃっかり隣で飯を食べていたエドワードに向かって聞いた。エドワードは口に入っていたパンを飲み込んでから

 

「出来ない事は無いですけど、無人機用の装置がありません。この船じゃあ作れないので何処かの工廠に行くか工作船でも持ってこないと。」

「「うーむ。」」

「それに仮に作ったとしても、標的機程度の機動しか出来ないですよ。戦闘用のプログラムでもあれば良いんですが。」

「プログラムは作れないのか?」

「元になるデータがあればマトモなものには仕上がるかと。」

「俺達の戦闘記録じゃダメなのか?」

 

 そういってポプランが話に入ってきた。

 

「あぁそうか!今回のオッゴの戦闘記録から動きをトレースしてやればいいんだ!」

 

 それを聞いたエドワードは閃いたといった表情で叫んだ。

 

「ただそれだけだと足りないと思うので、誰かデータを作るのに協力してくれませんか?」

「俺がやるぜ。整備作業よりもこっちの方が合ってる。」

「なら俺が相手をしてやろう。」

「へ、俺の相手なんてお前以外に務まるかよ。」

 

 いい方法が思いついたエドワードとやる気満々のポプランとコーネフ。もしこれがうまくいけば無人化によって艦載機部隊が大きく強化されるだろう。

 

「いずれにしても無人機用の装置が無ければ始まらないがな。」

「「「あ。」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボイドゲートを一つ抜け、ゼー・グルフ以下数隻は無事にぺリル宙域に入った。

 

「うわっ!?」

「どうした!?」

 

 ゲートを通過した途端レーダーを見ていたオペレーターが急に叫ぶ。ちなみに彼は臨時でオペレーターをしているレジスタンスの一員だ。

 

「すごい恒星風です!強すぎるのでレーダーが使い物になりません。」

 

自分のコンソールに送信されたデータを見る。そこには真っ白になったレーダー画面があった。恒星ぺリルは不安定で、強力な恒星風が吹き荒れる事もあれば弱弱しく光るときもある。酷い時には航行できなくなるほどらしい。

 

「それでも行くしかないだろう。他に当ても無いからな。シールドを通常より強くしてくれ。」

『了解しました。』

 

 シールド出力を上げ、強力な恒星風の中を進むこと数時間。一時的に恒星風が弱まったとき、ようやく目的地が見えてきた。

 

「あれがオーバーハーフェン。」

 

 光学センサーでとらえたその姿を見て思わず声を漏らす。宇宙から見たオーバーハーフェンは、まるで星全体が砂漠化したようだった。

 

『艦長、スキャンの結果が出ました。ほとんどが砂漠で水などは見つかりません。大気は二酸化炭素や窒素などで覆われていて呼吸も不可能です。』

「大昔はそれなりに栄えたと聞いていたんだがな。」

 

 栄えていたといっても千年以上も前の事だが。

 

『艦長。オーバーハーフェン衛星軌道上に巨大な質量物を探知。宇宙港と思われます。』

「コンタクトは?」

『コンタクト不可能。何度も送信していますが、向こうからの応答がありません。』

「放棄されたのでは?」

「分からん。普通、空間通商管理局が設置されたならドロイドによって半永久的に稼働するものだ。あるいは・・・。」

 

 一瞬罠の存在を考えたが首を振る。空間通商管理局はどんな国家や組織からも独立した存在で、罠に利用する事は航宙法違反である。こうして国家間の枠組みに縛られていない為0Gドッグと呼ばれるアウトロー集団が活動できるのだ。

 

「ともかく近寄ってみよう。もしかしたら単なる故障かもしれない。」

 

 過酷な環境による故障なら大いにあり得る話だ。私達は進路はそのまま、宇宙港へ向けて進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「故障かもしれないとは思っていたがな・・・。」

 

 オーバーハーフェンにたどり着いた私達の目の前に現れたもの。それは廃墟と化した宇宙港の成れの果てであった。

 

「よくもまぁここまで荒れ果てたものだ。」

 

 所々外板は剥がれ落ち骨材や内部が丸見えになっている。特にぺリルの方に向いている部分はそれが著しい。どうやら恒星風の影響で溶けてしまったようだ。またデフレクターやシールドが機能していないようで、所々デブリによって開けられたと思われる穴が開いていた。

 

「これじゃあ管理局なんか機能していないだろうな。」

 

 むしろボロボロになりながらも依然としてそびえたつ軌道エレベーターとそれをつなぐ宇宙港が形を保っているのが不思議である。

 

『艦長。恒星側のゲートは入り口が解け落ちているようです。反対側のゲートならかろうじて入港は可能です。またこのまま恒星風にさらされ続けるのは装甲にダメージを与える恐れがあるので、できれば入港するべきです。』

「内部の様子は?」

『恒星風が再度強くなりました。これによりスキャンナーが異常をきたしています。』

「分かった。」

 

 そういうと私は格納庫に電話をつなげる。

 

「あぁ、誰か恒星と反対側のゲート内を偵察してほしい。そうだ、この船が入っても大丈夫かどうか偵察してくれ。任せた。」

 

 そういって電話を切る。

 

 5分後、一隻の魚雷艇と二機のオッゴが格納庫から発進し宇宙港へ侵入する。

 

「どうだ?入って大丈夫そうか?」

『一応形は保っている。酸素は無いが恒星風の影響も外よりはマシのようだ。内部に障害になりそうなものは見つからない。』

「よし、アルタイト。船を宇宙港内へ入れてくれ。」

『了解しました。』

 

 指示に従って巨大なゼー・グルフはその体を宇宙港へと納める。全長4kmの艦船をあっさりと飲み込めるほど宇宙港は巨大だった。

 

「アンカーを打ち込んで船体を固定。シールドとデフレクターの出力は落とすなよ。」

『了解しました。』

 

 ゼー・グルフの船体からいくつものワイヤーが射出される。それらは宇宙港の内壁に打ち込まれ内部でかえしが開き完全に固定される。それらのワイヤーを引っ張る事で船体を固定するのだ。本来ならばドッキングアームがその役割をするが、ジェネレーターが機能していないのか照明すらついていない中ではアームが稼働する訳もなかった。

 

「とりあえずこれでいいだろう。」

『お疲れ様です。この後はどうしますか?』

 

 アルタイトの質問に対し私は少し考えてから答えた。

 

「廃墟探索かな。」

 

 

 

 

 

 

「廃墟の探索ってなんかテンション上がりませんか?」

「その気持ちは分かるな。」

 

 私は船外作業服を着てオッゴに乗っていた。ただしオッゴの機体外部に直接捕まっている。一緒にいるのはエドワード、ポプラン。ディエゴとその部下2名、それとヤッハバッハに襲撃されたとき共に乗っていたオッゴの少年パイロットエヴィンとエーミールだ。そしてオッゴを操縦しているのはコーネフだ。

 

「分かるぜぇ、まるで獲物を漁ってるときみたいだ。」

「まさか宇宙港にこんな形で入るなんて思わなかっただ。」

 

 海賊二人も若干テンションが上がっている様だ。それはボスであるディエゴも同じの様だ。

 

『前方に巨大な空間がある。かなり大きいな。』

 

 オッゴを操縦しているコーネフから通信が入る。見れば前方、宇宙港中央部に巨大な穴が開いていた。宇宙港のドッグとまではいかないがゼー・グルフがすっぽり収まるくらいの大きさがある。

 

「デブリかジェネレータの爆発で空いたのでしょう。中央部が丸々吹き飛んでいる。」

「コーネフ。降りられそうな所で降ろしてくれ。」

『了解。』

 

 オッゴはある程度開けた場所に着陸した。オッゴから降りた私達は宇宙港の内部へと侵入していく。ここはどうやら通商管理局のロビーのようだ。

 

「俺の鼻がお宝があるって言ってるぜ。」

「それは頼もしいな。」

 

 そういってこの区画にある部屋の中を漁っていく。だが廃棄されてからかなりの時間が経っているのかガラクタ以外何もない。

 

「うわぁああああ!?」

 

 突然無線から叫び声が聞こえてきた。この声は確かエーミールだったはずだ。

 

「どうしたエーミール!!」

「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで・・・。」

 

 見ればエーミールの目の前に一体のドロイドが転がっていた。そこにあったのは殆どの0Gドッグならば見たことがある顔だった。

 

「ヘルプG・・・。」

 

 どうやらこの部屋はこれから0Gドッグになろうとする者達に様々な知識を教えるヘルプGの部屋だったようだ。宇宙港の奥の方にあった為か比較的損傷は少なかった。全員集まってきては、ヘルプGを見て驚く。

 

「ヘルプG・・・、まさかこんなことになっているとは・・・。」

「体の方は完全に潰されてますね。」

「そりゃ悲鳴も上げるわな。」

 

 暗闇で完全に見た目がメカのドロイドが倒れていて、しかも首が180度ねじ曲がってこっちを見ていれば悲鳴を上げるだろう。

 

「ヘルプGがこんな有様じゃ管理局の方も駄目だろうな。他を当たるぞ。」

 

 ディエゴに続き、私達はヘルプGを置いて別の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「どうだ?」

「駄目です。データどころが回路そのものが焼け落ちてます。これじゃあ何も取り出せませんよ。」

 

 かろうじて原型を留めていた端末からデータのサルベージをしていたエドワードだが、結果は芳しくなかった。

 

「おい全員こっちに来てくれ。」

 

 ディエゴの所へ全員が向かうするとそこには、少しだけ隙間が空いたドアを必死になってこじ開けようとしている海賊達がいた。

 

「来たか。こいつを見てくれ。」

 

 そう言われて彼らが開けようとしていた扉を見る。普段宇宙港で目にするだけの唯の扉だった。

 

「これがどうかしたのか?」

「この部屋のネームプレートを見ろよ。空間通商管理局って書いてあんだろ。」

「つまり?」

「はぁ・・・あの立ち入り禁止の管理局の部屋だぜ?何かあるに決まってるだろうが。」

 

 確かに空間通商管理局の内部に入った事は無い。というか基本的に人間は立ち入り禁止で内部にはドロイドしか入れない。

 

「だがこの通り扉が歪んじまって入れねぇんだ。」

「レーザーカッターは?」

「入れてみたけど表面を焼くだけだったよ。」

 

 扉の何カ所かに焦げた跡があったのはディエゴ達がレーザーカッターで扉を焼き切ろうとしたためだろう。

 

「爆弾でふっとばせないのか?」

「いや駄目だ。爆破すれば何処が崩れるか分からん。最悪生き埋めだ。」

「宇宙で生き埋めは嫌ですね。」

「という訳で何かいい手は無いかと聞いている訳だ。」

 

 と言われた所で手持ちの工具で役立ちそうなのは非常用の爆薬とレーザーカッターだけだ。そしてそのどちらも使えない以上お手上げとしか言えない。

 そんな中エドワードが手を上げた。

 

「一つ手があります。」

 

 待つこと30分。エドワードが何か巨大な物を抱えて戻ってきた。普通なら人が持てる大きさのものでは無いが、重力井戸が働いていないのでほとんど無重力に近い状態となっているため難なく運んでいる。見ればそこにはいくつかのチューブや線がつながっていてその先は外に続いている様だ。

 

「お待たせしました。」

「それ、オッゴの腕じゃないか?」

「はい、これについているプラズマカッターで焼き切ります。」

 

 それがオッゴの腕だという事にポプランは気付いたようだ。そしてエドワードは説明しながら腕をセットして、スイッチを押す。

 

 強烈な閃光が走り携帯用レーザーカッターとは段違いな出力でプラズマの炎が扉を焼く。ものの数十秒で扉はドロドロに溶けてしまい、そこには人ひとりが通れるくらいの隙間が出来た。

 

「すごいもんだな。」

「でしょう?」

 

 だからドヤ顔を止めろ。というかプラズマカッターはお前が作ったものじゃないだろ。

 

「よし野郎共、行くぜ。」

 

 そういってディエゴ達は我先にと中へ入っていった。それに続いて私達も中へ入る。

 

「管理局の裏側っていうか巨大なサーバールームだなこれは。」

 

 そこで目にしたのは何台もある巨大なコンピュータやドロイドのメンテナンス用機材だった。私達は部屋の中を漁っていたが機械はすべて壊れていて情報も何もなかった。

 

「頭!こっちになんか変な部屋がありやすぜ。」

「変な部屋?」

 

 海賊の一人が見つけた部屋に入っていく。それは確かに変な部屋だった。

 部屋の外は長年恒星風にさらされた影響かボロボロなのに、この部屋には傷一つない。まるでこの部屋だけ別世界のようだ。

 

「なんなんだこの部屋は?」

「・・・さぁ?」

 

 何か機械がある訳でも無い。ただ別世界のような空間が広がるのみである。

 

「ポプラン少佐。あれ。」

「ん?」

 

 エヴィンが何か見つけたようだ。エヴィンが指差す先には何か人型のものが転がっていた。

 

「なんだこれ?ドロイドか?」

「管理局の奴に少し似てますけど。」

 

 のっぺらぼうみたいな顔は確かに管理局が提供するドロイドに似ているが、このドロイドは胸から腹にかけて大きなくぼみが出来ている。胸の部分が膨らんでいて人間の女性を意識したようなデザインだ。

 

「なんですかこれ?」

「管理局のドロイドじゃないか?」

「なんか不気味なんだな。」

 

 口々に感想を言い合う彼らを尻目に私はこのドロイドに近づいてよく見てみた。

 

「ん?」

 

 そのドロイドのくぼみの中に何か入っている。私はその中に手を伸ばして中のモノを出してみた。出てきたのは何やら10cm程度の四角い立方体だ。

 

「なんですそれ?」

「分からない。サイコロで無い事は確かだ。」

「はぁ?」

 

 なんだかよく分からないがこのドロイドのパーツか何かだろうか。

 

「おい、それって・・・もしかして・・・。」

 

 このサイコロを見た途端、急に顔色を変えるディエゴ。

 

「エ、エピタフぅう!?」

「うわッ!?」

「やめろ叫ぶな無線入ってんだぞ!!」

 

 いきなり叫ぶものだから、無線を通して大音量で耳に届く。とっさに塞ごうとしたが宇宙服を着ていたので塞げなかった。

 

「あ、すまねぇ。いやそれよりも!」

 

 ディエゴは一気に駆け寄って私が持っていたエピタフをまじまじと見つめる。

 

「間違いねぇ・・・これは間違いなくエピタフだ。」

「エピタフってあの何でも願いが叶うっていう伝説の?」

「あぁ、一度画像で見た事がある。こんな所でお目にかかれるとはな。」

 

 そう言ってさりげなく私からエピタフを取ろうとしたのでスッと離れる。

 

「「・・・。」」

 

 互いに見つめ合い微妙な空気になる。再度ディエゴは手を伸ばすが、私もエピタフを遠ざける。

 

「なぁシーガレット。俺は是非とも一生お目にかかる事が出来ないかもしれないお宝をこの目で見たいんだ。ちょっと見せてくれよ。」

「あぁいいぞ。」

 

 一瞬だけディエゴの目の前にエピタフを出す。そして遠ざける。

 

「「・・・。」」

 

 そしてまた微妙な空気が流れる。私はもう一度ディエゴの前にエピタフを出す。そして奴が手を伸ばそうとした所で引っ込めた。

 

「いい加減にしろ!ガキかお前は!?」

 

 どうやら頭にきたようだ。

 

「そんな如何にも盗りますみたいな顔をしているのが悪い。」

「うるせえ!ごちゃごちゃ言ってねぇでエピタフを寄こせ!!」

「誰が渡すか!」

 

 飛び掛かって来たディエゴとエピタフを奪い合う。女性に対して紳士的になれないようだなこの男は。

 あと後ろでポプランが醜い争いだとかエドワードの意外と子供っぽい所あるんですねとか少年2人のうわぁとかいう見たくないものを見たような声や海賊2人が頭を応援する声とか全部聞こえてるからな。

 

「「あ。」」

 

 エピタフを奪われまいと必死に握りしめるが、手が滑って二人の手からエピタフが離れる。勢いよく手から飛び出したエピタフは、そのまま壁にぶつかり二つに割れてしまった。

 

「「ああぁあああッツ!?」」

「うるせえ!」

 

 廃墟と化した宇宙港に、2人の叫び声と反射でヘルメットの上から耳を抑えたポプランの悲鳴が響いた。




戦闘後は何となく後始末感があって筆が進みにくく感じます。

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