ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine- 作:陽@曜花推し
駿河湾から吹き付ける潮風が、俺の橙色の髪を優しく揺らす。
さて、我輩こと新堂陽哉は、只今無事に内浦へと到着いたしました。
「それにしても、いつ見ても内浦の海はキレイだなぁ……」
防波堤に腰掛け、どこまでも青く広がる駿河湾を眺める。前世では画面の向こう側の聖地だった場所に、今、俺は立っている。
アニメの通りなら、お隣さんだった梨子もまもなくここに転校してくるはずだ。東京を発つ数日前、彼女がひどく悲しそうな顔で俺の元へご報告に参られた時のことを思い出す。
――(回想)――
「陽君、わたしね……急なんだけど、引っ越すことになったの」
ピアノのことで悩みを抱え、俯きがちにそう告げてきた梨子。
「そっか……。引っ越し先はどこなんだ?」
内心では「知ってる、内浦だろ!」と突っ込みつつも、あえて平静を装って尋ねる。
梨子は寂しげに微笑み、「静岡のね、内浦ってところなんだけど……」と言葉を紡いだ。うん、完全にアニメのシナリオ通りだ。
さて、ここで俺の内浦行きも報告しておかねばならない。
梨子さんというお方は、意外と独占欲というか、隠し事をされると後から怖いタイプだ。もし内浦の地でばったり出くわして「実は俺も引っ越してきたんだよね!」なんてサプライズ気取りで言った日にゃ、ジト目で「ふーん、私には黙ってたんだ……」とお怒りになられること間違いなしである。ここはあえて事前報告による危険回避一択だ。
「実はさ、偶然なんだけど……俺も内浦に引っ越すことになってさ」
「えっ……!? ホントなの、陽君!?」
梨子がバッと顔を上げ、驚きで目を見開いた。
「うん。元々内浦は両親の故郷だからさ、いつかは戻りたいって親父たちが言ってて。
ちょうど沼津に転勤が決まったんだよ」
「そっか……。離れ離れにならずに済むのね……」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、何でもないの! じゃあ、あっちに行ってもよろしくね、陽君」
「おう、よろしくな」
――(回想終了)――
一応「一緒に内浦に行こう」と梨子に誘われはしたのだが、俺は浦の星女学院の『共学化テスト生』としての説明会やら手続きやらがあるため、一足先に出発する形で断った。
ちなみに学校の件を話した時、梨子も浦の星に転入が決まっていたらしく、「同じ高校に行けるね!」とそれはもう嬉しそうに喜んでいた。うん、男子高恐怖症の俺としては、知っている顔が一人でも同じクラスにいてくれるのは正直めちゃくちゃ心強い。
そんな感傷に浸りながら海を眺めていると、背後から元気いっぱいの足音と、聞き馴染んだ声が響いてきた。
「はー君――っ!」
「……おう、千歌」
せっかく内浦の海の美しさに心を洗われていたのに、一瞬で現実に引き戻される。
振り返ると、我が愛すべきお騒がせ従姉妹――高海千歌が、みかん色の髪をなびかせて満面の笑みで走ってくるところだった。
「えへへ、こないだぶりだね!」
「そうだな。東京じゃあ、うちの親が世話焼いて悪かったな」
そう、こないだ千歌とその幼馴染である渡辺曜が東京に遊びに来た時、俺の家に泊まったのだ。
察しのいい読者の方なら分かってもらえると思うが、まさにアニメ1期1話の冒頭、あの『秋葉原のUTXビルの巨大モニターに映し出されたμ'sの映像』を見た直後の時期である。
あの時の千歌の興奮っぷりは凄まじかった。アニメ通りに「私、スクールアイドルやる!」と言い始め、ついでにその場で俺の転校話を切り出したら、「はー君も内浦に来るの!?」と曜と一緒に大はしゃぎしていた。
ぶっちゃけ、その場で「お願い、マネージャーになって!」と詰め寄られるのではないかと身構えていたのだが、その時は幸いにも(?)スクールアイドルの衝撃が強すぎてスルーされた。……いや、油断はできない。
「さてと、そろそろトラックも着くだろうし、新しい我が家へ行くとしますか」
あ、お部屋の片づけ手伝おうか? 手伝う手伝う!」
千歌がグイグイと距離を詰めてくる。
うーん……まぁ、見られて困るようなものは何一つ持ってきていないしな。普通の17歳の男の子なら誰しも隠し持っているであろう『あの本』や『あのDVD』の類は、俺の部屋には存在しない。
そんなものを買うお金があるなら、俺は1個でも多くガンプラを買い、1本でも多く高級なヤスリを買うモデラーなのだ。
「じゃあ、言葉に甘えてお願いしようかな。重い荷物もあるし」
「うんっ! 任せてよー!」
千歌は嬉しそうに胸を叩いた。
先に内浦入りしていた両親のおかげで、家全体の片付けは大体終わっていた。残るは俺の部屋だけだったが、元々荷物が少ないこともあって、千歌の手際よい手伝いもあり作業は一瞬で片付いた。
「ふぅ……終わっちゃったね、はー君」
「元々持ってきた物が少ないからな。千歌が手伝ってくれたおかげで助かったよ、ありがとね」
お礼を言うと、千歌は嬉しそうに目を細めた。だが、その視線がふと、部屋の隅にポツンと置かれていた小さな段ボール箱に留まる。
「ねぇねぇ、はー君。この箱なぁに? なんか大事そうなオーラが出てる!」
「ああ、それか。……開けてみな」
促すと、千歌は宝箱でも開けるようにワクワクしながら箱のフラップを開いた。中から現れたクッション材の隙間からのぞく、一機のプラモデルの姿に、千歌が「あ」と声を上げる。
「ガンプラ……? なんか、すっごくシャープでカッコいい!」
「ああ。俺の新しい相棒――『デスティニーガンダムシグムント』だ」
それは、前世では発売前に死んで拝めなかった、あの『HGCE デスティニーガンダム』の徹底改造機。こちらの世界で発売を知った瞬間、即座にゲットして魂を注ぎ込んだ自信作だ。
改造コンセプトは、デスティニーのフレームに前世の知識である『コードギアス』のラン
スロットの要素を融合させること。長射程ビーム砲やフラッシュエッジ等の砲撃・投擲武器をあえてオミットし、近接特化の『二刀流』へと変更。さらに両腕部には攻防一体の複合兵装を装備させている。
「なんか、すごく強そうだね。色が締まってて、強者の風格があるっていうか!」
「まぁな。伊達に大人たちに揉まれて作ってないから。俺の現時点での最高傑作だ」
「ねぇ! 私、これの動いてるところが見てみたい! バトルするところ!」
千歌が身を乗り出して目を輝かせる。
そう言われても、こののどかな内浦の港町にガンプラバトルができる最新のシステムがあるわけがない。とはいえ、せっかく相棒の完成を喜んでくれた幼馴染の願いだ。沼津駅の近くにある模型店まで足を伸ばせば、バトルシステムが稼働しているはず。
「……しゃあないな。ほい」
俺は箪笥の上に置いてあった、新品のヘルメットを千歌に放り投げた。
「え、ヘルメット? これ、どうするの?」
「バイクで沼津駅の近くの模型屋に行くんだよ。俺が二輪の免許持ってるのは知ってるだろ?」
「ええっ!? はー君のバイクの後ろに乗っていいの!? やったぁー!」
バイクの免許取得祝いとして親父におねだりし、沼津のバイク屋で契約してもらったホンダのCBR250RR――通称『ニダボ』のパールグレアホワイト。昨日納車されたばかりのピカピカの新車だ。
前世でも同型の車両が愛車だったため、体格が変わっても運転の感覚は完全に身体が覚えている。2人乗りなんて朝飯前だ。
車庫へと移動し、セルのスイッチを押す。
キュルル、ボォォン! と、CBR特有の超高回転型のメカニカルなエンジン音がガレージ内に心地よく響き渡った。
「しっかり掴まってろよ、千歌」
「はーい! 出発進行ー!」
千歌の柔らかい手が俺の腰にしっかりと回る。前世DTの理性が一瞬だけ悲鳴を上げたが、スロットルを捻り、クラッチを繋いで内浦の海岸線へと滑り出した。青い海と潮風を切り裂きながら走ること約40分。俺たちは沼津駅近くにある老舗の模型店『ホビーショップ三丸(みつまる)』に到着した。
バイクを駐輪場に止め、千歌を連れて引き戸を開け、店内へと足を踏み入れる。
「……なんだ、この嫌な空気は」
店内に満ちていたのは、模型店特有のワクワクする空気ではなく、どこか重苦しく、ピリピリとした不快な沈黙だった。隣の千歌も気圧されたのか、俺の服の裾をきゅっと掴んで怯えた表情を見せている。
「おいおいおい! 俺とバトルして、この『川島広大様』を楽しませてくれる骨のある奴は、もうこの街にはいねえのかよぉ!?」
店内のバトルスペースの中心でふんぞり返っていたのは、いかにも頭が悪そうな、プリンカラーに髪を染めた不良崩れの男だった。
バトルフィールドには、バトルで敗れて文字通り『バラバラのプラスチックのゴミ』にされた、他人のガンプラの残骸が散らばっている。
(……うわぁ、なんか無性にボコボコにしたい。俺の拳で。いや、ガンプラで)
近くで青い顔をして震えていた少年に小声で事情を聞くと、あのプリン頭は自分より明らかにレベルの低い初心者や子供ばかりを狙ってバトルを仕掛け、相手の機体を完膚なきまでに破壊して悦に浸っている害悪ファイターらしい。
ほほう。それはそれは、実に素晴らしい。
燃え尽き症候群の俺のリハビリ相手として、これ以上ない格好の『サンドバッグ』じゃないか。
「おい、プリン頭。誰もいないなら、俺が相手をしてやるよ」
俺が静かに名乗り出ると、男――川島がギロリとこちらを睨みつけ、見下すような下劣な笑みを浮かべた。
「あぁん? なんだお前、見ねえ顔だな。……へぇ、いいぜ」
「は、はー君……大丈夫?」
不安そうに俺を見上げる千歌の肩を、ポンと叩く。
「大丈夫だよ、千歌。ちょっとそこらの害虫駆除をしてくるだけだから」
「あぁん!? テメェ、女連れでいい格好したいからって、この俺様に喧嘩売ってんじゃねえぞ! いいぜ、その小生意気な面ごと返り討ちにしてやる! この川島広大様を相手にしたこと、地獄の底で後悔しなァ!!」
――地獄の底で後悔しな、だってさ。
もう、台詞の小物感が半端なさすぎて、我輩の腹筋は耐えられないレベルで崩壊しかけている(笑)。キジマやルーカスのような本物のバケモノと命を削り合うようなバトルをしてきた俺からすれば、ただのノイズだ。
「……さっさと済ませて、帰りに美味いもんでも食いに行こうぜ、千歌」
俺はポケットから、白き狼の如きシルエットを持つ『デスティニーガンダムシグムント』を取り出し、バトルシステムのコンソールへと向かった。
俺はバッグから、相棒であるシグムントと、これまでの激闘の記憶が刻まれたGPベースを取り出した。コンソールに触れた瞬間、システムが冷徹な電子音を響かせる。
『GUNPLA BATTLE Combatmode startup. Mode damage level set to “A”』
(あらあら、ダメージ設定は最高クラスの『A』ですか)
機体が大破すれば、そのプラスチックの塊は二度と元には戻らない。相手のガンプラをゴミクズにすることだけを目的にした、川島らしい悪趣味な設定だ。だが、それは俺にとっても好都合だった。
『Please set your GP-Base』
GPベースをスロットに差し込む。次の瞬間、ガガガガッ! と小気味よい駆動音を立てて、俺たちの周囲が目まぐるしい光のホログラムに包まれていった。
『Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field 2, colony』
空間を満たしていく、幻想的なプラフスキー粒子の輝き。展開されたフィールドは『コロニー』だ。戦況次第では宇宙空間や市街地へ推移する可能性もあるが――いや、その前に終わらせるから関係ない。
『Please set your GUNPLA』
コンソールの中央にシグムントをセットし、すべての準備が完了する。
足元からせり上がってきた黄色い光球状の操縦桿――コントロールスフィアを、俺は力強く握りしめた。その瞬間、前世のシン・アスカに生き写しである俺の双眸に、ファイターとしての鋭い光が宿る。
「さぁて……新堂陽哉、デスティニーガンダムシグムント、出るぞ!!」
システムに登録された俺の名前が、頭上の大型モニターに大写しになった。
刹那、店内の空気が凍りつき、直後に爆発するようなざわめきが広がった。
「し、新堂……陽哉……!? おい、キジマやルーカスを相手に大立ち回りしたっていう、あの化け物か!?」
「今度の全日本ガンプラバトル選手権の静岡予選に、とんでもないソロファイターが殴り込んでくるって噂は本当だったのかよ!?」
まぁな。伊達に世界の化け物たちと揉まれてない。公式戦前だっていうのに、それなりに有名人なんですよ、我輩。
「な……てめぇ……新堂陽哉……だと!?」
川島の顔からさっきまでの余裕が消え失せ、みるみるうちに青ざめていく。ふふふ、大人しい初心者だと思ったら、公式戦の台風の目になる予定のバケモノでした。残念だったな。
「おいおい、今更名前を思い出したところで、もう逃げられねぇぞ?」
「うるせえええッ!! 俺はこのショップでは最強なんだよ! てめぇをブッ倒して、これから始まる地区予選の前に、俺がその名を奪って有名になってやるよぉ!!」
初心者ばかりを狙い撃ちして「最強」を自称するとは、恐れ入った。芸人としての才能がずば抜けているんじゃないか?
システム上に現れた川島の機体は、禍々しい漆黒にリペイントされた『ガンダムレギルス』。見たところ、工作の精度自体は悪くない。そこそこ高い製作技術を持ちながら、それを初心者いじめに使うその腐った根性――最高に気に入らねぇな。
「死ねやぁーーーッ!!」
川島の叫びと共に、黒いレギルスの全身から無数の光球――レギルスビットが射出され、全方位からシグムントへと襲いかかってきた。
「おらおら! 自慢の最新機ごと、蜂の巣になって避けられずに泣き描けぇ!!」
(うん、避けるよ? 普通に)
コントロールスフィアをミリ単位で繊細に、かつ電光石火の速度で操る。
前世で幾度となく画面越しに見た、あのキラ・ヤマトの『不殺の回避術』を彷彿とさせる超絶的な機動。シグムントは残像すら残すステップで、死角から迫るすべてのビットを紙一重で、滑らかにいなしてみせる。これくらい、キジマのトランザムに比べれば止まって見えるっての。
「な、なっ……!? じゃあ、こいつはどうだァ!!」
ビットを囮に、いつの間にかシグムントの至近距離へと肉薄していたレギルス。……いや、気づいててあえて接近させてやったんだがな。
川島は勝ち誇った顔で、レギルス腹部のビームバスターの砲口を、シグムントの胸元へゼロ距離で突きつけた。
ドォォーーンッ!!!
至近距離で炸裂した大出力のビームが、シグムントの機体を完全に飲み込み、コロニーの隔壁を激しく照らし出す。
「嘘……はー君――っ!?」
防戦一方に見えた俺の姿に、ギャラリーの少年たちが絶望の声を上げ、千歌が悲鳴のような声を上げた。
「ハハハハハ! ざまぁみろッ! 何がキジマ・ウィルフリッドに匹敵するだ! 警戒して損したぜ、大したことねぇじゃねえか!!」
誰もが、俺の相棒がプラスチックの塵に変わったと思っただろう。
だが、渦巻く爆煙の奥から、冷徹な俺の声が響き渡る。
「……おいプリン頭。まだ試合終了のシステムアナウンス、鳴ってねぇよな?」
「な、に……!?」
回避不可能の近距離ビームバスターで勝利確定! やったね!……って、アホか。
煙がサッと晴れたその中心。そこには、煤一つついていない純白の機体が、悠然と佇んでいた。
レギルスの放った絶大なるエネルギーは、シグムントの両腕に装備された複合兵装防盾システム――〈スヴェル〉から展開された、強固な三角形のビームシールドによって、1ミリの有効打すら与えられず完全に霧散していた。
「な、なんだよその盾……! レギルスの最大出力が、完全に弾かれただと……!?」
「ここからは俺のターンだ。相棒の刃の錆にしてやるよ」
シグムントのメインカメラが、獲物を捉えた獣のように赤く鋭く、ギラリと輝いた。
「な、なっ……嘘だろ、おい!?」
驚愕に声を震わせる川島の画面の向こうで、シグムントの両腕の盾〈スヴェル〉が、エメラルドグリーンの粒子をパチパチと散らしながら、レギルスの最大出力を何事もなかったかのように弾き返していた。
残念ながら真実だ。さて……ここからは、こちらのターンと行かせてもらおうか。
「行きな、プリスティス!」
俺の声と共に、スヴェルの先端から有線式遠隔機動兵器――〈プリスティス〉が勢いよく射出された。
プラフスキー粒子を噴射しながら空間を縦横無尽に駆け巡り、内蔵されたビームガンを連射して黒いレギルスを翻弄していく。
「お、落ちろ! ちょこまかと動き回りやがってぇッ!!」
川島が半狂乱でレギルスライフルを乱射するが、プリスティスはまるで生き物のようにその砲火をすり抜け、掠りもしない。
「な、なんで当たんねぇんだよ! オートの軌道じゃねえのか!?」
「そりゃそうさ。オートの回避パターンじゃなく、俺がマニュアルで直接動かしてんだからな」
その言葉に、店内にいたギャラリーの少年たちから「マ、マニュアル操作であの機動性能かよ!?」と驚愕のどよめきが上がった。あ、隣の千歌だけは「まにゅある……?」と小首を傾げて、いまいち凄さが分かっていないみたいだけど。
遠隔機動兵器を自らの手で完全制御する。それは言うほど簡単なことじゃない。だが、世の中にはアドウ・サガのように、俺以上の数の兵装をマニュアルで完璧に操るバケモノだって存在するんだ。まだ地区予選すら始まっていない段階で、俺ごときの実力に驚かれても困る。
それに、俺が動かしているのはプリスティスだけじゃない。
「――機体本体の操作も、忘れてもらっちゃ困るぜ?」
「い、いつの間に……!?」
川島がプリスティスの迎撃に全神経を奪われている一瞬の隙。シグムントはすでにレギルスの完全な死角――背後へと回り込んでいた。
コントロールスフィアを叩き込み、シグムントの右脚で思い切り相手の背中へ『ヤクザキック』をお見舞いして差し上げる。
ドゴォッ!!!
「がはっ……!?」
強烈な衝撃を受け、大きく体勢を崩す黒いレギルス。だが、川島も伊達に工作精度が高い機体を作っていないらしい。よろめきながらも、執念で全身からレギルスビットを射出して反撃を試みてきた。
おぉ、そこから撃ち返してくるか。やるじゃん。
――でも、当たらねえんだよね(笑)
シグムントは軽やかなステップでビットの光軸をすべて回避。同時に、滞空していたプリスティスをビームナイフモードへと切り替え、すれ違いざまにレギルスライフルの銃身を綺麗に切断して無力化する。
さらに、手元に戻りつつあるプリスティスを今度は『ロケットアンカーモード』で射出。レギルスが構えていたシールドをガッチリと捕獲するという簡単なお仕事を済ませ――川島の目の前で、シグムントのパワーにより、その盾をバキィッ!! と豪快に真っ二つに引き裂いてやった。
「てめぇええええーーーーーッ!!」
おぉ、画面の向こうで激おこぷんぷん丸ですがね。全く怖くねぇな。
武器を失った川島は、最終兵器と言わんばかりにビームサーベルを展開し、狂ったように腕をぶんぶんと振り回して斬りかかってくる。だが、その大振りで直線的な斬撃など、俺にとっては止まっているも同然だった。すべて余裕の笑みで避けてやる。
「……うぜぇ」
レギルスの斬撃が一瞬だけ止まった、致命的な隙。
俺はシグムントのカウンターのフロントキックを叩き込み、黒い機体を思い切り前方へと蹴り飛ばした。コロニーの地面を転がるレギルスを見下ろし、コントロールスフィアを握る手に力を込める。
「そろそろ飽きてきた。じゃ、終わらせてやるよ」
おふざけはここまでだ。ここからは、初心者いじめのツケを払ってもらう公開処刑タイムと行こう。
シグムントが背部から二本の大型実体剣――〈レーヴァテイン〉を引き抜くと同時に、背部ウイングからプラフスキー粒子による光の翼『ヴォワチュール・リュミエール』が美しく展開された。
圧倒的なプレッシャーを放ち、光の尾を引きながら加速するデスティニー。
「く、来るな! 来るな来るな来るなぁァァーーーッ!!」
恐怖に狂った川島は、レギルスの腹部ビームバスターや頭部キャノンをがむしゃらに連射する。だが、光の翼によって極限まで跳ね上がったシグムントの機動性の前には、そんな目眩ましの砲火など1ミリも届かない。
「終わりだ」
閃光が奔る。
レーヴァテインの一閃が、黒いレギルスの胴体を正確に、真っ二つに一刀両断した。
直後、レギルスの機体が大爆発を起こし、ホログラムの空間に無情な電子音が響き渡る。
『BATTLE ENDED』
「さ、俺の勝ちだ。……ダメージ設定『A』だ、文句ねぇよな?」
煙が完全に晴れたステージの上で、シグムントが悠然と佇む。
対する川島の漆黒のレギルスは、コックピットブロックだけを残して手足をもがれた無惨なダルマ姿に変わり果てていた。
「ひ、ひぃぃ……っ!?」
自分の愛機が文字通り『修復不可能なゴミクズ』にされた現実と、目の前にいる男が噂通りの化物だった恐怖から、川島はコンソールの前でガタガタと震え出した。
「おい。今更怯える前に、この人たちに言うことは?」
「え、え……?」
「土下座してごめんなさい、だろ。なぁ。自分より弱い初心者ばかりを狙ってガンプラをぶっ壊しておいてさ、謝りもなしに帰れると思ってんのかよ」
俺は一歩踏み出し、川島の目を真っ正面から思い切り睨みつけてやった。
数少ない友人(スドウあたり)が言うには、俺が本気で睨みつけた時の顔は、まるで復讐に燃える悪鬼のようでめちゃくちゃ怖いらしい。シン・アスカ似の顔立ちでこれをやれば、迫力は倍増だ。
「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁッ!!」
案の定、完全に恐怖に呑まれた川島は、店内の床に激しく頭をこすりつけて土下座すると、自分のガンプラの残骸を回収することも忘れて、脱兎のごとくショップから逃げ出していった。
ま、これに懲りて二度と初心者いじめなんてやらないだろう。真っ当なモデラーになってほしいものだ。
「……ふぅ」
溜息をついて肩の力を抜いた瞬間、周囲のギャラリーから「す、すげぇ……」「一歩も動かさずにレギルスをハメ殺した……」と、熱狂的なざわめきが波のように広がっていく。
「はー君! 強い! すっごくカッコいいーーっ!!」
ドサッ、と小気味よい衝撃が俺の胸元に響いた。
興奮した千歌が、躊躇いもなく俺の体に思い切り抱き着いてきたのだ。待て待て待て、自覚がないのか、このみかん娘は! 密着した場所から伝わってくる、女の子特有の柔らかい『おぱーい』の感触が……前世DTの脳細胞をマッハで焼き尽くしにかかってくる!
「お、落ち着け千歌! とりあえず店を出るぞ! ……すいません店長、時間がないのでまた来ます!!」
俺は顔を真っ赤にしながら千歌の手を引き、逃げるようにホビーショップ三丸を飛び出した。
すると、店外の駐輪場――俺のCBR250RRのすぐ隣に、見覚えのある白いセーラー服の少女が立っていた。
「ヨーソロー! はー君、こないだぶり!」
お馴染みの敬礼ポーズで満面の笑顔を向けてくれたのは、渡辺曜。
前世の最推しが、いま、リアルな潮の香りをまとって目の前で笑っている。その破壊力に胸を撃ち抜かれつつも、俺はなんとか平静を装って手を挙げた。
「おお、曜か。なんでここに?」
「千歌ちゃんが『はー君が沼津の模型屋に行く!』って大騒ぎして家を出たから、追いかけてきちゃった。……それにしても、やっぱりはー君は強いねぇ。最初のほう、わざと相手を泳がせて遊んでたでしょ?」
クスッと悪戯っぽく笑う曜。さすがだ、彼女は俺のバトルの癖をちゃんと分かっている。
「まぁな、ちょっとしたお仕置きだよ。……とりあえず、場所を移動しよう。ギャラリーが追ってくると面倒だし、近くのマックに行こうぜ。俺が奢るから」
俺の提案に、二人は「やったぁ!」と声を揃えて大喜びした。
――近くのマクドナルドへと移動し、ポテトをつまみながらの駄話。
だが、千歌の口から出た何気ない一言が、俺の胃を再びキリキリと痛ませることになる。
「ねぇねぇ。じゃあ、次の2年生の始業式からは、はー君と一緒に浦の星に通えるんだねぇ!」
「う、うん……まぁ、手続きは終わってるからな……」
「どしたの、はー君? なんか歯切れが悪いよ?」
曜がストローを咥えながら小首を傾げる。俺は頭を抱え、机に突っ伏した。
「い、いやね……。あそこ、女子高だよな? 女の子しかいない場所だよな?」
「そうだよ?」
「そこに、男は俺一人だけ……」
「そうだね。特例のテスト生だもんね」
ですよねーーー。
「……地獄じゃん」
「「ええっ!? なんで!?」」
千歌と曜が同時に声を裏返した。なんでって、お前らなぁ……。
「いいか? 世の男どもが『女子高に男一人なんてハーレム状態で最高じゃん!』とか妄想して喜ぶのは大間違いだ。男の身からすれば針のむしろなんだよ。そもそも、周囲の女子生徒たちに受け入れてもらえるかどうかも不安だし、変な噂が立ったら一発アウトだぞ」
前世の社畜時代に培ったリスク管理能力が、全力で危険信号を鳴らしている。
だが、そんな俺の必死の訴えを、千歌はケラケラと笑い飛ばした。
「大丈夫だよー! 浦の星のみんな、優しい子ばっかりだもん!」
「そうそう。それに、わたしたちだって近くにいるんだしね!」
曜が頼もしく胸を叩いてウインクを見せる。……前世の推しにそんなことを言われたら、もう何も言えねえ。
「……千歌、曜。ありがとな。うん、なんとか学校に馴染めるように頑張るよ」
だってもう、今さら俺を受け入れてくれる高校なんて、この近辺には浦の星女学院しかないんだからな。腹を括るしかない。
「よし! じゃあその勢いで、私たちが新しく作る『スクールアイドル部』のマネージャーも、一緒に頑張ってみようか!」
「嫌どす」
「なんでぇ!?」
「うん、はー君……なんで急に京都弁?」
曜の的確な突っ込みをスルーしつつ、俺は千歌に向かってビシッと人差し指を立てた。
「いや、なんとなく気分で! つーか、ただでさえ未知の領域である女子高の環境に慣れるだけで精一杯なのに、その上マネージャーなんて激務までこなせるか!!」
俺はな、他のラブライブ!サンシャイン!!の二次創作小説に登場する、喜んでマネージャーを引き受けるようなお人好しの主人公たちとは違うのだよ! 自分のガンプラビルドの時間だって確保しなきゃならないんだからな!
「いいじゃん、手伝ってよー! はー君のバトルの時のカッコいいプロデュース力があれば、絶対に最高のグループになれるって!」
「考えとく、考えとくから!」
その後も「前向きに善処する」という大人の常套句(※ブラック企業仕込み)で千歌の追撃をごまかし続け、なんとかその日は家路につくことができた。
やっぱり、油断は一切できなかった。これからも千歌からの熱烈な勧誘は続くだろう。
だけど……うーん。アニメのストーリーを知っている身としては、これから千歌が直面する『生徒数が集まらない過酷な現実』や『最初の挫折』を思うと、少し可哀想な気もしてくる。
マネージャーかぁ……。アニメの公式ストーリーを致命的に破壊しない範囲で、彼女たちのサポートに回るくらいなら、前向きに検討してやってもいいかもしれないな。
「……さて。とりあえず、明日は浦の星女学院の理事長室に呼ばれてるんだっけ」
自室でベッドに寝転び、天井を見上げる。
特例の男子生徒としての面談。ま、大方、あの『シャイニーな金髪の幼馴染』が、悪戯っぽい笑みを浮かべて待っているんだろう。
運命の歯車は、俺の意志とは関係なく、すでに超高速で回り始めていた。
(第2話・おわり)
リメイク2話どうだったでしょうか?7年前の自分には思い浮かばなかった表現が…AIすげぇ…
では、3話をお楽しみください。