初恋相手は犬でした   作:龍流

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境界線上のマジェスタ

 なぜか照れてしまったザフィーラさんがヴィヴィオちゃんと一緒に部屋を出ていく、というアクシデントはありましたが、

 

「じゃあ、みんなも自己紹介しよっか」

 

 というなのはさんの提案で、機動六課の皆さんからあ自己紹介をいただくことになりました。まぁ、わたしまだ皆さんのお名前すら知りませんからね。正直助かります。ただ、何故なのはさんが仕切る流れになっているのか、激しく謎ですが。

 

「機動六課スターズ分隊、フロントアタッカーのスバル・ナカジマ二等陸士です。よろしくお願いします!」

 

 最初に手を挙げたのは、笑顔が素敵ないかにも元気っ子ぽい方です。というか、はて……ナカジマ、ナカジマ、ですか? なんだか、すごく最近、どこかで聞いた名前のような気が……

 

 あ、もしかして。

 

「ナカジマ陸士」

「は、はい! なんでしょう!?」

「つかぬことを伺いますが、お姉さんがいらっしゃったりとか……?」

「え……? は、はい。陸士108部隊に、姉ならいますけど……」

 

 やっぱり!

 

「この前、お姉さんのギンガさんとお食事をご一緒しました。よろしく伝えていただけますか」

「あ……もしかして、ギンねぇが言ってた『ご飯をたくさんご馳走になった聖王教会のシスターさん』って……」

「ええ、わたしです」

 

 絶対にわたしです。

 お姉さんには大変お世話になりました。主にお財布が。

 

「す、すいません! 多分、ギンねぇ遠慮せずにたくさん食べちゃって……ほ、本人もあとから気にしてたので、許してあげてください!」

「いえいえ、わたしも楽しかったですし、大丈夫ですよ」

 

 ふむ。この子は姉妹揃って色気より食い気って感じなので、ザフィーラさんを誑かす心配はなさそうですね。次いきましょう、次。

 

「同じくスターズ分隊、センターガードのティアナ・ランスター二等陸士です」

 

 スバルさんに続いて前に出たのは、ツインテールが特徴的な、これまたかわいい美少女のティアナさんです。言葉と表情がやや硬いですが、こういうタイプに限ってツンデレだったりするのでわりと要注意かもしれません。懐に入ったら、コロッといくタイプの可能性もあります。

 

「……」

「あの、なにか?」

 

 あ、でもこの子、おっぱいくそザコですね。

 日頃からシグナムさんのロケットおっぱいを見慣れているザフィーラさんなら、多分大丈夫でしょう。

 

「いえ、なんでもありません。よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ!」

 

 よし、次。

 

「……スターズ分隊、副隊長。あと、こいつらの戦闘教官もやってるヴィータだ。階級は三等空尉。まぁ、よろしくな」

 

 ヴィータさん、噂には聞いていましたが、本当にちっちゃいです。そして、ロリかわいい……。ザフィーラさんがロリコンだったらヤバいですが、大丈夫だと信じましょう。

 はい、次!

 

「そしてわたしが、スターズ分隊隊長の高町なのは一等空尉です! あらためてよろしくね、フィアメッタさん!」

「はい。お願いします」

 

 ぶっちゃけ、なのはさんはもうどうでもいいです。いろいろ言いたいことはありますが、とりあえずどうでもいいです。

 ここまでは問題なし。顔面偏差値が総じて高い機動六課ですが、ザフィーラさんと間違いに及ぶ危険な女性は少なそう……

 

「じゃあ、次は私かな?」

 

 などと、楽観的な結論に至りかけていたわたしは、なのはさんの隣に立った人物を見て、強い衝撃を覚えました。

 

「フェイト・T・ハラオウン執務官です。ライトニング分隊隊長をやらせてもらっています」

 

 金髪!

 ロング!

 巨乳!

 

 あざといっ!

 

 なんですかこの人は……? あまりにも強いヒロインオーラに、目が霞みそうです!

 主人公っぽい雰囲気を持っているなのはさんと並べてもなんら遜色ない、むしろ人気を食いかねないほどの、圧倒的強者感。なのはさんに比べれば長身で、顔立ちもかわいらしいというよりは、綺麗、という言葉が似合いそうなのに、なぜか守ってあげたくなるような、幸が薄くてハピネス足りてない雰囲気を伴っています。

 これほどの逸材が、六課にいたとは……危険度、文句なしのSランクです。

 

「よろしくお願いします、マジェスタ准佐……あの、私の顔に何かついてますか?」

「……失礼しました。わたしも基本的に出向扱いで他の部隊に出向くことが多いので、お話が合うかもしれませんね、ハラオウン執務官」

「はい。今度ぜひゆっくり」

 

 本当に。今度ぜひゆっくりお話して、ザフィーラさんをどう思っているのか見極めなければ……ギンガさんとご飯食べてる場合じゃありませんね、これは。

 

「なら……次は私か」

「あ、シグナムさんは大丈夫です」

「え」

「先ほど、ご挨拶も済ませましたし」

「そう、ですか……」

 

 申し訳ありませんが、わたしの告白を聞いた時の反応で、シグナムさんが恋愛くそザコなんちゃってサムライであることは、すでにわかっています。あのおっぱいのサイズは大きな驚異ですが、ザフィーラさんとそういう関係になる可能性は皆無……と、判断させていただきました。

 はい、次いきましょう。

 

「ライトニング分隊、ガードウイングのエリオ・モンディアルです」

「お、同じく、ライトニング分隊フルバックのキャロ・ル・ルシエです!」

 

 ショタとロリに興味はありません、次。

 

「飛行ヘリパイロットのヴァイス・グランセニック空曹長です。よろしくお願いします、準佐!」

 

 ザフィーラさん以外の野郎にも興味はありません、次!

 

 

 

「じゃあ、わたしの番かしら?」

 

 

 

 

 

 瞬間、わたしの背筋を駆け抜けたのは、鋭く身を貫くような激震でした。

 優しく、柔らかで、それだけで包容力を感じさせる艶やかな声。六課の制服の上から、白衣を羽織った「わたしいかにも保健室の先生です」みたいな着こなし。金髪の間から除く濃い紫色の眼差し。加えて、ジャケットと白衣の上からでも激しく存在感を主張するシグナムさんと同等クラスの双丘……もとい巨乳……ていうか、おっぱい。

 

「医務官のシャマルです。よろしくお願いしますね、マジェスタ準佐」

 

 加えて、この大人の余裕溢れる笑顔といったらもう……っ!

 なんということでしょう。最後の最後にとんでもねぇラスボスが控えてやがりました。この余裕、この巨乳、このエロさ……フェイトさんを優に上回る、危険度SSSランク!

 

「よ、よろしくお願いします、シャマルさん……」

 

 やっばいですねこれは……どれくらいやばいかというと、シスターシャッハの授業をサボってカリムさんの執務室の机の上でタップダンスの練習をするくらいやばいです。激やば……否、鬼やばです。この場にいる女性の中で、唯一男性経験豊富そうな、圧倒的強者の余裕すら感じます。処女のわたしでは、正面から戦って勝てる気がしません。無策で挑むのは、素っ裸でなのはさんの『スターライト・ブレイカー』に突っ込むようなものです。

 

 シャマルさん……要注意人物です。彼女のことはよく覚えておきましょう。

 

「……ほな、最後はわたしやね」

 

 と、それまで後ろの方でわたし達のやりとりを見守っていた人物が、すっと立ち上がりました。

 そうですね……たしかにフェイトさんやシャマルさんも気をつけなければいけない人物ではありますが。わたしにとって、ザフィーラさんとの仲を認めてもらうにあたって、最も重要な人物はこの方でしたね。

 

 

「機動六課部隊長、八神はやて二等空佐や」

 

 

 八神はやてさん。もちろんわたしも、彼女のことはよく知っています。

 機動六課設立の立役者にして、弱冠19歳で二等空佐まで上り詰めた生粋のエリート魔導師。その莫大な魔力保有量と所持しているレアスキルから『歩くロストロギア』の異名を取り、魔導師ランクは古代ベルカ式の総合SS。遠距離からの攻勢支援、制圧に長けた高い実力は、もはや疑いようがありません。同時に、わたしの所属する聖王教会や管理局の内外にも独自のパイプを持つことから、魔導師としてだけでなく、清濁併せ呑む優秀な指揮官であると言えるでしょう。

 そんなはやてさんは、わたしのことを他の方達とは少し違う目で見ていました。

 

「これからよろしゅう……なんて、耳障りのいいことはいくらでも言えるんやろうけど、でもわたしはそんな風に本音を誤魔化したくない。だから、単刀直入に言わせてもらうわ」

「は、はやて!?」

「はやてちゃん!?」

 

 はやてさんの言葉に、フェイトさんとなのはさんが目に見えて狼狽します。切れ者とはいえ、穏やかな人柄で知られているはやてさんがこんな風に初対面の人にはっきりとモノを言うのは、かなり珍しいことなのかもしれません。

 ですが、ならばこそ。わたしははやてさんの言葉を正面から受け止める必要があります。わたしにとって、彼女は機動六課の部隊長である前に……八神家の『家長』なのですから。

 

「ハラオウン執務官、なのはさん、わたしは大丈夫です。八神二佐、どうぞお構いなく。思ったことを仰ってください」

「なら、遠慮なく……マジェスタ准佐」

「はい」

 

 深い藍色の瞳が、わたしを射貫きます。

 

 

 

「准佐は……准佐はっ! ザフィーラと、どんな家庭を築くつもりなんや!?」

 

 

 

「……え?」

「……ん?」

 

「……ほほう」

 

 …………なるほど。そうきましたか。

 はやてさんが聞いてきたのは、わたしとザフィーラさんの人生プラン……いわば、幸せ家族計画!

 あのグッドルッキングガイ、イケメンだからお持ち帰りしてチョメチョメしちゃお~みたいな合コンで男を漁る感覚でザフィーラさんをゲッツしようとしている……のではなく! きちんとした気持ちと貞操観念をもってお付き合いをしようとしているかどうか! それを見極めようという腹積もりなのでしょう。

 さすが、すでに一部の上層部から管理局の小狸と言われているだけあって、投げてくる質問も直球でありながら深いところを突いてきますね……

 

「はやて、ちょっと落ち着いて!」

「そうだよ、はやてちゃん! いきなりそんな質問されても、答えられるわけ……」

 

「いいでしょう。お答えします」

 

「答えられるの!?」

 

なのはさんが勢いよくツッコミを入れてくれましたが、ええ、もちろん。答えられますとも。

 

 

 

 

 

「まず、子どもは三人ほしいですっ!」

 

 

 

 

 

 力強いわたしの宣言に、はやてさんが衝撃を受けて固まります。

 あと、何故かフェイトさんが凄まじく微妙な表情で顔を赤らめ……あと、名前なんでしたっけあの男の人。グランなんちゃら曹長さんも、すごく気まずそうにそっぽを向きました。

 はて? わたし、何か変なことを言ったでしょうか?

 

「こ、こ、子ども三人……へぇ~、なるほどなぁ……ザフィーラに子どもが三人……ザフィーラに子ども……つまり、わたしはおばあちゃん……?」

「はやて……気にするのそこなんだ……」

「はやてちゃん、しっかり!」

 

 なんか、はやてさんが勝手にショックを受けておられるようですが、もしかして八神家基準では3人は少ないのでしょうか……?

 あ、それとも、

 

「一応、男の子二人に女の子一人が理想ですが、もちろん最終的に拘りなんてありません! 三姉妹だろうと四つ子だろうと、わたしは暖かい家庭を築く自信があります!」

「ごめんフィアメッタさん……そういう問題じゃないと思うの……」

「そ、そうや! ザフィーラだって管理局の仕事があるし、准佐だって出向の任務は結構あるはずやろ! もし五つ子とかになった場合、面倒みきれるんか!?」

「はやてもそれ、ちがうと思う……」

 

 なのはさんとフェイトさんがやたら疲れた表情になってきましたが、それはともかく。はやてさんの疑問提起は実に筋が通ったものです。わたしとザフィーラさんが共働き世帯になる可能性は大いにありますからね。

 ですが、心配はご無用です。

 

「聖王教会の近くに住まいを見つければ、教会の方で面倒をみてもらう、という方法もありますし……もちろん、小さいうちはわたしも仕事を休んで家で一緒に過ごすのが理想ですが、頼めばシスターシャッハや騎士団の知り合いも協力してくれるでしょう」

 

 わたしだってそこらへんはちゃんと考えてます。

 

 

「だから、わたしとザフィーラさんの"二人"でも問題ありません」

 

 

 ぴくり、と。落ち着かない様子だったはやてさんが静まりました。

 

「……ちょっと、聞いていいかな?」

「はい?」

「……つまり、准佐はザフィーラと二人だけで円満な家庭を築いて、幸せな生活をしていく自信があると?」

「そうですね……ザフィーラさんとわたしは、知り合ってからまだ時間が浅いです。こんな形で押しかけてしまって、失礼であることも承知しています。ですが、それがわたしの熱意であると、八神二佐……いえ、はやてさんには受け取っていただきたいのです」

 

 気持ちは、正直に伝えるしかありません。

 先ほど、彼女がそうしたように、わたしははやてさんを真正面から見据えて言いました。

 

 

 

「八神はやてさん。二人で必ず、幸せになってみせます。ですので、わたしに……ザフィーラさんをください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………へ?

 

 

 

「今、なんと……?」

「聞こえんかったかな? いやだ、って言ったんや」

 

 な、な、な……

 

「な、なぜ!? どうしてですか!?」

 

 そりゃもちろん、最初からOKをもらえるとは思っていません。もらえればいいかな、とは思いましたが「まずはお付き合いしてからやな~」とか「ザフィーラと、もっかいちゃんと食事でもしてみよか」とか、そういう答えをわたしは予想していました。

 でも、これはさすがに予想外です。どうして、こんな明確に拒否を……?

 

「……理由を、聞かせていただけませんか?」

「理由? 理由かぁ……それが、特にないんよ」

「は?」

「強いて言うなら……わたしがアンタのことを気に入らないっていうのと……わたしがアンタなんかに、ザフィーラを渡したくないから、かな?」

「は、はぁ!?」

 

 わたしを見るはやてさんの目は、つめたく冷え切っていて、口調もがらりと変わっていて、先ほどまでとはまるで別人のようでした。

 ちょ、ちょっとまってください!

 

「……すいませんでした。お気に障ることを言ったのでしたら、謝罪します。ですから……」

「そういうことじゃないんよ」

 

 カツン、と。

 一歩、こちらに詰め寄ってきた小柄なはやてさんは、わたしを下からねめつけるように見上げました。

 

「ザフィーラは『わたしの守護獣』や。ザフィーラだけやない、ヴィータも、シグナムも、シャマルも、リィンも、みんなわたしの守護騎士で、家族なんよ」

 

 その言葉は、重く、深く。ずっしりとわたしにのしかかりました。

 

「だから、ザフィーラはあげない。言ってること、わかるか?」

 

「はやて……」

「はやてちゃん……」

「主はやて……」

 

 シグナムさん達が、困ったようにわたし達を見て、戸惑います。

 

 ――なるほど。

 

 よくわかりました。

 仰りたいことは、とても、よく、わかりました。

 

 ですが、

 

「わかっても、納得はできません」

「……なんやて?」

 

 あまいですね。

 

「"八神二佐"」

 

 その程度で、このわたしが退くとでも?

 

「ザフィーラさんとの仲を、あなたに認めていただけないというのなら、あなたに認めてもらうまで……いえ、あなただけでなく『八神家のみなさん』に認めてもらうまで、わたしは誠心誠意努力して、自分の意思を示すまでです」

「……なにをしても、わたしはアンタのことを認めんと思うよ?」

「だとしても、どんな無理を押し通してでも、認めていただきます。わたしは、絶対に幸せになると心に決めているので」

 

 わたしは、八神二佐に向けてゆっくりと一礼しました。

 

 

 

 

「ですので……これから、よろしくお願いします……お義母(かあ)さん」

「誰が『お義母(かあ)さん』やねんっ!?」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「ねー、ザフィーラ~」

「……」

「ママたちのところ、もどろうよ~。まだはずかしいの?」

「そう、だな……そろそろ、話も落ち着いただろうし、戻ろうか」

「やったー! フィアメッタおねえさんに、また遊んでもらお!」

「ああ。そうしてもらえ」

 

 もはや事態が収集不可能な状態までこじれにこじれてしまっていることを、守護獣と少女は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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