幸せの始まりはパン屋から   作:小麦 こな

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追記
次回予告を記入しました。


第13話

私たちは改札口を出た。駅前だけをうっすらと照らすだけの光量のせいだろうか、体感している温度よりも寒く感じた。

近くを見渡す限り、イルミネーションがあるような雰囲気は微塵もない。

 

「沙綾知ってる?ここから歩いて20分くらいの所に墓場があるんだ……」

「み、みゆき君っ!?怖い事言わないでよ!」

「あれ?イルミネーションがあるのはどっちだっけな……」

「絶対お墓の方に向かってるよね!」

 

薄暗いから近くで見ないと分からないけど、今のみゆき君はニヤニヤしているに違いない。私の心の中にはイルミネーションがある、と言う事さえも冗談なように思えてきている。

 

疑心暗鬼なんて言葉があるけど、今の私はその言葉を忠実に表していると思う。そう考えると、四字熟語を考えた人ってすごいね。

 

「そうだ、こっちだこっち……あれ?沙綾どうしたの?」

「……本当にそっちの方向にイルミネーション、あるの?」

「あるよ。墓場があるのも本当だけど、逆方向だし、何より遊びでお墓とか行く場所ではないでしょ?ご先祖さんに失礼だし」

「そ、そっか」

 

「だからさ、ゆっくり歩いてイルミネーションの所まで行こうぜ」って私の前をゆっくりと歩き出したみゆき君。私の心を暗くしていた鬼が消えてなくなる瞬間だった。

 

目が慣れてきたからなのか、それとも心が明るくなったからなのか。

分からないけどさっきよりも周りが見渡せるくらいの明るさになっていて、振り向いたみゆき君の顔も判断出来た。

 

みゆき君は、初めて出会った時のような、眉毛と目じりを優しく下げて微笑んだ表情をしていた。

 

 

 

 

「ほら、ここだよ」

「ここ……?」

 

何分歩いたんだろうか。みゆき君と話しながら歩いていたから早く着いたように感じた。

……なんだけど、私が想像していたイルミネーションとは異なっていた。

 

こう、大きな通りの並木道全体が光に包まれていたり、光のオブジェをくぐったり。そんなイメージをしていた。

 

「沙綾のイメージしてたイルミネーションと違うでしょ?」

「……うん。正直」

 

私たちが到着したのは、大きすぎず小さすぎない、公園のような大きさの広場。

その広場の真ん中には5mほどの大きさのクリスマスツリーがあって、イルミネーションがしてあった。

 

もちろん、ツリー以外もイルミネーションはあるけど派手なものでは無かった。

 

「沙綾はここのイルミネーションを観てどう思った?」

「私は」

 

イメージしていたイルミネーションとは程遠くてがっかり?

イルミネーションの光量も少ないから地味?

デートっぽい雰囲気がまったくない?

 

私が思った事。それはね?

 

「たしかにイメージしていたより素朴だった」

「うん」

「でもね。光が一つ一つ、きれいに輝いているように見える。だからかな?私の心にいっぱい、感動が響くような気がする」

 

言葉でなんて表しにくいけど、私の気持ちを精いっぱい吐露した。

たくさんの電球を使ってきれいに見えるイルミネーションよりも、電球一つ一つが主役でイキイキしているように思えたんです。

光の変化と、私の感動が共鳴しているかのように電球の色がパッと変わる。

 

「そっか。沙綾とここに来て正解だったね」

「ここを紹介してくれたみゆき君の先輩にも感謝だね」

「そうだね。……沙綾、あそこに座る場所があるからイルミネーション観ながら話をしない?」

 

みゆき君が伸ばした指の方向を見てみると、ひっそりとベンチがあった。よくあんなところにあるベンチを来てすぐに見つけたな、ってちょっと感心した。

絵を描く人って風景の描写とかもするから、見える視野が広いのかも。

 

ベンチに座ると、丁度中央にあるクリスマスツリーが前にあってキラキラと輝いていた。みゆき君はんんっ、と咳ばらいをしてから私の方を向いた。

 

「実はさ、今日沙綾に2つ、嘘をついた」

「……そうなの?」

 

何を話し出すのだろう、って思っている矢先の出来事だった。

嘘ってどんな種類の嘘なんだろう。ちゃんと私に言ってくれるのは高ポイントだよ?だけど今日、私とみゆき君が会ってまだ2時間も経ってないのに2つの嘘ってペース速すぎでしょ!?

 

「1つ目の嘘なんだけどさ」

「うん。何を嘘ついたのかなー?」

「沙綾楽しんでるよね……。ま、いっか。ここのイルミネーションは先輩に聞いて来たわけではないんだ?」

「そうなの?」

「うん。俺が沙綾に観て欲しかっただけ。ここのイルミネーションはさ、この地域に住んでいる人たちが毎年有志で作っているんだ」

「そうなんだ!へぇー、すごいね!」

 

街の人たちが作ったイルミネーション、か。そういうのすごく良いよね。

もしかしたら、街の人たちが込めたたくさんの「気持ち」が光になって表れているからどんなイルミネーションよりも輝いているのかも。

 

でも、どうしてみゆき君はそんな情報まで知っているんだろう。みゆき君はこの近くに住んでいるのかな?

 

「ね、みゆき君ってここの近くに住んでるよね?」

「えっ?そうだよ。……教えたっけ?」

「ううん。初めて聞いた。でもなんとなく分かったよ」

 

そうだと思った!だって駅を降りて早々「近くにお墓がある」なんて普通分からないよ。それに、今座っているベンチもそう。そんなすぐに見つけられるわけが無い。

 

「そっか。話を戻すけど、ここのイルミネーションは今年が最後なんだ」

「そうなの!?どうして?」

「有志でやってるから電気代とかもすべて住民負担でね。イルミネーションの電気代ってかなり高いんだ」

「そっか……残念だね」

「俺も去年から手伝ってたから残念だね。だけど最後に沙綾に来てもらえて良かったよ」

 

子供のような無邪気な顔で笑うみゆき君は本当に嬉しそうだった。私が来るくらいでそんなに喜ばなくても良いのに、なんて思ったけど他人を笑顔にさせることが出来たんだから良いかな。

 

再び中央のクリスマスツリーを観る。

赤、緑、青と交互に変わる色がどれも力強くて、この一瞬の感動を私の脳内に直接訴えかけてきているような、そんなエネルギッシュな光を放っていた。

 

すごく、きれい。

 

 

「2つ目の嘘……なんだけど、さ」

 

みゆき君は少し震えた声でぽつんと言葉を落とした。

私もみゆき君の言葉を振り返ってみたけど、さっぱり分からない。声が震えているから何かやましい事でもあるんじゃないかな?

 

私はみゆき君の方を向いた。

周りのイルミネーションが赤色になった時、みゆき君の顔は電球に負けないくらい赤くなっていた。

 

「沙綾の事、かわいいと思ってるのは……本当、だ、から」

「えっ!?」

「聞き返しても、もう二度と同じ事言わないから!!」

 

みゆき君は凄い速さで顔を明後日の方向に向けた。

わ、私だってそんな事言われるなんて思ってもいなかったから!冷たい手で頬っぺたを触ってみると沸騰している湯の入ったやかんと同じくらい熱かった。

 

「そ、そろそろ帰り始めよっか!沙綾も遅くなったらダメだし」

「え!?う、うん、分かった」

 

みゆき君は勢い良く立ち上がって広場の出口の方へササッと歩いて行ったから私も急いで追いかけようとした。

けど、一度立ち止まった。

 

そして、広場のクリスマスツリーや周りのイルミネーションを観る。

 

イルミネーションは、今日が最後とは思えないような、イキイキとしていてとっても輝いていた。

 




@komugikonana

次話は3月13日(水)の22:00に投稿予定です。
新しくこの小説をお気に入りにして頂いた方々、ありがとうございます!
Twitterもやっています。良かったら覗いてあげてください。作者ページからサクッと飛べますよ!

~高評価をして頂いた方をご紹介~
評価9と言う高評価をつけていただきました ジャムカさん!

この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!!
これからも応援、よろしくお願いします。

~次回予告~
お正月の朝、あまりすっきりしない新年を迎えた。その原因はクリスマスイブの日に最後にみゆき君が言ってくれた嬉しい言葉。
そんな私に届いた、君からのメッセージ。
「沙綾に直接伝えたいことがあるから、今日か明日に会えない?」

~お知らせ~
昨日から私のTwitterで次話の見どころを公開し始めました。火、木、日曜日の22時に公開します。良かったら覗いてみて下さい。
私が時間をかけて書いた箇所や、伏線を読み解くヒントなどを公開していく予定です。

~お詫び~
私、小麦こなは3月20日に大学を卒業し、25日~31日まで新入社員研修に参加します。現時点では3月20日と3月25日~4月5日分を予約投稿しておきます。ただ感想の返信が遅くなると思われます。感想を書いてくれているみなさんにはこれからはご迷惑をおかけしますがご理解の程、よろしくお願いします。
感想は必ず更新後1日以内に返信すると約束します。なので今まで通りドンドン感想を送ってくださいね。

では、次話までまったり待ってあげてください。

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