ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine-   作:陽@曜花推し

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第3話:いざ浦の星女学院へ(リメイク版)

今日は新学期を前に、特例の男子生徒として浦の星女学院にお呼ばれされています。どうも、新堂陽哉です。

 

「ふぅ……。いや、マジか。Googleマップで見ると結構近いように思えたんだけどな……」

 

額の汗を拭いながら、俺は目の前にそびえ立つ最後の心臓破りの坂を見上げた。

 

うん、徒歩で来たんだ。バス代がもったいないからな。前世の社畜時代に衰えきった身体を鍛え直すためにも、健康のために歩かなきゃというモデラーとしての危機感もあった。だけど、さすがにこの最後の傾斜は……ちときつかった。

 

坂を登りきった先に佇む校舎。ここが浦の星女学院――アニメの通りなら、まもなく廃校の危機に直面する学校だ。実際にこうして足を運んでみると、アクセスの悪さ、坂のきつさ、どれをとっても入学希望者が減っていくのは仕方のないことだと思えてしまう。

 

いくら前世のアニメ知識があるとはいえ、この過疎化の波を止めて入学希望者を増やすなんて、それこそ神懸かり的な至難の業だぞ……。

 

「ま、何はともあれ、この学校で1年間頑張ってみるとしますか」

 

 

とにかく目立たず、女子生徒たちの邪魔にならないように過ごそう。そう自分に言い聞かせながら正門へと向かう。

 

「とりあえず、正門で待っててくれって言われてたけど――」

 

「時間通りですわね、陽(はる)」

 

凛とした鈴を転がすような声と共に、俺の前に一人の大和撫子が姿を現した。黒髪をなびかせ、切れ長の瞳で俺を真っ直ぐに見つめる少女。おお、間違いない、本物だ。

 

「お久しぶりです、ダイヤ姉さん」

 

浦の星女学院の現生徒会長であり、俺が幼い頃から姉のように慕っている黒澤ダイヤ様のご降臨である。

 

「ようこそ、浦の星女学院へ。今日は新しい制服や教科書を渡すだけですので、そんなに時間は取らせませんわ。行きましょう」

 

「なるほど、分かりました」

 

ダイヤ姉さんの後に続いて、静まり返った校舎を進む。生徒会室に案内された俺は、そこで浦の星の特例の制服や教科書一式を受け取り、始業式の日の集合場所や登校時間といった最低限の説明を受けた。用件としては本当にこれだけらしい。

 

一通り書類を受け取ったところで、俺は少し気になっていた疑問を口にしてみた。

 

「あのさ、ダイヤ姉さん。最後に一つだけ、聞いていいかな?」

 

「ええ、構いませんわ。なんですの?」

 

「俺が共学化のテスト生としてこの学校に入るの……ダイヤ姉さんは反対じゃなかった?」

 

 

女子高に男が一人。普通に考えれば、生徒会長として治安や風紀の面で難色を示してもおかしくないはずだ。だが、ダイヤ姉さんはクスッと、どこか慈愛に満ちた柔らかな微笑みを浮かべて首を振った。

 

「いいえ。これがあなた以外の殿方であれば、私も全力で難色を示したでしょうけれど。陽、あなたのことは幼い頃からよく知っていますわ。不必要に問題を起こすような子ではないということは、私が一番よく理解しています」

 

(おぉ……めちゃくちゃ信頼されてるねぇ……)

 

そこまで真っ直ぐに言われると、前世35年DTの純情がちょっとくすぐったい。と同時に、その厚い信頼を絶対に裏切らないように風紀委員並みに大人しくしていようと心に誓う。

 

「うん、ありがとう、ダイヤ姉さん。……あ、それでさ」

 

お礼を言って立ち上がろうとした時、ふと生徒会室の机に目が留まった。そこには、新学期の準備用と思われる資料や古い書類の山が、まるで要塞のようにうず高く積まれていた。

 

「これ……もしかして、ダイヤ姉さん一人で全部やるの?」

 

「ええ。他の役員の皆さんは、他の部活の準備などで兼部していらっしゃいますから。これくらい、生徒会長として当然の義務ですわ」

 

気丈に胸を張るダイヤ姉さん。だけど、その目元には少しだけ疲労の色が見えた。

 

新学期直前の忙しい合間を縫って、わざわざ俺一人のために時間を割いて手続きをしてくれたのか……。なんだか申し訳ないし、何より姉のように慕う人が一人で苦労しているのを見て見ぬ振りはできない。

 

「よし、決めた。俺も手伝うよ、ダイヤ姉さん」

 

「えっ? いえ、ですが陽はまだ一般の生徒ですし、今日はお客選のようなものですから……」

 

「何言ってるんだよ。書類にハンコを押した以上、俺ももうこの学校の生徒だよ。ダイヤ姉さん一人でこの量はさすがにきついって。それにさ……一応、前の学校でも俺、生徒会に所属してたから、最低限の事務処理の手伝いくらいなら役に立てると思うんだよね」

 

 前の学校で生徒会に所属していたというのは紛れもない事実だ。というより、園田道場おける俺の恐怖の姉弟子が生徒会役員をやっていたせいで、その縁から文字通り「馬車馬のように手伝わされていた」というのが正しい。おかげで事務書類の仕分けやデータ整理の腕前だけは、普通の高校生を遥かに凌駕している。

 

俺の真剣な目線に押されたのか、ダイヤ姉さんはふっと表情を緩め、嬉しそうに吐息を漏らした。

 

「……分かりましたわ。今回はお言葉に甘えることにしますわね、陽」

 

「任せて。俺はどの資料から手を付ければいい?」

 

「ええ。では、そちらの束にある新学期の予算申請書の仕分けから、お願いできますかしら?」

「了解」

 

俺は腕まくりをすると、慣れた手付きで書類の山へと手を伸ばした。

 

まさか浦の星女学院の初日が、女子生徒とのキャッキャウフフではなく、生徒会長とのマンツーマンの書類泥沼作業になるとは思わなかったが――不思議と、居心地は悪くなかった。

 

 静まり返った生徒会室で、二人で黙々と作業を始めてから、およそ3時間が経過した頃。

 

「……ふぅ。これでよし、と」

 

「陽のおかげで、予定していた分の半分以上が片付きましたわ。流石ですわね、手際の良さに救われましたわ。」

 

ダイヤ姉さんが感心したように息を吐き、お茶の入った湯呑みを差し出してくれた。

 

「いやいや、これくらい前の学校で馬車馬のようにやらされてたから余裕だよ。まだ残ってる分もあるし、明日も手伝いに来るよ。引っ越してきたばかりで暇だしね」

 

「本当にありがとうございます。では、お言葉に甘えて明日もお願いしようかしら。……陽、これからのお時間は空いていらっしゃいます?」

 

「うん、特にやることもないけど」

 

「では、宜しければ我が家へいらっしゃいませんか? ルビィにも会わせたいですし、母もきっと喜びますわ」

 

ふむ、黒澤家か。しばらく顔を出していなかったし、あのかわいい妹分にも会いたい。

 

「喜んで。お言葉に甘えさせてもらうよ、ダイヤ姉さん」

 

――というわけで、場所を移動して懐かしの黒澤家へ。

 

通された和室の座布団に腰を下ろす。

 

「では、すぐにお茶の用意をしてきますので、ゆっくりしていらしてね」

 

「了解です」

 

ダイヤ姉さんが部屋を出ていくのを見送り、一息つく。それにしても久しぶりに来たなぁ。やっぱり日本人の魂というか、畳の香りは落ち着くわ。

 

「……ピ、ピギィッ!?」

 

ん? 廊下の方から、この世界でトップクラスに特徴的な、あの可憐な鳴き声が聞こえた。

 

障子の隙間からおずおずと顔を覗かせたのは、小柄な少女。

 

「お、男の人……っ!?」

 

おおお……! マジえんじぇー、ルビィたんの降臨である。前世のオタク知識が「可愛い!」と脳内で大暴れするのを必死に抑え、俺はできる限り優しい笑顔を浮かべた。

 

「久しぶり、ルビィ。俺だよ、陽哉だ。新堂陽哉」

 

 俺の声と名前を聞いて、ルビィの丸い瞳がさらに大きく見開かれた。完全に警戒が解け、パッと表情が華やぐ。

 

「陽兄ちゃん……っ!」

「おう。元気にしてたか?」

 

「うん! 陽兄ちゃんは? 内浦に遊びに来たの?」

 

 トコトコと嬉しそうに駆け寄ってくるルビィ。

 

「んにゃ、遊びに来たんじゃなくて、こっちに引っ越してきたんだ。これからは浦の星女学院の、特例の共学化テスト生として通うことになったよ」

 

「本当……!? じゃあ、春から毎日、学校でも陽兄ちゃんに会えるんだね!」

 

ううっ、健気で可愛すぎだろ、この天使! 男性の免疫が父親以外にほぼ無いルビィが、こうして全力で懐いてくれるだけでも、前世の社畜の魂が限界まで浄化されていくのが分かる。

 

「お茶の用意ができましたわよ。ルビィ、お盆を運ぶのを手伝ってくれるかしら」

 

「あ、うん! 陽兄ちゃん、ちょっと待っててね!」

 

それから、黒澤姉妹とお茶を飲みながら、他愛のない世間話に花を咲かせた。

 

本当なら、俺が園田道場繋がりで面識のある『μ's』の話をして、ダイヤ姉さんを喜ばせてあげたい気持ちもあったのだが……それは直前で思いとどまった。

 

アニメの知識があるからこそ分かる。今のダイヤ姉さんの繊細な状況を考えると、μ'sの名前を出すのはかえって酷かもしれない。この話を解禁するなら、将来的にAqoursが9人揃って、彼女たちが本当の輝きを見つけてからだ。

 

「それで陽、ガンプラバトルは今も続けていらっしゃいますの?」

 

ダイヤ姉さんが、ふと真面目な顔で尋ねてきた。

 

「うん、もちろん。とりあえず、今年開幕する中高生の部の個人戦で、静岡予選を勝ち抜いて全国の頂点を――優勝を目指そうと思ってる」

 

「そうですか……! では、私たちが一番に応援に行かなくてはなりませんわね」

 

「うゆ! ルビィも陽兄ちゃんのこと、いっぱーい応援する!」

 

実は、ダイヤ姉さんもルビィも、幼い頃から俺のガンプラ作りの熱量を見てきた影響で、ガンプラバトルが大好きだった。特にダイヤ姉さんは、自分でこだわりの愛機を作るほどの腕前だ。

 

それこそ中学時代には、俺が他に『姉』と慕っている2人の幼馴染――かな姉と鞠莉姉を含めた3人でチームを組み、選手権に挑んでいたほどだった。あの3人のチーム機体(ガンプラ)をビルドしたのも、何を隠そうこの俺だ。

 

だけど……あの、東京で開催された『TOKYO SCHOOL IDOL WORLD』の出来事をきっかけに、スクールアイドルとしての夢も、ガンプラバトルのチームも、3人はバラバラになってしまった。

 

俺もあの時は客席から彼女たちのステージを見ていたのだが……あまりの衝撃的な結末に、かける言葉すら見つけられず、ただ逃げるように内浦へ帰るしかなかったのを今でも覚えている。

 

「……じゃあ、ダイヤ姉さん、ルビィ。今日はそろそろ帰るよ。明日も生徒会の手伝いがあるしな」

 

「ええ、気をつけてお帰りになってね。明日もよろしく頼みますわ、陽」

 

「陽兄ちゃん、また明日ね!」

 

二人の見送りを受けながら、俺は黒澤家を後にした。

 

西日に照らされる内浦の夜道を歩きながら、かつて自分が作った、あの3人のガンプラたちのことを思い出す。

 

(かな姉に、鞠莉姉……)

 

かつての仲間たちが、今どんな想いで内浦の空を見上げているのか。俺は胸に少しの切なさを抱えながら、静かに家路を急いだ。

 

翌日の午前中。俺は約束通り浦の星女学院の生徒会室へと向かい、ダイヤ姉さんの手伝いに没頭した。

 

海未ちゃん仕込みの超高速事務処理能力を遺憾なく発揮した結果、うず高く積まれていた書類の要塞は、お昼前にはほぼ全て綺麗に片付いてしまった。

 

「陽、本当に助かりましたわ。あなたのおかげで新学期を無事に迎えられますわ」と感謝感激のダイヤ姉さんに見送られ、午後からの時間がぽっかりと空いた。

せっかく出来た自由時間だ。俺は内浦から連絡船に乗り、少し足を伸ばして『淡島(あわしま)』へと向かった。

 

目的のダイビングショップへと近づくと、ウェットスーツを腰まで下ろし、テキパキと機材を片付けているポニーテールの少女の姿が目に飛び込んできた。

 

「かな姉」

 

俺が声をかけると、彼女――俺が姉のように慕っているもう一人の幼馴染である松浦果南が、驚いたように顔を上げた。

 

「あ、陽!? 久しぶり!」

 

「うん、久しぶり。こっちに正式に引っ越してきたからさ。その挨拶回りを兼ねて、顔出しにきたんだ」

 

「そうなんだ! 嬉しいな。ちょうど私もキリがついたし、これから時間あるから少し付き合ってよ!」

 

「いいよ、もちろん」

 

ショップの近くにある海の見えるテラス席へと移動し、冷たい飲み物を片手にお互いの近況を話し始める。

 

「共学化テスト生かぁ。じゃあ、春からは私の後輩になるんだね」

 

「うん、そういうことになる。よろしくね、先輩」

 

俺がおどけて一礼すると、かな姉は嬉しそうに笑った。だが、その直後、少しだけ寂しそうなニュアンスを瞳ににじませて、小さく肩をすくめる。

 

「困った時はいつでも頼ってね……と言いたいところなんだけど。私、実は今、浦の星を休学中なんだよね」

 

「……うん、知ってるよ。おじさんがケガしちゃったんだろ? ダイヤ姉さんから聞いた」

 

「そっか。もうダイヤに会ったんだ」

 

「うん。昨日、生徒会室で制服とか教科書を受け取ったからさ。ついでに書類仕事が山積みだったから、ちょっと手伝ってきた。」

 

「あはは、相変わらずマメだねぇ、陽は。でも、そっか……。内浦にいるなら、暇なときはいつでも淡島に遊びに来てよ。」

 

「そうだね。久しぶりにかな姉の案内で海に潜ってみたいし。今度来る時は、前もって連絡してからくるよ。」

 

「了解! 楽しみにしてるね」

 

かな姉はいつもの太陽のような笑顔を見せてくれた。

 

だけど、俺たちの会話には、お互いに触れていない大きな『空白』があった。

 

浦の星女学院の新しい理事長として、この内浦に帰ってきたはずの、もう一人の幼馴染――小原鞠莉の話題だ。

 

かつてガンプラバトルのチームを組み、共にスクールアイドルとして挫折した3人の関係。その傷がまだ癒えていない今の果南姉の前で、鞠莉姉の名前を出すのは絶対にタブーだ。

 

俺は転生者の知識をフル稼働させ、当たり障りのない楽しい日常の話題だけで会話を進め、頃合いを見て淡島を後にした。

 

島を離れる連絡船の上で、振り返りながら淡島の緑を見つめる。

 

 

 

 

 そして迎えた、運命の始業式当日――。

 

「ついに、この日が来たか……」

 

鏡の前で、浦の星女学院から支給された特例の新しい制服を身にまとい、小さく息を吐き出す。

 

カバンを手にしてリビングへと赴くと、朝食の準備をしていた両親がこちらを振り返った。

 

「とーちゃん、かーちゃん、おはよう。」

 

「おう、おはよう陽哉。よく似合ってるじゃないか。」

 

「あらあら! 前の学校は黒い学ランだったから、真っ白なブレザー姿はなんだか新鮮ね!」

 

母さんが目を輝かせて拍手を送ってくる。うん、俺自身もそう思う。

 

ただ、この真っ白なブレザーの制服……どことなく、あのキジマたちのいるガンプラ学園の制服に雰囲気が似ている気がするんだけど……。

 

まぁ、男子生徒が俺一人しかいない学校だし、特例のデザインなんだろう。細かいことは気にしないでおこう。

 

朝ご飯をしっかりとお腹に詰め込み、念のために通常よりもかなり早い時間帯に家を出た。

 

向かった先は、我が家からほど近い場所にある内浦の老舗旅館――千歌の実家である『十千万(とちまん)旅館』だ。

 

今日から同じ学校に通うことになる従姉妹への、引っ越し後最初の挨拶。

 

とはいえ、俺は身内であってお客さんではない。裏手にある高海家の居住スペース用の入り口から声をかけようとしたのだが、ちょうど表の玄関先に、千歌の二人の姉――志満さんと美渡さんの姿が見えた。

 

「美渡姉、志満姉、おはよう。」

 

「あ、陽! おはよう! 噂の白い制服、めっちゃ新鮮じゃん!」

 

「陽君、おはよう。今日からいよいよ浦の星ね。体調は大丈夫?」

 

「はい、ばっちりです」

 

「わん、わんっ!」

 

「おお、しいたけ! お前もおはよう」

 

足元にトコトコと駆け寄ってきたのは、高海家の愛犬であり、この十千万旅館の立派な看板犬でもある『しいたけ』だ。

 

 くっそかわいいわ、本当に(笑)。前世のオタク知識を抜きにしても、この大型犬特有の圧倒的な癒やしオーラには抗えない。しゃがみ込んで、そのフサフサの毛並みを思い切りもふもふと堪能させてもらう。

 

「そういえば、千歌はもう起きてますか?」

 

「いるよー。朝から部屋で『スクールアイドルがどうとか、輝きがこうとか』って、一人でブツブツ言いながら荷物まとめてたわよ」

 

(うわ、やっぱり朝からエンジン全開だな、あのみかん娘……)

 

一緒に登校なんてした日には、浦の星に着くまでのあの過酷な坂道の間、ずーーーっと「マネージャーになって!」の熱烈な弾幕を浴びせ続けられるに決まっている。ここは先手を打って回避するのが上策だ。

 

「そうですか。とりあえず、今日から浦の星の共学化テスト生としてお世話になります。俺、今日は健康のために歩きで学校に行くので、千歌には『先に行った』って伝えといてください」

 

「ふふ、分かったわ。千歌が起きてきたら伝えておくわね。坂道、きついから気を付けて行きなさいよ、陽君」

 

「はーい、行ってきます!」

 

お姉さんたちの温かい見送りを受け、俺は十千万旅館を後にした。

 

まだ誰もいない、静かな内浦の朝の空気。これから始まる女子高での波乱の生活を予感しながらも、俺はカバンを握り直し、あの心臓破りの坂道へと一歩を踏み出した。

 

 

 

朝の澄んだ空気の中、内浦の過酷な坂道をウォーキングがてら登りきると、正門の前にはすでに背筋をピンと伸ばしたダイヤ姉さんの姿があった。

 

「時間通りですわね。おはようございます、陽。」

 

「おはよう、ダイヤ姉さん。……いや、おはようございます、生徒会長」

 

学校の敷地内だからな。一応、先輩であり生徒会長としての立場を立てて挨拶し直す。

 

「ふふ、二人きりの時は普段通りで良くってよ? とりあえず、あなたは始業式の最後に『共学化テスト生』として全校生徒の前で挨拶をしていただきます。それが終わったら、自分のクラスへと移動していただきますわ」

 

「了解です」

 

案内されて大人しく生徒会室で待機していたのだが、しばらくすると、外のベランダの方から「ピギィィィヤァァァーーーッ!?」という、鼓膜を突き破らんばかりの強烈な悲鳴が聞こえてきた。

 

……あぁ、アレっすね。アニメ1期1話の、津島善子ことヨハネ様が木から盛大に落ちてくるアレっすね。

 

「いやぁ、世の中平和だなぁ……」

 

俺はズズッと温かいお茶を啜りながら、のどかな内浦の朝を満喫する。

 

この後の展開を思い出すと、ダイヤ姉さんがめちゃくちゃ機嫌を悪くしてここに帰ってくるはずだ。……と思ったら、案の定、般若のような顔をしたダイヤ姉さんが、千歌を盛大に引き連れて部屋に戻ってきた。

 

生徒会室の隅っこに佇んでいた俺の存在に気づき、千歌は「えっ!? はー君、なんでここにいるの!?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、俺はスッと気配を消してさらに壁のシミになりにいく。巻き込まれたくないんでね、こればっかりは朝から騒動を起こした千歌が100%悪い。

 

怒ってんなぁ、ダイヤ姉さん。大音量で繰り広げられる「スクールアイドルは認めない」発言の応酬を特等席で拝み倒し、嵐のような時間の後、いよいよ始業式へと向かった。

 

式典の終盤、ついに俺の紹介の番が回ってきた。

 

ステージへと上がり、ズラリと並ぶ女子生徒たちの視線を一身に浴びる。新入生の列に目を向けると、あ、ルビィ見っけ。ていうか、こうして生で見ると本当に生徒数が少ないな、この学校。

 

おや、ルビィの隣には、おっとりとした雰囲気の茶髪の少女――国木田花丸ちゃんがいた。

 

俺は彼女を『花(はな)』と呼んでいる。じいちゃん同士が親友だった縁で昔から知り合いなのだ。花は、白いブレザーを着てステージに立っている俺を見て、これ以上ないほど驚いた顔で固まっていた。

 

あ、その近くには、気まずそうに顔を伏せているヨハネ様(善子)の姿も。うん、こっから先は関与しないよ。めんどくさいし。善子だけは幼少期からの関わりが1ミリもない赤の他人だから、接触のしようがないのだ。

 

そして式が終わり、いよいよ俺が配属される2年のクラスへ。

 

「えー、以前から伝えていた通り、我が校初の『共学化テスト生』の男子生徒が、今日からこのクラスに加わることになりました。新堂君、どうぞ」

 

ついに、きた――。

 

覚悟を決めて教室のドアを開ける。意外と緊張はしていない。ガンプラバトルの全国クラスのギャラリーに比べれば、女子だけの視線なんて……いや、やっぱりちょっと心臓に悪いわ。

 

「失礼します」

 

 

教壇に立った瞬間、教室中の女子生徒たちから「きゃあーっ!」「本当に男の子だ!」「白い制服、カッコいい!」と、黄色い歓声が嵐のように沸き起こった。

 

うぅ……前世DTの免疫が、この過剰な歓迎ぶりに早くも悲鳴を上げそうだ。やっていけるかな、俺。

 

「新堂陽哉といいます。初の共学化テスト生として、このクラスでお世話になることになりました。不慣れなことも多いですが、よろしくお願いします!」

 

丁寧にお辞儀をすると、教室が割れんばかりの凄まじい拍手が送られた。ひとまず、受け入れてはもらえたみたいでホッと胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ、席はどこにしようかしらねぇ……」

 

「はいはーいっ! 先生! わたしの隣の席、めちゃくちゃ綺麗に空いてまーす!!」

 

千歌がこれでもかと元気よくブンブンと手を挙げた。お前、確信犯だろ。

 

「あら、じゃあ高海さんの隣でいいかしら。新堂君、あそこへどうぞ」

「……はい、ありがとうございます」

 

大人しく千歌の隣の席へと着席する。

 

とりあえず今日は始業式と最初のホームルームだけだったので、学校自体はこれで終了となった。

 

案の定、放課後はクラス中の女子生徒から質問攻めの猛アタックを喰らったが、前世のブラック企業で培った「当たり障りのない笑顔での受け流しスキル」を発動して何とか凌ぎきった。

 

この後、千歌と曜は「かな姉に会いに淡島に行ってくる!」と大はしゃぎしていた。

 

うん、知ってるよ。この後、淡島で『あのイベント』が来るんだろ? 全国のアニメ視聴者の腹筋を崩壊させた、ヘリコプターの爆音と共に降臨するシャイニーな新理事長――「ニネンブゥリデェスネェ!!」の超名シーンがさ(笑)

 

さすがにあの現場に生身で立ち会ったら、前世の記憶がフラッシュバックしてその場で腹筋崩壊して大爆笑し、二人から「はー君、なんで笑ってるの!?」と不審がられる未来が確定している。丁重に遠慮させていただいた。

 

はぁ、あと少しで梨子が内浦からやってくる。

 

そしてアニメ通りなら、彼女が海へ飛び込むあの運命の出会いのシーンが、内浦の海岸で待っているはずなのだ!

 

(いやいやいや! 梨子の生水着姿が見たいとか、下心丸出しでそんな不純なことを思ってるわけじゃないんだからね! 幼馴染として心配だから見守りに行くだけなんだから、勘違いしないでよねッ!!)

 

誰に対する言い訳かも分からない独白を脳内で叫びながら、俺は鞄を抱えて大急ぎで下校の途についた。

 

 

次回につづく!!

 




リメイク3話いかがだったでしょうか?4話をお楽しみに。
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