----「幸せの始まりはパン屋から」----
「お待たせしました。ペペロンチーノです」
「ありがとうございますっ!」
電車に乗る前にお昼ご飯を食べる事にした私は、駅前にあるファミレスで少し早めのお昼ご飯を食べることにしました。
ここのファミレスは、7年前に花咲川西高校の文化祭終わりに寄った場所。目を閉じれば昨日の出来事のように思い出が鮮明によみがえる。
「うん。美味しい!」
フォークでくるくると巻き取って、ゆっくりと味わう。
お昼時でお盆休みのファミレスは、駅前と言う立地条件の良さもあるのだろうけどたくさんの人でにぎわっていた。私以外はみんな二人以上で楽しそうに会話をしながら食事をしている
君と来た時はもう周りは暗くて、肌寒い季節だったよね。
今食べているペペロンチーノは程よい辛さで、あの日食べたものと同じ風味に感じて、ふと誰も座っていない私の前の席を見てしまった。
なぜか、私の前からハンバーグをナイフで切った時のジューシーなにおいがした。
「ありがとうございましたー」
「ごちそうさまでした」
財布からワンコイン出すだけで、他の誰よりも満たされた気がした私はその足で花屋さんに行くことにした。
花屋さんに行く途中で、女子高生に人気そうな小物が売っているお店を見つけて入ってみることにした。このお店、私が高校生の時には無かったと思う。
近くには私の母校である花女もあるし、花咲川西も女の子の割合が男子よりちょっとだけ少ないらしいけど、この街は女子高生がたくさんいる。それに羽丘女子もあるから、やっぱり女子受けの良いお店はこの辺には出店しやすそうだね。
「あっ!」
お店の中を見ていると、かわいらしいフェルトを見つけたんです。
それは魚を模ったフェルト。かわいらしく作られているから意外とありかもしれない。
「これも……プレゼントしてみよっか」
魚も好きな君なら大喜びしてくれるかもしれないし、「俺ってそんなに女の子っぽい?」ってニヤニヤ顔しながら問い詰めてくるかもしれないけど。
私はそんなの気にしないけどね。女の子からのプレゼントを喜んでくれないなんて男子失格だからね。
だから私は見つけた魚のフェルトを❘二つ《・・・》店員さんに渡す。青色が君ので、ピンク色が私。
「ペアルックじゃん!!沙綾ってそんなに俺の事が好きなの?」
ふふふふ。ぜっったい、そんな事を言うよ。顔色を見なくても分かる、世界で一番のニヤニヤ顔を私に披露するから。
だから、そんな事を言われたら私も言い返さなくちゃ、ね?
「そんな事女の子に言ったら嫌われるよ?女の子は一度嫌ったら二度と好きにならないから」
ふふふ。きっと大慌てで修正するんだろうなー。
最初は花を買ったら電車に乗ろうって思っていたのに色々寄り道をしてしまった。だけど私が高校生の時の思い出がポンポンと出てきて、なんだか大人になったんだなって急に思い始めてきた。
お酒を飲めるようになって三年目。もう立派な社会人なんだよね、私たち。
当初の目的通り、花屋さんに到着。
色とりどりのお花たちが私を迎えてくれる。とってもいい香りが私の鼻をこちょこちょっとくすぐる。
「すみません。黄色のマーガレットってありますか?」
「はい、こちらにありますよ」
店員さんが指さしたところには、黄色はもちろん白やピンク、濃い紫など個性豊かなマーガレットが私を迎えてくれた。
案内されたところに、マーガレット。
花咲川西の文化祭を思い出す。美術部の女の子に聞いて、すぐ近くに絵があったんだよね。たしかあの時も、黄色だけだったけど、マーガレットが私を迎えてくれたんだ。
もちろん、実物と絵。その違いはあるけど、それほど君の絵に引き寄せられてしまったと言う事。
演劇もすごく良かったけど、私にはこの瞬間が今でも忘れられない。いや、違うかも。
忘れたくない、かな。
「黄色のマーガレットをメインでブーケをお願い出来ますか?」
「良いですよ。……それにしても珍しいですね」
「ブーケをお願いする事が、ですか?」
「いえいえ、黄色のマーガレットをメインって珍しいと思いまして」
「今から会いに行く人が、好きなんです。黄色のマーガレットが」
「そうなんですか。ではおまけで黄色のマーガレットを三本、お付けします」
「わっ!良いんですか?ありがとうございます!」
店員さんはお店のあちこちを回って、ブーケに合いそうな花や葉物をどんどんと取り出していく。頭の中で完成図が浮かび上がっているのかな。そう思ったら芸術家の人って凄いって思う。
「マーガレットの花言葉をご存知ですか?」
「えっ?……知らないです。花の色によって花言葉が変わると言うのは知っているんですけど」
「そうですね。花の色によって花言葉って変わるんですよ」
店員さんはブーケを作りながら私に話しかけてきた。
そう言えば文化祭終わりのファミレスで君に花言葉を聞くのを忘れていたな、って思った。あの時は急に話がコンテストの方に行ったから、聞きそびれたと言うのもあるけど君の顔色の変わりようの方がビックリだった。
「黄色のマーガレットの花言葉は『美しい容姿』という意味が込められているんです。マーガレットは恋を表すのが一般的なんですが、黄色だけは少し違うんです」
ブーケが完成しました、と店員さんからブーケを手渡される。
美しい容姿、か。たしかに絵を描く事が好きな君らしい。
私は財布からお金を出して、ブーケを紙袋に丁寧に入れてもらった。君にあげるにはもったいないぐらい、良い出来に仕上げてくれた店員さんに感謝を込めて花屋さんを後にした。
駅前に着いて、ICカードを改札口にタッチして構内に入る。
私の手元から花の良い香りが辺りの空気に干渉する。周りの利用客の人たちにも一握りの幸せを与えているかのように感じて、私は誇らしげな気分になった。
駅の時計は正午を指している。約束の時間は2時だから余裕を持って到着する事ができるだろう。
君の最寄り駅までは電車で10分ほどで着く。各駅停車しか止まらない駅だけど、雰囲気は風情があって良いと思う。
……というか、君が迎えに来てくれたらいいのに。
そんな愚痴が私の心から生まれた。駅から徒歩で数分で家に着くからって普通は男子が迎えに来るんだよ。
この場所にいない君にすごく言い聞かせたい。
「この電車は12時2分発の各駅停車です。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」と言うアナウンスが構内に響き渡る。
あ、電車が来た。この電車に乗って君のいる場所に行く。
電車に乗って、端っこの席に座って外の景色を見る。まだ電車は走ってないから駅しか見えないけど、普段電車に乗らないからそんな風景も見入ってしまう。
そう言えば文化祭に参加し終えた後、しばらく君には会わなかったよね。でも急にきたメールにまたしても驚かされたのを思い出した。
電車が走り出す。
電車に揺られながら、私は7年前の、鮮明に覚えている思い出に浸る事にした。
確か、文化祭の一か月後で私は君にモヤモヤしながらお店の手伝いをしていたんだ。
私の隣の席は誰も座っていなかったのに、絵の具のにおいがした。
----「幸せの始まりはパン屋から」----
@komugikonana
次話は3月6日(水)の22:00に投稿予定です。
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~次回予告~
文化祭からしばらく経ったこの日。私はモヤモヤしながら日々を過ごしていた。理由はメッセージを送っても既読がつかないから。そうしたら急に携帯が音をたてて私を呼ぶ。
「沙綾、クリスマスイヴの日って、空いてる?」
~感謝と御礼~
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