ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine- 作:陽@曜花推し
ガンプラ学園 ガンプラバトル部 監督室
激闘から一夜明けたガンプラ学園。その監督室で、志木城隆利はアラン・アダムス監督の前に真っ直ぐに立っていた。予選で敗れはしたものの、その眼に宿る闘志の炎は微塵も消えていない。
「君の要望通り、浦の星女学園には話を通しておいたよ。二つ返事でOKが出た」
アランは手元の書類を収めながら、ふっと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。俺の個人的なわがままで、多大なご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「気にする必要はないさ。陽哉君は、静岡予選を勝ち抜いた我々の代表だ。全国の化け物たちと戦う彼をサポートすることは、巡り巡って我が学園の誇りにも繋がる。……それにしても、本当に大丈夫なのかい?」
アランの問いかけに、隆利は自身の右拳をそっと握りしめた。アシムレイトによる負荷の鈍痛はまだ微かに残っている。だが、それ以上に突き動かされる衝動があった。
「……大丈夫です。俺自身が言い出したことです。あいつの新しい『翼』を創る手伝い、この俺の持てる技術のすべてを注ぎ込んで、やってみせます」
「素晴らしいな。では、行って来たまえ。静岡代表のセコンドとして、君のバトルを広げてくるんだ」
「はい! 行ってきます!」
隆利は深く一礼し、監督室を後にした。
一方その頃、内浦の青い海を望む新堂家。
陽哉は自室の窓から、東京行きの高速バスが走っていくのを見送っていた。
「ジュンヤの奴、本当に風みたいに帰っちゃったな……」
決勝戦の翌日である今朝、ジュンヤは『お前の背中は見届けた。俺は東京でケジメをつける用事がある』と言い残し、荷物をまとめて内浦を去っていった。セコンドとして最高の仕事をしてくれた戦友に、陽哉は心の中で「ありがとな」と深く感謝を告げた。
しかし、感傷に浸っている暇はなかった。陽哉の前には、昨日の激戦で見る影もなく大破してしまったデスティニーガンダムシグムントの残骸、そして真っ白なスケッチブックが置かれていた。全国本選までの時間は残り少ない。機体の単純な修復ではなく、「さらなる強化」という極めて険しい道を、陽哉は選択していた。
浦の星女学園・スクールアイドル部 部室
「――これが、シグムントの新しい強化プラン?」
部室の机に広げられたスケッチブックを、梨子が横から覗き込む。
「あれ、陽君。主武装の『レーヴァテイン』の改良案のところ、デザインがまだ全然決まってなくて真っ白だよ?」
曜が図面の一角を指さしながら小首を傾げた。陽哉は腕を組んで、うーんと深く唸った。
「そうなんだよ……。シグムントの時は超近接特化で割り切ってたんだけど、全国を勝ち抜くにはやっぱり手数が足りないから、オミットしてた砲撃機能を復活させたくてさ。でも、二刀流のロマンは絶対に崩したくない。かといって、背中に対艦刀2本と大型ビーム砲2門を全部マウントしたら、重すぎてデスティニーのバランスが完全に崩れちまう。どういうデザインに落とし込めばいいか、全然決まらないんだ……」
「デザインだけでなく、機体のベースカラーも『コバルトブルーから変更する』としか書かれていませんわね。こちらも未定なのですか?」
ダイヤが尋ねると、陽哉は頭を掻いた。
「カラーリングも気分を変えたくてさ。でも、しっくりくる色がまだ決まってないんだよなぁ」
「ならば! この漆黒の堕天使ヨハネをイメージした、ダークネスブラックに染め上げなさい!」
善子がこれみよがしにポーズを決めて提案するが、陽哉は即座に右手を横に振った。
「だが断る」
「なんでよおぉぉぉッ!?」
「いや……黒一色だと、隆利のゼルクガンダムと完全にカラーリングが被るだろ。あいつのアイデンティティを奪うわけにはいかねぇよ」
「話に付いていけないずら……」と目を回す花丸をよそに、千歌が「このクリアパーツってなぁに?」と別の箇所を指差す。
「それは高濃度粒子放出用のクリアパーツ。ガンプラ学園のセカイの『トライバーニング』を参考に、俺独自のアシムレイトと同調するシステムを組み込もうと思ってね。全国の化け物どもと戦うなら、絶対にこれくらいの切り札が必要になる。……けど、肝心の武装で行き詰まってたら完成なんて夢のまた夢だな。最悪、本選の序盤戦は、手元にあるノーマルのデスティニー(予備機)で凌ぐしかないかもしれない……」
陽哉がため息をついたその時、部室の扉が勢いよく開き、鞠莉が華やかな笑みを浮かべて入ってきた。
「あら、そんな弱気なことでどうするの、陽? カモン、ボーイズ&ガールズ!」
鞠莉が手招きすると、部室に入ってきたのは――なんと、志木城隆利、熱海に住んでいるはずの神代恵里菜だった。
「なっ……隆利!? それに恵里菜まで、どうしてここに!?」
陽哉は思わず椅子から立ち上がった。
「驚くのも無理はないわね。隆利はね、陽の新しいガンプラ製作を手伝うために、本選が始まるまでの短期間、この浦の星女学園に特別編入扱いで通うことになったのよ!」
鞠莉が胸を張る。
「隆利……。ありがてぇけど、学校とか本当に大丈夫なのか?」
「それに関しては問題ない。これは俺が監督に直訴して言い出したことだ。陽哉、お前は俺を倒した最高の代表だ。だから、俺にもその機体を創る手伝いをさせてくれ」
隆利はそう言うと、机の上のスケッチブックに目を落とした。そして、陽哉が頭を抱えていた「武装のデザイン未定」の白いページを見て、不敵に微笑んだ。
「なるほど、二刀流を維持しつつ、重量を増やさずに砲撃機能を足したい……というわけか。ならば陽哉、俺のゼルクガンダムのパーツを使ってくれ」
「えっ……!? 隆利、お前のゼルクのパーツを?」
「ああ。俺のゼルクが使っている『GNバスターソード』の予備パーツを提供する。あれにはソードモードとキャノンモードの2つの変形機構がある。デスティニー用に大改造して移植すれば、1つの武装に剣と砲の機能を高密度で集約できるはずだ。重量バランスの問題もすべてクリアできる」
「マジかよ……! いいのか、そんな大事な予備パーツ、俺にくれちまって」
「お前が俺の分まで本選で暴れてくれるなら、安いものさ。」
隆利の言葉に、陽哉の胸が熱く震えた。
「ありがてぇ……! よし、その案、乗った! 最高の武器に仕上げてみせる!」
そこへ、なぜか浦女の制服を着た恵里菜が「ちょっと! 私だって手伝いに来たんだからね!」と不機嫌そうに割り込んできた。
父親の急な沼津転勤の都合で、今日から浦女の1年生に転校してきたのだという。
梨子が「……陽君のサポートのためじゃないのね?」とジト目で確認し、恵里菜が「違うわよ!」と顔を真っ赤にする一幕もあったが、何はともあれ強力な味方が二人も増えた。
さらに、恵里菜がμ's(特に東條希)の大ファンだったことが発覚し、千歌、ダイヤ、ルビィが大興奮。恵里菜は陽哉と同じく「女子マネージャー」としてスクールアイドル部にも入部することになり、最高のリペア&サポートチームが結成されたのだった。
機体のベースカラーも、隆利のゼルクが「黒」であるのに対し、陽哉の機体は「原型機同様の、深みのある本来のブルー」をベースにしたトリコロールカラーに決定。
こうして、隆利は本選までの期間、新堂家に下宿することになった。
その日の夜から、新堂家の陽哉の部屋で、猛烈な勢いでのビルド作業が始まった。
「俺は両腕のユニットと、提供したGNバスターソードの改造から入る。ソードモード時にビームの刃が出るよう刀身にスリットを入れ、上部にはキャノン用のグリップを仕込むぞ。名付けて『レーヴァテインⅡ』だ」
隆利が手際よくパーツを削り出していく。
「頼もしいな! なら、俺は一番精密な制御が必要な頭部と、クリアパーツを組み込む胴体フレームの調整をやる!」
「私は脚部のスラスター配置をやっちゃうね!」
恵里菜も加わり、切り出されたパーツを梨子が完璧な技術で塗装していく。
夜遅くまで作業を続ける陽哉と隆利を見て、リビングでは両親が「陽に男の友達ができた……!」と涙を流して喜んでいた。
そして1週間後――。
部室の大型テーブルの上で、ついに布が取り払われ、新型ガンプラがその姿を現した。
「機体名は『デスティニーガンダムインフィニティ』。無限の可能性を秘めた機体。陽君とこのインフィニティなら、どこまでも高く翔んでいける……私はそう信じてるわ」
梨子が誇らしげに名前を告げた。
『復活のルルーシュ』のランスロットsiNの要素を取り入れ、両肩にはsiNの追加装甲「コクーン」をアレンジした青いアーマーを配置。両腕には複合兵装防盾システム『〈リジル〉』(強力なアスラ ビームソード内蔵)を装備している。
ネットの掲示板で「スヴェルⅡだと『滑る』から受験生に縁起が悪い」とツッコミを入れられたため、北欧神話の別の剣の名前に変えたというメタな裏話もありつつ、その完成度は凄まじいものだった。
背中には、隆利の提案によって生まれた2本の『レーヴァテインⅡ』が美しくマウントされている。通常は近接用の大剣だが、ヴェスバーのように腰だめに構えることで、1門だけでも原型機のビームランチャーに匹敵する大火力キャノンへと変形する、完璧なハイブリッド武装だ。
「これなら、バランスを崩すことなく、対艦刀と砲撃武器が両立できるわね!」
鞠莉が絶賛する。さらに、オミットされていたパルマフィオキーナやロングビームライフルも完璧に復活していた。
「さあ、機体が完成したなら、早速テストバトルよ!」
鞠莉に連れられてやってきたのは、校舎の奥にある、長年使われていなかった開かずの教室だった。そこには、メンテナンスされた古いバトルシステムが鎮座していた。
「7年前まで、この浦の星女学園には『ガンプラバトル部』が存在していましたの」
ダイヤが静かに説明する。当時のメンバーが卒業し、粒子枯渇事件などもあって放置されていた筐体だが、ヤジマ商事に頼んで現行のA設定(旧ルールの最高ダメージレベル)と同じ仕様で動くよう整備してもらったのだという。テストのため、今回は安全な「B設定」に落としてバトルを行う。
「それでね、陽のテスト相手だけど……私、3年生の中から1人、指名させてもらうわ!」
「えっ、3年生の先輩たちもバトルができるんですか!?」
恵里菜が驚くのも無理はない。実はダイヤたち3年生は中学時代、あの大会6連覇の伝説を持つガンプラ学園のトップチーム『ソレスタルスフィア』と練習試合で大死闘を繰り広げ、あと一歩まで追い詰めたという、静岡の隠れた怪物ファイターたちだったのだ。当時その記録映像を見ていた隆利も「死闘だった」と深く頷く。
しかも、彼女たちが当時使っていた機体、そして今バッグから取り出したガンダムバルバトスルプスレクス(果南)とガンダムキマリスヴィダール(ダイヤ)は、すべてかつて陽哉が彼女たちのために心血を注いで製作した作品だった。
「よし、じゃあ指名させてもらうよ。――かな姉、俺のインフィニティの初陣、相手になってくれ!」
「いいよ! 容赦しないからね!」
果南がバルバトスをセットし、宇宙空間のフィールドへと二人がダイブする。
「新堂陽哉、デスティニーガンダムインフィニティ、出る!!」
「松浦果南、ガンダムバルバトスルプスレクス、行くよ!」
インフィニティは即座に背面の「レーヴァテインⅡ」を腰だめに構え、キャノンモードを展開。隆利から託されたバスターソードのギミックが火を噴く。
ドガァァン! と放たれた太い2本のビーム。だが、果南は野性的な超機動でこれを回避し、一気に肉薄して超大型メイスを振り下ろす。インフィニティは紙一重で躱すが、死角から果南がマニュアル操作するテイルブレードが急襲。陽哉は両腕の〈リジル〉から『アスラ ビームソード』を展開し、ワイヤーを鮮やかに切断する。
しかし、切り離されたテイルブレードは、果南の独自改造によってファンネルのように自立機動を開始。さらに、バルバトスのツインアイが不気味な赤に染まった。
「――阿頼耶識システムのリミッター解除! 陽哉、押し負けるなよ!」
セコンド席の隆利が叫ぶ。
劇中さながらの悪魔的な速度と、前衛特化の果南のバカ力がインフィニティを襲う。超大型メイスの猛攻を、陽哉はレーヴァテインⅡをソードモードに変形させて受け止めるが、強烈なパワーに機体が悲鳴を上げる。
「避けるだけで手一杯か……! だったら、俺も限界を超える!」
陽哉は深く息を吐き、ガンプラと魂を一つにする――人機一体のアシムレイト。
強引にメイスを受け止めていたレーヴァテインⅡをパージして後方へ緊急回避すると、もう一つの切り札を起動させた。
「輝け……シャイニングバーストォォォッ!!」
インフィニティの全身のクリアパーツが眩い輝きを放ち、背面の光の翼が、ピンクから神秘的な「深緑(グリーン)」へと染め上げられていく。陽哉のアシムレイトと同調して初めて発動する、真の姿だ。
「何これ……翼の色が緑に!?」
果南が目を見開く。
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
シャウラをも凌駕する超高速移動でバルバトスを翻弄し、パルマフィオキーナのゼロ距離射撃で超大型メイスを爆砕。
「これが、俺たちの全力全開だぁぁぁッ!!」
陽哉の叫びと共に、右拳に高濃度圧縮された緑色のプラフスキー粒子が渦巻く。
「必殺……インフィニティブレイク!!」
閃光のごとき一撃がバルバトスの胸部に叩き込まれ、大爆発と共にレクスは光の粒子となって消滅した。
《BATTLE ENDED》
「うーん、負けちゃったかぁ! 陽、本当に強くなったね!」
果南が清々しい笑顔で操縦ブースから出てくる。
「いや、マジで危なかった……」と冷や汗を流す陽哉に、果南は「ちなみに鞠莉のバエルも、ダイヤのキマリスも、みんな同じようにリミッター解除が使えるよ?」と爆弾発言を落とし、陽哉と曜を戦慄させた。もしシグムントのままだったら確実に押し負けていただろう。
「だが、相手が強ければ強いほど、燃えるってもんだろ?」
隆利が不敵に笑う。
この後、隆利vsダイヤ、恵里菜vs鞠莉のテストバトルが行われた。
隆利は愛機を強化したゼルクガンダムのGNファングとトランザムを駆使し、ダイヤのキマリスヴィダールのリミッター解除をギリギリで制して勝利。一方の恵里菜は、バーザムTR-6の多彩な武装で渡り合ったものの、鞠莉のバエルが放った必殺の『マリーシャイニングブレード』の前に圧倒され、敗北を喫した。
激しいバトルの連続に、古い筐体のコンソールから火花が散り、『ERROR』の文字が点滅する。
「すぐにヤジマ商事に連絡して、最新型のバトルシステムに丸ごと交換してもらうわ!」
鞠莉が頼もしく告げると、そのバトルの熱量を間近で見ていたルビィと花丸が、意を決したように陽哉の前に一歩出た。
「あのね、陽お兄ちゃん……ルビィも、ガンプラバトルを始めてみたいです!」
「マルも、自分で作ったガンプラをあの綺麗な粒子の中で動かしてみたいずら!」
二人の嬉しい言葉に、陽哉は破顔した。
「よし、分かった! 本選が始まるまでに、二人の専用ガンプラを俺たちが責任を持って一緒に作ってやるよ。な、隆利?」
「ああ。俺も喜んで手伝おう。内浦での下宿生活、ますます賑やかになりそうだな」
隆利も優しく微笑んだ。
「あ、でもその前に……インフィニティ、さっきのテストで右腕のフレームとレーヴァテインⅡが壊れちゃったから、もう一回修理しなきゃ……。ごめん隆利、後で美味いもん奢るからさ!」
「ははは、気にするな。最高の『無限の翼』を創り上げるためだ、とことん付き合うよ」
壊れた相棒を見つめながら、陽哉の心はすでに、まだ見ぬ全国の強敵たちが待つヤジマスタジアムへと翔んでいた。この仲間たちと、隆利からパーツを託されたインフィニティがあれば、どこまでも勝ち進める――確かな確信が、その胸には宿っていた。
続く