幸せの始まりはパン屋から   作:小麦 こな

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第15話

「あけおめ。沙綾」

 

うそ……なんで……?

どうして10時30分(こんな時間)にみゆき君が集合場所に来ているの?

 

私は自分でも瞳が揺れ動いているのが分かってしまった。それほどまでに動揺していたんです。そして目頭が少しだけ熱くなったような気がした。

 

「あれ?新年からご機嫌斜めなのかな?もしかして、せ……」

「……どうして?」

「何が?」

「どうしてみゆき君はこんな時間にこの場所にいるの?」

 

どうしても、みゆき君が今ここにいる理由が分からなかった。私はしっかり1時に集合って伝えたはずだから。それにみゆき君は電車に乗らないとここまで来れない。

 

ニヤニヤ顔から真剣な顔つきに戻ったみゆき君は、私が座っていたベンチの隣にゆっくりと腰を下ろした。

「よっこらしょっと」なんて言いながら座らなければかっこ良かったのに……台無しじゃん。

 

「どうしてこんな時間にこの場所にいるの、か……。それは沙綾にも当てはまると思うけどね」

「それは、そうだけど……」

「俺は沙綾に伝えたいことがあったから」

「それは知ってるよ?」

「すぐに既読が付いたから、きっと早い時間から集合場所に来るんだろうなって思ったから」

 

人の、少し弱っている時の心情を、簡単にくみ取らないでよ……。ほんと、みゆき君って意地悪だよねー。

「それにさ」って続きを言おうとしているみゆき君の顔は、真冬の空よりも晴れ渡っているような気がした。

 

「沙綾とイルミネーションを観にいったクリスマスイヴのあの日、また同じ失敗をしたから」

 

「失敗」と言うマイナスな単語を使っているのに、優しく微笑み掛けてくれるみゆき君に、私の心はむず痒くなった。おでこに前髪が当たってくすぐっているような、そんな痒み。

それに、「同じ失敗」について聞くことが出来なかった。いや、聞けなかった、の方が正しいと思う。

 

だから私は、みゆき君を見つめる事しか出来なかった。

 

「俺が変に恥ずかしくなって、気まずい空気にしてごめんな。本当の事を言っても気まずくなったらダメだもんな」

「みゆき君……」

「これが、沙綾に会って直接言いたかった事。また以前のようにメッセージのやり取りしようよ。寂しかったんだから」

 

私の心臓がドクンッとなった。みゆき君の顔を見ているだけで心拍数が心地よく上がっていく。私が読んだ恋愛小説でこの感情によく似た描写がある事を何故か思い出したんです。

……それって、私がみゆき君に恋してるってこと!?

 

ないない!絶対にないって!

確かにみゆき君は良い人だけどすぐニヤニヤしながら軽口叩いてくるし、勝手なイメージだけど女の子を侍らかしてそうだもん。

 

ま、待って。私もみゆき君に言わないとダメな事、あったじゃん。そのために速く集合場所に来て考えていたんだから。

私は息をスーッと吸ってからみゆき君、って言った。

 

「クリスマスイヴの日、ありがとう」

「何が?」

「……ふふふふ」

「寒さで沙綾がおかしくなったのか?」

 

みゆき君が「何が?」って言うとは思っていたけど、一言一句そのままだったことに笑いが堪えきれなかった。

 

「せっかくだし、二人で初詣に行かない?沙綾は大丈夫だよね」

「うん、もちろん!……そうだ、みゆき君」

「何?沙綾」

「『あれ?新年からご機嫌斜めなのかな?もしかして』の後、なんて言おうと思ったのかなー?」

「ん?あぁ、生理?って聞こうと思ってた」

「最低」

「沙綾の言葉と言う名の槍が俺のメンタルをドリルのようにえぐり取ってるよ~」

「いや、本当に」

「マジなトーン!?」

 

 

 

 

「私たちが初詣するならいつもここでやっているんだ。結構大きな神社でしょ」

「へぇー。赤色の鳥居が良い感じだな」

 

もうすぐお昼になりそうなこの時間に、私の地元にある神社でみゆき君と初詣にやってきました。

ここの神社は年末年始は多くの人が訪れる。破魔矢はもちろん、焼きそばやおでんを売っている屋台まであるんです。確か朝ここで、アイドルグループのPastel*Palettes(パステルパレット)のメンバー2人がレポーターをしているって母さんが言っていた。

 

私たちはゆっくりと、赤く大きな鳥居をくぐって本殿がある神社の中心にまでやって来た。ここの神社の本殿も鳥居と同じような濃い赤色で、その前辺りにはおみくじも売っている。

ちょっとおみくじでも引いてみようかな、って思っていた時にみゆき君に話しかけられた。

 

「沙綾、新年のお願いをしない?鈴を鳴らしに行こうよ」

「そうだね。みゆき君にもお願いしたい事、あるんだ」

「そりゃあ、あるよ。女の子と仲良くなりたい、ってね」

「はいはい」

 

私が持っていた「女の子を侍らかしてそう」と言う勝手なイメージは案外、当たっているのかもしれないってみゆき君のニヤニヤ顔を見ながら思った。女の子と仲良くなっても仕方ないんじゃないの、っていつも思う。そんな簡単に女の子は警戒を解かないからね。

 

はぁ、と白いため息をつく。みゆき君は相変わらずニヤニヤしているからその顔に、私が吐いたため息をぶつけてあげたいって心の隅っこで思った。

 

お昼だからそんなに並ぶ事無く本殿の鈴の前に到着することが出来た。黄色く、大きな鈴は私たちを優しく見下ろしているように感じた。

 

私は財布から5円を取り出して、賽銭箱に投げ入れる。

チャリーン、と言う甲高い音が聞こえた後に鈴を鳴らし、手を合わせてお願いする。隣をチラッと見ると、みゆき君も同じように何かをお願いしていた。真面目な顔になっている時は無理していそうな感じがして、少し胸が痛かった。

 

「沙綾は何をお願いしたの?」

「こういうお願いは他人に言ったら叶わないって言うから内緒、かな?」

「それなら俺も内緒にしておこっと!」

 

何故か得意顔になって口角を上げるみゆき君を見て、どんな大きなお願いをしたんだろうって疑問がスポンジに洗剤を入れて揉むと出る泡のようにしゅわしゅわと湧いてきた。

 

「もうすぐお昼だけど、どこかに食べに行く?」

「んー……、沙綾の家のパンが食べたい」

「パンってお昼ご飯と言うより、おやつに近いけど」

「良いじゃん。沙綾の家のパンは美味しいからいくつでも食べられるし、実質お昼ご飯みたいなものだよ」

「なにそれ……ふふふ。じゃあ、今からうちにおいでよ」

「お昼だからパンが安くなって……」

「なりません」

 

ですよねー……、ってあからさまに肩を下げてがっかりするみゆき君。

顔はニヤニヤしていないけど、目に見えて分かるほど肩を下げたのは演技かもしれないから気を付けないと!……なーんて思っていたけど、久しぶりにみゆき君とお話しできたから少しだけ値下げしてあげようかな?

 

「ねぇ、みゆき君!」

 

肩を下げたのと一緒に歩くスピードも遅くなったみゆき君の前に出て、くるりと振り返って君の名前を呼んだ。

緑色のスカートがふわりと広がるのを感じた。短いスカートじゃないから大丈夫。

 

早速、今日神様にしたお願いが叶っているかどうか確かめてみよう。

私のしたお願い、それはね。

 

「改めて、あけましておめでとう!みゆき君」

「うん。あけましておめでとう、沙綾」

「それと、クリスマスイヴの日に容姿を褒めてくれてありがとっ!」

 

 

自分の感情に素直になれますように。

そしてその感情を恥ずかしがらずに笑顔で言えますように。

 

みゆき君は後ろ髪を掻きながら少し照れくさそうに目線を下に向けていた。

 

 




@komugikonana

次話は3月18日(月)の22:00に公開予定です。
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この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとう!
これからも応援、よろしくお願いします!

~次回予告~
学校のお昼休み。私はバンドメンバーと一緒にお昼ご飯を食べていると、私の携帯に着信が入った。もちろん、電話をしてきたのはみゆき君。私が今日、お店の手伝いをしていると伝えると大きな声で喜んでいた。
そんなに私に会いたいのかな?……ちょ、ちょっと待って!そんなはずないって。
あー、もう。顔が熱くなってきちゃったよ……。

~感謝と御礼~
・今作品「幸せの始まりはパン屋から」の感想数が100を突破しました!日々たくさんの感想を楽しく返信させていただいています。私は感想数が多い作品が「良い小説」だと思っております。みなさんの力でこの小説は「良い小説」になってきています。これからもドンドン感想送ってきてくださいね!待ってますよ!!
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~豆知識~
同じ失敗……みゆき君が今話で発言した言葉。第5話で手帳を塗りつぶした理由を彼はこう言っていました。
「だから俺は思った事を隠さず、照れずに言う事にしたんだ。黒く塗りつぶすほど後悔するくらいだったら言った方が良い、ってね」
その発言の前には「人はいついなくなってしまうか分からないでしょ?」と言っています。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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