ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine- 作:陽@曜花推し
大会もいよいよ9日目を迎えた。
6日目と7日目が休養日となったため、各ブロックの第5試合は8日目に行われた。
ちなみに、6日目に萩島の違法プログラムの件がヤジマ商事から正式に発表された際は、大会参加者だけでなくネット上でも大きな騒ぎとなった。
その煽りを受けて静岡予選での兵藤の事件まで蒸し返され、マスコミ連中が俺への取材を目当てに宿舎の周りをうろうろと嗅ぎ回っていたおかげで、俺は半ば部屋に缶詰め状態を余儀なくされていた。
俺自身は何も悪いことをしていないのに、他の選手たちには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。日向兄たちは「陽は何も悪くないんだから気にするな」と温かく声をかけてくれたが。
最終的にはニルスさんが自ら記者会見を開き、毅然とした対応を見せたことで、マスコミ連中もようやく引き下がっていった。
本来の休養日は2日ではなく1日だけの予定だったのだが、何故1日延びたのか。それはヤジマ商事が全参加者のGPベースを一度預かり、徹底的なセキュリティ調査を行ったからだ。結果は当然、全員白だった。
怪しい疑念が晴れただけでなく、予選の激戦で傷ついたガンプラの修復時間が増え、選手たちも十分に身体を休めることができた。怪我の功名といったところだろう。
そんなアクシデントを経て再開された第5試合を俺はサクッと制し、無事に準々決勝へと駒を進めたのだった。
そして――迎えた準々決勝の控室前。
「ようやく、この日を迎えることができましたね」
目の前に立つのは、赤いジャージを羽織った鷹山李衣菜だ。
「あぁ、そうだな」
「うちは負けません。ここで負けるわけにはいかないんです。ガンプラ心形流のために」
「心形流のために?」
眉をひそめる俺に、彼女は真剣な眼差しを向けてきた。
「ええ。うちが優勝して、心形流に付いてしまった悪いイメージを払拭するんです。そのために、あなたに負けるわけにはいきません」
心形流の悪いイメージ……うん、何となく察しはつく。あの個性的すぎる珍庵師匠に、ミサキさんに尻に敷かれっぱなしのマオさん、そして変態的な暴走を見せるミナト。あの3人の奇行のせいで、真面目な弟子たちが呆れて離れていっているという話だ。
だけど――俺にだって、ここまで勝ち上がってきた誇りがあり、背中を押してくれた仲間たちがいる。負けられない理由があるのは同じだ。
「俺も、ここまで来て負けるわけにはいかないんでね」
「わかってます。だから――この続きはガンプラバトルで!」
「ああ!」
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『それでは準々決勝第2試合、静岡県代表 新堂陽哉選手対大阪府代表 鷹山李衣菜選手の試合を始めます!』
《GUNPLA BATTLE Combatmode startup. Mode damage level set to “A”》
《Press set your GP-Base》
《Press set your gunpla》
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field12, desert》
ステージは広大な砂漠。遮蔽物の少ない厳しいフィールドだ。
「新堂陽哉、デスティニーガンダムインフィニティ、出るぞ!」
「鷹山李衣菜、Gヴァルキリー、行きます!」
砂嵐が舞うフィールドに、2機のガンプラが降り立つ。
相手の機体はGエグゼスをベースに改造されたルーガエグゼス仕様のカスタム機、「Gヴァルキリー」。徹底的な軽量化と推力増強が施されたその機動性から、彼女は関西で「浪速の赤い流星」と恐れられている。
感心している暇など一瞬すらなかった。
Gヴァルキリーはスタートと同時に急上昇すると、上空からビームライフルを連射しながら、一気に急降下をかけてきた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
赤き機体が鋭い光の軌跡を描き、両手のアスラビームサーベルを閃かせて肉薄してくる。
「ちっ……!」
速い! 咄嗟に身を引いたものの、すれ違いざまに肩の装甲がかすめ、火花が散った。
あと0.2秒反応が遅れていたら、直撃を食らって初手で持っていかれていたところだ。
「さすがは『蒼き疾風』と呼ばれるだけのことはありますね。この奇襲を回避されるとは」
「ん? 蒼き……疾風?」
思わず聞き返すと、彼女は少し意外そうな顔をした。
「知らないんですか? 予選後にネットやメディアで新しく付けられた、あなたの二つ名ですよ」
蒼き疾風。え、なにそれ知らんし。いつの間にかそんな大層な名前で呼ばれていたのか。まあ、別にどう呼ばれようと関係ないが。
「ま、いいです。とにかく――行きます!!」
Gヴァルキリーが砂煙を巻き上げ、二刀流の連続斬撃で襲いかかってくる。
凄まじい手数とスピードだ。回避と防御だけで完全に手一杯になる。しかし、どれほど洗練された動きであっても、人間が操縦している以上、必ず攻撃の切り替わりにわずかな隙が生まれるはずだ。
無数の斬撃の波が、一瞬途切れた。猛攻を維持し続ける疲労が、ほんのわずかなタメを生んだのだ。
「ちょいさー!!」
俺はリジルからビームサーベルを展開し、一刃報いるべくカウンターの一撃を繰り出した。しかし、Gヴァルキリーは空中でのフィンスラスターの微調整により、紙一重でそれをかわしてみせた。
「えー……マジかよ」
流石のテクニックだ。感心する間もなく、再びGヴァルキリーの猛攻が再開される。
ガンプラ心形流といえば、ZZガンダムを3機合体のロマン溢れるメカに改造したトライオン3とか、サテライトキャノンを独自の技術でぶっ放すとか、何かしらぶっ飛んだロマン改造が施されているイメージがある。正直、トライオン3を見た時は男としてめちゃくちゃ羨ましかったし、俺も昔インパルスをベースに勇者ロボ風機体を作ろうとして挫折した口だ。あと、スーパーふみなを見た時に梨子をイメージしたMS少女を作ろうか一瞬頭をよぎったが、バレた時の恐ろしさを考えて即座に諦めたのは墓場まで持っていく秘密である。
それはともかく、李衣菜のGヴァルキリーにはそうしたケレン味溢れる隠しギミックは見当たらない。純粋に、あの圧倒的なスピードを完璧に御しきる操縦技術だけで勝負してきているのだ。
「ちっ……このままじゃ埒があかないな」
彼女の繰り出す技には、鬼気迫るほどの執念が宿っていた。
「ガンプラ心形流への想いは伊達じゃないってことか!」
「ええ、そうです! うちにガンプラの楽しさを教えてくれたんは心形流です! その心形流から今、弟子離れが進んでて……うちはそれを食い止めたくて……せやから優勝せなあかんのや! ガンプラ心形流の実力を全国に示さなあかん! あのエロ3人衆に任せておけへんのや!!」
血を吐くような叫び。言っている内容が内容だけに、反論の余地が一切ない。
「……うん、ものすごく同意できる。同意できるけど……俺だって負けるわけにはいかないんだよ!」
背部のヴォワチュール・リュミエールを点火させ、光の翼を広げて一気にバックステップ。Gヴァルキリーとの間合いを取る。
「そうですね。せやから――うちもこっから本気を叩きつけます! アシムレイトを使えるのは、あなただけやない!!」
「何だと……!? マジかよ!!」
李衣菜の全身から凄まじい気迫が立ち昇り、Gヴァルキリーの挙動が次元の違う鋭さへと変化した。彼女もまた、粒子との同調領域に達しているというのか!
ならば――こちらも全力で応えるのが礼儀だ!
「シャイニングバースト!!」
緑の粒子を全身から吹き出し、光の翼を最大限に解放する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
赤と緑の光条が砂嵐を切り裂き、激しく交錯する。
砂漠のフィールドを縦横無尽に駆け巡り、幾度となく刃を重ね合わせる2機。
激突の衝撃がダイレクトに神経を灼き、ノーシーボ効果による激痛が全身を駆け巡る。機体が傷つくたびに身体が悲鳴を上げるが、お互いに一歩も引く気はない。
(くっ……これ以上は、身体がもたない……!)
アシムレイトの負荷が限界に達しつつある。この長引く消耗戦は危険だ。
「この一撃で……終わらせる!」
「それはうちも同じです! だから――スピニングトルネード!!」
Gヴァルキリーが両手のビームサーベルを十字に交差させ、背部と肩部のブースターを限界まで点火させた。機体をコマのように超高速回転させ、竜巻のような光の穿孔となって正面から突っ込んでくる。
機体内のプラフスキー粒子をすべて推進力へ変えた、捨て身の大技。
回避は不可能。直撃すれば、インフィニティとてひとたまりもない。だが――俺はそれをあえて真っ向から受け止めるべく、右拳を引き絞った。
「インフィニティブレイク!!」
シャイニングバーストによって生成された高密度の粒子を、右拳の一点へ極限まで凝縮させる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
赤き竜巻と緑の閃光が、砂漠の真ん中で真っ正面から衝突した。
衝撃波が砂を吹き飛ばし、空間そのものが軋むような轟音が響き渡る。
「ここで……ここで負けるわけには……!!」
「俺も……背中を押してくれたみんなのために、絶対に負けられないんだ!!」
拮抗するふたつの想い。しかし、極限まで高められたインフィニティの粒子圧が、徐々に竜巻の勢いを押し返し、飲み込んでいく。
「これで……終わりだぁぁぁ!!」
拮抗が破られた一瞬、インフィニティの拳がGヴァルキリーの胸部を鋭く貫いた。
爆炎が赤き流星を包み込み、フィールドの粒子が静かに霧散していく。
《BATTLE ENDED》
〈勝者、静岡代表 新堂陽哉選手!〉
「はぁ……はぁ……なんとか、勝てたか……」
激痛と倦怠感に耐えながら、大きく息を吐き出す。
ふと横を見ると、李衣菜がバトルシステムにぐったりと体重を預けていた。極限のアシムレイトによる反動と精神的な疲労で、立ち上がることもままならない様子だ。
「立てるか?」
「……正直、かなりきついです……」
そりゃそうだ、俺だって膝が笑っている。
「ほら、肩貸してやるよ」
「す、すみません……」
彼女を支えながら、ゆっくりとステージ裏の通路へと歩みを進める。すると、通路の先から一人の男が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「李衣菜……!」
「あ、マオ兄さん……」
そこにいたのは、ガンプラ心形流の門下生であり世界大会の常連、ヤサカ・マオさんだった。
「陽哉はん、すみません、代わりますわ」
俺は素直に李衣菜の身体をマオさんに預けた。マオさんは悔しさと申し訳なさの混ざった複雑な表情で、李衣菜を優しく抱きかかえる。
「李衣菜、堪忍な……ワイらが不甲斐ないばっかりに、お前にこんな無茶な負担をかけさせてしまって……」
「マオ兄さん……」
「ワイらも心を入れ替えるよ。師匠もミナトもな。それに……李衣菜の頑張りは、決して無駄やなかったで」
マオさんが視線を向けた先には、俺たちと同年代の若い男女が10人ほど、不安と期待の入り交じった面持ちでたたずんでいた。
「みんな……!?」
李衣菜が目を見張る。
「あの、マオさん。この人たちは?」
「ワイらが不甲斐なかったせいで心形流から離れていってた弟子たちですわ。李衣菜がこの全国大会で必死に戦う姿を見て、胸を打たれて戻ってきてくれたんです」
「そっか……よかったな、李衣菜」
彼女が背負ってきた重荷が、報われた瞬間だった。心からそう伝えると、李衣菜は目元に溜まった涙を拭い、照れくさそうに、けれど晴れやかな笑顔を浮かべた。
「はい!」
雨降って地固まる、とはまさにこのことだろう。
「新堂さん。うちに勝ったからには……うちも全力であなたに協力させていただきます!」
「え? 協力って?」
「インフィニティの修理、うちとここにいる心形流の仲間たちでやらせてください!」
「えっ、マジで!?」
思わぬ申し出に驚く俺に、彼女はまっすぐな目で頷いた。
「マジです。あなたの次の対戦相手は、間違いなくあの人になります……昨年の準優勝者、『北の黒い皇帝』鹿角星斗。彼と対等に渡り合うためには、万全の状態で臨んでもらわないと困りますから。あなたも、インフィニティもです。大丈夫、うちとガンプラ心形流の腕を信じてください!」
「そういうことですわ。ワイは世界大会が控えてるんで規定で直接手を貸すことはできませんが、心形流の総力でお手伝いさせていただきます」
マオさんも力強く頷いてくれた。
次の相手は鹿角星斗。これまでの彼の試合を見る限り、生半可な状態で勝てる相手ではない。ここは彼らの好意を素直に受け取るべきだろう。
「李衣菜、それと心形流のみんな……俺の相棒を、頼んだ!」
「はい! お任せください!」
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それから30分後。スタジアムの大型モニターに、激闘の終わりを告げるアナウンスが響き渡った。
《BATTLE ENDED》
〈勝者、北海道代表 鹿角星斗選手!〉
破壊された敵機の残骸の只中で、ガンダムアストレイシャドウフレームリヴァイが静かに刀を収める。
「ふぅ……さすがに今回は骨が折れたな」
コクピットの中で、鹿角星斗はサングラスを指で押し上げながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「さて、次はいよいよ陽哉との対戦か。……フッ、今のセカンドリヴァイの装備のままじゃ、あのインフィニティの相手をするのはさすがにキツそうだな。――しゃーねぇ、あの『切り札』を解禁するとしますか」
極北の皇帝が眼光を鋭く光らせ、次なる決戦へと牙を研いでいた。
次回に続く