幸せの始まりはパン屋から   作:小麦 こな

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第24話

ライブ当日の日の午後2時。私たちPoppin’Partyはライブ会場であり、私たちがいつもお世話になっているライブハウスCiRCLE(サークル)で当日リハーサルを行っている。

 

前日には音色やスピーカーの返し音などの確認は済ませているから、今日は主にライブの流れを説明してもらったり、出演者とCiRCLEの男性スタッフさんと一致団結して良いライブにしよう、的な事をする。

 

ちなみに私たちのバンドはここのライブハウスで働く男性スタッフさんとは仲が良い方だからまったく緊張しないんだけど、初めて大勢の前でライブをするバンドがほとんどだから男性スタッフさんは忙しそう。頑張ってください。

 

 

当日リハーサルが終わった後、私たちは楽屋でライブの出番が来るまで待機している。まだ何時間も余裕があるのでまだ私服でゆったりとガールズトークをしている。

そして開始から1時間を切ると衣装に着替えてみんなと今日演奏する楽曲を軽く合わせる、と言う流れが私たちPoppin’Partyのルーティン。

 

香澄たちが楽しそうにガールズトークしている間に私はコソッと携帯を取り出してメッセージを送る。もちろん送る先はみゆき君。

 

 

7時30分ぐらいから私たちの出番だよ

 

 

シンプルな内容だけど、何よりも伝えたい情報を記入して送信ボタンを押す。今回は送って10秒ほどで既読がついてちょっと早すぎるよ、なんて思いながらも口角がぐにーっと広がるのが分かった。

 

携帯の電源を落として、香澄たちの会話に入ろうかなって思ったからみんなの方向を向くと、一瞬訳が分からなくなった。

だってさっきまで楽しそうに話していた場所にみんながいなくて、代わりに振り返ってみるとみんながジーッと私の携帯を覗き込んでいたから。

 

「ねっ、さーや!さっき誰にメッセージ送ったの?教えてっ!」

「えっ!?誰って、別に知り合いの子だけど……」

「クラスの子とか、バンド友達とか?」

「その部類じゃあ、無いんだけど……。うーん、うちのお店で知り合った男の子だよ」

「「「「えっ!?男の子!?」」」」

「う、うん。そうだけど……」

 

香澄は目をキラキラさせながら「さーやぐらいになるとすぐ彼氏が出来るんだねっ!私たちの周り、幸せが多いねっ!」って大きな声で言うから恥ずかしくなった。

別にみゆき君とは付き合っても無いし、私たちの周りで男女の仲になっている子っていないでしょ。私たちは女子高に通っているんだから。

 

「別に付き合って無いから、はしゃぎすぎだって」

「じゃあ、さーやはその男の子の事どう思ってるの?」

 

顔をグッと近づけて聞いてくる香澄を苦笑いしながら対処する。

私がみゆき君の事をどう思っているのか、ね……。

 

 

みゆき君はすぐにからかってくるし、その時のニヤニヤ顔なんて見た時にはたまに腹が立つこともあるくらいなんだよ?未読スルーなんていつもの事。

 

そのくせ他の誰よりも真面目だし、ちゃんと人を楽しませようとしてくれる。

それに照れた時の顔はかわいくて真面目な顔はちょっと、かっこいい。

 

君の悪いところはたくさん言える。だけど君の良いところはもっとたくさん言える。

そんな恋愛小説のテンプレ決まり文句を頭の中で唱えた時、私の心がパキッと言う音をたてた。

 

待って、私が今唱えた事って……。

今、恋愛小説のテンプレ決まり文句って……。

 

あぁ、やっぱりそうなんだ。今再確認した。

流れに任せて言った訳じゃなくて、本心だったんだ。

 

 

「ほーら、そろそろ衣装に着替えないと本番で痛い目にあうよ?」

「あー、さーやずるいよー!」

「ふふふふ。まずは今日のイベント、しっかり成功させなきゃ、ね?」

 

なぜかいつもより気合いが入っている私がいる。

始めてみゆき君に演奏を観てもらうんだから、しっかりと準備して驚かせてみたいな。ステージ照明の影響で演奏する私たちは前のお客さんしか見えないんだけど、目を丸くしているみゆき君を見てみたい。

 

 

 

本番直前、私たちはステージ袖でスタンバイしながら今演奏しているバンドの演奏を聴く。楽屋にいた時は生まれたばかりの小鳥みたいに震えていたのに、ステージに上がっている姿は輝いていて楽しそうだった。

こんな経験をしてしまうと、バンドって辞められないんだよね。

 

私たちの出番はもうすぐ。いつものように本番前に円陣を組んでからステージに上がる。この円陣には男性スタッフさんも入ってくれる、と言うかいつも香澄から誘っている。

あんまりデレデレしていると彼女さんに怒られますよ?

 

前のバンドの子達が()けていったのを確認してステージに入る。いつも香澄は元気いっぱいに走り出してスタンバイするから観客は大盛り上がりするのだけど、配線に引っかかってこけてしまう危険性もあるので男性スタッフさんはいつも肝を冷やしているらしい。

 

「みなさーん、こんにちはーっ!」

「「「「「Poppin’Partyです!」」」」」

「それでは早速一曲目!SAKURA MEMORIES!」

 

 

 

 

 

「Poppin’Partyのみんな、お疲れさま!良いライブだったよ」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

ライブが終わって楽屋でリラックスしていると、ライブハウスのスタッフである月島まりなさんが声を掛けてくれた。いつも評価を教えてくれて助かっている。

 

「うーんっ!今日も楽しかったー!有咲の家で打ち上げをしよっ!」

「ちょっ、勝手に決めるなー!」

 

いつもの光景に、私は自然と笑顔になる。まりなさん曰く「今日の演奏、とっても良かったよ」って言っていただいたからライブは成功かな。

 

「それじゃあ、有咲の家に向かってしゅっぱーつ!」

 

これから打ち上げが始まるらしいから、みゆき君に直接会って感想とかは聞けないかな。それにライブが終わって時間が経つから帰っちゃったかもしれないよね。

私は携帯を見る。まだみゆき君からメッセージが来ていない。ふふふ、驚きすぎて感想が書けなかったりしてたら面白いなー。

 

「さーやっ!速くいこ!」

「あ、うん!」

 

これから打ち上げだし、帰りの時間が遅くなっちゃうだろう。だから感想は明日たーっぷり聞かせてもらおうかな。メッセージでは無くて電話を掛けちゃおうかな。

 

 

 

 

朝早く、私は目を覚ました。

昨日のバンドメンバーとの打ち上げはとっても楽しくて、こんな日常が毎日でも続けばどんなに幸せなんだろうって思う程だった。

 

バンドメンバーがくれる日常も充実しているけど、みゆき君がくれる日常も楽しい。

みゆき君とは色々な事をしたよね。

 

 

弟の純を連れてきてくれた時に初めて出会って。

商店街を案内して一緒にパンを食べた。

水族館に行ってみゆき君が魚好きの事を知った。

みゆき君の学校の文化祭に行った。

クリスマスイヴは一緒にイルミネーションを観た。

お正月の日は初詣にも行った。

バレンタインでチョコを一から作ってあげた。

ホワイトデーではお返しで手作りチョコを貰った。

みゆき君の地元で花見をした。

みゆき君の悩みに寄り添った。

 

 

学校が違うから毎日は会えないけれど、会えない日はSNSで毎日おしゃべりをしていた。

私の中では、みゆき君も大事な日常の一部なんだ。

 

 

私の部屋のドアが思いっきり開かれる。驚いて見てみると父さんが慌てた様子で私の方まで近づいてきて、今朝の新聞の地方面に書いてある一記事を指さしていた。

 

私も目を通してみたけど、全く頭に入ってこなかった。

いや、冗談だよね……。

 

 

“男子高校生が自動車に撥ねられ死亡”

高校生の与田瀬幸さん(16)が自動車に撥ねられ死亡。ドライブレコーダーの映像では赤信号中に横断する被害者の映像が保存されており、事件性は無いと思われる。警察は……

 

 

「み、みゆき君のお得意のジョークだよね……?」

 

 




@komugikonana

次話は4月8日(月)の22:00に投稿します。

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~次回予告~
衝撃的な新聞記事を読んで一週間が経った早朝。私、信じてないからね。みゆき君は生きているって。こんな記事、嘘なんだって。
開店直後、私の母さんと同年代ぐらいの女性のお客さんがやって来た。私はこのお客さんに会った事は無いのに、どういう事?
「あなたが……沙綾ちゃんよね?」

では、次話までまったり待ってあげてください。

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