「外の世界の監視?」
ある日の夕刻。俺と霊夢は縁側で夕焼けを見ながらお茶を飲んでいた。この時間は少し気温が下がり始めるのでちょっとずつ涼しくなってくる頃。俺たちは紫にそう言われた。外の世界の監視といっても、外の世界。つまり俺が元いた世界に行って何もないか確認してこいというだけらしい。何か異常が起きたら対処してくれといった大雑把な内容だった。正直まだ少し体がなまっているのでそのことも考えて俺を監視の任につかせたのだろう。だが、俺がまともに戦えない状態で霊夢を戦わせるのは俺が気にくわない。霊夢は能力を封じられているはずなので能力を使った戦いはできないから接近戦になる。基本霊夢は体術とかは優れているが殺傷力はどうかと言われると微妙なところだ。
俺は最初は反対した。俺の場合は万全な状態になってから言った方が確実と言って、霊夢は「面倒くさい」との一点張り。気持ちは痛いほどわかるけどそれで死ぬよりかはましだと思う。だから面倒くさくても紫の案に対して「賛成」の方向を向いたのである。
霊夢には「頭おかしいんじゃないの!?」と罵られたけれどそれはこちらの台詞だ。自分事その命を捨てる木なのかと俺は怒鳴った。でもここで怒鳴るのは少し間違いだったのかも知れない。俺も霊夢もそういったことは大の苦手であることは同じのため、気持ちをわかっているからこそ彼女がどう思っているかもなんとなくわかる。
「すまん…」
「別に良いわよ。あなたの言っていることは正論だから」
「というわけだ。とりあえず手伝ってくれ。紫、構わないな?」
「ええ、別に構わないわよ。明日の朝、ご飯を食べたらすぐに出発してもらうわ。お金に関しては…航生なんとかなるわね?」
「なんとかするよ」
などと約束はしたものの正直これはあまりやりたくない。理由はいくつかあるが、一番の理由として考えるのは周りの目だ。俺はその能力故、普通の人には不可能なこともできてしまう。例えば昔の伝承とかに乗っている化け狸が木の葉を変えたように俺は「ある別のものを同じ材質でできているものならそれに作り替える」事ができる。例えばただのコピー用紙を紙幣にしたりすることも一応できる。石炭をいじってダイヤモンドや黒鉛にできるし、水を氷に替えると言った一般的な事もできる。割と汎用性が広いのでそこそこ気に入っている。でも俺の能力は「ありとあらゆるものから干渉されない」というもの。それなのに何でそんなことができるのか俺にはわからなかった。不思議なこともあるもんだなと俺は流した。
☆
「さて、用意は良いかしら?」
次の日の朝、俺と霊夢は支度を完了させた…はずだった。明らかな問題が一つだけ抜けていなかった。それは服装だ。今霊夢の着ている巫女服は露出が多いから変な矢からに絡まれそうで怖い。それに加えて、外の世界で霊夢達のことが知られているということがあるため、その服装で歩かれるとこちらが困る。なぜなら幻想郷は忘れられたものが集まる場所。「霊夢がいる」と世間に知られると紫がわざわざ手を加えないと霊夢が外の世界から帰れなくなってしまうという問題が発生するためだ。仕方ないので俺は適当に合いそうな服を作る。ぱっと思いついたのがパーカーだった。まあこれで最悪顔も隠せるしいいだろう。まあ俺の場合毎日に多様な服しか着ていないからアレだが…。
それにしても霊夢にパーカーを着せてよかったと思う。とても似合っているのである。普通は発掘されない霊夢の似合う服。今度から家の中ではこれで生活してもらうのも悪くないかもしれない。…いや駄目だ。霊夢はあの巫女服の方が霊夢らしく見える。そして霊夢になくてはならない大切なものがある。それは霊夢が頭につけているリボンだ。結んだときに幅30cmはないもののそれくらいはあるだろうと思えるくらいの長さだ。これがないと霊夢に見えないのだが言い案はないだろうか…。
現実はそう甘くない。霊夢には普通の髪留めをしてもらった。まあ耳の前に垂らしている髪についている「ちくわ」は別についていても問題はなさそうだ。というわけで準備完了。いざ出発だ。
「気をつけなさいよ」
「「そう言うなら送るな」」
と紫に向かって言った。人ではないから当たり前だが、非人道的なことを平然とやってのけるのが紫だ。そこに痺れもしないし憧れもしないけど…まあいい。今の紫に俺たちが何を言っても無駄だと言うことがわかった。そう考えながらも俺たちの話を聞かずに紫は俺たちを外の世界へと送った。少しくらい話を聞いてくれても良いではないかと思って殴りたくなった。でもスキマで変なところに手を出されそうで怖い。
紫のスキマで外の世界へと到着した俺たちは紫に言われたとおり周りを見て回ることにした。といってもできることはそれくらいだし、それ以外に命令されていることはない。霊夢は空を飛べないから下に降りて歩いて回ることにする。それだと何日かかるのかわからないが少なくとも出てきたところの周りを主に見れば大丈夫だとは思う。
「…とは言ったものの…何もなくね?」
「そうね、明らか平和って感じだし」
数時間歩いて見て回ったものの特に何かあるわけではなかった。事故も事件もないし、そこらで小さい子供が転んで鳴いていたくらいだ。あとは浪人生かどうかわからないもののどっかの試験で落ちたような顔をして奴らくらいでそれ以外は本当に何も異常が無かった。それが一番嬉しいのであるけれどどうしても何かあってほしいと思ってしまう。本当に何も理由はない。でも何もないとつまらないと思ってしまうのはどこの人間も同じだと思う。
霊夢もついに暇すぎてあくびをするほどだった。俺はそこそこ集中していたけどそれでも少しずつ疲れ始めていた。だから霊夢のあくびする気持ちがよくわかった。数時間回りっぱなしだから少し休憩しようと言って俺は近くのカフェに入った。霊夢はこういった場所に来るのは初めてだから俺が霊夢に食べたいものを聞いて頼む。頼んでいる途中ふと気になったことがあった。全く関係ないことではあるが、霊夢は幻想郷の平和を管理する博麗の巫女だ。なのに外の世界に出てきても大丈夫なのか。それに加えてもう一つ。能力が使えないはずの幻想郷の住民。なんで紫は自分の能力を使うことができるのか。もしかしたら他にも使える奴がいるのではないか。そう思っている。
「ん~!美味しい!」
「…まあ…美味いならよかったよ。でも今日だけじゃないんだから今日ここで食べるのはこれで我慢しろ」
「わふぁってるわよ」
口の中にケーキを頬張りながら言葉を話されても俺には聞き取れない。口の中がなくなってから話してほしかった。霊夢自身だってそれくらいのマナーは知っていると思ったが…いやよく考えたら人のこと言えない。俺も飯食うときよく話をしている。霊夢に「人の子という前に自分のことを直せ」とか言われそうな気がした。
「にしても…本当に何もないのか…?」
「あなたって高校行っていたのよね?」
突然そう聞いてきた霊夢。確かに幻想入りする前、俺は一般的な高校一年生だった。確かにこの前までは俺は学校に行っていたけれど今では行くことはかなわない。おそらく今俺は行方不明として学校が捜査願いを出しているはずだ。でも幻想郷の中と外で時間が来るっていなければ俺が幻想入りした日からだいたい2~3週間立っている。だからおそらくもう捜査は打ち切りになっているはずだ。つまり、俺は死んだことになっていると思っている。
「なるほどね…でも拠点はほしいからね…その学校に行けないの?」
「いけないことはないけどさ…俺が個人的にあまり行きたくないんだよね」
理由はいくつかある。この前紫に聞いたから知っているが、幻想郷は忘れられたものが来る場所。それ以外は内側の人間が連れてくる以外に方法はない。だが俺の場合そのどちらにも当てはまるという。他人から必要とされていないのに加え紫に連れられてくるということになってしまった。てかそもそもそれなら俺を捜索しようとする奴はいないはずだ。そこはどうなのだろうか…。
「…わかった。あまり気は進まないけど学校の教室に入ってみよう。だが霊夢を連れていくわけには行かない。別の場所で待機しててもらいたいんだが」
「それは断るわ。だってあなただけで対応できない事態になるかも知れないでしょ?」
「馬鹿野郎!この世界で幻想郷の存在は知られている。お前が名前言ったらどうなるかわかるだろう!」
「…ごめんなさい…」
「…すまん少し熱くなった」
「いいのよ。でもそれならわかったわ。近くのホテルって確か1週間分くらいとったんでしょ?そこ行くわ」
「了解」
霊夢はそのホテルの方向へと歩いて行った。俺は霊夢にある物を渡しておいた。それは俺が使っていたスマホだ。自分の番号は知っているからそれに掛ければ出れる。俺が電話したら出れるように通話の簡単な操作方法だけ教えてから渡した。少し興味を示していたので帰る前に一つ新品を買ってやるのも良いかもしれない。
しばらく歩いて俺は前通っていた学校に着いた。校門から見える校舎。やはり数週間だか一ヶ月ではあまり変わらない。校舎の奥の方に見える校庭ではどこかのクラスが体育をしていた。そういえば俺のクラスは3組だったはずだ。だが俺の記憶している3組の奴がいないということは3組ではないらしい。となると3組は教室か移動教室か知らないがそのどちらかだろう。少し怖かったが俺は校門から内側に足を踏み入れる。うちの学校は私服なのでそこが楽なところでもあった。
「懐かしいな…」
下足箱に靴はいれずにそのまま教室へと向かう。教室を覗くとクラスメイトはいない。どうやら移動教室のようだ。時間割を確認してみるとどうやら体育館で体育をしているようだ。そっちを覗いてみるのも良いかもしれないな…。行ってみるとしよう。
☆
「ここも久しぶりだな…」
体育館の外壁を見てそう思う。たった一ヶ月くらいなのに何でここまで懐かしく感じているのだろう。
「きゃあああああああ!」
外壁を見たあと俺は体育館の中へ入ろうとした。その時その中から叫び声が聞こえてくる。アニメとかでよくある勇者がヒロインを助ける王道シーンのような感じに見えたけど今はそんな悠長なことを考えているのではない。急いで助けなければならない。俺は扉を開け中に入る。
中にいたのははっきり言ってキモい奴だった。蛇のようだが白っぽい色をしている大きな蛇型のモンスター。もう見飽きたほどだが今なら一撃で殺れる。ただ一撃で完璧に殺すには10秒ほど時間がかかる。
俺は突進の体勢をとる。突進のスピードを極限まで高めるために攻撃の瞬間まで俺は剣を出さない。基本突進するときはそうだ。チャージ完了まであと8秒。
「ここに力の反応があったから来てみたが…雑魚しかいない」
「なんだお前は!」
「私に対してのその口の利き方はいただけない。悪いが黙ってろ」
そう言ってその蛇は尻尾で近くにいた先生を吹き飛ばす。吹き飛ばされた先生は体育館の壁に激突した。それにも目が行ったがまずなんで蛇がしゃべれるのかが気になって仕方が無い。でも集中を乱すと技の威力は落ちるなるべく集中を切らさないようにしないといけない。チャージ完了まであと3秒。
(よし…いける!)
チャージ完了と同時に攻撃を仕掛けるためさらに体勢を低くする。もうたまる。これで相手を吹き飛ばす。先生を飛ばされた恨みも剣に乗せる。
「吹き飛べ!」
足に力を入れて接近する。能力でその技の限界を超えているので威力は保証できるし、それに俺の筋力と集中力も底上げしているので普通ではあり得ないスピードも出せる。俺も一ヶ月で変わったな。
俺の剣はその蛇を貫く。蛇はうめき声を上げながらバイオハザードのゲームのようにその場に倒れた。それを確認すると俺は剣をしまった。俺の顔や服には貫いたときの衝撃で飛び散った血がかかっていた。洗濯が大変だ。
「だ、誰だお前は」
「その台詞は聞き飽きましたよ先生。自分の生徒の声をお忘れですか?」
俺は振り返る。それと同時に俺の顔を見つめ驚愕を隠せていない全員を目にすることになる。ちょっとショックだった俺はここまで変な顔をされなければならないのかと。でも逆に考えれば俺はそれだけ覚えられていたと言うことだろう。そっちは嬉しかった。