ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine-   作:陽@曜花推し

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第7話:ファースト・ステップ(リメイク版)

おはようございます。先日、紆余曲折の末に高海千歌率いるスクールアイドル(仮)のマネージャーに就任する羽目になりました、新堂陽哉です。

 

現在、千歌たちは朝練の真っ最中。アニメの記憶だと島郷海水浴場まで走っていた気がするが、あそこは内浦から原付や車で10分以上かかる。

 

いくら体力作りのためとはいえ、毎朝そこまで移動するのはあまりに非効率的だ。そのため、練習場所は十千万旅館の目の前にある三津海水浴場へと変更させた。

 

ここなら、あまりうるさくしなければ美渡姉にキレられないはず……。

 

俺は波打ち際の一歩手前で、愛用のスマホを構えて3人のダンスを撮影していた。

 

「はい、ストップ! いったん休憩しよう」

 

ハンディカム代わりにしていた撮影を止め、駆け寄ってきた3人に冷えたスポーツドリンクを手渡す。千歌がタオルを首にかけたまま、ぐいっと画面をのぞき込んできた。

 

おい近い、距離が近い。前世35年DTの心臓に悪いから、朝の澄んだ空気の中で美少女のシャンプーの香りを漂わせるのはやめていただきたい。

 

「そうだなぁ……全体的にはだいぶ良くなってきてるとは思うんだが」

 

俺はスマホの画面を巻き戻し、動画を一時停止する。

 

ビルダーとしてガンプラの可動域やポージングを極限まで突き詰めてきた「眼」が、わずかな違和感を捉えていた。

 

曲の始まりのイントロ部分。両腕を上げてから、スッと胸元に降ろすところだ。

 

「千歌、お前だけ曜と梨子よりもタイミングが早い。ほんのコンマ数秒、フレーム単位のズレだけど、せっかくの出だしだ。ここがきっちり揃うだけで、見栄えの説得力がまるで変わってくるぞ」

 

「うん、わかった! そこ意識してみる!」

 

素直に頷く千歌を見送り、今度は全体の振り付けを構成した曜にスマホを渡してチェックを頼んだ。

 

画面を凝視していた曜が、ふっと真剣なファイターのような目をのぞかせる。

 

「あ、本当だ。それにここ、後半のステップの蹴り上げがみんな少し弱いかも。こっちのターンの戻りも、もうちょっと軸を意識した方がいいかな」

 

「ホントだ、曜ちゃんよく気づくね!」

 

「へえ、流石だな。そこは俺も気づかなかった」

 

感心して言うと、曜はスマホを返しながら、いたずらっぽく「全速前進!」のポーズを取った。

 

「えへへ、これでも一応高飛び込みやってるからね。空中でのフォームの確認とか、身体の軸のブレを見つけるのは得意なんだ」

 

梨子が感心したように息を吐き、汗を拭ったその時だった。

 

「あれ……? 何かしら、あの音」

 

梨子が怪訝そうに内浦湾の空を指さした。

 

遠くから聞こえてくる、バババババ、という重々しい風切り音。

 

「……ピンクのヘリ?」

 

水平線の向こうから、強烈な自己主張を放つショッキングピンクの機体がこちらに向かって急速に高度を下げてくる。おい嘘だろ。

 

「チャオ〜〜!」スライドドアが開き、凄まじい風圧で長い金髪をなびかせながら、機内から身を乗り出してきたのは――我らがシャイニーお嬢様のご降臨である。

 

いや、とりあえず早々にご退場願わねば。うるせぇし。十千万旅館の神様(美渡姉)がトランザムしてデストロイモードにならないうちに……!

 

「鞠莉姉、うるさいから用件だけ言ってヘリ戻して! 近所迷惑だから!」

 

早く早く、本当に美渡姉がキレちゃうよぉ……!

 

「マリー、ごめんごめん♪ 陽、朝一番にその子たちを連れて理事長室に来てちょうだい。お願いね!」

 

パチンとウィンクを飛ばし、言うだけ言ってヘリは去っていった。去り際まで嵐のようなお嬢様だ。取り残された俺たちは、舞い上がった砂を払いながら、ようやく立ち上がった。

 

「陽君……あの人、誰……?」

 

梨子さん? 気のせいか目がなんか怖いよ。

 

「知ってる人……?」

 

「なんか親しそうだったよね。めちゃくちゃ美人だったし」

 

おいこら曜、煽るな。梨子さんの……俺の肩を掴む手が……どんどん力入ってきてるから……!

 

「お、小原家のお嬢様。俺の幼馴染だよ。親同士が学生からの友達でな。その絡みで小さいころからよく遊んでたんだよ。それこそダイヤ姉さんやかな姉と4人で」

 

「果南ちゃんと……」

 

「生徒会長と!」

 

「……どういうことかしら?」

 

ぴ、ぴぎゃゃゃゃあぁぁぁぁぁ!! 肩が、梨子さんの指圧で肩が砕けそうだよ……!

 

「内浦に帰省した時にな、千歌たちとは別に遊んでたんだよ。3人は小学校からの幼馴染だったから、そこに俺も加わってさ。あ、生徒会長ともそれで親しかったんだよ。そう言えば……俺のお爺ちゃん家に遊びに誘いに来てくれたとき、俺が留守だったことよくあったろ? あの時だ」

 

「なるほど……私たちを放置して、果南ちゃんたちと遊んでたんだね」

 

あれ……曜ちゃんまでお怒りですぞ。こちらのリミッターも解除されかかっている。

 

こういう時にあの伝説のセリフを使わないでいつ使うというのか。

 

 

せーのっ!――ダレカタスケテ――――!

 

誰も来ないね、わかってたよ。結局、放課後に『松月』のみかんパフェを奢るという約束を取り付けることで、なんとか2人の怒りを鎮めてもらった。

 

前世DT、美少女2人の嫉妬(?)の圧に耐えかねて冷や汗まみれである。

 

なお、予想通り美渡姉は爆音にキレていたので、そちらにも誠心誠意謝罪した。俺らが呼んだわけじゃないが、平謝りである。

 

そして、登校後。千歌たちを連れて指定された理事長室の前へと行くと、何やら中が騒がしい。

 

甲高くて、ツンと張ったこの声は……ダイヤ姉さんか?

 

ここで立ち尽くしていても埒があかない。意を決してドアをノックする。

 

「どうぞ」中から鞠莉姉の軽い声が響き、ドアを開けて入室する。案の定、そこには新理事長のデスクに置かれた紙を指さし、鞠莉姉に猛烈な勢いで食って掛かっているダイヤ姉さんの姿があった。

 

「はいはい、2人とも落ち着いて。朝からそんなにヒートアップしないの」

 

「ですが、陽……!」

 

なおも言い募ろうとするダイヤ姉さんをなんとかなだめ、俺はデスクの奥で優雅に足を組んでいる金髪のお嬢様へと向き直った。

 

「で、話って何ですか。新理事長の、小原鞠莉さん?」

 

俺がわざとらしく肩書きを口にした瞬間、後ろにいた千歌たちが驚愕の声をあげた。

 

「え、理事長って……」

 

「私たちと同じ浦の星の制服着てますよね? そのリボンの色は三年生だし……」

 

「どういうこと?」

 

うん、驚くのも無理はない。現役の浦の星の生徒が理事長とか、どんな超展開だよ。

 

「生徒兼理事長、カレー牛丼みたいなものねw」

 

鞠莉がケラケラと笑う。

 

「例えがよくわかりませんが……生徒兼理事長なのは事実ですわ。認めたくありませんけれど」

 

ダイヤ姉さんが不機嫌そうにため息をつき、手元から一枚の紙を差し出してきた。それを受け取り、千歌たちと一緒に見てみる。

 

「浦の星の理事長の任命状だって。ほら、これマジもんだろ」

 

3人の顔を見るとまだ信じられないという顔をしていたが、「小原家のこの学校への寄付は相当な額なのよ?」という鞠莉の一言に、金の力か……と納得する他なかった。

 

「実は……この浦の星にスクールアイドルが誕生したって噂を聞いてね。ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので、応援しに来たのです!」

 

ドヤァ、と効果音がつきそうな顔で胸を張る鞠莉。

 

「ホントですか!」

 

「YES! このマリーが来たからには心配ありません! デビューライブはアキバドームを用意してみたわ!」

 

おおぅ、いきなりμ'sが最後のライブを行った聖地を出してくるとは。

 

「そ、そんな! いきなりドームなんて……」

 

「き……奇跡だよ!」

 

「イッツジョーク♪」

 

ですよね……ジョークですよね。でも小原家の力を使えば本当に出来なくもないのが恐ろしいところだ。

 

「ジョークのためにわざわざそんなもの用意しないでください」

 

そりゃ千歌も軽くキレる。

 

「まったく……冗談はよしてくれ。3人は本気なんだから」

 

「陽……お姉ちゃんに厳しくない? この間は甘えてくれたのに」

 

クスッと妖しげに微笑む鞠莉。その瞬間、部屋の空気が一瞬で絶対零度まで凍り付いた。

 

「「……どういうこと(ですの)?」」

 

梨子とダイヤ姉さんの2人の鬼が、笑顔のまま俺の両肩をがっしりと握りしめてくる。痛い、指の力が骨に染みる。

 

「この間、私の部屋にお泊まりして、一緒のベッドで寝たのよね」

 

おいぃぃぃぃぃぃぃぃ! 何言ってくれとんじゃぁぁぁ!

 

「お泊まり? 一緒のベッド?」

 

「破廉恥ですわ!」

 

「我輩無実よ! 何もしてないよ!」

 

千歌や曜からも、物凄くゴミを見るような冷ややかな視線が突き刺さる。

 

「ストップストップ。泊まったのは本当だけど、みんなが考えてるようなことは一切してないわ。ガンプラバトルをしただけよ。で、帰りの連絡船が終わってたから家に泊めたの」

 

鞠莉の補足でなんとか場は収まった。しかし、肩のホールドを解いた梨子が、ジト目で俺の耳元に囁く。

 

「陽君? 一週間、松月のみかんパフェで手を打ってあげるけど?」

 

「へい、よろこんで!!」

 

痛すぎる出費だが、前世DTの命(社会的な意味で)には代えられない……。

 

「理事長……」

 

「ノンノン。マリーって呼んで?」

 

「えっと……鞠莉さんもガンプラバトルやるんですか?」

 

「うん、やるよ。だって私はダイ……」

 

「今はその話よりも、別にする話があるでしょう!?」

 

ダイヤ姉さんが慌てて鞠莉の言葉を遮った。

 

やっぱ過去のあの出来事が原因かねぇ。

 

「わかったわ。みんなついてきてくれる?」

 

鞠莉に促され、一同は体育館へと移動した。

 

ここでダイヤ姉さんは「私は生徒会の仕事がありますので。……陽、あなたは放課後生徒会室に出頭するように」と言い残して去っていった。

 

マジですか、説教確定か……。

 

誰もいない広々とした体育館で、鞠莉が振り返る。

 

「あなたたちにはここでライブをやってもらいます。ここを満員に出来たら、人数に関わらず部として承認してあげるわ」

 

「満員にできなかったら……?」

 

「解散してもらうしかないわね」

 

あっさりと言い切る鞠莉。アニメ同様、厳しい条件だ。今の俺たちの知名度で満員にできるかはわからない。

 

「千歌、どうする? ここは断って地道に5人集めるか? 幸いあと1人だし」

 

解散のリスクを冒す必要はない。だが、千歌は迷わずに拳を握りしめた。

 

「やるしかないよ! ここを満員にできないようじゃラブライブなんて無理だよ!」

 

やっぱそうなるか。でも、千歌らしいや。

 

「では、やるってことね。時間は来週の土曜日で。楽しみにしてるわ」

 

ヒラヒラと手を振って去っていく鞠莉を見送りながら、俺は3人に現実を突きつける。

 

「わかってるよ。千歌の言ってることも一理ある。だけど、こっから大変だぞ。浦の星の全校生徒を呼んでも体育館は満員にならねぇ」

 

「鞠莉さん、それがわかってて……」

 

「だろうな。とりあえずだ、出来る事はやろう。まずはビラ配りだ。内浦だけじゃねぇ。沼津駅周辺でも配るぞ。一人でも多くな」

 

「うん!」

 

「とりあえずチラシ作らないと」

 

曜の言葉に、俺は思い出したようにスマホの画面を提示した。全日本ガンプラバトル選手権実行委員会からの通知メールだ。

 

「……来週の土曜日なんだがな」

 

「全日本ガンプラバトル選手権 個人の部・静岡予選……」

 

「私たちのライブと被ってる!?」

 

「陽君は来れないってこと?」

 

「残念ながらな……。こればっかりはどうしようもねぇんだ」

 

初日は午前と午後の2回に分かれた1次予選バトルロイヤル。俺は午前組に回された。そこから生き残れるのは各8名、計16名のみ。ただ、静岡から内浦までは相当な距離がある。

 

勝てたとしても、移動時間を考えればライブにはどうしても間に合わない。

 

その日の放課後、生徒会室に出頭した俺はダイヤ姉さんからめちゃくちゃ説教された(何もしていないことだけは理解してもらえたが)。

 

その後、千歌の部屋に合流してライブの話し合い。千歌はおでこに「バカ千歌」と落書きされた状態で、「美渡姉の会社の全従業員を動員する」という完璧(?)な作戦を語っていた。

 

「土曜日とはいえ会社は普通に仕事してんだ。無茶言うなって」

 

おでこを拭いてやりながら諭すと、千歌は「うん……」と大人しく引き下がった。

 

油性ペンらしく落ちないので、あとでお風呂で自力でなんとかしてもらうとして。

 

俺は、犬が苦手な梨子のために、部屋の隅にいたしいたけをぎゅーっと抱きしめて動きを封じる。はー……このもふもふたまらん。

 

「陽君……怖くないの?」

 

「いえ全然」

 

梨子ちゃんが顔を引きつらせているが、実は梨子が犬苦手になったのは、幼少期の俺の行動のせいだったりするのだが……それはまた別のお話。

 

「チラシはこんな感じかな」

 

曜が見せてくれた原稿には、デフォルメされた可愛い3人が描かれていた。

 

「とりあえず明日、俺が印刷してくるよ。200枚くらいあれば足りるか?」

 

すると、3人が呆然とした顔でこちらを見てくる。

 

「気になったんだけど、罰とはいえみかんパフェを奢ってって言った時もあまり抵抗しなかったし、200枚の印刷代も結構かかるよね。お金どうしてるの?」

 

梨子の素朴な疑問に、俺は苦笑した。

 

「いやさ、中学生の頃からガンプラバトルの大会に出まくって、賞金貰ったりしてるからさ。海外の大会は日本と違って賞金額が凄かったんだよ。全然心配することない。無駄に溜まってるし、千歌たちの役に立つなら安いもんだよ」

 

「あまり無理しなくていいからね。みかんパフェは奢ってもらうけど」

 

曜がちゃっかりと微笑む。その後、町内放送の活用や、高校の多い沼津駅周辺でのビラ配りの作戦が決まり、その日は解散となった。

 

俺は曜を送り届けた後、親戚がやっている印刷屋に原稿を直接持ち込み、明日の昼過ぎまでに刷り上げてもらう約束を取り付けた。

 

翌日、放課後の移動を考えてバイク(CBR250RR)で登校した俺は、いつもより早く着いたので図書室へと足を運んだ。

 

「おはよう」

 

そこには、仲良く並んだ花丸とルビィの姿があった。

 

「おはようずら」

 

「おはよう!」

 

朝から天使の笑顔、素晴らしい。

 

「そう言えば、最近図書室に来てくれなくなったずら」

 

「あ、ごめん。スクールアイドル部のマネージャーになってさ。朝練とかで忙しくて。明日からは昼休みに絶対来るから」

 

「それだったらいいずら」

 

なんとか花丸の静かな嫉妬をなだめ、俺はスマホで撮影しておいたチラシの画像を見せた。

 

「来週の土曜日にさ、ライブやるんだ」

 

「ライブやるの!? 絶対行く!!」

 

ルビィが猛烈に食いつき、花丸も「陽兄ちゃんの頼みなら断れないずら」と頷いてくれた。

 

よし、2名確保。だが、去り際にルビィから「陽兄ちゃん、グループ名は?」と聞かれ、俺は冷や汗を流した。

 

「あ……あら……決めてなかったっけ……しまったーーーーー!!」

 

マネージャーとして痛恨のミスである。昼過ぎ。刷り上がったチラシを回収し、俺たちは沼津駅へと向かった。道中、グループ名の一件を報告すると、梨子が「まさか、まだ幼馴染がいたなんて……」と俺の交友関係の広さに呆れていた。

 

「まずはチラシ配りだ。グループ名はこの後の練習中に決めよう。ノルマは1人50枚。がんばろう!」

 

ビラ配りがスタートしたが、千歌はいきなり通りすがりの女子高生に壁ドンしてチラシを迫るという奇行に走っていた。

 

「何やっとるんだお前は!」

 

「あだっ!」

 

俺の愛のチョップ(やや威力高め)が千歌の頭頂部にクリーンヒットする。

 

「ごめんね、怖がらせるつもりはなかったんだ」と相手のJKに謝罪し、普通に渡すよう千歌を叱る。一方の曜は「全速前進、ヨーソロー!」と持ち前のコミュ力で女子高生の集団と速攻で仲良くなり、集合写真まで撮ってノルマを爆速で減らしていた。さすがである。

 

梨子は……映画のポスターに向かって頭を下げていた。

 

恥ずかしいのは分かるが、本番はもっと人がいる。

 

「梨子、一緒に配ろうか」

 

「陽君……うん!」

 

梨子のフォローに回ったその時、目の前をマスクにサングラスという、どう見ても怪しさマックスの少女が通り過ぎようとした。津島善子、ありがとうございます。

 

梨子が勇気を出して「あ、あの! 今度ライブやります!」とチラシを差し出すと、善子はそれを受け取って無言で去っていった。

 

まあ、学校来いよな、留年するぞ。

 

無事に配り終えて内浦に戻り、夕方の砂浜で練習を再開しつつ、グループ名の考案が始まった。

 

千歌が「浦の星スクールガール」、梨子が「スリーマーメイド」(即座に千歌と曜にスルーされる)、曜が「制服少女隊」と、どれも壊滅的なネーミングセンスを披露する。

 

「はー君はなんかないの?」

 

千歌からスルーパスが飛んできたが、3人だから「トリニティ」じゃ髭面の傭兵に壊滅させられそうだし、「三連星」は踏み台にされそうだし、「鉄華団」はラスタルのダインスレイヴで潰される未来しか見えない。

 

俺が頭を抱えていると、ふと横の防波堤の陰に、隠密行動(スネーク)ばりの動きで去っていくダイヤ姉さんの姿が見えた。

 

段ボールなしでそこまで気配を消せるとは。

 

ダイヤ姉さんがいた場所に歩み寄り、砂浜を見下ろすと、そこには綺麗な文字が残されていた。

 

「……Aqours」

 

「これ何て読むの?」

 

後ろから覗き込んできた3人に、梨子が「アキュア?」、曜が「もしかしてアクア?」と口にする。ツンデレなダイヤ姉さんなりの応援だ。千歌はその名前に運命を感じたように目を輝かせた。

 

「この出会いに感謝して、今から私たちはAqoursです!」

 

こうして、グループ名が正式に決定した。翌日、千歌のグダグダな町内放送を裏でフォローしつつ、俺は千歌たちの友人であるよしみ、いつき、むつの3人に当日の裏方(音響・照明)のヘルプを頼み込んでいた。

 

よしみの実家と俺の家がみかん農家繋がりで仲が良いこともあり、「新堂君の頼みだし、千歌たちのことは任せて大会で暴れてきて!」と快諾してくれた。

 

これで当日のバックアップは完璧だ。ライブ前夜、曜をCBR250RRの後ろに乗せて送り届ける途中、コンビニの駐車場で軽く話をした。

 

毎日遅くまで付き合わせて曜の母親が心配していないか尋ねると、曜は「はー君が送ってくれるからママも信頼してるよ」と笑った。

 

「千歌がこんなにのめり込むとは思わなかったな。あいつ飽きっぽいとこあるじゃん?」

 

「飽きっぽいんじゃなくて、中途半端が嫌いなんだよ。やる時はちゃんとやらないと気が済まないの」

 

流石は幼馴染、よく分かっている。

 

「そっか。でも千歌が本気だってことは……あの人たちのやってきたことは無駄じゃなかったってことか」

 

「あの人たち?」

 

「μ'sだよ。俺、メンバーの園田海未さんは武術の師匠でさ。実家の道場に通ってた繋がりで、穂乃果さんやことりさんたち全員と知り合いなんだ。……このこと、千歌とダイヤ姉さんには言うなよ? 絶対にサイン貰ってこいとか電話させろとか、めんどくさいことになるから」

 

「え、ええーーーっ!?」

 

曜を驚かせつつ無事に送り届け、俺は翌日の決戦に向けて静かに闘志を燃やした

 

 

 

 

 

ライブ当日。静岡市内の巨大なアリーナ会場。選手権の本戦でしか使われないヤジマスタジアムではないが、熱気は充分だ。

 

千歌たちのファーストライブを犠牲にしてまで来たんだ、勝たなきゃ男がすたる。

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

後ろから声をかけてきたのは、ガンプラ学園の監督であり、かつてメイジン・カワグチと組んでいたアラン・アダムスだった。

 

アランは、個人戦2連覇中の圧倒的トップファイター、志木城隆利と、その彼女でありフォロー役の須川菜穂を紹介してくれた。

 

志木城は重度のコミュ障らしくボソボソとしか喋らなかったが、前世が社畜DTだった俺にはその気持ちが痛いほど分かる。

 

「新堂陽哉です。ここではライバルですけど、いい友人になれたらと思ってます」

 

俺が握手を交わすと、菜穂が「見た目で怖がられるのに、そう言ってくれたのは君が初めてだよ!」と喜んでくれた。

 

志木城は午後の部、俺は午前の部のため、当たるなら予選決勝だ。「予選決勝で待っている」志木城の言葉に「必ず行きますよ」と返し、俺はバトルエリアへと向かった。

 

 

 

《GUNPLA BATTLE Combatmode startup. Mode damage level set to B》

 

 

 

《Press set your GP-Base》

 

 

 

《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field 01, space》

 

 

 

 

宇宙フィールド。バトルロイヤルが始まった瞬間、俺の『デスティニーガンダムシグムント』に向けて無数のビームが襲いかかる。

 

強者を結託して潰す、バトルロイヤルの定石。

 

だが――甘い!シグムントの推力を爆発させ、ビームの雨を紙一重で回避。複合兵装防盾システム『スヴェル』からビームサーベルを展開し、一瞬で敵のアトラスガンダムのコクピットを切り裂く。

 

「まずは1機……!」

 

さらに正面から突っ込んできたのは、改造された高機動型ギャン。前世のジオン魂をくすぐるマニアックな名機に心の中で「あれはいいものだ!」と叫びつつ、大型実体剣『レーヴァテイン』で容赦なく一刀両断する。修理がんばってくれ。

 

開始30分で100名中40名が敗退。そのうち24機は俺が駆逐していた。

 

そこへ、色んなガンプラのパーツをごちゃ混ぜにミキシングしたキメラ機『ガンダムヘイルダム』が、「神の鉄槌を受けよ!」とGP02のアトミック・バズーカらしきものを構えて通信を入れてくる。

 

リアルガンダムブレイカーかよ。だが、撃たせるわけがない。

 

有線・無線マニュアルドラグーン『プリスティス』を射出。変幻自在の軌道でバズーカの砲身を正確に破壊し、そのまま肉薄してレーヴァテインで首を跳ね、胴体を真っ二つに叩き斬る。さらばモブ男。

 

その後、さらに40分が経過し、アナウンスが響いた。

 

『現時点で残り8名になりました。これにて予選バトルロイヤル・午前の部を終了いたします』

 

無事、ほぼ無傷で予選トーナメント進出を決めて会場外に出ると、志木城と菜穂が待っていた。撃墜数41機という俺のスコアに菜穂が目を丸くしていたが、志木城は「君が強者だという証だ」とボソボソと、だが確かに俺の実力を認めてくれた。

 

2人と別れ、スマホを取り出す。当然、今から移動しても内浦のライブには間に合わない距離だ。

 

だが、その時――「シャイニー!」

 

聞き覚えのある声と共に、強烈な柔らかさが背中に押し当てられた。

 

「応援しに来たのよ! さすが私の陽ね!」と抱きついてくる鞠莉姉。

 

周囲の野郎どもの嫉妬の視線が痛い。

 

「鞠莉姉、わざわざありがたいけど、今日はAqoursのライブだろ。新理事長が立ち会わなくていいのか?」

 

「ええ、立ち会うわよ。陽を迎えに来たのよ。ヘリで内浦まで帰るのよ!」

 

マジですか。

 

小原家のピンクヘリに初搭乗である。鞠莉は俺の試合日程を把握していなかったことを「ごめんね」と謝ってくれたが、わざわざ静岡までヘリを飛ばしてくれたのだ、感謝しかない。

 

途中、豪雨のために天候回復を待つロスタイムはあったものの、ヘリは雨雲を突き抜けて激走し、浦の星の近くのヘリポートへ強行着陸した。俺はそこから全速力で走って体育館の控室へと向かった。

 

 

 

(千歌視点)

 

 

 

ついにライブの日が来た。不安がないわけじゃない。

 

はー君は自分がいない分の手伝いをよしみちゃんたちに頼んでくれていた。

 

そのおかげで準備は問題なく進み、曲も振り付けも完璧だと思う。

 

でも、お客さん来てくれるかな……。

 

「大丈夫だよ。ここまで頑張ってきたんだから」

 

曜ちゃんがわたしを抱きしめながら励ましてくれる。

 

「昨日陽君も言ってたでしょ。みんなを信じろって。絶対来てくれる。満員になるって」

 

梨子ちゃんの言葉に、わたしは深く頷いた。

 

はー君は絶対に一緒にステージを成功させたかったはず。だから、はー君の分まで頑張る!

 

そろそろ時間だと思ったその時、楽屋のドアが勢いよく叩かれた。

 

「俺だ、陽哉だ!」

 

「はー君!?」

 

ドアを開けると、そこには肩で息を荒くしたはー君が立っていた。試合を放棄してきたのかと焦るわたしに、曜ちゃんがスマホの画面を見せる。

 

そこには『午前の部・予選通過:新堂陽哉』の文字。

 

「どうやって短時間で内浦まで戻ってこれたの?」

 

梨子ちゃんの驚きに、はー君は苦笑しながら「それはだな、ピンクのヘリでな……」と説明してくれた。

 

 

 

(陽哉視点)

 

「つーわけだ。ご理解していただけたと思うが」

 

3人が同時にコクコクと首を縦に振る。衣装に身を包んだ3人は、誰もが本当に綺麗で、よく似合っていた。

 

「よし、着替え終わってるな。大丈夫だ、ここまでやってきたことを全部出しちまえ。Aqoursの想いを、全力をみんなに見せてこい!」

 

「「「はい!」」」

 

3人が円陣を組み、「サンシャイン!」の声が響く。ステージへと移動し、幕が上がるのを待つ3人の背中を、俺は祈るような気持ちで見つめていた。

 

頼む、満員になってくれ……!

 

シャッと幕が上がる。だが、そこに広がっていたのは、パラパラと疎らに座る数えるほどしかいない観客の姿だった。

 

そんな……終わったのか……?

 

いや、待て。俺はある違和感に気づき、慌ててスマホの時計を確認する。

 

開始5分前。アニメの記憶がフラッシュバックする。

 

千歌のやつ、緊張のあまり開始時間を間違えて早く幕を上げさせてしまったんだ!

 

だが、もう舞台は始まってしまっている。千歌が一歩前に出て、震える声を振り絞った。

 

「私たちはスクールアイドル、せーの!」

 

「「「Aqoursです!」」」

 

μ'sへの憧れ、諦めない気持ち、信じる力を語り、千歌たちがこの日のために作った大切な楽曲『ダイスキだったらダイジョウブ!』のイントロが流れ出す。素晴らしい曲だ。だが、まだ客が来ていない。ごめん、もう一回最初から歌ってもらうことになる

 

――そう確信した瞬間、バリバリバリッ!と強烈な雷鳴が響き、体育館の照明がすべて落ちた。

 

停電だ。薄暗くなった館内に悲鳴が上がる。

 

「みんな、危ないから復旧するまで絶対にそこから動くなよ!」

 

ステージの3人と観客に向けて大声で注意喚起し、パニックを抑える。俺はスマホのライトを頼りに、即座に体育館の外へと飛び出した。

 

確か、アニメの記憶通りなら外の倉庫に非常用の発電機があったはずだ。

 

暗闇の中、倉庫の重い鉄扉を開けようとすると、先客がいた。長身に黒髪のポニーテール――ダイヤ姉さん!?

 

「ダイヤ姉さん、何してるんだよ!」

 

「発電機が必要なのでしょう? さ、行きますわよ」

 

ダイヤ姉さんは迷いのない動きで俺を案内し、収納されていた大きな発電機を指さした。

 

「こいつか。2つあるな……重たいけど、俺が運ぶから案内を頼む!」

 

ファイターとしての鍛錬とアシムレイトで鍛えた身体に力を込め、重い発電機を抱え上げる。体育館のブレーカー室へと直行し、手早く配線をセットして始動キーを回した。

 

ガガガガッ、とエンジン音が響き、体育館に一斉に明かりが戻る。

 

「助かったよ、ダイヤ姉さん」

 

「礼を言うにはまだ早いですわよ。会場に戻ったらいかがですか?」

 

フンと不機嫌そうに、だがどこか嬉しそうに背を向けるダイヤ姉さんに一礼し、俺は急いで会場へと走った。ステージではちょうど曲が再開されようとしていた。

 

それと全く同じタイミングで、体育館の重い扉が勢いよく開き、十千万の神様――美渡姉が飛び込んできた。

 

「このバカ千歌!! あんた開始時間間違えたでしょ!!」

 

怒鳴り声を上げる美渡姉の後ろから、雨に濡れた町の人々、そして沼津でビラを受け取ってくれた高校生たちが、続々と雪崩のように体育館へと入ってくる。

 

ものの数分のうちに、ガラガラだった客席は人で埋め尽くされ、満員となった。奇跡じゃない。これは、千歌たちが泥泥になって必死に足掻き、ビラを配り、頑張ってきた結果が手繰り寄せた現実だ。

 

「千歌! 曜! 梨子! がんばれーーーーー!!」

 

喉がちぎれんばかりの声で、俺は叫んだ。マネージャーとして、ビルダーとして、一人のファンとして。ステージの3人が、ハッとこちらを見て、力強く頷き合う。

 

『ダイスキだったらダイジョウブ!』が、今度は満員の歓声の中で響き渡った。3人のステップ、歌声、そのすべてが、プラフスキー粒子をも凌駕する圧倒的な「輝き」を放って体育館を満たしていく。

 

鳴り響く割れんばかりの拍手の中、3人はμ'sの穂乃果姉ちゃんが残した言葉を繋いでいく。

「どこまでだって行ける! どんなユメだって叶えられると!」

 

……ちなみに、なぜ俺がその秋葉原のライブ直前の穂乃果姉ちゃんの言葉を知っているかというと、前の学校の生徒会絡みと園田道場の縁で、俺もあの場に(強制的にμ'sの衣装を着せられて)参加させられていたからだ。抵抗したよ? でも小学生の俺の力じゃ9人の女子高生には勝てなかったんだよ。

 

まあ、そんなくだらない過去のトラウマは置いておき。ステージの前にダイヤ姉さんが進み出て、いつもの厳格な声で告げた。

 

「これは今までのスクールアイドルの努力と、街の人たちの善意があっての成功ですわ! 勘違いしないように!」

 

「分かってます!」

 

千歌が一歩前に出て、ダイヤ姉さんの、そして満員の観客の目を真っ直ぐに見据える。

 

「でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって! 上手く言えないけど、今しかない瞬間だから! だから!」千歌、曜、梨子の3人が、一斉に手を伸ばして叫んだ。

 

「「「輝きたい!」」」

 

地鳴りのような拍手が再び体育館を揺らす。こうして、Aqoursのファーストライブは、最高の一歩と共に大成功で幕を閉じたのだった。

 

 

 

続く

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