流星堂の新米教師(仮)   作:テレサ二号

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どうもテレサ二号です!
前回に続いてRoselia二章の続きとなります。

では早速本編です!!


#15 ツキアカリのミチシルベ

迎えたSMS当日。

Roseliaのメンバーは迫る自分達の出番に緊張を隠せなかった。

 

リサ「そろそろ私達の出番だね……」

 

紗夜「そうですね……」

 

Roselia「…………」

 

友希那「緊張しても仕方ないわ。私達はRoseliaの音楽をオーディエンスに見せつけるだけよ」

 

モチベーションが上がらないのは緊張だけではない。

前日のNSEとの対バンでの完敗が尾を引いているようだ。

 

スタッフ「ではこちらにスタンバイお願いします!」

 

Roselia「はい!」

 

Roseliaがスタンバイすると一部の観客から歓声が湧いた。

 

『おっ、Roseliaじゃん』

 

『知ってるの?』

 

『前に小さい箱でやってるの見たことあるんだけよねー。高校生だけど結構いい音出してるんだよ』

 

観客の声を裂くように友希那が挨拶をする。

 

友希那「Roseliaです」

 

あこ「1.2.3!」

 

「♪♪♪~♪♪~♪」

 

あこの合図で演奏が始まる。

 

あこ(うわぁ!……お客さんノッてきてる!あこ達の格好いい所見て~!!)

 

紗夜(昨日のリハで躓いた所も上手く纏まっているわね。この演奏ならば!)

 

前日と比べて良い演奏が出来ているRoseliaは自分達の演奏に自信を取り戻していく。

しかしそれとは対称的に観客は難色を示した。

 

『うーん……』

 

『まぁ、"演奏は"上手いよね』

 

『アマチュア枠のバンドってあと何組出るんだっけ?今のうちにお手洗いに行っておこうかな』

 

『私も!あと何か食べ物欲しいかもー』

 

一人が席を離れると一人また一人と芋づる式に観客が席を離れて行く。

 

リサ(えっ……ちょっと何!?)

 

燐子(お客さんが……)

 

紗夜(離れていく……)

 

友希那「♪~♪~♪♪♪」

 

友希那は精一杯歌う。

しかしその歌は離れて行く観客の心には刺さらなかった。

 

 

 

 

 

3曲の自分達の出番が終わる。

結局離れた観客の心を取り戻す事ができなかった。

 

友希那「行きましょう……」

 

ステージを去るRoseliaの視線が次にスタンバイしているNSEを捉えた。

無言で通り過ぎようとする友希那に緋砂人は声を掛けた。

 

緋砂人「お疲れ様。……昨日より良かったよ」

 

Roseliaは歩みを止める。

 

友希那「…………嫌味ですか?」

 

緋砂人「本音さ。ただ観客の心を掴めなかったのは事実。それが今の君達の課題だ」

 

緋砂人はRoseliaに正対した。

 

緋砂人「自分達に興味が無い観客の心を掴むのは簡単な事じゃない。そこで観てろ」

 

緋砂人の表情が闘う戦士の顔つきに変わる。

その圧倒的なオーラに友希那は反論する事ができなかった。

 

緋砂人「行くぞ」

 

碧志「それじゃあ行ってくるね」

 

桃華「バイバーイ♪」

 

NSEがステージ立つが未だに会場の熱気は上がらない。

一部の観客は席を離れようとしている。

 

緋砂人「どうも、Non Stop Emotion!です」

 

SMSに来ている観客の中にもNSEを知っている人はいる。

しかし解散してから約3年。

若者向けのイベントであるSMSではNSEを知らない人が大多数を占めている。

 

緋砂人「聴け!」

 

緋砂人の声に席を離れようとしていた観客の足が止まった。

 

緋砂人「今、俺達に興味が無い人。一曲でいい。俺達に時間をくれ。一曲聴いても興味が湧かなければ売店なり御手洗いなりに行ってくれ。…………それで少しでも興味を持ってくれたら三曲聴いてくれたら嬉しいな♪」

 

緋砂人がはにかむ。

この一瞬で緋砂人は観客全ての視線を掴んだ。

あとは心を掴むだけ。

 

緋砂人「それでは聴いてください。Non Stop Emotion!で『colors…』」

 

「♪♪~♪~♪」

 

碧志のギターのカッティングから演奏が始まる。

それに続いてベース、キーボード、ドラムと続いて行く。

 

『colors…』

作詞:稲葉緋砂人

作曲:小室桃華

 

カバーバンドとしてデビューしたNSEの数少ないオリジナル曲である。

元々はNSEの練習用に作られた音源で、各楽器のパート毎に難しい箇所やギリギリ演奏できるくらいの高難易度の小節を設けた桃華作曲の音に緋砂人が後から作詞した曲である。

今の自分達が"過去の自分達"より劣っていれば決して演奏する事のできない難曲である。

 

緋砂人は曲の構成をメンバーには伝えていない。

その為緋砂人以外のメンバーはある意味ぶつけ本番である。

 

碧志(緋砂人め……。一曲目にこれかよ……)

 

桃華(まぁ、絶対入れてくると思ってたから練習してたけどね♪)

 

紫乃(この感じ……懐かしいな)

 

猶黄(うん、みんな上手く弾けてる……)

 

緋砂人「♪~♪♪♪~♪」

 

緋砂人は更にギアを上げる。

それに続いて碧志はゾーンに入る。

碧志は振り返りドラムの猶黄とアイコンタクトを取るとギターのネックを上に二回上げた。

 

猶黄「!!」

友希那「あれは……」

 

NSEのメンバーの他に気づいたのは友希那だけだった。

碧志がゾーンに入った時にだけ見せる癖、ネックを二回上げ『もっと強い音をくれ!』という催促である。

友希那はNSEのFWFの映像を擦りきれるまで観ている。

その中で見つけた碧志の癖である。

 

ドラムとギターのソロパートに入ると碧志は猶黄の前まで行き、自身の卓逸したアーミングを見せつけ猶黄を煽った。

 

『お前も全力見せてみろよ!』

 

と言わんばかりの煽り。

猶黄は碧志からの煽りが嬉しくなり、自身の抑えているリミッターを解除した。

 

「♪♪♪♪~♪♪~♪♪♪♪」

 

精密機械とも呼ばれる猶黄が魅せる。

現時点でこの二人のソロ技術は日本トップクラスと言えるだろう。

観客は固唾を飲んで演奏を見つめた。

 

"俺よりも目立つな!"

と言わんばかりに超神速のスラップ技法で紫乃のベースが乱入してくる。

 

「♪♪~♪~♪♪♪♪」

 

この日一番の歓声が上がる。

このイベントに来ている人達は皆、音楽に飢えている。

紫乃ほどの世界トップクラスの音に痺れない訳がない。

 

「♪~♪~♪♪~♪」

 

緋砂人「Thank you♪」

 

この日一番の歓声と拍手が飛び交った。

出番を控えているプロバンドですら、NSEの圧倒的な演奏技術に恐れおののいた。

 

『おい今の見たか!?』

 

『ヤバいって!!何で今までこんな高いレベルのバンドが沈んでたんだよ!?』

 

『おい、今どこにいる!?速く戻ってこい!今やってるバンドやべーぞ!』

 

『私、ファンになっちゃったかも……』

 

観客のざわつきが止まらない。

それを観ていたRoseliaは自分達との差を痛感していた。

 

紗夜「凄かった……ですね……」

 

リサ「昨日とはまるで別人だったね……」

 

あこ「あのドラムの人、リズムキープも完璧なのにソロもあんなに巧いなんてズルいです!」

 

リサ「あのベーシスト、レベルが違い過ぎるよね……」

 

友希那「………………」

 

Roseliaは完全に意気消沈してしまった。

 

緋砂人「『colors…』でした。いかがでしたか?」

 

観客からの溢れんばかりの声援を受けて緋砂人は手を振る。

客席から離れる観客はもう一人もいなかった。

 

緋砂人「それでは次の曲です……」

 

その後もNSEの演奏を観客達の心にしっかり刻み込み、NSEの出番が終わった。

 

舞台袖に捌けてゆく緋砂人がRoseliaに声を掛けた。

 

緋砂人「どうだった?」

 

友希那「………………素晴らしかったです」

 

緋砂人「あっそ」

 

緋砂人は自分で聞いておきながらのこの反応。

友希那はイマイチ稲葉緋砂人の人柄を掴みきれていない。

 

緋砂人「あ、そだ」

 

友希那に緋砂人は名刺のような物を渡した。

 

緋砂人「何か聞きたいことがあれば連絡してくれ」

 

緋砂人が踵を返して会場を後にした。

 

Roseliaは何故観客の心に突き刺さる演奏ができなかったのか納得の行く答えも見つけられないまま、この日反省会もせずに帰路に着いた。 

 

 

 

 

 

帰宅後友希那は今日のSMSを振り替えっていた。

 

友希那(今日の演奏……。何故オーディエンスはいなくなってしまったの?私達は以前よりも確実に演奏は上手くなっている。それぞれ少しずつ個人の課題も乗り越えようとしているのに……)

 

友希那の脳裏にNSEの演奏がよぎる。

 

友希那(私達はまだあの領域に足を踏み入れていない……)

 

そしてスタッフから言われた事を思い出していた。

 

『スミマセン、緊張してましたか?以前、聴いた時と印象が違ったような……』

 

友希那(以前の私達の方が良かったということ……?)

 

いくら考えてもその答えは出てくる無い。

結局は自分達でその答えを見つけるしか無いのだ。

しかしこの時の友希那はその事を理解していなかった。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

数日後、久しぶりに集まったRoseliaは以前にも増して、熱の籠った練習をしていた。

 

友希那(メンバーで合わせてみても分からないわ……。何故、SMSの演奏が受け入れられなかったのか。…………以前との違い)

 

リサ「ゆーきな♪友希那もクッキー食べない?」

 

メンバーのやり取りを見ていた友希那はずっと答えを探している。

友希那は深く考えた後で答えを出した。

 

友希那「リサ、もうクッキーは作ってこなくていい。必要ないわ」

 

リサ「ゆ、ゆきな?ご、ごめん。私空気読めなかったかな……?」

 

友希那「それじゃあ、これで」

 

友希那は速やかにスタジオをあとにする。

 

あこ「友希那さんどうしたのかな……?」

 

その質問の答えは友希那以外の誰にも答える事ができなかった。

 

友希那(私達は取り戻さなくてはならない……。私達の歌を。私達の張りつめた思いを……)

 

この日を境にRoseliaというバンドの歯車が狂っていく。

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

数日後、Roseliaは更に厳しい練習を積んでいた。

 

友希那「ストップ!……今、テンポが崩れたわ。……あこ、前回の練習で今日までに苦手な箇所を潰しておくことと言ったはずよ」

 

あこ「…………スミマセン」

 

友希那「この間のライブの事覚えているでしょう!?私達にはまだまだ足りない物があるのよ。足らないなら埋めるまで。あこ、アナタは特にもっとスキルを磨かなければ振り落とされるわよ」

 

あこ「…………はい!スミマセン!」

 

友希那「このまま上達しなければ抜けて貰うこともある。その覚悟を常に持って演奏して」

 

リサ「ちょっと友希那?急にどうしたの?」

 

友希那「基準に満たなければ抜けて貰う。これは前から言っていることでしょ。そのくらいの危機感を持って練習に取り組まなければ、FWFにはいつまで経っても出られないわ」

 

紗夜「確かに今の演奏は少し緩んでいたかもしれません。もっと緊張感をもって演奏しなければ。宇田川さん、もう一度やりましょう」

 

その後も何度も演奏を重ねるが納得の行く演奏ができることは無かった。

 

ついに噛み合わなくなった歯車が音をたてて壊れ始めた。

 

あこ「…………何度やったって、できないと思います」

 

紗夜「宇田川さん?」

 

あこ「何度やったって、どうせあこ、失敗します!だって、どうやったら上手になるのかもう分かんないし!」

 

友希那「甘えたようなことを言わないで。ダメならできるようになるまで繰り返すしかないでしょ」

 

あこ「何の為に上手くなればいいんですか!?」

 

友希那「それは…………!」

 

あこ「SMSで失敗したのに反省会もやらないで!みんな訳も分からないまま練習してて……。FWFに近づいているのか遠くなってるのかも分からないし……!」

 

友希那「遠のいているわよ。今のあなたは」

 

そんな事を言ってはダメだ。

皆分かっている。

しかし坂道を転がりだした石は止まらない。

どんどん加速していく。

石が止まる方法は2つ。

坂道の終点まで辿り着くか石が割れるかだ。

 

あこ「なんでですか!?あこが上手じゃないからですか!?」

 

友希那「そうよ。それに、こんな事で音を上げているようじゃ先が知れているわ」

 

友希那は最も口にしてはいけない言葉を口にした。

 

友希那「そんな甘えた様子で、このバンドにいる資格はない」

 

あこ「……っ!!こんなのRoseliaじゃない!!」

 

あこはスタジオから駆け出した。

 

リサ「あ、あこっ!」

 

友希那「四人だけでも練習を続けましょう」

 

燐子「…………どうして、あこちゃんにそんな事言うんですか?」

 

普段は温厚な彼女の瞳は珍しく怒気に満ちていた。

 

燐子「きっと……私達どれだけ練習しても音なんか合いません……。こんな演奏…………誰も振り向いてくれません……。だって誰も、みんなの音……聴いてないから!!」

 

燐子は涙を浮かべるとスタジオから走り去る。

虚無感が包むスタジオに友希那、紗夜、リサが残された。

 

リサ「友希那、どうしちゃったの?この間の練習の時から、何かヘンだよ?」

 

友希那「私はRoseliaを取り戻したいだけよ」

 

リサ「Roseliaを取り戻すって……どういうこと?」

 

友希那「私達の音を取り戻したい。ただそれだけよ」

 

紗夜「湊さん、言っている事が不明瞭過ぎます。取り戻すとは……一体どうすれば?」

 

友希那「Roseliaに馴れ合いは必要ない。もうクッキーはいらない」

 

リサ「ちょっと待ってよ!そんな、どうして昔に戻っちゃったみたいな事を言うの?」

 

友希那「…………そうでなければ、私達の音は取り戻せないからよ。…………私達、少し仲良くなり過ぎてしまったんじゃないかしら」

 

友希那は少し寂しげに視線を逸らすとスタジオから走り去ったしまった。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

数日後、友希那は電車に揺られていた。

 

あれから紗夜やリサとも言い合いになり、全てを置いて逃げ出してしまった。

 

友希那「私は一体……どうすれば……いいの……」

 

窓の外を流れる風景が自分を嘲笑っているように感じる。

そんな風景に誘われるように友希那はいつもは降りない駅で降車した。

 

友希那「ここは…………どこ?」

 

あまり見覚えの無い景色。

今の友希那にとってどうでもいいことだった。

しかし友希那の瞳は吸い込まれるようにある男を捉えた。

NSEのボーカル、稲葉緋砂人である。

 

緋砂人と友希那の視線が交錯する。

その刹那、友希那の体は硬直して動けなくなった。

長すぎる一瞬を経て友希那の硬直は解かれる。

友希那は緋砂人には声を掛けられず、目の前を無言で通り過ぎようとした。

 

緋砂人「逃げるのか?」

 

友希那の足が止まる。

 

緋砂人「確かにお前が俺から逃げ出したくなる気持ちは分かる。俺とお前とでは月とすっぽんだからな。俺は人類が産み出した最高傑作のように天賦の才に恵まれ、大した練習をしなくてもその歌唱力は世界トップクラスだ。その上、容姿端麗で頭脳明晰。非の打ち所が無いとはまさに俺の為にある言葉と言っても過言では無い。

それに比べてお前はたくさん練習しているにも関わらず歌唱力は売れないアーティストレベルで才能も微々たるもの。顔立ちは多少整ってはいるが、胸は嘆かわしい程に貧相で音楽を取ったら何も残らないようなお前には独活の大木という言葉がお似合いだな」

 

緋砂人が嫌味を込めに込めたその言葉達は、所々理解できない言葉はあったが友希那の胸の中で燃えた何かがその場所へ友希那を押し留めた。

 

友希那「何が言いたいの?」

 

緋砂人「お前のその表情を見る限り、今のRoseliaはバラバラなんだろ?」

 

友希那「!!」

 

緋砂人「なのにお前は何故バラバラになったのか、何故自分達の音楽がオーディエンスに届かないのか分からないと言ったところか」

 

友希那は絶句した。

まるで心を見透かすように全てを言い当ててくる。

この男なら自分の探している答えを持っているかもしれないと感じた。

 

友希那「ならアナタには私達の歌がオーディエンスに届かなかった理由が分かるとでも言うの?」

 

緋砂人「それはお前が見つけなければいけない答えだ。誰かから借りた言葉ではお前自身の支えにはならない」

 

友希那「……アナタ達と比べて私達の音楽が未熟だったから?」

 

緋砂人「やっぱりお前は何も分かっちゃいねーな。例え下手でも心に響く歌があるんだよ」

 

憂鬱な表情を浮かべる友希那を見て、緋砂人は考える事を放棄した。

 

緋砂人「あーもう面倒くせぇ!!」

 

緋砂人は友希那の腕を掴むと強引に引っ張って行った。

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

友希那「ここは?」

 

緋砂人「ここがディズニーランドに見えるならお前は病院に行った方がいいぞ」

 

緋砂人が友希那を連れてきたのはごく普通のどこにでもある公園である。

あえて特別な所をあげるなら駅が近い為、通行人が多い事くらいである。

時間は18時30分。

公園には子供達の姿は無い。

 

友希那「ここで何をするの?滑り台でも滑ればいいのかしら?」

 

緋砂人「滑り台で歌が上手くなるなら苦労はしねーよっと」

 

緋砂人はスピーカーとマイクを準備する。

そしてマイクを友希那に差し出した。

 

緋砂人「歌え」

 

友希那「何を歌えばいいの?」

 

緋砂人「何でもいい。お前が好きな曲だ」

 

友希那「音源が無いのだけど?」

 

緋砂人「当たり前だろ、アカペラなんだから」

 

友希那は戸惑った。

今までアカペラを人に披露したことなどない。

それ故に誰も自分の事を知らない土地で初めてのアカペラを披露することに抵抗があった。

 

緋砂人「アカペラで通行人の足を止めてみろ」

 

友希那「アナタはいつもここでアカペラで歌っているの?」

 

緋砂人「あぁ」

 

友希那「オーディエンスを惹き付ける練習という訳ね。いいわよ…………」

 

友希那は喉を鳴らすと歌い始めた。

 

友希那「♪♪~♪~♪♪」

 

緋砂人「おぉ……」

 

友希那はステレオポニーのツキアカリのミチシルベを歌う。

ツキアカリのミチシルベの歌詞が今の友希那を差しているようだった。

暗闇の中に月明かりを探し、進むべき道が今は分からない。

あまりの上手さと力強い瞳を見た緋砂人は思わず感嘆な声を上げた。

 

友希那「♪~♪♪~♪♪♪」

 

友希那の歌声に通行人は視線を向ける。

その視線は興味本意や冷やかしなとがほとんどだった。

しかし足は止まらない。

 

友希那(どうして誰も止まってくれないの?)

 

ついに友希那は歌うことを止めてしまった。

 

緋砂人「お前は何かに悩むと歌うのを止めてしまうな。つまりは覚悟が足りないんだろ?」

 

友希那「覚悟ならあるわ!私は何を捨ててでもどんな犠牲を払ってでも頂点を狙うわ!」

 

緋砂人は呆れ果てた表情を浮かべ肩をすくめた。

 

緋砂人「♪~♪♪~♪♪」

 

緋砂人は秦基博のひまわりの約束を歌う。

オーディエンスなど緋砂人は見ていない。

瞳を閉じて美しく歌う。

そのまぶたの裏側には大切な仲間や家族、恋人が映っていた。

 

緋砂人の歌声に冷やかしていた通行人達の表情が一遍する。

緋砂人の歌う姿はその高い歌唱力と相まって芸術品とも言える。

 

緋砂人が歌い終わると通行人から拍手喝采が湧く。

緋砂人は両手を高く掲げ、オーディエンスの歓声に応えた。

 

警察「何の騒ぎですか!?」

 

緋砂人「うぉ!やべっ!逃げるぞ!!」

 

緋砂人は荷物を手早く纏めると友希那を連れて走り去った。

 

 

 

 

 

 

緋砂人「ハァ…………ハァ……ハァ……ここまで……来れば…………大丈夫だろ……」

 

友希那「結局何がしたかったの?私にアナタの歌唱力を見せびらかしたかっただけなの?」

 

緋砂人「そういや、さっきの話がまだ終わってなかったな……。確かお前は『何を捨ててでもどんな犠牲を払ってでも頂点を狙う』と言ったな?」

 

友希那「ええそうよ。私は音楽に全てを捧げてきた。父の無念を晴らす為に私はここまでやってきたのよ!FWFに出る為なら必要であればメンバーだって捨てるわ!」

 

心の芯に触れる話に普段は冷淡な友希那の口調もヒートアップする。

 

緋砂人「簡単なんだよ……」

 

友希那「何が簡単なのよ!?」

 

緋砂人「何かを捨てたり犠牲にすることだ!……何故お前は音楽だけなんだ!?他の物を犠牲にしなければ成し遂げられないのか!?笑わせる!!」

 

緋砂人も友希那につられてヒートアップしていく。

 

緋砂人「捨てる覚悟なんてのは簡単なんだ!誰にでもできる!俺はお前に覚悟が足りないと言ったな!?お前に足りない覚悟は何かを犠牲にする覚悟じゃない!全てを引き連れて傷つきながらでも前に進む覚悟だ!」

 

友希那「………………」

 

緋砂人「そしてウチのベーシストが言った『お前には致命的な欠陥がある』というのを覚えているか?」

 

友希那「えぇ覚えているわ。私はアナタより歌唱力が劣ると言いたいのでしょ!?」

 

緋砂人「違う!!お前の致命的な欠陥は『仲間の音』を聴いていない事だ!!」

 

友希那「私はRoseliaの曲を誰より聴いているわ!アナタにそんな事言われたくない!!」

 

緋砂人「今日お前は俺と会ってから何度も『私達の音楽がアナタ達より劣っている』と言ったな?」

 

友希那「えぇ…………悔しいけど事実だもの」

 

緋砂人「ではお前は俺に会ってから一度でも仲間のいい所を語ったか?」

 

友希那「!!」

 

緋砂人「お前は俺達の圧倒的な技術を目の当たりにして、それを超すために俺達の音ばかり聴いていて仲間の音が聴こえていない!!」

 

緋砂人は諭すような口調で話始めた。

 

緋砂人「ギタリストは碧志に比べて派手さは無いが、ミスが少なく丁寧にメロディラインを形成している。

ベーシストは紫乃と比べれば天地ほどの差があるが、周りを活かそうと強弱を上手く使っている。

キーボードは桃華より表現力では劣るが、正確性の高い演奏と高い傾聴力でバランスを取っている。

ドラマーは猶黄に比べれば全くリズムキープがなっちゃいないが力強いキックと勢いのいいドラムでバンドに推進力を与えている。

これだけの者に支えられて歌っているのが湊友希那だ」

 

友希那の頬に涙が流れる。

 

緋砂人「俺達ボーカルにとって仲間の音は翼だ。そしてその翼をお前が信じなくて誰が信じる?そんな翼でどうやって頂きまで飛ぼうと言うんだ?」

 

友希那は自分に足りなかった物を理解した。

理解させられた。

 

友希那「リサ……紗夜……燐子……あこ……」

 

大粒の涙が溢れて止まらない。

 

友希那「ごめんなさい…………ごめんなさい…………」

 

緋砂人は友希那の頭に手を置いた。

 

緋砂人「まだ大丈夫……。まだやり直せる……。気づいたんだ……気づけたんだから。ここからまたやり直せる。きっと変われる!…………その為にお前にできること、お前にしかできない事があるだろ?」

 

友希那は涙を拭うと二回頷いた。

一回目は緋砂人への返事として。

二回目は己への確認として。

 

友希那「最後に1つ質問してもいいかしら?」

 

緋砂人「いいぞ?」

 

友希那「結局、アカペラでの路上ライブは何の練習だったの?」

 

緋砂人「あんなもん練習じゃねーよ」

 

友希那「!!?」

 

緋砂人「バンドの良し悪しってのは、楽曲の良さやボーカルの歌唱力でほぼ決まると言っても過言じゃねー。俺は『奇跡の歌声』なんて呼ばれ方もしてるからどうしても調子に乗ってしまう」

 

友希那は今日の出会いを思いだし納得した。

 

緋砂人「だからあのアカペラは戒めなのさ。俺は仲間に支えられないと歌えないただの人間だと。仲間の大切さを忘れるなと。それを戒めに時々あーやって路上で歌っているのさ」

 

友希那「ありがとうございました。私なりにRoseliaの音と向き合います」

 

緋砂人「そっか」

 

友希那「また困ったら相談させて貰ってもいいですか?」

 

緋砂人「ダメだ。さっきも言ったが自分自身で答えを見つけなければそれは支えにはならない」

 

友希那は少しだけ残念そうな表情を浮かべた。

 

緋砂人「まぁお前が勝手に話す分には関係ねーけどな。話くらいは聞いてやるよ」

 

緋砂人は友希那に背を向けると手をヒラヒラさせて帰路に着いた。

友希那は緋砂人が消えた方角と真逆に向かう。

 

友希那「私達の誇りを取り戻す為に、私にしかできない事があるはずよ!」

 

友希那の瞳は明かりを見つけてしっかり瞳で捉えている。

自分の進むべき道に向けて友希那は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

緋砂人「ゲホッ!……ゴホッ!!ゴホッ!…………ゴホゴホッ」

 

緋砂人は咳き込み道端でうずくまっていた。

口元を押さえているその手は吐血で真っ赤に染まっている。

 

緋砂人「医者から会話も最小限に抑えるように言われてるのに最近調子に乗って歌ってたからな…………。俺に残された時間は短い…………。それまでにやれることをやらないと……」

 

緋砂人はお気に入りの真っ赤なタオルハンカチで口元と手を拭った。

 

 

 

 




いかがでしょうか?

今回でRoselia二章が終わりきらなかったので次回で完結となります。
え?ポピパや有咲の出番が少ないって?
まぁまぁ、まだまだ出番が沢山ありますので今しばらくお待ちください!!

それでは評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。
特に評価・感想は執筆の励みになりますのでよろしくお願いしますm(_ _)m

ではまた次回、ほなっ!(^^)ノシ

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