「お疲れさま、みゆき君っ!」
「うわっ!びっくりした!」
私は2時間前ぐらいまで活気に湧いていた花咲川西高校の校門でみゆき君を待っていた。今の学校の校門は少し寂しそうな雰囲気が漂っていた。
みゆき君が出てきたのを確認した後、素早く後ろに回り込んでそこから彼の横へぴょこっと出て少し大きめの声を掛ける。うわっ、って普段聞かないようなヘンテコな悲鳴に笑いがこらえきれない。ふふふふ。
「なんで沙綾がここにいるんだ!?」
「あれ?私がいたらまずい事でもあった?」
「いや、別に無いよ。一緒に来ていた友達と帰ったと思っていたから」
「今日はみゆき君と話したい気分なんだよね」
みゆき君は困った顔で「勘違いをさせるような言い方は辞めた方が良いよ」って言っていたけど、だれも勘違いしないんだから良いよね。
バンドメンバーと別れた後、私は携帯を見たんだけどやっぱり「既読」の文字は付いていなかった。
「昨日の夜、メッセージ送ったんだけどな~。みゆき君の携帯に」
「そうなの?ごめん、気づかんかった」
「まぁ仕方ないね。ね、みゆき君。これからちょっとだけファミレスで話そうよ」
「別に良いけど……絵の具が付いた制服を着ている男と歩くと目立つよ?」
「そんな事言わずに、ね?」
みゆき君は「やれやれ、しょーがない。沙綾、今日俺が食べる予定のハンバーグプレート奢ってよ」なんてニヤニヤ顔で言っていたけど、ごめん、ありえない。と笑顔で対応した。
私の対応が冷たいって感じる人もいるかもしれないけど、それが許されるのも私たちなんだって思う。
それにみゆき君だってさらっとドン引きするような事を笑顔で言ってくるし、おあいこ。
「えっと、ハンバーグプレート一つ。沙綾はどうする?」
「これ、ください。それとドリンクバー二人分で!」
私たちはファミレスに入って早速注文をする。日が暮れた11月ともなると流石に外は肌寒く感じ始め、店内に入った時の温かい空気に包まれる感じがより一層幸せに感じた。
私は店員さんにメニューを見せてペペロンチーノを指さした。大好きなんだよね、ペペロンチーノ。
注文を終えたら今度はジュースを入れに行く。みゆき君が「飲みたい物があったら言って。入れてくるから」って言ってくれたからメロンソーダ、と伝えた。
たまには気の利く事をするのも、みゆき君らしさなのかも。
目の前にメロンソーダの入ったコップが置かれて、その後すぐにコーラのコップと一緒にみゆき君が席に座る。
私はまずどうしてあの時、ウインクしたのか聞いてみようって思った。男の人のウインクって嫌なイメージがあるけどみゆき君は何故か様になっていたんだよね。
だから、ちょっと嫌味を含ませて聞いてみようって思った。
けど、出来なかった。
「どうしたの?みゆき君」
じーっ、と真剣な顔つきで私の事を見つめるみゆき君の方が気になってしまったから。みゆき君のこの顔つきは、
ファミレスのような向かい合った場所で、じっと見つめられるとなんだか恥ずかしい。このお店、暖房の温度を上げたのかな?
「あ……いや、そういう表情って難しいなって」
「え?どういう意味?」
「あー!俺の理想の花嫁には沙綾はマッチしないんだよなぁー!」
「……叩くよ?」
真面目な顔からニヤニヤ顔になって、何故か癇に障るような事を言われたから女の子らしくない事を言ってしまった。
「冗談だって」って言っていたけど、私はその事は無視することにした。
店員さんによって注文した食べ物たちが私たちの元へやって来た。
フォークでペペロンチーノをくるくるっと巻いてぱくっと食べる。
「どうしてみゆき君はぶつかった後、私にウインクしたの?」
「んー?ウインクした俺、かっこよかったでしょ?」
「あははは……。みゆき君、面白くないよ?」
「沙綾と俺が親しくしたら、お友達が『付き合ってるのっ!?』ってなっちゃうでしょ?だからだよ。女子高なんだからそういう噂は気を付けないとね」
私が昨日抱いていた不安をペペロンチーノと同じようにくるくると巻いて食べてしまえば良かったじゃん。みゆき君って得体が知れないなって思った。
真剣な顔になるとなんでもお見通し!みたいな感じ。
「それに、もし沙綾と親しく話したらお友達が気を使って『沙綾は彼氏と文化祭回った方が良いよっ!』って訳の分からんノリになるって思ってね」
「あー……確かにそんなノリになりそう」
「どうして俺の高校の文化祭に来たのかは知らないけど、みんなと回りたかったんでしょ」
「まぁ、そうだね」
「だったら俺の
確かにそうなんだけど、口に出して言っちゃうから安っぽく聞こえるんだよ、って心の中でみゆき君にアドバイスをする。
今日のペペロンチーノは程よいピリッとした辛さで、頭まですっきりするような感覚がした。
「みゆき君の絵、観たけどあんなにきれいな絵が描けるんだね。正直びっくりした」
「沙綾は俺の事をバカにしてるの?」
「してない、してない」
多分、バカにしてないよ?ふふふふ。
えっと、みゆき君が描いたあの花の名前……なんだっけ。案内してくれた女の子が言っていた気がするけど、思いの外近くに絵があったのと急に頷き始めたから頭に入らなかったんだよね。
「あの絵に描いてあった黄色い花の名前、なんだっけ」
「ん?マーガレットだよ。こんな人間だけど好きなんだ、花が」
男の子で花が好きってかわいい。全然謙遜するような事じゃないと思うよ。
この前は魚が好き、って言っていたけど中々みゆき君は多趣味なのかもしれない。
「花の色によっても花言葉って変わるんだ。俺は黄色のマーガレットが好き」
「そうなんだ!……ねぇ、みゆき君。今回のコンテストも花を描くの?」
「ちょっと待って。なんで俺がコンテストに絵を出す事を知ってるの?」
「え?」
凄く焦った顔色で私に顔を近づけるみゆき君。まるで隠し事をお母さんにばれた小学生のようなみゆき君の雰囲気に私の頭には疑問符しか湧いてこない。
どうしてコンテストに出るのを隠しているのだろう?……あ。
「もしかして、みゆき君。黙ってコンテストに絵を出して入賞したら私に自慢したかった、とか?」
「う……そ、そうなんだよ!なんで分かったの?」
「あ、合ってたんだ……」
ニヤニヤ顔で「俺、コンテストで入賞したもんねーっ!」って言い寄って来るみゆき君がすぐに頭に浮かぶ。結構めんどくさそうだね……。
でもみゆき君がコンテストに絵を出すのは意外だな。この前は「どんな下手な絵に見えても『好き』って感情を込めたら輝くんだよ」なーんて言ってたし、てっきりコンテストには無縁なんだと思っていた。
部活動だから強制的にコンクールに出場なのかもしれない、か。
「コンテストに出す絵の詳細、聞いた?」
「いや、聞いてないよ?だから花を描くのかなって」
「そっかそっか!」
急に顔色が明るくなるみゆき君。ますます意味が分からない。私がみゆき君の描いた絵を見てはいけない理由でもあるのかな。
「今回のコンテストって俺が出る最初で最後のコンテストなんだ」
「えっ!?そうなの?」
「うん。今回出す絵は沙綾にもきっと見せるよ。だからそれまでの楽しみな」
そう言ってハンバーグを口いっぱいに頬張るみゆき君。一体どんな絵を描いているんだろう。私にはとっても気になる。いつになったら見せてくれるのかな。
「作者名もちょっとだけ変えた。作者名も作品の一部にしたかったからね」
「そうなの?それじゃあ、みゆき君の名前じゃないんだ」
「そんなに俺の事が好き?」
「あ、はははは……」
「じょーだんだって!名前は変えてない。名字にちょっと細工しただけだから」
ふーん。でも、「作者名も作品の一部」かぁ……結構期待してるからね。
----「幸せの始まりはパン屋から」----
@komugikonana
次話は3月4日(月)の22:00に公開予定です。
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~次回予告~
1話冒頭から7年前に出会った男の子との日々の思い出を振り返っていた私。
ペペロンチーノはあの日の味と変わらない。
私は目的通りあのお店に行って、買い物をする。
「すみません。黄色のマーガレットってありますか?」
~豆知識~
今話の終わりにタイトルを書いてます。このタイトルで時系列の管理をしています。
1話の途中から今話までは沙綾の回想部分、と思ってください。
そして1話の冒頭、もう一度読んでみたら面白いかもしれませんよ?
では、次話までまったり待ってあげてください。