「旦那様、この度の報告書です」
秘書から受け取った書類、それに目を通した後、男は難しい顔になった。
「なんて恥ずかしいことを」
書類に書かれているのは息子の行動だ、ここしばらく王城に籠もり、自宅の
屋敷には戻っていなかったのだ。
家の事は執事のアルヴァンに任せていたが、その彼から息子の最近の行動を
聞いて驚いたのだ。
「駄目だな、見込みがない」
執事は無言のまま軽く頷いた、平民達が黙っていたとしても街の外には色々
な、他所の国から人間から来た人間もいるのだ。
男自身、王に仕える事で今の地位、爵位に恥じないようにと気をつけていた
のに、息子がこれでは示しがつかない。
「しばらく前から娼館に足を運ぶ様になりまして、それから行動が派手にな
りました」
「周りからおだてられたて、増長したかのか」
女遊びが悪いとはいわない、自分も若いときは羽目を外したこともある、だ
が、執事が口にした娼館の名前を聞いて男は、がっくりと肩を落とした。
「あそこは私娼ばかりではないか、それによくない噂もある」
「実は、半月ほど前に一人の娼婦が」
「あれは知っているのか、いや、店が隠すな、実の子だと思って育ててきた
つもりだが」
その言葉に執事は首を振った。
「私には、そうは思えません」
自分の主である男は結婚はしていない、跡継ぎとして屋敷にいる息子は愛人
の一人が産んだ子だが、執事は疑問に思っていた、本当に自分の主の血を受け
継いだ子なのかと。
「ところで、アルヴァン、息子を一喝した女性というのは貴族か」
「いえ、ですが、ただ者ではないようでした、その」
「報告を受けただけか、おまえは直接は見ていないのか、どうした、アルヴ
ァン」
いつものおまえらしくないぞと言いかけた男の前に小さくて透明なガラス玉
が置かれた。
「今日の視察は私も同行しました、その時の様子も見ましたが、なんと申し
上げればいいのか」
透明な玉の中を覗きこむとぼんやりとした町中の景色が少しずつ鮮明に映し
出された、この国ではない、異国風の医師用を着た女の姿が大きくなっていく
と男は、よく見ようと眼を凝らした。
声が漏れる、それは驚き以外のなにものでもない、もっとよく見ようと顔を
近づけたとき、ひび割れる様な音と同時に粉々に砕けた。
執事は限界でしたと言葉を続けた。
「実は二人の男が同行していたのですか、途中で感づかれたようです、市井
の、町人には見えません」
頷く男の顔を観ながら執事はどうされますと尋ねた。
数年前、他国へ赴いたのは聖女への謁見の為だった。
たとえ貴族といえども他国の人間が簡単には会えない、いや、たとえ謁見が
許されたとしても二人きりではない、高官達が側で見守っているのだ、個人的
な望みや願いを口に出せるものではない。
だが、今回の事は別だ、サイラン国で起こったことだ、黙って無視するのは
いかがなものかと半ばごり押しで謁見を申し込んだのだ。
「聖女といえど万能ではないのです」
死人を生き返らすことができたのは昔のこと、それによって犯罪や国の混乱
が起きたことにより、いつの頃からかできなくなった、魔法でもだ。
神の怒りだと人々は噂したが、それが真実なのかわからない。
だが、聖女ならできるのではないかと噂する一部の貴族がいた。
それに男は縋ったのだ。の間で
聖女の言葉に落胆と失望を感じた、だが。
国へも戻った男の元に1通の手紙が届いた、中を開けると何も書いていない
真っ白な紙が入っているだけだ、だが、その夜、男は夢を見た、聖女が現れた
のだ。
何年でも待つ、いや、自分は待てると思った、それが。
その宿屋は決して高級というわけではない、よそから来た商人や旅人が泊ま
る簡素な宿だ。
「母さん」
少年が母親らしき女性に笑顔で話しかけている、その様子を部屋の隅のテー
ブル席の男は、ただ黙って、時折盗み見るように見守っていた。
そして二人の騎士が気づかないわけがない。