芥川龍之介の杜子春https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/170_15144.htmlの後半も参考にさせてもらっています。その影響と舞台装置としての役割のため仙人的な老人が急に出てきますが、書いている本人もよく考えていないのであまり気にしないでください
元々pixivに投稿していた作品(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9601451
)なので勝手がわからないとこもあると思います、何か間違えていたらすいません。
ハーメルンでは連載小説という形で少しずつ投稿していくつもりです。続きが早く読みたい方はPixivの方をどうぞ。
はじまり①
物思いにふけるとき、麦わらの一味の料理人であるサンジは煙草を吸う。
昼。四皇のナワバリを抜けた少し先を見てみると、深い霧の中でライオンの船首を持った船が海上で波に揺られているのがわかる。周囲には船の影はなく、当然人の影もない。唯一ある人影は、愛用の煙草を吸いながら、サニー号の甲板で壁にもたれかかって座っているその船の料理人。
部屋の明かりは消した。霧ははれそうもない。今この時、この空間にある光は、霧の隙間からのぞく微かな日の光と、目の先数センチの煙草の火の光のみ。
その煙草の光を目でかすかに追いながら、ゆっくりと肺の奥まで煙を通すと、サンジは自分がようやく四皇のもとから解放されたことが実感できた。風向きの変化で、吐いた煙が顔にかかるのすらどこか心地よい。
風切り音を無視して耳を澄ましてみると、野郎共のうるさい寝息とレディ達のかすかな寝息の音以外は何の音も聞こえてこない。それもそのはず、数時間までやっていたのは四皇相手の決死の闘い。誰が勝ったか一大興行。誰も彼もが疲れていた。
だからナミさんがカカオ島で買ってくれていた食糧でめいいっぱい振る舞った料理をあいつらが腹一杯食べた後はあっという間。半刻も経たないうちに皆は寝室で眠ってしまっていた。もっとも、ルフィは食堂で食べ続けながら寝ていたが。
皿洗いや後片付けが済み、力尽きたルフィを寝室まで持って行くと、軽く部屋を廻り灯りを消す。それが済むと休息と見張りがてら甲板に出た。これでようやく落ち着いて煙草が吸える。
そんな風に思ったことで気が抜けたのか、つい疲れから座ってしまう。甲板に来た理由は見張りのためでもあるというのに。しかし、立ち上がる気力は起きない。そのまま煙草を吸い始める。
朝に食事を始めたはずが、後片付けを始めるときにはいつの間にか昼を迎えている。全くこの船の料理人は大変だ。だが、サニー号でこんな平穏を過ごせるということがたまらなく嬉しい。もっとも、そんなことはこっぱずかしくてとてもあいつらには言えないが。
ただ、その平穏にも影はある。
一味の一員となり、サニー号を何度も助けてくれた海侠のジンベエ。
そんな彼やその仲間であるおれ達を助けるためにナワバリウミウシの無力化やしんがりを引き受けてくれたアラディン率いるタイヨウの海賊団の面々。
面子のためか報復のためかおれ達を援護したクソ親父にクソ兄弟。ジェルマと命を共にすることを選んだおれの姉レイジュ。
そして自身の命と引き替えにサニー号をペロスペローの手から解放して出航させたペドロ。
あいつらを残しておれはサニー号に戻った。
はじまり②
「それで君は何に後悔しているんだ?」
床から生えてきたのかと思った。
瞬きをすると、そこには老人がいた。口調は若いが、齢は80は過ぎてるだろう。背中は丸くシワも多い。白い髭は胸まで届いてるし、声はしゃがれている。しかし、周囲には船の影はなく、当然人の影もない。そんな時に気配も出さず突然現れたその男が、ただ者ではないことは火を見るより明らか。当然警戒すべきであり、いっそ攻撃でもしかけるのが適当であったのだろうが、なぜかその物腰穏やかな老人に敵対する気は起きず、サンジは質問に答えてしまっていた。
「別に。ただ、もう少しやりようがあったんじゃねェかと思うだけだ」
目を閉じて少し思い返す。
おれが城の崩壊の際にブリュレを奪い返していれば、当初の作戦通り楽に逃げられたんじゃないか。
おれがダイフクを倒していれば、キャロットちゃんが無理をすることもなく敵の艦隊を無力化出来たんじゃないか。
おれに速さがあれば、ジェルマの援護は必要なくあいつらが取り残されることもなかったんじゃないのか。
おれがオーブンを倒していれば、タイヨウの海賊団の奴らやワダツミが苦しめられることもなかったんじゃないか。
おれに。力が。あれば。
全てが変わったんじゃないのか。
上から気配がする。座ったまま顔のみを上に向けて見上げると、そこには皺だらけの顔があった。いつのまに移動していたのか。サンジは手持無沙汰になっていた右手で、口から煙草を拾い上げ息を吹いて火を消す。その亡骸を中心の位置で折り、火が再燃する恐れが無くなるのを確認すると、そのままポケットにしまった。
だが、老人を見ると、そのことを気にする様子は一切ない。煙など意に介していなかったようだ。要らん配慮だったか。
「『おれに力があれば』か。それは傲慢というものだ。相手は海の支配者。君が多少善戦したところで、彼らはすぐに対処してくる。君もその片鱗は味わったろう」
確かにそうなのだ。そもそも自分たちが逃げられたのだって仲間たちの助けと城の崩壊やマムの食い煩いといった偶然があったから。それは分かっている。
それでも後悔は残る
老人はなおも微笑んでいた。その微笑みは人を馬鹿にしたところは一切なく、ただ純粋に楽しんでいるものだった。随分とのんきなものだと思う。四皇のナワバリの近くにたった一人で、なおも笑っているその神経はいったいどれほど厚いのか。うちの船長といい勝負だ。そして老人は微笑みを抑え、しかして口元が吊り上がっているままで、愉快そうにサンジに話しかける。
「そこまで求めるなら力をくれてやろう。お前がどれほどの力を持てるかは分らんが、あって困るものではなかろうよ」
随分と都合のいい話だ。まるでおとぎ話。嘘つきノーランドやジェルマ66のような。
だがその二つは実在しているし、なぜだか目の前にいる老人が嘘をついているようには思えない。
続く老人の言葉は物騒ではあったが、それでも顔の笑みは消えていなかった。
「そうそう言い忘れていたが、力を得るにあたって試練の類が無いというわけではない。力を得るためには、自身のトラウマと向き合う必要がある。自分の過去や弱みと対峙し克服しなければならない。心が折れる者や死んでしまう者も少なくない。それでもやるかね」
自分でも深く考えて決断をしたわけではないと思う。
けど、答えは決まっていた。