異常航路   作:犬上高一

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亀の歩みで書き上がりました第9話です。



第9話 金髪の士官

 ゼアマ宙域セクター4。反乱分子とヤッハバッハの試験艦隊との間で戦闘が行われていた場所に、13隻の船がいた。

 

 10隻はヤッハバッハの突撃艦ブランジ級で、残りの2隻は長大なカタパルトを備えたダルダベル級巡洋艦である。

 最後の1隻は三段のカタパルトデッキを持つ全長2kmのヤッハバッハの巨大空母ブラビレイ級空母である。

 

 そのブラビレイ級空母【クレッツィ】の艦橋で、1人の男が茶を飲みながら部下からの報告を聞いていた。その周りには、数人の士官達がいて起立したまま報告を聞いている。

 

「で、何か分かったのですか?」

「は、漂流していましたダルダベルとブランジの残骸を調査した結果から強力なレーザーもしくはミサイルによって破壊されたものと推測します。つまりーー」

「ドン・ディッジの攻撃による可能性が高いと?」

「はい。艦載機によりこのセクターを調査しましたが、ドン・ディッジの残骸は発見出来なかった事からそれは否定出来ないと。」

 

 部下の報告に男は頷く。彼らは1週間前に消息を絶ったドン・ディッジ以下試験艦隊の捜索隊である。

 足の速い突撃艦や巡洋艦に、多数の艦載機による索敵範囲の広い空母で構成されたこの艦隊は、試験艦隊の足取りを追いこの暗礁宙域にて捜索活動を行なっていた。

 

 ドン・ディッジの艦長が総督府を嫌い連絡を怠りがちだったのが災いし、事に最後

 

 そこで彼らが見たのは10隻以上の船の残骸だった。

 調査をするにつれレジスタンスのものと思われる船の残骸の中に味方の船の残骸を発見しクレッツィに搭載している全艦載機300機による周囲の捜索をした結果、2隻のダルダベルとブランジの残骸を発見した。

 

 だが旗艦であるドン・ディッジの残骸を発見する事は出来なかった。しかしドン・ディッジに積まれていた食料コンテナや艦載機や遺体などが見つかった。

 またダルダベルやブランジの残骸に残った損傷から、ドン・ディッジによる攻撃が疑われ彼らは一つの仮説を立てた。

 

「クーラント司令。言いにくい事ではありますが、ドン・ディッジはレジスタンスの手に渡ったのではないかと小官は推測します。」

「それは実に不愉快な推測ですねぇ。」

 

 クーラントは笑みを浮かべながら部下に言う。その顔は笑っているが目だけは鋭い刃のようなものだ。その視線を向けられた部下は背筋が冷たくなるのを感じた。

 

「だが、状況から考えればそれが一番可能性が高いでしょう。航跡は辿れますか?」

「いえ、時間が経ち過ぎているのと戦闘で拡散したインフラトン反応によって航跡を辿ることは不可能です。」

 

 船の主機であるインフラトン・インヴァイダーからはインフラトン粒子が漏れ出る。その粒子の後を辿る事で目的の艦を追跡できるのだが、時間が経ち粒子が消滅、あるいは拡散してしまった事。戦闘で爆沈した艦のインフラトン粒子が周囲に大量に撒き散らされた事が、追跡を不可能にしてしまった。

 

「まぁ仕方がないですねぇ。君は総督府に状況を報告して下さい。」

「はっ。」

「さて、以後我が艦隊は敵の捜索に入るが、何か意見はありますか?」

 

 それを聞いて金髪の若い士官が手を挙げる。それを見た周りの士官達は顔をしかめるが、クーラントはそれを気に留めず金髪の若い士官に発言を許可した。

 

「状況から推測するにドン・ディッジは敵に奪取されたと思います。その後何処か無人惑星もしくは無人のセクターに潜んでいるのではないかと。」

「理由は?」

「ドン・ディッジは巨大な戦艦ですが、あまりに巨大な為辺境惑星といえど人目を引くでしょう。行方をくらませるには何処か無人の場所で身を潜めなければなりません。」

「なるほど。」

 

 この予想は全くの事実だった。現在の状況から推理し事実を言い当てたこの士官の非凡な事を示している。

 

「ならば無人地帯を重点的に捜索するとしましょう。艦隊を3つに分けます。」

 

 そう言ってクーラントは、ブラビレイ級1隻とダルダベル級1隻とブランジ級2隻の第1艦隊。ダルダベル級1隻とブランジ級2隻第2艦隊。ブランジ級3隻の第3、第4艦隊に分けた。

 

「第1艦隊は私が指揮します。第2艦隊をキール中佐、第3艦隊をノイマン少佐、第4艦隊をライオス少尉に任せます。」

 

 これを聞いた士官達にざわめきが起こる。理由は1人の少尉ーーライオス・フィルド・ヘムレオン少尉が突撃艦3隻とはいえ1艦隊を預かったからである。

 

「ライオス少尉、今回の君の意見を私は高く評価します。その才能を持って反乱分子を是非見つけてください。」

「はッ!」

 

 クーラント司令はあの冷たい視線と笑顔でまだ10代後半のライオスに言う。ライオスは、背筋が冷たくなるのを感じたが、それを表面には出さずに力強く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、まるで子供のようにエピタフを取り合った結果、壁にぶつけて真っ二つに割れたと。」

『そのような非論理的な行動は理解出来ません。』

 

 一方、オーバーハーフェンの廃宇宙港に隠れている反乱分子達は、宇宙港の探索から戻ってきた一行の報告を聞いてこんな感想を漏らしていた。

 

「後悔はしているが私は悪くない。」

 

 私は食堂で茶を飲みながら、呆れた大佐と私の端末に接続しているアルタイトにこう言った。

ちなみに茶とクッキーはランディが用意したものだ。

 

「で、割れたエピタフはどうしたんだ?」

「今エドワードが元に戻そうとしているよ。」

 

 エピタフはいったい何時誰が何のために作ったのか、何でできているのかどうやって作られたのかまったくもって不明なまさしく未知の存在だ。そのエピタフにはある伝説が語られている。

 

「エピタフを手に入れたものは願いが叶うというエピタフ伝説か。」

『ネットでは実例はないようです。』

「所詮伝説だからな。」

 

 結局は伝説上の話だ。だが、エピタフは希少価値の高い物なので売却すればかなりの値段になる。エドワードに旨いこと修復してもらって高値で売ればこれからの活動資金になるだろう。

 

「それはそうと管理局の奥に謎の部屋があったとはな。」

「大佐も知らなかったのか?」

「あぁ、管理局内には誰であろうと入れないからな。セキュリティも硬く、もし強引に入れば様々なペナルティを受ける。制服を着た人間ならなおさら入れんよ。」

 

 確かに管理局の内部は立ち入り禁止だし、高い独立性を維持する為に特に国家に深く関係ある人物は立ち入ることが出来ないのだろう。

 

「管理局か・・・。今更思うんだが、空気通商管理局とは一体なんなんだろうな。」

「宇宙港や航路やボイドゲートの管理をする為に存在しているのだろう?」

『公式な情報でもそのように発表されています。』

「いやそういう事ではなくて。」

 

 今回あの部屋を見た私は、ある疑問を抱いた。それは空間通商管理局とは一体なんなのかという事だ。

 

 空間通商管理局は、宇宙に進出した人類にとって欠かせない宇宙港、ボイドゲート、航路を管理する事を目的としたもので、中立性を保つ為に独立したドロイドによって運営されている。

 

 大昔、ゲートの所有を主張した戦争が起こったから作られたらしいが、あの部屋を見た後は何だか別の目的があるように思えてくる。

 

「で、なんだと言うんだ?その目的とは?」

「分からない。ただ管理局はオーバーテクノロジーであるゲートの管理をしている。もしかしたら何者かが裏で管理局のドロイド達を操って何かしているのかもしれない。」

「よくある陰謀論だな。疲れているんじゃないか?」

「・・・そうかもしれないな。」

 

 もしかしたら、あの異様な空間に当てられて変な事を考えているのかもしれない。

 

「なら休んだ方がいいだろう。休んで置かないといざという時困るだろうからな。」

「そうさせてもらうよ。」

 

 私は席を立つと部屋へと向かう。部屋と言ってもゼー・グルフの格納庫にあるアルタイトにあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・。」

「どうしました大佐?」

 

カップと皿を片付けようとしたランディは何か考えていたベルトラム大佐に気がつく。

 

「あぁ、これから先どうしたものかと考えてな。」

「これから先とは?」

「これからもヤッハバッハに逆らい続けるかどうかだ。」

 

 サンテール基地と仲間の大半を失った。これ以上ヤッハバッハの支配に抵抗し続けていって何になる?もし仮にリベリアをヤッハバッハから解放する事が出来たとしても、再度ヤッハバッハの再侵攻を招くだけではないのか?

 

 碌な抵抗もできずに敗北したリベリア軍の生き残りで構成されたアーミーズの目的は、ヤッハバッハの支配からリベリアを開放することだった。だが、ヤッハバッハの公平な統治を見るうちに徐々に別の考え方がアーミーズの構成員の間に生まれてきた。

 

 以前のリベリアは貧富の差が広がりつつあり各惑星間の関係も悪化。政府も官僚の汚職や一部の惑星を優遇する政策を進めたので各地でデモが発生していた。国が崩壊するというほどではないが、人心に不安と不信を植え付けるには十分な状況であった。

 

 それに比べればヤッハバッハの統治は逆らいさえしなければ穏やかなもので、汚職も無く一部惑星を優遇する政策もないものだった。当初は反感を買っていたヤッハバッハもその統治から徐々に市民から歓迎の声が上がっていった。リベリア軍人の中にもヤッハバッハの支配を歓迎する者も現れ軍に志願するものもいた。

 

 それでもヤッハバッハの統治に対して、いつ本性を現すのかと危機感を抱くものや本能的に拒否する者たちはこうしてアーミーズに参加していた。だが、ヤッハバッハが公正な統治を行い続けると先程も言った別な考え方、すなわちヤッハバッハに従った方がいいのではないかというものだ。

 

 ヤッハバッハを追い出したとしても、彼らのような平和な統治を行うことはできない。リベリアを開放することは現在の平和を破壊することであり、その平和を享受している地上の住民からすれば新たな混乱に巻き込まれることになる。

 

 それはむしろリベリアとその民を苦しめることだ。

 

 だがすでに反乱行為に加担しているため、考えが変わったからで投降する訳にもいかず、脱走すれば今度は仲間達から追われるはめになる。こうしていくら考え方が変わったからと言って引き返すことも難しい。

 

 しかもだ。

 

「私のしてきた事は無駄だったのでは無いか。と考えてしまうのだ。」

「無駄・・・ですか。」

「少なくとも、我々の活動でヤッハバッハの支配に何かしらの傷を負わせる事は出来なかった。」

 

 以前から行ってきた抵抗は、現場レベルではそれなりに影響を与えただろう。だが、それによって支配体制が崩れることも、それを揺るがすことも出来なかった。

 

 長きに渡る反ヤッハバッハ活動によって辺境の小惑星に息を潜め、ヤッハバッハの圧倒的な力で基地と多くの同士を失った彼は、肉体的にも精神的にも参ってしまっていた。

 

「大佐もお疲れのようですね。」

「・・・かもしれんな。ブランデーか何かあるか?」

「ワインでしたら。」

「それでいい。」

 

 少しして、ランディがグラスに注がれたワインを持ってきた。大佐はそれを手に取りグラスを揺らしていたが、自分の中にある鬱々としたものを忘れるように飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 ゼー・グルフの格納庫に置いてあるアルタイト。全長4kmの戦艦の格納庫は、100m程度の船が入っても問題ないくらい広い。これで格納庫の一部を潰しているらしいから驚きだ。(アルタイトとエドワードが調べたデータから聞かされた。)

 

 ハッチから伸びるコードは、アルタイト本体とゼー・グルフを接続するものだ。そのコードを踏まないように中に入る。

 

「ん?」

 

 中を歩いているとボソボソと誰かが喋っているのが聞こえる。といっても1人しかいないが。

 

「何をしているんだ?」

「ほうわっ!?か、艦長!?」

 

 暗がりの部屋の中で独り言を言いながら作業していたエドワードは、私に気がついていなかったようで驚き飛び上がる。

 

 驚いてジャンプする人間は初めて見た。

 

「い、いつからそこに!?」

「来たばかりだ。所で何をしているんだ?」

 

 そう言いつつ部屋の奥を除くとそこには見覚えのあるドロイドが机の上に寝かせられていた。

 

「いつの間にこんなものを。」

「あ、あぁそれですか?艦長達がエピタフでなんやかんやしている間に運んだんですよ。」

「あの時か。」

 

 まぁ他には考えられないしな。

 

「で、そんなガラクタを拾ってきて何をするんだ?」

「この船が人手不足なのもあるので、これを使えるようにしてちょっとでも船の運用が楽になればいいと思いまして。」

「なるほど。」

 

現在ゼー・グルフはアルタイトの制御によって動かされている。だが本来このゼー・グルフを運用するにはアーミーズや海賊やレジスタンスなど我々全員合わせても圧倒的に足りない。アルタイトがあるから、AIの手が届かない個所を整備するだけで済んでいるが、それでも人手が足らないのは事実だ。

 

「確かに現在我々は人手不足が著しいが、ドロイドが一体増えた所で焼け石に水な気がするんだが。」

「まぁそうかもしれないですけど、ドロイド一体でもあるに越した事はないでしょう?」

「それも一理あるか。」

 

 人手不足が解消される訳ではないが、ちょっとでもマシになるならばやるべきだろう。

 

「で、エピタフはどうなった?」

「取り敢えず接着剤でくっつけました。」

「・・・いいのかそんな方法で?」

 

 エドワードに見せて貰ったが見た目的には問題はなかった。だが、貴重な遺産を接着剤でくっつけてしまってよかったのだろうか。

 

「古美術品の修復は専門外ですからね。誰かさん達が争ってエピタフを壊さなければよかったんですが。」

「むむ・・・。」

 

 こう言われると当事者としては何も言えない。無論悪いのはディエゴだが。

 

「エピタフに関して俺が出来る事はそれだけです。完全に修復しようにもエピタフ自体貴重な存在なので、修復方法はおろか何で出来ているのかすら分からないんです。」

「仕方がないか。」

 

 エピタフは謎が多いお宝だ。そういうものならしょうがないだろう。見た目は傷ついたようには見えないので、問題ない。

 

「じゃあ、私はそろそろ部屋に戻るよ。何かあったら言ってくれ。」

「分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかった・・・。アルタイト、分かっていたなら教えてくれよ。」

 

 シーガレットが去った後、部屋の中でエドワードはアルタイトに話しかける。

 

『言わない方が面白いと結論しました。』

「勘弁してくれ・・・。」

 

 どこで教育を間違えたのか。このAIは人をからかうという事を覚えたようだった。

 

『前提としてあなたがやましい事をしなければ驚く必要は無かったでしょう。』

「そもそも君がこんな物を俺の端末に入れたのが原因だろ。」

 

 そう言ってエドワードは先程驚いて飛び上がったと同時に反射で隠した端末を取り出す。

 そこには1人の女性がシャワー室を利用する映像があった。

 

『エドワードの情報を書き換え。【スケベ】に変更します。』

「冤罪だ!!」

 

 この事態の真相は、アルタイトがエドワードを呼び出した事に始まる。

 

 自己成長プログラムにより日々成長するアルタイトは、成長を促すプログラムが入っている。そのプログラムによりアルタイトはある仮説を出した。記録媒体から情報を取り込んだり、モニター越しに人間の行動を観察するよりも、実際に人間と同じ経験をすればより成長できるのではないかと言うものだ。

 この仮説を検証する為に、管理局より借りてきたドロイドを操作した。だが、上手くいかなかった。

 

 期待していた人間の経験というのが出来なかったのだ。

 

 アルタイトはこれを外見が人間と異なるからではないかと考えた。実際ドロイドはシルエットこそ人型だが、人に似せてはいない為一目で人では無いと分かる。

 

 これにより相手が人間として接してくれず人間の経験が出来ないと考えたアルタイトはある情報に目をつけた。

 

 人間そっくりのアンドロイドの少女と人間の少年が互いを知り惹かれ合い結ばれるというありがちなSF小説である。

 前回の経験と情報からアルタイトは、人間そっくりなアンドロイドならば人間の経験が可能かもしれないと考えたのだ。

 

 ただ肝心の人間そっくりのアンドロイドを手に入れる事が出来なかった。星間ネットオークションにも出品されておらず、何よりアルタイトには私的にクレジットを使う権限はなく、また製作することも出来ない。

 

 そんな時エドワードが管理局跡地から一体のドロイドを拾ってきた。当初エドワードはこのドロイドを武器を装備したコンバットドロイドに改造しようとしていた。

 そこにアルタイトが可能な限り人間に近いアンドロイドを作れないかと言ってきたのだ。

 

 ただしエドワードはコンバットドロイドを作りたいという欲求が強かった為、アルタイトの提案を却下した。技術的な面でも問題があったのも事実だが、エドワードが自身の欲求を優先させアルタイトの要請を蹴ったことが、アルタイトにある手段を取らせる事となった。

 

 簡単に言うと脅したのである。

 

 エドワードの端末に、アルタイトが録画したシーガレットのシャワーシーンを入れたのだ。それをエドワードが盗撮したとシーガレットに言われたくなければドロイドを修理して人間そっくりのアンドロイドを作れと脅したのだ。

 

 無論冤罪だが、アルタイトは巧妙かつ悪辣にもその他の工作によってエドワードが盗撮したと思えるような偽の証拠がいくつも用意されており、エドワードに残された道は一つだけだった。

 

「まさかAIに脅迫されるとは・・・。」

 

 彼自身、船を運用する上で効率良く運用出来るように付けた成長プログラムが、他人を脅す方法を学びこのような結果をもたらすとは夢にも思わなかった。

 

「さて、どうしたものか・・・。」

 

 自分が作り出したAIに脅迫された彼はため息交じりにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 一方ゼー・グルフの隣に係留されている一隻の魚雷艇では汚れた格好の男達が忙しなく動き回り、中破した魚雷艇の修理をしていた。

 

「誰か予備のシャフトもってこい!!」

「スラスターのテスト終わったか?」

「先に推進系の制御盤直さなきゃダメだ。」

「装甲板はないのか!?中身むき出しだぞ!」

「宇宙港の廃材で使えそうなもん貼り付けちまえ!」

 

 ディエゴは、中破した魚雷艇の艦橋でその作業を眺めながらタバコを吸っていた。そこへ手下の1人が報告へやってくる。

 

「お頭、やっぱり資材が足らねぇ。中身はなんとかなったけど、装甲板はどうしようもねぇぜ。とりあえず宇宙港の残骸から使えそうなもん見っけてふさいでいるところでさぁ。」

「まぁ仕方ねぇか。にしても寂しくなったなぁ。」

「え?」

「俺たちの艦隊さ。」

 

 全盛期は総勢50隻を超えた海賊団だったが、ヤッハバッハの厳しい監視によって十数隻にまで数を減らしていた。獲物は見つからず補給も受けられず傷ついた艦の修理もできない。このまま行けば遠からず全滅する筈だった。

 だがサンテール基地を発見したおかげでディエゴ海賊団は全滅を免れた。それ以後はサンテール基地を隠れ家にして主にヤッハバッハ関係の船に対し海賊行為を働いていた。

 だが、いつも通り狩りに行くためにボイドゲートを抜けた矢先でドン・ディッジ以下ヤッハバッハ艦隊とばったり鉢合わせしたのだ。

 

 海賊船と軍艦では海賊船に勝ち目は無く、半数を失ったがなんとか逃げ帰る事が出来た。最終的に残ったのは魚雷艇が4隻のみ。うち1隻は中破だ。

 

「俺の船もサンテールと一緒に沈んじまったしなぁ。」

 

 ディエゴの艦はサンテール基地が爆発した時に一緒に沈んでしまった。基地へ逃げ込む時すでに中破程度の損傷を受けていて修理に回せる人員も時間もなく、乗組員も怪我人が多数いて動かせる状態に無い為そのまま放置されていたのだ。

 

「誰かの魚雷艇を使いやすか?」

 

 その言葉にディエゴは首を振る。

 

「人の船を借りるってのはなんか嫌なんでね。お前らもあるだろ?」

「えぇまぁ。」

「仕方ねぇから俺はあっちに乗るさ。」

 

 そういってディエゴは、ゼー・グルフへ向けて顎をしゃくる。実際他人に船を貸したり借りたりするのを嫌う0Gドッグは多い。

 ただディエゴの場合、魚雷艇よりも圧倒的な性能を持つゼー・グルフに乗っていた方が生き残る確率が高いのでそっちに生き残るため適当な理由をつけてゼー・グルフに乗り込むだけである。

 

 そんなディエゴの打算も知らずに部下は表向きの理由であっさり納得する。

 

「これからどうなるんですかねぇ?」

「さぁな。俺としてはどっかにおさらばしたいぜ。」

「当てはあるんですかい?」

「ねぇな。」

「ですよねぇ。」

 

 海賊達はリベリアの開放ということに興味はない。それは根無し草であるフリーボヤージュ達も同様である。彼らとしてはリベリアがどうこうというよりも自分達の生活に害をなすヤッハバッハが邪魔だというだけである。彼らの影響がない所があるならば今すぐそこへ逃げるだろう。

 

 むろん故郷に対する哀愁が無い訳では無い。自分の生まれた地に愛着がありその為に働きたいと思うものもいるだろう。だがそうでないものもいる。少なくとも海賊達はリベリアに愛着を感じてはいなかった。

 

「とりあえず、生き延びる事。これが大事だな。」

「生きてりゃいいことあるってやつですかい?」

「そういうことだ。」

 

 そういって二人は、魚雷艇の修理を眺める事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修理の方はどうなっている?」

「やはり資材が足りません。現状でこれ以上の修理は不可能です。」

 

 海賊達以外にも船の修理をしている者達が居た。ギルバード率いるレジスタンスの面々である。彼らは自分の持っている貨物船や魚雷艇修理していた。が、こちらも資材は足りていない。

 彼らの陣容は貨物船2隻、魚雷艇2隻の計4隻。うち、貨物船1隻と魚雷艇1隻が中破状態だ。

 

「サンテールでなら修理出来たでしょうが・・・。」

「あの海賊共がヤッハバッハを連れてこなけりゃこんなことにはならなかったのに。」

「まったくだ!責任取らせてあいつ等の船をばらしましょう!」

「そうだ!それがいい!」

 

 口々に海賊達の責任を追及する彼らをギルバードは一喝する。

 

「今は揉めている時ではない!責任はいずれリベリアを解放したのちに取らせればいい。今は艦の修理に力を注げ!」

「「「・・・。」」」

 

 ギルバードに一喝されたレジスタンス達は、渋々艦の修理に戻っていく。基地が破壊される直接の原因を作ったのはディエゴ達であり、以前から仲は良くなかったが、これによりレジスタンスとディエゴ海賊団との仲は修復不可能なものになっていった。

 

「リーダー。これからどうするんですか?」

 

 一人の若いレジスタンスがギルバードに尋ねる。

 

「これからはあのゼー・グルフを拠点として戦い続けるだろう。強力な戦艦だからな。うまくいけば総督府のゼー・グルフを沈められるかもしれない。」

 

 リベリア宙域艦隊の旗艦ゼー・グルフ級は、この宙域を支配するヤッハバッハ艦隊の旗艦だ。圧倒的な破壊力を持つこの艦はヤッハバッハの支配の象徴としてリベリアに駐屯している。この旗艦以下ヤッハバッハの駐留艦隊を撃沈するとこはリベリアの開放を意味するとギルバードは考えていた。

 

 ギルバード以下のレジスタンスは過激派という言葉が似あうと言われている。彼らはヤッハバッハの支配を本能的に拒否する者達が多く、急進的な考えに走りがちである。リーダーであるギルバードにもその傾向がある。

 

 というもの、実際に家族や友人がヤッハバッハに逆らって厳罰をかけられたり、兵士に暴行されたり、以前の地位を追われたりと実害を被った者がおり彼らの話を聞いて集団で義憤に駆られるためだ。集団心理は団結を強くする分その行動は単調にかつ攻撃的になりやすい。

 ベルトラム大佐がヤッハバッハに逆らうのに懐疑的になりつつあるのに対し、レジスタンスの戦意は依然として健在である理由もこの為である。

 

 だがそれがリベリアを救うことになるかどうかは不明である。少なくとも彼らはそう信じていた。

 

「リベリア解放の為にも艦の整備を頼むぞ。」

「はいッ!」

 

 若いレジスタンスはそのままギルバードの激励の言葉に感激しながら走っていった。

 

 

 

 

それぞれの思惑がすれ違い交差する。それがどういう結果を招くのかこの段階で知る者はいなかった。




ようやく原作キャラが出せた・・・。

今回はフラグと現状確認的な話になりました。

ライオスの状況ですが、正直言ってよく分かっていないので想像で書いています。よく考えたら少尉が1艦隊を預かるのは現代では異例ですがこの時代なら普通そうですよね。

ベルトラム大佐以下アーミーズは慎重派、ギルバード以下レジスタンスは過激派という見方で結構です。フリーボヤージュや海賊達は無関心層という感じでしょうか。

こういった心理描写などは難しいです。言い回しとか適当な言葉が見つからず四苦八苦しました。

それではここまで読んで頂きありがとうございました。

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