ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine-   作:陽@曜花推し

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第19話:初戦(リメイク版)

バトルの終了を告げる無機質なアナウンスがスタジアムに響き渡り、モニターには大阪代表の鷹山李衣菜の勝利が映し出されていた。

 

大会2日目、Cブロック第3試合。ガンプラ心形流の門下生とは聞いていたが、まさかあんな大人しそうな女の子がこれほど鮮やかな立ち回りを見せるとは思わなかった。

 

おめでとう、と心の中で呟いたその時、不意に背後から声をかけられた。

 

「どうも、新堂選手ですよね?」

 

振り返ると、先ほどまで画面の向こうで戦っていた本人が、上品な笑みを浮かべて立っていた。近くで見ると、かなりの美人だ。

 

「ああ、そうだけど」

 

「あなたにお会いできて光栄です」

 

「俺、そんなに有名なのか?」

 

少し照れくさくて首を傾げると、彼女はくすくすと悪戯っぽく笑った。

 

「ご謙遜を。ヨーロッパジュニア選手権、アジアジュニアトーナメント、全米ジュニア選手権での優勝。おまけに、私達学生ファイターの中でトップクラスと言われるルーカス・ネメシスやキジマ・ウィルフリッドを破り、極めつけは大会2連覇の志木城選手をも倒してここにいる。今回出場している選手は、みんなあなたに注目していますよ。ネットでも優勝候補の最有力だと大騒ぎです。ご存じありませんでした?」

 

「いや、いろいろと忙しくてネットなんて見てなくてね。そうなんだ……でも、優勝候補の最有力ねぇ」

 

ずいぶんとハードルを上げてくれる。負けるつもりは毛頭ないが、もし足元をすくわれでもしたら、ネットの住人たちにどれだけ叩かれるか想像もつかない。

 

「今の試合を見るに、君も相当強いよね。さすがはガンプラ心形流の門下生だ。あ、そうだ。一応マオさんやミナトとは知り合いなんだけどさ。珍庵の爺さんも元気にしてる?」

 

その問いを口にした瞬間、彼女の纏う空気が一変した。

 

「ええ、さっさと死んでほしいと思うくらい元気ですよ」

 

一瞬、耳を疑った。彼女の綺麗な顔が、見たこともないほど引き攣っている。

 

「おっぱい老人に、学習能力がない尻に敷かれ野郎、それに肖像権ガン無視野郎は、うちが死んでほしいと思うくらい元気です」

 

怒濤の罵詈雑言に、思わず気圧される。

おっぱい老人……確かに珍庵の爺さんは重度のおっぱい好きだった。尻に敷かれ野郎はマオさんのことだろう。ミサキさんに頭が上がらないらしいし。そして最後の肖像権ガン無視野郎は間違いなくミナトだ。あの「ふみなシリーズ」には俺も度肝を抜かれた。実在の人物をモデルにしたMS少女を本人の承諾なしで作ったせいで、三代目が本気でキレたという噂は本当だったらしい。

 

「……大変なんだね、そっちはそっちで。まぁ、がんばって」

 

「……ええ」

 

心底同情を禁じ得ない。ミナトに会う機会があれば、俺からも少し釘を刺しておこう。

 

「とにかく、準々決勝まで勝ち上がってきてくださいね。あなたと当たるとしたらそこなので」

 

「ああ、俺も君と戦ってみたくなったからな」

 

彼女の言葉に頷いた、その時だった。

 

「なら、その前に僕と戦ってもらわないと」

 

不躾に会話へ割り込んできた影がひとつ。

 

「誰だ?」

 

「福岡代表の山上翔太といいます」

 

不敵な笑みを浮かべる少年。次のDブロック第1試合、つまり俺の初戦の相手だ。

 

「あぁ、福岡でジュリアン・マッケンジーの再来とか言われていた人ですか」

 

李衣菜が思い出したように呟く。ジュリアンさんの再来。初戦からとんでもない二つ名を持った相手が来たものだが、臆する理由はどこにもない。

 

「ええ。僕は強いですよ。断言しましょう。僕の速さに、あなたはついてこれない」

 

大きく出たものだ。ジュリアンさんの再来を自称するなら、使用する機体や戦法はおおよその見当がつくが。

 

「まぁ、言うだけ言ってろよ。そろそろ始まるぜ」

 

「ふふふ、では後ほど」

 

自称天才の少年は、自信に満ちた足取りで去っていった。

 

「ああいう子、嫌いです。自分の腕を過信して他人を平気で見下す男」

 

吐き捨てるような李衣菜の言葉に苦笑しつつ、俺も身を翻す。

 

「とりあえず、俺も行くわ」

 

「ええ、言う必要はないと思いますが――ご武運を」

 

彼女に見送られながら、俺はファイターゲートへと向かった。

 

---

 

その頃、選手用観覧席の一室では、まもなく始まるDブロック第1試合のアナウンスが流れていた。

 

「そろそろ始まるな。相手は福岡予選の戦いぶりから、ジュリアン・マッケンジーの再来とか呼ばれてるガキか」

 

腕を組んだ湊大河が画面を見上げる。その隣で、神宮司日向が静かに頷いた。

 

「ああ。あの年齢の割には、ビルダーとしてもファイターとしても非常に高い実力を持っている。そして、彼の一番の武器は間違いなく速さだろうな」

 

「はっ、あの年齢にしてはよくやってる方だが、結局はジュリアン・マッケンジーのスタイルをなぞっているに過ぎん」

 

通路から入ってきた鹿角星斗が、サングラスの奥の目を細める。

 

「お、星斗じゃん。お前はこの戦いどう見る?」

 

大河の問いに、星斗は不敵に笑った。

 

「あの若さであの速度を扱えるのは大したものだ。新堂の機体が以前のデスティニーシグムントのままであれば……最悪、足元をすくわれるかもな」

 

「大丈夫さ。あいつは負けないよ」

 

日向の確信に満ちた声に、大河が興味深そうに身を乗り出す。

 

「その根拠は?」

 

「昨日、誰よりも早く見せてもらったんだ。あいつの新しい機体をね。シグムントの修理ではなく、強化型をな」

 

「へぇ……あの短期間で強化までこぎ着けたってか。本選まで時間がない状況だったはずだが」

 

「それがね、志木城君と神代選手に手伝ってもらったらしいんだ」

 

「へぇ! 2連覇の志木城がか。それに、あの志木城を2年連続で苦しめた神代ちゃんまで協力してるとはな」

 

星斗の口元が、好戦的に釣り上がる。

 

「面白いじゃねぇか。ますます戦ってみたくなったぜ」

 

「機体の完成度は極めて高いよ。詳しくは教えてもらえなかったけど、それでもあいつのガンプラは凄いと一目で分かった。お、そろそろ始まるな」

 

カウントダウンが始まり、ステージに粒子が満ちていく。

 

 

 

---

 

システム音声がフィールドの展開を告げ、プラフスキー粒子がスタジアム全体に広がっていく。ダメージレベルは「B」。実物へのダメージを伴う、本気の戦いだ。

 

「新堂陽哉、デスティニーガンダムインフィニティ、出るぞ!」

 

「山上翔太、ガンダムS91、行きます!」

 

格納庫から射出された我が愛機、デスティニーガンダムインフィニティが廃ビルの立ち並ぶ市街地ステージへと降り立つ。対する相手の機体を見て、俺は小さく目を見張った。

 

ガンダムM91ベースの改造機か。たしかレプリカキットが出たばかりのはず。

特徴的なMランスを持っていない代わりに、両手にはビームライフルが2丁握られている。

 

「新堂さん、申し訳ありませんがあなたにはここで負けてもらいますよ。いかにあなたが有名だろうが、天才である僕の敵ではありません!」

 

通信ウィンドウの向こうで、少年が不敵に言い放つ。なら見せてもらおうか、その天才とやらの実力を。

 

相手は距離を保ちつつ、ビームライフルと腰部のヴェスバーを連動させ、鋭い遠距離砲撃を仕掛けてきた。

 

なるほど、口だけのことはある。いい腕だ。弾道の予測が正確で、こちらの回避先を的確に潰しにかかっている。本選まで勝ち上がってきただけのことはあるな。相手を見下す悪癖さえなければ大したものだが、若いうちからこれでは将来苦労しそうだ。これ以上増長しないよう、ここで大人の壁ってやつを教えておくか。

 

「僕の攻撃を躱すなんて、なかなかやりますね!」

 

「まぁね。じゃ、こっちも行くかね」

 

乱れ飛ぶ光条をスラスターのマニュアル制御で紙一重で回避しつつ、背部から主兵装である「レーヴァテインⅡ」を瞬時に引き抜く。そのままキャノンモードへと変形させ、カウンターの一撃を叩き込んだ。

 

「ただの対艦刀じゃなかったのか!?」

 

驚愕の声。そう、これは砲撃兵器としても機能する複合兵装だ。

すかさずレーヴァテインⅡをソードモードへと切り替え、一気にS91との距離を詰める。

 

「こ、この!!」

 

慌てて射撃を放ち、こちらの進路を阻もうとするが、甘い。そのすべての軌道を見切り、紙一重ですり抜ける。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

すれ違いざまに一閃。S91が構えていた2丁のビームライフルを、根本から綺麗に叩き切った。

 

「たかがビームライフルくらいで!!」

 

丸腰になったかと思いきや、翔太は怯まない。よく見ると、ベース機では片側にしか装備されていなかったブースターガントレットが、S91の両腕に増設されていた。

 

「これなら!!」

 

ガントレットからバルカンが連射されるかと思いきや、展開したのは眩いビームの刃だった。

なるほど、ビームクローというわけか。

 

苛烈な連撃が俺の機体を襲う。だが、鋭いとはいえ直直線的な動きだ。当たるわけにはいかない。

 

「くっそぉぉぉぉ!! なら、これで!! バックジェットストリーム!!」

 

ついに仕掛けてきた。

猛烈な加速とともに、S91の残像がフィールドに展開される。

 

なるほど、ジュリアンさんの代名詞であるあの分身現象を、ガンプラで見事に再現している。あの若さでここまでビルドし、コントロールする技術は純粋に大したものだ。

 

「どうだ! 降参するなら今のうちだぞ!!」

 

勝機を確信したのか、彼の声が一段と高くなる。

 

「悪いな、その気はないんだ。それと……君のバックジェットストリーム、あの若さで会得したのは本当に凄いと思う。だけどさ、本家に比べたら――まだ遅いよ」

 

分身の展開速度、そして個々の残像のキレ。本物のジュリアンさんが見せた絶技に比べれば、どうしてもまだ粗さが目立つ。

 

十分に楽しませてもらった。手の内を晒すことにはなるが、好戦的な若きファイターへの敬意として、全力で応えさせてもらおう。

 

さぁ、行くぜ相棒。

 

深く息を吸い、五感を研ぎ澄ます。プラフスキー粒子との同調――アシムレイトを発動すると同時に、この機体に組み込まれた心臓部、シャイニングバーストシステムを起動させた。

 

「シャイニングバースト!!」

 

インフィニティの機体が眩い輝きを放ち、背面に展開された光の翼が鮮やかな緑色へと変色する。機体各部のスリットから、爆発的な粒子が放出され始めた。

 

---

 

【選手用観覧席】

 

「な、あれって……」

 

大河が目を見開いて立ち上がる。

 

「去年カミキ・セカイやイノセ・ジュンヤが使っていたのと同様のシステムか? あのシステムを積んでるってことは……まさかアイツ、アシムレイトを使えるのか?」

 

星斗が驚愕に表情を歪める中、日向だけが静かに微笑んでいた。

 

「トライバーニングやディナイアルの場合、主に攻撃強化の特性があった。だけど、陽哉のあのシステムは――おそらく、真逆だな」

 

 

 

---

 

「な……カミキ・セカイの猿真似じゃないか!!」

 

通信席の翔太が驚愕の声を上げる。お前にだけは言われたくないが、この輝きがそう見えてしまうのも無理はない。

 

「君だってジュリアンさんのスタイルをリスペクトしてるだろ。それに、このシャイニングバーストシステムは、バーニングバーストシステムとは少し性質が違うんだよ」

 

そう、このシステムが引き出すのは純粋な攻撃力ではない。機体の「速度」を極限まで引き上げるためのシステムだ。インフィニティブレイクのような必殺技の威力こそ跳ね上がるが、常時発動している恩恵は、すべて絶対的な機動性へと還元される。

 

というわけで、ここからは俺のターンだ。

 

閃光と化したインフィニティが、ステージを文字通り静転させる。

 

「は、速い……っ!?」

 

「確かにバックジェットストリームをあの年齢で形にしたのは大したものだ。だけど、本家はもっと速かったぞ!」

 

翔太も必死にバックジェットストリームを展開し、残像を駆使して対抗しようとするが、こちらの目にはすべてがスローモーションに見えていた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

トップスピードのまま死角へと回り込み、レーヴァテインⅡの一閃でS91の両腕をガントレットごと切断する。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

残されたヴェスバーで強引に迎撃しようとする翔太だが、その銃口がこちらを捉える前に、インフィニティの鋭い蹴撃がその腹部に突き刺さり、機体を激しく吹き飛ばした。

 

「さて、そろそろ終わりだ」

 

右の拳に、爆発的なプラフスキー粒子を集中させていく。緑の粒子が渦を巻き、強烈な輝きを放つ。

 

「はぁぁぁぁぁ!! インフィニティブレイク!!」

 

体勢を立て直したばかりのS91の胸部へと肉薄し、粒子の光を纏った拳を突き立てる。装甲が消し飛び、コクピットブロックが完全に貫かれた。

 

ステージに爆炎が上がり、モニターの表示が切り替わる。

 

《BATTLE ENDED》

 

「よし、なんとか初戦突破だな」

 

ふゥ、と息を吐いて通信を切ろうとした時、モニターの向こうの翔太が、どこか憑き物が落ちたような顔でこちらを見ていた。

 

「僕は……自分を過大評価していたようです。上には上がいる。あなたの実力を完全に見誤っていました」

 

悔しさに唇を噛み締めながらも、まっすぐにこちらを見つめてくる少年。その目には、先ほどまでの傲慢さは消えていた。

 

「そうか。だけどな、あのバックジェットストリーム……あの年齢であそこまで扱えるのは本当に凄いことだ。もっと磨けば、いつか本家にも匹敵するくらい速くなるぜ」

 

「……っ」

 

翔太は一瞬目を見張り、それから小さく微笑んだ。

 

「僕は今よりもっと強くなりたい。そのために、どんな努力も惜しまないつもりです。僕が本当に強くなったその時は――また戦ってくれますか?」

 

「ああ、いつでも来い。待ってるぜ」

 

お互いに画面越しに健闘を称え合い、ガンプラを回収する。まずは初戦突破だ。次はどんな強敵が待っているのか、胸の高鳴りが止まらない。

 

---

 

その頃、スタジアムの喧騒から離れた薄暗い通路の片隅で、スマートフォンの画面を忌々しげに見つめる影があった。

 

「新堂陽哉……お前は絶対に許さねぇぞ。俺の金もうけを潰してくれやがって。このシステムでお前を徹底的に潰してやるよ……」

 

歪んだ笑みを浮かべる男の手元で、不気味な輝きを放つデバイスが起動を始めていた。

 

 

続く

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